税務署から調査の連絡が来たとき、最初に迷うのが税理士に立ち会いを頼むかどうかです。結論から言うと、税理士の立ち会いは法律上の義務ではありません。ただし、税理士は税理士法2条1項1号の「税務代理」として、調査に関する主張や陳述を本人に代わって行えます。家族や記帳を手伝っている人がこの役割を担うことは、原則としてできません。
この記事では、税理士に任せられる範囲と本人が答えるべき部分、事前通知や結果説明を税理士に一本化する手続き、当日同席できる人、書面添付制度と意見聴取、立ち会い費用の見方を、国税庁のFAQと条文で確認します。調査全体の流れは事前通知から終了手続きまでの解説で扱っています。
まとめ:税務調査の税理士立ち会いで押さえる要点
- 税理士の立ち会いは義務ではなく、本人だけで調査を受けることもできます。
- 税理士が代わりにできるのは、調査に関して税務署に対して行う「主張若しくは陳述」の代理です(税理士法2条1項1号)。取引の事実を知っているのは本人なので、本人への質問がなくなるわけではありません。
- 税務代理権限証書(税理士法30条)に同意を書いておけば、事前通知(国税通則法74条の9第5項)と調査結果の説明(74条の11第4項)を税理士に一本化できます。
- 税理士でない家族や記帳補助者が本人に代わって主張・陳述することは、原則としてできません。単なる同席も、守秘義務に抵触するおそれがあれば断られます。日頃記帳を担当している人は、調査担当者が必要と認めた範囲で同席できることがあります(国税庁FAQ問33)。
- 申告書に書面添付(税理士法33条の2)があり、権限証書を出している税理士がいれば、日時・場所を事前に通知する調査の前に、税理士が意見を述べる機会があります(35条1項)。その結果、調査に移行しないこともあります。
- 税理士の報酬に公的な基準額はありません。立ち会い日当・事前準備・修正申告を分けて見積もりを取ります。
税理士の立ち会いは義務ではない:依頼を判断する基準
法律上の位置づけ:税務調査の立ち会いは任意の税務代理
国税通則法にも税理士法にも、税務調査に税理士を同席させなければならないという規定はありません。税理士法が定めているのは、税理士が依頼を受けて代理をするときの手続きです。代理をするなら、権限を証する書面(税務代理権限証書)を税務署に出さなければなりません(30条)。
税理士法2条1項1号は、税務代理を「税務官公署の調査若しくは処分に関し税務官公署に対してする主張若しくは陳述につき、代理し、又は代行すること」と定めています。立ち会いはこの代理の一部です。本人が自分で説明する場合は代理ではないので、税理士がいなくても調査は進みます。
依頼したほうがよいケースと自分で受けられるケース
判断の軸は、争点の有無と、本人が数字の根拠を説明できるかどうかです。
| 状況 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 無申告の年がある | 依頼する | 期限後申告と加算税の整理が必要 |
| 売上の計上漏れに心当たりがある | 依頼する | 修正申告の範囲を先に固める |
| 帳簿や領収書が欠けている | 依頼する | 推計の妥当性を争う場面がある |
| 経費か私用かで判断が割れる支出が多い | 依頼する | 税法上の根拠を示して説明する |
| 顧問税理士が申告書を作っている | 顧問に相談 | 申告の経緯を一番知っている |
| 記帳が正確で、取引も単純 | 自分で受けられる | 事実の説明で足りることが多い |
迷う場合は、事前通知を受けた時点で税理士に一度相談し、当日の立ち会いまで頼むかを決めても間に合います。国税庁FAQ問16は、事前通知の際に「納税者の方や税務代理人の方のご都合をお尋ね」し、事務の繁閑にも配慮して日時を調整するとしています。事前通知を受けた後でも、合理的な理由があれば日時の変更を協議できます(国税通則法74条の9第2項・FAQ問16)。事前通知を受けたときの最初の対応は調査の通知を受けたときの解説にまとめています。
税理士が立ち会うメリット:任せられる範囲と本人が答える部分
事前通知を税理士に一本化する同意(国税通則法74条の9第5項)
