入社手続きで最初に期限が来るのは、健康保険・厚生年金保険の被保険者資格取得届です。入社日から5日以内に出す必要があり、雇用保険の資格取得届(翌月10日まで)や扶養控除等申告書の回収(最初の給与支払日の前日まで)とは締め切りも提出先も違います。この記事では、入社手続きの流れを入社前・当日・入社後に分け、会社側のチェックリストを期限・提出先・根拠の表にまとめました。従業員から回収する書類、期限に遅れたときに増える添付書類、労務システムで回すか個別開発するかの判断まで扱います。
まとめ:入社手続きは期限の短い順に並べ、社会保険の5日以内から先に片付ける
入社手続きは「社会保険の資格取得届(5日以内)→扶養控除等申告書の回収(初回給与の前日まで)→雇用保険の資格取得届(翌月10日まで)」の順に締め切りが来ます。担当者が最初に作るべきものは書類の一覧ではなく、入社日を起点にした期限表です。
マイナンバーか基礎年金番号が無いと資格取得届は返戻されるため、番号の回収は入社日当日までに終えます。雇入時の健康診断と労働者名簿は役所へ出す届出ではないものの、労働安全衛生規則と労働基準法が定める会社の義務で、チェックリストから落ちやすい項目です。年間の入社が数十名までなら市販の労務ソフトで足ります。採用管理・給与・勤怠への二重入力が残るなら、データ連携の開発を検討する段階です。
入社手続きとは:労働条件の明示から社会保険・税・社内の記録までを整える会社の義務
入社手続きは単一の手続きではありません。労働法・社会保険・税の各制度がそれぞれに求める届出と記録を、入社という1つの出来事に合わせて束ねたものです。
入社手続きに含まれる4系統の手続きと、それぞれの根拠になる法律
系統ごとに根拠法と相手先が分かれます。どこに出すのかを最初に区別しておくと、期限の管理が楽になります。
- 労働契約:労働基準法15条の労働条件の明示。相手は従業員本人
- 社会保険:健康保険・厚生年金保険の資格取得届。相手は事務センターまたは管轄の年金事務所
- 雇用保険:被保険者資格取得届。相手は事業所を管轄するハローワーク
- 税と社内記録:扶養控除等申告書の回収と保管、労働者名簿、雇入時の健康診断。役所への提出は原則なし
4つ目の系統は社内で完結するため、届出の締め切りに追われる中で後回しになりがちです。労働基準法107条は労働者名簿を事業場ごとに作ることを義務づけており、未作成は監督署の調査で指摘される典型例になります。
オンボーディングや雇用契約手続きと比べた入社手続きの範囲の違い
入社手続きは法令が求める届出と記録に限った言葉として使われます。受け入れ研修や配属後の面談まで含めた定着の工程はオンボーディングの工程とシステム化する範囲で扱う領域で、本記事では触れません。
雇用契約の締結そのものも入社手続きの一部です。ただし、労働条件通知書の電子交付や電子署名の要件は論点が多いため、雇用契約手続きを労務管理システムで完結させる要件を併せて確認してください。
入社手続きの流れ:内定承諾から初回給与までを入社前・当日・入社後で分ける
実務では、入社日を起点に作業を3つの時期へ振り分けると漏れが減ります。各時期で何を終えていれば次に進めるのかを決めておくのが段取りの要点です。
入社前に会社が済ませる労働条件の明示と本人への提出書類の案内方法
内定承諾の後、入社日までに会社がやることは2つです。1つは労働条件の明示で、労働基準法15条は労働契約の締結に際して賃金・労働時間などを明示するよう求めています。記載事項は雇用契約書と労働条件通知書の違いと記載事項で整理しています。
もう1つは、入社日に持参してもらう書類の案内です。前職がある人には源泉徴収票と雇用保険被保険者証の有無を、扶養家族がいる人には被扶養者の情報を、この時点で伝えておきます。当日に「前職の書類が手元にない」と判明すると、雇用保険と年末調整の両方が止まるためです。
入社日当日に従業員から回収する書類と、本人確認を済ませる作業の順番
当日はマイナンバーの本人確認を最優先にします。日本年金機構の資格取得の手続き案内は、事業主がマイナンバーまたは基礎年金番号を必ず本人に確認するよう求めており、未記入の届書は返戻されます。
