高額療養費制度は、1か月に医療機関や薬局の窓口で支払った自己負担が、年齢と所得で決まる上限額を超えたときに、超えた分を加入先の健康保険が払い戻す制度です。「高額医療費制度」と呼ばれることもありますが、同じ制度を指しています。
2026年(令和8年)8月診療分から上限額が引き上げられ、あわせて「年間上限」が新設されました。この記事では改正後の上限額を早見表で示し、医療費100万円のときにいくら戻るかの計算、合算できる自己負担の条件、多数回該当の数え方、申請の流れと期限、確定申告の医療費控除での扱いまでを順に説明します。
まとめ:高額療養費制度の要点(2026年8月改正後)
1か月(1日から末日)の自己負担が上限額を超えた分が戻る制度で、上限額は所得区分で決まります。70歳未満で年収約370万円から約770万円の区分なら、2026年8月診療分からの上限額は85,800円+(医療費-286,000円)×1%です。医療費100万円(窓口負担30万円)なら上限は92,940円で、差額の207,060円が戻ります。
合算できるのは同じ月・同じ健康保険の世帯の自己負担で、70歳未満は医療機関ごと(医科・歯科、入院・外来は別)に21,000円以上のものに限られます。入院時の食事代、差額ベッド代、先進医療の技術料、自由診療は対象外です。
直近12か月に3回以上支給を受けると4回目から上限が下がり(多数回該当)、この額は改正後も据え置きです。さらに8月から翌年7月までの自己負担を合計する年間上限(年収約370万円から約770万円の区分は53万円)が新設されましたが、協会けんぽでは年間上限分の申請受付は令和9年8月からです。
申請先は加入している健康保険で、期限は診療月の翌月1日から2年です。マイナ保険証で受診するか限度額適用認定証を出せば、窓口の支払いが最初から上限額までになり、払い戻しを待つ必要がありません。確定申告で医療費控除を受けるときは、受け取った高額療養費を「保険金などで補填される金額」として差し引きます。
高額療養費制度の仕組み|1か月の自己負担に所得別の上限
健康保険法第115条は、療養に要した一部負担金等の額が著しく高額であるときに高額療養費を支給すると定めています。協会けんぽ、健康保険組合、共済組合、市町村国保、後期高齢者医療のどれに入っていても仕組みは共通で、上限額も同じ体系です。ただし所得区分の判定基準は制度で違い、会社の健康保険は標準報酬月額、70歳未満の国保は世帯の加入者の旧ただし書所得(基礎控除後の所得)の合計で判定します。
「高額医療費制度」は通称で、法令上の名前は高額療養費
健康保険法と同法施行令(第41条以下)で使われている語は「高額療養費」です。検索でよく使われる「高額医療費制度」は同じ制度の通称と考えて差し支えありません。一方、「高額医療費控除」という制度はありません。高額療養費(健康保険の給付)と医療費控除(所得税の控除)が混ざった呼び方で、両者は申請先も計算期間も別です。
| 比較項目 | 高額療養費 | 医療費控除 |
|---|---|---|
| 性質 | 健康保険の給付 | 所得税の所得控除 |
| 申請先 | 加入する健康保険 | 税務署(確定申告) |
| 計算の単位 | 1か月(暦月) | 1年(1月から12月) |
| 効果 | 超過分が現金で戻る | 所得税・住民税が軽くなる |
| 期限 | 診療月の翌月1日から2年 | 還付申告は翌年1月1日から5年(申告義務がある場合は原則翌年3月15日まで) |
対象になる費用・ならない費用|食事代・差額ベッド代・先進医療は対象外
対象は保険診療の自己負担(診察、検査、手術、入院基本料、処方薬など)だけです。協会けんぽは「保険外併用療養費の差額部分や入院時食事療養費、入院時生活療養費の自己負担額は対象になりません」と明記しています。具体的には次の支出が上限計算から外れます。
- 入院時の食事代(食事療養標準負担額)と、65歳以上が療養病床に入院したときの居住費
- 差額ベッド代(個室などを希望した場合の特別療養環境室料)
- 先進医療の技術料
- 自由診療(美容目的の施術など)、通院の交通費、日用品
このため「高額療養費があるから入院費は月9万円程度で済む」とは限りません。個室を選べば差額ベッド代は全額自己負担で、入院が月をまたげば上限は月ごとに別々にかかります。
2026年8月改正後の自己負担限度額|70歳未満の早見表
見直しは2025年3月にいったん凍結されましたが、「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」の取りまとめ(令和7年12月16日)を経て、令和8年8月診療分から第1段階が実施され、令和9年8月から第2段階が施行される予定です。厚生労働省の高額療養費制度を利用される皆さまへは、70歳未満・年収約370万円から約510万円で医療費100万円の場合、自己負担は「約9.3万円まで抑えられます」と例示しています。
