キャッシュバランスプラン(CBプラン、CB年金)は、従業員ごとの仮想的な口座に会社が毎年の持分を積み上げ、そこに国債利回りなどの指標に連動した利息を付けていく企業年金です。多くの会社では退職金の一部をこの制度に移しており、トヨタ自動車企業年金基金のように「退職金の約54%を移行した」と明示している例もあります。制度の区分は確定給付企業年金(DB)ですが、残高が個人単位で見える点は確定拠出年金(DC)に似ています。この記事では確定給付企業年金法の条文、各基金の公開資料、2026年時点の統計をもとに、仕組み・DBやDCとの違い・給付額の計算・受け取り方・自分の会社の制度の確かめ方・企業側の判断材料を整理します。
まとめ
- CBプランは法律上ふつうの確定給付企業年金です。運用リスクを負うのは企業であり、加入者が運用商品を選ぶ場面はありません。退職により一時金で受け取れば、税法上も退職金(退職手当等)として扱われます。
- 給付額は「持分付与額の累計」に「指標連動の利息付与額」を上乗せして決まります。指標には国債利回りのほか、定率・積立金の実績運用利回り・それらの組合せ・上下限付きの5類型が使えます(確定給付企業年金法施行規則29条)。
- 指標が下がっても、給付額の算定上は付与済みの元本を割りません。ただし制度終了時の残余財産分配と、手続を経た給付減額はこの保護の外にあります。
- 指標・上下限・利率は会社(基金)ごとに違います。トヨタ自動車企業年金基金は過去5年の10年国債応募者利回りの平均を上下限2〜4%で使い、名古屋薬業企業年金基金は年2.5%の定率です。自分の制度は規約か基金の公開ページで確かめられます。
- CBに加入していると企業型DCの拠出枠は「他制度掛金相当額」の分だけ削られます。2026年12月1日から企業型DCの基準額が55,000円から62,000円へ上がり、iDeCo側の計算方法も同時に組み替わります。
キャッシュバランスプランの仕組み
仮想個人口座に積み上がる2つの付与額
CBプランでは、加入者一人ひとりに仮想個人口座(キャッシュバランス口座、仮想個人勘定)を割り当てます。英語では cash balance pension plan と呼ばれ、日本の制度もこの設計を取り入れたものです。口座に積み上がるのは次の2つです。
- 持分付与額(ペイ・クレジット):会社が毎年(または毎月)割り当てる元本部分。定額、給与×一定割合、ポイント×単価のいずれかで決めます。
- 利息付与額(インタレスト・クレジット):規約で定めた指標を使って、前期までの残高に付ける利息部分。条文はこの指標連動の再計算を再評価と呼んでいます。
「仮想」という言葉が付くのは、この口座に対応する現金が個人名義で分別管理されているわけではないからです。掛金は制度全体でまとめて運用され、口座は給付額を計算するための記録にすぎません。三菱UFJ信託銀行の用語解説も、個人別残高は算定時点の給付額であって保有資産の残高ではないと注記しています。加入者が仮想口座から自由に残高を引き出すことはできません。DCとの違いは、加入者自身が運用商品を選択しない点です。
確定給付企業年金法における位置づけ
CBプランは、2002年(平成14年)4月から厚生年金基金の加算部分と確定給付企業年金で認められた給付設計です。根拠は確定給付企業年金法施行令24条1項3号で、給付額の算定方法のひとつとして次のように書かれています。
加入者であった期間のうち規約で定める期間ごとの各期間につき、定額又は給与の額その他これに類するものに一定の割合を乗ずる方法により算定したものの再評価を行い、その累計額を規約で定める数値で除する方法
条文にキャッシュバランスプランという語は出てきません。確定給付企業年金の給付設計の一類型であり、DBやDCと並ぶ第3の制度が新設されたわけではないのです。DBには、労使が合意した規約で実施する規約型と、別法人の企業年金基金を設立して実施する基金型があり、CBはどちらでも採用できます。年金として支給する場合は、終身または5年以上にわたって年1回以上定期的に支給しなければなりません(確定給付企業年金法33条ただし書)。
CB年金と退職金の関係
「CBは退職金なのか」という疑問には、制度と税金の両面から「退職金の一部を年金化したもの」と答えられます。日本の企業年金の多くは退職一時金制度を移して作られており、トヨタ自動車企業年金基金はCB年金の説明で「退職金の約54%を移行したCB年金」と書き、掛金は事業主が全額負担しているとしています。残りは会社が直接払う退職一時金として残る、という二本立てが典型です。
