物販・受託業務・コンテンツ販売などの副業が赤字になったとき、その赤字を給与所得から差し引いて税金を減らせるのは、副業の所得が「事業所得」に当たる場合だけです。ブログや営利目的のフリマ転売、受託仕事も、実態により「業務に係る雑所得」に区分される場合があり、雑所得の赤字は給与と相殺できずに切り捨てられます。不動産賃貸の赤字は不動産所得として別の扱いになるため、この記事では対象外とします。
この記事では、令和8年分(2027年3月に申告する分)の税制で、損益通算できる条件、赤字50万円による所得税・住民税の減少額の試算、事業所得と認められなかった裁判例、住民税と勤務先への影響を順に整理します。
まとめ:副業の赤字で税金が減る条件と減る額
- 物販・受託などの副業で給与と損益通算できるのは、事業所得の赤字だけです(所得税法69条1項)。業務に係る雑所得の赤字はゼロとして扱われ、給与とは相殺されません。
- 事業所得か雑所得かは、収入規模や営利性・継続性などの実態を総合して判断され、帳簿書類の保存も確認されます(所得税基本通達35-2の注)。帳簿があっても、収入が例年300万円以下で給与など主たる収入の10%未満なら、事業かどうかは個別に判断されます。
- 税負担の減少額は、通算前後の税額の差です。税率や控除額が変わらない場合の概算例では、赤字50万円なら、年収500万円の会社員で所得税・住民税あわせて約7万5,500円、年収800万円で約15万2,100円です。赤字の8〜7割は税負担の減少では埋まりません。
- 収入が経費のごく一部にとどまり、生活費を給与でまかなっている副業は、裁判でも事業所得と認められていません。否認されると過大な還付額の返納が必要となり、過少申告加算税が課される場合もあります。
- 給与などと損益通算しても残る純損失は、青色申告者なら原則として翌年以後3年間繰り越せます。白色申告でも変動所得や被災事業用資産の損失には例外があります。損益通算すると住民税の特別徴収額が下がるため、勤務先に気づかれる可能性があります。
副業の赤字を給与と相殺できる所得区分
損益通算できる4つの所得と雑所得の赤字の扱い
所得税法69条1項で他の所得と相殺(損益通算)できる赤字は、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の4つに限られます。雑所得は入っていないため、雑所得が赤字になってもその年の雑所得はゼロとして計算され、給与所得は減りません。
ただし、総合課税の雑所得同士では内部通算ができます。申告分離課税の先物取引に係る雑所得等とは通算できません。たとえば業務に係る雑所得のアフィリエイトが10万円の赤字で、同じ雑所得のフリマ転売が15万円の黒字なら、雑所得は5万円です。事業所得も同じで、2つの事業を営んでいれば合算して1つの事業所得を計算します。損益通算の順序や申告書第四表の書き方は損益通算とは?対象は4所得だけ|通算の順序と第四表の書き方をわかりやすく解説で扱っています。
| 副業の区分 | 給与との損益通算 | 赤字の繰越 | 青色申告特別控除 |
|---|---|---|---|
| 事業所得(青色) | できる | 3年 | あり |
| 事業所得(白色) | できる | 原則なし | なし |
| 業務に係る雑所得 | できない | なし | なし |
事業所得か雑所得かを分ける基準と通達35-2
事業所得に当たるかどうかは、最高裁昭和56年4月24日判決が示した「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務」かどうかで判断されます。開業届を出しただけで事業所得になるわけではありません。
国税庁は令和4年8月に所得税基本通達35-2の改正案を公表し、7,059通の意見を受けて内容を修正したうえで、同年10月7日に確定させました。現行の注は次のとおりです。
事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(資産(山林を除く。)の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得)に該当することに留意する。
判定の原則は「社会通念上、事業と認められる活動か」です。帳簿の保存も判断材料ですが、「収入300万円以下なら雑所得」という意味ではありません。300万円は、帳簿がなくても事業所得と認められうる例外側の条件です。逆に、帳簿をつけていても事業の実態がなければ雑所得とされます。
国税庁が通達の改正と同時に公表した「業務に係る雑所得」の例示等に関する解説では、帳簿を保存していても事業と認められるかを個別に判断する場合として、次の2つを挙げています。
