税務調査は、税務署などの職員が質問や帳簿の検査を通じて申告内容を確かめる手続きです。通常の実地調査は、原則として事前通知と臨場を経て、更正決定等が不要なら書面通知、必要なら調査結果の説明と修正申告の勧奨または更正へ進み、各段階で税務署が何をしなければならないかは国税通則法74条の9から74条の11に書かれています。
この記事では、各段階の根拠条文と国税庁の「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」(令和8年7月一部改訂)をもとに、納税者の側で日程変更や説明の要求ができる場面を順に整理します。調査の結果を受けて修正申告と更正のどちらを選ぶかの判断基準も扱います。
まとめ:税務調査の流れと各段階の要点
- この記事で扱う通常の税務調査は、質問検査権(国税通則法74条の2ほか)にもとづく任意調査です。ただし正当な理由なく帳簿の提示を拒むと、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります(同法128条)。
- 実地の調査では、原則として事前に電話で通知が来ます。通知事項は、調査を行う旨、開始日時、場所、目的、税目、対象期間、対象となる帳簿書類などです。日時と場所は、合理的な理由があれば口頭で変更を申し出られます。
- 当日、職員は身分証明書を携帯しており、求めれば提示されます。帳簿の預かり(留置き)は承諾が前提で、預かるときは書面が交付されます。
- 調査が終わると、非違がなければ「更正決定等をすべきと認められない」旨の書面が届き、非違があれば内容の説明と修正申告の勧奨を受けます。
- 修正申告そのものに不服申立てはできず、申告税額の減額は原則として更正の請求で求めます。ただし、更正の請求を認めない通知処分や加算税の賦課決定処分には、不服申立てができます。事実認定や解釈に争いがある項目は、勧奨に応じず更正を受けたほうが、再調査の請求や審査請求で争う道が残ります。
以下、調査が始まる前から終わった後まで、時系列で見ていきます。
税務調査の定義と行政指導・査察との違い
質問検査権にもとづく任意調査という位置づけ
国税庁FAQ問2は、調査を「特定の納税者の方の課税標準等又は税額等を認定する目的で、質問検査等を行い、申告内容を確認するもの」と定義しています。根拠は国税通則法74条の2から74条の6の質問検査権で、所得税・法人税・消費税は74条の2、相続税・贈与税は74条の3に置かれています。
通常の税務調査は、裁判所の許可状による捜索ができない任意調査です。ただし、質問に答えない、帳簿の提示を正当な理由なく拒むといった行為には、128条の罰則(1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)があります。この「罰則による間接的な強制」を受忍義務と呼びます。取引先に対する調査の根拠条文と罰則の詳細は税務署の反面調査の解説で扱っています。
脱税の嫌疑で国税局査察部が行う強制調査(いわゆるマルサ)は、国税通則法の第11章「犯則事件の調査及び処分」にもとづく別の手続きで、この記事で扱う流れとは異なります。違いは任意調査と強制調査(マルサ)の比較記事にまとめています。
電話での見直し要請と行政指導の区別
税務署から「申告書に計算誤りがあるようなので確認してほしい」と電話が来ることがあります。FAQ問2によれば、これは調査ではなく行政指導の場合があり、その要請にもとづいて自主的に修正申告をしたときは、延滞税はかかっても過少申告加算税は課されません(当初申告が期限後申告の場合は、無申告加算税が原則5%課されます)。
同じ問2で、税務署の担当者は具体的な手続きに入る前に、調査と行政指導のどちらに当たるかを明示するとしています。電話を受けたら、まずどちらなのかを確認してください。後で説明する加算税の割合がここで変わります。
実地調査と簡易な接触の件数
国税庁の「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」(令和7年12月公表)は、個人に対する調査等を3つに分けています。
| 区分 | 進め方 | 件数(令和6事務年度) |
|---|---|---|
| 実地調査(特別調査・一般調査) | 臨場して深度ある調査 | 約3万6千件 |
| 実地調査(着眼調査) | 臨場して短期間で調査 | 約1万件 |
| 簡易な接触 | 文書・電話・来署依頼 | 68万9千件 |
