東京都のカスハラ奨励金は、都内で事業を営む従業員300人以下の中小企業等に、1社40万円を定額で支給する制度です。令和8年度第2回の事前エントリーは2026年10月23日から11月6日までで、都は今回で募集を終える見込みと案内しています。この記事では、支給要件のうちマニュアル整備と周知の条件、録音・録画機器やAIを使ったシステムなど3つの取組の違い、残り日数から見た取組の選び方を整理します。カスハラの助成金や補助金をほかの自治体・国で探している方向けに、名古屋市の補助金と国の助成金の状況も載せました。
まとめ:最終回の第2回は11月6日までに取組と周知を終えた企業だけが対象
令和8年度の東京都カスハラ奨励金は、第2回(事前エントリー10月23日〜11月6日、受付件数5,000件)が最後の募集になる見込みです。40万円は経費の割合ではなく定額で、マニュアルの整備と基本方針の社内外への周知に、録音・録画環境の整備、AIを使ったシステム等の導入、外部人材の起用のいずれか1つを組み合わせます。
見落としやすいのは期限です。取組と周知は令和7年4月1日以降、令和8年11月6日までに完了している必要があり、エントリー締切と同じ日に揃います。2026年10月17日時点で残りは約3週間です。この期間で確実に終えられるのは、既製の通話録音機器・録画カメラの購入か、カスハラ対策用途が明記されたクラウドサービスの契約です。自社専用のAIシステムを新たに開発して申請に間に合わせる計画は、要件の確認資料と納期の両面で無理があるため勧めません。
すでに2025年4月以降に録音機器などを買っている企業は、新たに買い足す前に領収書の有無を確かめてください。購入済みの機器が要件に合えば、残りはマニュアルと周知の整備だけで済みます。
東京都のカスハラ奨励金=定額40万円・都内300人以下の中小企業向け制度の骨格
正式名は「カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金」で、東京都と公益財団法人東京しごと財団が実施しています。2025年4月1日に施行された東京都カスタマー・ハラスメント防止条例の措置を企業に浸透させる目的で設けられました。
令和8年度第2回の事前エントリー10月23日〜11月6日と抽選・最終回の扱い
都の2026年9月8日の報道発表と、奨励金特設サイトの第2回申請受付の案内によると、事前エントリーの期間は2026年10月23日(金)10時から11月6日(金)17時までです。受付件数は5,000件で、第1回の2,500件から倍に広がりました。
受付は先着順ではありません。件数を超えた場合は期間終了後に抽選となり、支給申請の受付も抽選で複数回に分けると案内されています。第1回は7月16日の時点でエントリーが2,500件を超えて抽選になりました。支給申請の案内メールは11月24日以降に届く予定です。
特設サイトには「本事業の募集は今回で終了」と明記されています。令和9年度に同じ制度が続くかは公表されていません。
常時雇用300人以下・都内で1年以上・納税12か月分という対象事業者の線引き
対象事業者の要件は募集要項ページに15項目あり、判定日はいずれも令和8年11月6日時点です。実務で引っかかりやすいのは次の4つです。
- 常時雇用する従業員が300人以下であること
- 都内に本店登記または支店の事業所があり、都内で継続して1年以上事業を行っていること
- 11月6日時点で12か月分の納税が確認できること(法人税・消費税・法人都民税など)
- 令和7年度分を含め、この奨励金をまだ受給していないこと(受給予定も含む)
個人事業主も対象に入ります。一方で、令和7年度の第1回〜第3回や令和8年度第1回ですでに支給を受けた企業は、第2回にエントリーしても無効です。第1回で抽選に外れた企業には、10月9日から第2回の案内がメールで届いています。
経費の割合ではなく定額40万円=機器代が40万円未満でも満額になる仕組み
この奨励金は補助率で計算する補助金ではありません。要件を満たせば、録音機器の購入額が5万円でも50万円でも、支給額は40万円で変わりません。
そのため費用の考え方が通常の補助金と逆になります。安価な機器で要件を満たせば手元に残る金額が増え、高額なシステムを入れても上乗せはありません。40万円を超える投資をするなら、奨励金は一部の回収にとどまると割り切ってください。支給決定まで書類の確認から3か月程度、決定後の振込まで1か月程度かかるため、資金繰り上は年明け以降の入金を見込むことになります。