実地の調査の事前通知は、納税者と税務代理人の両方に行われます(74条の9第1項)。ここでいう税務代理人は、税務代理権限証書を出している税理士・税理士法人と、税理士法51条の通知をした弁護士等です(同条3項2号)。
納税者が同意していれば、事前通知は税務代理人にだけ行えば足ります(同条5項)。国税庁FAQ問14によると、この同意は税務代理人が出す税務代理権限証書に記載します。記載がなければ、納税者と税務代理人の双方に通知が来ます。税理士が複数いる場合は、権限証書で代表する税務代理人を定めておけば、その1人への通知で足ります(同条6項・FAQ問15)。
当日の主張・陳述の代理と、本人が答える部分
当日、税理士は調査官の指摘に対して、税法上の取扱いを説明したり、反論したりできます。経費の判断や計上時期のように解釈が分かれる論点で、調査官の否認に対して条文や通達を示して反論する場面が、この代理が最も効く場面です。
一方、取引の相手は誰か、その支出は何のためか、といった事実を知っているのは本人や経理担当者です。税理士が代わりに推測で答えることはできないので、事実の確認が必要な場面では本人への質問が残ります。「税理士に丸投げすれば本人は何もしなくてよい」とは考えず、少なくとも初日の概況説明と事実確認の場面には、本人か経理責任者が対応できる日程を組んでください。
調査結果の説明と修正申告の勧奨を税理士が受ける(74条の11第4項)
調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合は、その額と理由が説明され、修正申告を勧奨されることがあります。納税者の同意があれば、この通知・説明・書面の交付を税務代理人に対して行えます(74条の11第4項)。
国税庁FAQ問27によると、結果の説明は原則として納税者本人に行い、同意があれば税務代理人だけに説明することもあります。令和6年4月1日以後は、税務代理権限証書の様式に「調査の終了の際の手続に関する同意」欄が設けられました。権限証書を作ってもらう段階で、事前通知の同意欄とあわせて記載を確認しておくと手続きが一本化できます。国税庁は令和8年9月24日以降に書面で提出する権限証書について同日以降用の様式を掲載しているので、最新の様式で同意欄を記入してもらってください。修正申告に応じるかどうかの判断は修正申告の仕組みの解説で扱っています。
立ち会い当日の顔ぶれ:同席できる人と調査官の人数
家族・記帳補助者の同席(国税庁FAQ問33)
税理士に依頼していない場合でも、日頃記帳を手伝ってくれている人に立ち会ってほしいことがあります。国税庁FAQ問33は、本人に代わって調査について主張・陳述を行うことは税務代理行為に当たるため、原則として税務代理人しかできないとしています。
単に同席するだけの場合も、第三者がいる状態で調査を行うことで調査担当者の守秘義務に抵触するおそれがあるときは、税務代理人以外の第三者の立会いは断るとしています。ただし、その人が日頃から記帳事務を担当している場合は、調査を円滑に進めるため、調査担当者が必要と認めた範囲で同席できることがあります。同席できても、本人の代わりに主張する役割は担えません。なお、法人の役員や経理担当者は、会社側の当事者として調査に対応する立場にあります。民主商工会の事務局員の立会いをめぐる問題は民商と税務調査の解説で扱っています。
弁護士の立ち会いと、税理士でない者の代理(税理士法51条・52条)
弁護士は、所属弁護士会を経て国税局長に通知すれば、その国税局の管轄区域内で税理士業務を行えます(税理士法51条1項)。この通知をした弁護士は国税通則法上の税務代理人に含まれるので、調査に立ち会って代理できます。税理士登録をしている弁護士は、税理士として代理できます。
税理士・税理士法人でない者は、税理士法に別段の定めがある場合を除き、税理士業務を行ってはなりません(52条)。経営コンサルタントや資格のない「税務調査の専門家」が調査で代理することは、報酬の有無にかかわらずこの規定に反します(税理士法基本通達2-1は「業とする」に有償であることを要しないとしています)。
調査官の人数:事前通知のある調査なら人数の連絡がある
