システム開発費を資産計上するか費用処理するかは、支出の金額でも開発工程でもなく、そのソフトウェアの利用によって将来の収益獲得または費用削減が確実と認められるかで決まります。実務で判断が割れるのは、会計基準が工程による線引きをそもそも採用していないためです。この記事では判定の順序を出発点に、PoCや要件定義の費用の扱い、取得原価に算入する人件費の範囲、使う勘定科目と仕訳、減価償却の計算までを、移管指針第8号の項番号と条文に紐づけて整理します。
まとめ:資産計上と費用処理を分ける判定の要点
- 自社利用ソフトウェアの資産計上要件は「将来の収益獲得又は費用削減が確実であることが認められる」ことです。確実と認められない場合だけでなく、確実かどうかが不明な場合も費用処理します(移管指針第8号11項)。
- 「要件定義までは費用、設計以降は資産」という工程での線引きに日本基準上の根拠はありません(同37項)。開始時点と終了時点は、制作予算が承認された社内稟議書や最終テスト報告書などの証憑で決めます(同12項・13項)。
- PoCの費用は、会計で費用処理しても税務では取得価額に算入されることがあります。法人税基本通達7-3-15の3(2)が、外せる研究開発費を「ならないことが明らかな場合」に限っているためです。
- 勘定科目は、制作中がソフトウェア仮勘定、完成後がソフトウェア(無形固定資産)です。費用側は研究開発費・支払手数料・外注費などを会社が決めて継続適用します。繰延資産の「開発費」には入れません。
- 税務の減価償却は定額法で、期中に使い始めたら月割(1か月未満は1か月)にします。自社利用の法定耐用年数は5年で、取得価額の全額まで償却できます。
- 中小企業者等の少額減価償却資産の特例は、2026年4月1日以後に取得する資産から40万円未満に上がり、従業員基準は400人以下に下がりました(租税特別措置法67条の5・同施行令39条の28)。
資産計上か費用処理かを決める判定の順序
判定は目的の区分から入ります。金額基準は最後です。順序を逆にすると、少額だからという理由で本来資産計上すべき支出を費用処理してしまいます。
制作目的による3区分と適用される基準
ソフトウェアの制作費は、制作目的によって処理が分かれます。自社で使う目的なら自社利用ソフトウェア、パッケージとして不特定多数に売る目的なら市場販売目的ソフトウェア、顧客から受注して作るなら収益認識の対象です。同じ開発でも、どの区分に入るかで資産計上のタイミングと償却方法が変わります。
| 区分 | 資産計上の起点 | 根拠 |
|---|---|---|
| 自社利用 | 収益獲得または費用削減が確実と認められた時点 | 移管指針第8号11項・12項 |
| 市場販売目的 | 最初に製品化された製品マスターの完成時点 | 同8項・10項 |
| 受注制作 | 履行義務の充足に応じて収益認識し、未費用化の制作原価は仕掛品等で処理 | 収益認識に関する会計基準 |
社内の業務効率化のために作るシステムはほぼ自社利用に入ります。RPAのロボット開発や社内向けWebシステムも同じ枠組みで判定します。受注開発の原価管理についてはシステム開発業の原価管理:売上原価の範囲・工数×賃率の計算と月次レビューの手順で扱っています。
自社利用ソフトウェアの資産計上要件と「不明な場合」の扱い
移管指針第8号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」の11項は、自社利用ソフトウェアについて「そのソフトウェアの利用により将来の収益獲得又は費用削減が確実であることが認められるという要件が満たされているか否かを判断する必要がある」とし、確実と認められる場合は無形固定資産に計上、「確実であると認められない場合又は確実であるかどうか不明な場合には、費用処理する」と定めています。見落とされやすいのが後半です。効果が出ないと判明した場合だけでなく、効果があるかどうか判断がつかない状態も費用処理側に振り分けられます。
この指針は2024年7月に日本公認会計士協会からASBJへ移管されたもので、旧名称は会計制度委員会報告第12号です。項番号は移管前と変わっていません。
