総合課税とは、給与・事業・不動産・雑所得など複数の所得を1年分合算し、所得控除を差し引いた課税総所得金額に5%〜45%の累進税率をかける課税方式です。所得税法は所得を10種類に分けていて、そのうち8種類が総合課税の対象、退職所得と山林所得は最初から別枠です。合算するので、副業や一時所得が加わると給与だけのときより高い税率の区分に入ることがあります。この記事では、国税庁タックスアンサーNo.2220と所得税法22条を根拠に、所得ごとの計算式と課税方式、総所得金額を組み立てる順序、令和8年分の基礎控除で計算した税額例、確定申告書の記入欄、上場株式の配当で総合課税を選んだほうが得になる分岐点を説明します。
まとめ:総合課税の要点(令和8年分)
- 総合課税は、所得を合算した「総所得金額」から所得控除を引き、課税総所得金額に5%〜45%の7段階の税率をかける方式。住民税10%と合わせた最高税率は55.945%(復興特別所得税込み)
- 所得10種類のうち、対象は利子・配当・不動産・事業・給与・譲渡・一時・雑の8所得。源泉分離課税の利子、土地建物と株式の譲渡益、先物取引の雑所得などは分離課税へ外れる
- 総合課税の長期譲渡所得と一時所得は、損益通算をした後に2分の1にして合算する(所得税法22条2項2号)。申告書第一表では⑪欄に書く
- 令和8年分は合計所得金額489万円を超えると基礎控除が104万円から67万円に下がる。副業や一時所得の合算でこの線をまたぐと、税率区分の上昇と合わせて税額が跳ねる
- 上場株式等の配当は総合課税・申告分離課税・申告不要から選べる。国内株式の配当などで所定の配当控除を使える場合、課税総所得金額695万円以下は総合課税を検討する目安。ただし、譲渡損失との通算や所得控除の変動によって有利な方式は変わる
- 令和6年度分以後の住民税は所得税と同じ方式に連動するため、総合課税を選んだ配当は国民健康保険料や扶養の判定にも入る
所得の10種類と総合課税の対象になる8つの所得
所得税法22条は、居住者の所得税の課税標準を「総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額」の3つと定めています。このうち総所得金額が総合課税の器で、各種所得の金額を合計して1本の税率表に通します。所得の区分は23条〜35条の10種類で、区分ごとに差し引くものと課税方式が違います。
| 所得(条文) | 所得金額の計算 | 課税方式 |
|---|---|---|
| 利子所得(23条) | 収入金額 | 源泉分離が原則 |
| 配当所得(24条) | 収入金額−株式取得の負債の利子 | 総合・申告分離・申告不要 |
| 不動産所得(26条) | 総収入金額−必要経費 | 総合 |
| 事業所得(27条) | 総収入金額−必要経費 | 総合 |
| 給与所得(28条) | 収入金額−給与所得控除額 | 総合 |
| 退職所得(30条) | (収入金額−退職所得控除額)×1/2 | 分離(累進税率) |
| 山林所得(32条) | 総収入金額−必要経費−特別控除 | 分離(5分5乗) |
| 譲渡所得(33条) | 収入金額−取得費・譲渡費用−特別控除 | 資産により総合か分離 |
| 一時所得(34条) | 総収入金額−支出した金額−特別控除 | 総合(2分の1を合算) |
| 雑所得(35条) | 公的年金等控除または必要経費を差引 | 総合が原則 |
特別控除はいずれも最高50万円で、譲渡所得では土地建物と株式等を除く資産(ゴルフ会員権・金地金・美術品など)の譲渡にだけ使えます。退職所得は退職所得控除の後に原則2分の1にし、山林所得は5で割って税率を当てて5倍に戻す5分5乗方式(所得税法89条1項)で計算するため、どちらも他の所得と合算しません。収入・所得・課税所得の関係は課税所得とは?収入・所得との違いと計算方法で扱っています。
8所得のうち総合課税から外れるもの
国税庁No.2220が総合課税の対象として挙げる8所得にも、分離課税などで総合課税から外れるものがあります。
| 所得 | 総合課税になるもの | 総合課税から外れるもの |
|---|---|---|
| 利子所得 | 国外の預金利子など | 国内の預貯金利子(源泉分離)、特定公社債の利子(申告分離) |
| 配当所得 | 非上場株式の配当、総合課税を選んだ上場株式の配当 | 申告不要・申告分離を選んだ上場株式等の配当 |
| 不動産所得 | 家賃・地代など全部 | なし |
