直接原価計算の損益計算書は、工場の減価償却費や工場長の給料といった固定製造原価を製品の原価に含めず、発生した期の費用として一括で差し引く形式の損益計算書です。売上高から変動費を引いて貢献利益を出し、そこから固定費を引いて営業利益を求めます。この記事では、様式を表で示したうえで、販売量が同じ3期の数値例を全部原価計算と並べ、在庫の増減だけで決算書の利益が動く仕組みを確かめる構成です。固定費調整の計算方法、法人税の申告との関係、会計データから毎月作るための原価データの設計まで扱います。管理会計の手法全体の中での位置づけは管理会計の5つの手法と導入手順を整理した記事にまとめています。
まとめ:直接原価計算の損益計算書は固定費を期間費用にし、在庫で利益が動かない形式
全部原価計算との違いは、固定製造原価の置き場所だけです。全部原価計算は固定製造原価を製品1個ずつに配って在庫にも残し、売れた分だけを売上原価にします。直接原価計算は固定製造原価を在庫に残さず、その期に全額を費用にします。
この違いで、売上が同じでも作りすぎた期は全部原価計算の利益が増え、在庫を減らした期は減ります。直接原価計算の損益計算書なら、利益は販売量と価格、固定費の額だけで決まります。
ただし、決算書と税務申告は全部原価計算が前提です。直接原価計算で月次の損益計算書を作る会社も、年度末には固定費調整で全部原価計算の利益へ戻します。社内の判断用と決算用の2つを毎月並べたいなら、製造費用の勘定科目に変動・固定の区分を持たせ、在庫に含まれる固定製造原価を記録しておく設計から始めてください。
直接原価計算の損益計算書の様式、売上高から貢献利益と営業利益を出す5段階の並び
直接原価計算の損益計算書は、費用を「売上に比例して増えるか」で並べ替えた損益計算書です。上半分で変動費を、下半分で固定費を差し引きます。
変動売上原価・変動製造マージン・貢献利益の各段の意味と計算式を1つの様式で確認
様式は次の5段階で並びます。数値は後の設例の第1期のもので、単位は万円です。
| 段階 | 項目 | 金額 | 計算 |
|---|---|---|---|
| 1 | 売上高 | 2,000 | 単価2万円×1,000個 |
| 2 | 変動売上原価 | 400 | 0.4万円×1,000個 |
| 変動製造マージン | 1,600 | 売上高-変動売上原価 | |
| 3 | 変動販売費 | 50 | 0.05万円×1,000個 |
| 貢献利益 | 1,550 | 上の差額 | |
| 4 | 固定製造原価 | 1,200 | 当期発生額の全額 |
| 5 | 固定販管費 | 300 | 当期発生額の全額 |
| 営業利益 | 50 | 貢献利益-固定費 |
変動売上原価は、売れた製品にかかった材料費や出来高払いの加工費だけを集めた原価です。変動製造マージンは製造段階で残る利益で、そこから販売手数料や荷造運賃のような変動販売費を引くと貢献利益になります。固定製造原価と固定販管費は、生産量や販売量にかかわらず当期に発生した額をそのまま差し引きます。
全部原価計算の損益計算書と並べた比較、売上総利益と貢献利益で区切る位置の違い
決算書で見慣れた全部原価計算の損益計算書は、費用を「製造か販売・管理か」で区切ります。直接原価計算は「変動か固定か」で区切るため、同じ費用が別の行に入ります。
| 比較の観点 | 全部原価計算 | 直接原価計算 |
|---|---|---|
| 費用を区切る軸 | 製造と販売・管理 | 変動と固定 |
| 中間の利益 | 売上総利益 | 貢献利益 |
| 固定製造原価 | 製品原価に含める | 期間費用にする |
| 在庫の評価額 | 固定費を含む | 変動費だけ |
| 主な用途 | 決算書・税務申告 | 社内の意思決定 |
全部原価計算の営業利益は、財務諸表等規則(昭和38年大蔵省令第59号)の第89条が定めるとおり、売上総利益から販売費及び一般管理費を引いた額として表示します。貢献利益という段はこの様式にありません。直接原価計算の損益計算書は、法令の様式ではなく社内向けに組み替えた帳票という位置づけになります。
変動製造マージンと貢献利益と限界利益、呼び名が3つある段の使い分けと注意点
直接原価計算の解説では、似た利益の名前が3つ出てきます。変動製造マージンは変動販売費を引く前、貢献利益は引いた後の利益です。限界利益は「売上高-変動費」で、変動販売費まで引いた貢献利益と同じ金額を指すのが一般的です。
