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職能等級制度とは?昇格要件と職能給の仕組み、職務等級へ移行する等級・給与テーブルの設計

職能等級制度とは?昇格要件と職能給の仕組み、職務等級へ移行する等級・給与テーブルの設計

職能等級制度とは、社員の職務遂行能力のレベルで等級を決め、その等級に職能給と昇格のルールを結びつける制度です。職能資格制度とも呼ばれ、担当する仕事が変わっても等級は下がりません。この記事では、令和4年の厚生労働省調査で普及度を確かめたうえで、職能要件書・昇格要件・職能給の号俸表をどう組み立てるか、運用が年功に戻る原因と歯止めのかけ方を整理します。後半では、職能等級から職務等級や役割等級へ移るときに、新旧の等級と給与テーブルをどう移すかという移行設計を扱います。

まとめ|職能等級制度は昇格要件の書き方で年功化が決まり、移行は給与テーブルから設計する

職能等級制度は、古い制度として片付けられるほど廃れていません。令和4年の調査では、基本給の決定要素に職務遂行能力を使う企業が管理職・管理職以外とも66%台にのぼります。制度が年功に戻るかどうかは、等級の名前ではなく、昇格要件に滞留年数をどう書くか、等級を何段に刻むかで決まります。

職務等級や役割等級へ移る場合、全社員を一度に移す必要はありません。管理職から移し、一般職は能力基準の等級を残す併用型が、育成と処遇の両方を崩さない進め方です。移行の作業の中心は、旧等級と号俸の組み合わせを新等級の賃金範囲に置き直す対応表と、下がる社員の調整給です。システム上は、等級マスタと給与テーブルに制度の版と適用期間を持たせ、新旧の制度を並べて計算できる形にしておきます。

職能等級制度とは何か——職務遂行能力で格付けする仕組みと令和4年調査に見る普及度

職能等級制度の特徴は、等級が仕事ではなく人に付く点にあります。3類型の中での位置づけは等級制度とは(職能・職務・役割の3類型の違いと選び方)で比較しているため、ここでは職能等級そのものに絞ります。

職能等級制度の定義と、高度成長後の能力主義管理で職能資格制度が広がった経緯

職能等級制度は、社員が身につけた職務遂行能力を段階で定義し、どの段階に達したかで等級を決めます。課長や部長といった役職とは別の序列で、等級が上がることを昇格、役職に就くことを昇進と呼び分けます。

厚生労働省の平成21年版 労働経済の分析(第3章第3節)は、導入の経緯をこう説明しています。高度経済成長から安定成長に移るにつれ、年齢や勤続年数が同じ集団に同じ賃金を払うことが難しくなった。そこで、長期雇用を保ちながら職務遂行能力を評価して処遇を個別化する仕組みとして導入されたのが職能資格制度だった、という整理です。年功で決めていた賃金に、能力の差を加える発想から出発した制度だと分かります。

基本給の決定要素に職務遂行能力を使う企業は66%台、制度改定でも導入が廃止を上回る

厚生労働省の令和4年就労条件総合調査(賃金制度)によると、基本給の決定要素(複数回答)に「職務遂行能力」を挙げた企業は、管理職で66.6%、管理職以外で66.3%でした。最多は「職務・職種など仕事の内容」の79.3%と76.4%で、「年齢・勤続年数など」も管理職以外では63.4%残っています。

同じ調査で、平成31年から令和3年の3年間に賃金制度を改定した企業は40.4%でした。改定した企業のうち「職能資格制度の導入」は14.6%、「職能資格制度の廃止」は1.1%です。ジョブ型への関心が高い時期でも、職能資格制度を新たに入れた企業のほうが、やめた企業より一桁多い。職能等級の扱いは、廃止か継続かの二択ではなく、どう運用し直すかの問題として考えるほうが実態に合います。

