譲渡損益は、資産を売ったときの対価から帳簿価額を差し引いた差額です。法人では、土地を売っても株式を売っても、その差額は他の収益と区分せずに各事業年度の所得へ合算されます。個人の譲渡所得のように税率が別になることはありません。
ただし、計上する日は資産の種類で変わります。100%グループ内の売却なら損益を繰り延べ、収用や買換えなら別表を追加します。土地の売却は消費税の課税売上割合も押し下げます。経理担当者が決算で迷いやすいのは、この4点です。本記事では、法人税法・措置法・国税庁通達の条文を基に整理します。法令は2026年10月1日時点の現行版で確認しています。
まとめ:法人の譲渡損益で押さえる要点
- 譲渡損益=譲渡対価−譲渡原価(帳簿価額)。法人は損益を区分せず所得に合算し、個人の長期・短期の税率区分(20.315%・39.63%)は法人には無い
- 計上時期は、固定資産が引渡しの日(土地・建物は契約効力発生日も可・法基通2-1-14)、有価証券が契約をした日(法人税法61条の2)
- 通常の土地売却は、売却益が当期利益に入るだけで別表四の加減算は不要。別表が増えるのは収用(別表10(6))・買換え(別表13(5))・グループ法人間の譲渡(別表14(6))など特例を使うとき
- 土地重課(措置法62条の3・63条)は、令和11年3月31日までの譲渡には適用されない。通常は別表3(2)・3(3)を作らない
- 完全支配関係がある法人へ譲渡損益調整資産(固定資産・土地・有価証券・金銭債権・繰延資産で、帳簿価額1,000万円以上など)を譲渡したときは、譲渡損益を繰り延べる(法人税法61条の11)
- 土地の譲渡対価は非課税売上として課税売上割合の分母に入る。単発の売却なら「課税売上割合に準ずる割合」の承認申請を検討する
譲渡損益の意味と法人・個人での課税の違い
譲渡損益とは、資産を譲渡したときの「譲渡対価の額」と「譲渡原価の額」の差額です。法人税法は、有価証券について譲渡利益額・譲渡損失額という語で、この差額を益金または損金に算入すると定めています(61条の2第1項)。土地や建物など固定資産の売却益も、同じ考え方で益金になります。
法人は所得区分がなく売却益も本業の利益と合算
個人の所得税には10種類の所得区分があり、土地・建物や株式の売却益は分離課税になります。法人税にはこの区分がありません。固定資産の売却益も商品の売上も、1つの所得として計算します。土地の売却益だけに別の税率をかける分離課税ではないので、同じ事業年度の本業の赤字とはそのまま相殺されます。過去の赤字(繰越欠損金)は、青色申告などの要件を満たせば控除できますが、中小法人等以外は所得の50%が控除の上限です。
個人の土地・建物の譲渡所得は、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超えれば長期(20.315%)、5年以下なら短期(39.63%)として税率が分かれます。法人の譲渡益にこの税率区分はなく、通常の法人税率で課税されます。法人の税制で所有期間が関係するのは、後述の土地重課(長期・短期で上乗せ率が違う・適用停止中)と、買換え特例の一部の号(所有期間10年超の土地等など)の要件です。
個人事業主の株式譲渡益と青色申告決算書の関係
個人事業主が株式を売買した所得は、事業所得に当たる場合でも、青色申告決算書で計算する総合課税の事業所得には合算しません。株式等の譲渡による事業所得・譲渡所得・雑所得は、他の所得と区分して計算する申告分離課税だからです(国税庁タックスアンサーNo.1463)。株式の売買損益は「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」で別に計算し、確定申告書第三表(分離課税用)に記載します。
一方、事業用の車両や機械を売った場合の個人の所得は総合課税の譲渡所得です。こちらも事業所得には入れません。手順は車を売却したときの確定申告|個人事業主の譲渡所得・消費税・減価償却・仕訳を整理にまとめています。株式の分離課税と総合課税の違いは申告分離課税の対象となる所得の種類と総合課税との根本的な違いを参照してください。
法人の譲渡損益の計算式と譲渡原価
計算式は、譲渡損益=譲渡対価−譲渡原価です。仲介手数料などの譲渡費用は、法人では売却益から差し引いても販管費に計上しても、通常の売却なら所得の合計額は変わりません。ただし、後述のグループ内譲渡で繰り延べる金額は「収益の額」と「原価の額」の差額なので、原価と費用を分けて把握しておきます。
土地・建物の譲渡原価は売却時点の帳簿価額
土地は減価償却しないので、取得価額(購入代金と仲介手数料などの付随費用)が帳簿価額の出発点です。登録免許税などの登記費用は、取得価額に含めず損金にすることもできます(法基通7-3-3の2)。圧縮記帳をした土地は、圧縮額だけ帳簿価額が取得価額より小さくなっています。