税法上も、確定給付企業年金法に基づいて加入者の退職により支払われる一時金は退職手当等とみなされます(所得税法31条3号)。本人が掛金を負担していた場合は、その負担分を除いた部分に限られます。つまり退職時にCBを一時金で受け取れば、会社の退職一時金と同じく退職所得控除の対象になります。
DB・DC・CBの違い
DBとDCは何の略か
DBはDefined Benefit(確定給付)、DCはDefined Contribution(確定拠出)の略です。ただし「DBは受け取る額が決まっている制度」という説明は正確ではありません。確定給付企業年金法32条が定めているのは、給付の額は政令で定める基準に従い規約で定めるところにより算定した額とする、ということです。あらかじめ確定しているのは金額そのものではなく算定方法であり、だからこそCBのように指標で金額が動く設計もDBに含まれます。DCは払い込む額が決まっていて、受け取る額は運用成果で変わります。
どちらも公的年金(国民年金・厚生年金)の上に会社が任意で乗せる私的年金です。厚生年金には法律上の加入義務がありますが、企業年金は会社が制度を持っていなければ存在しません。信託協会・生命保険協会・JA共済連の企業年金(確定給付型)の受託概況(令和8年3月末・速報値、2026年8月27日一部訂正版)は、確定給付型の加入者総数896万人を民間サラリーマンの約21%と推計しています。
DB・CB・企業型DCを分ける7つの軸
CBを加えて並べると、CBがDBの内側にある設計だとわかります。
| 比較軸 | 従来型のDB | CBプラン | 企業型DC |
|---|---|---|---|
| 制度区分 | 確定給付 | 確定給付 | 確定拠出 |
| 給付額の基礎 | 給与・勤続年数・ポイント | 持分付与額+指標連動の利息 | 掛金+運用成果 |
| 運用リスクの負担 | 企業 | 企業 | 加入者 |
| 運用商品の選択 | 不可 | 不可 | 加入者が指図 |
| 算定上の元本割れ | 元本の概念なし | 割らない(規則29条) | あり得る |
| 残高の見える化 | しにくい | 口座残高で明示 | 口座残高で明示 |
| 60歳前の受け取り | 脱退一時金あり | 脱退一時金あり | 原則不可 |
元本割れの行は給付額の算定についての比較で、制度終了時の残余財産分配や手続を経た給付減額は保護の外にあります(後述)。
リスク分担型企業年金との違い
DBとDCの中間に位置する制度はCBだけではありません。2017年1月1日施行の確定給付企業年金制度の改正で、リスク分担型企業年金が導入されました。厚生労働省の概要資料によると、事業主がリスクへの対応分も含む固定の掛金を拠出し、財政バランスが崩れた場合には給付の調整を行うことで、加入者も一定のリスクを負う仕組みです。
両者の違いは、給付が減る引き金にあります。CBで給付が動く理由は指標の変動で、算定上の元本は守られます。リスク分担型は掛金が固定され、積立金が足りなくなれば給付そのものが調整されます。加入者から見たリスクはリスク分担型のほうが大きく、企業から見た追加拠出のリスクはCBのほうが大きい、という対称な関係です。
DB見直し時のCBへの設計変更とDC併用
DBからDCへの全面移行は、運用リスクを従業員へ移すことを意味します。移行後に相場が崩れれば老後資金が目減りし、労使交渉では説明のつきにくい変更になります。企業年金連合会の企業年金実態調査結果(2024年度概要版)の図表9で今後の制度見直しを聞いたところ、確定拠出年金への移行または移行割合の増加を挙げた会員DBは764制度中42制度(5.5%)にとどまり、検討の予定はないが340制度(44.5%)で最多でした。
CBはその中間解として使われます。残高が見える点はDCと同じにしつつ、算定上の元本割れリスクは企業が引き受けたままにできるためです。DBの給付を全部DCへ振り替えるのではなく、CBへ設計変更したうえで一部だけDCを併用する形が、実務では現実的な落としどころになります。
給付額の決まり方
再評価に使える指標の5類型
再評価と年金額改定に使える率は、確定給付企業年金法施行規則29条が次の5つに限定しています。
- 定率
- 国債の利回りその他の客観的な指標であって、合理的に予測することが可能なもの
- 積立金の運用利回りの実績
- 上の3つを組み合わせたもの
