キャッシュフロー計算書は、前期と当期の貸借対照表、当期の損益計算書の3つがあれば間接法で作れます。この記事で説明するのは、架空の会社の数字を使い、精算表に全科目の増減を並べて営業・投資・財務の3区分へ振り分ける作り方で、全体を5つの手順に分けた構成です。最後に現金の期末残高で検算し、合わないときに見る箇所も示します。後半では、設備の未払金やリースのように区分を迷う取引の判断と、会計システムでキャッシュフロー計算書を自動作成するための勘定科目マッピングの設計まで扱います。
まとめ:キャッシュフロー計算書の作り方は、全科目の増減を3区分へ振り分ける作業
作り方の骨格は1つです。貸借対照表の全科目について前期末と当期末の差額を出し、その差額を「現金が動いた理由」として営業・投資・財務のどこかの行へ振り分けます。資産が増えた科目は現金のマイナス、負債と純資産が増えた科目は現金のプラスです。
営業区分は税引前当期純利益から出発する間接法で組み、投資と財務は固定資産や借入金の増減を「取得と売却」「借入れと返済」の総額に戻して並べます。最後に「期首の資金+3区分の合計=期末の資金」が成り立てば完成です。
作る前に決めることが2つあります。資金の範囲に何を入れるかと、利息を営業区分に置くかどうかです。毎月作るなら、勘定科目ごとに振り分け先の行を持たせるマッピング表が要になります。
キャッシュフロー計算書を作る前に揃える資料と、資金の範囲・利息の表示方式
計算に入る前の準備で、完成後の手戻りの大半が防げます。
必要な資料は2期分の貸借対照表と当期の損益計算書、固定資産と借入金の明細
間接法で最低限必要なのは、前期末と当期末の貸借対照表、当期の損益計算書です。これだけでは足りない情報が2つあります。
- 固定資産の明細:期中の取得額、売却した資産の帳簿価額、減価償却費。貸借対照表の差額だけでは、取得と売却を分けられません。
- 借入金の明細:期中の新規借入額と返済額。残高が100万円減っていても、200万円借りて300万円返したのかは明細でしか分かりません。
- 配当と法人税等の支払額:株主資本等変動計算書の配当額、納付書の控え。
固定資産台帳と借入金の返済予定表があれば、たいていの中小企業はこの3点を揃えられます。有価証券の売買や増資があった期は、その取引の記録も用意します。
資金の範囲を先に決める:現金同等物の3か月基準と当座借越の扱い
キャッシュフロー計算書が対象にする資金は「現金及び現金同等物」です。連結キャッシュ・フロー計算書等の作成基準は、現金を手許現金と要求払預金(当座・普通・通知預金)とし、注2で「取得日から満期日又は償還日までの期間が3か月以内」の定期預金などを現金同等物の例に挙げています。預入期間1年の定期預金は資金に入らず、預け入れた時点で投資区分の支出になります。
当座借越も決めておく項目です。日本公認会計士協会の会計制度委員会報告第8号(キャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針)の3項は、借越限度枠を現金と同じように使っている場合の当座借越を「負の現金同等物」とします。同指針は2023年11月17日の改正で、現金の定義に特定の電子決済手段を加えました。
利息の置き場所は2方式から選びます。受取利息・受取配当金・支払利息を営業区分、支払配当金を財務区分に置く方法と、受取側を投資区分、支払側を財務区分に置く方法です。中小企業が社内用に作るなら、様式が標準として示している前者で固定すれば十分です。資金の範囲と3区分の考え方そのものはキャッシュフローの3区分と資金の範囲を整理した記事で扱っています。
設例で作るキャッシュフロー計算書、精算表を使った間接法の5つの手順
ここからは1つの設例で最後まで作ります。単位は万円です。期中の取引は次のとおりとします。税引前当期純利益300、法人税等120、配当20。減価償却費100、帳簿価額40の設備を50で売却(売却益10)、設備250を現金で取得。支払利息20は全額支払済み。長期借入金を200借り入れて300返済。預入期間1年の定期預金100を預け入れ。
手順1:貸借対照表の全科目を並べ、前期末と当期末の増減額を出す精算表
最初に精算表を作ります。貸借対照表の科目を縦に並べ、前期末・当期末・増減額の3列を置き、右端に「振替先の行」を書く欄を足します。
| 科目 | 前期末 | 当期末 | 増減 | 振替先の行 |
|---|---|---|---|---|
