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退職給付引当金とは:退職給付債務との関係、簡便法と原則法の使い分け、計算例と仕訳、税務と給与データからの集計

退職給付引当金とは:退職給付債務との関係、簡便法と原則法の使い分け、計算例と仕訳、税務と給与データからの集計

退職給付引当金とは、退職金規程などで約束した退職金のうち、期末までの勤務で発生した分を固定負債に計上する勘定科目です。従業員300人未満の会社なら、期末に全員が自己都合で辞めたと仮定した退職金の合計額(期末自己都合要支給額)を、そのまま退職給付債務として使えます。この記事では、企業会計基準第26号と適用指針第25号、中小企業の会計に関する指針をもとに、退職給付債務との関係、簡便法と原則法の使い分け、計算例と仕訳、損金にならない税務の扱い、人事給与データから要支給額を集計して会計システムへ渡す仕組みまで解説します。

まとめ:退職給付引当金は期末自己都合要支給額との差額で毎期補充する負債

退職一時金制度だけを持つ中小企業の実務は単純です。期末の自己都合要支給額を引当金の残高とし、期首残高から当期に払った退職金を引いた額との差を退職給付費用として計上します。期首8,000万円、支払600万円、期末の要支給額8,700万円なら、費用は1,300万円です。

年金資産の運用や割引率の見積りを伴う原則法は、従業員300人以上の会社や企業年金を持つ会社の論点です。中退共や企業型DCのように掛金を払えば追加負担が生じない制度では、引当金を計上しません。

税務では退職給付引当金の繰入額は損金にならず、申告書で加算し、退職金を払った期に減算します。決算の手間を決めるのは計算式ではなく、要支給額の元になる勤続年数・算定基礎額・支給率をどこまで正確に集められるかです。

退職給付引当金とは:退職金の見込みのうち期末までに発生した分を積む固定負債

退職金は退職した日に払いますが、その原資は入社から退職までの勤務です。勤務した期ごとに費用を配分し、まだ払っていない累計額を負債として持つのが退職給付引当金です。

中小会計指針53項:退職金規程がある会社は確定給付制度として引当が要る

令和7年9月19日に修正された中小企業の会計に関する指針の53項は、就業規則等に基づく退職一時金、厚生年金基金、確定給付企業年金を採用している会社は従業員に法的債務を負っているため、引当金の計上が必要だとしています。

規程が無くても安心はできません。57項は、退職金規程も支払の合意も無ければ退職給付債務は計上できないとしつつ、支給実績があり、今後も払う見込みが高く、額を合理的に見積れる場合は、重要性が無い場合を除き引当金が必要だとしています。慣行で退職金を払っている会社は、この但し書きに当たります。

中退共・企業型DCは掛金を費用にし、退職給付引当金を計上しない理由

同じ指針の56項は、中小企業退職金共済、特定退職金共済、確定拠出年金のように拠出後に追加の負担が生じない制度は、掛金を費用として処理するとしています。会社の義務が掛金を払った時点で終わるため、将来に向けた負債が残りません。

注意が要るのは併用している会社です。退職一時金の一部を中退共から支給する規程なら、期末自己都合要支給額から中退共が給付する額を除いた額が会社の負担分になります。制度の組み合わせ方は退職金制度の種類と企業規模別の選び方を解説した記事で整理しています。

退職給付債務・年金資産・退職給付に係る負債と退職給付引当金の関係

企業会計基準第26号「退職給付に関する会計基準」の13項は、退職給付債務から年金資産を引いた額を負債に計上するとしています。連結財務諸表での科目名は27項の「退職給付に係る負債」です。

個別財務諸表は39項の「当面の取扱い」で扱いが異なります。退職給付債務に未認識数理計算上の差異と未認識過去勤務費用を加減し、年金資産を引いた額を「退職給付引当金」として固定負債に計上します。退職一時金だけの会社には年金資産も未認識項目も無いため、退職給付債務がそのまま引当金の額です。

翌期に払う賞与を流動負債に積む賞与引当金の計算方法と仕訳を解説した記事とは、期間の長さと計算の方法が異なります。引当金全般の種類と分類は、引当金を扱う別の記事で詳しく解説します。

