賞与引当金とは、翌期に払う賞与のうち、当期に働いた期間に対応する額を決算で負債に載せる勘定科目です。3月決算の会社が6月に夏季賞与を払うなら、支給対象期間6か月のうち12月から3月までの4か月分が当期の費用になります。この記事では、中小企業の会計に関する指針と日本公認会計士協会の審理情報をもとに、未払費用や未払金との区別、計算方法と計算例、会社負担の社会保険料の扱い、期末と支給時の仕訳、税務で損金にならない理由と申告書での調整、給与システムから会計システムへ月次で引き当てる仕組みまで解説します。
まとめ:賞与引当金は支給見込額を支給対象期間で按分し、税務では加算する
賞与引当金の額は、翌期の支給見込額に「支給対象期間のうち当期に属する月数÷支給対象期間の月数」を掛けて出します。夏季賞与の見込みが1,800万円、支給対象期間が12月から5月の6か月なら、3月決算での計上額は1,200万円です。
期末に支給額が確定していれば、賞与引当金ではなく未払費用か未払金で計上します。科目を決める基準は、額が決まっているかどうかの1点です。
税務では、賞与引当金の繰入額は損金になりません。平成10年度の税制改正で制度が廃止されたためで、申告書で加算し、翌期に賞与を払った時点で減算します。会社負担の社会保険料も、同じ考え方で引き当てる対象です。決算のときだけでなく毎月引き当てると、6月と12月に利益が落ち込む月次の山谷が消えます。
賞与引当金とは:翌期に払う賞与のうち当期に働いた分を負債に載せる勘定科目
賞与は支給月にまとめて払われますが、その原資は支給対象期間の労働です。期末をまたぐ支給対象期間があると、当期に働いた分の費用が翌期に回ってしまいます。この期ずれを直すのが賞与引当金です。
中小会計指針49項の4要件と、賞与引当金が法的債務に分類される理由
令和7年9月19日に修正された中小企業の会計に関する指針の49項は、次の4つすべてに当てはまるものを引当金として計上しなければならないとしています。
- 将来の特定の費用または損失であること
- 発生が当期以前の事象に起因していること
- 発生の可能性が高いこと
- 金額を合理的に見積ることができること
賞与は就業規則や慣行で支給が見込まれ、当期の労働が原因で、過去の支給実績から額を見積もれます。4要件をすべて満たすため、50項は賞与引当金を「法的債務(条件付債務)である引当金」とし、負債として計上しなければならないと定めています。修繕引当金のように法的債務でない引当金が「重要性の高いもの」に限られるのとは、異なる扱いです。
賞与引当金と賞与引当金繰入額の違い:貸借対照表の負債と損益計算書の費用
賞与引当金は貸借対照表の負債の科目で、翌期に払う予定の残高を示します。1年以内に払うため、貸借対照表での表示区分は流動負債です。賞与引当金繰入額は損益計算書の費用の科目で、当期に計上した額を示します。
繰入額の表示区分は、指針の51項により引当金の目的に応じて決まります。営業や管理部門の従業員の分は販売費及び一般管理費、工場の従業員の分は製造原価です。部門別に分けずに全額を販管費に入れると、製造業では原価率が低く出ます。残高の科目と1年の動きの科目の関係は、貸借対照表と損益計算書の違いを設例の仕訳で追った記事で整理しています。
引当金全般の種類と分類は、引当金を扱う別の記事で詳しく解説します。
未払費用・未払金・賞与引当金の区別:期末に支給額が確定しているかで決まる
賞与を期末に負債として載せる科目は3つあります。どれを使うかを整理したのが、日本公認会計士協会のリサーチ・センター審理情報No.15(平成13年2月14日)です。
審理情報15号の判定:確定・期間対応なら未払費用、臨時の賞与なら未払金
審理情報No.15の本文は、財務諸表の作成時点で支給額が確定しているかどうかと、額の決め方で科目を分けています。
| 支給額 | 額の決め方 | 計上する科目と額 |
|---|---|---|
| 確定している | 支給対象期間に対応して算定 | 未払費用(当期に帰属する額) |
| 確定している | 期間以外の臨時的な要因(成功報酬的賞与など) | 未払金(その額) |
| 確定していない | - | 賞与引当金(支給見込額のうち当期に帰属する額) |
賞与引当金を使うのは、決算書を作る時点で額が決まっていない場合だけです。夏季賞与の額を5月の評価後に決める会社は、3月決算の時点では額が決まっていないため、賞与引当金で計上します。
「確定」には支給率・支給月数・支給総額が決まっている場合も含まれる
審理情報No.15の注記は、個々の従業員への支給額が決まっている場合のほか、支給率、支給月数、支給総額が決まっている場合も「確定」に含めています。労使交渉で「基本給の2.0か月分」と妥結していれば、1人ずつの額を計算していなくても確定です。
