14 人が閲覧(直近 30 日) 確定申告

人間ドック・健康診断の費用は医療費控除の対象か|例外2要件と特定健診の自己負担額

人間ドック・健康診断の費用は医療費控除の対象か|例外2要件と特定健診の自己負担額

人間ドックや健康診断の費用は、原則として医療費控除の対象になりません。ただし国税庁は例外を明示しており、さらに特定健康診査については、所得税法施行令が委任する財務省令の側に対象化のルートが用意されています。この記事では、原則と例外を分ける条文上の要件、再検査やがん検診など検査種類別の判定、補助金を受けたときの控除額の計算、個人事業主と法人役員の経費計上までを、条文番号と国税庁の回答文にさかのぼって整理します。令和8年分の確定申告を前提としています。

まとめ

論点 結論 根拠
人間ドック・健康診断 原則対象外 所基通73-4
重大な疾病が発見され引き続き治療 検診費用も対象 所基通73-4
特定健康診査の自己負担額 3基準該当かつ積極的支援なら対象 所規40の3①二
特定健康診査(65歳以上) 対象外 実施基準8条2項
医師の指示による再検査・精密検査 対象 所令207一
予防接種 対象外 所基通73-5
健保組合・自治体の補助金 支払額から差し引く 所法73①
会社が負担した健診費用 対象外 所法73①
事業主本人の健診費用 必要経費にならない 所法45①一

例外が成立する鍵は、「重大な疾病の発見」と「引き続く治療」の両方がそろうことです。異常所見が出ただけでは足りません。もうひとつ押さえておきたいのが、メタボリックシンドロームに係る特定健康診査には治療に移行しなくても自己負担額が対象になるルートがあり、ただしそれが64歳までに限られる点です。経費計上の可否は「誰が受けたか」で決まり、事業主本人分は所得税法45条1項1号の家事上の経費として必要経費に算入できません。

人間ドック・健康診断の費用が原則として控除対象外となる理由と例外の2要件

通達73-4が定める原則と国税庁質疑応答事例の回答文

原則と例外はひとつの通達に収まっています。所得税基本通達73-4(健康診断及び美容整形手術のための費用)は次のとおりです。

「いわゆる人間ドックその他の健康診断のための費用及び容姿を美化し、又は容ぼうを変えるなどのための費用は、医療費に該当しないことに留意する。ただし、健康診断により重大な疾病が発見され、かつ、当該診断に引き続きその疾病の治療をした場合には、当該健康診断のための費用も医療費に該当するものとする。」

国税庁の質疑応答事例「人間ドックの費用」(令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づくもの)は、この通達を平易に言い換えて「いわゆる人間ドックその他の健康診断は疾病の治療を伴うものではないので、その人間ドック等の費用は、医療費控除の対象とはなりません」と回答しています。

理由は控除の対象を定めた条文の構造にあります。所得税法73条2項は、医療費控除の対象を「医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるもの」と定めており、これを受けた所得税法施行令207条1号も「医師又は歯科医師による診療又は治療」と書いています。健康診断は病気を見つけるための検査であって診療でも治療でもないため、この入口を通りません。同じ理由で予防目的の支出も外れます。通達73-5は医薬品であっても「疾病の予防又は健康増進のために供されるものの購入の対価は、医療費に該当しないことに留意する」としており、インフルエンザなどの予防接種の費用が対象外なのもこの筋です。

例外が成立する「重大な疾病の発見」と「引き続く治療」の2要件

通達のただし書は、要件を2つ重ねています。重大な疾病が発見されただけで治療に進まなければ対象になりませんし、治療を受けていても、そのきっかけが健康診断での発見でなければ健診費用は対象になりません。質疑応答事例が「その健康診断は、治療に先立って行われる診察と同様に考えることができます」と説明しているとおり、健診が事後的に初診の性格を帯びるからこそ対象になる、という論理構成です。