何人の調査官が来るかも、事前通知でおおよそ分かります。国税庁FAQ問19は、調査開始日時に複数の調査担当者が臨場する場合は、事前通知の際に代表者の氏名・所属官署に加えて「臨場予定人数も併せて連絡する」としています。複数で臨場する場合に人数を連絡するという運用なので、連絡がなければ1人で来ることが多いと考えられます。ただし、事前通知をせずに臨場する調査もあり(国税通則法74条の10・FAQ問20)、その場合は当日まで分かりません。事前通知なしに臨場された場合は、顧問税理士に連絡し、到着まで待ってもらえないか調査官に申し出てください。法令上の権利として待たせられるものではないので、あくまで依頼です。調査に要する日数も「調査開始後の状況により異なって」くるため、事前通知の時点で「あらかじめお知らせすることは困難」とされています。税理士の日当を見積もるときは、この不確定さを前提にしてください。
書面添付制度と意見聴取:調査の前に税理士が説明する機会
税理士法33条の2の書面添付と35条1項の意見聴取
税理士は、作成した申告書に、計算・整理・相談に応じた事項を記載した書面を添付できます(33条の2第1項)。他人が作った申告書を審査し、法令の規定に従って作成されていると認めたときは、審査した事項を記載した書面を添付できます(同条2項)。
この書面が添付された申告書について、日時と場所を事前に通知して調査する場合、税務署はその通知をする前に、税務代理権限証書を出している税理士に、添付書面の記載事項について意見を述べる機会を与えなければなりません(35条1項)。立ち会いが調査当日の対応なのに対し、意見聴取は調査に入る前の段階で税理士が説明できる手続きです。国税庁の令和6年度事務年報によると、税理士が関与した申告のうち書面が添付された割合は、所得税1.5%、相続税24.6%、法人税10.2%です。所得税の申告ではほとんど使われておらず、相続税では約4件に1件で添付されています。
意見聴取の結果、調査に移行しない場合の通知
国税庁の事務運営指針「法人課税部門における書面添付制度の運用に当たっての基本的な考え方及び事務手続等について」(令和8年9月17日改正。個人課税部門にも同じ趣旨の指針があります)は、意見聴取の結果、調査の必要がないと認められた場合は、税理士に「現時点では調査に移行しない」旨を、原則として「意見聴取結果についてのお知らせ」の送付で連絡するとしています。調査に移行する場合は、納税者への調査通知の前に、税理士へ電話で連絡します。
ただし、同じ指針の注記は、この連絡が「その後に申告書の内容等に対する新たな疑義が生じたときに、調査することを妨げるものではない」としています。書面添付は調査を受けないための保証ではありません。それでも、調査に入る前に税理士が説明する場が法律で確保される点で、立ち会いより前の段階に効く手段です。顧問税理士を選ぶときは、書面添付に対応しているかを確認してください。
税理士の立ち会い費用:公的な基準額はない
費用の内訳と公表されている目安
税理士会が定めていた報酬規定は、2002年(平成14年)4月1日施行の改正税理士法で廃止されました。日本税理士会連合会は、その後は税理士が「自由な意思のもと自己責任と説明責任に基づいて報酬を算定」するとしています。国税庁や税理士会が定める基準額はありません。費用は次の3つに分かれるのが一般的です。
- 事前準備:帳簿の確認、想定される質問への準備
- 立ち会い:調査当日の日当(調査日数に比例)
- 事後対応:修正申告書の作成、追加資料の提出
公表されている目安の幅は広く、辻・本郷税理士法人の解説では立ち会いが1日あたり3〜6万円程度、事前準備が3〜6万円程度、修正申告が5〜20万円程度です。税理士紹介センタービスカスの解説は、立ち会い日当を事務所の規模で分け、小規模3万〜5万円程度から大規模8万〜15万円程度としています。総額では、辻・本郷税理士法人が調査は2日かかることが多いとして立ち会い分を合計6〜12万円程度、ビスカスが簡易な案件で10万〜30万円程度としています。いずれも事務所や紹介会社の掲載例であって、統計ではありません。
顧問契約とスポット依頼で見積もりを比べるときの確認項目
