個人事業主と法人では、税務調査の担当部署や確認される論点に違いがあります。国税庁の公表統計では、実地調査と簡易な接触の件数の構成にも差があります。一方で、事前通知や加算税といった手続のルールは国税通則法で共通です。この記事では、国税庁の令和6事務年度(令和6年7月〜令和7年6月)の調査データと条文をもとに、何が違い何が同じかを項目ごとに比べます。
まとめ:個人と法人の税務調査の違いの要点
- 担当は、個人事業主が税務署の個人課税部門、法人が法人課税部門です。原則として資本金1億円以上の法人は、税務署ではなく国税局調査部が調査します。
- 個人への接触は文書・電話・来署依頼による「簡易な接触」が中心で、68万9千件と実地調査4万7千件の約15倍です。法人は簡易な接触8万5千件に対し実地調査5万4千件で、差は約1.6倍にとどまります。
- 個人事業主は家事関連費の区分、法人は役員給与と計上時期が典型的な論点です。給与を払っていれば、個人・法人とも源泉所得税の調査が同時に行われるのが一般的です。
- 調査対象期間の単位は、個人が暦年(年分)、法人が事業年度です。期間制限は原則5年・不正があれば7年で共通ですが、平成30年4月1日以後に開始した事業年度の欠損金に関する更正だけは10年です。
- 国税庁が公表する実調率(令和5事務年度)は法人1.7%、個人0.7%です。平均の割合であり、個々の納税者に調査が来る確率ではありません。
- 実地調査1件当たりの追徴税額は、個人(所得税)が241万円、法人(法人税)が402万3千円でした。
- 事前通知の事項、事前通知を省略できる場合、加算税の税率は、個人と法人で同じです。
比較表の件数・金額は令和6事務年度の実績であり、個々の納税者の被調査確率や追徴額を示すものではありません。
個人と法人の税務調査の違い一覧(令和6事務年度)
| 項目 | 個人事業主 | 法人 |
|---|---|---|
| 担当部署 | 税務署 個人課税部門 | 税務署 法人課税部門/国税局調査部 |
| 主な税目 | 所得税・消費税・源泉所得税 | 法人税・地方法人税・消費税・源泉所得税 |
| 質問検査権の根拠 | 国税通則法74条の2第1項1号 | 同項2号(法人税) |
| 実調率(令和5事務年度) | 0.7% | 1.7% |
| 実地調査件数 | 4万6,896件 | 5万4千件(法人税) |
| 簡易な接触の件数 | 68万9,440件 | 8万5千件(法人税・消費税) |
| 調査対象期間の単位 | 暦年(年分) | 事業年度 |
| 期間制限 | 5年・不正7年 | 5年・不正7年・欠損金10年 |
| 1件当たり追徴税額 | 241万円(所得税) | 402万3千円(法人税) |
件数と金額は国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」と「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(いずれも令和7年12月公表)、実調率は国税審議会(令和6年12月3日)の国税庁説明資料によります。表の個人側の統計は、個人事業主に限定した集計ではありません。実地調査件数は所得税と消費税の調査件数で、所得税の追徴税額には復興特別所得税も含まれます。追徴税額には加算税を含みます。
担当部署の違い:個人課税部門・法人課税部門と国税局調査部
税務署の3部門が受け持つ税目
国税庁の「国税庁の機構」では、税務署の調査部門の所掌を次のように説明しています。個人課税部門は「所得税や個人事業者の消費税等についての個別的な相談や調査」、法人課税部門は「法人税、法人の消費税等、印紙税、酒税及び揮発油税等」の相談や調査、資産課税部門は相続税・贈与税や土地建物・株式を譲渡したときの所得税です。
同じ税務署の中でも、個人事業主と法人では調査に来る職員の部門が違います。個人事業主が土地を売った年の譲渡所得は資産課税部門の担当なので、事業所得の調査とは別の部門から連絡が来ることもあります。
国税局調査部の所管:原則として資本金1億円以上の法人等
原則として資本金1億円以上の法人と外国法人は、税務署ではなく国税局調査部が法人税・地方法人税・消費税の調査を行います(国税庁の資料では「調査課所管法人」と呼びます)。令和6事務年度の調査課所管法人に対する法人税の実地調査は1,723件で、1件当たりの追徴税額は4,928万4千円でした。法人全体の402万3千円の約12倍です。