70歳未満の月額上限・多数回該当・年間上限(令和8年8月から令和9年7月)
| 区分 | 年収の目安 | 健保の標準報酬月額 | 国保の旧ただし書所得 | 月額上限 | 多数回該当 | 年間上限 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ア | 約1,160万円以上 | 83万円以上 | 901万円超 | 270,300円+(医療費-901,000円)×1% | 140,100円 | 168万円 |
| イ | 約770万から約1,160万円 | 53万から79万円 | 600万円超901万円以下 | 179,100円+(医療費-597,000円)×1% | 93,000円 | 111万円 |
| ウ | 約370万から約770万円 | 28万から50万円 | 210万円超600万円以下 | 85,800円+(医療費-286,000円)×1% | 44,400円 | 53万円 |
| エ | 約370万円まで | 26万円以下 | 210万円以下 | 61,500円 | 44,400円 | 53万円 |
| オ | 住民税非課税 | – | – | 36,900円 | 24,600円 | 29万円 |
計算式の「医療費」は保険適用の診療費の総額(10割)です。エ区分のうち標準報酬月額15万円以下であることが確認できた方は年間上限41万円が適用されますが、協会けんぽはこの分を「令和9年8月以降に償還払いします」としています。出典は協会けんぽの高額療養費のページの区分表です。
改正前との比較|定額部分は約4.2%から約7.1%の引き上げ
| 区分 | 2026年7月診療分まで | 2026年8月診療分から | 定額部分の増加額 | 定額部分の増加率 |
|---|---|---|---|---|
| ア | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% | 270,300円+(医療費-901,000円)×1% | 17,700円 | 約7.0% |
| イ | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% | 179,100円+(医療費-597,000円)×1% | 11,700円 | 約7.0% |
| ウ | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 85,800円+(医療費-286,000円)×1% | 5,700円 | 約7.1% |
| エ | 57,600円 | 61,500円 | 3,900円 | 約6.8% |
| オ | 35,400円 | 36,900円 | 1,500円 | 約4.2% |
多数回該当の額(140,100円・93,000円・44,400円・24,600円)は改正前と同じです。負担増の影響を受けやすいのは、高額な医療が年に数回で、多数回該当にも年間上限にも届かない方です。毎月のように上限に達している長期療養の方は、4回目以降の額が変わらないため影響が小さく、月ごとの上限には届かなくても自己負担が積み上がる方は、新設の年間上限で負担が減る場合があります。
70歳以上の自己負担限度額と外来特例|外来の年間上限は一般216,000円
70歳以上の一般・低所得の区分には、外来(通院)の自己負担を個人ごとに抑える外来特例があります。2026年8月からは外来特例の月額が上がり、一般区分の外来の年間上限も144,000円から216,000円になりました。表の区分は会社の健康保険の標準報酬月額で示しています。国保と後期高齢者医療では住民税の課税所得などで判定し、現役並みの境目は課税所得145万円・380万円・690万円です。自分の区分は加入先で確認してください。
| 区分 | 外来・個人ごと(月) | 外来の年間上限 | 世帯ごと(入院含む・月) | 世帯の年間上限 |
|---|---|---|---|---|
| 現役並み(標報83万円以上) | – | – | 270,300円+(医療費-901,000円)×1%〈140,100円〉 | 168万円 |
| 現役並み(標報53万から79万円) | – | – | 179,100円+(医療費-597,000円)×1%〈93,000円〉 | 111万円 |