顧問税理士がいる場合でも、立ち会いが顧問料に含まれるかは契約次第です。スポットで依頼する場合は、申告書を作っていない税理士が短期間で帳簿を読み込むため、事前準備の費用がかさみやすくなります。辻・本郷税理士法人の解説も、顧問税理士なら事前準備の部分を把握済みのため費用が安くなることが多い一方、顧問税理士がいる場合でも税務調査は顧問料とは別に料金が発生するのが一般的としています。見積もりでは次の点を確認してください。
- 日当の対象が1日単位か半日単位か、調査が延びたときの扱い
- 事前準備の費用が日当とは別か
- 修正申告書の作成と、追加資料の提出対応が含まれるか
- 追徴税額の減少に応じた成功報酬があるか、その計算方法
- 税務代理権限証書の提出と、同意欄(事前通知・調査終了の手続き)の記載を引き受けるか
税理士に頼めないこと:立ち会いで失敗するパターン
税理士に頼めば追徴税額を減らせる、と期待しすぎるのは危険です。税理士は、不正に税を免れることについて指示や相談に応じてはならず(税理士法36条)、依頼者が事実を隠したり仮装したりしていることを知ったときは、直ちに是正するよう助言しなければなりません(41条の3)。故意に真正の事実に反して税務代理をした税理士は、2年以内の業務停止または業務禁止の処分を受けることがあります(45条1項)。
そのため、次のような頼み方は通りません。
- 売上の除外を把握したうえで「調査官に見つからないよう説明してほしい」と頼む
- 税理士に知らせていない現金売上や別口座を、当日まで伏せておく
- 事実関係を税理士に任せきりにし、本人が帳簿の中身を説明できない
税理士が力を発揮できるのは、事実をすべて共有したうえで、どこまでが税法上認められ、どこからが修正の対象かを整理する場面です。税理士には守秘義務がある(38条)ので、不利な事実ほど事前の打ち合わせで先に伝えてください。調査中のやり取りを録音したい場合の注意点は税務調査の録音の解説で扱っています。
税務調査に強い税理士の選び方:依頼前に確認する4点
- 調査対応の件数と業種:自社と同じ業種の調査に立ち会った件数を聞きます。業種ごとに調査官が見る項目が違うためです。
- 権限証書と同意欄の扱い:税務代理権限証書を提出し、事前通知と調査終了の手続きの同意欄まで記載してくれるか確認します。
- 書面添付への対応:顧問として継続して依頼するなら、33条の2の書面添付に対応しているかを確認します。
- 事後対応までの範囲:修正申告書の作成、更正に納得できない場合の再調査の請求・審査請求まで対応するかを確認します。
税務署から取引先への確認(反面調査)が入る可能性がある場合は、反面調査の根拠条文と対応もあわせて確認しておくと、税理士との打ち合わせが進めやすくなります。調査が終わった後の待ち方は税務調査の結果が出るまでの解説にまとめています。
よくある質問
税務調査に税理士の立会いは必ず必要ですか?
必要はありません。税理士の立ち会いは法律上の義務ではなく、本人だけで調査を受けることもできます。争点がある場合や帳簿が欠けている場合は、事前通知を受けた段階で相談してください。
税理士に任せれば、本人は調査に同席しなくてよいですか?
税理士が代理できるのは税務署に対する主張・陳述で、取引の事実を説明できるのは本人や経理担当者です。事実確認の場面では本人への質問が残るので、本人か経理責任者が対応できる日程を組んでください。
家族や記帳を手伝っている人に立ち会ってもらえますか?
本人に代わって主張・陳述することは、原則としてできません。国税庁FAQ問33は、守秘義務に抵触するおそれがある場合は第三者の立会いを断るとしつつ、日頃記帳事務を担当している人は調査担当者が必要と認めた範囲で同席できることがあるとしています。
弁護士に税務調査の立ち会いを頼めますか?
頼めます。ただし、税理士登録をしている弁護士か、所属弁護士会を経て国税局長に通知した弁護士(通知先の国税局の管轄区域内に限る。税理士法51条1項)であることが条件です。通知をした弁護士は、事前通知や調査結果の説明を受ける税務代理人にもなれます。
税務調査の立ち会い費用の相場はいくらですか?
公的な基準額はありません。税理士事務所や紹介会社の掲載例では立ち会い日当が1日3万〜15万円程度と幅があり、事前準備と修正申告は別料金のことが多いです。日当・事前準備・事後対応を分けて見積もりを取ってください。