| 事業所得 | 本業の個人事業の利益 | 株式等の譲渡による事業所得、先物取引 |
| 給与所得 | 給料・賞与など全部 | なし |
| 譲渡所得 | 金地金・ゴルフ会員権などの譲渡(生活用動産を除く) | 土地・建物と株式等の譲渡 |
| 一時所得 | 満期保険金・懸賞金・競馬の払戻金など | 源泉分離課税とされる一時払養老保険の差益など |
| 雑所得 | 公的年金・副業収入・暗号資産の売却益など | 株式等の譲渡による雑所得、国内FXなど先物取引 |
総合課税と分離課税の違い:税率・損益通算・申告の比較
分離課税は、特定の所得をほかの所得と分けて税額を計算する方式です。株式等には一定税率が適用されますが、退職所得などには累進税率が適用されます。申告して納める申告分離課税と、支払時の天引きで課税が完結する源泉分離課税があります。
| 比較項目 | 総合課税 | 申告分離課税 | 源泉分離課税 |
|---|---|---|---|
| 税率 | 5%〜45%の累進 | 所得別(株式等20.315%、退職・山林は累進) | 20.315%など一定 |
| 他の所得との合算 | する | しない | しない |
| 給与などとの損益通算 | 不動産・事業・譲渡の赤字は可 | 原則不可 | 不可 |
| 確定申告 | 所得・税額により必要(申告不要の特例あり) | 原則必要(特定口座など申告不要の例外あり) | 不要(申告できない) |
| 主な所得 | 給与・事業・不動産・雑・一時 | 株式等の譲渡、土地建物の譲渡、先物取引 | 預貯金の利子 |
選択できる所得の有利不利は、所得金額に加え、税額控除や損益通算の適用によって変わります。総合課税の所得税率は課税総所得金額195万円以下なら5%で、事業や不動産の赤字を給与から差し引けるのが利点です。一方、課税総所得金額が900万円を超えると33%に上がり、住民税と合わせた負担は株式等の分離課税20.315%を大きく上回ります。ただし、ほとんどの所得は法律で方式が決まっていて選べません。選べるのは上場株式等の配当など一部に限られます。分離課税の対象所得と税率の一覧は分離課税とは?申告分離課税・源泉分離課税の違いと対象所得・税率一覧にまとめています。
総所得金額の組み立て:損益通算の後に2分の1
総合課税の8所得は、単純に足すわけではありません。所得税法22条2項は総所得金額を2つのグループの合計として定めています。
- 1号:利子・配当・不動産・事業・給与・雑所得と、総合課税の短期譲渡所得(保有5年以内)の合計
- 2号:総合課税の長期譲渡所得(保有5年超)と一時所得の合計の2分の1
2号の金額は、条文上「第六十九条の規定の適用がある場合には、その適用後の金額」の2分の1です。つまり、事業所得などの赤字を損益通算で差し引いた後に半分にします。先に半分にしてから赤字の全額を差し引くと、総所得金額を正しい金額より小さく計算してしまうことがあります。損益通算できる赤字の種類と順序は損益通算とは?対象の4所得と順序・計算例を参照してください。
一時所得の金額は、総収入金額から収入を得るために支出した金額を引き、さらに特別控除50万円を引いた額です(所得税法34条2項・3項)。2分の1はこの後にかかります。令和7年分の確定申告の手引きの計算欄も、短期譲渡所得をそのまま、長期譲渡所得と一時所得の合計を0.5倍して足し、第一表の⑪「総合譲渡・一時」欄に書く形になっています(赤字の所得がある場合は「損益の通算の計算書」で計算)。
一時所得の金額 = 総収入金額 − 支出した金額 − 特別控除(最大50万円)
第一表⑪欄 = 短期譲渡所得 +(長期譲渡所得 + 一時所得)× 0.5
例)本人が保険料を負担して一括受領する満期保険金300万円・払込保険料200万円(源泉分離課税の対象外で、ほかに一時所得や損益通算なし)
300万円 − 200万円 − 50万円 = 50万円
50万円 × 1/2 = 25万円 → ⑪欄に記入し、給与所得などと合算
合計所得金額と総所得金額等の違い
手引きの用語解説では、どちらも「総合課税の所得(長期譲渡・一時は2分の1後)+退職所得+山林所得+申告分離課税の所得」の合計です。違いは繰越控除の扱いで、純損失・雑損失や上場株式等の譲渡損失などの繰越控除を適用する前が合計所得金額、適用した後が総所得金額等です。基礎控除の段差や扶養・配偶者控除の判定は合計所得金額、医療費控除の足切り(10万円と総所得金額等の5%の低い方)や寄附金控除の上限(総所得金額等の40%)は総所得金額等を使います。
