債務免除は債権者が借入金や買掛金の返済を免除する行為で、免除を受けた側に生じる利益が債務免除益です。貸方に立てる科目名は債務免除益で足りますが、損益計算書のどの区分に置くかは法令で決まっておらず、税務では免除された金額が原則としてそのまま益金になります。この記事では、区分の決め方を上場企業の開示例で確かめたうえで、ケース別の仕訳、計上時期、貸借対照表とキャッシュ・フロー計算書への影響、繰越欠損金で相殺できる範囲、個人が免除を受けた場合の課税を、条文と通達に当てて整理します。
まとめ:勘定科目の決め方と税務の要点
- 科目名は債務免除益。会社計算規則88条2項・財務諸表等規則95条の2の特別利益の例示に債務免除益の名はなく、免除の原因と臨時性から特別利益か営業外収益かを決める。
- 上場企業6社・7件の適時開示では、事業再生ADRも800万円台の未払金・買掛金の整理も、すべて特別利益の「債務免除益」だった。一度限りの事情なら、少額でも特別利益に置く例がある。
- 計上時期は免除の効力が生じた日。民法519条の単独の免除なら意思表示の到達日、弁済や株主総会決議を条件にした免除なら条件を満たして効力が生じた日。
- 消費税は課税対象外。買掛金を免除されても、消費税法基本通達12-1-7により仕入税額控除を戻す処理は不要。
- キャッシュ・フロー計算書(間接法)では、現金の入らない利益として税引前当期純利益から差し引く。
- 法人税では原則として法人税法22条2項の益金。完全支配関係(法人による支配に限る)がある会社からの免除は、免除側で寄附金に当たるものに限り25条の2で益金不算入、会社更生・民事再生等では59条で期限切れ欠損金まで使える。
- 青色欠損金の控除は所得の50%が上限だが、資本金1億円以下などの中小法人等は100%(法人税法57条1項ただし書、11項1号)。
債務免除益の勘定科目|特別利益と営業外収益の分岐点
法令上の債務免除益の科目名と表示区分
金融商品取引法の適用を受ける会社に適用される財務諸表等規則95条の2は、特別利益について「固定資産売却益、負ののれん発生益その他の項目の区分に従い、当該利益を示す名称を付した科目をもつて掲記しなければならない」と定めています。会社計算規則88条2項も、特別利益を「固定資産売却益、前期損益修正益、負ののれん発生益その他の項目の区分に従い、細分しなければならない」とするだけです。どちらの例示にも債務免除益は登場しません。債務免除益は「その他の項目」であり、特別利益に置くことが法令で決め打ちされているわけではありません。
債務免除益の表示区分と独立表示の判断基準
区分は、取引の発生原因と経常性から判断します。会社計算規則88条1項が営業外収益と特別利益を別の区分として並べている以上、その利益が経常的な活動から生じたものかどうかを先に決める必要があるためです。金額の重要性はこの区分決定ではなく、選んだ区分の中で独立した科目として掲記するか一括表示にするかの判断材料になります。会社計算規則88条4項は「その金額が重要でないものについては、当該利益又は損失を細分しないこととすることができる」と定め、財務諸表等規則95条の2ただし書は特別利益の総額の10%以下のものの一括表示を、同90条ただし書は営業外収益の総額の10%以下のものの一括表示を認めています。
| 免除の原因 | 発生の経常性 | 表示区分 | 科目例 |
|---|---|---|---|
| 金融機関の再建計画に基づく免除 | 臨時 | 特別利益 | 債務免除益 |
| 役員借入金の一括整理 | 臨時 | 特別利益 | 債務免除益 |
| 取引先との少額の免除が毎期のように生じる | 反復的に発生 | 営業外収益 | 債務免除益 |
支払期日前の支払いを理由とする仕入割引や、品質不良を理由とする仕入値引きは債務免除ではありません。消費税法基本通達12-1-4が仕入割引を仕入れに係る対価の返還等に該当するとしており、債務免除とは消費税の処理が変わるため、同じ表に並べないでください。
上場企業6社・7件の適時開示に見る債務免除益の計上例
