税務調査で何年分を調べられるかは、原則として実地調査の前の事前通知で「調査の対象となる期間」として告げられます。法律が上限として定めているのは、税務署が税額を直せる期間(更正・決定等の期間制限)で、所得税・法人税・消費税は原則5年、偽りその他不正の行為があれば7年です。法人税の欠損金は10年、贈与税は6年、個人住民税の増額は3年と、税目によって年数も根拠条文も違います。この記事では、調査の途中で対象年分が広がる条件と、調査を断れるかどうかを含めて、2026年10月時点の法令と国税庁の資料で整理します。
まとめ:何年分が調べられるかと期間制限の要点
- 法令に「調査は3年分」という定めはありません。何年分を調べるかは、事前通知の「調査の対象となる期間」(国税通則法74条の9第1項五号)で告げられます。
- 税額を直せる上限は法定申告期限から5年(同法70条1項)、偽りその他不正の行為で税を免れた場合は7年(同条5項1号)です。
- 通知された期間の外で非違が疑われれば、その年分は事前通知なしで調べられます(同法74条の9第4項)。3年分が5年分・7年分に広がるのはこの場面です。
- 法人税の欠損金を増減させる更正は10年(同法70条2項)、贈与税は6年(相続税法37条1項)、移転価格税制は7年(租税特別措置法66条の4第27項)です。
- 個人住民税の増額の賦課決定は3年ですが、所得税の修正申告書を出すと提出日の翌日から2年間は増額できます(地方税法17条の5第3項・17条の6第3項)。
- 調査は任意ですが、正当な理由なく帳簿の提示・提出を拒むと1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金の対象になります(国税通則法128条)。
- 期間制限と、確定した税を徴収する権利の消滅時効5年(同法72条1項)、脱税の公訴時効7年は別の制度です。
税務調査で何年分を見られるか:事前通知の期間と法律上の上限
事前通知で告げられる調査対象期間と「3年分」の位置づけ
実地調査を行うとき、税務署長等は納税者に調査を行う旨と、調査を開始する日時、場所、目的、税目、期間、対象となる帳簿書類などを通知します(国税通則法74条の9第1項)。「何年分か」は五号の「調査の対象となる期間」として、調査が始まる前に分かります。直近3年分(法人なら3期分)が指定される例が多いと説明されることがありますが、これは運用上の話で、法令は年数を決めていません。最初から5年分が通知されることもあります。
通知の方法について、国税庁の税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)問12は「法令上は規定されておらず、原則として電話により口頭で行うこととしています」と説明しています。電話による通知が困難な場合は税務当局の判断で書面によることもありますが、納税者の希望で書面を交付することはありません。また、同法74条の10に当たる場合(違法・不当な行為を容易にするおそれなど)は事前通知なしで調査が始まります。通知を受けてから調査日までの準備は税務調査の通知が来たらやること|調査日までの準備と用意する書類を国税庁FAQで確認、手続全体の流れは税務調査とは?事前通知から終了手続きまでの流れを国税通則法で確認で扱っています。
法律上の上限は更正・決定等の期間制限5年・7年
国税通則法70条1項は、更正・決定等は法定申告期限などから「五年…を経過した日以後においては、することができない」と定めています。同じ項に「三年」という語もありますが、課税標準申告書の提出を要する国税に係る賦課決定に限った例外で、所得税や法人税の更正を3年に限る規定ではありません。7年は同条5項1号の「偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税」です。3年は通知の運用、5年と7年は条文という違いがあります。
通知年度の確認に使う過年度の帳簿書類
70条が決めているのは処分ができる期間で、調査で確認される資料の古さの上限ではありません。FAQ問9は、減価償却費が正しいかを確かめるために取得年度の帳簿書類を検査する例を挙げ、「これはあくまでもX年度の調査であって、X年度以外の調査を行っているわけではありません」と説明しています。通知外の古い帳簿を求められたら、どの年分の確認に使う資料かを調査担当者に聞くのが実務的な対応です。
調査の途中で3年分が5年・7年に広がる条件