税額計算の手順と令和8年分の計算例
総所得金額が出たら、次の順で所得税額を計算します。
- 所得の合計(第一表⑫)から所得控除の合計(㉚)を差し引き、1,000円未満を切り捨てて課税総所得金額(㉛)を出す
- 課税総所得金額に7段階の税率をかける(所得税法89条)
- 配当控除・住宅ローン控除などの税額控除を差し引く
- 残った基準所得税額に2.1%の復興特別所得税を加える
- 源泉徴収された税額や予定納税額を差し引いて、納付額か還付額を出す
| 課税総所得金額 | 税率 | 速算表の控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| 695万円超 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
| 900万円超 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円超 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
超過累進のため、境界を超えた部分にだけ上の税率がかかります。税率表の読み方と年収別の税額は累進課税とは?所得税の税率7段階・速算表と年収別の早見表で詳しく扱っています。
会社員に副業と満期保険金が加わった場合の試算
給与収入600万円、副業の雑所得80万円、上の例の満期保険金(一時所得25万円算入)がある会社員で、令和8年分を試算します。社会保険料は90万円と仮定し、ほかの所得控除はないものとします。
| 項目 | 給与だけの場合 | 副業・一時所得を合算 |
|---|---|---|
| 給与所得 | 436万円 | 436万円 |
| 雑所得+一時所得×1/2 | 0円 | 105万円 |
| 総所得金額(=合計所得金額) | 436万円 | 541万円 |
| 基礎控除 | 104万円 | 67万円 |
| 課税総所得金額 | 242万円 | 384万円 |
| 所得税(復興特別所得税込み) | 147,534円 | 347,650円 |
所得が105万円増えただけで、所得税は200,116円増えます。増えた所得に対して約19%です。内訳は2つあり、ひとつは課税総所得金額が330万円を超えて20%の区分に入ったこと、もうひとつは合計所得金額が489万円を超えて基礎控除が37万円減ったことです。基礎控除が104万円のままなら所得税は266,500円(復興特別所得税別)で、段差だけで74,000円の差が生じています(租税特別措置法41条の16の2)。これに住民税の所得割(おおむね10%)が加わります。
副業の利益を見積もるときは、給与の税率区分だけでなく合計所得金額489万円の位置を確認してください。基礎控除の段差の全体像は基礎控除と給与所得控除の違いにあります。
配当所得で総合課税を選ぶ分岐点:課税総所得金額695万円
大口株主等に該当しない人が受ける課税対象の上場株式等の配当は、原則として確定申告不要・申告分離課税(20.315%)・総合課税から選べます。以下の配当控除率と比較表は、国内株式の剰余金の配当など、所得税10%・住民税2.8%の配当控除の対象となる配当を前提とします。総合課税を選ぶと配当控除(所得税法92条)が使え、所得税は配当の10%、住民税は2.8%を税額から差し引けます(控除率が下がる1,000万円の判定には、申告分離課税の所得も含む「課税総所得金額等」を用い、その超過額に対応する配当部分は所得税5%・住民税1.4%)。復興特別所得税は配当控除を引いた後の所得税額にかかります。次の表は、配当全額が同じ税率区分に収まり、配当控除を全額使え、所得控除の変動や譲渡損失との通算がない場合の税率比較です。住民税は標準税率で計算しています。
| 課税総所得金額 | 所得税(復興込み) | 住民税 | 合計 | 申告分離との比較 |
|---|---|---|---|---|
| 195万円以下 | −5.105% | 7.2% | 約2.1% | 総合課税が有利 |
| 195万円超 330万円以下 | 0% | 7.2% | 7.2% | 総合課税が有利 |
| 330万円超 695万円以下 | 10.21% | 7.2% | 17.41% | 総合課税が有利 |
| 695万円超 900万円以下 | 13.273% | 7.2% | 20.473% | 申告分離が有利 |