支給の前提になるマニュアル整備と基本方針の社内・社外周知で落ちやすい条件
3つの取組のどれを選んでも、マニュアルの整備と基本方針の周知は必須です。ここで不備があると、取組の中身にかかわらず支給されません。
必須項目を含み「条例」に触れたマニュアル=章立てだけの雛形流用は不可
マニュアルは令和7年4月1日以降に作成または改定し、作成日と企業名が確認できる必要があります。募集要項が定める「必須項目」をすべて含むことが条件で、章立てだけのマニュアルは認められません。東京都条例への言及も求められています。
ゼロから書く必要はありません。TOKYOはたらくネットが事業者向けマニュアルの雛形(Word形式)を公開しており、特設サイトのよくある質問でもこの雛形の利用が案内されています。雛形の空欄を自社の窓口名・連絡体制・対応手順で埋め、社内に周知した日を記録すれば、マニュアル側の要件はそろいます。
基本方針の社外周知は店頭掲示やHP掲載・周知日が写真や画面で確認できること
マニュアルの中で決めたカスハラへの基本方針は、社内と社外の両方に周知します。社外への周知は店頭掲示、自社サイトへの掲載、取引先への通知などが想定されています。
提出する証拠は、掲示の写真やメール・社内チャットのスクリーンショットです。特設サイトのよくある質問では、周知日が読み取れることと、様式第1号でチェックした周知方法と資料の種類が一致していることが求められています。自社サイトに載せる場合は、掲載日が画面に表示されるページにしておくと証拠を作り直す手間がかかりません。
録音・録画、AIシステム、外部人材の3取組の要件をシステム導入の目線で比較
実践的な取組は3つから1つを選びます。どれも「令和7年4月1日以降に新たに契約し、11月6日までに都内事業所で運用を始め、周知まで終える」という骨格は共通で、違いは証拠書類の種類にあります。
取組1の録音・録画機器=新規購入かリース6か月以上・領収書と盗聴対策の運用ルール
職場に録音・録画機能のある機器を新たに整備する取組です。要件はa)〜e)の5つで、すべてを満たす必要があります。
- カスハラ対策のために新たに購入するか、6か月以上のリース等を契約すること。録音・録画を主とした機器本体であること
- 証票は領収書で、請求書は不可。機器の録音・録画機能がパンフレット等で確認できること
- 運用ルールを様式第1号に書き、盗聴・盗撮を疑われない対策を含めること
- 録音・録画環境を整えたことを社外に周知すること(企業名と周知日が分かる資料)
電話応対が多い企業なら通話録音装置、店舗や窓口なら録画機能付きカメラが候補になります。社外周知の方法は、店頭掲示や自社サイトへの掲載を行い、企業名と周知日が写る形で記録を残すことです。「通話は品質向上とカスハラ対策のため録音しています」という音声ガイダンスだけでは日付を示しにくいため、日付入りの掲示を別に用意しておくと証拠として出せます。録音告知の文面や切電の基準は、コールセンターのカスハラ対策(録音告知・暴言検知・切電基準の設計)で詳しく扱っています。
取組2のAIシステム=AI利用とカスハラ対策用途がパンフレットやHPで確認できる製品
カスハラ対策に役立つAIを使ったシステム等を新たに購入または契約する取組です。要件は6つあり、取組1と比べて追加されるのが「AIを使っていること」と「カスハラ対策に使えること」の両方を、パンフレットやWebサイトの記載で示すという条件です。
通話内容をAIで文字起こしして暴言を検知する機能や、威圧的な発話を検知して管理者に通知する機能を持つクラウドサービスが該当しうる製品です。製品サイトにカスハラ対策の用途が書かれていない場合は、AIを使っていることと用途を説明する資料を別に出せば受け付けられます。ただし、この資料の説得力は審査次第です。契約期間は6か月以上で、周知先は社内のみで足ります。
取組3の外部人材=社労士等との6か月以上の相談契約か11月6日までに終える研修
外部の専門家を新たに起用する取組で、次の3つの契約のいずれか1つが対象になります。
| 契約の種類 | 契約期間・条件 | 主な相手先 |
|---|---|---|