注意したいのは、貢献利益という言葉が社内では別の意味でも使われる点です。事業部別の損益では、限界利益からさらにその事業部だけにかかる固定費を引いた額を貢献利益と呼ぶ例があります。この使い方と制度会計の営業利益との関係は貢献利益と営業利益の違いを事業部別損益の配賦設計から解説した記事で扱っています。帳票では行名の横に計算式を書き添えておくと、会議で数字の意味がずれません。
同じ売上で営業利益が50万円から250万円に動く、3期の数値例で見る全部原価計算との差
2つの損益計算書の違いは、在庫が増えたり減ったりした期に表れます。販売量を3期とも同じにし、生産量だけを変えた設例で確かめます。
3期とも販売1,000個で生産量だけ変えた設例の前提条件と、直接原価計算の損益計算書
1種類の製品だけを作る工場を考えます。販売単価は2万円、1個あたりの変動製造原価は0.4万円、変動販売費は0.05万円です。固定製造原価は毎期1,200万円、固定販管費は毎期300万円かかります。生産量は第1期1,000個、第2期1,200個、第3期800個で、販売量は毎期1,000個とします。期首在庫はゼロ、在庫は先に作ったものから売れる前提です。
| 直接原価計算 | 第1期 | 第2期 | 第3期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
| 変動費合計 | 450 | 450 | 450 |
| 貢献利益 | 1,550 | 1,550 | 1,550 |
| 固定費合計 | 1,500 | 1,500 | 1,500 |
| 営業利益 | 50 | 50 | 50 |
単位は万円です。販売量と価格、固定費が同じなので、営業利益は3期とも50万円になります。生産量の違いは利益に一切影響しません。
全部原価計算では期末在庫に固定費200万円が残り、作りすぎた期に利益が増える仕組み
同じ設例を全部原価計算で計算すると、固定製造原価1,200万円をその期の生産量で割った額が1個ずつの原価に乗ります。第1期は1.2万円、第2期は1.0万円、第3期は1.5万円です。
| 全部原価計算 | 第1期 | 第2期 | 第3期 |
|---|---|---|---|
| 売上高 | 2,000 | 2,000 | 2,000 |
| 売上原価 | 1,600 | 1,400 | 1,800 |
| 売上総利益 | 400 | 600 | 200 |
| 販管費 | 350 | 350 | 350 |
| 営業利益 | 50 | 250 | ▲150 |
| 期末在庫の固定費 | 0 | 200 | 0 |
第2期は200個を作りすぎ、その200個に1個1.0万円、合計200万円の固定製造原価が乗ったまま在庫に残りました。当期の費用から200万円が外れたため、営業利益は250万円に増えています。第3期はその在庫200個が売れ、前期の固定費200万円が売上原価に入るので、営業利益は▲150万円まで下がります。
3期の合計はどちらの方法でも150万円で一致し、違うのは利益が計上される期だけです。それでも、期末に生産を増やせば決算書の利益を押し上げられる構造は、工場の業績評価を生産量に寄せてしまいます。社内の判断に直接原価計算の損益計算書を使う一番の理由はここにあります。
固定費調整の計算方法、直接原価計算の営業利益を決算書の数値へ戻す2つの手順
月次を直接原価計算で作る会社も、決算書と税務申告では全部原価計算の数字が必要です。2つの営業利益をつなぐ計算を固定費調整と呼びます。
期末在庫と期首在庫の固定製造原価を足し引きする固定費調整の計算式と設例への当てはめ
計算式は「全部原価計算の営業利益=直接原価計算の営業利益+期末在庫に含まれる固定製造原価-期首在庫に含まれる固定製造原価」です。前の設例に当てはめると次のようになります。
| 固定費調整 | 第1期 | 第2期 | 第3期 |
|---|---|---|---|
| 直接原価計算の営業利益 | 50 | 50 | 50 |
| +期末在庫の固定費 | 0 | 200 | 0 |
| -期首在庫の固定費 | 0 | 0 | 200 |
| 全部原価計算の営業利益 | 50 | 250 | ▲150 |
損益計算書では、直接原価計算の営業利益の下に固定費調整の2行を足し、最後に全部原価計算の営業利益を示します。仕掛品がある工場では、製品だけでなく仕掛品に含まれる固定製造原価も同じ式に入れてください。在庫を持たない会社では2行ともゼロになり、2つの営業利益は常に一致します。
ころがし計算法と一括調整法の違い、月次で使う簡便な方法と年度末に求められる精度