次に扶養控除等申告書を受け取り、続いて給与振込口座、通勤経路、緊急連絡先を回収します。マイナンバーは番号確認と身元確認の2つをそろえる必要があるため、身分証の確認も同じ席で済ませます。
入社後5日以内から翌月10日までに会社が出す届出の期限順の並べ方
入社後の届出は期限が近い順に処理します。
- 入社日から5日以内:健康保険・厚生年金保険の被保険者資格取得届。被扶養者がいれば健康保険被扶養者(異動)届、配偶者が第3号被保険者に当たれば国民年金第3号被保険者該当届も同時に出す
- 最初の給与支払日の前日まで:扶養控除等申告書の回収(提出先は会社。税務署へは出さない)
- 入社した月の翌月10日まで:雇用保険被保険者資格取得届
- 初回給与まで:住民税の特別徴収の引き継ぎ確認、源泉徴収税額の区分(甲欄・乙欄)の確定
4月1日入社なら、社会保険は4月5日まで、雇用保険は5月10日までが期限です。この1か月の差があるため、雇用保険を後回しにしたまま忘れる事故が起きます。届出の書き方や電子申請の経路は社会保険の加入手続きと資格取得届の流れで詳しく解説しています。
会社側の入社手続きチェックリスト:期限・提出先・根拠を1枚の表で確認する
次の表は、正社員を1名採用したときに会社側で必要になる手続きを期限の短い順に並べたものです。パート・アルバイトは加入要件を満たす場合だけ社会保険と雇用保険の行が対象になります。
| 手続き | 期限 | 提出先・保管先 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 労働条件の明示 | 労働契約の締結時 | 本人へ交付 | 労働基準法15条 |
| 健保・厚年の資格取得届 | 事実発生から5日以内 | 事務センター・年金事務所 | 日本年金機構の届出案内 |
| 被扶養者(異動)届 | 資格取得届と同時 | 事務センター・年金事務所 | 日本年金機構の届出案内 |
| 扶養控除等申告書 | 最初の給与支払日の前日 | 会社で7年保管 | 所得税法194条 |
| 雇用保険の資格取得届 | 翌月10日まで | 管轄のハローワーク | ハローワークの案内 |
| 雇入時の健康診断 | 雇い入れるとき | 個人票を会社で保管 | 労働安全衛生規則43条 |
| 労働者名簿の作成 | 雇い入れ後遅滞なく | 事業場ごとに保管 | 労働基準法107条 |
実務でまず押さえるのは上から5行です。下の2行は役所の締め切りが無い分、表に入れておかないと忘れます。社会保険の資格取得届は、電子申請・電子媒体(CDまたはDVD)・郵送・窓口持参の4つの方法から選べ、添付書類は原則不要とされています。
従業員から回収する入社書類:マイナンバー・基礎年金番号・前職の源泉徴収票
入社書類の回収で手戻りが起きるのは、番号の確認、中途入社者の前職書類、扶養家族の情報の3か所です。それぞれ影響する手続きが違います。
扶養控除等申告書を最初の給与支払日の前日までに会社が回収する理由
扶養控除等申告書は、所得税法194条により毎年最初に給与の支払を受ける日の前日までに、会社を経由して出すものとされています。受け取れないまま給与を払うと、源泉徴収税額は乙欄で計算することになり、甲欄より税額が高くなります。
回収した申告書は税務署に出す必要がありません。国税庁タックスアンサーNo.2503は、税務署長から求められるまでは会社が保存し、保存期間は提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間と定めています(令和8年4月1日現在の法令等)。
中途入社者は前職の源泉徴収票の確認状況で会社の年末調整の可否が決まる
年の途中で入社した人も、年末まで在籍していれば年末調整の対象です。国税庁タックスアンサーNo.2674によると、前職で扶養控除等申告書を出して受け取った給与があれば、その給与を含めて年末調整を行います。
前職の給与額と源泉徴収税額は、前職が交付した源泉徴収票で確認します。確認できない場合は会社での年末調整ができないため、本人による確定申告での精算が必要です。入社日に源泉徴収票を回収できない場合は、前職へ発行を依頼するよう本人に伝え、11月の年末調整の書類配布までに受け取れているかを確認する日付を管理表に入れておきます。