| 900万円超 1,000万円以下 | 23.483% | 7.2% | 30.683% | 申告分離が有利 |
195万円以下の行のマイナスは、配当控除が配当にかかる税額を上回り、給与など他の所得の税額まで減らすことを意味します。配当控除は所得税額を限度とするため、他の所得の税額が少ない人はマイナス分を使い切れません。分岐点の695万円は、配当を加えた後の課税総所得金額で判定します。695万円をまたぐ人は、配当の各部分にかかる税率が異なります。ただし、申告する上場株式等の配当は全額について同じ課税方式を選ぶため、作成コーナーで両方を試算して比べるのが確実です。確定申告で選んだ方式は、後から修正申告や更正の請求で変更できません(国税庁No.1331)。
配当控除を受けられない配当
次の配当は総合課税を選んでも配当控除がありません。控除がなければ総合課税の税率がそのまま乗るため、多くの場合は申告分離か申告不要のほうが有利です。
- 外国株式の配当(所得税法92条1項の括弧書きで外国法人からの配当を除外)
- J-REITなど投資法人の分配金(租税特別措置法9条1項7号)
- 外貨建資産の割合が高い投資信託や、外国株価指数に連動するETFの分配金(同項3号・4号)
住民税・国民健康保険料・扶養への波及
令和4年分の所得に対する令和5年度分の住民税までは「所得税は総合課税、住民税は申告不要」と分けて選べましたが、令和4年度税制改正で令和6年度分以後の住民税は所得税と同じ方式に連動するようになりました。確定申告した上場株式等の配当は住民税でも同じ課税方式となり、総合課税を選べば総所得金額に、申告分離課税を選べば分離課税の配当所得に算入されます。住民税の所得割は総所得金額から所得控除を引いた額に一律10%(標準税率)で、累進ではありません。
その結果、総合課税(または申告分離課税)を選んだ配当は合計所得金額に含まれ、国民健康保険料・後期高齢者医療保険料の所得割、医療費の自己負担割合、扶養や配偶者控除の判定に影響します。源泉徴収ありの特定口座の株式譲渡益も、確定申告に含めれば同じく合計所得金額に入ります。令和8年分の扶養親族の所得要件は合計所得金額62万円以下です。年金生活者や扶養に入っている家族が配当で総合課税を選ぶと、所得税の還付額より保険料の増加が大きくなることがあります。申告不要を選べば、配当は合計所得金額に入りません。
所得区分と課税方式を取り違えやすい所得
FX・暗号資産・金地金の課税方式と損失の扱い
同じ「FX」「売却益」でも、取引先や資産の種類で課税方式が分かれます。以下の国内・海外FXの区分は、国内の登録業者との取引と、日本の登録を受けていない海外業者との取引を想定しています。店頭FXの判定基準は所在地ではなく、相手方が第一種金融商品取引業者または登録金融機関であるかどうかです。
| 取引 | 所得区分 | 課税方式 | 赤字の扱い |
|---|---|---|---|
| 国内業者のFX | 先物取引に係る雑所得等 | 申告分離 20.315% | 3年繰越可 |
| 海外業者のFX | 雑所得 | 総合課税 | 他の所得と通算不可 |
| 暗号資産の売却・交換 | 雑所得(原則) | 総合課税 | 他の所得と通算不可 |
| 金地金の売却(継続的な営利売買を除く) | 譲渡所得 | 総合課税(5年超は1/2) | 他の所得と通算不可 |
| 金投資口座・金貯蓄口座の利益 | 金融類似商品の収益 | 源泉分離 20.315% | 申告できない |
| ゴルフ会員権の売却 | 譲渡所得 | 総合課税(5年超は1/2) | 通算不可 |
| 外貨預金の為替差益 | 雑所得 | 総合課税 | 他の所得と通算不可 |
| 上場株式の売却 | 譲渡所得 | 申告分離 20.315% | 3年繰越可 |
総合課税の雑所得は、赤字を給与などと損益通算できません。海外FXの損失や暗号資産の損失は、同じ年の雑所得の中でしか相殺できず、翌年への繰越もありません。
譲渡所得の赤字は原則として損益通算できますが、所得税法69条2項は「生活に通常必要でない資産」の譲渡損失を「生じなかつたもの」とみなします。ゴルフ会員権は所得税法施行令178条1項2号の「主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で所有する資産」に当たり、売却損を給与などから引けません。金地金も、国税庁は譲渡による損失を給与所得など他の所得と損益通算できないとしています。同じ年のほかの総合課税の譲渡益とは相殺できます。
