確定申告

不動産売却で損失が出たときの確定申告|損益通算できる条件と2つの特例

不動産売却で損失が出たときの確定申告|損益通算できる条件と2つの特例

売却価格が購入時の価格を下回ってマイナスになった、いわゆる赤字の売却。それだけを理由に確定申告の義務が生じることはありません。ただし「原則不要」で終わらせると、最長4年分の所得税の還付と住民税の減額を受けられる特例をまるごと捨てることになります。土地と建物の譲渡損失は、そもそも損益通算の対象から法律で外されているからです。救済されるのはマイホームを売った場合の2つの特例だけで、その適用期間は令和8年度税制改正で令和9年12月31日まで2年延長されました。

まとめ:不動産の売却損と確定申告の結論

土地建物の譲渡損失は、給与所得や事業所得と相殺できません。措置法31条1項後段が、長期譲渡所得の計算上生じた損失を「生じなかつたものとみなす」と定めているためで、短期譲渡についても32条1項後段が同じ扱いをします。売却がマイナスでも赤字でも、申告して動く税額は通常ゼロです。

例外はマイホームの売却に限られます。措置法41条の5(買換え型)と41条の5の2(住宅ローン残債型)の2つで、投資用マンションや相続した空き地の売却損は、どれだけ大きくても対象外です。しかもこの特例は、確定申告書に記載して明細書を添付しなければ動きません。損失が出た年に損益通算し、控除しきれない分を3年繰り越せるため、売却年と合わせて最長4年分の課税所得を圧縮できます。以下、申告が必要になる境目から提出書類まで条文で確認します。

売却損が出ても確定申告が原則不要になる理由

売却がマイナスなら税額がゼロになる分離課税の構造

土地建物の譲渡所得は、他の所得と合算せずに税額を計算する申告分離課税です(措置法31条1項、32条1項)。譲渡所得の金額は、収入金額から取得費と譲渡費用を差し引いて求めます(所得税法33条3項)。この結果がマイナスなら課税される所得はゼロで、納める税金もゼロになります。納税額が発生しない以上、売却損それ自体から申告義務は生まれません。

ここで見落とされやすいのが特別控除の扱いです。所得税法33条4項は譲渡所得に50万円の特別控除を認めていますが、措置法31条1項は括弧書きで「所得税法第三十三条第三項に規定する譲渡所得の特別控除額の控除をしないで計算した金額」と定めており、土地建物の譲渡ではこの50万円を使えません。損失の年は総合課税でも特別控除は働かない(33条4項が「譲渡益が五十万円に満たない場合には、当該譲渡益」を限度としているため)ので損失額は変わりませんが、同じ年に別の土地建物で譲渡益が出ているときに50万円を引けるつもりでいると、課税所得を50万円少なく見積もることになります。申告分離課税の対象となる所得の種類と総合課税との根本的な違いで、どの所得がどちらに振り分けられるかを整理しています。

申告書を出さないと使えない特例と、出す価値の判断

申告する実益があるのは、売った物件が居住用財産に該当する場合だけです。措置法41条の5第2項は、適用を受ける旨を確定申告書に記載し、損失額の計算に関する明細書を添付した場合に限り適用すると定めており、記載も添付もない申告書では要件をすべて満たしていても特例は動きません。

賃貸用や事業用、相続で取得した実家の敷地なら、申告書を作っても税額は変わりません。売却の翌年に税務署から「譲渡内容についてのお尋ね」が届くことがありますが、これは申告義務の通知ではなく事実確認で、売買契約書と取得費の資料を添えて回答すれば足ります。

所有期間5年の判定基準日は売った年の1月1日

特例の要件も税率区分も、所有期間5年が分岐点になります。この5年は引渡日からの実日数ではありません。措置法31条1項が「その年一月一日において所有期間が五年を超えるもの」、32条1項が「その年一月一日において……所有期間が五年以下であるもの」と定めているため、判定はいずれも売った年の1月1日で行います(所有期間そのものの定義は31条2項の「取得をした日の翌日から引き続き所有していた期間」)。2021年3月に取得した物件を2026年5月に売った場合、実際の保有は5年2か月ですが、2026年1月1日時点では4年10か月なので短期譲渡です。年をまたぐだけで結論が変わるため、売買契約を進める前に確認する項目です。

