等級制度とは、社員を「何を基準に序列化するか」を決め、その序列に賃金表と昇格のルールを結びつける仕組みです。基準の置き方で、職能等級(能力)・職務等級(仕事の大きさ)・役割等級(役割の重さ)の3類型に分かれます。この記事では、3類型の違いを格付け基準・昇格条件・賃金表の型で比較し、等級数の決め方や降格の手続き、自社に合う類型の選び方を整理しました。後半では、等級・号俸・昇格履歴を人事マスタにどう持たせるかという、制度をシステムで運用する側の設計要件も扱います。
まとめ|等級制度は格付けの基準と賃金表の型で選び、履歴を残せる形で管理する
等級制度の3類型は、格付けの基準が違うだけでなく、賃金の上がり方が違います。職能等級は能力の伸びに合わせて昇格するため年功的になりやすく、職務等級はポジションの大きさで等級が決まるため、異動で賃金が上下します。役割等級はその中間で、日本企業の制度改定で採用例の多い型です。
選び方の基準は、ポジションごとの仕事を文書で定義できるかどうかです。定義できる管理職層から職務・役割等級を入れ、育成期の一般職は能力基準を残す併用型が、移行の摩擦が小さい進め方です。等級はシステム上、等級マスタ・号俸テーブル・社員ごとの格付け履歴を分けて持ち、発令日と適用開始日を別に記録すると、制度改定や遡及発令に耐えられます。
等級制度とは何か——評価・報酬の土台になる社員の序列と賃金表の関係
等級制度は単独では動きません。賃金表と評価の2つと組み合わさって、初めて一人ひとりの給与が決まります。
等級制度の定義と、社員等級・賃金表・人事考課の3制度を結ぶ関係
労働研究者の石田光男氏は、日本労働研究雑誌の論文「賃金」(No.717・2020年4月)で、制度としての賃金を①社員等級、②賃金表、③人事考課の3つで説明しています。社員を等級に区分し、等級ごとの賃金の一覧表を作り、その一覧表のどこに個々人が該当するかを人事考課で決める、という順序です。
等級制度はこの①にあたり、社員を区分する最も基本的な基準を何に求めるかを示します。評価制度や報酬制度との関係は人事評価制度とは(等級・評価・報酬の3本柱と評価手法の種類)で整理しているため、ここでは等級そのものの設計に絞ります。
等級と役職は別の序列、社員の昇格と昇進を分けて管理する実務上の理由
等級と役職(部長・課長などのポスト)は、同じ序列ではありません。等級が上がることを昇格、役職に就くことを昇進と呼び分けます。前出の論文も、日本の等級制度の特徴として、役職ポストの序列とは別に、役職に就かない管理職の序列が並存している点を挙げています。
分けて管理する理由は、ポストの数に上限があるからです。課長ポストが10しかなくても、課長相当の等級には15人いてよい。この切り分けがないと、ポストが空かない限り賃金が上がらず、専門職の処遇が行き詰まります。システムでも、等級と役職は別の項目として持つのが前提です。
職能・職務・役割の3類型——等級を決める基準と賃金の動き方の違い
3類型の違いは、等級を決めるときに「人」を見るか「仕事」を見るかにあります。それぞれの特徴と、賃金への影響を順に見ていきます。
職能等級制度は職務遂行能力で格付け、運用が年功に戻りやすい構造
職能等級制度(職能資格制度)は、社員の職務遂行能力のレベルで等級を決めます。高度経済成長期以降の日本企業で主流だった型で、担当業務が変わっても等級は下がりません。会社主導の異動やジョブローテーションと相性がよく、ゼネラリストを育てる人事に向いています。
弱点は、能力は一度身につくと下がらないという前提に立つため、等級が上がる一方になる点です。能力の判定が勤続年数に引きずられると、年功序列と同じ運用に戻ります。能力の定義を自社で書くときは、厚生労働省の職業能力評価基準が下敷きになります。平成14年度から整備され、56業種について仕事に必要な知識・技術と職務遂行能力を整理した公的な基準です。
職務等級制度はポジションの大きさで格付け、職務記述書の整備が前提