- 上の3つに上限または下限を定めたもの
実務では2番目の国債利回りに5番目の上下限を組み合わせる例が多く、単年度の利回りでなく複数年の平均を使って給付額の振れを均します。上下限を付ければ、金利急騰時の企業負担と金利急落時の従業員の目減りを同時に抑えられます。各基金の具体的な設定は、後半の「自分の会社のCBを確かめる方法」で実例を挙げます。
指標下落時に元本が守られる法的根拠
CBを「元本確保型」と説明する解説は多いのですが、根拠は規則29条のただし書です。引用中の「同条」は確定給付企業年金法施行令24条を指します。
同条第一項第三号に掲げる給付の額の算定方法を用いて給付の額を計算する場合にあっては、次の各号のいずれの率に基づき再評価を行う場合でも、当該再評価後の累計額が、当該再評価を行わなかった場合の累計額を下回ってはならない
指標に積立金の実績運用利回りを選んだ規約でも、運用がマイナスになった年に付与済みの持分が削られることはありません。ここが企業型DCとの実質的な差です。支給開始後の年金額改定については規則26条3項1号ただし書が別に手当てしており、改定に用いる予定利率を零を下回らない範囲で設定できます。
ただし、この保護が及ぶのは給付額の算定だけです。制度が終了して残余財産を分配する場面(法89条6項)で受け取れるのは残った財産であり、積立不足があれば仮想個人口座の残高どおりの額になるとは限りません。また、労働協約等の変更や実施事業所の経営状況の悪化を理由に、所定の手続を経て給付額を減額することも法令上は可能です(施行令4条2号、施行規則5条)。守られているのは「指標が下がっても算定上の元本を削らない」という一点です。
下限予定利率の推移(2024〜2026年度)
掛金計算の前提となる下限予定利率は、10年国債の応募者利回りをもとに厚生労働大臣が毎年度定めます。企業年金連合会が公表している推移は、令和6年度0.1%、令和7年度0.3%、令和8年度0.6%です。積立不足を判定する最低積立基準額の算定に使う予定利率も、令和6年度0.86%、令和7年度1.17%、令和8年度1.64%と上がりました。
金利上昇局面では、企業は掛金の前提利率を引き上げやすくなり、掛金負担が下がる方向に働きます。同時に、国債利回りを指標にしているCBでは利息付与額も増えます。なお加入者500人未満の制度には簡易基準があり、予定利率は下限予定利率以上4.0%以下の範囲で設定します(規則52条)。
残高の試算例
月給30万円、持分付与率3%(年10万8,000円)、利息付与率が年1.0%で一定、期末に前年度末残高へ利息を付ける規約という前提で計算します。
| 経過年数 | 持分の累計 | 口座残高 |
|---|---|---|
| 1年 | 108,000円 | 108,000円 |
| 2年 | 216,000円 | 217,080円 |
| 3年 | 324,000円 | 327,251円 |
| 10年 | 1,080,000円 | 1,129,919円 |
| 30年 | 3,240,000円 | 3,756,768円 |
30年で利息部分は約51万7,000円です。仮に指標が0%で推移しても、残高は持分の累計である324万円を下回りません。逆に言えば、利息付与率が年1%程度では利息が資産形成の主役にはならず、効いてくるのは持分付与率のほうです。制度説明を受けるときは、指標の種類より先に給与に対する付与率を確認するのが実際的です。
受け取り方と税金
年金と一時金の選択
受給開始時には、規約の定めに沿って年金受給と一時金受給を選びます。老齢給付を年金で受け取れば公的年金等に係る雑所得、退職により一時金で受け取れば原則として退職所得です。年金受給開始後に将来の給付の一部だけを一時金に替える場合などは、一時所得となることがあります。退職所得は退職所得控除後の残額の2分の1が課税対象になるのが原則ですが、勤続5年以下の短期退職手当等では控除後300万円を超える部分に2分の1課税が適用されず(国税庁タックスアンサーNo.2740)、特定役員退職手当等にも例外があります。CBの一時金は会社の退職一時金と合算して控除を計算するため、控除枠を使い切っていれば追加分にそのまま税負担が生じます。有利不利は、他の退職金や公的年金の額も含めて比較します。源泉徴収の扱いは退職所得の受給に関する申告書の書き方|A〜E欄の記入例と出さないと20.42%【令和8年様式】で確認できます。年金受給を選んだ場合の申告要否は年金受給者が確定申告しないとどうなる?令和8年分は12月の精算後も申告が要る人がいるが判断材料になります。
