雇用保険料は、その月に支払う賃金総額に雇用保険料率をかけて計算します。令和8年度の一般の事業なら、従業員から控除する額は賃金総額の5/1000、会社の負担は8.5/1000です。本記事では、雇用保険料の計算方法を、計算に含める賃金と含めない賃金の線引き、月給・時給パート・賞与の計算例、50銭を境にした端数処理の順に、厚生労働省と労働局の一次情報で整理します。後半では、給与システムや表計算で端数処理を組むときに1円ずれる原因と、年度更新の保険料が月々の控除額の合計と一致しない理由、手計算で足りる会社と自動化へ進む会社の境界まで扱います。
まとめ:雇用保険料の計算は賃金総額×料率と、控除時の50銭以下切り捨てで決まる
従業員負担の雇用保険料は「その月の賃金総額×労働者負担率」です。令和8年4月1日からの一般の事業では5/1000で、総支給305,300円なら1,526.5円、端数の50銭は切り捨てて1,526円を控除します。健康保険や厚生年金と違って標準報酬月額は使わず、残業代や通勤手当を含めた実際の支給額にかけるため、控除額は毎月変わります。
つまずきやすいのは3か所です。通勤手当を含め忘れる、賞与に標準賞与額の千円未満切り捨てを持ち込む、そして端数処理を「四捨五入」で組んでしまう。控除のときは50銭ちょうどを切り捨てる規則なので、四捨五入の関数では合いません。給与システムや表計算で計算するなら、料率を小数で持たずに整数で計算し、端数の方向を控除と現金徴収で分けて設定しておくと、1円のずれを防げます。
雇用保険料の計算式は賃金総額×料率、標準報酬月額を使わない点が社会保険との違い
最初に計算式と、令和8年度の料率を確認します。式は1本で、料率は事業の種類で3通りに分かれます。
令和8年度・一般の事業:労働者5/1000・事業主8.5/1000・計13.5/1000
厚生労働省の令和8年度 雇用保険料率のご案内によると、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの料率は次のとおりです。
| 事業の種類 | 労働者負担 | 事業主負担 | 合計 |
|---|---|---|---|
| 一般の事業 | 5/1000 | 8.5/1000 | 13.5/1000 |
| 農林水産・清酒製造 | 6/1000 | 9.5/1000 | 15.5/1000 |
| 建設の事業 | 6/1000 | 10.5/1000 | 16.5/1000 |
令和7年度の一般の事業は労働者5.5/1000・事業主9/1000・合計14.5/1000だったので、労使とも0.5/1000ずつ下がりました。令和3年度からの料率の推移と、新しい料率を締日で切り替える時期は令和8年度の雇用保険料率と切替時期の解説で整理しています。事業主負担が多いのは、失業等給付と育児休業給付の分(一般の事業で5/1000)に加えて、事業主だけが払う雇用保険二事業の3.5/1000(建設は4.5/1000)が乗るためです。園芸サービス、牛馬の育成、酪農、養鶏、養豚などは、農林水産に見えても一般の事業の率を使います。
標準報酬月額ではなく実際の支給額にかけるため、残業代の多い月は控除額も増える
大阪労働局の労働保険料の計算方法は、雇用保険の被保険者負担額を「毎月の賃金総額に被保険者負担率を乗じて得た額」と説明しています。健康保険と厚生年金が等級表の標準報酬月額にかけるのとは、ここが根本的に違います。
残業が20時間多い月は、その残業代の5/1000だけ雇用保険料も増えます。等級が年1回の定時決定で固定される社会保険料とは動き方が別なので、給与明細で控除額が毎月変わるのは正常です。標準報酬月額を使う側の計算は社会保険料の計算方法と端数処理で解説しています。
雇用保険料の計算に含める賃金と含めない賃金:通勤手当・賞与・退職金の線引き
計算の誤りで最も多いのは、式ではなく「何を賃金総額に入れるか」です。判断の軸は、労働の対償として支払うものかどうかにあります。
通勤手当・定期券、賞与、休業手当、家族手当は所得税の非課税でも賃金に含める
神奈川労働局の労働保険料の算定基礎となる賃金早見表は、賃金総額に算入するものとして、基本給、超過勤務・深夜・休日手当、扶養手当や家族手当、役職手当、住宅手当、賞与、通勤手当(定期券・回数券を含む)、労働基準法第26条の休業手当などを挙げています。