同項は資産計上される一般的な例として次の3つを挙げています。第一に、通信ソフトウェアや第三者への業務処理サービスの提供に用いるソフトウェアを使い、契約に基づいて対価を得る場合。第二に、自社利用のために制作し、当初意図した使途に継続利用することで、利用前と比べて業務を効率的または効果的に遂行できると明確に認められる場合。第三に、市販ソフトウェアを購入して予定した使途に継続利用する場合です。
第二の類型について同項が挙げる具体例は、間接人員の削減による人件費の削減効果が確実に見込まれる場合、複数業務を統合するシステムの採用で入力業務等の効率化が図れる場合、従来なかったデータベース・ネットワークの構築で今後の業務を効率的に行える場合です。そして「ソフトウェア制作の意思決定の段階から制作の意図・効果が明確になっている場合である」と締めています。要件の充足は、効果の確実性を証憑で立証できるかで判断します。完成後の説明だけでなく、制作中のどの時点で効果が確実になったかを裏付ける証憑が必要です。
金額で費用処理できる範囲と2026年4月の40万円改正
目的区分と資産計上要件を満たしたうえで、金額が小さい場合には税務上の簡便な処理を選べます。取得価額が10万円未満なら損金経理で全額を損金にでき、10万円以上20万円未満なら一括償却資産として3年間で均等償却できます。
そのうえで中小企業者等には少額減価償却資産の特例があります。租税特別措置法67条の5の現行条文は、令和11年3月31日までに取得・製作して事業の用に供した「四十万円未満」の減価償却資産を対象にしています。改正前は30万円未満で、2026年4月1日以後に取得などをした資産から40万円未満が適用されます。決算期をまたぐ場合、同じ事業年度でも取得日で上限が変わります。
同じ改正で対象法人の範囲は狭まりました。租税特別措置法施行令39条の28第1項は、常時使用する従業員数を400人以下(特定法人は300人以下)としており、改正前の500人以下から下がっています。金額の上限が上がった一方で使える会社は絞られたため、従業員数が400人台の会社は自社が対象から外れていないかを先に確認してください。
限度額は年300万円で、1年未満の事業年度は月数按分します。適用には青色申告、供用年度の損金経理、明細書添付などの要件があります。国税庁タックスアンサーNo.5408は[令和8年4月1日現在法令等]に更新され、ソフトウェアなどの無形減価償却資産も対象になること、中小企業者等に当たるかは取得などをした日と事業の用に供した日の現況で判定することを示しています。
資産計上の開始・終了時点と立証に使う証憑
実務では「要件定義までは費用、基本設計から資産」といった工程での線引きが広く使われています。工程による社内ルールも、実際の資産計上要件の充足時点と整合する必要があり、会計基準が定めた線引きとは説明できません。
日本基準が制作段階での区分を採用しなかった理由
移管指針第8号37項は資産計上の終了時点について、メンテナンス作業へ切り替わった時点とすることも検討したが終了時点を明確に特定するには不十分だったと述べ、続けて「制作段階により区分する方法は、ソフトウェア制作には多様な制作実態が存在し、それらを明確に区分することは困難であり、結果として実態に合致しなくなると考えられるため、採用していない」と明記しています。工程での線引きを採らないことは、指針の結論の背景に書かれた明示的な選択です。
この違いは実務に直接効きます。工程を基準にすると、要件定義の途中で投資判断が確定した案件でも設計着手まで資産計上を待つことになり、逆に稟議が下りていない段階の設計作業まで資産に含めてしまいます。工程名は社内の呼び方にすぎず、要件定義にどこまで含めるかは会社ごとに違います。アジャイル開発で工程の区切り自体が消えれば、この線引きはそもそも機能しません。反復型開発での実務はソフトウェアの耐用年数と資産化|10年にできる条件、アジャイル開発・SaaS費用の会計処理で詳しく扱っています。
開始時点と終了時点を立証する証憑