- 収入金額が僅少:例年(概ね3年程度)、収入金額が300万円以下で、主たる収入に対する割合が10%未満
- 営利性が認められない:例年赤字で、収入を増やす、あるいは黒字にするための営業活動などをしていない
年収500万円の会社員なら、副業の収入が年50万円未満の状態が3年ほど続くと「僅少」の例に当てはまります。副業収入の区分と雑所得の計算は副業の雑所得はいくらから確定申告?20万円ルールと控除・事業所得の区分【令和8年分】が詳しく扱っています。
赤字50万円による税負担の減少額:年収500万円の試算で約7万5,500円
損益通算による税負担の減少額は、通算前の税額と通算後の税額の差です。赤字全額に同じ税率が適用され、控除額も変わらない場合は、赤字額に税率を掛けて概算できます。令和8年分の給与所得控除・基礎控除(合計所得489万円以下は104万円、489万円超655万円以下は67万円)で計算すると、事業所得の赤字50万円の効果は次のとおりです。社会保険料は年収の15%と仮定し、ほかの所得控除や税額控除は入れていません。表は税負担の減少額の概算で、所得税の減少額は100円単位に丸めています。実際の還付額は源泉徴収税額などで変わります。
| 項目 | 年収500万円 | 年収800万円 |
|---|---|---|
| 給与所得 | 356万円 | 610万円 |
| 課税所得(赤字なし) | 177万円 | 423万円 |
| 課税所得(赤字50万円) | 127万円 | 373万円 |
| 所得税の税率 | 5% | 20% |
| 所得税(復興税込み)の減少 | 25,500円 | 102,100円 |
| 翌年度住民税の減少 | 50,000円 | 50,000円 |
| 税負担の減少合計 | 75,500円 | 152,100円 |
| 減少で埋まらない額 | 424,500円 | 347,900円 |
年収500万円の試算では、赤字50万円に対する税負担の減少は約15%で、差額は約42万4,500円です。ただし、税務上の赤字には減価償却費なども含まれるため、この差額がその年の現金減少額と一致するとは限りません。住民税の減少分は翌年6月からの住民税で反映されるため、所得税の還付と時期もずれます。
「赤字の副業で節税」という説明は、この比率を見ると成り立ちません。上の2例では、税負担の減少額が赤字額を大きく下回るからです。ただし、基礎控除額が切り替わる境界をまたぐ場合には、少額の経費増加に対して、それを上回る税負担の減少が生じることがあります。損益通算が意味を持つのは、売上を伸ばす途中で赤字になった年の負担を和らげる場面であって、赤字そのものを作る理由にはなりません。
例外は合計所得が489万円をわずかに超える人です。赤字で合計所得が489万円以下に下がると、所得税の基礎控除が67万円から104万円に増え、還付額が上の表より大きくなります。この境界の影響は年収500万円の個人事業主の税金は59万7,000円|令和8年分の手取りと489万円の崖で計算しています。
赤字の副業が事業所得と認められなかった判決2件
給与所得者が副業の赤字を事業所得として給与と通算し、税務署に更正された事件は、国税庁の税務訴訟資料で原文を読めます(税務訴訟資料第271号-43(判決原文)、税務訴訟資料第266号-13(判決原文))。どちらも横浜地裁で納税者が敗訴し、雑所得と判断されました。
医師の洋画制作販売における事業性の否認(横浜地裁 令和3年3月24日判決)
医療法人から年1億円を超える給与を受けていた医師が、洋画の制作と販売の損失を事業所得として、平成25年分から28年分まで給与と損益通算した事件です(税務訴訟資料第271号-43)。平成25年分は収入3,600円に対し必要経費1,536万1,886円でした。判決は、個展を開き、アトリエを持ち、自分の費用で活動していた点は認めつつ、毎年収入を大幅に上回る経費が投じられて収益が全く生じていないこと、生活の糧が給与で賄われていたことなどから、事業所得には当たらないとしました。
基地勤務者の鍛冶・猟銃製造における事業性の否認(横浜地裁 平成28年2月3日判決)
基地で週40時間消防業務に就き、年800万円以上の給与を得ていた人が、鍛冶と猟銃製造の業務で毎年400万円台から500万円台の損失を計上した事件です(税務訴訟資料第266号-13)。平成23年から25年の鍛冶の収入は順に0円、1万4,000円、3万5,240円で、猟銃は製造も販売もしていませんでした。判決は、宣伝広告をせず特定の取引先もなく、給与の仕事がないときに行っているにすぎないとして、事業所得に当たらないと判断しています。