給与担当者が取り違えやすいのは通勤手当です。所得税では一定額まで非課税になるため、課税支給額だけを集計する画面から雇用保険料を計算すると、通勤手当の分が抜けます。雇用保険料の計算に使うのは、課税・非課税を問わない総支給額です。現物で渡す定期券も金額に換えて含めます。
退職金・結婚祝金・出張旅費・解雇予告手当は含めない、実費弁償と恩恵的給付の扱い
同じ早見表で算入しないものとされているのは、退職金、結婚祝金や死亡弔慰金、災害見舞金、出張旅費や宿泊費などの実費弁償的なもの、解雇予告手当、業務災害の休業補償費、会社が全額負担する生命保険の掛金などです。
注意したいのは例外の側です。退職金でも、在職中に給与や賞与へ上乗せして払う「前払い退職金」は算入します。社宅の貸与を受けない人に均衡上支給する住宅手当も算入です。名称ではなく支給の実態で分かれるため、給与システムでは支給項目ごとに「雇用保険の対象か」を個別に持つ必要があります。
役員報酬と被保険者でない人の賃金には雇用保険料をかけず、控除もしない
被保険者負担額を控除するのは、雇用保険の被保険者だけです。週の所定労働時間が20時間未満のパートや昼間学生のアルバイトなど、被保険者でない人の給与からは引きません。取締役が部長を兼ねる兼務役員が被保険者になる場合も、保険料をかけるのは従業員としての賃金の部分で、役員報酬の部分は含めません。
誰が被保険者になるかの判定は雇用保険の加入条件と適用除外で整理しています。給与システムでは、被保険者区分を持たない従業員に保険料が計算されていないかを、入社や契約変更のたびに確かめてください。
雇用保険料の計算例:月給・時給パート・賞与で控除額と会社負担を出す手順
令和8年度の一般の事業の料率で、3つのパターンを計算します。どれも「賃金総額を出す、料率をかける、端数を処理する」の順です。
月給25万円・残業代43,300円・通勤手当12,000円で控除1,526円の計算
基本給250,000円、残業代43,300円、通勤手当12,000円の月は、賃金総額が305,300円です。
- 賃金総額:250,000円+43,300円+12,000円=305,300円
- 従業員負担:305,300円×5/1000=1,526.5円
- 端数処理:給与から控除するので50銭以下は切り捨て、控除額は1,526円
- 会社負担の目安:305,300円×8.5/1000=2,595.05円
通勤手当を入れ忘れると293,300円×5/1000=1,466.5円で1,466円となり、毎月60円ずつ少なく控除することになります。会社負担分は給与からは引かないので、月々に端数処理をする必要はありません。年度末に年度更新でまとめて計算します。
時給1,150円・月87時間のパート:104,350円×5/1000の控除計算
時給1,150円で月87時間働き、通勤手当4,300円を受けるパートの場合、賃金総額は100,050円+4,300円=104,350円です。
104,350円×5/1000=521.75円で、計算結果の端数75銭は判断基準の50銭を超えるため、1円未満を切り上げた控除額は522円になります。月給の例と違ってこちらは切り上げです。同じ「控除」でも、端数が50銭ちょうどか、それを超えるかで向きが変わります。時給制は月ごとの勤務時間で賃金総額が動くため、雇用保険料も毎月計算し直します。
賞与453,700円は標準賞与額に丸めず全額にかけて2,268円、社会保険との違い
賞与からも雇用保険料を控除します。賞与453,700円なら、453,700円×5/1000=2,268.5円で、50銭は切り捨てて2,268円です。
ここで健康保険や厚生年金と同じ感覚で千円未満を切り捨て、453,000円にかけると2,265円となり3円ずれます。千円未満の切り捨てと上限があるのは社会保険の標準賞与額の規則で、雇用保険料にはありません。標準賞与額の計算は賞与の社会保険料と標準賞与額の上限で扱っています。
50銭の端数処理を給与システムや表計算で実装するときの落とし穴と1円ずれの原因
競合の解説は端数処理の規則を紹介して終わるものが大半です。実務で問題になるのは、その規則を表計算やプログラムに落としたときに起きるずれのほうです。
控除は50銭以下切り捨て、現金徴収は50銭未満切り捨てで境目が1点だけ違う規則
大阪労働局の計算方法のページは、被保険者負担分に1円未満の端数が出たときの扱いを2つに分けています。
