法人に税務調査が入る確率は、国税庁が公表した令和6事務年度の実地調査件数5万4千件を法人数346万社で割ると1.56%、法人税の申告件数322万件で割ると1.68%です。ただし、これは調査終了件数を法人数や申告件数で割った参考比率であり、個々の法人が調査を受ける確率や「約60年に1回」という周期を示すものではありません。国税庁は申告内容や資料情報から調査の必要度が高い法人を抽出しており、確率は法人ごとに大きく偏るからです。この記事では、国税庁の3つの報道発表資料から、法人と個人の調査件数、調査が入った後に非違が見つかる割合、業種別の不正発見割合を整理します。税務調査の仕組みそのものは税務調査とは?その定義や目的、そして基本的な仕組みをわかりやすく理解するために徹底解説で扱っています。
まとめ:法人税の調査件数比約1.6%と調査後の非違割合約8割
- 令和6事務年度(令和6年7月から令和7年6月に処理を終えた調査)の法人税の実地調査は5万4千件で、前事務年度の5万9千件から7.4%減りました。
- 母数を法人数346万社にすると1.56%(約64年に1回)、法人税の申告件数322万件にすると1.68%(約60年に1回)です。どちらの母数を使ったかで数字が変わります。
- 令和6事務年度の国税庁の報道発表資料には、法人の被調査率や平均調査間隔は掲載されていません。「3年から10年に1回」といった目安は、公表統計から導かれた数字ではありません。
- 実地調査を受けた法人の約78%(4万2千件)で非違が見つかり、不正発見割合は23.5%、法人税の1件当たり追徴税額は402万3千円でした。
- 不正発見割合が最も高い業種はバー・クラブの62.3%で、飲食業が上位3位を占めます。これは調査を受けた法人の中での割合で、調査が入る確率そのものではありません。
- 個人の実地調査は4万7千件、臨場せずに文書・電話・来署依頼で申告内容を是正する簡易な接触は68万9千件(減額更正や書類の提出依頼を含む件数)です。個人は分子と分母の範囲がそろわないため、確率を1つの数字で出すことはできません。
以下、計算の根拠と、数字を読むときの注意点を順に見ていきます。
法人に税務調査が入る確率の計算と母数の違い
令和6事務年度の実地調査件数と2つの母数
国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」(令和7年12月)によると、実地調査の件数は5万4千件でした。これを「令和6事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要」(令和7年10月)の法人数と申告件数で割ると、次のようになります。
| 母数 | 母数の値 | 実地調査件数 | 割合 | 逆数 |
|---|---|---|---|---|
| 法人数(令和7年6月30日現在) | 3,460千法人 | 54千件 | 1.56% | 約64年に1回 |
| 法人税の申告件数(令和6年度) | 3,220千件 | 54千件 | 1.68% | 約60年に1回 |
法人数は令和7年6月30日現在で清算中の法人を除いた数、申告件数は令和6年4月1日から令和7年3月31日までに終了した事業年度の申告を集計した数です。申告件数は申告した法人の実数と同じとは限らず、法人数とも集計時点・対象が異なります。両者を使った計算は、分母を明示した参考比較として読む必要があります。なお、国税庁の資料は千件単位で丸めて公表されているため、割合は小数第2位で前後します。「約1.6%だから約60年に1回」と書かれることがありますが、1.6%の逆数は62.5年です。60年に1回は申告件数ベースの1.68%から出る数字なので、母数とセットで読む必要があります。
前事務年度からの推移と簡易な接触の増加
令和5事務年度の実地調査は5万9千件で、同じ計算をすると法人数ベース(令和6年6月30日現在3,401千法人)で1.73%、申告件数ベース(令和5年度3,176千件)で1.86%でした。1年で実地調査は減り、法人数は増えたため、割合は下がっています。