職務等級制度は、担当するポジションの職責の大きさで等級を決めます。人ではなく仕事に等級が付くため、同じ社員でも小さいポジションへの異動は、等級と賃金が下がる要因です。2024年8月28日に内閣官房・経済産業省・厚生労働省が公表したジョブ型人事指針には、導入企業20社の等級制度が載っています。
前提になるのは、ポジションごとの職務記述書です。富士通は市場のテンプレートをもとに650個のロール・プロファイル(職種と等級ごとの標準的な役割の定義)を作り、約1万5000人分の職務記述書を2か月で作成しました。日立製作所は影響・折衝・革新・知識の要素で職務を評価してグローバル共通の11階層を整え、大くくりの標準職務記述書だけで540種類になっています。記述書の項目と書き方はジョブディスクリプションの記載例で扱っています。
役割等級制度は役割の重さで格付け、職能と職務の中間に置く運用
役割等級制度は、社員が担う役割(ミッション)の重さで等級を決めます。職務等級ほどポジションを細かく定義せず、職能等級ほど人の能力に寄せない、中間の型です。前出の石田論文は、1990年代以降の成果主義の賃金改革で、役割等級が人事制度の中軸になったと観察しています。
役割等級の改定では、等級数を職能等級の時代より大幅に減らす例が多く、年功的な昇格を抑える意図があります。一方で「役割」の定義は企業ごとに違い、人基準か仕事基準かの議論も残っています。リクルートの制度を例にした役割等級の詳細は、ミッショングレード制とは(役割等級の仕組みと給与の決め方)にまとめました。
3類型の比較——格付け基準・昇格条件・異動時の賃金・向く企業
3類型を4つの観点で並べると、次のとおりです。
| 観点 | 職能等級 | 職務等級 | 役割等級 |
|---|---|---|---|
| 格付けの基準 | 職務遂行能力 | ポジションの職責 | 担う役割の重さ |
| 昇格の条件 | 能力の伸長と滞留年数 | 上位ポジションへの就任 | 上位の役割の付与 |
| 異動時の賃金 | 原則変わらない | ポジション次第で上下 | 役割次第で上下 |
| 前提となる文書 | 職能要件書 | 職務記述書 | 役割定義書 |
| 向く企業 | 育成・異動中心 | 専門職採用が多い | 両者の折衷を狙う |
実務で最初に見るべきなのは「異動時の賃金」の行です。会社主導の異動が多い企業で職務等級を入れると、異動のたびに賃金が上下し、異動の打診自体が難しくなります。
等級制度の設計要素——等級数・賃金表の型・降格時に必要な手続き
類型を決めた後に設計するのは、等級の数、等級と賃金を結ぶ賃金表、そして等級が下がる場合のルールです。等級定義書の書き方や評価項目まで含めた作る順番は、人事評価制度の作り方(等級定義から処遇反映までの手順)で工程順に示しています。
等級数は大括りにするほど年功を抑えやすく、5〜8等級が設計の起点
等級の数は、隣り合う等級の違いを文章で書き分けられるかで決まります。数百名規模までの企業なら、一般職3〜4段階と管理職2〜3段階を合わせた5〜8等級から検討を始めると、等級定義を書き分けやすい規模です。
等級を細かく刻むと、昇格の機会が増えて社員の納得感は上がる反面、毎年のように昇格する年功的な運用に近づきます。石田論文が指摘するとおり、等級を大括りにして昇格の頻度を抑えることが、職能等級のままでも年功的な賃金を是正する手段です。ジョブ型人事指針に載る東洋合成工業は、管理職をマネジメントとプロフェッショナルの2コースに分けたうえで役割等級を設けています。
賃金表の型——昇給額積み上げ方式・実額表示方式・ゾーン別昇給表
等級と賃金を結ぶ賃金表には、大きく2つの型があります。前年の基本給に昇給額を上乗せしていく「昇給額積み上げ方式」と、等級ごとに基本給の実額の範囲を示し、その範囲内を移動させる「実額表示方式」です。積み上げ方式は勤続年数に応じて上乗せの回数が増えるため、必然的に年功的な賃金になります。