法令が区分を決めていない以上、実務でどう表示されているかは開示例で確かめられます。本文で「債務免除益」の計上を開示した適時開示の原本PDFから、免除・消滅の原因が5種類にわたる7件(6社)を拾いました。田淵電機の開示は、同社を統合したダイヤモンド電機ホールディングスのIRライブラリに掲載されています。
| 開示日 | 会社 | 免除・消滅の原因 | 金額 | 区分 |
|---|---|---|---|---|
| 2018-12-07 | 田淵電機 | 事業再生ADR(金融機関) | 49億4,776万円(子会社分含む) | 特別利益 |
| 2022-05-13 | WDI | 米国PPP融資の返済免除 | 約225百万円+約234百万円 | 特別利益 |
| 2023-02-14 | 桂川電機 | 米国PPP融資の返済免除 | 1億46百万円 | 特別利益 |
| 2024-10-31 | ANAP | 事業再生ADR(6金融機関) | 1,399,999,997円 | 特別利益 |
| 2025-04-04 | ウェルディッシュ | 子会社の未払金の消滅時効 | 38,900千円 | 特別利益 |
| 2025-05-13 | パス | 調停成立による未払金との差額 | 8,401千円 | 特別利益 |
| 2026-04-14 | ANAPホールディングス(旧ANAP) | 連絡の取れない取引先の買掛金 | 8,604千円 | 特別利益 |
7件とも区分は特別利益でした。ただし、これらは特別利益を計上したときに出される開示なので、営業外収益に置いた例は最初から集まりません。開示例から言えるのは、再建・時効・調停・相手先不明のような一度限りの事情なら、パスの8,401千円やANAPホールディングスの8,604千円のように1,000万円未満でも特別利益に置く会社がある、という点までです。
科目名も全件が「債務免除益」でした。債権者が返済を免除したのは事業再生ADRの2件とPPPの2件で、残る3件は消滅時効、調停、取引先と連絡が取れないという事情です。調停は合意による一部免除と読めますが、時効と相手先不明の2件(ウェルディッシュ、ANAPホールディングス)は、法的な原因が免除でなくても、負債が消えて生じた利益をこの科目名で開示した例です。桂川電機の1億46百万円には、借入元本に加えて支払利息2百万円も含まれていました。免除が利息に及ぶなら、未払費用も同じ仕訳で落とします。
ケース別の仕訳例と消費税の扱い
金融機関からの借入金の免除
長期借入金5,000万円の免除を受けた場合の仕訳です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 長期借入金 | 50,000,000 | 債務免除益 | 50,000,000 |
一部を弁済して残りを免除してもらう再建計画では、弁済額と免除額を分けて記帳します。ANAPの開示では借入残高19億5,000万円のうち5億5,000万円余りを弁済し、約14億円が免除されました。借入金そのものの記帳ルールは借入金返済の勘定科目と仕訳|元金が経費にならない根拠と個人事業主の記帳手順にまとめています。
買掛金の債務免除と仕入税額控除の調整要否
消費税法4条1項の課税対象は「国内において事業者が行つた資産の譲渡等」であり、資産の譲渡等とは同法2条1項8号の「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」です。債務の免除を受けて得た利益はこのいずれにも当たらないため、債務免除益は課税対象外、すなわち不課税取引です。
迷いやすいのは、買掛金を免除されたときに過去に控除した仕入税額を戻すべきかどうかです。消費税法基本通達12-1-7は「事業者が課税仕入れの相手方に対する買掛金その他の債務の全部又は一部について債務免除を受けた場合における当該債務免除は、仕入れに係る対価の返還等に該当しないことに留意する」と明記しています。値引きや返品、同通達12-1-4の仕入割引なら仕入税額控除の調整が必要ですが、債務免除は調整不要です。税込330万円の買掛金の免除であれば、消費税部分を分けずに全額を債務免除益とします。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 買掛金 | 3,300,000 | 債務免除益 | 3,300,000 |
