人事労務

ジョブ型雇用とは?メンバーシップ型との違い、20社の導入範囲と人事システムの要件

ジョブ型雇用とは?メンバーシップ型との違い、20社の導入範囲と人事システムの要件

ジョブ型雇用とは、先に職務の中身と求めるスキルを定義し、その職務に合う人を採用・配置する雇い方です。日本で長く主流だったメンバーシップ型雇用は、人を先に採用してから仕事を割り当てます。この記事では、両者の違いを採用・異動・賃金・雇用保障の観点で比較し、2024年8月に政府が公表したジョブ型人事指針に載る企業の導入範囲を実数で示しました。2024年4月の労働条件明示ルール改正で契約書面に何を書くか、雇用区分や社内公募を人事システムでどう持つかまで扱います。

まとめ|ジョブ型雇用は職務を先に決める雇い方、導入範囲は層と職種で選ぶ

ジョブ型雇用の核は、職務記述書で仕事を定義し、その職務の大きさで処遇を決め、異動を本人の応募で起こすことです。日本のジョブ型は解雇を自由にする制度ではありません。労働契約法第16条の解雇ルールは雇用の型に関係なく適用されます。

導入範囲は全社一斉に限りません。富士通は管理職から入れて2年後に非管理職へ広げ、三菱UFJ信託銀行は専門4領域だけをジョブ型にする「一国二制度」を採りました。新卒を数年ごとに異動させて育てる一般職が中心の企業なら、全社一斉の移行は見送り、専門職や管理職から始めます。運用面では、社員ごとに雇用区分と職務・勤務地の限定範囲を持ち、労働条件通知書の記載と一致させるデータ設計が出発点です。

ジョブ型雇用とは何か——職務を先に定義して人を当てる雇い方と日本での位置づけ

ジョブ型雇用を一言で表すと「仕事に人を付ける」雇い方です。ただし日本の議論では、海外の雇用慣行をそのまま持ち込む話ではありません。

ジョブ型雇用の定義と、職務記述書・職務給・社内公募という運用の土台

ジョブ型雇用では、ポジションごとに職務内容、責任の範囲、必要な知識と経験を職務記述書(ジョブディスクリプション)に書き出します。採用はそのポジションの欠員を埋める形で行い、賃金はポジションの職務の大きさに応じた職務給で決めます。

異動の起こし方も変わります。会社の辞令で部署を移すのではなく、空いたポジションを社内に公開し、社員が応募して選考を通った人が就く社内公募(ポスティング)が中心です。職務記述書の項目と書き方はジョブディスクリプションの記載例(職務記述書の項目と書き方)にまとめています。

日本のジョブ型雇用は解雇自由ではない、労働契約法第16条と雇用保障の扱い

「ジョブ型にすると、職務がなくなった社員を解雇できる」と受け取られることがあります。日本ではそうなりません。労働契約法第16条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇を権利の濫用として無効とします。この規定は雇用の型を区別していません。

職務を限定して雇った社員でも、その職務がなくなったときに配置転換の可能性を検討したかどうかが問われます。ジョブ型人事指針に載る企業も、ポストを外れた社員を解雇するのではなく、社内公募への再挑戦や下位等級の職務への変更で対応する仕組みです。制度の設計は「雇用を守りつつ、処遇を職務に合わせる」前提で考えます。

2024年8月公表のジョブ型人事指針と三位一体労働市場改革での位置づけ

ジョブ型人事指針は、令和6年8月28日に内閣官房・経済産業省・厚生労働省が連名で公表した資料です。令和6年6月21日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」で策定が定められ、三位一体労働市場改革分科会を令和5年4月から令和6年7月まで計10回開いて取りまとめられました。

指針は統一の制度モデルを示すものではありません。既に導入している20社について、導入目的、導入範囲、等級・報酬・評価制度、採用と異動、人事部と各部署の権限分掌、労使コミュニケーションを事例として並べ、「自社のスタイルに合った導入方法」を各社が検討する材料と位置づけています。全235ページの大半が事例です。