原則法と簡便法の使い分け:従業員300人未満かと数理計算の信頼性で決まる

退職給付債務の計算には、数理計算を行う原則法と、要支給額を基にする簡便法があります。どちらを使うかは会社の規模と制度ごとに判断します。

原則法の計算:退職給付見込額を勤務期間に帰属させ割り引く手順

原則法は、会計基準16項から20項の手順で計算します。

  1. 昇給や退職率を織り込み、退職時に払う退職給付見込額を見積る(18項)
  2. 見込額のうち期末までに発生した分を、期間定額基準か給付算定式基準で計算する(19項)
  3. 国債・政府機関債・優良社債の期末利回りを基礎にした割引率で現在価値に割り引く(20項)
  4. 年金資産があれば時価を引き、未認識の差異を加減する(13項・39項)

従業員ごとの退職率や死亡率を扱うため、通常は年金数理人や信託銀行に計算を委託します。どの会計基準に従って決算を組むかは日本で使える4種類の会計基準を整理した記事で確認できます。

適用指針47項:簡便法を使える小規模企業等の範囲と制度ごとの判定

企業会計基準適用指針第25号の47項は、簡便法を使える小規模企業等を原則として従業員数300人未満の企業としています。300人以上でも、年齢や勤務期間に偏りがあって原則法の結果に高い信頼性が得られない場合は簡便法を使えます。

ここでの従業員数は、退職給付債務の計算対象となる人数です。退職金規程の対象外の人は数えません。制度を複数持つ会社は制度ごとに判定し、従業員数は毎期変わるので一定期間の人員の見通しを踏まえて決めます。

簡便法で選べる3つの方法:要支給額そのまま・係数補正・比較指数

適用指針50項(1)は、退職一時金制度の簡便法として次の3つを挙げています。いったん選んだ方法は原則として継続します。

方法 退職給付債務の出し方 向いている会社
50項(1)③ 期末自己都合要支給額をそのまま使う 数理計算の基礎が無い中小企業
50項(1)② 要支給額に昇給率係数と割引率係数を掛ける 平均残存勤務期間を把握できる会社
50項(1)① 原則法で求めた比較指数を要支給額に掛ける 過去に原則法で計算した実績がある会社

中小企業の会計に関する指針55項が「会社が自ら計算することができる方法」として示しているのも③です。厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、退職給付制度がある30〜99人の企業の77.2%が退職一時金制度のみでした。中小企業の大半は③で足ります。

簡便法から原則法へは変えられるが、原則法から簡便法へは戻れない

適用指針111項は、簡便法から原則法への変更は認める一方、原則法から簡便法への変更は、従業員の著しい減少や制度の改訂で数理計算の信頼性が保てなくなった場合などを除き認めないとしています。

上場準備で原則法に切り替えると、その後に人員を絞っても簡便法には戻せません。原則法にすると毎年の数理計算の委託費と、割引率の見直しによる損益の振れを抱え続けます。監査法人や親会社から求められていない段階で、原則法へ先回りして移るのは過剰です。

簡便法の計算例と仕訳:期首残高・退職金支払・期末要支給額から費用を出す

ここからは、3月決算・従業員40人・退職一時金制度のみの会社を例に、50項(1)③で計算します。

期首8,000万円・支払600万円・期末8,700万円で退職給付費用1,300万円

適用指針49項(1)は、期首の退職給付引当金から当期の退職金支払額を引いた残高と、期末の負債との差額を退職給付費用とします。

項目 金額
期首の退職給付引当金(前期末の自己都合要支給額) 80,000,000円
当期の退職金支払額(2人分) 6,000,000円
期末の自己都合要支給額(在籍38人+当期入社2人) 87,000,000円
退職給付費用(期末残高との差額) 13,000,000円

計算式は87,000,000−(80,000,000−6,000,000)=13,000,000円です。費用の1,300万円には、1年分の勤続の伸び、昇給による算定基礎額の増加、支給率の段階が上がった分がまとめて入ります。会社都合の退職で自己都合より多く払った差額も、期末の補充で自動的に費用へ吸収されます。