同12項は、資産計上の開始時点を「将来の収益獲得又は費用削減が確実であると認められる状況になった時点であり、そのことを立証できる証憑に基づいて決定する」とし、証憑の例として「ソフトウェアの制作予算が承認された社内稟議書」と「ソフトウェアの制作原価を集計するための制作番号を記入した管理台帳」を挙げています。13項は終了時点を「実質的にソフトウェアの制作作業が完了したと認められる状況になった時点」とし、証憑の例に「ソフトウェア作業完了報告書」と「最終テスト報告書」を挙げています。
| 時点 | 判定の内容 | 指針が例示する証憑 |
|---|---|---|
| 開始(12項) | 収益獲得または費用削減が確実と認められた | 制作予算承認の稟議書、制作番号記入の管理台帳 |
| 終了(13項) | 実質的に制作作業が完了したと認められる | 作業完了報告書、最終テスト報告書 |
開始日は、効果が確実になった時点を証憑で立証して決め、承認日や採番日と機械的に一致させるものではありません。金額だけの稟議では効果の確実性を示しにくいため、効果見積書などの関連資料も保存します。開発着手前に、削減する工数や統合する業務を稟議に書き込んでおくことが、後から効いてきます。稟議書に添付する資料の組み立て方は社内稟議の進め方:根回しの順序・添付資料・差し戻し対応と承認経路の設計で扱っています。
PoC・要件定義の費用が資産と費用に分かれる条件
PoCの費用は費用処理でよい、と一言で片づけられることが多い論点ですが、会計と税務で判定の向きが逆であるため、会計で費用処理した結果がそのまま税務で通るとは限りません。
PoCが研究開発費に該当する条件
移管指針第8号3項により、研究開発費は全て発生時に費用として処理します。したがってPoCが研究開発に当たれば費用処理で決着します。研究開発の範囲は、同2項が引く定義では、研究が「新しい知識の発見を目的とした計画的な調査及び探究」、開発が「新しい製品・サービス・生産方法についての計画若しくは設計又は既存の製品等を著しく改良するための計画若しくは設計として、研究の成果その他の知識を具体化すること」です。典型例には「新製品の試作品の設計・製作及び実験」が含まれます。
一方で同26項は、研究・開発に含まれない典型例を10項目挙げています。製品を量産化するための試作、品質管理活動や完成品の製品検査、仕損品の手直しや再加工、製品の品質改良や製造工程における改善活動、既存製品の不具合などの修正に係る設計変更および仕様変更、客先の要望等による設計変更や仕様変更などです。同項は「現在製造している製品や業務を前提とした場合に、著しいと判断できない改良・改善などを行う活動は、ここでいう研究・開発には該当しない」と述べています。
つまり、新技術が自社環境で成立するかを検証するPoCは研究開発に寄りますが、導入するツールがすでに決まっていて設定値や運用手順を確かめるだけのPoCは研究開発ではありません。後者は本開発の一部として取得価額に入る可能性があります。PoCそのものの進め方はPoCとは?意味・進め方・プロトタイプとの違いをわかりやすく解説を、研究開発費の全体像はR&D(研究開発)とは?意味と読み方、研究と開発の違いを公的データで解説を参照してください。
PoC費用の会計処理と税務上の取得価額の違い
ここでは会計と税務の判定条件を分けて確認します。会計の11項は、確実と認められない場合と不明な場合を費用処理側に置きます。判断がつかなければ費用、という向きです。
税務は逆向きです。法人税基本通達7-3-15の3は取得価額に算入しないことができる費用を列挙していますが、その(2)は「研究開発費の額(自社利用のソフトウエアに係る研究開発費の額については、その自社利用のソフトウエアの利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかな場合における当該研究開発費の額に限る。)」と書かれています。自社利用について取得価額から外せるのは、効果が出ないことが明らかなときに限られます。効果があるか不明という状態は、この括弧書きの条件を満たしません。