| 現役並み(標報28万から50万円) | – | – | 85,800円+(医療費-286,000円)×1%〈44,400円〉 | 53万円 |
| 一般(標報26万円以下) | 22,000円 | 216,000円 | 61,500円〈44,400円〉 | 53万円 |
| 低所得者2(住民税非課税) | 11,000円 | 96,000円 | 25,700円〈24,600円〉 | 29万円 |
| 低所得者1(所得がない世帯) | 8,000円 | – | 15,700円 | 18万円 |
〈 〉内は多数回該当の額です。一般区分でも、協会けんぽでは標準報酬月額15万円以下であることが確認できた方の世帯の年間上限は41万円となり、令和9年8月以降に償還払いされます。改正前の外来特例は一般18,000円(年間144,000円)、住民税非課税8,000円でした。住民税非課税の区分は月額が11,000円に上がった一方で年間上限96,000円が新設されたため、外来だけで毎月上限まで使う方の年間負担は8,000円×12か月と同じ96,000円にとどまります。なお、70歳以上の方が外来特例で支給を受けた回数は、多数回該当の回数に数えません。後期高齢者医療の保険料は後期高齢者医療制度の保険料はいくら?令和8年度の年収別早見表(単身・夫婦)と都道府県別の料率・軽減で扱っています。
高額療養費の計算方法|いくら戻るかを実額で確認
戻る額は「その月に窓口で払った対象の自己負担」から「自分の区分の上限額」を引いた差額です。計算の順番は、(1)合算できる自己負担を集める、(2)上限額を出す、(3)差し引く、の3つです。
基本の計算例|年収約500万円・医療費100万円で207,060円
70歳未満・ウ区分の方が、同じ暦月内に保険診療の総医療費100万円の入院治療を受け、窓口で3割の30万円を払ったケースです。食事代や差額ベッド代は含めません。
- 上限額:85,800円+(1,000,000円-286,000円)×1%=92,940円
- 払い戻し:300,000円-92,940円=207,060円
- 同じ月の入院が多数回該当(4回目以降)なら上限は44,400円で、払い戻しは255,600円
「医療費がいくら以上なら使えるか」の目安も同じ式から出ます。3割負担の窓口額が上限額を上回るのは、ウ区分で総医療費286,000円(窓口85,800円)を超えたとき、エ区分で総医療費205,000円(窓口61,500円)を超えたとき、オ区分で総医療費123,000円(窓口36,900円)を超えたときです。式に出てくる286,000円は、定額部分85,800円を3割で割り戻した数字です。
合算の条件|70歳未満は医療機関ごとに21,000円以上
健康保険法施行令第41条第1項は、70歳未満の自己負担について「二万千円以上のものに限る」と定めています。協会けんぽの説明では、自己負担は医療機関ごとに計算し、同じ医療機関でも「医科入院」「医科外来」「歯科入院」「歯科外来」はそれぞれ別に見ます。院外の薬局で払った薬代は、処方せんを出した医療機関の自己負担に合算します。70歳以上の方は金額にかかわらずすべて合算できます。
例として、ウ区分の会社員の世帯で同じ月に次の自己負担があったとします。
| 誰が | どこで | 総医療費 | 窓口負担 | 合算 |
|---|---|---|---|---|
| 本人 | A病院・入院 | 400,000円 | 120,000円 | できる |
| 配偶者(被扶養者) | B病院・外来(院外薬局分を含む) | 100,000円 | 30,000円 | できる |
| 本人 | C歯科・外来 | 50,000円 | 15,000円 | できない(21,000円未満) |
合算できる自己負担は150,000円、その総医療費は500,000円です。上限額は85,800円+(500,000円-286,000円)×1%=87,940円で、払い戻しは150,000円-87,940円=62,060円になります。C歯科の15,000円は合算から外れます。
「世帯」は住民票の世帯とは限りません。会社の健康保険では被保険者とその被扶養者、国保では同じ世帯で同じ国保に加入している人が単位です。共働きで夫婦が別々の健康保険に入っていれば、同居していても合算できません。後期高齢者医療の加入者(75歳以上と、65歳以上で障害認定を受けた方)は、国保や会社の健康保険に入っている家族とは合算できません。
多数回該当の数え方|保険者や世帯が変わったときの通算条件
多数回該当は「直近12か月に3回以上支給を受けた場合、4回目から上限が下がる」仕組みです。ここで見落とされやすいのが、回数が通算される範囲です。協会けんぽは次のように説明しています。