入社書類で確認する基礎年金番号通知書と年金手帳、マイナンバーの扱いの違い
2022年4月以降に初めて年金制度に加入した人には年金手帳ではなく基礎年金番号通知書が交付されており、新卒者の多くは年金手帳を持っていません。資格取得届はマイナンバーか基礎年金番号のどちらかを記入すれば受け付けられるため、入社書類の案内で「年金手帳」と書くと、持っていない新卒者が戸惑います。
案内文は「マイナンバーカードまたは基礎年金番号が分かる書類」と書くのが実務的です。マイナンバーを集める場合は利用目的の明示と、取り扱える担当者の限定も同時に決めておきます。
雇入時の健康診断と労働者名簿:役所に出さないが会社が漏らしやすい義務
社会保険と雇用保険は役所から返戻や照会が来るため、漏れに気づけます。社内の義務は誰も指摘してくれません。
雇入時健康診断の11項目と、3か月以内の受診結果で代えられる条件
労働安全衛生規則43条は、常時使用する労働者を雇い入れるときに、既往歴・業務歴の調査から心電図検査までの11項目の健康診断を行うよう事業者に求めています。費用は会社負担で行うのが一般的です。
例外は1つだけです。医師による健康診断を受けてから3か月を経過しない人が、その結果を証明する書面を出したときは、相当する項目を省けます。前職の定期健診や大学の健診結果を使えるかどうかは、受診日から入社日までの月数で判定します。
労働者名簿と賃金台帳の作成義務と、入社書類ごとに異なる保存年限
労働基準法107条は、事業場ごとに労働者名簿を作り、氏名・生年月日・履歴などを記入するよう定めています。記入事項に変更があれば遅滞なく訂正します。
保存年限は書類ごとに違います。労働者名簿や賃金台帳など労働関係の重要書類は109条で5年間とされていますが、附則143条の経過措置により当分の間は3年間です。扶養控除等申告書は前述の7年間なので、入社書類を1つのフォルダにまとめて一律に3年で廃棄すると、税務の書類だけ保存期間を割り込みます。
入社手続きの期限に遅れたとき:添付書類が増える雇用保険と遡る社会保険
期限を過ぎても届出は受け付けられます。ただし、遅れた期間に応じて会社側の負担が増えます。
雇用保険の資格取得届は遅れが半年・2年を超えると添付書類が増える
ハローワーク川崎の雇用保険適用課の案内では、資格取得届の期限を雇用した日の属する月の翌月10日までとしたうえで、遅れた期間ごとに追加書類を示しています。
| 遅れの程度 | 追加で求められる書類 |
|---|---|
| 翌月10日を超えた | 出勤簿またはタイムカード、賃金台帳または給与明細 |
| 雇用日から半年以降 | 上記に加えて遅延理由書 |
| 雇用日から2年を超えた | 上記に加えて疎明書(保険料を徴収していた場合のみ) |
添付書類は管轄のハローワークによって案内が異なる場合があります。提出前に管轄の案内を確認してください。入社後は、毎年6月1日から7月10日に雇用保険と労災保険の保険料をまとめて精算する手続きもあります。期限と計算方法は労働保険の年度更新の期限と計算方法を整理した記事で確認できます。
社会保険の届出漏れは保険料を遡って納め、従業員の受診にも影響する
社会保険の資格取得届が漏れていると、本来の資格取得日まで遡って保険料を納めることになります。会社負担分と本人負担分をまとめて精算するため、本人から数か月分の保険料を一度に控除する事態になり、説明の負担が会社に残ります。
資格の登録が済むまでは、従業員が医療機関で加入を確認できない期間も生じます。遡及の範囲や年金受給者の返納など、漏れたときの影響の詳細は前述の社会保険の加入手続きの記事で整理しています。
入社手続きを労務システムで回すか個別開発するか:入社人数と連携先で決める
入社手続きのシステム化は、年間の入社人数と、入社データを渡す先のシステムの数で判断します。ここは言い切ります。
年間の入社が数十名までで給与も同じベンダーなら市販の労務ソフトで十分な理由