税率は長期譲渡所得が所得税15パーセントと住民税5パーセント、短期譲渡所得が所得税30パーセントと住民税9パーセントで(国税庁No.3208、No.3211)、所得税額に復興特別所得税2.1パーセントが乗るため実効は20.315パーセントと39.63パーセントです。令和9年1月以後は防衛特別所得税1パーセントが創設され復興特別所得税が1.1パーセントへ下がりますが、合計は2.1パーセントのままなので実効税率は変わりません(財務省 令和8年度税制改正の大綱)。損失の年には効きませんが、同じ年に別の不動産で利益が出ているなら、どちらの区分と相殺されるかで手取りが変わります。

他の所得と相殺できない損失と、相殺できる損失の境目

給与所得や事業所得との損益通算を封じる措置法31条1項後段

損益通算を定める所得税法69条1項は、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の4つの赤字を他の黒字から差し引けるとしています。土地建物の譲渡損失も文言上は譲渡所得の赤字ですが、措置法31条1項後段が先に効き、「長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額があるときは、同法その他所得税に関する法令の規定の適用については、当該損失の金額は生じなかつたものとみなす」として存在しなかった扱いにします。念押しに同条3項2号が、69条を適用する際は長期譲渡所得を除いて読むよう読替えまで指示しています。

短期譲渡についても32条1項後段が同じ「生じなかつたものとみなす」を置いているため、所有期間の長短で結論は変わりません。損益通算そのものの仕組みは損益通算とは?対象は4所得だけ|通算の順序と第四表の書き方をわかりやすく解説で扱っています。

長期と短期をまたぐ土地建物どうしの内部通算

相殺が完全に封じられているわけではありません。措置法31条1項の括弧書きは短期譲渡所得の損失を長期譲渡所得から控除すると定め、32条1項の括弧書きが逆向きの控除を定めています。同じ年に複数の不動産を売り、一方が黒字で他方が赤字なら、長期と短期をまたいで相殺できます。

相続した土地を売って2,000万円の利益が出た年に、値下がりした投資用マンションを売って800万円の損失を出せば、課税対象は1,200万円に圧縮されます。特例の要件も申告書への特別な記載も不要で、譲渡所得の内訳書の中で完結します。売却時期を1年ずらすと使えないため、複数物件を処分するなら同一年に寄せるかを先に決めておきます。

株式・ゴルフ会員権と通算できない理由

上場株式の譲渡損益は措置法37条の11の別グループで、土地建物の譲渡所得とは通算できません。株式で利益が出た年に不動産の売却損をぶつける、あるいはその逆も不可能です。株式側の損失は上場株式等に係る譲渡所得等と配当所得の範囲でのみ通算でき、繰越控除も別制度になります(デイトレードの確定申告はいくらから?税率20.315%と申告しない場合のペナルティ【令和8年分】)。

ゴルフ会員権や貴金属など総合課税の譲渡所得に属する資産も同様です。所得税法69条2項が、生活に通常必要でない資産の損失を「生じなかつたものとみなす」と定め、同法施行令178条1項2号が「主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産」をそこに含めているためで、ゴルフ会員権等が外れたのは平成26年度改正です。「譲渡損失」という同じ言葉でも、資産がどの課税グループに属するかで扱いが三分される点が、この分野の混乱の元になっています。

売却損の金額を確定させる取得費と譲渡費用

建物の取得費から差し引く減価償却相当額

損失額が想定より小さくなる最大の原因が、建物の取得費の目減りです。所得税法38条2項は、家屋のように使用や期間の経過で価値が減る資産について、取得に要した金額から減価の額を控除した残りを取得費とすると定めています。自宅のような非業務用資産の減価の額は所得税法施行令85条が定め、同種の減価償却資産の耐用年数を1.5倍した年数により旧定額法に準じて計算します。1.5倍した年数の1年未満は切り捨て、経過年数は6月以上を1年に切り上げます。

実際の計算式は「建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数」で、国税庁No.3261が構造別の償却率を示しています。