iDeCoや企業型DCと重なるときの控除調整
CBの一時金とDC・iDeCoの老齢一時金を同じ年や法定の調整対象期間内に受け取り、それぞれの算定基礎となる勤続期間・加入期間が重複する場合は、退職所得控除の調整対象になります。所得税法施行令70条1項2号は令和8年(2026年)1月1日以後、次の3通りで判定します。改正で変わったのは2つ目だけです。
- 通常の退職手当等どうしは、その年の前年以前4年内に受け取ったものと重複判定する
- DC・iDeCoの一時金を先に受け取り、あとから退職手当等を受け取る場合は前年以前9年内。対象は令和8年1月1日以後に受け取ったDC・iDeCoの一時金と退職手当等に限られる
- 退職手当等を先に受け取り、あとからDC・iDeCoの一時金を受け取る場合は前年以前19年内(従来どおり)
CBの一時金は退職手当等に当たるので、iDeCoを併用している人はどちらを先に受け取るかで手取りが変わります。iDeCo側の税務処理はiDeCoの確定申告と年末調整はどっち?判断表と書き方・還付額の出し方にまとめました。
転職・退職時の移換先
加入者資格を失ったときの選択肢は、確定給付企業年金法が次のように用意しています。
- 転職先が確定給付企業年金を実施していて、受け入れる旨を規約に定めている場合は、脱退一時金相当額を移換できる(81条の2)
- 企業型DCまたはiDeCoの加入者資格を取得したときは、脱退一時金相当額を移換できる(82条の3)
- 他の移換先を選べる場合も、企業年金連合会へ脱退一時金相当額を移換し、通算企業年金として受け取る選択肢がある(91条の19)
- 制度が終了した場合はiDeCoへ残余財産を移換でき(82条の4)、合併等で中小企業退職金共済へ移る場合は本人の同意を得て積立金を機構へ移換できる(82条の5)
移換先の規約に受け入れ規定が要るのは、DBからDBへ移す1つ目のルートだけです。企業型DC・iDeCo(82条の3)と企業年金連合会(91条の19)は移換先の規約を問いません。注意すべきは期限で、これらの申出は加入者の資格を喪失した日から1年以内に限られます(施行令50条の2第1項、82条の3については同令54条の6の準用、91条の19については同令65条の17第1項)。事業主にはこの期限を説明する義務があります(同令54条の7)。期限を過ぎると移換はできなくなりますが、規約の要件を満たせば脱退一時金の受給を繰り下げて元の制度に据え置き、後から年金で受け取れる場合があります。たとえば大阪薬業企業年金基金の加入者向けハンドブックは、加入者期間10年以上で65歳未満で資格を失った人に、脱退一時金を60歳まで繰り下げて老齢給付金として受け取る道を用意しています。
自分の会社のCBを確かめる方法
規約と基金の公開ページで見る5項目
CBは「指標に連動する」という骨格だけが共通で、利率の水準や上下限、年金の支給期間は会社ごとに違います。自分の制度を知りたいときは、規約型なら会社の人事部門が配る規約・制度説明書、基金型なら企業年金基金のウェブサイトや加入者向け通知で、次の5項目を確かめます。
- CBか、CB類似制度か(積立期間中も指標に連動するのか、支給開始後だけか)
- 再評価に使う指標と上下限(定率か、国債利回りの何年平均か)
- 持分付与額の決め方(給与×率か、ポイント×単価か)
- 年金の支給期間と保証期間(終身か有期か、保証期間内に亡くなった場合の遺族への支給)
- 退職後、受給開始までの待期期間に利息が付くか、その利率
公開範囲は基金によって差があり、トヨタ自動車企業年金基金のように用語集で指標まで公開している基金もあれば、加入者専用ページにしか載せていない基金もあります。公開ページで見つからない項目は、規約の該当条文を人事部門か基金に照会するのが確実です。
公開されている3基金の設定例
実際の基金が公開している設定を並べると、同じCBでも設計の幅が大きいことがわかります。
| 基金 | 方式 | 指標・利率 | 上下限 |
|---|---|---|---|
| トヨタ自動車企業年金基金 | CB類似制度 | 10年国債応募者利回りの過去5年平均 | 2〜4% |
| 名古屋薬業企業年金基金 | CB | 年2.5%(定率) | なし |
| 大阪薬業企業年金基金 | CB | 年2.5%(定率) | なし |
