調整後営業利益とは、会計基準どおりに計算した営業利益から、減損損失やリストラ費用、固定資産の売却益といった一時的な損益を取り除き、会社が独自の定義で示す利益です。コア営業利益やNon-GAAP営業利益、事業利益も同じ仲間の指標で、呼び名も除外する項目も会社ごとに異なる指標です。この記事では、国際会計基準(IFRS)の調整表の例で計算の流れを確かめたうえで、IFRSを任意適用する日本企業がこの指標を出す理由、日立製作所と武田薬品工業の開示に見る定義の幅、2027年から適用されるIFRS第18号の開示ルール、数字を読むときの落とし穴を扱います。後半で示すのは、同じ調整を自社の月次決算で再現するための会計データの持ち方です。会計基準上の営業利益の定義と計算は営業利益の計算式と販管費の区分ミスで数字がぶれる仕組みを解説した記事にまとめています。
まとめ:調整後営業利益は会社が定義する指標、比べる前に除外項目と調整表を確かめる
調整後営業利益は、会計基準が定めた利益ではありません。会社が「本業の実力を表す」と考える範囲を自分で決め、財務ベースの営業利益に足し戻しや差し引きを加えて作る指標です。同じ名前でも中身は会社ごとに違い、日立製作所のように売上原価と販管費だけを差し引く型もあれば、武田薬品工業のように減損や買収関連の費用を除いて財務ベースの2倍以上になる型もあります。
読む側の手順は決まっています。まず財務ベースの営業利益との調整表を探し、どの項目をいくら除いたかを確かめること。次に、同じ項目が3年続けて「一時的」として除かれていないかを見ることです。毎年出る費用を除いている会社の調整後営業利益は、実力より高く見えます。
開示のルールも変わります。IFRS第18号が2027年1月1日以後に始まる事業年度から適用され、3月決算の会社では2028年3月期から、調整後営業利益のような指標は「経営者が定義した業績指標」として財務諸表の注記で調整表の開示が必要になります。社内で同じ数字を毎月出したい会社は、仕訳明細に調整区分の属性を持たせ、財務ベースと調整後を同じデータから集計する設計が前提です。
調整後営業利益の意味と計算式、財務ベースの営業利益から足し戻す項目の考え方
調整後営業利益の計算は、財務ベースの営業利益を出発点にして、会社が「本業の実力ではない」と判断した損益を外す2段階で進みます。外す対象は会社が決めるため、計算式そのものより、何を外したかの一覧のほうが情報として価値を持ちます。
営業利益に一時的な損益を足し戻す計算式と、IFRS財団の数値例で見る調整の流れ
基本の形は「調整後営業利益=営業利益+除外する費用-除外する収益」です。IFRS財団がIFRS第18号の解説用に公表した経営者が定義した業績指標(MPM)のウェビナー資料には、調整表の例が載っています。数字を整理すると次のとおりです。
| 項目 | 金額 | 調整の向き |
|---|---|---|
| 営業利益(IFRS) | 57,000 | 出発点 |
| 減損損失(のれん4,500+研究開発1,600) | 6,100 | 足し戻す |
| リストラ費用(一般管理費に計上) | 3,800 | 足し戻す |
| 有形固定資産の売却益 | 1,800 | 差し引く |
| 調整後営業利益 | 65,100 | 57,000+6,100+3,800-1,800 |
見てほしいのは売却益の行です。調整の対象は足し戻す費用だけではなく、除外する一時的な利益も含むものです。売却益を残したまま減損だけを足し戻すと、調整後の数字は一方的に膨らみます。同じ資料では、当期利益の段階でリストラ費用に589、売却益に297の税効果を反映し、調整後の当期利益を39,908と示しています。調整は営業利益で終わらず、税金と非支配持分まで追いかける必要があるということです。
調整後営業利益・コア営業利益・Non-GAAP営業利益・事業利益の呼び名の違い
呼び名は会社の選択で、名前から定義は決まりません。よく見かける名称と、その名称を使う会社に多い傾向を並べます。
| 呼び名 | 使われ方の傾向 | 確かめる点 |
|---|---|---|
| 調整後営業利益 | IFRS適用企業で広く使われる総称 | 除外項目の一覧 |
| コア営業利益(Core営業利益) | 製薬会社に多い | 無形資産の償却費を外すか |
| Non-GAAP営業利益 | 米国基準の用語を借りた表記 | 株式報酬費用を外すか |
| 事業利益 | 売上総利益から販管費を引く型が多い | 持分法損益を含めるか |
英語圏では、会計基準で定義されない指標をまとめてAPM(代替的業績指標)やNon-GAAP指標と呼びます。IFRS財団の資料も、調整後営業利益・調整後当期利益・調整後EBITDA・フリーキャッシュフロー・ROEを、いま使われているNon-GAAP指標の例として挙げています。実務では、名称が同じだから比べられると考えず、毎回定義の注記まで降りて確かめてください。