暗号資産は、令和8年度税制改正で、金融商品取引法の登録業者を通じた特定暗号資産の譲渡を所得税15%の分離課税にする規定(租税特別措置法38条の2)が設けられました。適用は改正金融商品取引法(令和8年法律第64号・2026年7月23日公布)の施行日の属する年の翌年1月1日からなので、令和8年分の申告は従来どおり総合課税の雑所得です。分離課税に移った後も、給与などとの損益通算はできません。ただし、特定暗号資産の譲渡損失には、所定の申告要件を満たす場合に翌年以後3年間の特定暗号資産の譲渡所得等から控除できる制度が設けられています(租税特別措置法38条の3)。経費の範囲は仮想通貨(暗号資産)の経費はどこまで?その他雑所得と事業所得で変わる範囲で扱っています。
同じ入金でも所得区分が変わる例
所得区分は「何のお金か」だけでは決まらず、取引の態様や契約関係で変わります。区分が変われば、総合課税の中での扱い(2分の1になるか、赤字を通算できるか)も変わります。
- 競馬の払戻金:一般の愛好家は一時所得で、「支出した金額」に入るのは当たり馬券の購入代金だけです。最高裁平成29年12月15日判決は、予想の確度と配当率で定めた購入パターンに従い、年間を通じてほぼ全レースで馬券を買い続けて多額の利益を上げていた例を雑所得とし、外れ馬券も必要経費と認めました。国税庁はこれを受けて所得税基本通達34-1を改正しています。
- 生命保険の満期金・死亡保険金:保険料の負担者と受取人が同じなら所得税(一時金は一時所得、年金で受け取ると雑所得)、被保険者と負担者が同じ死亡保険金なら相続税、死亡保険金で三者がすべて異なれば贈与税です(国税庁No.1750)。満期保険金は、被保険者が誰かにかかわらず、保険料の負担者と受取人が異なれば贈与税の対象になります(国税庁No.1755)。
- 副業の報酬:雇用契約なら給与所得、社会通念上事業と呼べる規模で営むなら事業所得、それ以外は業務に係る雑所得です。所得税基本通達35-2は、帳簿書類を保存していない場合は原則として業務に係る雑所得になると注記しています。開業届の有無は判定基準に入っていません。判定と20万円ルールは副業の雑所得はいくらから確定申告?で解説しています。
- デイトレードの利益:事業として取引していても、上場株式等の譲渡益は租税特別措置法37条の11により20.315%の申告分離課税のままで、総合課税には入りません(デイトレードの税金と確定申告)。
- 家具や衣類の売却:生活に通常必要な動産の譲渡は非課税です(所得税法9条1項9号)。ただし1個または1組の価額が30万円を超える貴金属・書画骨とう・美術工芸品は除かれ、総合課税の譲渡所得になります(所得税法施行令25条)。
総合課税の所得の確定申告
申告が必要になる人
個人事業主や不動産所得のある人は、所得控除を引いて税額が出れば確定申告が必要です。会社員は、給与収入が年間2,000万円以下で、給与を1か所から受けてその全部が源泉徴収の対象となり、給与所得・退職所得以外の所得の合計が20万円以下なら、原則として所得税の確定申告は不要です(所得税法121条1項1号・国税庁No.1900)。この20万円は収入ではなく、所得区分ごとに計算した所得金額で判定します。ただし、医療費控除などのために確定申告をする場合は、20万円以下の副業所得なども併せて申告する必要があります。上の試算例は雑所得だけで80万円あるので、申告が必要です。申告不要を選んだ上場株式等の配当や、源泉徴収ありの特定口座の譲渡益は、この合計に含めません。
所得税で申告不要になった20万円以下の所得も、住民税では申告が必要です。確定申告をしない場合は、市区町村に住民税の申告書を出します。
申告書第一表の記入欄(令和7年分の様式)
総合課税の所得は第一表に、申告分離課税の所得と退職所得・山林所得は第三表(分離課税用)に書きます。令和7年分の手引きでは、第一表の欄は次のとおりです。
| 所得 | 収入金額等の欄 | 所得金額等の欄 |
|---|---|---|
| 事業(営業等・農業) | ㋐・㋑ | ①・② |
| 不動産 | ㋒ | ③ |
| 利子 | 記載不要 | ④ |
| 配当 | ㋓ | ⑤ |
| 給与 | ㋔ | ⑥ |
| 雑(公的年金等・業務・その他) | ㋕・㋖・㋗ | ⑦〜⑨(計は⑩) |
| 総合譲渡(短期・長期)・一時 | ㋘・㋙・㋚ | ⑪ |