| 効果の見通し | 会計(移管指針11項) | 税務(7-3-15の3(2)) |
|---|---|---|
| 確実と認められる | 資産計上 | 取得価額に算入 |
| 確実かどうか不明 | 費用処理 | 取得価額に算入(除外できない) |
| 効果が出ないことが明らか | 費用処理 | 算入しないことができる |
効果が不明なPoCは中央の行に該当します。会計で費用処理し、税務で取得価額に算入すると、償却限度額を超えて損金経理したことになるため、償却超過額として加算調整が必要になります。PoCを費用処理するなら「効果が出ないことが明らか」と言える材料を残してください。検証の結果として本開発を見送った稟議、採用を却下した技術評価書などです。逆に、PoCの後にそのまま本開発へ進んだ案件で費用処理だけ済ませているなら、そこは指摘を受けやすい箇所です。
PoCを外部に委託したときの計上時期
研究開発に該当するPoCを外部委託した場合、検収して利用可能になる前の契約金は前渡金で処理します。移管指針第8号3項は、外部に研究開発を委託した場合について「研究開発の内容について検収を行い、利用可能になった時点で費用として処理すべきであり、契約金等は前渡金として処理しなければならない」と定めています。期末をまたぐ委託では、支払額を前渡金に置き、検証報告書を検収した期に研究開発費へ振り替えます。
同4項は、研究開発費は通常一般管理費に計上するとしたうえで、研究開発費を当期製造費用に入れ、その大部分が期末仕掛品等として資産計上される処理は妥当と認められないと述べています。研究開発に該当するPoCの費用を制作原価に混ぜ、その大部分を資産に残す処理はこれに当たります。AIのPoCを外部に依頼する場合の進め方はAIコンサルティング・PoC支援で紹介しています。
要件定義費用の判定
要件定義の費用も工程名では決まりません。12項の証憑基準に照らすと、効果の見積りを含む制作予算の承認が要件定義の前に下りていれば要件定義の工数は資産計上の対象に入り、要件定義の成果を見てから投資判断する進め方なら、承認前の要件定義は費用処理になります。ただし、ここでいう承認は効果の確実性を立証できるものが前提であり、形式的な承認時期だけでは決まりません。
要件定義を外部に委託し、その成果物をもって開発の可否を決める進め方は後者に当たります。会計上は要件充足前の委託費を費用処理し、充足時点から原価を集計します。税務上の取得価額への算入は別途判定します。
取得原価に算入する人件費・外注費の範囲
資産計上すると決めた後は、どこまでを取得価額に入れるかという問題に移ります。
自己製作の取得価額の内訳と原価計算
法人税基本通達7-3-15の2は、自己の製作に係るソフトウェアの取得価額について、法人税法施行令54条1項2号に基づき「当該ソフトウエアの製作のために要した原材料費、労務費及び経費の額並びに当該ソフトウエアを事業の用に供するために直接要した費用の額の合計額となることに留意する」としています。続けて、適正な原価計算に基づき算定するとしたうえで、原価の集計、配賦等につき「合理的であると認められる方法により継続して計算している場合には、これを認めるものとする」と定めています。
この文の重心は「継続して」にあります。案件ごとに按分方法を変えると、合理的な方法による継続計算という条件を外れます。工数の集計は、案件別の作業時間を記録し、担当者ごとの賃率を掛ける方式が基本です。月末に按分入力する場合も、作業記録や配賦基準を保存し、計算の合理性と継続性を説明できるようにします。
自社利用ソフトウェアで見落としやすいのが「事業の用に供するために直接要した費用」です。本番環境への移行作業やユーザー受入テストの立会いはここに含まれますが、旧システムからのデータコンバート費用と操作トレーニング費用は、移管指針第8号16項が発生した事業年度の費用と定めています。
間接費のおおむね3%基準