役割等級と組み合わせて使われるのが、石田論文の言う「ゾーン別昇給表」です。同じ等級の中で現在の給与水準を上位から4つのゾーンに分け、評価記号(S〜D)との組み合わせが昇給額の決定基準です。上位ゾーンの社員はC・D評価なら減額し、下位ゾーンの社員は昇給を厚くするため、給与は等級の中位に集まります。昇給の種類と決め方は昇給とは(定期昇給・ベアの違いと昇給額の決め方)、年齢と賃金の関係は賃金カーブとはで扱っています。
降格・降給を伴う等級制度の改定と、就業規則への記載・不利益変更
労働基準法第89条第2号により、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、賃金の決定・計算の方法と昇給に関する事項を就業規則に記載します。等級で基本給の範囲が決まる制度なら、等級の区分と昇格・降格の条件は記載の対象です。
職能等級から職務・役割等級へ移るとき、一部の社員の基本給が下がることがあります。この場合は労働契約法第10条により、変更の必要性、不利益の程度、変更後の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などに照らした合理性が問われます。差額を数年かけて縮める調整給を置くのは、不利益の程度を抑えるための手当てです。
等級制度を人事マスタに持たせる設計要件——等級・号俸・昇格履歴
ここからは、制度を運用する仕組みを作る側の視点です。等級制度をExcelから人事システムへ移すとき、要件定義で詰まりやすいのは、等級を「社員の属性の1項目」として持ってしまう設計です。
等級マスタ・号俸テーブル・社員の格付け履歴を分けて持つデータ構造
等級に関わるデータは、少なくとも次の3つに分けて持ちます。
| データ | 主な項目 | 変わるタイミング |
|---|---|---|
| 等級マスタ | 等級コード・名称・類型・定義・適用期間 | 制度改定時 |
| 号俸テーブル | 等級コード・号俸・基本給額・適用期間 | ベースアップ・改定時 |
| 格付け履歴 | 社員番号・等級・号俸・発令日・適用開始日・事由 | 昇格・降格・昇給の都度 |
社員テーブルに「現在の等級」だけを持つ設計では、過去の時点で誰がどの等級だったかを再現できません。昇格の滞留年数の計算や、等級別の賃金差異の分析には、格付けを履歴として持つことが前提になります。号俸を使わない範囲給の制度なら、号俸テーブルの代わりに等級ごとの下限額・上限額を適用期間付きで持ちます。
昇格履歴は発令日と適用開始日を分け、遡及発令と取消しに耐える形で保存
昇格の発令は、決定した日と給与に反映する日がずれることがあります。4月1日付けの昇格を5月の評価会議で決めれば、発令日は5月、適用開始日は4月1日で、4月分の差額を遡って支給します。この2つの日付を1項目で持つと、給与計算で差額の対象月を判定できません。
誤った発令の取消しも、上書きでなく「取消し」の履歴を追加する形で残します。上書きすると、取消し前の格付けで計算した給与や賞与の根拠が消えるためです。グループ会社をまたぐ発令履歴の持ち方は、大企業の人事管理システムの選び方(グループ人事マスタと発令履歴)で詳しく扱っています。
等級制度の改定・移行時に新旧等級の対応表と調整給をデータで持つ要件
等級制度を改定するときは、旧等級から新等級への対応表をデータとして持つ設計です。旧6等級を新4等級へ統合するなら、どの旧等級・号俸の社員を新等級のどの位置に格付けるかを1行ずつ定義し、移行日に一括で格付け履歴を追加します。移行で基本給が下がる社員には、調整給の額と終了予定時期を別の項目で持ちます。
既製の人事システムは、等級と号俸の持ち方が製品ごとに決まっており、ゾーン別昇給表や調整給の段階的な縮小を設定だけで表せない場合があります。自社の昇給ルールや新旧対応表を製品の設定で表現できないときは、当社の人事・労務管理システム開発で、等級制度の規程を要件に置き換えるところから個別に設計しています。
自社に合う等級制度の選び方——類型の判断基準と導入で失敗するパターン
3類型に優劣はありません。決め手になるのは、自社の異動の仕方と、ポジションを文書で定義できる範囲です。
職務等級を全社一律で入れない判断と、管理職層から先行させる条件
