セルフメディケーションとは、自分で症状を見きわめ、薬局やドラッグストアで買える医薬品を選んで使うことです。WHO(世界保健機関)の英語原文の定義は「医薬品を自分で選んで使うこと」に焦点があり、運動や睡眠などの健康習慣全般は、より広い「セルフケア」に含まれます。この記事では、WHOの定義、市販薬の区分ごとに相談できる専門家、2026年5月1日に変わった販売ルール、市販薬をやめて受診に切り替える目安を、法令と厚生労働省・PMDAの資料に沿って整理します。
まとめ:セルフメディケーションの要点
- WHOの定義は「自分で認識した病気や症状を治療するために、個人が医薬品を選んで使うこと」。健康習慣全般を指すのはセルフケアの方です。
- 市販薬は要指導医薬品・第1類・第2類(指定第2類を含む)・第3類に分かれ、要指導と第1類は薬剤師しか販売できません。
- 2026年5月1日から、せき止めやかぜ薬に多い8成分を含む薬は「指定濫用防止医薬品」として販売時の確認が義務になり、18歳未満は小容量1個しか買えなくなりました。
- 市販薬をやめて相談する目安は添付文書に書かれています。かぜ薬・解熱鎮痛薬は原則5〜6回ですが、成分や製品によって短いものがあるので、使う薬の記載に従います。
- 市販薬を添付文書どおりに使って入院治療が必要な副作用が出た場合は、PMDAの医薬品副作用被害救済制度に給付を請求できます(支給の可否は個別に判定されます)。
以下、定義から順に根拠を示します。
セルフメディケーションの意味とWHO原文の定義
WHO原文:「医薬品を自分で選んで使うこと」
セルフメディケーションの定義として国際的に引用されるのは、WHOが1998年にオランダ・ハーグで開いた協議の報告書『The role of the pharmacist in self-care and self-medication』(文書番号WHO/DAP/98.13)の一文です。原文は「Self-medication is the selection and use of medicines by individuals to treat self-recognised illnesses or symptoms.」で、訳すと「自分で認識した病気や症状を治療するために、個人が医薬品を選んで使用すること」になります。WHOは2022年の文書でもこの定義を再掲し、医薬品には生薬・伝統薬も含むと補っています。
2000年の『Guidelines for the regulatory assessment of medicinal products for use in self-medication』(WHO/EDM/QSM/00.1)は範囲をもう少し広げ、慢性疾患や繰り返す症状について医師が以前に処方した薬を、消費者が間欠的・継続的に使うこともセルフメディケーションに含めています。
日本の解説で使われる「健康に責任を持ち…」との違い
日本薬剤師会や協会けんぽのページでは、セルフメディケーションを「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」と説明しています。考え方としては同じ方向ですが、WHOの定義文そのものには「責任」という語はなく、焦点は医薬品の選択と使用にあります。日本薬剤師会は、セルフメディケーションに取り組むための行動として運動・食事・睡眠などの体調管理も挙げています。この記事では、医薬品を選んで使う部分と、それを支えるセルフケアを分けて説明します。
セルフケアとの違い
同じ1998年の報告書は、セルフケアを「人々が健康を確立・維持し、病気を予防・対処するために自ら行うこと」と定義しています。食事・運動・睡眠・衛生習慣・体温や血圧の自己測定はセルフケアで、そのうち医薬品を使う部分がセルフメディケーションです。
| 項目 | セルフケア | セルフメディケーション |
|---|---|---|
| 範囲 | 健康づくり全般 | 医薬品の選択と使用 |
| 例 | 食事・運動・睡眠・自己測定 | 市販のかぜ薬・胃腸薬・湿布 |
| 関わる専門家 | 医師・保健師など | 薬剤師・登録販売者 |
| 関係 | 上位の概念 | セルフケアの一部 |
正しい情報を探して判断する力(ヘルスリテラシー)は両方の土台になります。測り方や日本人の水準はヘルスリテラシーの3つのレベルと高める方法で解説しています。
市販薬の区分と相談できる専門家
要指導・第1類〜第3類で変わる販売者と説明義務
薬局やドラッグストアで処方箋なしに買える医薬品は、薬機法(医薬品医療機器等法)上、要指導医薬品と一般用医薬品に分かれ、一般用医薬品はリスクの高い順に第1類・第2類・第3類に区分されます。区分によって、誰が売れるか、説明が義務か努力義務かが薬機法の条文で決まっています。
| 区分 | 販売できる人 | 購入時の説明 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 要指導医薬品 | 薬剤師のみ | 書面での情報提供と指導が義務 | 36条の5・36条の6 |
| 第1類医薬品 | 薬剤師のみ | 書面での情報提供が義務 | 36条の9・36条の10第1項 |
