法人に税務調査がいつ来るかは、法律では決まっていません。国税通則法が定めているのは「法定申告期限から5年を過ぎたら原則として更正できない」という締め切りだけで、その範囲内であれば税務署はどの月にでも調査を始められます。
それでも時期に偏りが生まれるのは、税務署が7月から翌年6月までの「事務年度」で仕事を回しているからです。決算月が決まれば申告期限が決まり、申告期限が決まれば、その申告書が事務年度のどちらの半期に調べられやすいかの見当がつきます。この記事では、法人の調査時期を決める枠組みを条文と国税庁の公表資料で確かめたうえで、決算月ごとの目安、新設法人の初回、事前通知から調査日までの調整を順に整理します。
まとめ:法人の税務調査が来る時期の要点
- 調査の時期を定めた法令はありません。更正・決定ができる期間は原則として法定申告期限から5年で、偽りその他不正の行為があれば7年、法人税の欠損金額を動かす更正は10年です(国税通則法70条)。
- 税務署の仕事は7月〜翌6月の事務年度で回り、毎年7月頃に一斉の人事異動があります。国税庁の調査事績も「令和6年7月から令和7年6月まで」に処理を終えた件数で集計されています。
- 実務では、2〜5月決算の法人は事務年度の上期(7〜12月)、6月〜翌1月決算の法人は下期(1〜6月)に調査が入りやすいと言われます。国税庁はこの区分を公表しておらず、あくまで申告期限から逆算した傾向です。
- 新設法人の初回時期にも定めはありません。比較できる決算が複数期そろってからになりやすい一方、1期目から消費税の還付申告をすると早まることがあります。
- 事前通知は原則として電話で行われ、何日前に通知するかの定めはありません。決算や申告で忙しい時期なら、合理的な理由を伝えて日時の変更を協議できます(国税通則法74条の9第2項)。
以下、それぞれの根拠と、自社の決算月に当てはめたときの読み方を説明します。
調査時期の上限を決める国税通則法70条の期間制限
税務調査は、提出された申告書の内容を確かめて、必要なら更正(税額の訂正)をするための手続です。そのため調査ができる時期の上限は、更正ができる期間で決まります。国税通則法70条1項は、更正又は決定は法定申告期限から「五年を経過した日以後においては、することができない」と定めています。
| 区分 | 更正・決定ができる期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 原則 | 法定申告期限から5年 | 国税通則法70条1項 |
| 法人税の欠損金額を増減させる更正 | 法定申告期限から10年 | 同条2項 |
| 偽りその他不正の行為で税額を免れた場合 | 法定申告期限から7年 | 同条5項1号 |
下限のほうは、申告書が出るまで調べる対象がないという事情で決まります。内国法人の確定申告期限は「各事業年度終了の日の翌日から二月以内」で(法人税法74条1項)、定款の定めなどで決算の定時総会が2か月以内に開けない法人は、申請により原則1か月延長できます(同法75条の2)。つまり、ある事業年度の申告書が調査対象に加わるのは、通常は決算日から2〜3か月後です(会計監査人を置く法人などで延長幅が大きい場合は、さらに後になります)。
この5年の幅の中のどこで調査が来るかは、条文からは決まりません。時期の偏りは、次に見る税務署側の年間サイクルから生まれます。
国税の事務年度(7月〜翌6月)と7月の人事異動
財務省の税制メールマガジン第164号(2023年7月4日)は、財務省には「事務年度」という用語があり、「毎年7月頃に一斉に人事異動が行われ、多くの人が異動することもあり、7月~6月を事務年度とし、1年間の計画を立て、それを遂行しています」と説明しています。国税庁の調査事績も同じ7月〜翌6月の区切りで集計されており、「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」は注記で「令和6年7月から令和7年6月までの間に処理を終了した実地調査に係るものを集計しています」としています。
実務では、事務年度を7〜12月の上期と1〜6月の下期に分けて語ることが多く、次のように言われます。
- 7月の異動で担当が替わった直後に年間の調査計画が組まれ、8月以降に事前通知の電話が増える。
- 9〜11月は年末年始や確定申告期をはさまないため、実地調査の日程を組みやすい。
- 2月16日〜3月15日の所得税の確定申告期は、多くの職員が申告の相談や受付に当たるため、法人の実地調査は少なくなる。
- 4〜6月は、事務年度末の6月までに処理を終えたい案件の調査が続く。
ただし、これらは税理士の解説や経験として流通している傾向です。国税庁の調査事績は事務年度単位の集計で、令和6事務年度の資料にも月別の調査件数は載っていません。「12月から3月は絶対に来ない」と考えて準備を後回しにする根拠にはなりません。