この論理は健診以外の検査にも同じ形で適用されています。タックスアンサーNo.1122のQ&A版Q5は、新型コロナウイルス感染症のPCR検査について、医師等の判断により受けたものは「検査費用は、医療費控除の対象となります」とする一方、自己の判断で受けたものは対象外としたうえで、「ただし、PCR検査の結果、『陽性』であることが判明し、引き続き治療を行った場合には、その検査は、治療に先立って行われる診察と同様に考えることができますので、その場合の検査費用については、医療費控除の対象となります」と回答しています。検査一般に通じる判断枠組みだと理解しておくと、個別の検査で迷ったときの当てはめが安定します。

定義が置かれていない「重大な疾病」の実務上の判断材料

通達にも質疑応答事例にも、「重大な疾病」の定義や病名リストはありません。線引きは個別判断に委ねられているため、ここは断定を避けるべき領域です。手がかりになるのは、通達が求めているのが病名の重さそのものではなく「当該診断に引き続きその疾病の治療をした」という事実だという点で、実務上は健診結果通知書とその後の受診・治療の記録が同じ疾病でつながっていることを説明できるかが要になります。健診の領収書だけを保存しても、治療との連続性を示す資料が無ければ根拠を欠きます。判断に迷う金額は、申告前に所轄税務署または税務代理を担う税理士へ事実関係を示して確認してください。

特定健康診査の自己負担額が控除対象になる施行規則40条の3のルート

40歳から74歳を対象とするメタボリックシンドロームに係る特定健康診査には、治療に移行しなくても自己負担額が控除対象になる別の道があります。所得税法施行令207条柱書が「その病状その他財務省令で定める状況に応じて」と財務省令に委ね、その受け皿である所得税法施行規則40条の3第1項第2号が特定健康診査を名指ししている、という構造です。

積極的支援に限定される特定保健指導の要件

タックスアンサーNo.1122のQ&A版Q2は、特定健康診査の費用について「原則として医療費控除の対象とはなりません」としたうえで、次のように答えています。

「しかし、その特定健康診査の結果、高血圧症、脂質異常症または糖尿病と同等の状態であると認められる基準に該当すると診断され、かつ、引き続きその特定健康診査を行った医師の指示に基づき特定健康指導が行われた場合には、その特定健康診査の費用(自己負担額)も、医療費控除の対象となります。(所規40の3)」

引用は原文どおりで、「特定健康指導」の表記も国税庁の原文のままです(施行規則および厚生労働省令の用語は「特定保健指導」)。そして根拠条文を読むと、国税庁の回答文には現れない限定が置かれています。所得税法施行規則40条の3第1項第2号は、対象となる特定保健指導を「当該特定健康診査を行つた医師の指示に基づき積極的支援(特定健康診査及び特定保健指導の実施に関する基準〔中略〕第八条第一項〔中略〕に規定する積極的支援をいう。)により行われるものに限る」と書いています。特定保健指導には積極的支援と動機付け支援の2区分があり、対象になるのは積極的支援だけです。

両者は同じ厚生労働省令の別条で定義されています。動機付け支援(7条)が「生活習慣の改善のための取組に係る動機付けに関する支援」を行い「行動計画の策定の日から三月以上経過した日において、当該行動計画の実績に関する評価を行う」ものであるのに対し、積極的支援(8条)は「生活習慣の改善のための取組に資する働きかけに関する支援を相当な期間継続して行うこと」と「行動計画の進捗状況に関する評価」を重ねて求めます。継続的な介入があるかどうかが分かれ目です。自分がどちらに区分されたかは、保険者から届く特定保健指導の案内に記載されています。

65歳以上が対象から外れる年齢の壁

見落とされやすいのがここです。実施基準8条2項は積極的支援対象者を定めるにあたり、柱書で「積極的支援を実施する年度において六十五歳以上七十五歳以下の年齢に達する者〔中略〕を除く」と規定しています。65歳以上は7条2項により動機付け支援に振り分けられる建て付けで、積極的支援に区分されること自体がありません。

結果として、特定健康診査の自己負担額を医療費控除に入れられるのは64歳までです。特定健診の対象年齢は74歳までなので、65歳から74歳の10年間は特定健診を受けても、この規定を使う余地がありません。65歳以降にできるのは、健診で重大な疾病が見つかり治療に進んだ場合に通達73-4の例外を使うことだけです。

