創業から10年、20年と税務調査を受けていない会社は珍しくありません。国税庁の統計では法人税・消費税の実地調査は年間5万4千件で、法人数346万に対しておよそ1.6%にあたります。単純に割れば1社あたり60年強に1回という頻度です。この記事では、調査が来ない状態をどう読むべきか、来ない会社に共通する条件は何か、そして実際に税務署が会社に来るときに何が通知されるのかを、国税庁の公表資料と国税通則法の条文から整理します。
まとめ|調査が来ない会社が押さえる3点
- 来ないこと自体は例外ではありません。令和6事務年度の法人税・消費税の実地調査は5万4千件、法人数は346万法人です。10年以上来ていない会社が多数派になる計算です。
- 実地調査が来なくても接触はあります。同年度の法人税・消費税の「簡易な接触」は8万5千件で、実地調査より多い件数です。書面照会や電話連絡はこちらに含まれます。
- 来るときは原則として事前に通知されます。国税通則法74条の9と同施行令30条の4により、開始日時・場所・目的・税目・期間・対象帳簿・調査官の氏名など計11項目が通知されます。任意調査で無予告となるのは74条の10に当たる場合です(令状に基づく査察は同法第11章の犯則事件の調査で、74条の9の適用外です)。
実地調査は年5万4千件|法人346万に対する実施の規模
国税庁が令和7年12月に公表した令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要によると、実地調査件数は5万4千件で前年比92.6%でした。申告漏れ所得金額の総額は8,198億円、追徴税額の総額は3,407億円で、追徴税額は直近10年で最高値です。
母数となる法人数は、同庁が令和7年10月に公表した令和6事務年度 法人税等の申告(課税)事績の概要で令和7年6月30日現在3,460千法人(清算中法人を除く)です。法人税の申告件数は3,220千件でした。
| 項目 | 令和5事務年度 | 令和6事務年度 | 対前年比 |
|---|---|---|---|
| 実地調査件数 | 59千件 | 54千件 | 92.6% |
| 非違があった件数 | 45千件 | 42千件 | 93.4% |
| うち不正計算があった件数 | 13千件 | 13千件 | 97.6% |
| 申告漏れ所得金額 | 9,741億円 | 8,198億円 | 84.2% |
| 追徴税額 | 3,197億円 | 3,407億円 | 106.6% |
| 調査1件当たりの追徴税額 | 5,497千円 | 6,342千円 | 115.4% |
この表は集計のベースが2系統に分かれます。実地調査件数と申告漏れ所得金額は、概要(法人税・消費税)と別表1のどちらにも同じ値で載ります。非違があった件数とうち不正計算があった件数は別表1(法人税)にだけ載る数字で、追徴税額と調査1件当たりの追徴税額は法人税と法人消費税の合計です。法人税分(加算税・地方法人税を含む)だけの追徴税額は別表1で2,187億円、調査1件当たりでは4,023千円になります。
1社あたり60年強に1回という計算
54千件を3,460千法人で割ると1.56%、申告件数3,220千件を母数にすると1.68%です。逆数をとれば、法人数ベースで約64年に1回、申告件数ベースで約60年に1回という計算になり、「10年来ていない」は統計的にごく普通の状態だと分かります。
この1.6%は法人税・消費税の実地調査に限った数字です。同じ資料は源泉所得税の実地調査を6万4千件と別に集計しており、そちらの非違があった件数は2万1千件です。源泉徴収の側からの接触は別枠で起きます。
また、この確率が全社に均等に配られるわけではありません。件数が減る一方で1件当たりの追徴税額が15.4%増えているのは、選別が効いている結果と読めます。調査の周期や時期の傾向は法人への税務調査はいつ来るのか?知っておきたい調査時期の目安やタイミングの傾向を詳しく解説、確率の統計は法人に税務調査が入る確率はどれくらい?中小企業における調査頻度・サイクルを統計データをもとに徹底解説で扱っています。
実地調査が来なくても行われる「簡易な接触」
調査が来ない=税務署に見られていない、ではありません。国税庁は実地調査とは別に「簡易な接触」を実施しており、令和6事務年度の法人税・消費税の簡易な接触は8万5千件で、実地調査の5万4千件を上回ります。
資料は簡易な接触の手段として、書面照会、電話連絡、来署依頼による面接の3つを挙げ、「申告内容に簡易な誤り等が想定される法人」に対して申告書の自発的な見直し・提出を要請するものと説明しています。注記には「無申告法人に対する申告書の提出要請のほか、税法の適用誤りの見直し要請などを含みます」とあります。税務署から届いた1通の照会文書は、実地調査ではないものの接触の一形態です。
公表資料の無申告法人の事例では、事業の稼働状況を照会する行政指導(書面照会)を再三無視した法人が実地調査に移行し、追徴税額約6千万円に至った経過が示されています。照会への無回答は、調査必要度を下げる方向には働きません。
調査が来ない状態について公表資料から読める範囲