同資料の注記では、特別調査は1件あたり10日以上を目安に日数を確保するとされています。一方、簡易な接触は原則として臨場せず、文書や電話で申告内容を是正するものです。件数では簡易な接触が実地調査の約15倍あります。ただし、簡易な接触には更正の請求等に基づく減額更正や添付書類の提出依頼も含まれるため、この件数をそのまま税務調査の件数とは扱えません。法人も含めた調査確率は税務調査が入る確率の記事で、調査対象の選ばれ方はKSK2とAIによる選定の記事で扱っています。
税務調査の流れと各段階の根拠条文
実地調査の場合、流れと根拠条文は次のとおりです。
| 段階 | 根拠 | 納税者側でできること |
|---|---|---|
| 1. 事前通知 | 通則法74条の9第1項 | 通知事項の確認 |
| 2. 日時・場所の調整 | 同条第2項 | 口頭で変更の申出 |
| 3. 臨場・質問検査 | 74条の2〜74条の6 | 身分証明書の提示を求める |
| 4. 帳簿の預かり | 74条の7・施行令30条の3 | 承諾の判断・返還の要求 |
| 5a. 非違なしの通知 | 74条の11第1項 | 書面の受領 |
| 5b. 調査結果の説明 | 同条第2項 | 額と理由の説明を受ける |
| 6. 修正申告の勧奨 | 同条第3項 | 応じるか否かを選ぶ |
| 7. 更正・不服申立て | 75条・77条 | 3か月以内に不服申立て |
簡易な接触や、税務署に出向いて受ける調査(実地の調査以外の調査)には、74条の9の事前通知も74条の11第1項の書面通知も法令上は適用されません。ただしFAQ問22によれば、運用上は来署を依頼する連絡の際に、税目・課税期間・目的を説明するとされています。
事前通知の段階:通知事項と日程変更
通知される11項目
国税通則法74条の9第1項は、実地の調査で質問検査等を行う場合、あらかじめ納税義務者(税務代理人がいればその税理士も含む)に「その旨及び次に掲げる事項」を通知すると定めています。
- 調査を行う旨
- 一号〜六号:調査を開始する日時、調査を行う場所、調査の目的、対象となる税目、対象となる期間、対象となる帳簿書類その他の物件
- 七号(施行令30条の4):納税義務者の氏名・住所、調査を行う職員の氏名と所属官署(複数なら代表者)、日時・場所の変更に関する事項、74条の9第4項の趣旨
七号は「政令で定める事項」への委任枠なので、七号自体を1項目と数えると二重計上になります。「調査を行う旨」の1つ、一号〜六号の6つ、施行令の4つを合わせて11項目です。施行令30条の4第2項により、帳簿書類が法令上保存義務のあるものなら、その旨も併せて伝えられます。FAQ問19では、複数の職員が来る場合は臨場予定人数も連絡するとしていますが、調査に要する日数は事前には知らされません。
事前通知の方法と通知時期
FAQ問12によると、通知の方法は法令に規定がなく、原則として電話で口頭で行われます。電話での通知が難しい場合は税務当局の判断で書面で通知することもありますが、納税者の希望で通知内容を書いた書面を交付することはありません。電話を受けたら、11項目をその場でメモしてください。
何日前に通知するかも法令に定めはなく、FAQ問13は「調査までに相当の時間的余裕を置いて行う」としか述べていません。
調査日時・場所の変更条件と申出方法
74条の9第2項は、合理的な理由を付けて日時または場所の変更を求められたとき、税務署長等は「協議するよう努める」と定めています。FAQ問16は、一時的な入院、親族の葬儀、業務上やむを得ない事情を例に挙げ、例示以外でも理由が合理的なら協議するとしています。申出に書類は不要で、口頭で足ります(問17)。
一方、実地調査が必要な理由は通知事項に含まれないため、尋ねても説明されません(問18)。通知を受けてから当日までに、対象期間の帳簿・請求書・契約書を揃え、顧問税理士がいれば同席の日程を合わせます。税理士に立ち会いを頼むかどうかの判断は税理士の立ち会いの記事を参照してください。
事前通知なしで来る場合
事前通知は必ず行われるわけではありません。74条の10は、申告や過去の調査結果、事業内容などから「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」などがあると認める場合、通知を要しないと定めています。
事前通知を行わない理由について、法令上の説明義務はありません。また、通知しなかったこと自体は、不服申立ての対象となる処分には当たりません(FAQ問21)。ただし運用上、税目・課税期間・目的は臨場後速やかに説明されます(問20)。