中小企業の調査と大法人の調査は、担当組織も1件当たりの規模も別物と考えたほうが実態に合います。ネット上の「法人の税務調査」の体験談を読む際は、資本金に加え、調査を担当したのが税務署か国税局かも確認してください。
接触方法別の件数比較:個人の簡易な接触と実地調査
個人:実地調査4万7千件と簡易な接触68万9千件
令和6事務年度の個人に対する実地調査は4万6,896件でした。内訳は、高額・悪質な不正計算が見込まれる事案を深く調べる特別調査・一般調査が3万6,404件、資料情報や申告内容の分析から申告漏れが見込まれる個人に短期間で臨場する着眼調査が1万492件です。国税庁は特別調査について「1件当たり10日以上を目安」と日数の目安まで示しています。
これに対し簡易な接触は68万9,440件で、実地調査の約14.7倍です。簡易な接触は「原則、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接を行い、申告内容を是正するもの」と定義されています。この統計は個人事業主に限らない個人全体の集計ですが、件数の上では臨場しない接触が実地調査を大きく上回ります。
この件数には、更正の請求に基づく減額更正や、添付書類の未提出に対する提出依頼も含まれます。68万件のすべてが申告漏れの指摘ではありません。
法人:実地調査5万4千件と簡易な接触8万5千件
法人税の実地調査は5万4千件、法人税・消費税の簡易な接触は8万5千件でした。簡易な接触は実地調査の約1.6倍で、個人ほど偏っていません。法人の簡易な接触には、無申告法人への申告書の提出要請や、税法の適用誤りの見直し要請が含まれます。
法人にはもう一つ、源泉所得税の実地調査があり、令和6事務年度は6万4千件でした。従業員や役員に給与を払う法人では、法人税の調査と同じ機会に源泉徴収の漏れも確認されます。
国税庁が国税審議会(令和6年12月3日)に示した資料では、実地調査の件数を母数で割った実調率は、令和5事務年度で法人1.7%、個人0.7%でした。平成15事務年度は法人3.9%、個人1.0%で、どちらも下がっています。個人実調率は、実地調査の件数を税額のある申告を行った納税者数で割ったものと注記されています。法人数や申告件数を母数にした計算例は税務調査が入る確率は法人1.6%|令和6事務年度の件数と業種別データで整理しています。国税庁は個人・法人とも平均の調査間隔を公表していないので、「法人は何年に1回」という目安を自社の周期として当てはめるのは避けてください。
調査で重点的に見られる論点の違い:家事関連費と役員給与
個人事業主:家事関連費の区分と事業用口座
個人事業主の調査で確認される論点の一つが、生活費と事業経費の線引きです。所得税法45条1項1号は家事上の経費とこれに関連する経費を必要経費に入れないと定め、所得税法施行令96条は例外として、業務の遂行上必要な部分を「明らかに区分することができる場合」のその部分だけを経費に認めています。自宅兼事務所の家賃・水道光熱費・車両費の按分割合は、使用面積や走行記録などで説明できるかが問われます。
事業用と生活用の預金口座が分かれていないと、入金のどれが売上かを一つずつ説明する負担が生じます。家族に給与を払っている場合は、青色事業専従者給与の届出額と実際の支給・従事の実態も確認されます。
法人:役員給与・計上時期・源泉所得税
法人では、役員給与が損金になる形で払われているかが典型的な論点です。法人税法34条1項では、一定の退職給与や使用人兼務役員の使用人分給与などを除き、定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与のいずれにも該当しない役員給与は損金不算入とされます。役員報酬の期中改定でも、通常改定・臨時改定事由・業績悪化改定事由の要件を満たせば、定期同額給与に該当します。これらの要件を満たさない改定や、届出と異なる賞与の支給は、損金不算入となる場合があります。事前確定届出給与の届出期限は役員賞与とは:事前確定届出給与の届出期限と届出額どおりの支給で確認できます。
決算期末前後の売上や外注費をどの事業年度に計上したか(いわゆる期ズレ)も、法人で頻出する指摘です。法人カードでの私的な支払のように法人の資金を役員が個人の用途に使った場合、個人事業主なら「生活費だから経費にならない」で済む話が、法人では役員への給与や貸付金の問題として扱われます。