| 相談対応等の継続契約 | 6か月以上 | 弁護士・社労士など |
| 社内研修のスポット契約 | 11月6日までに研修を実施済み | 産業カウンセラーなど |
| 警備会社との法人契約 | 6か月以上・設備のみは不可 | 許可を得た警備業者 |
研修のスポット契約は自社主催の研修に限られ、他社が主催するセミナーへの参加費は対象外です。設備や施設だけを守る警備契約や家庭向けサービスも外れます。システムを入れる予定が無い企業にとっては、社労士による1回の社内研修が最も小さい投資で済む選択肢になります。
残り3週間で間に合う取組の選び方と受託開発のAIシステムで申請しない判断
ここからは、2026年10月17日時点で第2回に申請する企業が、11月6日の期限から逆算してどの取組を選ぶべきかを述べます。
11月6日までに取組と周知を終えられるのは既製の通話録音機器か既存SaaSの契約
3週間で「購入・設置・運用ルール作成・周知」の4段階を終えるには、在庫のある製品を買うか、申込当日から使えるサービスを契約するしかありません。選び方の順序は次のとおりです。
- 2025年4月1日以降に買った録音機器やカメラが社内にあるか確認し、あれば領収書を探す
- 無ければ、電話中心の企業は通話録音装置、来店中心の企業は録画カメラを購入する
- すでに通話のAI解析を検討していた企業だけ、カスハラ対策用途が製品サイトに明記されたSaaSを6か月以上で契約する
- 機器もシステムも不要な企業は、社労士などによる社内研修を11月6日までに開催する
どの選択肢でも、マニュアルの社内周知と基本方針の社外周知は11月6日より前に終えておきます。GビズIDプライムのアカウントが無いと事前エントリーができないため、未取得なら取組と並行して申請手続きを始めてください。
自社専用AIの開発は奨励金の期限に合わせない=要件確認資料と納期の両面で不利
受託開発会社としての立場から言い切ります。カスハラ対策のAIシステムを自社専用に開発する計画は、奨励金の期限を目標に組むべきではありません。
理由は2つあります。1つは納期です。通話録音との連携や暴言検知のしきい値調整を含む開発は、要件定義から運用開始まで3週間では終わりません。もう1つは証拠書類です。パッケージ製品ならパンフレットで済む「AI利用とカスハラ用途」の確認を、自社専用品では説明資料で一から示すことになり、審査で不備を指摘される余地が大きくなります。
奨励金は既製の録音機器などで確実に受け取り、自社の業務に合わせたシステムは期限と切り離して計画するのが妥当です。40万円のために開発範囲や品質を削ると、運用に乗らない仕組みが残ります。
不支給につながる失敗例=請求書のみ・既存機器の流用・周知日の記録漏れ
要件の文言から、書類審査で落ちやすい典型は次のように整理できます。
- 証票が請求書や見積書だけで、領収書が無い
- 2025年3月以前から使っている録音機器を「整備した」として出している
- リースやサービス契約の期間が6か月に届いていない
- 周知した掲示やメールの画面に日付が写っていない
- マニュアルが章立てだけ、または条例への言及が無い
特設サイトは第3回事前エントリー向けに「よくある不備と不備解消のポイント」のPDFも公開していました。第2回の募集要項と様式は受付開始に合わせて掲載される予定のため、10月23日以降に最新版で照合してください。
東京都以外の補助金と国の助成金の状況・奨励金の後に整える対応記録の仕組み
東京都外の企業や、300人を超える企業がカスハラの助成金・補助金を探す場合の状況と、奨励金を受けた後にやるべきことをまとめます。
名古屋市の補助金は経費の2分の1以内・5万〜30万円で10月30日締切
都道府県・市区町村の独自制度では、名古屋市の中小企業カスタマーハラスメント対策支援補助金があります。補助率は対象経費の2分の1以内、補助額は5万円から30万円で、令和8年度の受付期間は6月22日から10月30日17時までです。
対象経費には管理用カメラや通話録音装置の導入費、マニュアル作成を社会保険労務士等に依頼した謝金などが挙がっています。東京都と違い経費の割合で計算するため、30万円の上限を受けるには60万円以上の経費が必要です。令和8年度からは従業員を雇っていない中小企業者も対象に加わりました。ほかの自治体は制度の有無が年度ごとに変わるため、所在地の産業振興部署で確認してください。