通知外の年分に非違が疑われた場合(74条の9第4項)
対象年分を広げるときに、税務署が事前通知をやり直す必要はありません。国税通則法74条の9第4項は、調査により通知事項の三号から六号(目的・税目・期間・帳簿書類)以外の事項について「非違が疑われることとなつた場合」に、その事項の質問検査等を妨げないとし、その質問検査等には事前通知の規定を「適用しない」と定めています。通知された3年分の中で売上の計上漏れが見つかり、同じ処理が前の年分にもあると疑われれば、4年目・5年目もその場で調べられます。
7年に延びる「偽りその他不正の行為」と重加算税
単純な計算誤りや解釈の違いでは7年になりません。二重帳簿、架空の外注費、売上の除外のように、税を免れるための意図的な行為があったときに70条5項1号の7年が使われます。同じ事実は重加算税の要件である隠蔽・仮装(同法68条)とも重なりやすく、過少申告の場合は35%、無申告の場合は40%の重加算税が課されます。判断基準と計算例は重加算税とは?税率35%・40%と隠蔽・仮装の判断基準、本税500万円の計算例と不服申立てで整理しています。
税目別の更正・決定等の期間制限
国税の期間制限は国税通則法70条が原則を定め、贈与税と移転価格税制には個別法の特則があります。地方税は地方税法17条の5が別に定めています。
| 対象 | 期間 | 起算点 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 所得税・法人税・消費税・相続税の更正・決定 | 5年 | 法定申告期限 | 国税通則法70条1項1号 |
| 法人税の純損失等の金額の更正 | 10年 | 法定申告期限 | 国税通則法70条2項 |
| 偽りその他不正の行為があった国税 | 7年 | 法定申告期限 | 国税通則法70条5項1号 |
| 贈与税の更正・決定 | 6年(不正は7年) | 申告書の提出期限 | 相続税法37条1項・4項 |
| 移転価格税制の更正・決定 | 7年 | 法定申告期限 | 租税特別措置法66条の4第27項1号 |
| 個人住民税の賦課決定(増額) | 3年 | 法定納期限の翌日 | 地方税法17条の5第3項 |
| 個人住民税の賦課決定(減額) | 5年 | 法定納期限の翌日 | 地方税法17条の5第4項 |
| 偽りその他不正の行為があった地方税 | 7年 | 法定納期限の翌日 | 地方税法17条の5第7項 |
70条3項には延長の規定もあり、期間が切れる日前6月以内に更正の請求があった場合、その請求に係る更正は請求の日から6月を経過する日までできます。
起算点の数え方と2026年10月時点で対象に残る年分
所得税の確定申告期限は原則として翌年3月15日です。期限延長を受けていない場合、令和3年分(法定申告期限は令和4年3月15日)を更正できるのは令和9年3月15日までで、不正があれば令和11年3月15日まで延びます。2026年10月時点で所得税を更正・決定できるのは原則として令和3年分から令和7年分の5年分、偽りその他不正の行為があれば令和元年分以降です。法人税の申告期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内なので、申告期限の延長を受けていない3月決算法人の令和4年3月期は、令和4年5月31日が起算点になります。
法人税の欠損金10年と9年の経過措置
70条2項は「法人税に係る純損失等の金額で当該課税期間において生じたものを増加させ、若しくは減少させる更正」を、法定申告期限から「十年を経過する日まで、することができる」と定めています。この10年は平成30年4月1日以後に開始する事業年度に生じた欠損金が対象で、それより前に開始した事業年度は9年です。納税者側の更正の請求も、純損失等の金額が過少な法人税は10年(平成30年3月31日以前に開始した事業年度は9年)です(同法23条1項)。
贈与税が6年になる相続税法37条
贈与税は相続税法37条の特則で期間が決まります。1項は「国税通則法第七十条…の規定にかかわらず」、更正・決定を申告書の提出期限から「六年を経過する日まで、することができる」とし、4項で偽りその他不正の行為があれば7年としています。5項により、贈与税の徴収権の消滅時効は提出期限から1年間進行しません。贈与税の税額の計算は相続税と贈与税はどちらが高い?速算表と1,000万円贈与の税額で示しています。