調査当日の流れ
身分証明書の確認
74条の13により、職員は質問検査等を行う際に身分を示す証明書を携帯し、関係人の請求があれば提示しなければなりません。来訪時は、名刺だけで済ませず証明書の提示を求め、職員名と所属官署を確認してください。事前通知を受けている場合は、通知された内容とも照合します。
その後は、事業内容や取引先の聞き取り、帳簿と証憑の突き合わせと進むのが一般的です。調査中のやり取りを録音してよいかは、東京国税局の職員用マニュアルや裁決例で扱いが整理されています。税務調査の録音の記事を確認してください。
帳簿の預かり(留置き)は承諾が前提
74条の7は、提出された物件を「留め置くことができる」と定めています。FAQ問10は、留置きは必要性を説明したうえで「理解と協力の下、その承諾を得て行う」ものであり、承諾なく強制的に留め置くことはないとしています。
預けるときは、施行令30条の3第1項により、物件の名称・数量・提出年月日などを書いた書面(預り証)が交付されます。業務で使う帳簿なら返還を求められ、特段の支障がない限り速やかに返されます(問11)。返還を待つよう言われて納得できない場合は、再調査の請求または審査請求ができます。
通知外の期間・税目へ広がるとき
74条の9第4項は、通知した目的・税目・期間・物件以外の事項で非違が疑われた場合に、その事項を調べることを妨げないと定めています。FAQ問32では、追加する税目や期間は説明するものの、追加する理由は説明しないとしており、調査対象の拡大も不服申立ての対象外です。
なお、対象年度の減価償却費を確かめるために取得年度の帳簿を見せるよう求められても、それは対象年度の調査であり、期間の拡大には当たりません(問9)。何年分までさかのぼるかの法的根拠は税務調査は何年分さかのぼるかの解説で扱っています。
調査終了の手続き(国税通則法74条の11)
更正決定等が不要な場合の書面通知
実地の調査で更正決定等をすべきと認められない場合、税務署長等は「その時点において更正決定等をすべきと認められない旨」を書面で通知します(74条の11第1項)。電話で「特に問題ありませんでした」と言われただけで終わった場合は、書面が届くかを確認してください。
この書面を受け取っても、同じ税目・期間が二度と調べられないとは限りません。74条の11第5項により、新たに得られた情報に照らして非違があると認めるときは、再び質問検査等ができます。FAQ問28は、取引先の調査で当初把握していなかった非違が見つかった場合を例に挙げています。
更正決定等が必要な場合の金額・理由の説明
更正決定等をすべきと認める場合、職員は「更正決定等をすべきと認めた額及びその理由」を含む調査結果を説明します(同条第2項)。FAQ問24によると説明は原則口頭で、納税者の希望で結果を書いた書面が交付されることはありません。
説明を受けるときは、指摘項目ごとに「金額」「どの取引か」「どの規定に反するのか」を聞き取り、その場で記録します。次の修正申告か更正かの判断は、この記録をもとに行います。税理士に代理を依頼していて納税者本人の同意があれば、説明を税理士だけにしてもらうこともできます(同条第4項・問27)。令和6年4月1日以後は、税務代理権限証書に同意欄が設けられています。
修正申告の勧奨と交付される書面
説明の際、職員は修正申告(または期限後申告)を勧奨できます(同条第3項)。勧奨するときは、修正申告をすると「不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨」を説明し、その旨を記載した書面を交付しなければなりません。
FAQ問25は、勧奨に応じるかは「あくまでも納税者の方の任意の判断」であり、応じなければ更正等の処分が行われるが、応じた場合と比べて不利な取扱いは「基本的にはありません」としています。
修正申告と更正の選び方
勧奨に応じるかどうかで、その後に使える救済手段が変わります。
| 項目 | 修正申告に応じる | 応じずに更正を受ける |
|---|---|---|
| 税額の確定 | 自分の申告で確定 | 税務署長の処分で確定 |
| 処分の理由 | なし(自分の申告) | 更正通知書に理由附記 |
| 不服申立て | できない | 再調査の請求または審査請求 |
| 期限 | 原則、法定申告期限から5年 | 通知を受けた日の翌日から3か月 |