一方で、申告内容に誤り等が想定される法人に自発的な見直しを要請する「簡易な接触」は、法人税・消費税で8万5千件と前事務年度から13.4%増えました(令和6事務年度から調査課所管法人分を含む集計)。実地調査と簡易な接触を合わせると延べ13万9千件になり、何らかの形で税務署から接触を受ける法人は、実地調査の件数だけで計算した割合より多いと考えるべきです。ただし、同じ法人が両方を受けた場合の重複は資料から区別できません。
「約60年に1回」を個々の法人の周期として読めない理由
平均の確率が1.6%でも、すべての法人に60年に1回ずつ順番に調査が回ってくるわけではありません。国税庁は同資料の冒頭で、「AIも活用しながら、あらゆる機会を通じて収集した資料情報等や申告書の分析・検討を行うことにより、調査必要度の高い法人を的確に抽出し、実地調査を実施しました」と説明しています。調査先は抽選ではなく抽出で決まるので、申告内容に疑問点のある法人には何度も調査が入り、問題の見当たらない法人には長期間入らない、という偏りが生じます。
また、令和6事務年度の法人税と所得税の調査事績資料には、法人1社当たりの平均調査間隔や被調査率を示す記載がありません。「法人は3年から10年に1回」「設立5年目に来る」といった目安は、税理士の経験則として語られることはあっても、公表統計から導かれた数字ではありません。自社に調査が来る時期の見立ては、平均の確率ではなく、申告内容と過去の調査歴で考えるほうが実態に合います。時期の傾向は法人への税務調査はいつ来るのか?知っておきたい調査時期の目安やタイミングの傾向を詳しく解説、長期間調査がない場合の考え方は税務調査が10年以上来ない個人事業主・法人が知るべき選定基準の全体像で整理しています。
確率の数字が役に立つのは、「税務調査は毎年どこにでも来るものではない」という規模感をつかむ場面までです。低い確率を根拠に記帳や証憑の保存を後回しにすると、抽出された時点で平均の話は意味を失います。
調査が入った後の非違割合と追徴税額
法人税の実地調査:非違は約78%、不正発見割合は23.5%
確率が低い一方で、調査を受けた後に何も指摘されない法人は少数です。「法人税等の調査事績の概要」の別表1(法人税の実地調査の状況)は次のとおりです。
| 項目 | 令和5事務年度 | 令和6事務年度 |
|---|---|---|
| 実地調査件数 | 59千件 | 54千件 |
| 非違があった件数 | 45千件 | 42千件 |
| うち不正計算があった件数 | 13千件 | 13千件 |
| 不正発見割合 | 22.3% | 23.5% |
| 調査1件当たりの申告漏れ所得金額 | 16,597千円 | 15,082千円 |
| 調査1件当たりの追徴税額 | 3,582千円 | 4,023千円 |
非違があった件数4万2千件を実地調査5万4千件で割ると約78%です。つまり、調査が入った法人のおよそ5社に4社は、何らかの申告漏れや誤りを指摘されています。不正発見割合は、仮装・隠蔽を伴う不正計算が見つかった件数の割合で、4社に1社弱にあたります。
追徴税額は数え方で2つの数字があります。法人税分なら1件当たり402万3千円(加算税・地方法人税を含む)、法人税と消費税を合わせると1件当たり634万2千円(加算税、地方法人税、地方消費税を含む)で、後者は直近10年で2番目の水準です。加算税と延滞税の計算は追徴課税とは?加算税・延滞税の税率と本税50万円の計算例【令和8年】で、指摘を受けた後の手続きは税務調査で指摘される『修正申告』とは何か?その意味と基本的な仕組みや目的をわかりやすく徹底解説で解説しています。
源泉所得税・消費税還付申告・無申告法人の調査件数
法人が受ける調査は法人税だけではありません。同じ資料に載っている他の調査の件数は次のとおりです。
| 調査の区分(令和6事務年度) | 実地調査件数 | 非違・不正の件数 | 1件当たり追徴税額 |
|---|---|---|---|
| 源泉所得税 | 64千件 | 非違21千件 | 633千円 |
| 消費税還付申告法人 | 4,802件 | 非違2,916件 | 6,228千円 |