職務等級(ジョブ型)を全社員に一度に入れるのは、ポジションごとの職務記述書を全員分そろえられる企業に限ります。一般職の多くがジョブローテーションで育つ企業なら、全社一律の導入は見送ります。異動のたびに賃金が上下し、育成のための異動が回らなくなるからです。
現実的なのは、職責を文書で定義しやすい管理職層から先行させる併用型です。ジョブ型人事指針に載る東洋合成工業(従業員932人)は、ジョブ型を管理職のみに導入し、非管理職は時間をかけて育てる時期だとして「発揮能力等級」を置きました。年齢で昇格する職能給とも異なる、行動や挑戦を評価する等級区分です。管理職に役割等級、一般職に能力基準の等級という組み合わせは、中堅企業でも採りやすい型です。
等級制度の見直しとシステム刷新を同時に進め、運用開始が遅れる失敗
避けたいのは、等級制度の改定と人事システムの入れ替えを同じスケジュールに載せる進め方です。新等級の定義や対応表は、社員説明や労働組合との協議で最後まで修正が入ります。その途中でシステムの設定や開発を固めると、修正のたびに手戻りが発生し、移行日に間に合わなくなります。
順番は、制度の確定、移行データの作成、システムへの反映です。制度の改定期間中は、新旧対応表と調整給をExcelで管理し、移行日の格付けが確定した段階でシステムの要件を固めます。人事システム全体の機能と選び方は、人事システムとは(機能・種類・選び方と自社開発の判断軸)を参照してください。
よくある質問
等級制度を作る、または見直す担当者から寄せられる質問に答えます。
等級制度と人事評価制度の違いは何ですか?
等級制度は社員の序列を決める仕組み、人事評価制度はその序列の中で一人ひとりの働きぶりを測る仕組みです。等級ごとに期待する能力・職務・役割が決まっていて、評価で測るのは、その期待に対する達成度です。評価結果は昇給や賞与に反映され、一定の評価が続くと上位等級へ昇格します。等級が先にないと評価の基準が定まらないため、制度は等級から作ります。
等級は何段階くらいにするのが一般的ですか?
企業規模と類型で変わりますが、数百名規模までの企業なら一般職と管理職を合わせて5〜8等級から検討を始めるのが目安です。大企業の例では、日立製作所がグローバル共通で11階層の等級を整えています。等級を増やすと隣の等級との違いを書き分けられなくなり、評価者が等級ごとの期待水準を説明できなくなります。迷ったら少なめに作り、運用しながら分割するほうが修正は容易です。
職能資格制度と職能等級制度は同じものですか?
実務上はほぼ同じ意味で使われています。どちらも職務遂行能力のレベルで社員を格付ける制度で、資格・等級という呼び方の違いは企業ごとの用語の差です。ただし「資格」という語は、役職とは別に社員の格を示す呼称として使われてきた経緯があり、社内規程では職能資格等級のように併記する例もあります。自社で定義するときは、昇格の条件と等級の数を規程に書いておけば、呼び方の差は問題になりません。
従業員30名程度の中小企業にも等級制度は必要ですか?
給与の決め方を社員に説明する必要が出てきたら、作る時期です。社長が一人ひとりの給与を決めている段階では、等級がなくても回ります。ただし採用が続いて給与の逆転や不公平感が出始めたら、3〜4段階の簡素な等級でも、給与の根拠を示せるようになります。常時10人以上の事業場なら、等級で基本給を決める場合は就業規則への記載が必要です。
等級制度を見直すにはどれくらいの期間がかかりますか?
類型を変える見直しなら、設計から移行まで1年前後を見込みます。内訳は、現状分析と方針決定に2〜3か月、等級定義と賃金表の設計に3〜4か月、新旧対応表の作成と社員説明・労働組合等との協議に3か月程度です。富士通のように職務記述書を短期間で作った例もありますが、記述書は運用しながら直していく前提で作られています。等級数の調整だけなら、半年程度で済むこともあります。
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