構造 木造 木骨モルタル 鉄骨鉄筋・鉄筋コンクリート 金属造(1) 金属造(2)
償却率 0.031 0.034 0.015 0.036 0.025

金属造(1)は骨格材の肉厚3ミリメートル以下、金属造(2)は3ミリメートル超4ミリメートル以下の軽量鉄骨造を指します。土地3,000万円と木造建物2,000万円で購入した自宅を20年後に3,600万円で売ったとすると、建物の減価償却相当額は2,000万円×0.9×0.031×20年で1,116万円となり、取得費は5,000万円ではなく3,884万円まで下がります。譲渡費用を150万円とすれば、損失は1,550万円ではなく434万円です。取得価額をそのまま使って損失額を見積もると、特例で戻る税額を大きく読み違えます。減り続けるわけではなく、所得税法施行令85条1項後段が同令134条1項1号イを引くことで、減価の額は取得価額の95パーセント相当額が上限になります。築古の木造でも建物の取得費がゼロになることはありません。賃貸に出していた期間がある場合は、その期間について必要経費に算入した償却費の累積額を差し引きます(所得税法38条2項1号)。事業用資産側の考え方は不動産オーナーが最初に押さえるべき減価償却の基本構造と経費計上の前提条件にまとめています。

取得費が不明なときの概算取得費5パーセント

購入時の契約書が見つからない場合、収入金額の5パーセントを取得費とみなす概算取得費が使われます。ただし措置法31条の4の条文が対象としているのは「昭和二十七年十二月三十一日以前から引き続き所有していた土地等又は建物等」の長期譲渡に限られます。それ以外のケースに広げているのは措置法関係通達31の4-1で、条文ではなく取扱いです。国税庁の質疑応答事例(令和7年8月1日現在)も、概算取得費控除は長期譲渡所得に関する規定だとしたうえで「短期譲渡所得の金額の計算についても適用して差し支えありません」と回答しており、根拠として措置法31条の4と通達31の4-1を挙げています。

実額のほうが有利なケースは多く、5パーセントで済ませると損失が消えることさえあります。3,600万円で売った物件なら取得費は180万円で、大幅な譲渡益になり税金が発生します。住宅ローンの金銭消費貸借契約書の購入価額、抵当権設定登記の債権額、通帳の振込履歴、分譲価格表など、実額を裏づける資料を先に探す価値があります。

譲渡費用に入れられる支出の範囲

譲渡費用は、その売却のために直接かかった費用に限られます。仲介手数料、売買契約書の印紙税、貸家の売却で支払った立退料、土地を売るために取り壊した建物の解体費と取壊し損失、より有利な条件で売るために前の契約を解除したときの違約金が該当します。

逆に、修繕費や固定資産税のような維持管理費、売却代金の取立費用、抵当権抹消の登記費用、引越し費用は入りません。境界確定の測量費はその売却のために行ったものなら譲渡費用ですが、以前から所有目的で行っていたものは取得費側の判断です。金額の大きい解体費と測量費は、いつ何のために支出したかを契約書と請求書で示せる形にしておきます。

相続・贈与で取得した不動産の取得費と取得日の引継ぎ

相続した実家を売る場合、取得費は相続時の評価額ではありません。所得税法60条1項1号が、贈与や相続(限定承認に係るものを除く)で取得した資産を譲渡したときは「その者が引き続きこれを所有していたものとみなす」と定めているためで、被相続人が昭和50年に500万円で建てた家なら取得費の出発点は500万円、取得日も昭和50年です。

この引継ぎには両面があります。取得日を引き継ぐため所有期間5年超はほぼ確実にクリアしますが、取得費が数十年前の低い価額で固定されるため譲渡益になりやすく、そもそも売却損が出ません。相続不動産で損失前提の資金計画を立てる前に、被相続人の取得価額を確認してください。相続した実家は原則として自分の居住用財産ではないため、後述の2つの特例の対象からも外れます。

居住用財産の譲渡損失に使える2つの特例

買換え型と住宅ローン残債型の分岐

特例は2つあり、買い換えるかどうかで選ぶ制度が決まります。併用はできません。

比較軸 買換え型(措置法41条の5) ローン残債型(措置法41条の5の2)
買換え 必要 不要
旧宅のローン 不問 契約日前日に残高あり(償還期間10年以上)
新居のローン 償還期間10年以上が必要 不要
控除できる額 譲渡損失の全額 ローン残高−譲渡対価が限度
敷地500平方メートル超 超過部分を按分縮減 定めなし
適用期間 令和9年12月31日まで 令和9年12月31日まで

控除できる額の差が実務では大きく効きます。ローン残債型は、措置法41条の5の2第7項1号の括弧書きにより「当該特定譲渡に係る契約を締結した日の前日における当該譲渡資産に係る住宅借入金等の金額の合計額から当該譲渡資産の譲渡の対価の額を控除した残額を限度とする」と定められています。譲渡損失が1,500万円あっても、ローン残高2,800万円で2,000万円で売ったのなら、対象になるのは差額の800万円までです。買い換えるなら損失の全額を使える買換え型が有利ですが、その代わり新居について償還期間10年以上の住宅ローンを組むことが要件になります。