- 多数回該当は同一保険者での療養に適用され、国保や健保組合から協会けんぽに移った場合などは通算されない
- 同一被保険者で適用され、退職して被保険者から被扶養者に変わった場合なども通算されない
- 限度額適用認定証を使って窓口で上限額まで払った月も、支給を受けた回数に含む
国保では回数を世帯主を基準に数えます。新潟県の案内によると、平成30年度からは同じ都道府県内での転居で世帯の継続性が保たれていれば回数が通算されますが、世帯主の変更や世帯の一部の転居では回数がリセットされることがあります(新潟県「高額療養費の多数回該当」)。
長期の治療中に転職・退職・扶養への切り替えを予定している方は、この点を先に確かめてください。加入先が変わると、それまで44,400円で済んでいた月が、次の保険で再び1回目として85,800円台の上限から数え直しになります。退職後の保険の選び方は国民健康保険の加入・切り替え手続き|14日を過ぎたら・転職で数日空くときの保険料で整理しています。
年間上限の計算期間は8月から翌年7月|申請は期間の終了後
年間上限の根拠は改正政令で新設された健康保険法施行令第41条の3で、金額は第42条に定められています。計算期間は条文上「毎年八月一日から翌年七月三十一日までの期間」で、暦年でも年度でもありません。この期間に負担した対象の自己負担(月ごとの高額療養費などで戻った分を除く)を合計し、区分ごとの年間上限を超えた分が支給されます。協会けんぽは、70歳未満の方が医療機関ごとに21,000円以上の自己負担だけを合算するルールについて「年間上限額の高額療養費の申請の際も同様です」としています。
期間の末日が7月31日なので、支給は期間が終わってからです。最初の計算期間は2026年8月から2027年7月までで、協会けんぽは「年間上限額の高額療養費の申請は令和9年8月から開始します」としています。厚生労働省の参考資料では、多数回該当に届かなかった方の年間自己負担が57.3万円から53.0万円に下がる例が示されています。
紛らわしい条文に第41条の2「年間の高額療養費の支給要件及び支給額」がありますが、これは以前からある70歳以上の外来の年間上限(216,000円など)の規定で、今回新設された年間上限とは別物です。
高額療養費の申請方法と払い戻しまでの期間
申請は加入している健康保険に対して行います。会社員と被扶養者は協会けんぽか健康保険組合、自営業者などは市区町村の国保窓口、75歳以上は後期高齢者医療の窓口です。資格確認書や資格情報のお知らせ、マイナポータルで、現在加入している保険者名を確認できます。
申請先・申請書と、申請しなくても振り込まれるケース
協会けんぽでは「健康保険高額療養費支給申請書」を加入している支部へ郵送するか、電子申請で出します。申請書の冒頭には「記入方法および添付書類等については『記入の手引き』をご確認ください」とあり、住民税非課税の区分で申請する方は、マイナンバーによる情報照会を希望しない場合に非課税証明書などを添付します。直近1年に高額療養費に該当した月が3か月以上ある場合は、その診療年月も記入します(多数回該当の判定に使うため)。
申請しなくても振り込まれる仕組みもあります。市町村国保では、対象世帯に診療月のおおむね3か月後に申請書が届くのが一般的で、さらに国民健康保険法施行規則第27条の17により、市町村の判断で2回目以降の申請を省略できます(令和3年の省令改正で70歳以上に限っていた対象が広がりました)。千葉県野田市は令和4年4月1日以降の申請を初回とみなし、次回以降は「原則、申請書の提出を不要とし、口座に自動振込を行います」と案内しています。さいたま市も令和4年10月以降の該当分から、申出書兼同意書を出した世帯(保険税の滞納がないことなどが要件)に自動振込を行っています。実施の有無と開始時期は市町村ごとに違うため、お住まいの自治体の国保窓口で確認してください。協会けんぽも、支給が見込まれる加入者に必要事項を記入済みの申請書を郵送する「ターンアラウンド通知」を行っています。健康保険組合には、申請を待たずに支給するところもあります。
払い戻しは診療月から3か月以上・申請期限は2年
協会けんぽは、高額療養費は医療機関から提出される診療報酬明細書(レセプト)の確認が必要なため「診療月から3か月以上かかります」と説明しています(協会けんぽ よくあるご質問)。12月の入院なら、支給は早くても翌年3月以降です。
申請できる期間は2年です。健康保険法第193条は保険給付を受ける権利が「二年を経過したときは、時効によって消滅する」と定めており、起算日は診療を受けた月の翌月1日です(自己負担分を後日支払った場合は支払日の翌日)。2年以内であれば、過去の分をさかのぼって申請できます。領収書は申請と医療費控除の両方で使うので、捨てずに保管してください。