| 徴収のしかた | 切り捨て | 切り上げ |
|---|---|---|
| 賃金から源泉控除する | 50銭以下 | 50銭1厘以上 |
| 本人が現金で払う | 50銭未満 | 50銭以上 |
違いは50銭ちょうどの1点だけです。控除なら切り捨て、現金徴収なら切り上げになります。給与システムでは徴収のしかたを従業員ごとか支給ごとに持ち、端数の向きをそこから決めます。慣習的な取扱いなどの特約があれば、この規則によらなくてもかまいません。
表計算のROUND関数は50銭ちょうどを切り上げるので、控除の規則とは合いません。1,526.5円が1,527円になり、先の月給の例では毎月1円多く引くことになります。
小数の料率で計算すると984.5円が984.4999…円になり現金徴収で1円少なくなる例
もう1つの落とし穴は、料率を0.0055のような小数で持って掛け算することです。多くのプログラム言語と表計算は小数を2進数で近似するため、ちょうど50銭のはずの結果がわずかに下にずれることがあります。
令和7年度の一般の事業の労働者負担率5.5/1000で、賃金179,000円を計算してみます。正しい値は984.5円ですが、Pythonで179000 * 0.0055を計算すると984.4999999999999になりました。控除なら984円で結果は変わりません。一方、現金徴収の規則では50銭以上を切り上げて985円とすべきところ、984円と判定されます。
対策は、料率を分子と分母の整数で持つことです。賃金179,000円に分子5.5を扱うなら分母を10000にして55を掛け、179,000×55=9,845,000を10,000で割った余り5,000を端数として比べます。余りが分母の半分より大きければ切り上げ、等しいときは控除なら切り捨て、現金徴収なら切り上げとすれば、2通りの規則を同じ式で扱えます。
料率マスタは事業の種類と適用開始日で持ち、年度をまたぐ遡及計算に備える
料率は毎年度見直されるため、プログラムに5/1000を直接書くと、翌年度の改定で改修が要ります。料率マスタは「事業の種類」「適用開始日」「労働者負担率」「事業主負担率」「二事業率」を1行にして持ち、計算時に日付で引く形にしておくと、改定のたびに行を足すだけで済みます。
適用開始日で持つもう1つの理由は、遡及計算です。3月分の残業代の未払いを5月に払う場合など、年度をまたいで計算し直す場面では、どの時点の料率を使うかをデータで決められる必要があります。料率の切替と給与の締日の関係は、社会保険料の計算記事の料率改定の章でも取り上げています。
年度更新で申告する雇用保険料と、月々の控除額の合計が一致しない理由
毎月の控除は従業員負担分だけですが、会社は年に1回、会社負担分も含めた保険料を国に申告して納めます。これが労働保険の年度更新です。
年度更新は1年分の賃金総額×料率で計算し、前年度確定分と今年度概算分を申告
年度更新では、労災保険と合わせた労働保険料を、1年分の賃金総額に料率をかけて計算します。神奈川労働局の労働保険の料率の案内は、令和8年度の雇用保険の概算保険料は新しい料率で、令和7年度の確定保険料はこれまでの料率で申告するよう求めています。
令和8年の年度更新(例年6月1日から7月10日)では、令和7年度の賃金総額×14.5/1000で確定保険料を出し、令和8年度の見込み賃金総額×13.5/1000で概算保険料を出します。1つの申告書に2つの料率が並ぶため、給与システムから集計する帳票でも、年度ごとの料率を取り違えない設計が求められます。
月ごとの端数処理の積み重ねで差が出るのは正常、差額は会社負担で精算される
月々に控除した従業員負担額を12か月分足しても、年度更新で計算した保険料の労働者負担相当額とは数円から数十円ずれるのが普通です。月々は1円未満を50銭基準で丸め、年度更新は年間の賃金総額にまとめて料率をかけるので、丸める回数が違います。
納めるのは年度更新で計算した額で、控除した額との差は会社が負担する形で吸収されます。このずれを「控除の誤り」と誤解して月々の控除額を後から直すのは不要です。差が数円を大きく超える場合に疑うべきは端数ではなく、通勤手当の算入漏れや、被保険者でない人の賃金を集計に混ぜていないかという賃金総額の側です。
手計算・表計算で足りる会社と給与システムで雇用保険料を自動計算する会社の境界