期末在庫に含まれる固定製造原価の求め方は2通りあります。ころがし計算法は、全部原価計算と同じ流れで固定費を仕掛品・製品・売上原価へ順に配り直し、在庫に残る額を正確に出す方法です。工程が複数ある工場では、工程ごとに完成品と仕掛品へ按分する手間がかかります。仕掛品への按分で使う完成品換算量の考え方は総合原価計算の完成品換算量と累加法・非累加法を設例で解説した記事で扱っています。
一括調整法は、当期の固定製造原価を、期末在庫と売上原価の変動費の比率などで一括して按分する方法です。製品が多い工場でも1回の計算で済むため、月次の速報には向いています。年度末は、在庫の固定費を製品ごとに積み上げるころがし計算法で確定させる運用を勧めます。按分の比率と製品ごとの実際の固定費率がずれると、在庫の評価額がずれ、その差がそのまま決算の利益に出るためです。
法人税法施行令第32条と国税庁通達5-3に沿う在庫評価と直接原価計算で申告しない理由
税務では、製品の取得価額に固定製造原価を含めることが前提です。法人税法施行令(昭和40年政令第97号)の第32条第1項第2号は、自社で製造した棚卸資産の取得価額を、その製造のために要した原材料費、労務費及び経費の額の合計としています。固定か変動かの区別はなく、工場の減価償却費や工場長の給料も含まれます。
算定した原価がこの額に満たないときの扱いは、法人税基本通達の第5章第3節「原価差額の調整」が定めています。5-3-1は、その差額のうち期末棚卸資産に対応する部分を在庫の評価額に加算するとしています。5-3-3は、差額が総製造費用のおおむね1%相当額以内で明細書を申告書に添付すれば調整しなくてよいとしますが、固定製造原価を丸ごと外す直接原価計算の差額がこの範囲に収まる工場はまずありません。5-3-5の簡便な調整方法も、注書きで直接原価計算制度を採用している法人には適用しないとされ、所轄税務署長などの承認を受けた場合だけが例外です。
1962年に企業会計審議会が公表した原価計算基準も、三〇「総合原価計算における直接原価計算」で、期中は固定費を製品に集計しない計算を認めつつ、会計年度末には固定費を期末の仕掛品・製品と売上品に配賦するよう定めています。制度会計と管理会計で守るルールが異なる理由は財務会計と管理会計の目的・対象・ルールの違いを解説した記事にまとめました。
直接原価計算の損益計算書を会計データから毎月出す、製造原価の固変区分と在庫の持ち方
月次の直接原価計算の損益計算書を表計算で組み替える会社は多いものの、固定費調整の在庫の計算は月をまたいで引き継ぐ必要があり、手作業では崩れやすい部分です。2つのデータを持たせると、組み替えは集計だけで済みます。
製造部門の勘定科目に変動と固定の区分を持たせる費目マスタと、準変動費の扱いの決め方
1つ目は費目ごとの固変区分です。製造原価の勘定科目と部門の組み合わせごとに「変動」「固定」のどちらかを持たせます。
| 勘定科目 | 部門 | 区分 |
|---|---|---|
| 原材料費・買入部品費 | 製造 | 変動 |
| 外注加工費 | 製造 | 変動 |
| 工場の給料・賞与 | 製造 | 固定 |
| 工場の減価償却費 | 製造 | 固定 |
| 電力料 | 製造 | 準変動費 |
迷うのは電力料のように基本料金と従量料金が混ざる準変動費です。請求書で基本料金と従量料金が分かれていれば2つの補助科目に分けて計上し、分かれていなければ過去12か月の生産量と金額から変動部分の比率を決めて期首に固定します。比率を月ごとに変えないのは、貢献利益の前月比が区分の変更で動いてしまうためです。費目ごとの判定の早見表は変動費の一覧と準変動費の分け方を解説した記事、工場の人件費を固定費として扱うかの判断は原価計算における人件費の扱い方と賃率の出し方を解説した記事で確かめられます。
在庫1個あたりの固定製造原価を記録しておき、固定費調整の行を自動で作る集計の設計
2つ目は在庫の固定費です。製品の在庫を受け入れる時点で、1個あたりの原価を「変動製造原価」と「固定製造原価」の2つの列に分けて記録します。設例の第2期なら、期末在庫200個には変動0.4万円と固定1.0万円が並んで残ります。
この2列があれば、月末に在庫の固定製造原価を合計するだけで、固定費調整の「期末在庫の固定費」が出ます。前月末の値はそのまま当月の「期首在庫の固定費」になるので、直接原価計算と全部原価計算の損益計算書を同じ仕訳データから同時に作れます。製品別の原価を積み上げる仕組みが既にある会社なら、原価の明細に固変の列を足す改修で届く範囲です。原価管理の仕組みが持つ機能の全体は原価管理システムの機能と原価計算との違いを解説した記事で整理しています。
直接原価計算の損益計算書を採用すべき会社と見送る会社、在庫と製品数で分ける判断基準
直接原価計算の損益計算書は、どの会社にも効くわけではありません。効き目は在庫の増減の大きさで決まります。