法人の調査で代表者個人の取引が見られる範囲
国税通則法74条の2第1項2号は、法人税の調査で質問検査ができる相手を、法人そのもの(イ)と、その法人に対して金銭の支払や物品の譲渡をする義務がある者・受ける権利がある者(ロ)と定めています。代表者が法人から資金を借りている、法人に立て替え払いをしているといった取引があれば、代表者個人も取引の相手方としてこの範囲に入りえます。法人と代表者の間の資金の出入りは、金銭消費貸借契約書や精算記録で説明できるようにしておくべきです。
調査対象期間と期間制限の違い:年分と事業年度
税務署が更正できる期間は、個人も法人も国税通則法70条で決まります。原則は法定申告期限から5年、偽りその他不正の行為があれば7年です。違うのは期間を数える単位と起点です。
| 項目 | 個人事業主(所得税) | 法人(法人税) |
|---|---|---|
| 単位 | 暦年(1月〜12月) | 定款で定めた事業年度 |
| 法定申告期限 | 翌年3月15日 | 事業年度終了の日の翌日から2か月以内 |
| 原則の期間制限 | 5年 | 5年 |
| 不正がある場合 | 7年 | 7年 |
| 欠損金額に関する更正 | (特則なし) | 10年(平成30年4月以後開始の年度) |
法人税の欠損金額に関する更正の期間制限は、平成30年4月1日以後に開始する事業年度では法定申告期限から10年です。それより前に開始した事業年度には、従前の9年の規定が適用されます。欠損金を繰り越している法人は、赤字だった古い事業年度の帳簿も調査で見られる可能性があります。
実際に何年分を調べるかは、事前通知で「調査の対象となる期間」として示されます(74条の9第1項5号)。個人事業主が対象年分を広げられる条件は個人事業主の税務調査は何年さかのぼる?3年が5年・7年に延びる条件と断れるのか、税目ごとの期間制限は税務調査は何年分さかのぼる?税目別の期間制限5年・6年・7年・10年と住民税3年の根拠で詳しく扱っています。
追徴税額の違いと調査後に連動する税金
1件当たり追徴税額:個人241万円・法人402万3千円
令和6事務年度の実地調査1件当たりの追徴税額は、個人の所得税が241万円、法人の法人税(地方法人税を含む)が402万3千円でした。個人の241万円の内訳は、特別調査・一般調査が299万円、着眼調査が40万円で、調査の種類による差が7倍以上あります。法人は消費税を合わせると1件当たり634万2千円になります。
個人の241万円は、分母の実地調査件数に消費税の調査も含む一方、分子は所得税の追徴税額だけです。個人の消費税分は別の表で集計されているので、法人の634万2千円と並べて「個人は法人の3分の1」とは読めません。所得税241万円と法人税402万3千円は税目別の参考値として並べられますが、調査対象者の規模や分母の範囲が異なるため、同じ条件での負担比較ではありません。
追徴後の影響:地方税・国民健康保険料と役員個人への課税
国税の追徴で終わらず、地方税も後から計算し直されます。個人事業主は所得税の所得金額が増えると、住民税と個人事業税の課税標準も変わり、所得をもとに計算する国民健康保険料にも影響します。法人では法人住民税と法人事業税が連動するうえ、法人の資金を役員が私的に使っていたと認定されると、役員への給与として源泉所得税の納付を求められることがあります。
法人の調査結果が役員個人の所得税にまで広がる点は、個人事業主には無い構造です。追徴税額の計算方法は追徴課税とは?加算税・延滞税の税率と本税50万円の計算例【令和8年】で確認してください。
個人と法人で共通する手続:事前通知・無予告の例外・加算税
調査の手続そのものは、個人も法人も国税通則法の同じ条文に従います。実地調査をする場合、税務署長等は納税義務者(税務代理人がいる場合はその税理士等を含む)に、調査開始の日時・場所・目的・税目・対象期間・対象の帳簿書類などを事前に通知します(74条の9第1項)。申告内容や過去の調査結果などから、通知すると正確な把握が難しくなるおそれがあると認める場合は、通知なしで調査できます(74条の10)。この例外も個人・法人の区別なく適用されます。
下表は、調査による更正・決定を予知した後の申告等に適用される基本税率です。無申告加算税の300万円超部分の30%は、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税に適用されます。自主申告等による軽減や、無申告の反復・帳簿不提示等による加重は別途判定します。