| 第2類医薬品 | 薬剤師・登録販売者 | 努力義務 | 36条の9・36条の10第3項 |
| 第3類医薬品 | 薬剤師・登録販売者 | 規定なし(相談時は義務) | 36条の9・36条の10第5項 |
第2類のうち特に注意が必要なものは、厚生労働大臣が「指定第2類医薬品」に指定しています。パッケージの「2」が枠で囲まれているものがそれで、店頭では禁忌を確認し専門家への相談を促す表示・陳列が求められます。買った後の相談にも応じる義務があり、要指導医薬品は薬剤師が(36条の6第4項)、一般用医薬品は薬剤師か登録販売者が対応します(36条の10第5項)。第3類のように説明義務のない薬でも、迷ったら聞いてよいということです。
2026年5月1日施行の改正で変わった買い方
2025年の改正薬機法(令和7年法律第37号)のうち、市販薬の販売に関わる部分が2026年5月1日に施行されました(厚生労働省「2026年5月1日施行の医薬品販売制度の改正内容」)。買う側に影響する変更は次の2点です。
1つ目は要指導医薬品のインターネット販売です。これまで要指導医薬品は店頭での対面販売に限られていましたが、薬剤師の判断でオンライン服薬指導による情報提供を行えば、ネットで購入できるようになりました。対面での確認が必要とされた品目(特定要指導医薬品)は、これまでどおり店頭販売のみです。
2つ目は「指定濫用防止医薬品」の販売ルールです。若年者を中心とした市販薬の過量服薬(オーバードーズ)を受けて、指定成分を含む薬は、薬剤師か登録販売者が書面で情報提供し、ほかの薬の使用状況などを確認してから販売することが義務になりました(36条の11)。指定成分は次の8つで、外用剤と生薬を主な有効成分とする製剤は除かれます。
- エフェドリン/メチルエフェドリン/プソイドエフェドリン
- コデイン/ジヒドロコデイン
- ジフェンヒドラミン
- デキストロメトルファン
- ブロモバレリル尿素
せき止め・かぜ薬・鼻炎薬・睡眠改善薬によく入っている成分です。18歳未満は小容量の1個しか買えず、販売は対面かテレビ電話などのリアルタイム通信に限られます。18歳以上でも、複数個や大容量の製品を買うときは理由を確認されたうえで、対面かビデオ通話などによる情報提供が必要です。レジで質問されるのは、店の判断ではなく法令上の手順です。
市販薬を選ぶ前に確認すること
添付文書の「してはいけないこと」「相談すること」
市販薬の添付文書(箱の中の説明書)は、使用上の注意が「してはいけないこと」「相談すること」の順に並んでいます。「してはいけないこと」には、その成分でアレルギーを起こしたことがある人は使わない、ほかのかぜ薬や解熱鎮痛薬と一緒に使わない、服用後は乗り物や機械の運転をしない、といった禁止事項が書かれています。買う前に箱の表示で確認し、該当しそうなら購入時に薬剤師か登録販売者に伝えてください。
「相談すること」の冒頭には、使う前に医師や薬剤師に相談すべき人が列挙されます。医師の治療を受けている人、妊娠中または妊娠の可能性がある人、高齢者、薬でアレルギー症状を起こしたことがある人などで、該当するならセルフメディケーションの前に相談が先です。
市販薬もお薬手帳に記録する理由
同じ成分が別の商品名で入っていることは珍しくありません。たとえばアセトアミノフェンやイブプロフェンは、かぜ薬にも解熱鎮痛薬にも配合されています。かぜ薬の添付文書の「してはいけないこと」に、ほかのかぜ薬や解熱鎮痛薬を一緒に飲まないよう書かれているのはこのためです。病院で処方された薬との飲み合わせも、薬剤師が服用中の薬を把握していなければ確認できません。市販薬を買ったら、お薬手帳(スマートフォンの電子版でもかまいません)に商品名と使った期間を書いておくと、次に病院や薬局で相談するときに重複や相互作用を見つけてもらえます。処方薬の情報をデジタルで共有する仕組みについては電子処方箋の仕組みと流れで解説しています。
市販薬をやめて受診に切り替える目安
添付文書に書かれた服用中止と相談の目安
セルフメディケーションで最も判断に迷うのが「いつまで市販薬で様子を見るか」です。答えは添付文書に書かれています。厚生労働省の「かぜ薬等の添付文書等に記載する使用上の注意」が薬効群ごとの原則を定めていますが、成分や用法による例外があり、基準の対象外の製品は個別に決められています。次の表は代表例です。
| 薬効群 | 中止して相談する目安 |
|---|---|
| かぜ薬 | 5〜6回服用しても改善しない |
| 解熱鎮痛薬 | 原則5〜6回(1日2回のイブプロフェン製剤は3〜4回) |
| 胃腸薬 | 原則2週間くらい(甘草・グリチルリチン酸を一定量以上含む製剤は5〜6日間) |
| ガスター10(H2ブロッカー) | 3日間(2週間を超えて続けない) |
かぜ薬の添付文書では、この目安に「特に熱が3日以上続いたり、また熱が反復したりするとき」という一文が添えられています。回数や期間を待たずに中止して相談するべきなのは、発疹・かゆみ・吐き気など、副作用として挙げられた症状が出たときです。服用後すぐのじんましん・息苦しさ・意識の混濁といった症状は、ショック(アナフィラキシー)などの重い副作用の可能性があり、基準でも「直ちに医師の診療を受けること」とされています。添付文書には「この文書を持って」相談するよう書かれているので、受診時には添付文書と箱を持っていくと、何をどれだけ飲んだかを正確に伝えられます。