窓口で上限額までにする方法|マイナ保険証と限度額適用認定証
払い戻しを待たずに済ませる方法があります。厚生労働省は、平成24年4月からは外来も含めて「月ごとの上限額を超える分を窓口で支払う必要はなくなりました」としたうえで、「この取扱いを受けるには、マイナ保険証をご利用いただくか、事前に『限度額適用認定証(認定証)』を入手していただく必要があります」と案内しています。
- マイナ保険証:オンライン資格確認を導入している医療機関なら、事前の手続きなしで窓口の支払いが上限額までになります
- 限度額適用認定証:マイナ保険証を使わない方や、オンライン資格確認を導入していない医療機関にかかる方は、加入先に申請して交付を受け、窓口で資格確認書と一緒に出します
この方法でも、窓口で上限が適用されるのは医療機関ごと、さらに同じ医療機関でも医科・歯科、入院・外来の区分ごとです。同じ月に複数の医療機関や区分にまたがった分や、家族の分を世帯合算すると上限を超える場合は、超えた分を後から申請して受け取ります。入院や手術の予定が決まったら、マイナ保険証で受診するか、入院日までに認定証を手元にそろえるのが、立て替えの負担を減らす一番確実な手順です。
支払いが難しいとき|高額医療費貸付と特定疾病の1万円
払い戻しを待つ間の立て替えが難しい場合、協会けんぽには高額療養費支給見込額の8割相当額を無利子で借りられる高額医療費貸付制度があります。返済は、後日支給される高額療養費を充てる形で行われます。
人工透析を行う慢性腎不全、血漿分画製剤を投与している先天性血液凝固因子障害(血友病)、血液凝固因子製剤の投与に起因するHIV感染症で抗ウイルス剤を投与している方は、特定疾病療養受療証の交付を受けて窓口に提示すると、認定された疾病の保険診療の自己負担は、1医療機関につき入院・外来別に月額10,000円までになります(人工透析で70歳未満・標準報酬月額53万円以上は20,000円)。医師の意見書などを添えて加入先に申請します。
令和9年8月からの第2段階|70歳未満は13区分へ細分化
2027年8月からは、住民税非課税を除く4区分が12区分に分かれ、非課税と合わせて13区分になります。いまのウ区分(年収約370万円から約770万円)は3つに分かれ、上の層ほど上限が上がります。
| 年収の目安 | 月額上限(令和9年8月から) | 多数回該当 | 年間上限 |
|---|---|---|---|
| 約1,650万円以上 | 342,000円+(医療費-1,140,000円)×1% | 140,100円 | 168万円 |
| 約1,410万から約1,650万円 | 303,000円+(医療費-1,010,000円)×1% | 140,100円 | 168万円 |
| 約1,160万から約1,410万円 | 270,300円+(医療費-901,000円)×1% | 140,100円 | 168万円 |
| 約1,040万から約1,160万円 | 209,400円+(医療費-698,000円)×1% | 93,000円 | 111万円 |
| 約950万から約1,040万円 | 194,400円+(医療費-648,000円)×1% | 93,000円 | 111万円 |
| 約770万から約950万円 | 179,100円+(医療費-597,000円)×1% | 93,000円 | 111万円 |
| 約650万から約770万円 | 110,400円+(医療費-368,000円)×1% | 44,400円 | 53万円 |
| 約510万から約650万円 | 98,100円+(医療費-327,000円)×1% | 44,400円 | 53万円 |
| 約370万から約510万円 | 85,800円+(医療費-286,000円)×1% | 44,400円 | 53万円 |
| 約260万から約370万円 | 69,600円 | 44,400円 | 53万円 |
| 約200万から約260万円 | 65,400円 | 44,400円 | 53万円 |
| 約200万円まで | 61,500円 | 34,500円 | 41万円 |
| 住民税非課税 | 36,900円 | 24,600円 | 29万円 |
引き上げ率が最も大きいのは年収約650万円から約770万円の層で、改正前の80,100円から110,400円へ、定額部分で約37.8%上がります。医療費100万円なら上限額は110,400円+(1,000,000円-368,000円)×1%=116,720円で、2026年8月からの92,940円より23,780円増えます。年収約200万円までの層は、多数回該当が44,400円から34,500円に下がります。