国税庁は選定の基準そのものを公表していません。ただし選定の枠組みは示されています。同庁は「AIを活用した予測モデルにより調査必要度の高い法人を抽出し、予測モデルが判定した不正パターンに加え、申告書や国税組織が保有する様々な資料情報等を併せて分析・検討した後、調査官が調査実施の要否を最終的に判断しています」と説明しています。予測モデルの判定を図示した部分には「抽出・判定結果はイメージです」との注記が付いていますが、実際に公表された6件の事例表では、モデルが想定した不正パターンが売上・原価・経費の3区分で示されています。
公表事例では、AIが原価の不正パターンを判定した法人について調査官が決算書を分析し、不審な外注費が年々増加している点から取引実態のない外注費を把握して、追徴税額約3億6千万円に至っています。決算書の勘定科目の動きが分析対象になることは、資料から確認できます。
あわせて同庁は、消費税還付申告法人、海外取引法人等、無申告法人の3つを重点課題として位置付けています。裏を返せば、これらに当たらない法人は重点の対象から外れると読めます。ただし同庁が選定への影響を明言しているわけではありません。個人事業主も含めた選定基準の全体像は税務調査が10年以上来ない個人事業主・法人が知るべき選定基準の全体像にまとめています。
業種による差は「調査される割合」ではなく「不正が見つかる割合」
公表資料には不正発見割合の高い業種の一覧があります。ここは読み違えやすいところで、この数字は調査を受けた法人のうち不正計算が見つかった割合であり、その業種が調査される確率ではありません。
| 順位 | 業種目 | 不正発見割合 |
|---|---|---|
| 1 | バー・クラブ | 62.3% |
| 2 | その他の飲食 | 45.2% |
| 3 | 外国料理 | 40.2% |
| 4 | 美容 | 34.5% |
| 5 | 大衆酒場、小料理 | 34.4% |
| 6 | 自動車修理 | 32.9% |
| 7 | 船舶 | 31.0% |
| 8 | 土木工事 | 30.4% |
| 9 | 職別土木建築工事 | 30.1% |
| 10 | 中古品小売 | 30.1% |
飲食・接客業を中心に、現金取引や外注の多い業種が並びます。自社がここに含まれるなら、調査が来ていない期間が長くても帳簿の裏付けを厚くしておく実益は大きくなります。
地域差の実体|国税局別の公表はあるが選定基準ではない
「入りやすい地域がある」という言い方を見かけますが、今回参照した国税庁の公表資料に、地域を選定の基準とする記述はありません。同庁が挙げているのは資料情報等と申告書の分析による調査必要度の判定です。
一方で、調査事績は国税局ごとにも公表されています。令和6事務年度分についても、大阪国税局が令和7年12月2日付で自局分を公表しています。地域単位の件数の多寡は確認できますが、それは管内の法人数や業種構成を反映した結果であり、同じ会社が所在地によって選ばれやすくなることを示す資料ではありません。
税務代理人の有無|事前通知の宛先と税務代理権限証書
今回参照した国税庁の公表資料には、顧問税理士の有無を選定基準とする記述はありません。ただし手続面では違いが出ます。国税通則法74条の9第1項は、事前通知の相手方を「当該納税義務者(当該納税義務者について税務代理人がある場合には、当該税務代理人を含む。)」と定めており、税務代理人がいれば通知はそちらにも届きます。
同条3項2号は税務代理人を、税理士法30条の書面(税務代理権限証書)を提出している税理士・税理士法人などと定義しています。顧問契約があっても、この書面が提出されていなければ通知の相手方にはなりません。立ち会いを頼むかどうかの判断は税務調査に税理士の立ち会いは必要なのか?専門家不在で受けるリスクと対応の違いを徹底検証し詳しく解説!で整理しています。
税務署が会社に来るときに通知される11項目
実地の調査で質問検査等を行う場合、税務署長等はあらかじめ納税義務者に通知するものとされています。国税通則法74条の9第1項は「その旨及び次に掲げる事項を通知するものとする」と定めており、まず実地の調査において質問検査等を行う旨そのものが通知の対象です。続いて各号が挙げる事項は次の6つです。
- 調査を開始する日時
- 調査を行う場所
- 調査の目的
- 調査の対象となる税目
- 調査の対象となる期間
- 調査の対象となる帳簿書類その他の物件
残る7号は「その他調査の適正かつ円滑な実施に必要なものとして政令で定める事項」という委任の枠で、その中身を国税通則法施行令30条の4が次の4つと定めています。
- 調査の相手方である納税義務者の氏名及び住所又は居所
- 調査を行う当該職員の氏名及び所属官署(複数のときは代表する者の氏名及び所属官署)
- 74条の9第1項1号又は2号に掲げる事項の変更に関する事項
- 74条の9第4項の規定の趣旨
調査を行う旨の1項目、1号から6号までの6項目、施行令の4項目を合わせて、法令上は11項目が通知される形です。調査官の氏名と所属官署が事前に分かる点は押さえておく価値があります。通知の段階で対象の税目と期間、見る帳簿まで示されるので、この11項目を控えておけば準備の起点が定まります。
事前通知の時期と方法|法令に定めがなく電話が原則