職能等級制度の組み立て方——職能要件書・昇格要件・職能給の賃金表を決める順序

職能等級制度は、等級ごとの能力の定義、等級を上がる条件、等級と賃金を結ぶ表の3つで動きます。作る順番もこのとおりです。

職能要件書で等級ごとの期待能力を書き分け、職業能力評価基準を下敷きにする方法

等級ごとに期待する能力を文章で定義したものを、職能要件書(職能資格基準)と呼びます。たとえば一般職の2等級なら「定型業務を手順書どおりに一人で完了できる」、4等級なら「担当業務の手順を自ら設計し、後輩に指導できる」のように、行動で確かめられる形で書き分けます。

ゼロから書くと、等級間の差が「より高度な」「より広い」といった程度の言葉だけになりがちです。厚生労働省の職業能力評価基準は、56業種について、仕事に必要な知識・技術技能と、成果につながる職務行動例を整理しています。自社の職種に近い業種の基準から行動例を借りると、等級の違いを具体的な行動で書くことが可能です。能力を行動の水準で定義する書き方はコンピテンシー評価とは(評価項目の例とレベル定義)も参考になります。

昇格要件の型——卒業方式と入学方式、滞留年数・昇格試験・評価の組み合わせ

昇格要件は、どの時点の能力を見て上の等級に上げるかで2つの型に分かれます。

型 昇格の判断基準 起きやすい問題
卒業方式 今の等級の要件を満たした 年数で昇格が続く
入学方式 上の等級の能力を発揮した 昇格が止まりやすい

職能等級では卒業方式が広く使われてきました。実際の昇格要件は、型に加えて「最短滞留年数」「直近数年の評価」「昇格試験や面接」を組み合わせて書くのが一般的です。滞留年数は最短だけを置き、最長(何年いたら自動で上げる)を置かない設計にすると、年数だけで昇格する道を塞げます。管理職手前の等級だけ入学方式に切り替え、上位等級の仕事を一定期間任せてから判定する組み合わせも採れます。

職能給の号俸表と昇給の仕組み、年齢給と組み合わせた能力主義時代の基本給の構成

職能等級と賃金を結ぶのが職能給です。等級ごとに号俸(1号、2号…)の段を並べた号俸表を持ち、毎年の評価に応じて何号上がるかを決めます。労働研究者の石田光男氏の論文「賃金」(日本労働研究雑誌No.717・2020年4月)は、1960年代後半から80年代の能力主義時代の基本給の柱を、年齢給と職能給の2つと整理しています。

前年の基本給に昇給額を積み上げる方式の賃金は、勤続年数に応じて積み上げの回数が増えるため、必然的に年功的になるというのが同論文の指摘です。号俸が毎年1号以上上がる運用なら、評価が平均的な社員でも勤続とともに賃金が伸びます。昇給の種類と決め方の全体は昇給とは(定期昇給・ベアの違いと昇給額の決め方)で扱っています。

職能等級制度が年功化する原因と、制度を変えずに運用で年功の傾きを抑える手当て

職能等級制度への批判の多くは、能力で決めるはずの等級が勤続年数で決まってしまう点に向けられています。原因は制度の構造にあります。

能力は下がらない前提と最短滞留年数の昇格要件が、勤続と等級を連動させる構造

職能等級は、一度身につけた能力は失われないという前提に立ちます。そのため降格の規定がないか、あっても使われず、等級は上がる一方です。石田論文の注には、企業の等級決定には勤続年数が入り込むのが普通で、職能と職務の区分が曖昧なことも多いと書かれています。

年功化はこうして進みます。職能要件書が抽象的なため、評価者は「何年その等級にいるか」を判断材料に使う。最短滞留年数を満たした社員から順に昇格させる。結果として、同期入社の社員がほぼ同じ時期に同じ等級へ上がっていく。要件書の書き方と滞留年数の扱いは、運用を始める前に手を入れられる箇所です。

等級の大括り化・昇格枠の設定・降格規程の整備で昇格の頻度と確率を抑える運用

職能等級を残したままでも、年功の傾きは抑えられます。石田論文は、職能等級の継続は年功的賃金の是正になりにくいものの、等級を大括りにして昇格の頻度と確率を抑えれば是正に役立つと述べています。実務で手を入れる順序は、次のとおりです。