血圧・血中脂質・血糖の3基準と、保健指導の判定基準との違い

施行規則40条の3第1項第2号は、支援区分に加えて、健診結果が次のいずれかの基準に該当することも求めています。条文はそれぞれ実施基準1条1項の各号を引きながら、次の3つを挙げています。

  • イ 血圧の測定の結果が高血圧症と同等の状態であると認められる基準
  • ロ 血中脂質検査(中性脂肪・HDLコレステロール・LDLコレステロールの量の検査)の結果が脂質異常症と同等の状態であると認められる基準
  • ハ 血糖検査の結果が糖尿病と同等の状態であると認められる基準

3つのいずれか1つに該当すれば足ります。注意したいのは、この基準が特定保健指導の対象者を決める基準とは別物だという点です。実施基準4条1項は、腹囲またはBMIの条件を満たしたうえで血圧・血中脂質・血糖のいずれかが「厚生労働大臣が定める基準」(保健指導判定値)に該当する人を特定保健指導の対象としますが、施行規則が求めるのはより重い「高血圧症、脂質異常症または糖尿病と同等の状態であると認められる基準」です。積極的支援に区分されたからといって、自動的に税法上の3基準を満たすわけではありません。

もうひとつ、実施基準4条1項は括弧書きで「高血圧症、脂質異常症又は糖尿病の治療に係る薬剤を服用している者を除く」と定めています。すでに服薬治療を受けている人は特定保健指導の対象から外れるため、このルートは使えません。もっともその場合は治療そのものの費用が通常の医療費控除の対象になります。

特定保健指導そのものの自己負担金の扱い

対象になるのは健診費用だけではありません。タックスアンサーNo.1122は、控除対象となる医療費の12番目に「高齢者の医療の確保に関する法律に規定する特定保健指導(一定の積極的支援によるものに限ります。)のうち一定の基準に該当する者が支払う自己負担金」を挙げており、平成20年4月1日から適用されています。特定健康診査の自己負担額と、それに続く特定保健指導の自己負担金の両方を集計できるという意味です。金額としては小さいことが多いものの、他の医療費と合算して足切り額を超えるかどうかの判定に効いてきます。

検査種類別にみる控除可否の判断基準

判定は検査の名称ではなく、その検査が診療・治療の一環かどうかで決まります。

医師の指示による再検査・精密検査の位置づけ

健診で要再検査・要精密検査と判定され、医師の指示に基づいて医療機関で受けた再検査や精密検査の費用は、医療費控除の対象になります。前節の例外規定を使うまでもなく、所得税法施行令207条1号の「医師又は歯科医師による診療又は治療」そのものに当たるためです。健康保険が適用されるケースが一般的で、年齢や所得に応じた1割から3割の自己負担額を集計します。

この再検査で重大な疾病が見つかり治療に進んだ場合には、通達73-4によってさかのぼって元の健診費用も対象に加わります。再検査費用だけを申告して、きっかけとなった人間ドック代を落とすのは取りこぼしやすい組み合わせです。

がん検診・乳がん検診・脳ドックの判定

市区町村が実施するがん検診、職場や自治体の乳がん検診、自費で受ける脳ドックは、いずれも症状が無い段階で病気を探す検査であるため、原則として対象外になります。人間ドックと同じ扱いです。

ただし例外の適用も人間ドックと同じで、検診でがんが発見され引き続き治療を行った場合には、その検診の自己負担額も対象に含まれます。自治体のがん検診は自己負担が小さいものが多く、金額としては目立ちませんが、治療が始まった年は入院費や手術費と合わせて集計対象になります。

血液検査料・オプション検査・自費診療の切り分け

血液検査料が対象になるかどうかは、その採血が何のために行われたかで決まります。治療中の疾病の経過観察として医師が指示した血液検査は診療の一部なので対象です。一方、人間ドックや健康診断のメニューに含まれる血液検査は、健診全体の一部として原則対象外に含まれます。同じ検査項目でも、健診パッケージの中にあるのか、診療の中で指示されたのかで結論が変わります。