医療費控除との関係|高額療養費は補填金額として差し引く
高額療養費は、受け取った年ではなく、対応する医療費を支払った年分の医療費控除で「保険金などで補填される金額」として差し引きます。医療費控除の対象や申告の手順そのものは医療費控除とは?対象・計算・申告方法と令和9年分の胃腸薬追加にまとめています。
補填金の差し引き|対応する医療費が限度で余りは繰り越さない計算
国税庁のタックスアンサーNo.1120は、補填金は「その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きますので、引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引きません」としています。先ほどの207,060円の例で、同じ年に通院・薬代が12万円あった場合の控除額は次のとおりです。
- 支払った医療費:300,000円+120,000円=420,000円
- 補填金額:207,060円(入院分の行にだけ記入)
- 医療費控除額:420,000円-207,060円-100,000円=112,940円
傷病手当金や出産手当金は給与の代わりの給付なので、補填金額に含めません(所得税基本通達73-9)。傷病手当金の税務上の扱いは傷病手当金は非課税|国税庁が示す根拠条文と確定申告・年末調整・源泉徴収票の扱いで、医療保険の入院給付金を受けた年の差し引き方は入院給付金を受け取った年の医療費控除|差し引くのは対応する医療費までで扱っています。
支給額が確定申告に間に合わないとき|見込額で申告して後で訂正
12月の入院分の高額療養費が翌年3月の申告期限までに確定しないことがあります。この場合は受け取る見込額を差し引いて申告し(所得税基本通達73-10)、確定額が見込額と違ったら、控除額が減るなら修正申告、増えるなら更正の請求で訂正します。支給が翌年でも、差し引くのは、その給付に対応する医療費を実際に支払った年の医療費からです。
家族の範囲も2つの制度で違います。高額療養費の世帯合算は同じ健康保険の加入者に限られますが、医療費控除では、申告する人が自分や「生計を一にする」配偶者・その他の親族のために実際に支払った医療費を合算できます。健康保険が別でも、別居していても、生計を一にする要件を満たせば対象です。
高額療養費制度に関するよくある質問
高額医療費制度と高額療養費制度は同じものですか?
同じ制度です。法令上の名前は高額療養費で、健康保険法第115条と同法施行令第41条以下が根拠です。「高額医療費控除」という制度はなく、高額療養費と医療費控除が混ざった呼び方です。
医療費がいくら以上だと高額療養費が使えますか?
3割負担の場合、年収約370万円から約770万円の区分では1か月の総医療費が286,000円(窓口85,800円)を超えると対象になります。年収約370万円までなら総医療費205,000円(窓口61,500円)、住民税非課税なら123,000円(窓口36,900円)が目安です。70歳未満は医療機関ごとに21,000円以上の自己負担だけを合算します。
高額療養費は申請しなくても戻ってきますか?
加入先によります。協会けんぽは申請が必要ですが、支給が見込まれる方には記入済みの申請書が届くことがあり、支給は診療月から3か月以上後です。市町村国保は対象世帯に申請書が届き、自治体によっては初回の申請時に申し出ると2回目以降は自動で振り込まれます。健康保険組合には申請を待たずに支給するところもあります。マイナ保険証で受診すれば、そもそも窓口の支払いが上限額までになります。
入院中の食事代や差額ベッド代も高額療養費の対象ですか?
対象外です。入院時の食事代、差額ベッド代、先進医療の技術料、自由診療は上限額の計算に入らず、全額が自己負担として残ります。
転職や退職をすると多数回該当の回数はどうなりますか?
加入する健康保険が変わると通算されません。協会けんぽは、国保や健保組合から協会けんぽに移った場合や、被保険者から被扶養者に変わった場合は多数回該当の月数に通算しないとしています。新しい保険では1回目から数え直します。
高額療養費と医療費控除は両方使えますか?
両方使えます。ただし医療費控除の計算では、受け取った高額療養費を対応する医療費から差し引きます。医療費控除の明細書の「保険金などで補填される金額」欄には、確定した支給額を記入します。申告時に未確定なら見込額を記入し、確定額との差が出た場合は申告内容を訂正します。