退職金の支払時と期末の仕訳、退職給付費用を販管費と製造原価に分ける

源泉徴収税額が生じない額を払った前提で、仕訳は次の2本です。

時点 借方 貸方
退職金の支払時 退職給付引当金 6,000,000円 普通預金 6,000,000円
3月31日 退職給付費用 13,000,000円 退職給付引当金 13,000,000円

借方の科目は「退職給付引当金繰入額」でも構いません。会計基準28項により、退職給付費用は原則として売上原価か販売費及び一般管理費に計上するため、工場の従業員の分は製造原価に振り分けます。退職所得の源泉徴収がある場合は貸方に預り金が加わり、退職金の源泉徴収票も同じ支払データから起こす帳票です。期末の他の整理仕訳との並びは決算整理仕訳の主な9項目を一覧にした記事で扱っています。

係数補正なら同じ要支給額でも引当額は約13%小さい:適用指針設例9

適用指針の設例9は、50項(1)②の計算例を載せています。昇給率3.5%、割引率4.5%、平均残存勤務期間15年の前提で、【資料1】【資料2】の係数は昇給率1.67535、割引率0.51672です。期末の要支給額500,000に両方を掛けると、退職給付債務は432,843になります。

要支給額をそのまま使う③より約13%小さい額です。ただし係数の前提を置く根拠が要り、平均残存勤務期間の集計も毎期必要になります。負債を小さく見せる目的だけで②を選ぶのは避け、昇給の見通しと従業員の年齢構成を説明できる会社が使う方法と考えてください。

退職金規程があるのに未計上だった会社は適用時差異を10年以内で処理

中小企業の会計に関する指針58項は、退職金規程がありながら引当金を計上してこなかった会社について、新たに計上する額(適用時差異)を10年以内の一定の年数か従業員の平均残存勤務年数のいずれか短い年数で、定額法により費用にできるとしています。未償却の額は注記します。

要支給額が6,000万円あって一度も計上していない会社が10年で処理すれば、毎年600万円を通常の退職給付費用とは区分して計上します。一度に計上すれば純資産が6,000万円減る場面でも、この特則を使えば1年あたりの影響を600万円に抑えられます。

税務の扱い:退職給付引当金は損金不算入で、退職金を払った期に減算する

会計で計上が必要な退職給付引当金も、法人税の計算では損金になりません。

平成14年度の税制改正で廃止された退職給与引当金と現行の損金不算入

かつての法人税法には退職給与引当金の制度があり、限度額までは繰入額を損金にできました。この制度は平成14年度の税制改正で廃止され、残高は経過措置で取り崩されました。国税庁の法人税基本通達の改正(経過的取扱い)に、旧法人税法第54条の退職給与引当金の取崩しの扱いが残っています。

現在は法人税法第22条第3項第2号により、期末までに債務が確定していない費用は損金になりません。中小企業の会計に関する指針50項の表も、退職給付引当金を「損金不算入」に分類しています。

別表四で繰入額1,300万円を加算し、支払った600万円を減算する流れ

設例では、当期の申告書の別表四で退職給付費用1,300万円を加算(留保)し、引当金を取り崩して払った退職金600万円を減算(留保)します。退職金は退職して額が確定した期の損金になるため、払った年に減算するわけです。差し引き700万円が、別表五(一)の利益積立金額に積み増されます。

退職給付引当金の残高は、従業員が退職するまで数十年かけて少しずつ損金になる将来減算一時差異です。税効果会計を適用する会社では、回収可能性を見て繰延税金資産を計上します。税効果会計の仕組みは、税効果会計を扱う別の記事で詳しく解説します。

人事給与データから期末自己都合要支給額を集計し会計システムへ仕訳連携する設計

簡便法の計算式は1行ですが、要支給額は従業員1人ずつの勤続年数・算定基礎額・支給率を掛け合わせた合計です。この数字は会計システムの中に無く、人事給与システムと退職金規程にあります。