住民税の期間制限:増額3年と所得税の修正申告後2年の特例
賦課決定の期間制限は増額3年・減額5年・不正7年
個人住民税は、市区町村が税額を決めて通知する賦課課税の税金なので、国税通則法ではなく地方税法17条の5が適用されます。3項は「賦課決定は、法定納期限の翌日から起算して三年を経過した日以後においては、することができない」と定め、4項で税額を減らす賦課決定は5年、7項で偽りその他不正の行為があれば7年としています。所得税の5年より増額の期間が短いのはこのためです。
所得税の修正申告後2年間の住民税の賦課決定の特例
地方税法17条の6第3項は、所得税の課税標準を基準として課する所得割について、所得税の「修正申告書の提出があつた場合」は「当該提出があつた日」の翌日から2年間、所得税の更正・決定があった場合は通知が発せられた日の翌日から2年間、賦課決定ができると定めています。所得割とあわせて課する均等割も同じです。
例えば4年前の年分の申告漏れに気づいて所得税の修正申告をすると、所得税は5年の期間内なので修正申告の対象です。対応する年度の住民税は通常の3年を過ぎていても、修正申告書の提出日の翌日から2年間は増額の賦課決定ができます。所得税だけ直せば住民税は時効で済む、という理解は誤りです。住民税の申告が必要になる場面は住民税申告が必要な人・不要な人|副業20万円以下・無収入・退職者の判定と令和8年度からの電子申告で整理しています。
税務調査は断れるか:任意調査の強制力と罰則
査察(マルサ)を除く通常の税務調査は任意調査で、令状に基づく強制調査ではありません。それでも断れるとは言えません。国税通則法128条は、質問検査権による質問に答えず、もしくは偽りの答弁をした者や、物件の提示・提出の要求に正当な理由なく応じなかった者などを「一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する」と定めています(同条2号・3号)。この罰則があるため、任意調査でも納税者には受忍義務があると解されています。
一方でFAQ問3は、罰則を示したうえで「罰則があることをもって強権的に権限を行使することは考えておらず」、提示・提出は趣旨を説明し「その承諾を得て行う」と回答しています。正当な理由の例としてFAQ問6が挙げるのは「災害等により滅失・毀損するなどして、直ちに提示・提出することが物理的に困難であるような場合」です。日程や場所は、合理的な理由があれば変更を求めることができ、税務署長等は協議に努めるものとされています(同法74条の9第2項)。強制調査との違いはマルサ(査察)とは?税務署の任意調査との違いを国税通則法と査察事績で解説、取引先に及ぶ調査は税務署の反面調査とは?根拠条文と拒否したときの罰則を一次資料で解説を参照してください。
過少申告に気づいたときの自主修正と調査通知前後の加算税
5年の期間内にある年分で税額を少なく申告していたと気づいたなら、税務署から調査通知が届く前に修正申告をするかどうかで加算税が変わります。国税通則法65条6項は、更正を予知してされたものでない修正申告が「調査通知」の前に行われたときは過少申告加算税を課さないとしています。この調査通知は、74条の9第1項の四号(税目)と五号(期間)などの通知を指します。何年分が対象かを告げられた時点が分かれ目です。
国税庁タックスアンサーNo.2026によると、調査通知の後で更正を予知する前の修正申告は5%(当初の申告納税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分は10%)、調査による更正を予知した修正申告や更正は原則10%(同15%)です。いずれの場合も延滞税は別にかかります。修正申告の手続と加算税の分かれ目は修正申告とは?更正の請求との違い、e-Taxでのやり方と加算税0%・5%・10%の分かれ目で解説しています。
期間制限と税金の時効・公訴時効の違い
確定した税を徴収する権利の消滅時効5年
国税通則法72条1項は、国税の徴収権が法定納期限から「五年間行使しないことによつて、時効により消滅する」と定めています。同条2項により時効は「その援用を要せず、また、その利益を放棄することができない」ので、納税者が主張しなくても消滅します。完成猶予と更新は73条に定めがあります。「税金の時効は何年か」という問いは、申告していない年分がいつまで課税されうるか(期間制限)と、滞納している税がいつ消えるか(徴収権の時効)に分けて考えます。地方税の徴収権も法定納期限の翌日から5年です(地方税法18条1項)。