2件に共通するのは、収入が経費の数%以下で、生活費を給与でまかなっていた点です。経費の額や作業時間の長さは、それだけでは事業と認められる理由になっていません。どちらの事件でも、還付を受けた税額の返納に加えて過少申告加算税が課されています。加算税と延滞税の計算は追徴課税とは?加算税・延滞税の税率と本税50万円の計算例【令和8年】を参照してください。
赤字でも確定申告が必要になる場合
給与収入が2,000万円以下で、1か所の給与が源泉徴収の対象となり、給与・退職所得以外の所得の合計が20万円以下なら、原則として所得税の確定申告は不要です(所得税法121条1項)。副業が赤字なら給与以外の所得は20万円以下の側に入るため、ほかに申告が必要な事情がなければ申告義務はありません。
それでも申告が必要、または申告しないと損をするのは次の場合です。
- 事業所得の赤字を給与と損益通算したい:還付は確定申告をしないと受けられません。義務のない還付申告は、翌年1月1日から5年間提出できます。
- 青色申告で赤字を翌年以降に繰り越したい:赤字の年に申告書を出していないと繰越控除は使えません(次の章)。
- インボイス発行事業者に登録している:所得が赤字でも原則として消費税の申告が必要です。ただし、国内の課税資産の譲渡等と特定課税仕入れがなく、納付税額もない場合は申告義務がありません。
- 副業以外に申告が必要な事情がある:給与が2か所あり申告要件に該当する、医療費控除を申告で受けたいなど。給与が2か所あるだけで必ず申告義務が生じるわけではありません。2か所給与の扱いはダブルワーク・副業の確定申告|乙欄で引かれた所得税が戻る条件と還付金の振込時期で扱っています。
令和8年分の確定申告期間は2027年2月16日から3月15日までです。所得税の確定申告書を出すと、住民税の申告書も同じ日に出したものとみなされる(地方税法317条の3)ため、損益通算した結果はそのまま翌年度の住民税にも反映されます。
副業の純損失を繰り越す条件と原則3年の控除期間
その年の給与と通算しても引ききれない赤字(純損失)は、青色申告者であれば原則として翌年から3年間繰り越せます(所得税法70条1項)。白色申告では、繰り越せるのは変動所得の損失と被災事業用資産の損失に限られます。雑所得の赤字は繰り越せません。
繰越には条件があります。赤字が出た年分の確定申告書を提出し、その後も連続して確定申告書を提出していることです(同条4項)。翌年が黒字で申告不要の範囲でも、繰越を使うなら申告を続ける必要があります。
青色申告をするには「青色申告承認申請書」を、適用を受けたい年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した場合は開業日から2か月以内)に税務署へ出します(所得税法144条)。開業届(所得税法229条)は、令和8年1月1日以後の開業分から提出期限がその年分の確定申告期限までに改められたため、締切が青色申請と別になった点に注意してください。
副業の赤字申告で会社に知られる経路
赤字を給与と損益通算すると、翌年度の住民税が下がります。会社員の住民税は会社が給与から天引き(特別徴収)しており、市区町村から会社へ届く税額決定通知書の金額が、給与だけで計算した額より低くなります。勤務先向けの通知書には所得や控除の内訳は記載されません。税額の差から副業を疑われる可能性はありますが、減額だけで副業の赤字があるとは特定できません。
副業が黒字の場合は、確定申告書の住民税欄で「自分で納付(普通徴収)」を選べば、副業分の住民税を会社の天引きから外せます。ところが地方税法321条の3第2項で普通徴収にできるのは「給与所得以外の所得に係る所得割額」だけです。赤字の副業にはこの所得割額がなく、下がるのは給与分の住民税そのものなので、普通徴収を選んでも隠せません。
就業規則で副業を禁止している会社では、損益通算による還付と勤務先に知られるリスクを比べて判断することになります。前掲の試算条件では、年収500万円・赤字50万円による税負担の減少は約7万5,500円で、所得税等の減少約2万5,500円と翌年度住民税の減少5万円の合計です。
副業の赤字に計上できる経費・できない経費
赤字の額は収入と必要経費の差で決まります。収入の計上漏れがないか確認するとともに、経費の業務上の必要性を説明できる記録を保存してください。自宅家賃、スマートフォン代、車両費のように私生活と共用する支出(家事関連費)は、業務に必要な部分を明確に区分できる場合に限り、その部分だけを経費にできます(所得税法施行令96条)。所得税基本通達45-2は、業務に必要な部分が支出の50%を超えるかで判定し、50%以下でも明らかに区分できればその部分を経費にしてよいとしています。区分の根拠は、作業スペースの床面積比や業務での使用時間など、後から説明できる数字で残してください。