IFRS任意適用企業が調整後営業利益を開示する理由と、日本基準の営業利益との差
日本で調整後営業利益を開示する会社の多くは、IFRSを任意適用した上場企業です。日本取引所グループが2026年7月31日に公表した会計基準の選択に関する開示内容の分析では、IFRS適用済・適用決定・適用予定の会社は合計318社で、東証上場会社の時価総額の51.2%を占めます。時価総額の半分が、IFRSの営業利益で決算を出している計算です。
IFRSの営業利益に減損やリストラ費用が入る構造と、日本基準の特別損益との対応
理由は、日本基準とIFRSで営業利益に入る項目が違うことにあります。日本基準の損益計算書には特別損益の区分があり、固定資産の減損損失や事業構造改善費用、固定資産売却益は、多くの場合ここに計上されます。営業利益は売上総利益から販管費を引いた段階で止まるため、こうした一時的な損益の影響を受けません。
IFRSには特別損益の区分がありません。日本のIFRS適用企業の多くは、減損損失や固定資産売却損益を「その他の収益」「その他の費用」として営業利益の中に表示してきました。その結果、大型の減損を計上した期は営業利益が大きく落ち込み、日本基準の時代と比べられなくなります。調整後営業利益は、この差を埋めて日本基準の営業利益に近い数字を投資家に示すために生まれた面もある指標です。4種類の会計基準の違いは日本で使える会計基準4種類の一覧と会計システムへの落とし込みを解説した記事で扱っています。
日立と武田薬品の開示に見る定義の幅、差し引く費用で切る型と除外を積む型
実際の開示を2社で比べると、同じ「調整後」でも作り方が正反対であることが分かります。
| 比較の観点 | 日立製作所 | 武田薬品工業 |
|---|---|---|
| 指標名 | 調整後営業利益 | Core営業利益 |
| 作り方 | 売上収益-売上原価-販管費 | 営業利益から一定の項目を除外 |
| 型 | 差し引く費用で切る型 | 除外を積む型 |
| 財務ベースとの差 | その他の収益・費用などの分 | 上期で約2.5倍 |
日立製作所は2023年の第154回定時株主総会招集通知で、調整後営業利益を「売上収益から、売上原価並びに販売費及び一般管理費の額を減算して算出」と注記しています。その他の収益・費用を丸ごと外す形で、日本基準の営業利益にもっとも近い作り方です。同じ注記には、調整後営業利益に企業結合で認識した無形資産等の償却費を足し戻し、持分法による投資損益を加えたAdjusted EBITAという、さらに別の指標の定義も載っています。
武田薬品工業の2025年度上期の決算ニュースリリース(2025年10月30日)では、財務ベースの営業利益2,536億円に対し、Core営業利益は6,392億円でした。前年同期比も財務ベースが27.7%減、Coreが11.2%減(いずれも実勢レート)と、減損損失の計上で大きく開いています。2025年10月公表の通期修正予想も、営業利益4,000億円に対しCore営業利益11,300億円です。除外の中身は、同社が決算資料の財務補足資料で開示する定義と調整表を見て確かめる必要があります。
IFRS第18号で2027年から変わる開示、経営者が定義した業績指標の注記と調整表
調整後営業利益は、これまで決算説明資料や決算短信の補足など、財務諸表の外で示されることがほとんどでした。IFRS第18号は、この扱いを変えます。
MPMの定義と注記に書く4項目、調整項目ごとに税効果と非支配持分を示す要件
IFRS財団のIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」の公式ページによると、同基準は2024年4月に公表され、損益計算書に「営業利益」と「財務及び法人所得税前利益」の2つの小計の表示を求めます。あわせて、IFRSで定められていない収益・費用の小計のうち、財務諸表の外の公表物で経営者の業績の見方を伝えるものを、経営者が定義した業績指標(MPM)として開示させます。
前述のウェビナー資料が示す注記の内容は4つです。
- IFRSで定められた小計(営業利益など)との調整表
- その指標を報告する理由
- その指標の計算方法
- 指標を変更した場合の説明
調整表では、調整項目ごとに法人所得税への影響と非支配持分への影響も示します。税効果の算定は、法定税率による方法、税金の按分による方法、より良い情報を与える他の方法の3つから選び、その方法も開示します。調整後営業利益を出している会社は、科目ごとの税効果まで追える集計を持っていないと、この注記を作れません。
3月決算の日本企業に適用される時期と、既存のコア営業利益が受ける影響