オプション検査も本体と同じ判定になります。通達73-4が対象とするのは「当該健康診断のための費用」であり、健診を構成する検査を切り分ける規定は置かれていません。人間ドックに追加した内視鏡検査で重大な疾病が発見され治療に至ったなら、その人間ドックは全体として治療に先立つ診察の性格を持つと考えるのが素直な当てはめです。逆に、異常が見つからなかった年はオプション分も含めて対象外になります。なお保険が適用されない自費の検査であっても、判定を分けるのは保険適用の有無ではなく診療・治療に当たるかどうかです。自由診療と医療費控除の関係は自由診療でも医療費控除を受けたい人が最初に確認すべき基本条件で扱っています。

控除額の計算:補填金の差し引きと足切り額の判定

補填される金額の差し引きと、超過分を他へ回さない原則

所得税法73条1項は、控除の計算に使う医療費を「その年中に支払つた当該医療費の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)の合計額」と定めています。健康保険組合が支給する人間ドックの補助金や市区町村の検診費用助成は、その健診費用の補填を目的として受け取るものなので、支払った金額から差し引いてから集計します。

差し引きには重要な限度があります。国税庁の質疑応答事例「支払った医療費を超える補填金」は、「この場合の差引計算は、その補填の対象とされる医療費ごとに行い、支払った医療費の金額を上回る部分の補填金の額は、他の医療費の金額からは差し引きません」と回答しています。人間ドック代12万円に対して健保組合から3万円の補助を受けたなら差し引くのは3万円までで、補助が人間ドック代を上回った場合でも、別に支払った歯科治療費などから超過分を引く必要はありません。健康保険の高額療養費や生命保険の入院給付金も同じ考え方で処理します。これらの差し引き計算は高額療養費制度(高額医療費制度)と医療費控除の違い・併用|2026年8月改正の限度額早見表と差し引き計算と入院給付金を受け取った年の医療費控除で押さえるべき基本的な仕組みで詳しく扱っています。

混同しやすいのが、会社が費用を負担した健康診断です。この場合は補填金を差し引く以前に、本人が支払っていないため対象になりません。所得税法73条1項が控除の前提を「医療費を支払つた場合」としているためで、自己負担が発生した部分だけが検討の対象になります。

10万円と総所得金額等5パーセントの分岐が変わる給与収入297万円

足切り額は一律10万円ではありません。所得税法73条1項は、控除の対象を「その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額の百分の五に相当する金額(当該金額が十万円を超える場合には、十万円)を超えるとき」の超える部分としており、控除額の上限は200万円です。所得が少ない人ほど足切り額が下がり、控除を使いやすくなります。

収入が給与だけの人であれば、この分岐点は年収およそ297万円です。給与所得控除額は所得税法28条3項が定めており、収入190万円以下なら65万円、190万円超360万円以下なら65万円と収入から190万円を引いた金額の30パーセントとの合計額です(収入660万円未満の給与所得の金額は同条4項により別表第五で求めますが、算式は同じです)。年収297万円なら給与所得控除は約97万円、給与所得は約200万円となり、その5パーセントが10万円とほぼ一致します。年収がこれを下回る人は10万円ではなく5パーセントで判定できます。

具体例で確かめます。年収250万円の会社員が、健診で疾病が見つかり治療に進んだため人間ドック代9万円(健保補助3万円を差し引いた後)と治療費4万円を支払った場合、給与所得控除は83万円、給与所得は167万円、足切り額はその5パーセントの8万3,500円です。医療費合計13万円から8万3,500円を引いた4万6,500円が医療費控除額となり、所得税率5パーセントの区分なら所得税で約2,300円(復興特別所得税を除く)、翌年度の住民税率10パーセント分と合わせて約7,000円の負担軽減になります。10万円で判定していれば控除額は3万円にとどまるため、差は小さくありません。控除額の計算全般は医療費控除とは?対象・計算・申告方法と令和9年分の胃腸薬追加にまとめています。

個人事業主と法人役員で分かれる健診費用の経費計上の可否

健診費用を経費にできるかは、医療費控除とは別の問いです。結論から言えば、事業主本人の健診費用を必要経費にする処理は認められません。ここは判断が割れる領域ではないので、迷わず経費から外してください。