決算月・申告期限・事務年度の対応表
上期・下期の通説は、申告期限から逆算するとおおむね説明がつきます。直近の申告書が出てから数か月以内に調査すれば、最新の事業年度まで含めて確認できるからです。法人税法74条1項の申告期限(延長なし)と並べると次のとおりです。
| 決算月 | 申告期限(延長なし) | 入りやすいと言われる時期 |
|---|---|---|
| 2月 | 4月末 | 上期(7〜12月) |
| 3月 | 5月末 | 上期(7〜12月) |
| 4月 | 6月末 | 上期(7〜12月) |
| 5月 | 7月末 | 上期(7〜12月) |
| 6〜9月 | 8月末〜11月末 | 下期(1〜6月) |
| 10〜12月 | 12月末〜翌2月末 | 下期(1〜6月) |
| 1月 | 3月末 | 下期(1〜6月) |
決算月として多い3月決算の法人では、5月末(延長していれば6月末)に申告書が出そろい、7月の新事務年度の計画に乗って上期に調査されるという流れが想定されます。一方、6月〜翌1月決算の法人は、上期の時点では最新期の申告書がまだ出ていないか出た直後なので、下期に回りやすいと説明されます。
この表は「調査が来るならこの半期になりやすい」という目安であって、「この時期に来る」という予告ではありません。前回の調査からの間隔、申告内容、署の人員の事情で前後します。自社の決算月が上期型なら、6月の申告後から12月までのあいだに、総勘定元帳・請求書・契約書を前期分までさかのぼって出せる状態にしておく、という準備の目安に使うのが妥当です。
申告から調査までの間隔と、時期が早まる申告
申告後の選定と事前通知
申告書が出たあと、税務署は申告書と資料情報を分析して調査先を選びます。令和6事務年度の調査事績は、「AIも活用しながら、あらゆる機会を通じて収集した資料情報等や申告書の分析・検討を行うことにより、調査必要度の高い法人を的確に抽出し、実地調査を実施しました」と書いています。選定の仕組みの詳細は税務調査が10年以上来ない個人事業主・法人|KSK2とAI選定で変わる点で扱っています。
申告から何か月後に通知が来るかの定めはなく、国税庁も目安を公表していません。どの事業年度を調べるかは事前通知の通知事項の一つ(国税通則法74条の9第1項五号「調査の対象となる期間」)で、何年分さかのぼるかの条文上の整理は税務調査は何年分さかのぼる?税目別の期間制限5年・6年・7年・10年と住民税3年の根拠にまとめています。
消費税の還付申告をした期
時期が早まりやすいはっきりした例が、消費税の還付申告です。国税庁は消費税還付申告法人を重点課題に位置づけており、令和6事務年度に消費税還付申告法人に対して行った消費税の実地調査は4,802件で、そのうち2,916件で非違が見つかっています(調査事績 別表4)。大きな設備投資や輸出で還付が出る期は、通常の周期とは別に確認が入る前提で、仕入れの請求書と輸出の書類をそろえておく必要があります。
税務署からの電話と実地調査の区別(簡易な接触8万5千件)
税務署からの電話がすべて実地調査の予告というわけではありません。国税庁は、申告内容に簡易な誤りが想定される法人には、実地調査ではなく書面照会や電話連絡で自発的な見直しを求める「簡易な接触」を行っており、令和6事務年度の法人税・消費税の簡易な接触は8万5千件でした(実地調査は5万4千件)。電話を受けたら、まず実地調査の事前通知なのか、見直しの依頼なのかを確認します。調査と行政指導の区別は税務調査の目的とは?国税庁通達による「調査」の定義と行政指導との違いで詳しく説明しています。
新設法人に初めて調査が来る時期
新設法人の初回調査の時期にも法令の定めはありません。設立後に法令で決まっているのは届出の期限で、設立届出書は設立の日以後2か月以内(法人税法148条)、青色申告の承認申請は設立の日以後3か月を経過した日と第1期の終了日のうち早い日の前日まで(同法122条2項1号)です。
実務では「3期目前後に最初の調査が来ることが多い」と言われます。売上や経費の推移を比べられる決算が複数期そろってからでないと、申告書の分析で異常値を見つけにくいからです。ただし国税庁がこの時期を示した資料はなく、次のような場合は1〜2期目でも調査や確認が入りえます。
- 課税事業者を選択した、資本金1,000万円以上で設立した、インボイス発行事業者の登録をしたなどの理由で1期目から課税事業者となり、設備投資などで消費税の還付申告をした場合(前の節の重点課題に当たります)。
- 個人事業から法人成りし、個人時代の売上や資産の引き継ぎ方に確認すべき点がある場合。
- 役員報酬・外注費・交際費などが売上に比べて大きく、初年度から多額の欠損を出している場合。
設立直後から帳簿と証憑を事業年度ごとに保存しておけば、初回の調査がいつ来ても慌てずに済みます。
事前通知から調査日まで:日程の調整と無予告の例外