役員借入金の免除による株主へのみなし贈与課税
社長が会社への貸付金2,000万円を放棄した場合、会社側の仕訳は役員借入金2,000万円と債務免除益2,000万円で、法人税の益金になります。見落とされやすいのが株主側です。相続税法基本通達9-2は、同族会社の株式の価額が「対価を受けないで会社の債務の免除、引受け又は弁済があった場合」に増加したとき、その増加部分を債務免除をした者からの贈与として取り扱うと定めています。社長以外の株主がいる会社で社長が借入金を放棄すると、他の株主に贈与税が生じ得ます。
例外は同9-3です。会社が資力を喪失した場合に役員等が同じ行為をしたときは、会社の債務超過額に相当する部分を贈与として取り扱いません。同通達は資力を喪失した場合を「法令に基づく会社更生、再生計画認可の決定、会社の整理等の法定手続による整理のほか、株主総会の決議、債権者集会の協議等により再建整備のために負債整理に入ったような場合」とし、「単に一時的に債務超過となっている場合は、これに該当しない」としています。決算書が一期だけ債務超過だったという理由では、この例外は使えません。
消滅時効・相手先不明で未払金を消す場合の科目と益金の時期
請求されないまま残った未払金や買掛金は、民法166条1項により、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年で時効により消滅します。この期間は2020年4月1日以後に生じた債権のもので、それより前に生じた債権には、時効期間も援用も改正前の規定(旧商法522条の5年や旧民法の短期消滅時効)が適用されます(平成29年法律第44号附則10条)。古い未払金ほど、債権の発生日で確かめてください。また、民法145条は、時効は当事者が援用しなければ裁判所がこれによって裁判をすることができないと定めており、期間が過ぎただけで債務が自動的に消えるわけではありません。
会計上は、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」10項が、金融負債は「義務が消滅したとき」に消滅を認識するとし、11項が「帳簿価額とその対価としての受払額との差額を当期の損益として処理する」としています。対価の支払いなしに消えた未払金は、その全額が利益になります。上の開示例ではウェルディッシュが時効の成立した未払金を、ANAPホールディングスが1年以上連絡の取れない取引先への買掛金を、どちらも債務免除益として計上しました。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 未払金 | 38,900,000 | 債務免除益 | 38,900,000 |
科目名を雑収入とする処理もあります。東京国税局の文書回答事例(所在不明株主の株式の買取代金)の照会文には、未払金に計上した代金が「債権等の消滅時効によって当該代金が当該株式会社に帰属した場合には、当該帰属した日の属する事業年度の雑収入に計上することとなります」とあります。益金にする年度は、債務が法的に消えて会社に帰属した日の年度です。相手先と連絡が取れないというだけで負債を消した場合、法的には債務が残っているため、後日請求されれば支払義務があります。時効の起算日と援用の通知、相手先の所在を調べた記録を残しておいてください。
債務免除益の計上時期と意思表示の効力発生日
民法519条は「債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する」と定めています。この単独行為による免除は、意思表示は到達した時から効力を生ずるとする民法97条1項により、債務者に到達した時に効力を生じ、その日を含む事業年度が計上時期になります。債務者の承諾は要件ではありません。一方、当事者間の債務免除契約による場合は、契約で定めた効力発生日と停止条件の有無で判断します。