事業主本人の健診費用が必要経費に算入されない根拠

所得税法45条1項1号は「家事上の経費及びこれに関連する経費で政令で定めるもの」を必要経費に算入しないと定めています。事業主本人の健康管理は事業の遂行そのものではなく本人の私的な支出と評価されるため、この家事上の経費に当たります。青色申告であっても結論は変わりません。

制度の側から見ても整合します。健康診断の実施を事業者に義務づける労働安全衛生法66条1項は「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第六十六条の十第一項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない」と規定しており、義務の相手方は労働者です。個人事業主本人は労働者ではないため法定健診の対象に含まれず、事業上の義務履行としての支出という説明が立ちません。事業主本人が健診費用を取り戻す手段は、経費計上ではなく、ここまで見てきた医療費控除の例外要件を満たすかどうかの検討になります。

従業員・役員分を福利厚生費として処理する条件と直接払いの誤解

従業員に受けさせた健康診断や人間ドックの費用は、福利厚生費として必要経費または損金に算入できます。この場面には国税庁の質疑応答事例(源泉所得税)「人間ドックの費用負担」があり、関係法令通達として所得税基本通達36-29が示されています。照会は、社内規程で役員と使用人の全員に定期健康診断を実施し、加えて35歳以上の希望者全員に2日間の人間ドックを実施して会社が検診料を負担する事例です。回答は次のとおりです。

「役員や特定の地位にある人だけを対象としてその費用を負担するような場合には課税の問題が生じますが、役員又は使用人の健康管理の必要から、雇用主に対し、一般的に実施されている人間ドック程度の健康診断の実施が義務付けられていることなどから、一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができ、かつ、検診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担する場合には、給与等として課税する必要はありません。」

要件は「一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができる」という機会の平等と、「検診を受けた者の全てを対象として費用を負担する」という負担の平等、そして「一般的に実施されている人間ドック程度」という水準の3つです。「40歳以上の全従業員」のように合理的な基準で区切るのは問題ありませんが、一人社長の法人が代表者だけに高額な人間ドックを受けさせる形は、特定の地位にある人だけを対象とする典型に当たります。法人成りすれば代表者の人間ドック代が自動的に経費になる、という理解は成り立ちません。要件を満たさない負担は所得税基本通達36-29の経済的利益として給与課税され、役員に対するものは法人税法34条の役員給与の要件を満たさない限り損金にも算入できません。

ここで訂正しておきたい通説があります。医療機関へ会社が直接支払うことが給与課税を避けるための必須条件だと説明する記事が少なくありませんが、上に引いた国税庁の回答は直接払いに一言も触れていません。税務研究会のZEIKEN Online News(2024年8月2日)も、従業員が費用を立て替えて後日精算するケースについて、役員等の特定の地位にある者だけを対象とする場合や経済的利益が著しく高額であると認められる場合を除き、受診を受けた全員を対象に費用負担すれば基本的に給与課税による源泉徴収は不要として取り扱われると解説しています。直接払いは実務上の安全策ではあっても、要件そのものではありません。

申告で取りこぼしやすい記載範囲・家族分・期限

医療費控除の明細書に書ける健診費用の範囲

医療費控除の明細書には、対象と判定できた費用だけを記載します。人間ドック代を全額書いてしまうと、後日の内容確認で修正を求められます。判定が微妙な健診費用は、金額と判断根拠を別途メモに残したうえで、記載するかどうかを決めてください。領収書は明細書に代えて添付するものではありませんが、確定申告期限等から5年間は自宅で保存する必要があり、税務署から提示または提出を求められることがあります。明細書の書き方と医療費通知による記載の簡略化は医療費控除とは?対象・計算・申告方法と令和9年分の胃腸薬追加で扱っています。

なお健診費用そのものは対象外でも、健康診断を受けた事実はセルフメディケーション税制の適用要件である「一定の取組」として使えます。市販薬の購入額が多い年は、医療費控除との選択でこちらが有利になることもあります。

生計を一にする家族の検診費用の合算範囲

医療費控除は、自己または自己と生計を一にする配偶者その他の親族のために支払った医療費が対象です。配偶者や子の健診で重大な疾病が見つかり治療に進んだ場合、その健診費用も合算できます。判定は受診した家族ごとに行い、そのうえで支払った人の申告にまとめる形です。共働き世帯では、支払った事実がある側で集計するのが原則になります。