セルフメディケーションに向かない人と症状
セルフメディケーションの対象は、自分で症状を判断できる軽い不調です。次に当てはまるときは、市販薬で様子を見るより先に医療機関か薬剤師に相談してください。
- 持病で治療中、または処方薬を飲んでいる
- 妊娠中・授乳中、乳幼児や高齢者が使う
- 同じ症状を繰り返している、原因に心当たりがない
- 市販薬を規定より多く、または長く使わないと効かなくなっている
最後の項目は、指定濫用防止医薬品の成分で依存が問題になる典型的な経過です。「効かないから増やす」は、セルフメディケーションの範囲を超えたサインと考えてください。
副作用が出たときの医薬品副作用被害救済制度
市販薬でも副作用は起こります。PMDA(医薬品医療機器総合機構)の医薬品副作用被害救済制度は、処方薬だけでなく、薬局・ドラッグストアで買った要指導医薬品と一般用医薬品も対象にしています。給付の対象は、適正に使ったにもかかわらず生じた、入院治療が必要な程度の病気、日常生活が著しく制限される程度の障害、または死亡で、請求を受けて薬との因果関係などを個別に判定します。
ここでいう「適正な使用」は、原則として添付文書に書かれた効能・効果、用法・用量、使用上の注意に従った使用を指します。規定量を超えて飲んだ場合や目的外に使った場合は対象外になりえます。入院を要しない軽い副作用も対象外です。添付文書を読み、書かれたとおりに使うことは、安全のためだけでなく、万一のときに救済を受けられる条件でもあります。
抗がん剤や免疫抑制剤など厚生労働大臣が指定する医薬品のほか、殺虫剤のように人体に直接使わない医薬品や、薬理作用のない医薬品も対象外です。請求は健康被害を受けた本人や遺族がPMDAに直接行います。
セルフメディケーション税制との関係
セルフメディケーションという言葉は、確定申告のセルフメディケーション税制(医療費控除の特例)の名前としても知られています。健康診断などを受けている人が、対象の市販薬を年間12,000円を超えて買った場合に、超えた部分を最大88,000円まで所得から差し引ける制度で、通常の医療費控除とはどちらか一方しか選べません。
令和8年度の税制改正で、スイッチOTC医薬品の分は適用期限が撤廃され、それ以外の対象医薬品は令和13年12月31日まで延長されました。令和9年分からは胃腸薬などが対象に加わります。対象品目の見分け方や医療費控除との損得の比較は医療費控除の対象・計算・申告方法にまとめています。
国がセルフメディケーションを推進する理由
厚生労働省の「令和5(2023)年度 国民医療費の概況」によると、令和5年度の国民医療費は48兆915億円で、前年度より3.0%増えました。軽い症状を市販薬と薬剤師への相談で済ませる人が増えれば、外来の混雑と保険財政の負担を減らせる、というのが推進の理由です。セルフメディケーション税制も、市販薬への切り替えを促すための仕組みとして2017年に始まりました。
ただし、医療費を減らすことはあくまで社会全体の目的で、個人にとっての判断基準ではありません。受診すべき症状を市販薬で引き延ばすのは、早期発見を逃す点で本人にも制度にも逆効果です。地域全体の健康水準を底上げする公衆衛生の考え方はポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチの違いが参考になります。
よくある質問
セルフメディケーションを簡単に言うと?
自分で症状を判断し、薬局やドラッグストアで買える医薬品を選んで使うことです。WHOは「自分で認識した病気や症状を治療するために、個人が医薬品を選んで使用すること」と定義しています。
セルフメディケーションとセルフケアの違いは?
セルフケアは食事・運動・睡眠・自己測定など健康づくり全般を指し、そのうち医薬品を使う部分がセルフメディケーションです。WHOの1998年の報告書が両方を別々に定義しています。
市販薬はどのくらい使っても治らなければ受診すべき?
使う薬の添付文書に書かれた回数・期間に従います。かぜ薬と解熱鎮痛薬は原則5〜6回ですが、1日2回のイブプロフェン製剤は3〜4回、ガスター10は3日間など、製品によって短いものがあります。副作用が疑われる症状が出たら回数にかかわらず中止して相談し、息苦しさなど重い症状があればすぐに医師の診療を受けてください。
ドラッグストアで年齢確認や購入理由を聞かれるのはなぜ?
2026年5月1日から、コデインやデキストロメトルファンなど8成分を含む薬が指定濫用防止医薬品になり、薬機法で販売時の確認が義務づけられたためです。18歳未満は小容量1個まで、18歳以上でも複数個や大容量を買うときは理由の確認が必要です。
市販薬の副作用で入院したら補償はある?
添付文書どおりに使って入院治療が必要な副作用が出た場合は、PMDAの医薬品副作用被害救済制度に医療費などの給付を請求できます。支給されるかどうかは、薬との因果関係や適正な使用だったかを審査して決まります。規定量を超えた使用や入院を要しない軽い副作用は対象外です。