開示例がこの違いをよく示しています。ANAPの事業再生ADRでは、免除は「残債権の一括弁済を実施した日をもって効力が発生する」とされ、2024年10月31日に弁済を終えた日が効力発生日になりました。ADRの成立は2024年7月31日(2024年8月期)でしたが、債務免除益は効力が生じた2025年8月期第1四半期に計上されています。田淵電機は2018年12月7日に金融機関の同意を得ましたが、効力発生日は12月25日とされ、12月18日の臨時株主総会で第三者割当増資が承認されることが条件でした。同意を得た日ではなく、条件を満たしたうえで効力が生じた日の事業年度に計上します。
単独の免除で期末をまたぐ場合は、通知書の日付と到達日のずれが問題になります。3月決算の会社が3月25日付の債権放棄通知を4月2日に受け取ったなら、益金になるのは翌事業年度です。繰越欠損金を当期のうちに使いたいという理由で到達日を遡らせることはできないため、配達証明など到達日を確認できる資料を保存してください。債権者側がどのような書面で免除を通知するかは、債権放棄とは?通知書のひな形・書き方と貸倒損失・仕訳の要件をわかりやすく解説【民法519条】で文例まで示しています。
貸借対照表とキャッシュ・フロー計算書への影響
貸借対照表:負債の減少と純資産の増加
債務免除益を計上すると、貸借対照表では借入金や買掛金が免除額だけ減り、同じ額の利益が当期純利益を通じて繰越利益剰余金に入ります。資産は1円も増えません。純資産が3,000万円のマイナス(債務超過)の会社が5,000万円の免除を受ければ、税金を考えない段階で純資産は2,000万円のプラスに転じます。債務超過の会社を銀行がどう審査するかは債務超過でも融資は受けられる?銀行の判断基準と保証協会・資本性ローンの使い方で扱っています。
キャッシュ・フロー計算書:間接法の減算と返済支出からの除外
連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準第三 一 2は、間接法を「税金等調整前当期純利益に非資金損益項目、営業活動に係る資産及び負債の増減、『投資活動によるキャッシュ・フロー』及び『財務活動によるキャッシュ・フロー』の区分に含まれる損益項目を加減して表示する方法」と定めています。債務免除益は現金の入らない利益なので、営業活動によるキャッシュ・フローの小計より上で差し引きます。
| 間接法の項目 | 金額 |
|---|---|
| 税引前当期純利益(免除益5,000万円を含む) | 60,000,000 |
| 債務免除益 | △50,000,000 |
| 差引(ほかの調整前) | 10,000,000 |
免除された部分は返済ではないため、財務活動の「長期借入金の返済による支出」にも入りません。弁済して残りを免除してもらった場合は、実際に支払った弁済額だけを返済支出に計上します。免除額が大きい場合は注記も検討します。移管指針第6号24項は、注記の対象になる重要な非資金取引を「企業の財政状態には重要な影響を与えるがキャッシュ・フローを伴わない取引のうち、翌会計期間以降のキャッシュ・フローに重要な影響を与える取引」としています。債務免除は例示に挙がっていませんが、翌期以降の返済がまとめて消える点でこの定義に近いため、金額の重要性を見て判断してください。
法人税の益金算入と、課税所得を減らせる特例
原則は法人税法22条2項の益金
法人税法22条2項は、益金に算入すべき金額を「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額」としています。債務の消滅による利益はこの「その他の取引」に含まれ、原則として全額が益金です。会計上の区分が特別利益でも営業外収益でも、税務上の取り扱いは変わりません。
完全支配関係がある会社からの免除と受贈益の益金不算入
法人税法25条の2第1項は、完全支配関係がある他の内国法人から受けた受贈益の額を益金に算入しないと定めています。同条2項は受贈益を「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」を受けた場合の価額としており、債務免除はこの経済的な利益の無償の供与に当たります。親会社が100%子会社の借入金を免除し、その免除が親会社で寄附金に当たる場合、子会社側の債務免除益は益金になりません。1項が対象を、37条7項に規定する寄附金の額に対応するものに限っているためです。子会社の倒産を防ぐための合理的な再建計画に基づく免除のように、法人税基本通達9-4-2で寄附金に当たらないとされるものは、親会社で損金、子会社で益金となり、この規定は使えません。