過去分をさかのぼる還付申告の期限

健診費用が対象だったと後から気づいた場合、還付申告として過去分をさかのぼって申告できます。健診で疾病が見つかったのが数年前で、当時は対象外だと思い込んで申告しなかったケースがこれに当たります。手続きの流れと期限の数え方は会社員でも対象になる還付申告の基本的な仕組みと確定申告との違いにまとめています。申告作業をスマートフォンで進める手順はスマホで確定申告するやり方とe-Taxの対応機種|2026年8月のマイナアプリ移行に対応を参照してください。

よくある質問

人間ドックは医療費控除になりますか?

原則として対象になりません。所得税基本通達73-4が、人間ドックその他の健康診断のための費用は医療費に該当しないと定めているためです。例外は、健康診断により重大な疾病が発見され、かつその診断に引き続きその疾病の治療をした場合に限られます。

会社が負担した健康診断の費用を自分の医療費控除に入れられますか?

入れられません。所得税法73条1項は控除の前提を「医療費を支払つた場合」としており、本人が支払っていない費用は対象になりません。会社が全額を負担した定期健康診断や人間ドックは、そもそも自己負担が発生していないため計算に入りません。一部だけ自己負担がある場合は、その自己負担額について対象かどうかを通達73-4の要件で判定します。

健康保険組合の補助が人間ドック代を上回ったら、超過分は他の医療費から差し引きますか?

差し引く必要はありません。国税庁の質疑応答事例「支払った医療費を超える補填金」は「差引計算は、その補填の対象とされる医療費ごとに行い、支払った医療費の金額を上回る部分の補填金の額は、他の医療費の金額からは差し引きません」と回答しています。補助金は補填の対象となった健診費用の範囲で差し引けば足り、引ききれない分を歯科治療費などに回す処理は不要です。

特定健康診査の自己負担額は治療しなくても対象になりますか?

条件を満たせば対象になります。所得税法施行規則40条の3第1項第2号は、健診結果が高血圧症・脂質異常症・糖尿病と同等の状態と認められる基準のいずれかに該当し、かつ特定健康診査を行った医師の指示に基づく積極的支援による特定保健指導を受けた場合に、特定健康診査の自己負担額を対象としています。動機付け支援では要件を満たしません。また実施基準8条2項が65歳以上を積極的支援の対象から除いているため、このルートを使えるのは64歳までです。

人間ドックの費用は個人事業主の経費になりますか?

事業主本人の分は経費になりません。所得税法45条1項1号が家事上の経費を必要経費から除いており、青色申告でも同じです。健康診断の実施義務を定める労働安全衛生法66条1項も「事業者は、労働者に対し」と規定しており、事業主本人は対象に含まれません。一方、雇用している従業員に受けさせた分は、一定年齢以上の希望者が全員受診でき、受診した全員を対象に費用を負担するなら福利厚生費として計上できます。

関連記事

お気に入りに入れた記事の一覧

この記事は以下の記事からリンクされています

資料請求

今日のトレンド記事 直近 24 時間で、いつもより多く読まれている記事

  1. 2026.10.23 テックブログ Renta!はいつ再開?不正アクセスでメールアドレス等が流出したおそれ・再開時のパスワード再設定と運営側の対応
  2. 2026.07.09 テックブログ Muse Imageとは?Metaの画像生成AIの使い方・API料金(1枚0.01ドル)と日本での提供状況【2026年10月】
  3. 2026.10.23 テックブログ Splunk 脆弱性CVE-2026-76299:影響版の確認と10.2.8などへの更新手順
  4. 2026.10.22 テックブログ Tomcatのバージョン一覧とサポート期限【2026年10月】最新版11.0.27、9.0系は2027年3月末終了・9.1系は2030年末まで
  5. 2026.10.21 テックブログ ユミルリンク不正アクセス第二報で延べ5,162万件:Cuenote FC利用企業と受信者の確認点

RELATED POSTS 関連記事

目次