IFRS第18号は2027年1月1日以後に開始する事業年度から適用され、早期適用も認められています。3月決算の会社なら、2027年4月に始まる2028年3月期が最初の適用年度です。比較情報として前期の数字も組み替えて示すため、実際には2027年3月期の数字から新しい区分で集計し直す準備が要ります。
影響は2つあります。1つめは、IFRSが営業利益を定義した小計として固めるため、各社がばらばらに表示してきた「営業利益」の範囲がそろうことです。2つめは、調整後営業利益やコア営業利益を決算説明資料で使い続ける会社は、その定義と調整表を財務諸表の注記に載せることになり、監査の対象に入ることです。指標を途中で変えると変更の理由と影響の説明も求められるため、「都合の良い年だけ除外項目を増やす」運用は難しくなります。なお、日本基準を適用する会社にはIFRS第18号は直接適用されません。
調整後営業利益を読むときの落とし穴、毎期出る「一時的費用」と除外項目の偏り
調整後営業利益は、会社の説明をそのまま受け取ると実態より良く見えやすい指標です。読み手の側で確かめる手順を持っておくと、数字の誤読を避けられます。
リストラ費用や減損が毎年除外される会社で確かめる3年分の調整額の推移
もっとも多い落とし穴は、毎年発生している費用を「一時的」として除いているケースです。事業の入れ替えを続ける会社では、構造改革費用や減損損失が3年、5年と続けて計上されます。毎年出るなら、それは事業を続けるためのコストの一部です。
確かめる手順は次の3つで足ります。
- 直近3期分の調整表を並べ、同じ名目の除外項目が毎期出ていないか
- 除外した費用の合計と、除外した利益(売却益など)の合計が釣り合っているか
- 財務ベースと調整後の差が、売上高の何%にあたり、広がっていないか
3つめは目安として、差が売上高の数%に収まり、年ごとに増えていなければ大きな問題はありません。差が毎期広がっている会社は、財務ベースの営業利益を主に見て、調整後は補助として扱ってください。
調整後営業利益で判断すべきでない場面と、財務ベースの営業利益を併読する条件
はっきり言えるのは、異なる会社の調整後営業利益を、定義を確かめずに横並びで比べてはいけない、ということです。前の章で見たとおり、日立型と武田型では財務ベースからの距離がまったく違います。同業他社と比べるなら、財務ベースの営業利益で比べるか、自分で同じ項目を外して計算し直してください。
買収の多い会社の評価にも向きません。のれんや買収で取得した無形資産の償却費、減損損失を外すと、買収価格の高さが利益から消えるためです。買収で成長してきた会社を見るときは、調整後の数字とあわせて、財務ベースの営業利益と営業キャッシュフローを並べて読むのが前提です。一方、同じ会社の期ごとの比較で、除外項目が少なく定義も変わっていない場合は、調整後営業利益のほうが事業の動きを素直に映します。使い分けの基準は、定義が安定しているかどうかです。
調整項目を会計・経営管理システムで再現する集計設計、仕訳への属性付与と調整表の自動化
経営会議で調整後営業利益を毎月見たい、あるいは上場準備やIFRS適用に向けて財務ベースとの調整表を作りたいという要望は、表計算での手作業から始まることがほとんどです。続けるうちに、どの仕訳を外したかの根拠が担当者の記憶にしか残らない状態になります。
調整区分を仕訳明細の属性に持たせ、勘定科目と分けて集計する設計の考え方
設計の要は、調整するかどうかを勘定科目ではなく仕訳明細の属性で持つことです。減損損失のように科目だけで判定できる費用もありますが、リストラ費用は人件費や業務委託費、支払手数料など複数の科目に散らばります。科目で判定すると、一般管理費に入った割増退職金を拾えません。
| 仕訳明細に持たせる属性 | 値の例 | 使い道 |
|---|---|---|
| 調整区分 | 減損・構造改革・売却損益・対象外 | 調整表の列 |
| 案件コード | 構造改革プロジェクトの番号 | 費用の束ね |
| 部門コード | 事業部・子会社 | 部門別の調整後利益 |
| 承認者と承認日 | 経理責任者の記録 | 除外判断の根拠 |
属性を持たせておけば、財務ベースの営業利益と調整後営業利益は同じ仕訳データから集計だけで出ます。調整区分ごとの合計がそのまま調整表の行になるため、決算説明資料と社内資料の数字が食い違うこともありません。部門別に管理会計の利益を出す配賦の考え方は管理会計の5つの手法と導入手順を整理した記事で扱っています。
月次の管理会計で調整後営業利益を出す手順と、決算の調整表と一致させる照合
月次で回す手順は次のとおりです。
- 調整区分の定義書を作り、対象になる費用と収益を経理責任者が承認する
- 起票時に調整区分を入力し、未入力の仕訳は月末に一覧で確認する