この場合の科目は未払費用です。労働組合との妥結が期末前か期末後かで科目が変わるため、決算の担当者は妥結日と取締役会の決議日を確認してから科目を決めます。
期末までに各人へ通知した決算賞与は、引当金ではなく未払費用で計上する
期末の業績を見て額を決め、期末日までに全員へ各人別の額を通知した決算賞与は、額が確定しています。科目は未払費用で、税務でも一定の要件を満たせば当期の損金として算入できる扱いです。この要件は決算賞与の損金算入の3要件と支給日在籍要件を解説した記事で扱っています。
同じ賞与でも、未払費用なら損金、賞与引当金なら損金不算入と、税務の結論が逆になります。科目の選び方は、表示の問題にとどまりません。
賞与引当金の計算方法:支給対象期間で按分する式と3月決算の計算例
計算の方法は2つあります。支給対象期間で按分する方法と、指針の52項が参考として載せている平成10年度改正前の法人税法の算式です。同じ前提なら、どちらでもほぼ同じ額になります。
支給見込額×当期に属する月数÷支給対象期間の月数で出す基本の式
基本の式は次のとおりです。
賞与引当金 = 翌期の支給見込額 × 支給対象期間のうち当期に属する月数 ÷ 支給対象期間の月数
設例は、3月決算、従業員30人、夏季賞与を6月25日に払い、支給対象期間は前年12月1日から5月31日までの6か月、1人あたりの見込額60万円の会社です。支給見込額は1,800万円、当期に属するのは12月から3月の4か月なので、1,800万円×4÷6で1,200万円を計上します。
冬季賞与の支給対象期間が6月から11月で12月に払う会社では、3月末に冬季賞与の未払いは残りません。3月決算の賞与引当金は、夏季賞与の分だけです。
中小会計指針52項が認める平成10年度改正前の法人税法の算式
指針の52項は、支給対象期間の定めがある場合、または定めがなくても慣行で支給月が決まっている場合に、平成10年度改正前の法人税法の算式で出した額が合理的な限り、その額を引当金にできるとしています。
算式は「前1年間の1人あたり賞与支給額×当期の月数÷12」から「当期に期末在職者へ払った賞与のうち当期に対応する1人あたりの額」を引き、期末の在職人数を掛けるものです。上の設例で前年の夏季と冬季が各60万円なら、前1年間の支給額は120万円です。当期に対応する額は、夏季のうち4月と5月の2か月分20万円と冬季の60万円で80万円になります。1人あたり40万円に30人を掛けて1,200万円となり、基本の式と一致します。
この算式は前年の実績だけで計算するため、昇給や業績による増減を反映しません。
支給見込額の見積り:前年実績に昇給率と人員の増減を加味する計算方法
日本公認会計士協会の「平成10年度の税制改正と監査上の取扱いについて」(1998年10月5日)は、賞与引当金を合理的な見積額で計上することとし、その1つとして過年度の実績に将来の支給見込みを加味する方法を認めています。
実務では、前年の夏季賞与の実績額に、4月の昇給率と4月入社・3月退職による人数の増減を掛けて見込額を出します。業績連動の比率が大きい会社では、支給月数を置き直す際の基準は期末の業績見通しです。前年実績をそのまま使う方法は、増収で支給月数を上げる年に引当額が不足し、翌期の利益を圧迫します。
会社負担の社会保険料も引き当てる:法定福利費の計算と上限の影響
賞与を払うと、会社負担の健康保険料と厚生年金保険料も同時に発生します。これも当期の労働に対応する費用なので、賞与引当金と合わせて引き当てる対象です。科目は賞与引当金に含める会社と、未払費用として別に立てる会社があり、どちらかに統一して継続します。
協会けんぽ東京支部の令和8年3月分からの保険料額表で、40歳未満の従業員の会社負担は、健康保険4.925%、子ども・子育て支援金0.115%、厚生年金9.15%の合計14.19%です。設例の1,200万円にこの料率を掛けた計算結果は、1,702,800円です。40歳以上の人には介護保険料が加わり、標準賞与額には上限があるため、高額の賞与では料率を掛けた額より実際の負担が小さくなります。上限の扱いは賞与の社会保険料の計算と573万円・150万円の上限を解説した記事で確認できます。
賞与引当金の仕訳:期末の繰入、翌期の取崩し、見込額との差額の処理
仕訳は、期末の繰入と翌期の支給時の取崩しの2回です。設例の数字で並べます。
期末3月31日の繰入仕訳と、会社負担の法定福利費を別に立てる場合の形