建物は、売却日までの減価償却費を計上すれば、その分だけ帳簿価額(譲渡原価)が減ります。期中の償却を計上しなくても誤りではありません。その場合は償却前の帳簿価額が譲渡原価になり、売却益は小さくなりますが、減価償却費と売却益を合わせた所得は同じです。
土地と建物を一括で売る契約では、対価を土地分と建物分に区分します。土地の売却益と建物の売却益は、それぞれの帳簿価額との差額で計算します。土地が減価償却できない根拠は土地が減価償却できない理由|施行令の根拠条文と建物との按分で解説しています。
有価証券の譲渡原価は移動平均法か総平均法
有価証券の譲渡原価は、1単位あたりの帳簿価額に売却数量を掛けて求めます(法人税法61条の2第1項2号)。1単位あたりの帳簿価額の算出方法は、移動平均法と総平均法の2つです(施行令119条の2)。法人が算出方法を選定していなければ、法定の移動平均法になります(施行令119条の7)。同じ銘柄を何回かに分けて買った場合、選んだ方法によって譲渡原価が変わります。
譲渡対価の側にも注意点があります。自己株式として発行会社に買い取られた場合は、みなし配当の金額を対価から控除してから譲渡損益を計算します(同項1号)。
譲渡損益の計上時期(引渡日・契約効力発生日・約定日)
決算期末の前後に売却すると、計上時期の判断ひとつで損益が属する事業年度が変わります。資産の種類ごとの原則は次のとおりです。
| 資産 | 原則の計上日 | 認められる別の日 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 土地・建物 | 引渡しの日 | 契約の効力発生日 | 法人税法22条の2・法基通2-1-14 |
| 機械・車両等 | 引渡しの日 | - | 法人税法22条の2・法基通2-1-14 |
| 農地 | 引渡しの日 | 農地法の許可日 | 法基通2-1-15 |
| 有価証券 | 契約をした日 | 引渡しの日(継続適用) | 法人税法61条の2・法基通2-1-22/23 |
土地・建物について契約効力発生日を使えるのは、法人がその日に収益として計上している場合です(法基通2-1-14ただし書)。期末直前に契約し引渡しが翌期になる取引では、どちらの日で計上するかを決めて、毎期同じ方法で処理します。
有価証券は、証券会社経由なら売却の取引が成立した日(約定日)、相対取引なら約定が成立した日に計上します(法基通2-1-22)。譲渡と取得の両方を引渡日で経理し、それを継続していれば引渡日基準も認められます(法基通2-1-23)。ただし、期末に未引渡しの分は除かれます。3月決算の法人が3月末に約定し、受渡しが4月になった株式の売却損益は、どちらの基準でも3月期に入ります。
土地売却の仕訳と法人税申告書の別表
土地を売ったときに法人税の別表で何をするかは、特例を使うかどうかで決まります。特例を使わない通常の売却なら、売却益は損益計算書の当期利益に含まれるため、別表四で加算・減算する項目はありません。別表が増えるのは、次の節で挙げる特例を使う場合です。
土地・建物を一括売却したときの仕訳例
土地(帳簿価額3,000万円)と建物(期首帳簿価額850万円)を、税抜5,000万円(土地4,000万円・建物1,000万円)で売却した例です。建物には消費税10%(100万円)がかかります。当期の建物の減価償却費は50万円、仲介手数料は税込165万円とし、税抜経理で処理します。仮払消費税15万円をどれだけ控除できるかは、後述の課税売上割合で決まります。
(1)売却日までの減価償却
減価償却費 500,000 / 建物 500,000
(2)売却
現金預金 51,000,000 / 土地 30,000,000
/ 建物 8,000,000
/ 仮受消費税 1,000,000
/ 固定資産売却益 12,000,000
(3)仲介手数料
支払手数料 1,500,000 / 現金預金 1,650,000
仮払消費税 150,000
売却益1,200万円の内訳は、土地1,000万円(4,000万円−3,000万円)と建物200万円(1,000万円−800万円)です。土地の譲渡は消費税が非課税なので、仮受消費税は建物分だけにかかります。契約書で土地と建物の対価が合理的に区分されていない場合は、譲渡時の土地と建物の時価の比率で按分します(消費税法施行令45条3項)。後から按分の根拠を問われないよう、売買契約書で内訳を決めておくのが確実です。
土地売却で特例を使うときに追加する法人税申告書の別表
国税庁の法人税申告書別表一覧(令和8年4月1日以後終了事業年度分)で確認した別表番号です。収用の特別控除の明細書は旧様式の別表10(5)ではなく別表10(6)、グループ法人間の損益調整は別表14(6)です。番号は改正で繰り下がることがあるので、申告する事業年度の様式で確認してください。