- 月次締めの後、財務ベースと調整後の営業利益を同時に集計する
- 四半期末に、月次の調整額の累計と決算の調整表の金額を突き合わせる
手順1の定義書は、期中に変えないことが前提です。IFRS第18号でも指標の変更には理由と影響の説明が求められており、社内の管理指標でも同じ規律を持たせると前年比が崩れません。予算と実績を調整後の利益で比べる仕組みまで含めるなら、予実管理システムのタイプ別の違いとエクセル脱却の判断基準を整理した記事も参考になります。
会計ソフトの標準機能で足りる範囲と、集計の個別開発を検討する境界
調整項目が減損損失と固定資産売却損益の2つ程度で、どちらも専用の勘定科目に計上しているなら、新たな開発は要りません。会計ソフトの科目別の月次推移表から2科目を足し引きするだけで、調整後営業利益は出せます。
開発が見合うのは、次の2つがそろう場合です。リストラ費用のように複数の科目にまたがる調整項目があり、表計算での拾い出しに毎月10時間以上かかっていること。そして、子会社や部門ごとに調整後の利益を出し、IFRS第18号の注記に向けて税効果まで追える集計が必要なことです。両方がそろうなら、仕訳明細に調整区分を持たせ、調整表と部門別の調整後利益を自動で出す仕組みへの投資が、手作業の削減と監査対応の両面で回収できます。既存の会計ソフトや連結システムとの連携から帳票までをまとめて検討する段階では、会計・経理システム開発のように仕訳の属性設計から集計まで一貫して扱える相談先を選ぶと、調整区分の定義と画面の作りを同時に詰められます。
片方しか当てはまらないなら、開発は見送ってください。先に調整区分の定義書と起票ルールを整えるだけで、手作業の大半は消えます。
よくある質問
調整後営業利益について、よく挙がる質問に答えます。
調整後営業利益とEBITDAの違いは何ですか?
出発点と足し戻す範囲が違います。調整後営業利益は営業利益から減損やリストラ費用などの一時的な損益だけを外した指標で、減価償却費は差し引いたままです。EBITDAは減価償却費と償却費まで足し戻すため、設備や無形資産の多い会社ほど調整後営業利益との差が大きくなります。EBITDAに一時的な項目の調整まで加えたものが調整後EBITDAです。反対に営業利益から本業の税金だけを差し引いた指標が税引き後営業利益(NOPAT)で、ROICやEVAの分子に使われます。計算式と税率の選び方は税引き後営業利益(NOPAT)の計算式とROIC・EVAへのつなぎ方を解説した記事で整理しています。EBITDAの計算式と平均水準はEBITDAの計算式4通りと平均マージンの目安を解説した記事で扱っています。
コア営業利益と営業利益はどちらを見ればよいですか?
同じ会社の期ごとの推移を見るならコア営業利益、他社と比べるなら財務ベースの営業利益が基本です。コア営業利益は会社ごとに定義が違うため、他社と並べるとそのまま比べられません。一方、減損損失を大きく計上した期は財務ベースの営業利益が一時的に落ち込むため、事業の基調を見るにはコア営業利益のほうが向いています。両方を並べ、差が大きい期は調整表で原因を確かめてください。
調整後営業利益は非上場の中小企業でも使えますか?
使えます。日本基準の中小企業では減損や固定資産売却損益は特別損益に入るため、営業利益の段階で調整が要る場面は上場企業より少なめです。それでも、役員退職金や一度きりの大型修繕費、事業撤退の費用が販管費に入った期は、それを外した数字を社内や金融機関への説明用に作る意味があります。その場合も、外した項目と金額を一覧にして財務ベースの数字と並べて示すのが前提です。
調整後営業利益で株式報酬費用を除く会社があるのはなぜですか?
株式報酬費用は現金の支出を伴わず、株価の水準で金額が大きく動くため、本業の実力を見る指標から外す会社があります。米国のIT企業のNon-GAAP指標で特に多い調整です。ただし、株式報酬は従業員への報酬の一部で、毎年継続して発生する費用でもあるため、除外には批判もあります。IFRS第2号による株式報酬の会計処理はストックオプションのIFRS会計処理を日本基準との違いと仕訳で整理した記事で解説しています。
調整後営業利益は決算短信や有価証券報告書のどこに載っていますか?
多くの会社は、決算短信の経営成績の概況、決算説明資料、有価証券報告書の経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)に載せています。IFRS適用企業ではセグメント情報の利益として調整後営業利益を使い、注記で財務ベースとの調整を示す例もあるのです。IFRS第18号の適用後は、経営者が定義した業績指標として財務諸表の注記にもまとめて載るようになります。
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