  1. 等級を統合して段数を減らし、1回の昇格の重みを上げる
  2. 最長滞留年数による自動昇格を廃止し、最短年数だけを残す
  3. 上位等級ごとに昇格者数の枠を置き、評価順で決める
  4. 能力の発揮が続かない場合の降格の条件を就業規則に書く

効き目が大きいのは1と2です。降格規程は抑止として置いても、実際の運用は少数にとどまることが多いため、ここに頼る設計は避けます。

職能等級から職務・役割等級へ移行する設計——等級マスタと給与テーブルの移し方

ここからは、職能等級を一部または全部やめて、職務等級や役割等級に移るときの設計です。制度の考え方より、旧制度の社員を新制度のどこに置くかという作業で詰まります。

移行範囲を管理職に限り、一般職は能力基準の等級を残す併用型が採られる理由

2024年8月28日に内閣官房・経済産業省・厚生労働省が公表したジョブ型人事指針には、移行範囲を絞った例が載っています。東洋合成工業はジョブ型を管理職のみに導入し、非管理職は時間をかけて育てる時期だとして、行動や挑戦を評価する「発揮能力等級」を置きました。

一般職を職能等級のまま残すのは、異動と育成を進めるためです。職務等級では異動のたびに等級と賃金が上下するため、育成目的のローテーションが回らなくなります。職務等級の仕組みと職務評価の手順は職務等級制度とは(職務評価の点数で等級を決める手順)、役割の重さで決める型はミッショングレード制とは(役割等級の仕組み)で扱っています。

旧職能等級×号俸から新等級×範囲給へ格付ける対応表の作り方と行の粒度

移行の中心作業は、旧制度の「等級×号俸」の組み合わせごとに、新制度の等級と賃金範囲のどこに置くかを決める対応表です。次は管理職層を役割等級に移す場合の、説明用の仮の例です。

旧等級・号俸 新等級 新範囲内の位置 調整給
7等級・全号 M2 現給と同額 なし
6等級・1〜15号 M1 現給と同額 なし
6等級・16号以上 M1 上限額 差額を逓減
5等級(課長職) M1 下限額へ引上げ なし

行の粒度は「等級×号俸の範囲」を基本にし、役職の有無で行を分けます。旧6等級の高号俸の社員は、新等級の上限を超えるため、差額を補う調整給の支給対象です。逆に役職に就いた旧5等級の社員は新等級の下限まで引き上げるので、移行原資の試算には上げる側の総額も入れます。全社員を対応表に通し、行に当てはまらない社員が0人になるまで行を足すのが完成の条件です。

現給保障と調整給の逓減スケジュール、労働契約法第10条の合理性判断への備え

新制度で基本給が下がる社員には、差額を調整給として払い、数年かけて縮めるのが一般的です。たとえば差額の全額を1年目に保障し、2年目に3分の2、3年目に3分の1、4年目に0とする形です。

就業規則の変更で賃金を下げる場合、労働契約法第10条により、不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などに照らして合理的かが問われます。調整給の期間と縮め方は、この「不利益の程度」を抑えるための具体的な手当てです。下がる社員の人数と最大減額幅を、制度案の段階で対応表から集計しておくと、協議の材料になります。

等級マスタと給与テーブルに制度版と適用期間を持たせ、新旧制度を並走させる設計

移行で起きやすいのは、新制度の等級コードで旧制度のマスタを上書きしてしまう設計です。上書きすると、移行日前の給与を再計算できず、遡及の差額精算や監査に答えられません。等級マスタと給与テーブル(号俸表・範囲給)には「制度版」と「適用開始日・終了日」を持たせ、旧版と新版を同時に保持します。

そのうえで、移行日前の数か月は新旧両方の版で給与を計算し、社員ごとの差額を一覧にして対応表の誤りを洗い出します。調整給は基本給とは別の支給項目にし、逓減のスケジュールを社員ごとのデータとして持つと、毎年の手作業による書き換えは不要です。社員ごとの格付け履歴の持ち方は前出の等級制度の記事で扱っています。既製の人事システムで制度の版や調整給の逓減を表せないときは、当社の人事・労務管理システム開発で、移行規程を要件に置き換えるところから個別に設計しています。