| 加算税 | 税率 | 条文 |
|---|---|---|
| 過少申告加算税 | 10%(期限内申告税額と50万円の多い方を超える部分は15%) | 国税通則法65条 |
| 無申告加算税 | 15%(50万円超の部分20%・300万円超の部分30%) | 同66条 |
| 重加算税 | 35%(無申告の場合40%) | 同68条 |
調査の開始から終了までの流れは税務調査とは?事前通知から終了手続きまでの流れを国税通則法で確認、調査結果を受けて修正申告するか更正を受けるかは修正申告とは?更正の請求との違い、e-Taxでのやり方と加算税0%・5%・10%の分かれ目で解説しています。
法人成り後の調査:個人時代の納税義務と法人化の判断基準
個人事業主が法人を設立して事業を移すと、税務署の担当は個人課税部門から法人課税部門に移り、役員給与の損金算入など、法人特有の論点が加わります。給与の支払に伴う源泉所得税は、法人化前の個人事業主でも調査対象になります。
変わらないのは、個人事業主だった年分の所得税です。法人化しても、その年分の納税義務者は個人のままで、70条の期間制限が残っている限り個人として調査を受けます。法人の設立で過去の年分が調査対象から外れることはありません。
実調率は令和5事務年度で法人1.7%、個人0.7%で、法人化すれば実地調査を受ける割合が下がるという根拠は統計にありません。税負担・社会保険・事務負担で法人化を判断し、調査の回避を理由に含めないでください。
よくある質問
個人と法人では、どちらが税務調査に入られやすいですか?
実地調査に限れば法人のほうが割合は高く、国税庁が公表した実調率は令和5事務年度で法人1.7%、個人0.7%です。一方、個人には文書・電話・来署依頼による簡易な接触が令和6事務年度に68万9,440件あり、税務署から何らかの連絡を受ける件数は個人のほうが多くなっています。実調率は全体の平均で、個々の納税者に調査が来る確率ではありません。
税務調査は何年に一回来ますか?
国税庁は個人・法人とも平均の調査間隔を公表していません。調査先は申告内容や資料情報の分析で選ばれるため、問題が疑われる納税者には短い間隔で、そうでない納税者には長期間来ないという偏りがあります。「法人は3〜10年に1回」といった目安は公表統計から導かれた数字ではないので、自社の時期の見立てには使えません。長期間調査が来ない場合の考え方は税務調査が10年以上来ない個人事業主・法人|KSK2とAI選定で変わる点で扱っています。
法人の税務調査で、社長個人の預金口座も調べられますか?
法人税の調査で質問検査ができる相手は、法人と、法人に対して金銭の支払義務や受け取る権利がある者です(国税通則法74条の2第1項2号)。社長個人の預金でも、法人の事業との関連性が疑われ、調査に必要な場合には、通帳の提示・提出を求められることがあります。貸し借りや立て替えは、その関連性が問題になる例です。取引先や金融機関への確認は税務署の反面調査とは?根拠条文と拒否したときの罰則を一次資料で解説を参照してください。
税務署から電話や文書が来たら、税務調査が始まったということですか?
必ずしもそうではありません。個人への接触の大半は、臨場しない「簡易な接触」で、令和6事務年度は68万9,440件ありました。電話や文書で申告内容の見直しを求める連絡は行政指導の場合もあります。行政指導を受けて調査通知の前に自主的に修正申告すれば、過少申告加算税はかかりません(国税通則法65条6項)。実地調査では原則として日時・場所・対象期間などが事前通知されますが、国税通則法74条の10により事前通知を行わない場合もあります。違いの見分け方は税務調査の目的とは?国税庁通達による「調査」の定義と行政指導との違いで説明しています。
税務調査ではどこまで調べられますか?
実地調査の範囲は、事前通知で示された税目・対象期間・帳簿書類が基本です(国税通則法74条の9第1項)。ただし調査の途中で通知していない事項に非違が疑われた場合は、その事項についても質問検査ができます(同条4項)。個人なら事業用の帳簿・領収書・預金通帳、法人なら総勘定元帳・契約書・議事録・給与台帳などが対象になります。税理士に立ち会いを頼める範囲は税務調査の税理士立ち会いは必要?任せられる範囲・同席できる人・費用を条文で確認をご覧ください。