| 無申告法人(法人税) | 2,089件 | 不正計算527件 | 約5,726千円(総額÷件数) |
源泉所得税の実地調査6万4千件は、法人に限定した件数ではありません。個人などの源泉徴収義務者も対象となるため、法人税の5万4千件とは対象範囲を区別して読む必要があります。千件単位の公表値から計算すると源泉所得税の非違は約3件に1件で法人税より少ないものの、1件当たり追徴税額63万3千円は直近10年で最高です。消費税の還付申告をした法人は、実地調査4,802件のうち非違が2,916件(約61%)でした。無申告法人に対する法人税の実地調査は2,089件と前事務年度から17.8%増えています。
不正発見割合の高い10業種(法人税)
「法人税等の調査事績の概要」の別表2(1)は、実地調査で不正計算が見つかった割合の高い業種を並べています。
| 順位 | 業種目 | 不正発見割合 | 不正1件当たりの不正所得金額 | 前年順位 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | バー・クラブ | 62.3% | 44,664千円 | 1 |
| 2 | その他の飲食 | 45.2% | 31,759千円 | 2 |
| 3 | 外国料理 | 40.2% | 9,016千円 | 3 |
| 4 | 美容 | 34.5% | 31,664千円 | 5 |
| 5 | 大衆酒場、小料理 | 34.4% | 17,697千円 | – |
| 6 | 自動車修理 | 32.9% | 6,379千円 | – |
| 7 | 船舶 | 31.0% | 16,303千円 | 9 |
| 8 | 土木工事 | 30.4% | 17,496千円 | 4 |
| 9 | 職別土木建築工事 | 30.1% | 16,943千円 | 7 |
| 10 | 中古品小売 | 30.1% | 27,125千円 | – |
上位3業種は前年と同じ顔ぶれ・同じ順位の飲食業で、ほかにも美容、大衆酒場、中古品小売と、店頭で個人客と取引する業種が並びます。全体の不正発見割合23.5%に対し、バー・クラブは約2.7倍です。
注意したいのは、この表が「調査を受けた法人のうち不正が見つかった割合」だという点です。今回参照した令和6事務年度の調査事績資料には、業種別の「調査が入る確率」は掲載されておらず、この表から言えるのは、飲食業は調査が入った場合に不正を指摘される割合が高い、ということまでです。別表2(2)の不正1件当たり不正所得金額では水運が111,032千円で1位で、金額の大きさで並べると上位の顔ぶれはまったく違います。
個人に税務調査が入る件数と、確率を1つの数字にできない理由
実地調査4万7千件と簡易な接触68万9千件
国税庁「令和6事務年度における所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月)によると、個人に対する調査は次の規模でした。
- 実地調査:4万7千件(うち特別調査・一般調査3万6千件、着眼調査1万件)
- 簡易な接触:68万9千件(前事務年度55万8千件)
- 調査等の合計:73万6千件、うち申告漏れ等の非違があった件数36万9千件
- 実地調査1件当たりの追徴税額:241万円(特別調査・一般調査に限ると299万円)
特別調査・一般調査は「高額・悪質な不正計算が見込まれる事案を対象に深度ある調査を行うもの」とされ、36,404件のうち32,001件、約88%で非違が見つかっています。対象を高額・悪質な事案に絞った区分なので、法人税の約78%とは単純に比べられません。
個人の確率が法人のように計算しにくいのは、分子と分母の範囲がそろわないからです。資料の注記では実地調査の件数は「所得税と消費税の実地調査件数」とされ、事業所得者以外の個人も含みます。確定申告の統計にある申告人員とは対象範囲が一致しないため、単純に割っても被調査率にはなりません。調査件数を申告人員で割った比率を比較する際は、分母の対象者だけでなく、分子の調査区分や対象年度もそろえる必要があります。令和6事務年度の資料にも、個人の被調査率は掲載されていません。個人事業主の調査で何年分をさかのぼるかといった実務は個人事業主の税務調査は何年さかのぼる?3年が5年・7年に延びる条件と断れるのかで扱っています。