- 経費にしにくいもの:家族旅行を兼ねた「取材」、本業の会社で使う物品、副業と関係の薄い書籍やセミナー、私的な飲食。
- 証拠の残し方:クレジットカードの利用明細は支払った事実は示しますが品目が分からないため、品目の分かる領収書や納品書とあわせて保存します。
- 高額な機材:パソコンなど10万円以上の資産は原則として耐用年数で分けて経費にします。青色申告者なら少額減価償却資産の特例で一括計上できる範囲があり、2026年4月1日以後の取得分は上限が40万円未満に上がりました(少額減価償却資産とは?40万円特例はいつからか、10万円・20万円との使い分けとパソコンの判定を解説)。
開業初年度の設備投資による一時的な赤字と、判決で問題になった長年の赤字や収益改善の見込みの乏しさは、区別して判断する必要があります。通常の減価償却では取得費を使用期間に配分しますが、それだけで事業所得と認められやすくなるわけではありません。機材が売上につながる用途、受注実績、収益改善の計画を記録してください。
赤字が続く副業を続けるか見直す判断基準
「何年赤字が続いたら事業所得と認められなくなる」という年数の基準は、法律にも通達にもありません。判決が重視したのは、相当期間にわたって安定した収益を得られる見込みがあるかどうかで、国税庁の解説も「例年」を概ね3年程度として個別判断の目安を示しています。次のどれかに当てはまる副業は、事業所得として赤字を申告し続ける前に区分を見直してください。
- 取引を帳簿に記録していない、または記録した帳簿を保存していない
- 例年赤字で、収入を増やす営業活動や黒字化への具体的な取組をしていない
- 収入が例年300万円以下で、給与など主たる収入の10%に届かない
当てはまる場合は、収入規模、営業活動、帳簿保存などから所得区分を再確認してください。所得区分は任意に選べないため、判断が難しければ税務署や税理士に具体的な事実を示して確認します。事業所得を生ずべき事業を廃止するときは、税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書」を提出します。業務に係る雑所得の副業をやめるだけなら、この届出の対象ではありません。
よくある質問
副業でマイナスになったら税金はどうなりますか?
事業所得の赤字は給与所得と損益通算できます。通算後の所得税額より源泉徴収税額などが多ければ差額が還付され、翌年度の住民税も所得割が減る場合があります。業務に係る雑所得の赤字は、所得税法69条の損益通算で給与から差し引くことはできません。ただし、副業報酬から所得税が源泉徴収されていれば、申告で還付を受けられる場合があります。
副業が赤字でも確定申告は必要ですか?
給与収入が2,000万円以下で、源泉徴収の対象となる給与を1か所から受け取り、給与・退職所得以外の所得の合計が20万円以下なら、ほかに申告が必要な事情がない限り、所得税の確定申告は不要です。ただし、事業所得の赤字を給与と通算して還付を受けたい場合と、青色申告で赤字を繰り越したい場合は確定申告が必要です。インボイス登録者は原則として消費税の申告も必要ですが、取引や納付税額がない場合の例外は国税庁「No.6605 納付税額がないときの確定申告」で確認できます。
副業の赤字を申告するデメリットは何ですか?
主に2つです。事業所得と認められず雑所得に更正されると、過大な還付額の返納が必要となり、過少申告加算税や延滞税が生じる場合があります。手続と負担の扱いは国税庁「申告と納税」で確認できます。また、住民税の特別徴収額が下がるため、勤務先に給与以外の所得があると気づかれる可能性があり、普通徴収を選んでも防げません。
副業の収入が20万円を超えたらどうなりますか?
20万円は収入ではなく、収入から経費を引いた所得の金額で判定します。給与が1か所で年末調整を受けている会社員は、副業の所得が20万円を超えると所得税の確定申告が必要です。住民税にはこの20万円の申告不要ルールがない点も押さえておいてください。
個人事業主として赤字がずっと続いても大丈夫ですか?
赤字が続くこと自体は違法ではありませんが、収入が経費のごく一部しかなく生活費を給与でまかなっている状態が続くと、事業所得と認められなくなるおそれがあります。横浜地裁の2件の判決はいずれもこの状態で雑所得と判断されています。