トヨタ自動車企業年金基金は、再評価率の説明で、年金を支給するときと受給を繰り下げた期間に付ける利息に「過去5年の10年国債応募者利回りの平均値」を使い、2〜4%(2007年3月までは2.5〜3.5%)の上下限を設けていると公開しています。同基金のCB年金はCB類似制度で、年金を支給する際の利息だけを市中金利に連動させ、積立期間中の年金原資は固定されます。過去5年平均が2%を下回っている間は、適用される利率は下限の2%です。指標が下がっても下限で止まる設計は、規則29条の5類型でいえば「国債利回りに上下限を定めたもの」に当たります。
名古屋薬業企業年金基金は、加入期間中の利息、資格喪失から受給までの繰下げ待期期間の利息、年金として受ける場合の利息のいずれも年2.5%で月ごとに付けています。ただし令和8年10月1日以前に加入者資格を喪失した人は、すべて1.5%で計算すると注記しています。同じ基金でも、いつ資格を失ったかで適用利率が変わることがあるわけです。大阪薬業企業年金基金も、積立時・年金受給の繰下げ期間・受給期間の利率を年2.5%としています。ただし、加入期間10年未満の人の脱退一時金には、繰下げ期間中・未請求期間中の付利がありません。どちらも5類型のうち定率型で、国債利回りとは連動しません。
転職や退職のタイミングを考えている人は、退職後の待期期間にも利息が付く制度かどうかを確かめておくと、脱退一時金で受け取るか、受給開始まで据え置くかの判断材料になります。
企業がCBを選ぶかどうかの判断材料
退職給付会計で債務の振れが小さくなる理由
企業年金連合会の用語集は、CBが多くの企業年金で採用されている理由として、退職給付会計上の退職給付債務・費用の増加が抑制される点を挙げています。三菱UFJ信託銀行の用語解説によると、これは国債利回りを指標とする場合の効果です。低金利下では割引率の低下で退職給付債務・費用が増えますが、CBの指標も同時に下がって計算上の給付見込額が減るため、増加が相殺されます。
見落とされやすいのは逆方向です。同じ解説は、高金利下では割引率の上昇による退職給付債務・費用の減少も抑えられると書いています。2024年度から2026年度にかけて下限予定利率が0.1%から0.6%へ上がったような金利上昇局面では、従来型のDBなら債務が大きく縮むのに対し、CBでは縮み方も小さくなります。国債利回り連動型CBには債務の振れ幅を抑える効果が期待できますが、定率型や指標が上下限に達した場合には、同じ相殺効果は期待できません。退職給付債務の会計処理そのものは退職給付引当金とは:退職給付債務との関係、簡便法と原則法の使い分け、計算例と仕訳、税務と給与データからの集計で扱っています。
会員DB・会員外DBのCB採用率:約5倍の差
企業年金連合会の企業年金実態調査結果(2024年度概要版、2025年12月25日公表)の図表7によると、給付の算定方法としてCB(類似型を含む)を挙げた制度は、同会の会員DBでは798制度中365制度=45.7%です。ポイント制45.1%(360制度)とは5制度差にすぎず、給与比例27.8%、定額12.3%が続きます。一方、会員外DBでは863制度中81制度=9.4%にとどまり、ポイント制33.4%、給与比例33.0%、定額28.2%が上位です。いずれも複数回答可のため、合計は100%を超えます。
会員DBには基金型を中心とした比較的大きな制度が多く、退職給付債務の変動を抑える動機が強く働きます。中小規模の制度ではポイント制や定額のまま運用しているところが多数派で、CBは全DBに一律で広まった設計ではありません。制度全体では、確定給付企業年金は2026年3月末で11,513件・加入者885万人・資産残高71兆8,082億円(前掲の受託概況)です。
DC併用時の拠出限度額と2026年12月改正
CBは確定給付企業年金なので、その加入者は確定拠出年金法施行令11条1項1号ハにいう「他制度加入者」に当たります。他制度加入者の企業型DC拠出限度額は、基準額から「他制度掛金相当額」を差し引いた額です。CBの給付設計の変更などで他制度掛金相当額が増えれば、原則としてDC側の拠出枠は縮みます。ただし、積立不足を補う特別掛金など、実際の掛金の増額がそのまま他制度掛金相当額の増額になるわけではありません。CBとDCを別々に設計すると、後からDCの枠が足りないという形で跳ね返ってきます。
その計算方法が2026年12月1日から変わります。厚生労働省の改正案内でも、2026年10月時点で施行予定日は2026年12月1日のままです。