雇用保険料の式は単純なので、全ての会社にシステムが要るわけではありません。境目は従業員数よりも、支給項目の種類と給与形態の混在です。
支給項目が10種類未満で月給制中心なら既製の給与ソフトと点検表で十分な理由
月給制の正社員が中心で、支給項目が基本給・残業代・通勤手当など10種類に満たない会社なら、既製の給与計算ソフトの標準設定で足ります。確かめるのは3点だけです。通勤手当が雇用保険の対象になっているか、端数処理が「50銭以下切り捨て」になっているか、4月に料率が切り替わったか。
この規模で雇用保険料のためだけに個別開発をするのは過剰です。年に1回、4月の給与で1人分を手計算して、ソフトの結果と照らせば十分でしょう。
時給・日給・月給が混在し手当が多い会社は支給項目マスタごと作り直す判断
反対に、時給・日給・月給の従業員が混在し、拠点ごとに独自の手当がある会社では、支給項目ごとの算入区分の設定漏れが起きやすくなります。前払い退職金や住宅手当のように、名称では判断できない項目があるためです。派遣会社のように、1人が複数の単価と締め日を持つ場合はさらに複雑になり、その設計は派遣の給与計算の単価・締め日の設計で扱っています。
こうした会社では、支給項目マスタに雇用保険・社会保険・所得税の算入区分を1項目ずつ持たせ、料率マスタと端数処理の設定を分けて管理する形に作り直すと、計算誤りの多くを入口で止められます。既製の給与ソフトを引き続き使いながら、支給項目マスタの点検と年度更新に必要な集計に範囲を絞り、この部分を別の仕組みで補う方法も選択肢の一つです。一創では、給与・勤怠データと保険料計算をつなぐ人事・労務管理システム開発として、既存ソフトとの連携を含めたご相談を承っています。
よくある質問
雇用保険料の計算について、給与担当者から寄せられやすい質問に、厚生労働省と労働局の資料に沿って回答します。
月給30万円の場合、雇用保険料はいくら引かれますか?
令和8年4月1日以降の一般の事業なら、300,000円×5/1000=1,500円です。ただし雇用保険料は基本給ではなく、残業代や通勤手当を含めたその月の総支給額にかけます。通勤手当15,000円と残業代30,000円があれば、賃金総額は345,000円で、控除額は1,725円になります。農林水産・清酒製造と建設の事業は6/1000なので、同じ300,000円でも1,800円です。
通勤手当は雇用保険料の計算に含まれますか?
含まれます。労働局の賃金早見表でも、通勤手当と定期券・回数券は賃金総額に算入するものとされています。所得税では一定額まで非課税ですが、雇用保険料の計算には課税・非課税の区別はありません。給与ソフトで課税支給額を基準に計算する設定になっていると、通勤手当の分だけ控除額が少なくなるため、支給項目の設定を確認してください。
パートやアルバイトからも雇用保険料を引きますか?
雇用保険の被保険者であれば引きます。週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあるパートやアルバイトは被保険者になり、正社員と同じく毎月の賃金総額に料率をかけて控除します。週20時間未満の人や昼間学生など被保険者でない人からは引きません。時給制は月ごとの勤務時間で賃金総額が変わるので、控除額も毎月変わります。
雇用保険料の会社負担はいくらになりますか?
令和8年度の一般の事業では、賃金総額の8.5/1000です。このうち5/1000が失業等給付と育児休業給付、3.5/1000が事業主だけが負担する雇用保険二事業の分です。賃金総額305,300円なら2,595.05円が目安になります。会社負担分は毎月納めるのではなく、年度更新で1年分の賃金総額にまとめて料率をかけて申告・納付します。
雇用保険料の端数は四捨五入で計算してよいですか?
四捨五入とは少し違います。給与から控除する場合、端数が50銭以下なら切り捨て、50銭1厘以上なら切り上げなので、50銭ちょうどは切り捨てです。本人が現金で払う場合は50銭以上を切り上げます。表計算のROUND関数は50銭ちょうどを切り上げるため、控除の計算に使うと1円多くなることがあります。慣習的な取扱いなどの特約があれば、それに従ってもかまいません。
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