脱税の刑事責任と公訴時効7年
刑事罰にも時効があります。所得税法238条1項は、偽りその他不正の行為で所得税を免れた者を「十年以下の拘禁刑若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」と定め、刑事訴訟法250条2項4号により公訴時効は7年です。申告書を出さずに免れた場合(所得税法238条3項)は5年以下の拘禁刑なので、同項5号により5年です。
帳簿書類の保存期間と調査年数の関係
保存期間と期間制限は別の制度ですが、保存期間内の年分は更正・決定の対象として残っている可能性があると考えて管理するのが安全です。
| 対象 | 保存期間 | 根拠 |
|---|---|---|
| 青色申告法人の帳簿・書類 | 7年 | 法人税法施行規則59条1項 |
| 青色申告法人の欠損金年度の帳簿書類 | 10年(平成30年4月1日前開始は9年) | 法人税法施行規則26条の3第1項 |
| 株式会社の会計帳簿と重要な資料 | 10年 | 会社法432条2項 |
| 個人・青色申告者の帳簿・書類 | 原則7年(請求書・納品書などは5年) | タックスアンサーNo.2070 |
| 個人・白色申告者の法定帳簿 | 7年 | タックスアンサーNo.2080 |
| 個人・白色申告者の任意帳簿・請求書・領収書など | 5年 | タックスアンサーNo.2080 |
法人の保存期間は、国税庁タックスアンサーNo.5930のとおり、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から数えます。タックスアンサーNo.2080は、令和5年分の確定申告に対する修正申告等から、売上げの帳簿を保存していなかったり記載が不十分だったりした場合に、加算税の割合が5%または10%加重されると説明しています。帳簿を捨てれば調べられないという考えは、かえってペナルティを重くします。個人事業主の区分ごとの年数と電子保存は個人事業主の帳簿の保存期間は7年と5年に分かれる|電子帳簿保存法と令和9年分の改正で整理しています。
よくある質問
税務調査は過去何年分まで遡りますか?
何年分かは事前通知で告げられ、直近3年分が指定されることもあります。法律上の上限は更正・決定等ができる期間で、原則は法定申告期限から5年、偽りその他不正の行為があれば7年です(国税通則法70条1項・5項)。法人税の欠損金は10年、贈与税は6年です。
税務調査の途中で対象年分が増えることはありますか?
あります。国税通則法74条の9第4項により、通知した期間などの外で非違が疑われることとなった場合は、その事項について事前通知なしで質問検査等が行われます。
所得税の修正申告をすると、住民税も過去の分が変わりますか?
変わります。個人住民税の増額の賦課決定は通常、法定納期限の翌日から3年ですが、所得税の修正申告書を提出した場合は、提出日の翌日から2年間は所得割と均等割の賦課決定ができます(地方税法17条の6第3項2号)。
贈与税の時効は何年ですか?
贈与税を更正・決定できる期間は、申告書の提出期限から6年、偽りその他不正の行為があれば7年です(相続税法37条1項・4項)。確定した贈与税の徴収権の消滅時効は5年ですが、提出期限から1年間は進行しません(同条5項)。
10年以上調査が来ていなければ、過去の申告はもう安全ですか?
いいえ。期間制限は年分ごとに進むので、直近5年分(不正があれば7年分)は常に更正・決定等の対象です。国税庁の令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況では、実地調査46,896件に対して、文書・電話・来署依頼で是正を求める簡易な接触が689,440件ありました。臨場調査が無いことと、税務署から接触が無いことは別です。調査の選ばれ方はKSK2は延期された?9月24日稼働後の障害と、税務調査が10年以上来ない人への影響で扱っています。
払いすぎた税金は何年前まで取り戻せますか?
更正の請求は原則として法定申告期限から5年以内で、贈与税は6年です(国税通則法23条1項、相続税法32条2項)。法人税の純損失等の金額が過少な場合は10年(平成30年4月1日前に開始した事業年度は9年)です。手続は払いすぎた税金の還付|所得税・住民税・源泉所得税で違う手続と5年の期限で扱っています。