法人税基本通達7-3-15の3(3)は、製作等のために要した間接費、付随費用等で「その費用の額の合計額が少額(その製作原価のおおむね3%以内の金額)であるもの」を取得価額に算入しないことができるとしています。部門共通費や管理部門の労務費をどこまで配賦するか迷う場面では、この3%が判断の目安になります。
ただし3%は間接費と付随費用に対する基準であって、直接の労務費には使えません。開発担当者の人件費を「少額だから」という理由で外すことはできません。同項(1)は、製作計画の変更等により仕損じがあったため不要となったことが明らかな費用も算入しないことができるとしています。作り直しになった機能の工数は、不要になったことが明らかであれば取得価額から外せます。
外注費と契約形態
外注費は契約形態で自動的に決まるものではなく、その作業が資産計上期間に行われた制作作業かどうかで判定します。請負契約で成果物の検収をもって完了する形なら検収書が終了時点の証憑になり、準委任やSESで工数を購入する形なら作業報告書と検収時期の対応を残すことになります。
注意が必要なのは、既存のパッケージソフトウェアを大幅に作り変える場合です。移管指針第8号15項は、自社で過去に制作したソフトウェアや市販パッケージの仕様を大幅に変更して自社のニーズに合わせた新しいソフトウェアを制作する費用について、将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合を除き、研究開発目的のための費用と考えられるため「購入ソフトウェアの価額も含めて費用処理する」と定めています。カスタマイズ費用だけでなくライセンス購入額まで費用側に落ちる点が、購入ソフトの設定作業や付随的な修正作業を取得価額に含める14項との違いです。なお14項には但し書きがあり、これらの設定費用の重要性が乏しい場合は費用処理できます。
システム開発費の勘定科目と決算での振替
集計の器と振替のタイミングを決めておかないと、証憑基準を採っていても決算で辻褄が合わなくなります。
資産側の科目:制作中はソフトウェア仮勘定、完成後はソフトウェア
制作中の支出はソフトウェア仮勘定に集計し、制作作業が完了したと認められた時点でソフトウェア勘定へ振り替えます。移管指針第8号10項は市場販売目的について、制作仕掛品はソフトウェア仮勘定などの勘定科目により、完成品はソフトウェアなどの勘定科目により、いずれも無形固定資産として計上すると定めており、自社利用でも同じ考え方で運用します。
次の仕訳は、PoCが研究開発に当たり、承認後の開発工数が資産計上要件を満たしている場合の例です。承認の前後だけで科目を選ぶ表ではありません。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 稟議承認前のPoC費用 | 研究開発費 | 現金預金・未払金 |
| 委託したPoCの着手金 | 前渡金 | 現金預金 |
| 委託したPoCの検収 | 研究開発費 | 前渡金・未払金 |
| 稟議承認後の開発工数・外注費 | ソフトウェア仮勘定 | 未払金・給料手当(振替) |
| 最終テスト報告書による完了 | ソフトウェア | ソフトウェア仮勘定 |
| データコンバート・操作研修 | 支払手数料等(費用) | 現金預金・未払金 |
仮勘定の残高が期をまたいで動かない案件は、開発が止まっているのか完了報告書の回収が漏れているのかを決算前に確認してください。仮勘定は償却が始まらないため、放置すると費用計上の先送りになります。仮勘定と消費税の控除時期についてはソフトウェア仮勘定とは?消費税の控除時期・仕訳・建設仮勘定との違い【2026年版】で扱っています。
費用側の科目:研究開発費・支払手数料・外注費の使い分け
費用処理する支出の勘定科目名は、法令で一つに決まっているわけではありません。支出の内容が分かる科目を会社が決め、毎期同じ科目を使い続けることが要件です。研究開発に当たる支出だけは、移管指針第8号4項が一般管理費として計上するとし、研究開発費の総額を注記の対象にしているため、他の費用と混ぜずに独立した科目で集計します。
| 支出 | 科目の例 | 根拠・判断 |
|---|---|---|