| 時点 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 3月31日(賞与分) | 賞与引当金繰入額 12,000,000円 | 賞与引当金 12,000,000円 |
| 3月31日(社保分) | 法定福利費 1,702,800円 | 未払費用 1,702,800円 |
社会保険料を賞与引当金に含める会社は、2行目を「賞与引当金繰入額/賞与引当金」で入れます。期末に入れる他の整理仕訳との並びは決算整理仕訳の主な9項目を一覧にした記事で扱っています。
6月25日の支給時は引当金を取り崩し、翌期に属する2か月分を賞与にする
見込みどおり1,800万円を払ったときの仕訳です。源泉所得税と本人負担の社会保険料は預り金に分けます。預り金の額は設例の概算です。
| 借方 | 貸方 |
|---|---|
| 賞与引当金 12,000,000円 | 普通預金 14,500,000円 |
| 賞与 6,000,000円 | 預り金 3,500,000円 |
1,200万円は前期に費用にした分なので、引当金を取り崩して当てます。残りの600万円は4月と5月の労働に対応する翌期の費用です。翌期も毎月引き当てている会社は、この600万円も4月と5月の引当金から取り崩します。
見込額と支給額がずれたときは、差額を支給した期の損益で処理する
業績が上がって支給額が1,950万円になった場合、当期に属する4か月分は1,300万円で、引当額より100万円多くなります。引当金1,200万円を取り崩し、残りの750万円を翌期の賞与として計上します。前期の決算をやり直す必要はありません。
逆に支給額が下がって引当金が余った場合は、余った額を取り崩して賞与の費用から差し引くか、賞与引当金戻入として収益に計上します。差額が毎年大きく出る会社は、見込額の置き方を見直すべき兆候です。
税務上の扱い:賞与引当金は損金不算入で、申告書で加算し支給した期に減算する
会計では計上しなければならない賞与引当金も、法人税の計算では損金になりません。
平成10年度の税制改正で廃止された賞与引当金と、指針52項に残る算式
かつての法人税法には賞与引当金の制度があり、繰入限度額までは損金に算入できました。審理情報No.15の前書きが記すとおり、平成10年度の税制改正で法人税法上の賞与引当金は認められなくなりました。改正前は税法の限度額で引き当てる会社が多く、52項の参考算式はこの限度額の計算方法をそのまま残したものです。
中小会計指針50項の表も、賞与引当金を「損金不算入」に分類しています。同じ表で「損金算入限度額あり」とされているのは貸倒引当金です。
法人税基本通達2-2-12の債務確定の3要件を賞与引当金が満たさない理由
法人税法第22条第3項第2号は、償却費以外の費用のうち期末までに債務が確定していないものを損金から除いています。法人税基本通達の2-2-12は、債務の確定を、期末までに債務が成立していること、具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること、金額を合理的に算定できることの3つがすべてそろう状態としています。
期末に額が決まっていない賞与は、債務の成立と金額の算定の2つを欠きます。使用人賞与には別に法人税法施行令第72条の3があり、国税庁のタックスアンサーNo.5350のとおり、期末までの各人別の通知などの要件を満たした分だけが支給前の期の損金になります。
別表四で加算・翌期に減算する流れと、税効果会計での将来減算一時差異
設例では、当期の申告書の別表四で賞与引当金繰入額1,200万円を加算(留保)し、別表五(一)の利益積立金額に同額を載せます。翌期に賞与を払って引当金を取り崩した時点で、1,200万円を減算(留保)します。損金になる時期が1年ずれるだけで、損金の総額は変わりません。
会社負担の社会保険料も、法人税基本通達の9-3-2により保険料の計算の対象となった月の末日の期の損金です。6月分の保険料は翌期の損金なので、期末に計上した1,702,800円も当期の申告での加算対象です。税効果会計を適用する会社では、この加算額が将来減算一時差異になり、回収可能性を見て繰延税金資産を計上します。税効果会計の仕組みは、税効果会計を扱う別の記事で詳しく解説します。
給与システムの支給予定データから会計システムへ月次で引当計上する連携設計
賞与引当金の計算に必要な数字は、会計ソフトの中にありません。従業員数、1人あたりの見込額、支給対象期間は給与システムや人事の表計算にあります。決算月だけ手で集計する運用では、月次の数字も期末の数字もぶれます。
毎月引き当てると6月と12月の利益の落ち込みが消える月割り額の設計