メンバーシップ型雇用との違い——採用・異動・賃金・育成・雇用保障の比較

2つの型の違いは、どの場面で会社が決め、どの場面で本人が選ぶかに表れます。

採用・配置・賃金・育成・雇用保障の5観点で並べた違いの比較表

代表的な違いを表にすると次のとおりです。実際の企業はこの両端の間のどこかに位置します。

観点 メンバーシップ型雇用 ジョブ型雇用
採用 新卒一括で人物と潜在力を見る 欠員ポジションに経験者を当てる
異動・配置 会社主導のローテーション 社内公募への応募が中心
賃金の基準 職務遂行能力と勤続 ポジションの職務の大きさ
育成 部署を回してゼネラリストに育てる 本人が職務を選び専門を深める
雇用保障 配置転換で雇用を守る 同じ解雇ルールの下で配置転換の幅が狭い

見落とされやすいのは最後の行です。ジョブ型でも解雇ルールは変わらない一方、職務や勤務地を限定するほど会社が命じられる配置転換の範囲は狭まります。限定の範囲をどこまで契約に書くかが、両方の型を分ける実務上の境目になります。

賃金の決め方の違い、勤続で上がる職能給とポジションで決まる職務給

メンバーシップ型の賃金は、職能資格制度で格付けした能力等級に職能給を結びつけるのが典型です。能力は下がらない前提で運用されるため、勤続とともに等級と賃金が上がり、異動しても給与は変わりません。

ジョブ型では、ポジションの等級ごとに賃金の範囲を置く職務給が中心になります。小さな職務へ移れば賃金は下がり、大きな職務に応募して就けば上がる。富士通は新等級に年功要素を含めず、人のスキルではなくポジションで等級を決めると明記しています。等級と賃金の詳しい設計は職務等級制度とは(職務評価の点数で等級を決める手順)と職能等級制度とは(職務等級へ移行する等級・給与テーブル)で扱っています。

メンバーシップ型を残す職種と、ジョブ型が向く専門職を分ける判断基準

ジョブ型が向くのは、社外にも同じ職種の労働市場があり、市場の賃金水準と比べて処遇を決めたい職種です。データサイエンティスト、セキュリティ技術者、資産運用のように、採用競争で他社と比べられる専門職がこれに当たります。

反対に、社内の複数業務を経験して全体を回せる人を時間をかけて育てる職種は、メンバーシップ型のほうが合います。三菱UFJ信託銀行は、金融の社会インフラを支える人材は複数の業務を経験して時間をかけて育てるのが適しているとして、従来型を残しました。判断の目安は「その職種の賃金を社外の相場で説明したいか」です。

ジョブ型人事指針20社に見る導入範囲——管理職先行・一国二制度・記述書の作り方

指針の20社には、富士通、日立製作所、KDDI、ソニーグループ、資生堂、メルカリなどが並びます。導入範囲の決め方は各社で大きく違います。

富士通は管理職約1万5000人に先行導入し、2年後に非管理職約4万5000人へ拡大

富士通は2段階で導入しました。2020年4月に約1万5000人の管理職層へ先行導入し、2022年4月に約4万5000人の非管理職層に広げています。さらに2026年4月入社者からは学歴別の一律初任給を廃止し、入社時からジョブや職責の高さに応じた処遇を適用する方針です。

導入後の変化も数字で示されています。2020〜2023年の4年間で社内公募に応募した社員は約2万7000人、実際に異動した社員は約9500人以上です。退職者が増えるとの懸念に対しては、退職率は変わっていないと報告しています。管理職で運用を固めてから一般層に広げる順番は、制度の不具合を少人数で直せる進め方です。

三菱UFJ信託銀行の一国二制度、専門4領域だけをジョブ型にした段階拡大

三菱UFJ信託銀行は、メンバーシップ型を維持しつつジョブ型を併用する「一国二制度」を採りました。2021年4月にファンドマネージャーだけを職務給のみの報酬体系にし、2023年4月に定年後の再雇用者へ、2024年4月には「プロフェッショナルジョブ人事制度」を始めています。

対象は外部提携運用、サイバーセキュリティー、データサイエンティスト、ビジネスアーキテクトの4領域です。社員は会社の指名と本人の同意で対象になります。部分的な導入でも、高度な専門人材の採用とリテンションに一定の効果があったと同社は評価しています。全社を一度に変えられない企業には、最も現実的な型です。

職務記述書を全ポジション分そろえない選択、富士通の650ロールとソニーの等級定義

職務記述書の作成は、導入の最大の負担になりがちです。富士通は市場のテンプレートを基に650個のロール・プロファイル(職種と等級ごとの標準的な役割の定義)を作り、そこに個々のポジションの職務内容を足す方式で、2か月で約1万5000人分の職務記述書を完成させました。最初から完成度を求めず、社内公募で使いながら直す方針です。