要件を満たしていても使えなくなる除外条項が、両方の第7項1号に置かれています。過去の売却で他の特例を使っていると外れるため、判定は必ずここまで見ます。

  • その年の前年または前々年に、措置法31条の3第1項(居住用財産の軽減税率)の適用を受けている
  • 同じくその年の前年または前々年に、35条1項(3,000万円特別控除)、36条の2、36条の5の適用を受けている
  • その年またはその年の前年以前3年内に、もう一方の譲渡損失特例(41条の5と41条の5の2の他方)の適用を受けている
  • その年の前年以前3年内に、別の居住用財産の譲渡損失について同じ特例の適用を受けている(各条第1項ただし書)

「買い換えたが、2年前に別の家を3,000万円特別控除で売っていた」は現実に多い不適用パターンです。買い換えを2年空けるかどうかで結論が変わります。

適用期間の2年延長は、令和8年度税制改正によるものです。施行中の条文では、買換え型が平成10年1月1日から令和9年12月31日まで、ローン残債型が平成16年1月1日から令和9年12月31日までと定められています(e-Gov法令検索の租税特別措置法41条の5・41条の5の2、各第7項1号)。国税庁のタックスアンサーNo.3370とNo.3390は令和7年4月1日現在の法令等に基づくため「令和7年12月31日まで」と表示されたままなので、そちらだけを見て諦めないでください。

合計所得金額3,000万円の制限が効くのは繰越控除だけ

所得制限を「年収3,000万円を超えると特例が使えない」と理解していると判断を誤ります。3,000万円の制限は、措置法41条の5第4項および41条の5の2第4項のただし書に置かれており、これらはいずれも繰越控除を定めた項です。条文は「当該個人のその年分の所得税に係るその年の所得税法第二条第一項第三十号の合計所得金額が三千万円を超える年については、この限りでない」と書いています。

損益通算を定める第1項には、この制限がありません。売却した年に給与や役員報酬が3,000万円を超えていても、その年の損益通算は受けられます。制限がかかるのは翌年以降で、判定は年ごとです。2年目に3,000万円を超えて繰越控除が使えなくても、3年目に3,000万円以下へ戻ればその年は控除できます。1年でも超えたら権利が消えるわけではありません。

敷地500平方メートル超でも使える買換え型の按分縮減

多くの解説が「敷地500平方メートル以内であること」を要件として並べていますが、条文の構造は要件ではなく按分です。措置法施行令26条の7第12項は、譲渡資産に500平方メートル超の土地が含まれる場合、その土地に係る損失部分に「超過面積割合」を乗じた金額を控除して繰越控除の対象額を計算すると定めています。500平方メートルを超えても特例そのものは使え、超えた部分に対応する損失だけが繰越控除の対象から外れます。

この規定は措置法41条の5第7項3号を受けたもので、対象は買換え型だけです。ローン残債型の条文にも施行令にも500平方メートルの定めはなく、郊外の広い敷地をローンを残したまま売るなら面積は障害になりません。縮減が置かれているのは繰越控除の対象額(通算後譲渡損失の金額)の計算であって、売却年の損益通算の額を直接削るものでもありません。

住宅ローン控除と繰越控除が食い合う順序

買換え型では、新居について住宅ローン控除を受けながら譲渡損失の繰越控除を使えます。繰越控除は課税所得を減らし、住宅ローン控除は算出された税額から直接引くため、働く場所が違うからです。

ただし効き方には順番があります。繰越控除で課税所得が圧縮されると所得税額そのものが小さくなり、住宅ローン控除の枠を使い切れません。引ききれない分は翌年度の住民税から控除されますが、令和4年以降の入居では前年分の所得税の課税総所得金額等の5パーセント(97,500円が限度)までです(総務省)。しかも繰越控除で課税総所得金額等が縮むと、その5パーセントで決まる住民税側の控除枠自体も一緒に縮みます。繰越控除で課税所得がゼロになる年は、住宅ローン控除が所得税でも住民税でもほとんど機能しません。控除額の出し方は住宅ローン減税の確定申告|必要書類と還付金の計算・令和8年の変更点にまとめています。