| 研究開発に当たるPoC・技術検証 | 研究開発費 | 移管指針第8号3項・4項 |
| 資産計上要件を満たさない開発の外注 | 外注費・支払手数料 | 同11項(確実でない・不明) |
| 旧システムのデータコンバート | 支払手数料・外注費 | 同16項(1) |
| 操作トレーニング | 研修費・支払手数料 | 同16項(2) |
| 10万円未満のソフトウェア購入 | 消耗品費 | 法人税法施行令133条 |
| SaaSの月額利用料・保守料 | 支払手数料・通信費・保守料 | 資産を取得しない役務の対価 |
SaaSの初期設定費用や、資産計上した後の改修・保守料が資本的支出になるか修繕費になるかは、判定の論点が別にあるためソフトウェアの耐用年数と資産化|10年にできる条件、アジャイル開発・SaaS費用の会計処理にまとめています。
繰延資産の「開発費」にソフトウェア制作費を入れない理由
「システム開発費だから開発費勘定」と考えると誤ります。繰延資産の開発費は、ソフトウェアの制作費とは別物です。
会計では、移管指針第8号27項が、研究開発費は全て発生時に費用処理するとしたうえで、財務諸表等規則に繰延資産として開発費の科目名が残っているのは、新技術や新経営組織の採用、資源の開発、市場の開拓のうち、研究開発の定義に含まれない費用を繰延資産にする場合の計上区分を示したものだと説明しています。研究開発に当たるPoCを開発費として繰り延べることはできません。
税務でも、法人税法施行令14条1項は繰延資産の範囲から「資産の取得に要した金額とされるべき費用」を除いています。同項3号の開発費は「新たな技術若しくは新たな経営組織の採用、資源の開発又は市場の開拓のために特別に支出する費用」で、ソフトウェアの取得価額になる制作費はここに入りません。開発費は64条1項1号により支出額の範囲で任意に償却できるため、ソフトウェアの制作費を開発費に入れると、5年の定額法で償却すべき金額を一度に損金にする結果になります。
減価償却の開始時期と月割の計算例
償却は制作が完了した時点ではなく、事業の用に供した日から始まります。税務の償却方法は、法人税法施行令48条の2第1項4号により無形固定資産は定額法です。期の途中で使い始めた場合は、59条1項1号により年間の償却限度額を月割し、2項により1か月未満の端数は1か月として数えます。残存価額はなく、61条1項2号ロにより取得価額の全額まで償却できます。
3月決算の会社が、制作費600万円の自社利用システムを2026年10月15日に稼働させた場合で計算すると次のようになります。法定耐用年数5年の定額法償却率は0.200で、年間の償却限度額は120万円です。10月15日から3月31日までは5か月と17日なので、端数を切り上げて6か月で計算します。
| 事業年度 | 計算 | 償却額 | 期末帳簿価額 |
|---|---|---|---|
| 2027年3月期 | 600万円×0.200×6/12 | 60万円 | 540万円 |
| 2028年3月期 | 600万円×0.200 | 120万円 | 420万円 |
| 2029年3月期 | 600万円×0.200 | 120万円 | 300万円 |
| 2030年3月期 | 600万円×0.200 | 120万円 | 180万円 |
| 2031年3月期 | 600万円×0.200 | 120万円 | 60万円 |
| 2032年3月期 | 残額 | 60万円 | 0円 |
稼働日を証明するのは本番切替の記録やリリース報告書です。最終テスト報告書の日付と稼働日がずれる場合、仮勘定からの振替は完了時点、償却の開始は稼働日と、別々の日付で処理します。自社利用ソフトウェアの法定耐用年数は5年、複写して販売するための原本は3年です。会計上の年数を5年より長くできる条件は、上で挙げた耐用年数の記事で扱っています。
判定を誤ったときに生じる調整と立証の実務
資産計上と費用処理は、どちらかを選べる選択肢ではありません。要件を満たすなら資産計上が求められ、外れるなら費用処理になります。誤った側に倒したときの影響は、資産側と費用側で非対称です。