ソニーグループは、全ポジションの職務記述書を作る方法を取っていません。社内の「等級定義書」で各ポジションの等級を粗く推定し、専門知識や事業の知見など7つのファクターのリストで確定させています。全員分の記述書を書き上げてから始める必要はない、というのが2社に共通する示唆です。

2024年4月の労働条件明示ルール改正とジョブ型雇用の契約書面の書き方

ジョブ型雇用で職務を限定するなら、その限定は契約書面に書かれていなければなりません。ちょうど2024年4月の改正で、ここを書く欄が全労働者に必須になりました。

全労働者に必要になった就業場所・業務の「変更の範囲」の明示と記載の分け方

厚生労働省の令和6年4月からの労働条件明示ルール改正(令和5年厚生労働省令第39号)により、2024年4月1日以降に結ぶ労働契約では、雇い入れ直後の就業場所・業務に加えて、将来の配置転換で変わりうる「変更の範囲」も明示が必要です。山口労働局の案内は、この「就業場所・業務の変更の範囲」を全ての労働者に対する明示事項として挙げています。

ジョブ型で雇う社員は、業務の変更の範囲に職務を限定する書き方をします。たとえば「データ分析業務及びこれに付随する業務」とし、勤務地も限定するなら就業場所の変更の範囲を特定の事業所に絞ります。メンバーシップ型の社員と同じ書式を使い回さず、雇用区分ごとに通知書の雛形を分けるのが確実です。

変更の範囲を「会社の定める業務」と書くとジョブ型と呼べない理由

改正後の通知書で、業務の変更の範囲を「会社の定める業務」と書く例は多く見られます。この書き方は配置転換の幅を広く残すもので、職務を限定していることになりません。社内でジョブ型と呼んでいても、契約上はメンバーシップ型と同じ扱いです。

逆に職務を限定して書いた社員には、限定外の業務への配置転換を会社が一方的に命じにくくなります。どちらが良いかではなく、等級・賃金をジョブ型にした社員の契約書面が実態とずれていないかを点検してください。賃金制度の側の書き分けは賃金制度とは(基本給の決め方5類型と賃金テーブル)で整理しています。

ジョブ型雇用を人事システムで運用する要件——雇用区分・職務定義書・社内公募

ジョブ型雇用をExcelと紙の通知書で回すと、雇用区分ごとの契約内容、職務定義書の版、公募の応募状況がばらばらに管理されます。システムで持つべきデータを先に決めておくと、制度の拡大時に詰まりません。

雇用区分と職務・勤務地の限定範囲を社員マスタに持ち、通知書と一致させる設計

一国二制度や段階導入を採ると、同じ会社にメンバーシップ型とジョブ型の社員が並びます。社員マスタには雇用区分(総合職・ジョブ型・地域限定など)と、業務・就業場所それぞれの変更の範囲を項目として持たせます。

データ 主な項目 変わる契機
雇用区分履歴 社員番号・雇用区分・適用開始日・本人同意日 区分の転換・制度対象への指名
契約の限定範囲 業務の変更の範囲・就業場所の変更の範囲・通知書の版 契約締結・更新・区分の転換
就任ポジション 社員番号・ポジションID・就任日・離任日 公募による異動・発令

三菱UFJ信託銀行のように「会社の指名と本人の同意」で対象が決まる制度では、同意日を記録しておかないと後から根拠を示せません。契約の限定範囲と就任ポジションを突き合わせれば、限定外の職務に就いている社員を一覧で抽出できます。ポジション側の台帳と職務評価の版管理は職務等級制度の記事の後半で扱っています。

職務定義書のスキル要件と社員のスキル情報を結び、社内公募の履歴を残す仕組み

社内公募を回すには、公開中のポジション、応募者、選考結果、異動日を1つの流れで持つ必要があります。富士通のように常時500件以上の公募がある規模では、表計算での管理は現実的ではありません。

職務定義書に書いた必要スキルと、社員が登録したスキル・資格を同じ項目体系で持つと、応募前に本人がスキルの差を確かめられ、リスキリングの対象も特定できます。スキルの項目設計はスキル管理とは(棚卸しの運用とシステム化の判断軸)を参照してください。