注意すべきは1項のかっこ書きで、対象は「完全支配関係(法人による完全支配関係に限る。)」に限られます。社長個人が2社の株式を100%持っている兄弟会社どうしの免除は、個人による完全支配関係なのでこの規定は使えません。寄附金に当たる場合の親会社側は、免除した金額が同法37条2項により寄附金として全額損金不算入になり、子会社株式の帳簿価額と利益積立金額を修正する寄附修正が必要です(国税庁「平成22年度税制改正に係る法人税質疑応答事例(グループ法人税制関係)」問7)。子会社の益金不算入と親会社の損金不算入はセットで動きます。
会社更生・民事再生等における欠損金の損金算入
法人税法59条は、25条の2とは仕組みが違います。債務免除益を益金から除くのではなく、会社更生等による債務免除等があった場合に、通常は使えない古い欠損金まで損金に算入して課税所得を圧縮する規定です。免除益そのものは益金に立ったままです。適用場面は4つに分かれます。
| 条項 | 場面 | 提出する別表 |
|---|---|---|
| 59条1項 | 更生手続開始の決定 | 別表七(三) |
| 59条2項 | 再生手続開始の決定等で評価損益を計上 | 別表七(三) |
| 59条3項 | 再生手続開始の決定等で評価損益の計上なし | 別表七(四) |
| 59条4項 | 解散し残余財産がないと見込まれる | 別表七(四) |
別表の対応は、国税庁が公表する令和8年4月1日以後終了事業年度分の「別表七(三)の記載の仕方」と「別表七(四)の記載の仕方」の冒頭に明記されています。前者は法第59条第1項又は第2項の適用を受ける場合、後者は第3項又は第4項の適用を受ける場合に記載する、という書き分けです。欄番号に沿って別表を埋める作業の進め方は、別表十三(一)(別表13(1))の記載例|国庫補助金の圧縮記帳を欄番号順に書くの手順が参考になります。
繰越欠損金で相殺できる範囲
青色欠損金は所得の50%まで、中小法人等は全額
法人税法57条1項ただし書は、損金算入限度額を「所得の金額の百分の五十に相当する金額」と定めています。同条11項1号は、資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下の普通法人(大通算法人などを除く)、公益法人等、協同組合等、人格のない社団等を中小法人等と呼び、これらについては「所得の金額の百分の五十に相当する金額」を「所得の金額」と読み替えると規定しています。中小法人等なら青色欠損金を所得の全額まで使えます。
債務免除益5,000万円を含む所得が6,000万円、青色欠損金が4,000万円ある場合を比べます。
| 区分 | 控除限度額 | 控除額 | 課税所得 |
|---|---|---|---|
| 資本金1億円超 | 3,000万円 | 3,000万円 | 3,000万円 |
| 中小法人等 | 6,000万円 | 4,000万円 | 2,000万円 |
資本金1億円超の会社にも救済はあります。法人税法57条11項2号は、更生手続開始の決定や再生手続開始の決定があった場合、その決定の日から更生計画認可の決定または再生計画認可の決定の日以後7年を経過する日までの期間内の日を含む事業年度について、中小法人等と同じ100%の控除を認めています。再生局面では規模を問わず全額控除ができます。ただし、株式の上場など再建が図られたと認められる事由が生じた場合は、その日以後に終了する事業年度が対象から外れます。
期限切れ欠損金の算定範囲と控除順序