資産計上すべき支出を費用処理した場合
税務上は償却限度額を超えて損金経理したことになり、超過額は当期の損金に算入されません。加算調整をしていなければ過少申告です。超過額は翌期以降の償却不足額と相殺されて解消していきますが、解消までの間は申告調整が続きます。会計上も当期の利益が過小に表示されます。この誤りが起きやすいのは、開発工数を案件別に集計せず月次の人件費に紛れさせている場合で、そもそも資産計上すべき金額を把握できていません。
費用処理すべき支出を資産計上した場合
逆方向の誤りは、効果が不明なPoCや、結局使われなかった機能の開発工数を資産に積む形で起きます。当初の資産計上が誤りなら誤謬の訂正を検討し、適切な計上後に回収可能性が低下した場合とは区別します。税務では取得価額に算入したこと自体は7-3-15の3(2)の裏返しとして通りやすい一方、会計監査では11項の「不明な場合には費用処理する」という定めに照らして資産性を問われます。
立証のために備えておく資料は限られています。開発の意思決定と効果見積りを書いた稟議書、制作番号ごとの原価集計台帳、工数記録と勤怠データの突合結果、外注先の契約書と検収書、そして最終テスト報告書と稼働日の記録です。これらは移管指針第8号11項から13項および通達7-3-15の2が求める内容と対応しており、税務調査で追加の資料を作らずに済むよう、案件開始時に揃える運用にしておくのが確実です。
よくある質問
システム開発費は資産計上と費用処理のどちらになりますか?
自社で使うシステムなら、そのソフトウェアの利用により将来の収益獲得または費用削減が確実と認められる場合に資産計上します。確実と認められない場合と、確実かどうか不明な場合は費用処理です(移管指針第8号11項)。金額での判定は最後で、10万円未満は損金経理で全額損金、10万円以上20万円未満は一括償却資産、中小企業者等は2026年4月1日以後取得なら40万円未満まで少額減価償却資産の特例を使えます。
システム開発費の勘定科目は何を使いますか?
資産計上する場合は、制作中がソフトウェア仮勘定、完成後がソフトウェア(無形固定資産)です。費用処理する場合、研究開発に当たる支出は研究開発費、それ以外は外注費・支払手数料など内容が分かる科目を会社が決めて継続して使います。繰延資産の開発費は、ソフトウェアの取得価額になる制作費を含まないため使いません。
PoCの費用は資産計上が必要ですか?
会計上は、効果が確実と言えない段階のPoCは費用処理になります。ただし税務では、法人税基本通達7-3-15の3(2)により取得価額から外せる研究開発費が「将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかな場合」に限られるため、効果が不明なだけのPoC費用は取得価額に算入され、費用処理していれば償却超過額として加算調整が必要になります。研究開発に該当するPoCの委託で先払いした契約金等は、検収して利用可能になるまで前渡金です。
要件定義の費用は資産計上の対象になりますか?
工程名では決まりません。要件定義前に効果の確実性を証憑で立証できれば、それ以後の制作工数が資産計上の対象になります。会計上は要件充足前の要件定義費用を費用処理しますが、税務上は取得価額への算入を別途判定します。移管指針第8号37項は制作段階により区分する方法を採用していないと明記しており、判定軸は稟議書などの証憑です。
ホームページの制作費も資産計上しますか?
会社案内や商品紹介を掲載するだけのページは、内容の更新頻度から効果が1年以上に及ぶとは言いにくく、費用処理が一般的です。一方、予約機能や検索機能などプログラムを伴う部分は自社利用ソフトウェアとして11項の要件で判定します。移管指針第8号29項はソフトウェアとコンテンツを別個の経済価値として区分し、購入者の立場を扱う31項は、実務上は一体処理を認めて主要な性格に応じて処理するとしつつ、経済価値を明確に区分できる場合は区分して処理することを妨げないとしています。制作費の見積内訳をプログラム部分とコンテンツ部分に分けておくと判定しやすくなります。