| 現金及び預金 | 500 | 310 | △190 | 資金と定期預金に分ける |
| 売掛金 | 800 | 950 | +150 | 営業:売上債権 |
| 棚卸資産 | 400 | 460 | +60 | 営業:棚卸資産 |
| 有形固定資産 | 1,200 | 1,310 | +110 | 投資と営業に分解 |
| 買掛金 | 450 | 500 | +50 | 営業:仕入債務 |
| 未払法人税等 | 60 | 80 | +20 | 営業:法人税等 |
| 長期借入金 | 1,000 | 900 | △100 | 財務:借入と返済 |
| 資本金 | 300 | 300 | 0 | なし |
| 利益剰余金 | 1,090 | 1,250 | +160 | 利益・税金・配当 |
精算表の役目は、現金以外の全科目の増減を1行も残さず振替先へ送ることです。実務指針第8号の設例も同じ形の精算表を使い、各科目の残りが0になるまで修正を入れています。行が残れば、その増減がキャッシュフロー計算書のどこにも載っていないことになります。
手順2:税引前当期純利益から小計、法人税等の支払額までの営業区分
営業区分の計算で出発点となるのは、税引前当期純利益300です。減価償却費100を足し、投資区分で売却収入として計上する固定資産売却益10を引きます。支払利息20はいったん足し戻し、小計の下で支払額として引き直します。
売掛金の増加150と棚卸資産の増加60は現金のマイナス、買掛金の増加50はプラスです。ここまでで小計250になります。その下に利息の支払額△20、法人税等の支払額を置きます。法人税等は損益計算書の120に未払法人税等の増加20を足し戻した100が実際の納付額で、営業区分の合計は130です。各調整項目を足し引きする理由は営業キャッシュフローの間接法の調整項目を設例で追った記事で1行ずつ説明しています。
手順3:有形固定資産の増減を取得・売却・減価償却の3つに分解する投資区分
有形固定資産は110増えていますが、110をそのまま投資区分に入れると誤りです。増減を次の式で分解します。
期首1,200+取得250−減価償却100−売却した資産の帳簿価額40=期末1,310
取得250は「有形固定資産の取得による支出」、売却は帳簿価額40に売却益10を足した50が「有形固定資産の売却による収入」です。減価償却費100は手順2で営業区分に振替済みです。作成基準の第三の二は投資区分と財務区分を「主要な取引ごとに」総額で表示するよう求めているため、取得と売却を相殺して△200と書くことはできません。定期預金の預入△100も投資区分に入り、合計は△300です。
手順4:借入金の増減を借入れと返済の総額に戻し、配当を拾う財務区分
長期借入金の残高は100減りました。財務諸表等規則の115条は、財務区分に「長期借入れによる収入」「長期借入金の返済による支出」などを総額で掲記すると定めています。借入金の明細から、収入200と支出△300の2行に戻します。
利益剰余金の増加160は、当期純利益180から配当20を引いた結果です。当期純利益180は手順2の税引前利益300と法人税等△120に振り替え済みなので、残る配当△20を財務区分に置きます。財務区分の合計は△120です。
例外は、コマーシャル・ペーパーの発行と償還や短期間の借換えのように、期間が短く回転が速い取引です。作成基準の注8により純額で表示できますが、純額であることが分かる科目名にします。
手順5:期首の資金に3区分の合計を足し、期末の資金と一致するかの検算
3区分を並べると、キャッシュフロー計算書は次のとおりです。
| 区分・行項目 | 金額 |
|---|---|
| 営業活動によるキャッシュ・フロー | 130 |
| 定期預金の預入による支出 | △100 |
| 有形固定資産の取得による支出 | △250 |
| 有形固定資産の売却による収入 | 50 |
| 投資活動によるキャッシュ・フロー | △300 |
| 長期借入れによる収入 | 200 |
| 長期借入金の返済による支出 | △300 |
| 配当金の支払額 | △20 |
| 財務活動によるキャッシュ・フロー | △120 |
| 現金及び現金同等物の増減額 | △290 |
| 現金及び現金同等物の期首残高 | 500 |
| 現金及び現金同等物の期末残高 | 210 |
期末の資金210は、貸借対照表の現金及び預金310から預入期間1年の定期預金100を除いた額と一致します。作成基準の第四は、この期末残高と貸借対照表の科目別の内訳の関係を注記事項にしています。