国税庁の「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問13は、事前通知の時期について「法令に特段の規定はなく、また、個々のケースによって事情も異なりますので、何日程度前に通知するかを一律にお示しすることは困難ですが、調査開始日までに納税者の方が調査を受ける準備等をできるよう、調査までに相当の時間的余裕を置いて行うこととしています」としています。日数の目安は公表されていません。
方法については同FAQ問12が、法令上の規定はなく「原則として電話により口頭で行う」としています。電話による事前通知が困難と認められる場合に税務当局の判断で書面によることはありますが、「納税者の方からの要望に応じて事前通知内容を記載した書面を交付することはありません」とも明記されています。こちらから書面を求めても応じられないため、電話を受けた時点で11項目を書き取る必要があります。
日時と場所の変更協議|74条の9第2項が認める範囲
同条2項は「合理的な理由を付して同項第一号又は第二号に掲げる事項について変更するよう求めがあつた場合には、当該事項について協議するよう努めるものとする」と定めています。変更を求められるのは1号の日時と2号の場所だけで、目的や対象期間は対象外です。決算期直後で経理が動けないといった事情があれば、理由を添えて協議を求めることになります。
なお同条4項は、通知した3号から6号までの事項(目的・税目・期間・帳簿書類)以外の事項について非違が疑われた場合に、質問検査等を行うことを妨げないと定めています。通知された範囲が調査の上限になるわけではありません。
事前通知が省かれる場合|74条の10と査察の切り分け
74条の10は、納税義務者の申告や過去の調査結果の内容、営む事業内容に関する情報などに鑑み、「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、同条第一項の規定による通知を要しない」と定めています。任意調査で無予告の臨場となるのはこの規定に基づく場合です。査察は同法第11章の犯則事件の調査として別に定められており、74条の9の事前通知の枠外にあります。両者の違いは税務調査とは?その定義や目的、そして基本的な仕組みをわかりやすく理解するために徹底解説で扱っています。
調査が終わったあとに交付される書面
74条の11が定めるのは終了時の手続です。更正決定等をすべきと認められない場合、税務署長等は「その時点において更正決定等をすべきと認められない旨」を書面により通知するものとされています。いわゆる申告是認の通知です。
ただしこの通知は「その時点において」のものです。同条5項は、通知をした後や修正申告書の提出後、更正決定等をした後であっても、新たに得られた情報に照らし非違があると認めるときは質問検査等を行うことができると定めています。是認通知は以後の調査を封じるものではありません。
更正決定等をすべきと認める場合は、当該職員が調査結果の内容(認めた額とその理由を含む)を説明します。同条3項は、この説明の際に修正申告または期限後申告を勧奨できるとしたうえで、「当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない」と定めています。
勧奨に応じて修正申告を出すと不服申立ての道は閉じます。その代わり更正の請求は残ります。この違いを説明した書面の交付は義務なので、受け取っていなければその場で確認してください。
よくある質問
税務調査が10年以上来ないのは異常ですか?
異常ではありません。令和6事務年度の法人税・消費税の実地調査は5万4千件で、法人数346万に対して約1.6%です。単純計算では1社あたり60年強に1回となるため、10年以上来ていない会社のほうが多数を占めます。ただし選定はAIを活用した予測モデルと調査官の判断で行われるため、確率が全社に均等というわけではありません。
税務署から書面が届きましたが、これは税務調査ですか?
実地調査とは別の「簡易な接触」である場合があります。令和6事務年度の法人税・消費税の簡易な接触は8万5千件で、書面照会・電話連絡・来署依頼による面接の3つの手段が示されています。ただし国税庁の公表事例では、書面照会を再三無視した無申告法人が実地調査に移行しています。
税務署は連絡なしに会社へ来ることがありますか?
あります。国税通則法74条の9は事前通知を原則としていますが、74条の10は、調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合に通知を要しないと定めています。これは任意調査の枠内の措置で、令状に基づく査察とは別のものです。
事前通知は調査の何日前に来ますか?
日数の定めはありません。国税庁のFAQは「何日程度前に通知するかを一律にお示しすることは困難」としたうえで、調査までに相当の時間的余裕を置いて行うとしています。方法は原則として電話です。電話が困難と認められる場合に税務当局の判断で書面になることはありますが、こちらの要望に応じて通知内容を記載した書面が交付されることはありません。
飲食業だと税務調査に入られやすいのですか?
公表されている業種別の数字は不正発見割合=調査を受けた法人のうち不正計算が見つかった割合であり、調査される確率ではありません。令和6事務年度はバー・クラブ62.3%、その他の飲食45.2%、外国料理40.2%の順で、飲食・接客業が上位に並びます。