決算のときだけ引き当てる会社では、4月と5月の月次の損益に賞与の費用が入らず、6月に夏季賞与が一度に計上されます。月次の営業利益が6月と12月だけ大きく落ちるのはこのためです。設例なら、夏季賞与の見込み1,800万円を6で割った300万円を、12月から5月まで毎月引き当てます。
月割りにすると、3月末の残高は4か月分の1,200万円となり、期末の計算と一致します。月次の人件費の集計の仕方は人件費の内訳と勘定科目、会社負担額の集計を解説した記事で、月次の締めの手順は月次決算を5営業日で締める手順とシステム化の判断をまとめた記事で扱っています。
給与システムから会計システムへ渡す5項目と自動仕訳ルールの組み方
毎月の引当仕訳を自動で起こすには、給与側から次の項目を部門別に渡します。
- 支給対象期間の開始日・終了日と支給予定日
- 部門ごとの対象人数と1人あたりの支給見込額
- 会社負担の社会保険料率(健康保険・子ども・子育て支援金・厚生年金・介護保険)
- 前回の支給実績額と、見込額との差額
- 月中の入社・退職・休職による対象人数の増減
会計側では、部門コードで販管費と製造原価に振り分け、月末に「賞与引当金繰入額/賞与引当金」を起こすルールを組みます。支給月に行う処理は、給与の支給実績をもとにした取崩しの仕訳と、差額の賞与への振替です。科目マスタと自動仕訳ルールの設計は会計ソフトの勘定科目と自動仕訳ルールの設計を解説した記事が参考になります。
表計算で足りる会社と、給与と会計の連携を組むべき会社の規模・運用の境界
従業員が20人前後で部門が1つ、年次決算のときだけ引き当てる会社は、表計算で基本の式を計算し、手で仕訳を入れれば足ります。この規模で連携の仕組みを作るのは過剰です。
複数の部門や拠点があり、製造原価と販管費に分けて毎月引き当てる会社、業績連動で支給月数が毎回変わる会社は、手集計の転記ミスが月次の部門損益をゆがめます。給与計算の製品が支給見込みのデータを出せるかは給与計算システムの機能と個別開発の判断を解説した記事が確認先です。製品のままでは会計システムへの連携ができない場合、一創の会計・経理システム開発では、給与システムの支給予定データを部門別に受け取り、月次の引当仕訳と支給時の取崩し・差額振替を自動で起こす連携を設計します。
よくある質問
賞与引当金についてよく出る質問です。
賞与引当金は必ず計上しなければなりませんか?
会計監査を受ける会社は、企業会計の基準に従って計上が必要です。中小企業の会計に関する指針も、賞与引当金を負債として計上しなければならないとしています。税務では損金にならないため、税務の数字に合わせて決算書を作る中小企業では計上していない例もありますが、その場合は賞与の支給月に利益が落ち、金融機関に月次の数字を説明しにくくなります。
役員に払う賞与にも賞与引当金を計上しますか?
役員の賞与は従業員の賞与引当金とは別に扱います。中小会計指針52項は、当期の職務に係る役員賞与を翌期の株主総会で決議する場合、その額か見込額を原則として役員賞与引当金に計上するとしています。税務では、事前確定届出給与などの要件を満たさない役員賞与は損金になりません。役員に払う賞与の届出と支給管理は、役員賞与とは:事前確定届出給与の届出期限と届出額どおりの支給、社会保険料と給与システムでの管理で詳しく解説しています。
賞与引当金と退職給付引当金はどこが違いますか?
どちらも従業員の労働に対応する負債で、税務では損金不算入です。賞与引当金は翌期に払う賞与のうち当期分で、1年以内に払うため流動負債です。退職給付引当金は退職時に払う退職金の見込みを勤務期間に応じて積み上げるもので、固定負債になります。計算の方法も大きく違い、退職給付引当金を扱う別の記事で詳しく解説します。
業績悪化で賞与の支給をやめた場合、計上した賞与引当金はどうなりますか?
支給しないと決めた時点で、引当金の全額を取り崩して賞与引当金戻入などで収益に計上します。前期の決算書を直す必要はありません。税務では前期に加算した額を、支給をやめた期に減算します。支給をやめる判断が期末前に出ていれば、そもそも「発生の可能性が高い」の要件を欠くため、引当金を計上しません。
賞与引当金の計上は毎月必要ですか、それとも決算時だけでよいですか?
決算書を作るうえでは、期末に1回計上すれば足ります。毎月の計上は、月次の損益を経営判断に使う会社のための処理です。部門別の月次損益で予算と比べている会社や、金融機関へ月次の試算表を出している会社は、支給月だけ利益が落ちる見え方を避けるため、支給見込額を月割りで毎月引き当てます。
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