利益180の会社で現金が290減ったのは、設備投資と借入返済が営業区分の130を上回ったからです。この読み方ができる形に仕上がれば、作成は完了です。
作成でつまずく取引と、表示区分・非資金取引・検算不一致の判断基準
設例のように取引が素直な会社は少なく、区分に迷う取引で手が止まります。
設備の未払金は投資区分、割賦で買った設備は財務区分に入れる線引き
設備を検収して代金を翌期に払う場合、検収時点では現金が動いていません。実務指針第8号の33項は、検収から6か月後の支払がその会社の通常の決済条件や業界の取引慣行なら「投資活動によるキャッシュ・フロー」に記載するとしています。一方、割賦取引や延払取引で取得した設備の代金は、ファイナンスの性格が強いとして原則「財務活動によるキャッシュ・フロー」です。
精算表で困るのは、未払金に経費と設備代金が混ざっている場合です。残高の増減を丸ごと営業区分に入れると、設備を買った期に営業キャッシュフローが膨らみます。未払金は補助科目で「経費」「設備」を分けておくのが確実です。
リースで取得した資産と、重要な非資金取引として注記する取引の範囲
貸借対照表に計上するリース資産を取得すると、有形固定資産とリース債務が同時に増えますが、現金は動きません。これを手順3の分解式に入れ忘れると、取得による支出が過大になります。
実務指針第8号の24項は、こうした非資金取引の例として、リース資産の取得、株式の発行等による資産の取得又は合併、現物出資による株式の取得又は資産の交換などを挙げています。本表には載せず、重要なものを注記します。リース料の支払のうち元本に当たる部分は、財務区分の「リース債務の返済による支出」です。
期末残高が合わないときに確認する4か所と、差額の金額から原因を探す順序
手順5で一致しないときは、差額の金額を見てから次の順に確認します。
- 精算表に残った行:振替先が空欄の科目があれば、その増減額がそのまま差額になります。
- 符号の逆転:資産の増加をプラスで入れると、差額はその科目の増減額のちょうど2倍になります。
- 資金の範囲:3か月超の定期預金や当座借越を資金に入れたまま、投資区分にも計上していないか。
- 非資金取引:リースや現物出資の金額を、取得による支出に入れていないか。
差額が特定科目の増減の2倍なら2を、固定資産の増減と同じなら1を疑います。金額から当たりを付けると、全行を見直すより早く見つかります。
会計システムでキャッシュフロー計算書を自動作成する勘定科目マッピング設計
年1回なら精算表を手で作れば済みます。毎月作る、あるいは作る人が交代しても同じ結果を出すなら、振替先の行を勘定科目の側に持たせます。
勘定科目ごとにCF行を持たせるマッピング表と、1科目を複数行に割る補助科目
基本は、勘定科目マスタに「キャッシュフロー計算書の行」を1つずつ持たせる設計です。設例の科目なら次のようになります。
| 勘定科目 | 割り当てる行 | 元データ |
|---|---|---|
| 売掛金 | 営業:売上債権の増減 | 元帳の残高差 |
| 棚卸資産 | 営業:棚卸資産の増減 | 元帳の残高差 |
| 有形固定資産 | 投資:取得・売却 | 固定資産台帳 |
| 長期借入金 | 財務:借入・返済 | 借入金台帳 |
| 未払金(設備) | 投資:取得による支出 | 補助科目の残高差 |
| 未払消費税等 | 営業:未払消費税等の増減 | 元帳の残高差 |
売掛金のように残高差だけで決まる科目は、マッピング表の1行で自動化できます。難しいのは、1つの科目の増減が複数の行に割れる科目です。有形固定資産の振り分け先は取得・売却・減価償却の3行で、未払金の振り分け先は営業と投資の2行です。前者は台帳から総額を受け取り、後者は補助科目を分けて1補助科目1行にします。消費税等は実務指針第8号の36項が税込・税抜など3つの表示方法を認めているため、どれを採るかをマッピングの前提として固定しておきます。
固定資産台帳と借入金台帳から取得・返済の総額を受け取る連携と運用
投資と財務の総額は、総勘定元帳の残高からは出せません。固定資産台帳の取得・除売却・償却の明細と、借入金台帳の実行・返済の明細を月次で受け取る連携が必要です。固定資産台帳の持ち方は固定資産管理システムの機能と減価償却との関係を整理した記事を参照してください。