要支給額の集計に必要な6項目と、退職金規程の版を日付で持つ理由

期末に要支給額を出すには、従業員ごとに次の項目が要ります。

  • 社員番号・入社日と、休職や出向など勤続から除く期間
  • 算定基礎額(退職時基本給、またはポイント制の累計ポイント)
  • 勤続年数別の自己都合支給率表と、適用する規程の版
  • 中退共など外部の制度から支給される見込額
  • 部門コード(製造原価と販管費の振り分け用)
  • 期中退職者の支払額と支払日

規程を改定すると、期末時点で有効な版の支給率による再計算が必要です。版を日付で持っていないと、改定前の率で集計したまま引当額を誤ります。支給率表と端数処理を計算ロジックに落とす方法は退職金の4つの算定方式と規程から計算ロジックへの落とし方を解説した記事で扱っています。

決算時だけでなく年間見込額の12分の1を毎月計上する月次引当の組み方

期末に1回だけ1,300万円を入れると、3月の月次損益だけが大きく落ちます。前期の実績や人員計画から年間の退職給付費用を見積り、12分の1の約108万円を毎月「退職給付費用/退職給付引当金」で入れ、期末に要支給額との差を調整すれば、月次の山はなくなります。

毎月の仕訳を自動で起こすなら、部門コード別の按分比率と、期中の退職金支払を引当金の取崩しに振る仕訳ルールを会計側に持たせます。科目マスタと自動仕訳ルールの組み方は会計ソフトの勘定科目と自動仕訳ルールの設計を解説した記事が参考になります。

表計算で足りる会社と、給与と会計の連携を組むべき会社の業務上の境界

従業員30人前後で規程の改定もまれ、年1回の決算で引き当てるだけの会社は、表計算で要支給額を計算し、手で仕訳を入れれば足ります。この規模で連携の仕組みを作るのは過剰です。

ポイント制で毎月ポイントが加算される会社、複数の規程や拠点を持つ会社、製造原価と販管費に分けて月次で引き当てる会社では、手集計の転記ミスが引当額と部門損益をゆがめます。給与計算の製品が要支給額を出せるかは給与計算システムの機能と個別開発の判断を解説した記事で確認できる内容です。製品のままでは会計システムへ渡せない場合、一創の会計・経理システム開発では、人事給与データから期末自己都合要支給額を部門別に集計し、月次の引当仕訳と退職金支払時の取崩しを自動で起こす連携を設計します。

よくある質問

退職給付引当金について、よく出る質問に答えます。

退職給付引当金と退職給付債務は何が違いますか?

退職給付債務は、退職金の見込額のうち期末までに発生した分を計算した金額です。退職給付引当金は貸借対照表に載せる負債の科目で、退職給付債務から年金資産を引き、未認識の差異を加減した額になります。退職一時金だけで簡便法を使う会社では、年金資産も未認識項目も無いため、両者は同じ額です。

中小企業でも退職給付引当金を計上しなければなりませんか?

退職金規程があれば、中小企業の会計に関する指針53項により計上が必要です。税務では損金にならないため、税務の数字に合わせて計上していない中小企業もありますが、その場合は負債が実態より小さく表示され、退職者が出た年に一度に費用が出ます。未計上の額は58項の特則で10年以内に分けて処理できます。

中退共に加入していれば退職給付引当金は不要ですか?

中退共だけで退職金を払う会社なら、掛金を費用にするだけで引当金は要りません。退職金規程で中退共の給付を上回る額を会社から上乗せする場合は、上乗せ分が確定給付制度にあたります。その場合は期末自己都合要支給額から中退共の給付見込額を除いた額を引き当てます。

なぜ会社都合ではなく自己都合の要支給額を使うのですか?

中小企業の会計に関する指針55項と適用指針50項が、簡便法の基準を期末自己都合要支給額としているためです。期末時点で全員が自己都合で辞めた場合に払う額は、規程から確実に計算できます。会社都合の割増分は、実際に払った期の退職給付費用として吸収されます。

賞与引当金と退職給付引当金はどこが違いますか?

賞与引当金は翌期に払う賞与のうち当期の勤務に対応する額で、1年以内に払うため流動負債です。退職給付引当金は退職時まで払わないため固定負債で、残高は勤続とともに積み上がります。どちらも税務では損金不算入です。賞与側の計算と仕訳は賞与引当金の計算方法と仕訳の記事で扱っています。

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