| 合計 | − | ⑫=①〜⑥+⑩+⑪ |
利子所得は収入金額がそのまま所得金額になるので、収入欄がありません。㋘・㋙・㋚には収入金額ではなく所得金額を書く点に注意してください。繰越損失がある場合、⑫は①〜⑥・⑩・⑪の合計から62欄「本年分で差し引く繰越損失額」を差し引いた金額です。申告分離課税の所得がない場合は、⑫から所得控除の合計㉚を引いた額(1,000円未満切捨て)が㉛「課税される所得金額」で、ここに税率をかけます。純損失や雑損失の申告には第四表(損失申告用)を使います。
申告納税者516万人の所得内訳:総合課税の所得と分離課税の所得
国税庁「令和6年分 申告所得税標本調査」第2表(所得種類別表)から、申告納税額があった約516万人の所得を種類別に並べると次のようになります。還付申告など納税額のない人は含まれず、複数の所得を持つ人は各区分に重複して計上されます。
| 所得の種類 | 課税方式 | 人員 | 所得金額 |
|---|---|---|---|
| 給与所得 | 総合 | 314.3万人 | 20兆1,575億円 |
| 雑所得(うち公的年金等) | 総合 | 217.8万人(154.8万人) | 2兆8,742億円(1兆8,198億円) |
| 不動産所得 | 総合 | 179.7万人 | 5兆8,104億円 |
| 事業所得(営業等) | 総合 | 128.7万人 | 6兆5,565億円 |
| 配当所得等 | 総合または申告分離 | 42.9万人 | 1兆825億円 |
| 一時所得 | 総合 | 13.5万人 | 2,398億円 |
| 総合譲渡所得 | 総合 | 4.9万人 | 1,351億円 |
| 分離長期譲渡所得(土地建物) | 申告分離 | 31.2万人 | 6兆1,813億円 |
| 株式等の譲渡所得等 | 申告分離 | 26.9万人 | 7兆2,431億円 |
給与所得のある人は314.3万人で、申告納税者の約6割です。ただし、この表からは他の所得との組合せや申告の理由までは分かりません。一時所得は約13.5万人、総合譲渡所得は約4.9万人で、単純に足しても延べ約18.4万人です(両方を持つ人は重複して数えられ、総合譲渡所得のうち2分の1になるのは長期分だけ)。一方、株式等の譲渡と土地建物の長期譲渡という2つの分離課税の所得は合計13兆円を超え、事業所得(営業等と農業の計7兆2,789億円)を大きく上回ります。
よくある質問
総合課税の税率は何%ですか?
所得税は課税総所得金額に応じて5%・10%・20%・23%・33%・40%・45%の7段階です。これに復興特別所得税(所得税額の2.1%)と住民税の所得割10%が加わり、最高税率の区分では合計55.945%になります。
所得の10種類のうち、総合課税になるのはどれですか?
利子・配当・不動産・事業・給与・譲渡・一時・雑の8所得です。退職所得と山林所得は分離課税で、8所得のうちでも国内の預貯金利子、土地建物・株式等の譲渡、国内FXなどの先物取引は分離課税になります。上場株式等の配当は、総合課税を選んだ場合だけ総合課税です。
一時所得は総合課税ですか?税率は何%ですか?
一時所得は原則として総合課税ですが、一定の一時払養老保険の差益などは源泉分離課税です。総合課税となる一時所得に独自の税率はなく、50万円の特別控除を引いた後の金額の2分の1を給与などと合算し、合計額に応じた累進税率がかかります。懸賞金100万円なら(100万円−50万円)×1/2=25万円が他の所得に加わります。
雑所得は総合課税ですか?
公的年金・副業収入・暗号資産の売却益などの雑所得は総合課税で、独自の税率はありません。一定の先物取引に係る雑所得や株式等の譲渡による雑所得は、20.315%の申告分離課税です。また、金融類似商品の収益など、源泉分離課税となる雑所得もあります。公的年金等の収入合計が400万円以下で全部が源泉徴収の対象となり、それ以外の所得が20万円以下の人は、所得税の確定申告が不要です(所得税法121条3項)。
総合課税と分離課税はどちらがお得ですか?
多くの所得は法律で方式が決まっていて選べません。選べる上場株式等の配当では、国内株式の配当などで所定の配当控除を使える場合、配当を含む課税総所得金額695万円が税率比較の目安です。ただし、配当が税率の境界をまたぐ場合や、譲渡損失との通算・所得控除の変動がある場合は、各方式の税額を比較する必要があります。扶養に入っている人や国民健康保険の加入者は、保険料への影響も含めて判断します。