市販の労務管理ソフトの多くは、従業員が入社情報をスマートフォンから入力し、そのデータから資格取得届を作って電子申請する機能を標準で持っています。年間の入社が数十名までで、給与計算も同じベンダーの製品を使うなら、個別開発に費用をかける理由はありません。機能の比べ方は労務管理システムの機能と比較の観点を参照してください。
このとき決めておくのは提出経路です。資本金1億円超の法人などは社会保険と雇用保険の一部手続きで電子申請が義務になっており、経路の選び方は労務管理システムの電子申請対応と義務化の範囲で、e-Govの操作はe-Gov電子申請でできることで確認できます。
採用管理と給与・勤怠への入社情報の二重入力が残る会社は連携開発に回す
個別開発を検討すべきなのは次のような会社です。採用管理システムに入った応募者情報を、内定後に労務ソフトへ手で打ち直している。給与計算と勤怠が別ベンダーで、入社者の登録を3か所で繰り返している。店舗や工場ごとに事業場が分かれ、労働者名簿を事業場単位で管理できていない。
この状態で労務ソフトを入れ替えても、二重入力は残ります。必要なのは、採用で確定した情報を1回の入力で労務・給与・勤怠へ渡す連携の設計です。社内の各システムの間で入社データを受け渡す仕組みは、人事・労務管理システム開発で既存システムとの連携を前提に設計できます。
反対に、年間の入社が10名に満たず、給与も社労士に委託している会社では、システム化そのものが過剰です。期限表と回収書類の一覧を共有フォルダで管理するだけで足ります。
よくある質問
入社手続きについて、人事担当者からよく寄せられる質問をまとめました。
入社手続きは入社日より前にどこまで進められますか?
労働条件の明示、入社書類の案内、マイナンバーや扶養家族の情報の事前回収までは入社前に進められます。一方、社会保険と雇用保険の資格取得届は、資格取得日(通常は入社日)が来てから出すものです。入社前に提出してしまうと、入社の取り消しや入社日の変更があったときに取り消しの届出が必要になります。入社前は書類の準備までと決め、届出は入社日以降に出すのが安全です。
試用期間中の従業員にも社会保険と雇用保険の手続きは必要ですか?
必要です。試用期間であることは社会保険や雇用保険の適用除外の理由になりません。加入要件を満たす雇用契約であれば、入社日に資格を取得し、社会保険は5日以内、雇用保険は翌月10日までに届け出ます。試用期間後に本採用してから手続きをすると、試用期間の分の保険料を遡って納めることになり、本人にも会社にも負担が生じます。
パート・アルバイトの入社手続きは正社員と何が違いますか?
違うのは、社会保険と雇用保険の加入要件を人ごとに判定する工程が入る点です。雇用保険は週の所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがあれば対象になります。社会保険の判定基準は、所定労働時間と日数が正社員の4分の3以上か、企業規模などの短時間労働者の要件を満たすかです。判定の詳細は雇用保険の加入条件と適用除外で解説しています。労働条件の明示や扶養控除等申告書の回収は正社員と同じです。
入社手続きの書類はいつまで保存すればよいですか?
書類によって異なります。労働者名簿や賃金台帳、雇入れに関する重要書類は労働基準法109条で5年間とされ、経過措置で当分の間は3年間です。扶養控除等申告書は提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日から7年間です。雇入時健康診断の個人票は労働安全衛生規則で5年間の保存が定められています。入社書類を一括で管理する場合は、最も長い7年に合わせておくと廃棄の誤りを防げます。
入社手続きの後で会社から従業員に渡す書類はありますか?
本人へ渡す書類があります。雇用保険の資格取得届を出すとハローワークから雇用保険被保険者証が交付され、厚生労働省の事業主向けの案内は事業主から本人に渡すよう求めています。社会保険の資格取得後に届く資格情報のお知らせや資格確認書も、本人へ渡す対象の書類です。会社が預かったままにすると、本人が次の転職で手続きに困ることになるため、受け取ったらすぐに渡す運用にします。
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