運用で詰まるのは、勘定科目を新設したときです。マッピングが未割当の科目が1つあるだけで、手順5の検算がずれます。月次の作成処理の最初に「残高があるのに行が割り当てられていない科目」を一覧で出す検査を入れておけば、差額の原因探しに時間を取られません。マッピング表は定義書として版を管理し、変更した月を記録します。
表計算の精算表で作る会社と、会計システムの自動作成へ移る会社の境界
どこまで仕組み化するかは、作る頻度と、1科目が複数行に割れる取引の量で決まります。
表計算の精算表で足りる条件と、年1回の作成で先に固めておく手順書
作成が決算時の年1回、固定資産の取得と売却が年に数件、借入金が数本、連結もない。この条件なら、本記事の精算表を表計算で組み、手順書を残す運用で十分です。システムに予算を割く段階ではありません。
固めておくのは、資金の範囲、利息の表示方式、未払金の分け方の3つです。担当者が代わっても同じ判断になるよう、これらの判断基準を手順書に記載してください。月次で作る場合も、締めの日程が決まっていなければ数字が月ごとにぶれます。締めの組み立ては月次決算を5営業日で締める手順の記事が参考になります。
自動作成へ移るべき条件と、マッピングを科目コードだけで決めて失敗する型
毎月キャッシュフロー計算書を経営会議に出している。精算表の作成と検算に毎月2日以上かかる。固定資産や借入金の台帳が会計システムと別になっている。1つでも当てはまるなら、自動作成を検討する段階です。
失敗が多いのは、勘定科目コードとCF行の対応表だけを作って自動化したと判断する進め方です。未払金の設備分、リース資産の取得、借入金の借換えのように、科目コードでは区分が決まらない取引が残り、結局毎月手で直すことになります。台帳からの総額連携と、補助科目や取引区分コードによる振り分けまで含めて設計してください。市販パッケージの標準機能でこの振り分けができない場合が、受託開発を検討する境界です。一創の会計・経理システム開発では、勘定科目マッピングと台帳連携の設計から相談を受けています。
逆に、検算が毎月一発で合い、手直しが月に数行で済むなら、システム化の効果は小さいと判断して構いません。
キャッシュフロー計算書の作り方・間接法と直接法・エクセルでの作成についてよくある質問
キャッシュフロー計算書の作成について、検索でよく調べられている疑問に答えます。
キャッシュフロー計算書は何を見れば作れますか?
間接法なら、前期末と当期末の貸借対照表、当期の損益計算書が基本です。これに固定資産の取得・売却の明細、借入金の借入・返済の明細、配当の支払額を加えれば、3区分すべてを作れます。貸借対照表の差額だけでは、設備を買った額と売った額、借りた額と返した額を分けられないため、明細が必要になります。
間接法と直接法はどちらで作ればよいですか?
社内で初めて作るなら間接法を勧めます。試算表の残高から組み立てられ、利益と現金のずれの理由がそのまま行に出るためです。直接法は営業収入や仕入支出を取引ごとに集める仕組みが必要で、入金と支払の記録が取引の種類別に分かれていないと作れません。どちらで作っても営業区分の合計額は一致すると、実務指針第8号の12項に書かれています。
キャッシュフロー計算書はエクセルで作れますか?
作れます。本記事の精算表のとおり、科目・前期末・当期末・増減・振替先の列を作り、振替先ごとに合計すれば3区分が出ます。年1回の作成ならエクセルで十分です。ただし、科目を新設したときに精算表の行を足し忘れると検算がずれるため、貸借対照表の科目数と精算表の行数が一致しているかを毎回確認してください。
中小企業もキャッシュフロー計算書を作る必要がありますか?
会社法上、中小企業にキャッシュフロー計算書の作成義務はありません。作成が求められるのは、金融商品取引法に基づいて有価証券報告書を提出する会社です。義務がなくても、金融機関から借入の返済能力を説明するよう求められたときや、利益は出ているのに預金が減る理由を確かめたいときには、本記事の手順で作る価値があります。
キャッシュフロー計算書の期末残高が貸借対照表の現金預金と一致しないのはなぜですか?
資金の範囲が貸借対照表の「現金及び預金」と同じではないためです。預入期間が3か月を超える定期預金は資金に入らず、限度枠を現金と同じように使っている当座借越は負の現金同等物として資金から差し引きます。一方、取得日から3か月以内に満期が来る短期投資は、有価証券の科目に入っていても資金に含める対象です。この差は注記で内訳を示します。
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