| 場面 | 別表 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 公共事業で土地を収用された | 10(6) | 措置法65条の2(5,000万円控除) |
| 土地を売って事業用資産に買い換えた | 13(5) | 措置法65条の7(圧縮記帳) |
| 100%グループ内の法人に売った | 14(6) | 法人税法61条の11 |
| 時価より低い価額で第三者に売った | 14(2) | 法人税法37条8項(寄附金) |
| 土地重課の対象になる譲渡 | 3(2)・3(3) | 措置法62条の3・63条(適用停止中) |
収用の5,000万円特別控除は、収用等による譲渡益と5,000万円のいずれか低い金額を損金に算入する制度です(措置法65条の2第1項)。別表四で減算します。通常の民間の売買では使えず、公共事業のための買取りなどで収用等に該当する譲渡が対象です。買換え特例の適用期限は、令和8年度改正後の措置法65条の7第1項で令和11年3月31日です(表4号の船舶のうち建設業などの用に供するものは令和10年3月31日)。土地の圧縮記帳3制度の要件は土地の圧縮記帳|買換え・収用・補助金の3制度と面積5倍の壁で比較しています。
土地重課(措置法62条の3・63条)は令和11年3月まで適用停止
法人の土地譲渡益には、通常の法人税に加えて長期所有5%・短期所有10%を上乗せする「土地重課」の規定があります。ただし、平成10年1月1日から令和11年3月31日までの譲渡には適用されません(措置法62条の3第15項・63条第8項)。この停止期限は令和8年度改正で、令和8年3月31日から3年延長されました。改正前の期限(令和8年3月31日)のまま書かれた資料もあるので、令和8年4月以後の譲渡を判断するときは改正後の条文を確認してください。
グループ法人税制の譲渡損益調整資産と繰延べ
完全支配関係(発行済株式の100%を直接・間接に保有する関係)がある内国法人へ資産を譲渡した場合、一定の資産の譲渡損益は譲渡時に課税せず、繰り延べます(法人税法61条の11第1項)。親子会社間だけでなく、同じ個人が100%保有する兄弟会社の間の譲渡も対象です。
対象になる資産と帳簿価額1,000万円基準
譲渡損益調整資産は、固定資産・土地(土地の上に存する権利を含む)・有価証券・金銭債権・繰延資産のうち、政令で除外されるもの以外です。除外されるのは、売買目的有価証券と、譲渡直前の帳簿価額が1,000万円に満たない資産などです(施行令122条の12第1項)。判定は売却価額ではなく帳簿価額で行います。帳簿価額500万円の土地を3,000万円で子会社に売れば、売却益2,500万円は繰り延べられずにその期の益金になります。棚卸資産は原則として対象外ですが、土地は条文が「固定資産に該当するものを除く」と別掲しているため、販売用の土地も対象に含まれます。
戻入れ事由と別表14(6)・別表四の処理
繰り延べた損益は、譲受法人でその資産の譲渡・償却・評価換え・貸倒れ・除却などの事由が生じたときに戻し入れます(同条2項)。譲受法人との完全支配関係が無くなったときは、残っている繰延額を一括で益金または損金に算入します(同条3項)。譲受法人の株式を外部へ売却すると、グループ内取引で繰り延べた土地の売却益が一括で課税されます。M&Aで子会社株式を売るときは、この一括戻入れの税額も含めて試算します。
申告では、譲渡益を繰り延べる場合に別表四で減算(留保)し、別表五(一)に譲渡損益調整勘定として負の金額を記載します。明細は別表14(6)「完全支配関係がある法人の間の取引の損益の調整に関する明細書」に記入します。通知の義務は双方向です。譲渡法人は譲渡後遅滞なく「譲渡損益調整資産に該当する旨」を譲受法人へ通知し、譲受法人は戻入れ事由が生じたらその旨と日付を、事業年度終了後遅滞なく譲渡法人へ通知します(施行令122条の12第17項・19項)。売り手と買い手の経理担当者が毎期この情報をやり取りする体制を作っておきます。
土地売却が消費税の課税売上割合を下げる問題
土地の売却は、法人税だけでなく消費税の仕入税額控除の額にも影響します。土地の譲渡は消費税が非課税です。ただし、その譲渡対価は課税売上割合の分母(資産の譲渡等の対価の額)に入ります。課税売上高5億円以下で課税売上割合95%以上の法人は仕入税額を全額控除できますが、売上規模に比べて大きな土地を売ると95%を下回ります。そうなると個別対応方式か一括比例配分方式で計算することになり、控除できない仕入税額の分だけ納付税額が増えます。
有価証券の譲渡は扱いが違います。分母に入るのは譲渡対価の5%だけです(消費税法施行令48条5項)。株式を売却しても、課税売上割合は土地ほど下がりません。