| 区分 | 2026年11月まで | 2026年12月から |
|---|---|---|
| 企業型DC(他制度なし) | 55,000円 | 62,000円 |
| 企業型DC(CB等のDB併用) | 55,000円-他制度掛金相当額 | 62,000円-他制度掛金相当額 |
| iDeCo(CB加入者・会社員) | 20,000円(超過時は減額) | 62,000円-他制度掛金相当額-事業主掛金 |
いずれも月額で、確定拠出年金法施行令11条・36条の改正によるものです。iDeCoの現行枠は20,000円の定額で、他制度掛金相当額と事業主掛金の合計が35,000円を超えたときにその超過分だけ減額されますが、改正後は企業型DCと同じく62,000円から差し引く方式に変わります。CBを実施している会社は、他制度掛金相当額を再計算したうえで、拡大した7,000円分をDCに回すのか、CB側の付与率引き上げに充てるのかを決めることになります。退職一時金・DB・企業型DC・中退共の組み合わせ全体を見直すなら、退職金制度の種類と選び方:一時金・DB・企業型DC・中退共の違いと企業規模別の判断基準で比較軸をそろえておくと議論が早くなります。
CBの採用を見送る条件:費用対効果と給付設計
CBの採用を見送るかどうかは、費用と効果の比較で決まります。加入者500人未満という規則52条の基準だけで不向きとは言えません。指標の設定、再評価の管理、残高通知にかかる追加費用を見積もり、債務変動の抑制や従業員への説明効果に見合わなければ見送ります。平均勤続年数が短く脱退一時金で抜ける従業員が多い会社は、代表的な退職年数ごとに現行制度とCBの給付額を試算し、差が小さければ制度変更をしない判断になります。
給付水準を下げる手段としてCBへ移行するケースもありますが、これは給付減額にほかならず、施行規則5条が定める理由と手続を避けて通れません。「見える化」を名目に説明を省けば、後の労使紛争の火種になります。仮想個人口座の残高を毎年通知する運用には、給与・人事データから持分付与額と利息付与額を計算する仕組みが要ります。既存の給与システムで扱えない場合は、人事・労務管理システム開発のように計算ロジックごと設計する選択肢もあります。
よくある質問
CBプランとDCの違いは何ですか?
運用リスクを誰が負うかが違います。CBは確定給付企業年金なので企業が運用リスクを負い、加入者は運用商品を選びません。給付額は規約の指標で決まり、算定上は付与済みの元本を割ることがありません。DCは加入者が運用を指図し、成果次第で受取額が増減します。残高が個人単位で見える点だけが両者の共通点です。
CBとは退職金のことですか?
退職金の一部を企業年金に移したもの、と考えるのが実態に近いです。会社の退職金制度のうち一定割合をCBで積み立て、残りを退職一時金として会社が直接払う設計が典型です。退職によりCBを一時金で受け取った場合は、所得税法31条3号により退職手当等とみなされ、退職所得として課税されます。
CBプランの退職金はいつ、どのように受け取れますか?
規約で定めた受給開始年齢に達したときに、年金または一時金で受け取ります。年金として支給する場合は終身または5年以上にわたり年1回以上支給する必要があります(確定給付企業年金法33条ただし書)。受給開始前に退職した場合は、規約の要件を満たせば脱退一時金を受け取るか、転職先のDB・企業型DC・iDeCo・企業年金連合会のいずれかへ移換します。移換の申出は資格喪失日から1年以内です。
キャッシュバランスプラン類似制度とは何ですか?
加入期間中は従来型のDBと同じ算定式で年金原資を決め、支給開始後の年金額だけを指標に連動させる設計です。企業年金連合会の用語集は「支給開始時点までは給付額を指標に連動させない」「支給開始後は、年金の最低額を保証しつつ、指標に連動させて年金額を改定する」と定義しています。トヨタ自動車企業年金基金が採用しているのはこの方式で、給付額の変動要因が少ないぶん、企業側の会計上の効果も通常のCBより小さくなります。
積立金の実績運用利回りを指標にした規約でも、残高は減りませんか?
前年より残高が減ることはあります。規則29条ただし書が保障するのは、再評価後の累計額が持分付与額の累計を下回らないことであり、過去の利息を含む残高の維持ではありません。運用がマイナスの年は利息付与額もマイナスになり、前年末より残高が下がることがありますが、累計で持分付与額の合計を割ることはありません。