国の雇用関係助成金にカスハラ専用コースはなく、法の措置義務は全事業主に及ぶ
厚生労働省の事業主の方のための雇用関係助成金の一覧を2026年10月17日に確認したところ、ハラスメント対策を名目とするコースは載っていませんでした。国の制度でカスハラ対策の費用を直接まかなう手段は、現時点では見当たりません。
一方で、2026年10月1日から改正労働施策総合推進法によりカスハラ対策は企業規模を問わず全事業主の義務になりました。奨励金の対象外になる300人超の企業も、措置そのものは免れません。義務の中身はカスハラ対策義務化の10措置と録音・対応記録のシステム要件で解説しています。
録音データと対応記録を結びつけるワークフロー化で40万円の投資を運用に残す
奨励金で録音機器を入れても、録音ファイルが担当者のPCや機器の内部に散らばったままでは、事案が起きたときに証拠として引き出せません。厚生労働省の企業向けマニュアルが挙げる対応日時・対応者・要望内容などの記録項目と、録音データを1件の事案として結びつけておく必要があります。
問い合わせ単位で履歴を残す仕組みが社内にあるなら、問い合わせ管理システムにカスハラ区分と閲覧権限を足す方法が最も手戻りが少なく済みます。現場の報告を上長・本部・法務へ回す承認経路まで整えたい場合は、一創のワークフローシステム開発で、エスカレーションと対応記録を一体で設計できます。奨励金の期限とは切り離して、施行後の運用で見えた課題から順に組み込むのが現実的です。
よくある質問
カスハラ奨励金・助成金について、申請前によく寄せられる疑問に答えます。金額や日程は2026年10月17日時点の公式発表に基づきます。
カスハラ奨励金はいくらもらえますか?
東京都の企業向け奨励金は1社40万円の定額です。かかった経費の割合で計算する方式ではないため、録音機器の購入額が40万円を下回っても40万円が支給されます。逆に40万円を超えた分の上乗せはありません。支給決定までは書類の確認から3か月程度、決定後の請求から振込までは1か月程度かかると案内されています。同じ企業が受け取れるのは1回限りで、令和7年度にすでに受給した企業は対象外です。
第1回に申請しなかった企業も第2回に申し込めますか?
第1回の申請有無は問われず、対象要件を満たす都内中小企業等なら第2回にエントリーできます。第1回の抽選に外れた企業には、10月9日から第2回の案内がメールで届いています。事前エントリーは10月23日10時から11月6日17時までで、先着順ではなく、5,000件を超えた場合は抽選です。エントリーにはGビズIDプライムのアカウントが必要なので、未取得なら早めに手続きしてください。
録音機器の購入代金が40万円を超えた場合、差額は補助されますか?
補助されません。奨励金は定額40万円で、経費の実額に応じて増える仕組みではないためです。高額な通話録音システムやAI解析サービスを導入する場合、奨励金は投資の一部回収にとどまります。複数の拠点に機器を入れても支給額は1社40万円のままです。費用対効果を重視するなら、要件を満たす最小構成の機器で申請し、本格的なシステム化は別の予算で計画する方法が向いています。
従業員300人超の企業や都外の企業が使えるカスハラ助成金はありますか?
東京都の奨励金は常時雇用300人以下の都内企業に限られます。都外では、名古屋市が中小企業向けに経費の2分の1以内・5万〜30万円の補助金を設けています(令和8年度は10月30日締切)。国の雇用関係助成金の一覧には、2026年10月17日時点でカスハラ対策を名目とするコースはありません。所在地の都道府県・市区町村の産業振興や労働担当の部署に、年度ごとの制度の有無を問い合わせるのが確実です。
カスハラ奨励金の申請に必要な書類は何ですか?
事前エントリーを通過した後、Jグランツから電子申請します。主な提出物は、作成日と企業名が分かるマニュアル、社内外への周知の証拠(掲示の写真や画面のスクリーンショット)、様式第1号、取組に応じた領収書と製品のパンフレット等、納税証明書、登記簿謄本です。提出はPDF形式で、写真はJPGやPNGも使えます。第2回の募集要項と様式は受付開始に合わせて特設サイトに掲載されるため、最新版で確認してください。
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