職能等級制度を残すか見直すかの判断——継続すべき企業と移行を見送る場面

職能等級制度を続けるか移るかは、制度の新しさではなく、自社の人の育て方と異動の起き方で決めます。

新卒育成とジョブローテーション中心の企業は職能等級を残し、運用改定で足りる条件

新卒を採用して数年ごとに部署を回し、社内で育てる企業なら、一般職の職能等級は残します。不満の原因が年功的な昇格にあるなら、前述の大括り化と最長滞留年数の廃止で手当てできるため、制度の類型ごと変える必要はありません。

見直しを検討すべきなのは、経験者採用が増え、採用時にポジションと賃金範囲を提示しなければ人が採れない職種が出てきた場合です。その職種や管理職層から職務・役割等級に移し、残りは職能等級で運用します。労働経済白書も、今後は職能重視型や職責・役割重視型の賃金制度を見通す企業が相対的に多いと分析しています。

制度名だけ職務等級に変えて職能の格付けをそのまま持ち越す失敗のパターン

避けたいのは、等級の呼び名を「ジョブグレード」に変え、旧職能等級の格付けをそのまま新等級に移す進め方です。職務記述書も職務評価もないまま、旧6等級の社員を全員新しいG6にすれば、中身は職能等級のままです。異動で賃金が変わるという職務等級の前提だけが社員に伝わり、不信感が残ります。

移るなら、ポジションの定義と評価を先に済ませ、対応表は「旧格付けを新制度の評価で検証した結果」として作ります。等級定義から処遇反映までの工程は人事評価制度の作り方(等級定義から処遇反映までの手順)で順に示しています。

よくある質問

職能等級制度の運用や見直しを担当する人事の方から寄せられる質問に答えます。

職能等級制度のメリットとデメリットは何ですか?

メリットは、異動しても等級と賃金が下がらないため、会社主導の配置転換やジョブローテーションで人を育てやすい点です。能力の伸びが等級に表れるので、若手に成長の段階を示せます。デメリットは、能力の判定が勤続年数に引きずられて年功的な運用に戻りやすく、等級が上がる一方で人件費が膨らむ点です。担当する仕事の大きさと賃金が一致しない社員も出てきます。デメリットの多くは、昇格要件と等級数の設計で抑えられます。

職能給と職務給の違いは何ですか?

職能給は本人の職務遂行能力の等級に応じて払う基本給で、職務給は担当する職務の大きさに応じて払う基本給です。職能給は人に付くため、異動しても額は変わりません。職務給は仕事に付くため、小さな職務に移れば下がることがあります。職能等級には職能給、職務等級には職務給を組み合わせるのが一般的で、一般職は職能給、管理職は職務給や役割給と層で分ける企業もあります。

職能等級制度で降格させることはできますか?

就業規則に降格の条件と手続きを定めていれば可能です。常時10人以上の労働者を使う事業場では、賃金の決定方法を就業規則に記載する必要があり、等級で基本給が決まる制度なら降格の条件もその対象です。ただし職能等級は能力が下がらない前提に立つため、規定がないまま降格させると争いになりやすくなります。降格の判断基準は、連続した低評価など客観的に確かめられる条件で書いておきます。

職能等級制度に昇格試験は必要ですか?

必須ではありませんが、管理職手前など等級の意味が大きく変わる段では置く企業が多くあります。評価だけで昇格を決めると、評価者ごとの甘辛がそのまま昇格の差になるためです。試験は筆記に限らず、論文、面接、上位等級の業務を任せた結果の確認などを組み合わせます。一般職の下位等級では評価と最短滞留年数で判定し、試験は上位等級への節目に絞ると運用の負担を抑えられます。

職能等級制度は中小企業でも運用できますか?

運用できます。社員数が少ないほど、ポジションごとに職務記述書を作る職務等級より、能力の段階で決める職能等級のほうが作る手間は小さく済みます。一人が複数の仕事を兼ねる体制でも、能力の定義なら書き分けられるからです。等級は一般職3段階と管理職2段階程度の少ない段から始め、職能要件書は職種をまたいで共通の行動で書くと、評価者が少なくても判定がぶれにくくなります。

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