在庫の増減が大きい量産型の製造業は採用、受注生産や在庫を持たないサービス業は見送り
採用すべきなのは、見込みで量産して在庫を持ち、月ごとの生産量と販売量のずれが大きい製造業です。設例のように、決算書の利益が生産計画で動いてしまう会社ほど、販売の実力を示す数字が別に必要になります。季節で生産を前倒しする食品や部品のメーカーが典型です。
見送ってよいのは、受注してから作る個別受注生産の会社と、在庫を持たないサービス業です。在庫の増減がほとんどなければ、固定費調整の2行はほぼゼロで、2つの営業利益は同じ数字になります。この場合は直接原価計算の仕組みを入れる必要はなく、販管費を変動と固定に分けて貢献利益を出す管理用の損益計算書だけで判断材料はそろいます。
表計算で回せる規模と、原価管理システム開発で固変区分と固定費調整を自動化する条件
製品が数十種類までで、工程が1つか2つなら、会計ソフトの試算表を書き出して表計算で組み替える運用で十分です。月末の在庫数量に固定費単価を掛ける列を1本足せば、固定費調整も同じシートで計算できます。
開発が見合うのは、製品が数百種類を超えるか工程が3つ以上あり、ころがし計算法での在庫の固定費の算定に月10時間以上かかっている場合です。生産管理や在庫のデータが会計ソフトと別のシステムにあり、毎月手で突き合わせている会社も当てはまります。費目マスタと在庫の固変2列、固定費調整の帳票までをまとめて設計するなら、原価管理システム開発のように原価の明細から損益計算書まで一貫して扱える相談先を選ぶと、既存の生産管理データを生かしたまま進められます。
製品数も工程数も少ないのに、直接原価計算のためだけに新しいシステムを入れるのは過剰です。まず費目マスタを1枚作り、3か月分を表計算で回して、経営会議で貢献利益が実際に判断に使われるかを確かめてください。
よくある質問
直接原価計算の損益計算書について、よく挙がる質問に答えます。
直接原価計算の損益計算書は決算書として使えますか?
そのままでは使えません。決算書と法人税の申告は、固定製造原価を製品の原価に含める全部原価計算が前提で、法人税法施行令第32条は製造した棚卸資産の取得価額を原材料費・労務費・経費の合計としています。直接原価計算で月次を作っている会社も、年度末に固定費調整を行い、期末在庫に固定製造原価を加えた評価額と、全部原価計算の営業利益に戻してから決算書を作ります。社内向けの帳票として使い分けてください。
直接原価計算と全部原価計算で営業利益が同じになるのはどんなときですか?
期首と期末の在庫に含まれる固定製造原価が同じ額のときです。期首も期末も在庫がゼロなら、2つの営業利益は必ず一致します。設例の第1期がこの状態でした。生産量が販売量を上回って在庫が増えた期は全部原価計算の利益が大きく、在庫が減った期は小さくなります。在庫の数量が同じでも、生産量が変わって1個あたりの固定費が変われば差が出る点に注意してください。
直接原価計算のデメリットは何ですか?
手間の面では、費用を変動と固定に分ける作業が必要になり、電力料のような準変動費は分け方の決めごとが要ります。年度末には固定費調整も欠かさず行わなければなりません。判断の面では、固定費が当期の費用として一括で出るため、製品1個に固定費がいくら乗っているかが見えにくくなります。長期の価格を決めるときは、固定費まで含めた全部原価も別に確かめてください。
直接原価計算の損益計算書から損益分岐点を求めるにはどうしますか?
固定費の合計を限界利益率で割ります。限界利益率は貢献利益を売上高で割った率で、設例では1,550万円÷2,000万円で77.5%です。固定費1,500万円をこの率で割ると、損益分岐点の売上高は約1,935万円という計算結果です。直接原価計算の損益計算書は変動費と固定費が分かれているため、行を読むだけで式に入れる数字がそろいます。計算式の使い分けと複数商品の例は損益分岐点の5つの計算式と複数商品の計算例を解説した記事で扱っています。
販売費及び一般管理費は直接原価計算の損益計算書のどこに入りますか?
変動か固定かで2か所に分かれます。販売手数料や荷造運賃、販売数量に応じた運送費は変動販売費として、変動製造マージンの直後で差し引きます。営業担当者の給料や本社の家賃、広告宣伝費は固定販管費として、固定製造原価と並べて営業利益の手前で差し引く形です。全部原価計算の損益計算書では販管費が1つにまとまっているため、組み替えるときは勘定科目ごとに区分を決めておく必要があります。
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