実地調査は、原則として事前通知から始まります。国税庁の「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問12は、事前通知の方法は「法令上は規定されておらず、原則として電話により口頭で行うこととしています」とし、電話での通知が困難と認められる場合は税務当局の判断で書面によって通知することもあると説明しています。通知事項の中身は税務調査とは?事前通知から終了手続きまでの流れを国税通則法で確認で確認できます。
通知から調査日までの日数は決まっていません。FAQ問13は、何日程度前に通知するかを一律に示すことは困難としたうえで、「調査までに相当の時間的余裕を置いて行うこととしています」と答えています。
事前通知を受けた法人が実際に動かせるのは、調査開始の日時と場所です。国税通則法74条の9第2項は、納税義務者から合理的な理由を付して調査開始日時や場所の変更を求められた場合、税務署長等は「協議するよう努めるものとする」と定めています。FAQ問16は、通知の段階で都合を尋ね、「申告業務、決算業務等の納税者の方や税務代理人の方の事務の繁閑にも配慮して」日時を調整するとし、通知後でも一時的な入院、親族の葬儀、業務上やむを得ない事情などがあれば変更を協議するとしています。申し出は口頭で足ります(問17)。決算直後や株主総会前と重なる場合は、その場で候補日を出して調整を頼みます。
例外として、申告内容や過去の調査結果などから、事前通知をすると違法・不当な行為を容易にするおそれなどがあると税務署長等が認める場合は、通知なしで実地調査が行われます(国税通則法74条の10)。この場合も、調査の対象となる税目・課税期間や目的は臨場後速やかに説明する運用です(FAQ問20)。無予告で税務署が来たときの当日の対応は税務調査が来ない会社の特徴と、税務署が会社に来るときの手順にまとめています。
前回の調査から次の調査までの間隔
「法人の税務調査は3〜10年に1回」という数字はよく見かけますが、国税庁の調査事績には調査の周期や平均間隔の記載はありません。公表されている数字から言えるのは、令和6事務年度の法人の実地調査が5万4千件で、法人数で割ると1.6%前後、法人全体から見れば2%に満たない規模だということです。分母にした法人数の出典と確率の計算、業種別のデータは税務調査が入る確率は法人1.6%|令和6事務年度の件数と業種別データで扱っています。
調査先は申告内容と資料情報から選ばれるので、間隔は法人ごとに大きく違います。実務では、前回の調査で不正計算を指摘された法人や、売上が急に伸びた法人は短い間隔で再び選ばれやすいと言われ、反対に、申告内容が安定していて資料情報との食い違いがない法人は長く来ないこともあります。なお、調査が終わって是認の通知を受けた税目・期間や、修正申告・更正で終わった税目・期間をもう一度調べられるのは、新たに得られた情報に照らして非違があると認めるときに限られます(国税通則法74条の11第5項)。「前回から5年たったからそろそろ」と年数で構えるより、更正の期間制限の5年分の帳簿と証憑をいつでも出せる状態にしておくほうが、時期を読むより確実な備えです。
よくある質問
法人の税務調査は何月に多いですか?
国税庁は月別の調査件数を公表していません。実務では、7月の人事異動後の8〜11月に事前通知が増え、所得税の確定申告期(2月16日〜3月15日)は法人の実地調査が少なくなると言われます。決算月によって上期(7〜12月)と下期(1〜6月)のどちらに入りやすいかも変わります。
3月決算の法人はいつ頃調査が来やすいですか?
3月決算の申告期限は5月末(延長していれば6月末)なので、実務では7〜12月の上期に調査が入りやすいと言われます。ただし法令で決まった時期ではなく、前回の調査からの間隔や申告内容によって前後します。
税務調査の事前通知は何日前に来ますか?
法令に日数の定めはありません。国税庁FAQ問13は、調査までに「相当の時間的余裕」を置いて通知するとしています。決算業務などで都合が悪ければ、合理的な理由を伝えて日時の変更を協議できます(国税通則法74条の9第2項)。
設立1期目の法人にも税務調査は来ますか?
来ないという決まりはありません。比較できる決算が複数期そろってから初回の調査が来ることが多いと言われますが、1期目から消費税の還付申告をした場合や、多額の欠損を計上した場合は早い段階で確認が入ることがあります。
個人事業主の税務調査の時期も法人と同じですか?
事務年度(7月〜翌6月)で税務署が動く点は同じですが、個人事業主は決算月が12月に固定され、確定申告の期限も原則3月15日なので、決算月による上期・下期の違いはありません。個人事業主の調査で何年分さかのぼるかは個人事業主の税務調査は何年さかのぼる?3年が5年・7年に延びる条件と断れるのかで解説しています。