単発の土地売却は「課税売上割合に準ずる割合」を申請
国税庁の質疑応答事例は、土地の譲渡が単発で、譲渡が無かったとすれば事業の実態に変動がない場合に限り、課税売上割合に準ずる割合の承認を与えて差し支えないとしています。事業の実態に変動がない場合とは、営業の実態に変動がなく、過去3年間で最も高い課税売上割合と最も低い課税売上割合の差が5%以内である場合です。承認される割合は次のいずれか低い方です。
- 土地の譲渡があった課税期間の前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合
- 土地の譲渡があった課税期間の前課税期間の課税売上割合
準ずる割合を使えるのは個別対応方式の共通対応分の計算だけで、一括比例配分方式には使えません。また、全額控除できる「課税売上割合95%以上」かどうかは、承認を受けても本来の課税売上割合で判定します(国税庁タックスアンサーNo.6401)。そのため、土地の売却で95%を割った期は、準ずる割合の承認を受けても個別対応方式での計算になります。
「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」は、課税期間の末日までに提出し、翌日から1か月以内に承認を受ければ、その課税期間から適用できます。翌課税期間には不適用届出書を出します。出さなければ翌課税期間以降の承認は取り消されます。簡易課税や2割特例を選んでいる事業者は、課税売上割合を使わないのでこの問題は生じません。
譲渡損益の処理で起きやすい誤り
売却価額が時価と合っていない取引と、計上時期・繰延べの処理は、申告前に確認しておきたい論点です。
- 関連会社・取引先への低額譲渡:時価との差額のうち実質的に贈与と認められる金額は寄附金になり(法人税法37条8項)、損金算入限度額を超える部分は損金になりません。法人による完全支配関係がある法人への寄附金は全額が損金不算入です(同条2項)。別表14(2)で計算し、損金不算入額を別表四で加算します。
- 役員への低額譲渡:時価との差額は役員給与とされます(法基通9-2-9(2))。臨時の低額譲渡は定期同額給与などに当たらないため損金にならず、役員個人には給与所得として課税されます。
- 期中売却の建物の減価償却費の二重計上:売却日までの減価償却費を計上したのに帳簿価額を減らさず、償却前の簿価で売却原価を計算すると、同じ金額が2回損金になります。
- 有価証券を受渡日で計上:期末をまたぐ取引で事業年度がずれます。約定日で計上し直します。
- グループ内譲渡の繰延べ漏れ:帳簿価額1,000万円以上の資産を100%子会社へ売ったのに売却益をそのまま申告すると、本来は繰り延べる損益をその期に計上することになります。逆に、完全支配関係が無くなったときの一括戻入れを忘れると申告漏れになります。
時価の根拠は、不動産なら不動産鑑定評価書、非上場株式なら株価算定書を取得して保存しておきます。グループ内や役員との取引で時価の根拠資料が無い場合は、売却前に税理士へ確認したほうが安全です。
よくある質問
法人が土地を売却して損失が出た場合、損金になりますか?
原則として損金になります。法人には個人の不動産譲渡損失のような損益通算の制限が無く、売却損は他の所得と相殺されます。ただし、完全支配関係がある法人へ帳簿価額1,000万円以上の土地を売った場合は、売却損も繰り延べられ、その期の損金にはなりません。個人の不動産売却損の扱いは不動産売却で損失が出たときの確定申告|損益通算できる条件と2つの特例を参照してください。
法人にも5年超・5年以下で税率が変わるルールはありますか?
個人のような長期・短期の税率区分はありません。法人で所有期間により上乗せ率が変わるのは土地重課(5年超5%・5年以下10%)ですが、令和11年3月31日までの譲渡には適用されません。
譲渡損益調整資産の1,000万円基準は売却価額で判定しますか?
譲渡直前の帳簿価額で判定します(施行令122条の12第1項3号)。売却価額が1,000万円を超えていても、帳簿価額が1,000万円未満なら繰延べの対象外です。
土地を売ったら法人税の申告書に別表を追加する必要がありますか?
特例を使わない通常の売却なら不要です。売却益は損益計算書の当期利益に含まれ、別表四・別表一を通じて申告されます。収用・買換え・グループ内譲渡など特例を使うときだけ、対応する別表を添付します。
役員に会社の土地を時価より安く売るとどうなりますか?
時価と売却価額の差額は役員への経済的利益として役員給与になります(法基通9-2-9(2))。法人ではその差額が損金にならず、役員には給与所得として所得税がかかります。売却益の計算は時価を基準に行います。