| 過少申告加算税 | 課される | 課される |
不服申立ては、税務署長の処分に対して再調査の請求か国税不服審判所長への審査請求を選べます(75条1項1号)。期限は処分の通知を受けた日の翌日から3か月です(77条1項)。平成28年4月の改正までは、税務署長への不服申立てを「異議申立て」と呼んでいましたが、現在の名称は再調査の請求です。FAQ問30のとおり、更正などの不利益処分には理由が附記されるので、争う論点が書面で特定されます。
更正の請求(23条1項)は、申告した税額が過大だったと自分で主張する手続きで、法定申告期限から原則5年以内に、事実を証明する書類を添えて行います。更正の請求では、請求の理由となる事実を証明する書類の提出が必要です。指摘に納得できない場合は、修正申告前に、更正を受けて不服申立てをする方法との違いを確認してください。
判断の基準は、指摘の性質で分けると明確になります。
- 修正申告に応じる:売上の計上漏れ、経費の二重計上、計算誤りなど、事実関係と税務上の誤りを確認し、指摘内容に納得できるもの
- 更正を受けて争う:役員給与や交際費の該当性、収益計上の時期、資産の評価など、事実認定や法令の解釈で見解が分かれる指摘
1回の調査で両方の指摘が出た場合、争いのない部分だけ修正申告をし、争う部分は更正を受けることもできます。修正申告の手続きそのものは修正申告の仕組みの記事を参照してください。
加算税の割合が変わるタイミング
過少申告加算税(65条)は、修正申告をした時点によって割合が変わります。区切りは、税目と対象期間の通知(65条6項の「調査通知」)と、調査で更正があると予知したかどうかの2つです。
| 修正申告の時点 | 過少申告加算税 | 根拠 |
|---|---|---|
| 調査通知の前(更正の予知なし) | 課されない | 65条6項 |
| 調査通知の後・更正の予知前 | 5% | 65条1項括弧書 |
| 更正の予知後・更正 | 10% | 65条1項 |
表のうち過少申告加算税が課される場合は、増えた税額が期限内申告税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分に、さらに5%が加算されます(65条2項)。また、令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するものでは、調査で売上に関する帳簿の提示・提出を求められて応じなかった場合や、売上金額の記載等が本来の額の2分の1未満の場合は10%、2分の1以上3分の2未満の場合は5%が加算されます(65条4項)。ただし、納税者の責めに帰すべき事由がない場合は除かれます。
つまり、事前通知の電話で税目と期間を告げられた時点で、加算税が課されない段階は終わります。申告誤りに気づいているなら、通知の前に修正申告を済ませるのが最も負担の少ない選択です。延滞税を含めた追徴額の計算は追徴課税の計算例の記事、仮装・隠蔽があった場合の重加算税は過少申告加算税の課税要件の記事で扱っています。
よくある質問
税務調査は何日かかりますか?
法令上の決まりはなく、事前通知の時点でも日数は知らされません(FAQ問19)。国税庁の資料では、個人の特別調査は1件あたり10日以上を目安としており、短期間で終える着眼調査もあります。臨場が複数回になる場合は、調査開始後に次回の日程を調整します。
事前通知を書面でもらうことはできますか?
納税者の希望で書面が交付されることはありません。通知は原則電話で行われ、電話での通知が困難な場合に限り、税務当局の判断で書面によって通知することがあります(FAQ問12)。
顧問税理士がいる場合、事前通知は誰に来ますか?
納税義務者と税務代理人の両方に通知されるのが原則です(74条の9第1項)。納税義務者の同意があり財務省令で定める場合に当たれば、税理士への通知だけで足ります(同条第5項)。
税務調査で問題がなかった場合、何か連絡は来ますか?
実地の調査であれば、「更正決定等をすべきと認められない」旨の書面が届きます(74条の11第1項)。来署や電話による調査にはこの規定が適用されません。
修正申告をした後で誤りに気づいたらどうすればよいですか?
修正申告は自分の申告なので不服申立てはできませんが、法定申告期限から原則5年以内であれば更正の請求ができます(FAQ問26・国税通則法23条)。正しいと考える税額と理由を更正の請求書に書き、事実を証明する書類を添えて提出します。