法人税法59条が使える局面では、10年の繰越期限を過ぎた欠損金、いわゆる期限切れ欠損金まで損金に算入できます。法人税法施行令117条は、59条2項の欠損金を「適用年度終了の時における前事業年度以前の事業年度から繰り越された欠損金額の合計額」と定義します。同令117条の4は、59条3項の欠損金をこの合計額から「法第五十七条第一項の規定により適用年度の所得の金額の計算上損金の額に算入される欠損金額」を控除した額としています。2項ルートは繰越欠損金の合計額をそのまま基礎にでき、3項ルートは青色欠損金を先に使ってから残りを使う、という順序の違いです。
合計額の拾い方は法人税基本通達12-3-2が示しています。「当該事業年度の確定申告書に添付する法人税申告書別表五(一)の『利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書』に期首現在利益積立金額の合計額として記載されるべき金額で、当該金額が負(マイナス)である場合の当該金額」であり、その金額が別表七(一)の控除未済欠損金額に満たない場合は控除未済欠損金額による、という定めです。期首の利益積立金額の合計がマイナス1億2,000万円、控除未済欠損金額が4,000万円なら、基礎になるのは1億2,000万円です。
私的整理で使えるかどうかの線引き
法人税法施行令117条の3は、59条3項の対象となる事実として、特別清算開始の命令、破産手続開始の決定、同令24条の2第1項に規定する事実、これらに準ずる事実を挙げています。同令24条の2第1項の事実とは、一般に公表された準則に従って策定され、公正な価額による資産評定が行われ、その評定に基づく貸借対照表をもとに免除額が定められ、計画が準則に従っていることを当事者以外の確認者が確認する手続があり、2以上の金融機関等が債務免除等をすること(同項4号)または同項5号の要件を満たす計画による整理です。開示例の田淵電機とANAPが使った事業再生ADRは、この準則型私的整理の代表です。
実務の分かれ目は法人税基本通達12-3-1(3)です。同通達は、これらに準ずる事実を「親子会社間において親会社が子会社に対して有する債権を単に免除するというようなものでなく、債務の免除等が多数の債権者によって協議の上決められる等その決定について恣意性がなく、かつ、その内容に合理性があると認められる資産の整理があったこと」と定義しています。親会社が子会社の借入金を単純に免除しただけでは期限切れ欠損金は使えません。残る道は、法人税法25条の2の完全支配関係による益金不算入か、青色欠損金の範囲での相殺です。
個人が債務免除を受けた場合の所得税と贈与税
個人の債務免除益における所得区分の判定要素
所得税法36条1項は、収入金額に「金銭以外の物又は権利その他経済的な利益」を含めています。所得税基本通達36-15(5)は経済的利益の例として「買掛金その他の債務の免除を受けた場合におけるその免除を受けた金額」を挙げており、免除額がそのまま収入金額になります。個人事業の買掛金や事業用借入金の免除なら事業所得の総収入金額です。事業と関係のない債務は一時所得または雑所得となることがありますが、法人がその役員に対する債権を放棄・免除したなら給与所得になり得ます。法人税基本通達9-2-9(4)は、法人が「役員等に対して有する債権を放棄し又は免除した場合」の金額を、給与を支給したのと同様の経済的効果をもたらすものとして挙げています。
免除した相手が誰かで税目も変わります。国税庁タックスアンサーNo.4424は「法人から債務免除等を受けた場合は、贈与税ではなく、所得税の対象となります」と明記しています。法人から免除を受けたなら所得税、個人から免除を受けたなら贈与税です。
資力を失っているときの総収入金額不算入
所得税法44条の2第1項は、破産法252条1項の免責許可の決定、再生計画認可の決定があった場合その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合に債務の免除を受けたときは、その経済的な利益の価額を総収入金額に算入しないと定めています。