既存の人事システムで足りるか、追加開発が要るかを分ける確認項目

パッケージの人事システムでジョブ型雇用を運用できるかは、次の点で判断できます。

  1. 1つの会社の中で、雇用区分ごとに異なる等級体系と賃金テーブルを同時に持てるか
  2. 業務・就業場所の変更の範囲を項目で持ち、労働条件通知書の出力に反映できるか
  3. ポジションと社員を分けて管理し、空席と社内公募の応募・選考を記録できるか
  4. 雇用区分の転換日と本人同意日を履歴で残せるか

1と3が設定で表せない製品では、一国二制度や段階導入の途中で運用が手作業に戻ります。その場合は当社の人事・労務管理システム開発で、既存の人事・給与システムを残したまま雇用区分と公募の機能を足す形の要件定義から設計しています。

ジョブ型雇用の導入判断——全社移行を見送る条件と「名ばかりジョブ型」の失敗

ジョブ型雇用は、入れる範囲と順番を誤ると運用が形だけになります。

新卒を育てて回す一般職中心の企業は、全社一斉のジョブ型移行を見送る

新卒を一括採用し、数年ごとに部署を回して育てる人材が社員の大半を占める企業では、全社一斉の移行は見送ります。職務給にすると異動のたびに賃金が上下し、育成のためのローテーションを本人が受け入れる理由がなくなるからです。

この場合は、採用競争の激しい専門職か管理職から始める段階導入を採ります。富士通の管理職先行、三菱UFJ信託銀行の領域限定はどちらもこの型です。スキル単位で人を動かす別の考え方はスキルベース組織とは(ジョブ型との違い)で比較しています。

職務記述書を作っただけで異動と賃金の運用を変えない「名ばかりジョブ型」

よくある失敗は、全社員分の職務記述書を作って制度を発表したものの、異動は従来どおり会社の辞令で行い、賃金も勤続で上がり続けるケースです。記述書は人事部の書庫で更新されないまま古くなります。

ジョブ型かどうかは記述書の有無ではなく、異動が公募で起き、職務の変更が賃金に反映されているかで決まります。導入時に「最初の1年で公募による異動を何件出すか」を目標に置くと、形だけの移行を避けられます。富士通が記述書の完成度より公募での使用を優先したのも、この順番を守るためです。

よくある質問

ジョブ型雇用の導入を検討する人事担当者や経営層から寄せられる質問に答えます。

ジョブ型雇用のメリットとデメリットは何ですか?

企業側のメリットは、職務と賃金を社外の相場で説明できるため、専門人材の経験者採用で条件を提示しやすくなる点です。社員側は、応募によって自分で職務を選べます。デメリットは、職務記述書と職務評価の維持に手間がかかることと、会社主導の配置転換がしにくくなることです。富士通は650個のロール・プロファイルを土台にして記述書の作成負担を抑えました。

ジョブ型雇用にすると解雇しやすくなりますか?

なりません。労働契約法第16条は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当でない解雇を無効とし、この規定は雇用の型を問いません。職務を限定した社員でも、担当職務がなくなった際には配置転換の可能性などが検討されます。ジョブ型人事指針の事例企業も、ポストを外れた社員に社内公募での再挑戦や別の職務への変更を用意しています。

ジョブ型雇用を導入している日本企業はどこですか?

2024年8月公表のジョブ型人事指針には、富士通、日立製作所、アフラック生命保険、パナソニック コネクト、レゾナック・ホールディングス、ソニーグループ、オムロン、中外製薬、KDDI、三菱マテリアル、資生堂、リコー、テルモ、オリンパス、ENEOS、ライオン、三井化学、三菱UFJ信託銀行、東洋合成工業、メルカリの20社が載っています。導入範囲は全社一斉から専門領域だけまでさまざまです。

新卒採用でもジョブ型雇用はありますか?

あります。富士通は従来、新卒入社者には学歴別の初任給を適用し、入社1年後からジョブ型の対象にしていました。2026年4月入社者からは一律の初任給を廃止し、入社時からジョブや職責の高さに応じた処遇を適用するとしています。新卒の段階で職種別やポジション別のコースを設けて採用する企業も、指針の事例に見られます。

ジョブ型とメンバーシップ型は併用できますか?

併用できます。三菱UFJ信託銀行は両者を並べる「一国二制度」を採り、専門4領域の社員だけを会社の指名と本人の同意でジョブ型の対象とする制度です。併用する場合は、雇用区分ごとに等級体系・賃金テーブル・労働条件通知書の雛形を分け、区分の転換日と同意日を記録しておくことが運用の前提になります。

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