個人への「簡易な接触」の定義と集計範囲
簡易な接触は、同資料で「原則、納税者宅等に臨場することなく、文書、電話による連絡又は来署依頼による面接を行い、申告内容を是正するもの」と定義されています。簡易な接触の件数は実地調査の約15倍ですが、更正の請求等に基づく減額更正や添付書類の提出依頼なども含まれます。すべてが申告内容の誤りを疑った確認連絡ではありません。件数は前事務年度の55万8千件から13万件以上増えています。
1件当たり申告漏れ所得が高額な上位10業種(個人)
個人については、不正発見割合ではなく「1件当たりの申告漏れ所得金額」で業種が並べられています(特別調査・一般調査の結果)。金額は調査対象となった全年分の合計で、1年分の金額ではありません。追徴税額には加算税が含まれます。
| 順位 | 業種目 | 1件当たり申告漏れ所得 | 1件当たり追徴税額 |
|---|---|---|---|
| 1 | キャバクラ | 4,164万円 | 1,474万円 |
| 2 | 眼科医 | 3,894万円 | 964万円 |
| 3 | ホステス、ホスト | 2,968万円 | 475万円 |
| 4 | 経営コンサルタント | 2,734万円 | 878万円 |
| 5 | 太陽光発電 | 2,142万円 | 757万円 |
| 6 | バー | 1,968万円 | 425万円 |
| 7 | コンテンツ配信 | 1,936万円 | 462万円 |
| 8 | ブリーダー | 1,876万円 | 498万円 |
| 9 | スナック | 1,873万円 | 353万円 |
| 10 | システムエンジニア | 1,631万円 | 287万円 |
法人の表と同じく、これも調査が入る確率の順位ではありません。調査を受けた場合に見つかる申告漏れの大きさの順位です。システムエンジニアが前年17位から10位に上がっているように、現金商売以外の業種も上位に入っています。
よくある質問
税務調査は何社に1社の割合で行われますか?
法人の実地調査は令和6事務年度に5万4千件で、法人数346万社に対して約64社に1社(1.56%)、法人税の申告件数322万件に対して約60社に1社(1.68%)です。文書や電話による簡易な接触8万5千件は含まない数字です。
中小企業に税務調査が入る頻度はどれくらいですか?
令和6事務年度の国税庁の報道発表資料には資本金規模別の被調査率や調査間隔が載っていないため、中小企業に限った頻度は一次資料からは出せません。法人全体の平均は年1.6%前後ですが、調査先は申告内容の分析で抽出されるため、平均から個々の会社の周期を見積もることはできません。
飲食店は税務調査が入る確率が高いのですか?
今回参照した令和6事務年度の調査事績資料が示しているのは、業種別の調査確率ではなく、調査を受けた法人のうち不正が見つかった割合で、バー・クラブ62.3%、その他の飲食45.2%、外国料理40.2%と飲食業が上位3位を占めています。調査が入った場合に指摘を受けやすい業種、というのが正確な読み方です。
税務署から個人にお尋ねや連絡が来る確率はどれくらいですか?
お尋ね文書だけの件数は公表されていません。国税庁の統計では、臨場せずに文書・電話・来署依頼による面接で申告内容を是正するものが「簡易な接触」と定義され、個人に対しては令和6事務年度に68万9千件行われました。実地調査4万7千件の約15倍ですが、この件数には減額更正や添付書類の提出依頼なども含まれるため、お尋ねを受ける確率と同じではありません。
10年以上税務調査が来ないのは珍しいことですか?
令和6事務年度の実地調査件数は法人数の約1.6%に相当しますが、この単年度の比率だけでは、10年以上調査を受けていない法人の割合は分かりません。ただし調査先は抽出で決まるため、これまで来ていないことは今後来ない根拠にはなりません。長期間調査がない場合の選定基準は税務調査が10年以上来ない個人事業主・法人が知るべき選定基準の全体像で解説しています。