制限は2つあります。第1に同条2項で、不動産所得、事業所得、山林所得、雑所得の各業務に係る債務の免除については、その年分に生じた損失の金額に相当する部分には1項が適用されません。免除益と当年の赤字が相殺される範囲は課税されます。同項5号により、その年に繰越控除する純損失の金額に相当する部分も同じ扱いです。第2に同条3項で、「確定申告書に同項の規定の適用を受ける旨、同項の規定により総収入金額に算入されない金額その他財務省令で定める事項の記載がある場合に限り、適用する」とされています。国税庁の「債務免除を受けた場合の経済的利益の総収入金額不算入に関する明細書」を添えて申告しなければ、要件を満たしていても不算入にはなりません。申告を忘れた場合の救済は同条4項のやむを得ない事情がある場合に限られます。
個人からの免除はみなし贈与
相続税法8条は、対価を支払わないで債務の免除による利益を受けた場合、その債務の金額に相当する金額を免除をした者から贈与により取得したものとみなすと定めています。親が子の借入金を免除するケースがこれにあたります。同条ただし書1号は、債務者が資力を喪失して弁済することが困難である場合について、その弁済困難な部分の金額は贈与とみなさないとしています。除外されるのは債務の全額ではなく「弁済することが困難である部分」に限られます。
債務免除を受ける前に詰めておく3つの論点
債務免除は現金が入らない一方、欠損金や特例で相殺しきれない課税所得が残れば納税が発生する取引です。合意の前に次の3点を確定させてください。
- 納税資金:免除額に対して繰越欠損金が足りるかを、当期の見込所得まで含めて計算する。中小法人等でなければ所得の50%が上限で、足りない分は現金の入らない利益に法人税がかかる。
- 効力発生日:単独の免除なら到達日、条件付きなら条件を満たして効力が生じた日で事業年度が決まる。欠損金の残高が大きい事業年度に合わせて、通知の授受や弁済日を設計する。
- 当事者の属性:親会社からの単純な免除は期限切れ欠損金の対象外(法人税基本通達12-3-1(3))、個人株主による完全支配は25条の2の対象外、役員借入金の免除は他の株主へのみなし贈与(相続税法基本通達9-2)になり得る。
欠損金の残高や特別損益の非資金項目を毎期の試算表から手作業で拾っているなら、会計・経理システム開発で集計を自動化しておくと、免除の時期を決めるシミュレーションが早くなります。
債権者側でも、経済合理性のない免除は寄附金として損金不算入になり得ます。両者の税負担を並べたうえで、免除ではなくDES(債務の株式化)や返済条件の緩和で足りないかを先に比べてください。再建計画そのものの立て方についてはターンアラウンドマネージャーとは?役割・業務と日本の事業再生での実際【2026年】を参照してください。
よくある質問
債務免除益は特別利益と営業外収益のどちらに計上しますか?
法令上どちらかに決まってはおらず、免除の原因と臨時性で判断します。上場企業6社・7件の開示例では、800万円台の未払金・買掛金の整理を含めて全件が特別利益でした。毎期のように反復して生じる少額の免除は、経常性から営業外収益に置くことが考えられます。
債務免除益に消費税はかかりますか?
かかりません。債務免除で受ける利益は消費税法2条1項8号の資産の譲渡等に当たらない不課税取引です。買掛金の免除でも、消費税法基本通達12-1-7により過去に控除した仕入税額を戻す必要はありません。
債務免除益はいつの事業年度に計上しますか?
免除の効力が生じた日を含む事業年度です。民法519条の単独の免除なら意思表示の到達日、条件付きの免除なら条件を満たして効力が生じた日です。時効で消えた未払金は、援用などで債務が法的に消えた日の事業年度になります。
社長からの借入金を免除してもらうと、会社と社長にどんな課税がありますか?
会社側は免除額が益金になります。社長個人に所得税は生じませんが、同族会社で社長以外の株主がいる場合は、株価が上がった部分について相続税法基本通達9-2により他の株主へのみなし贈与課税が生じ得ます。会社が資力を喪失している場合は同9-3で債務超過額相当部分が除かれますが、一時的な債務超過は該当しません。
個人事業主が債務免除を受けた場合はどの所得になりますか?
事業用の債務なら事業所得の総収入金額です。破産法の免責許可の決定や再生計画認可の決定を受けた場合、資力を喪失して弁済が著しく困難な場合は所得税法44条の2第1項で総収入金額に算入しませんが、確定申告書への記載と明細書の添付が要件です(同条3項)。