確定申告の必要書類と3年間の繰越手続き

損失が出た年に添付する書類

売却した年の申告では、確定申告書(第一表・第二表)に加えて分離課税用の第三表と損失申告用の第四表を使い、次の書類を添付します。

  • 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】
  • 居住用財産の譲渡損失の金額の明細書《確定申告書付表》【租税特別措置法41条の5用】(ローン残債型は「特定居住用財産の譲渡損失の金額の明細書《確定申告書付表》【租税特別措置法41条の5の2用】」)
  • 居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書(租税特別措置法第41条の5用)。ローン残債型は先頭が変わり「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書(租税特別措置法第41条の5の2用)」
  • 譲渡資産の登記事項証明書、売買契約書の写しなど所有期間を明らかにする書類
  • 買換え型は新居の登記事項証明書と契約書の写し、年末における住宅借入金等の残高証明書
  • ローン残債型は譲渡資産に係る住宅借入金等の残高証明書

ローン残債型の残高証明書は「売買契約日の前日」時点のものが必要です(国税庁No.3390)。決済日でも年末でもないので、金融機関に依頼するときは基準日を明示し、売却後に完済して取得しにくくなる前に手配します。住民票の写しではなく戸籍の附票の写しを求められる場合もあります。

2年目以降に必要な連続申告

繰越控除は自動では続きません。措置法41条の5第5項は、損失が生じた年分の申告書を提出期限までに提出し、「その後において連続して確定申告書を提出しており」、かつ控除額の計算明細書を添付している場合に限り適用すると定めています。年末調整が済んでいてその年に控除する所得がなくても、繰越残高をつなぐために出し続けます。1年空けた時点で残りは使えません。

買換え型では、繰越控除を受ける各年の12月31日に新居の住宅ローン残高があることも要件です(41条の5第4項本文)。繰上返済で完済すると、その年以降の繰越控除は受けられません。

期限に遅れた場合の宥恕規定と上場株式との違い

申告期限を過ぎた場合の扱いは、制度によって差があります。措置法41条の5第3項は、申告書の提出がなかった場合や記載・添付を欠く申告書が提出された場合でも、「やむを得ない事情があると認めるとき」は、税務署長が書類の提出を受けて第1項を適用できると定めています。第6項がこの規定を繰越控除にも準用しているため、居住用財産の特例には期限に遅れた場合の救済の余地が条文上あります。

ただし救済は税務署長の判断であって権利ではなく、うっかり忘れたという理由が通る規定ではありません。対照的に、上場株式等の譲渡損失の繰越控除を定める措置法37条の12の2には、この「やむを得ない事情」の宥恕規定が置かれていません。同じ譲渡損失の繰越でも、期限を落としたときの回復可能性が違います。

よくある質問

不動産売却がマイナスなら確定申告は必要ですか?

売却損だけを理由とする申告義務は生じません。土地建物の譲渡所得は分離課税で、損失なら課税所得も税額もゼロになるためです。ただし居住用財産の2つの特例を使うなら申告は必須で、措置法41条の5第2項が申告書への記載と明細書の添付を適用要件としています。投資用や相続した不動産の売却損は特例の対象外なので、申告しても税額は変わりません。

不動産の売却損は給与所得と相殺できますか?

原則としてできません。措置法31条1項後段(短期は32条1項後段)が、その損失を「生じなかつたものとみなす」と定めているためです。例外はマイホームを売った場合の41条の5と41条の5の2だけ。ただし同じ年に売った土地建物どうしなら、長期と短期をまたいで相殺できます(31条1項・32条1項の各括弧書き)。

投資用マンションや相続した土地の売却損でも特例は使えますか?

使えません。2つの特例はいずれも自分が居住していた家屋とその敷地が対象で、賃貸用や相続した実家は該当しません(以前住んでいた家屋なら、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却が対象)。相続した不動産は所得税法60条1項で被相続人の取得費を引き継ぐため、損失自体が出にくい点にも注意が必要です。

譲渡損失の繰越控除は何年間できますか?

翌年以後3年内の各年に繰り越せるので、売却年と合わせて最長4年分の所得を圧縮できます。繰越控除の年だけは合計所得金額3,000万円以下が必要で、判定は年ごとです(措置法41条の5第4項ただし書)。

令和8年に売った場合でも特例の適用期限に間に合いますか?

間に合います。令和8年度税制改正で令和9年12月31日まで2年延長済みで、タックスアンサーの「令和7年12月31日」は更新前の表記です。

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