新リース会計基準で事務所や社用車のリースを使用権資産とリース負債に計上しても、法人税ではオペレーティング・リースを賃貸借として扱い、支払うリース料のうち債務が確定した額を損金に算入します。根拠は令和7年度税制改正で新設された法人税法第53条です。国税庁は令和7年6月に改正通達の趣旨説明と、借手の申告調整を示した設例を公表しました。この記事では、国税庁の資料が何を定めたか、設例の数値に沿った別表四・別表五(一)の書き方、フリーレントや非リース部分の通達、会計と税務の二重管理を契約台帳でどう持つかを整理します。
まとめ:新リース会計基準でも法人税は賃貸借のまま、差は別表で毎期調整する
会計は「使用権資産の減価償却費+支払利息」、法人税は「支払賃借料」で費用を数えます。5年契約なら5年通算の費用は一致しますが、各期に計上する金額にはずれがあるのです。国税庁の設例では、月額1,000千円・5年のリースで初年度の会計上の費用が13,508千円、損金算入額が12,000千円となり、差額1,508千円を別表四で加算します。会計側で貸借対照表・損益計算書と財務指標がどう動くかは新リース会計基準の影響:財務諸表と財務指標の変化で数値に沿って解説しています。
国税庁の通達は、会計の処理をなるべく税務でも受け入れる方向で作られています。会計上のリース期間を税務上のリース期間とする扱い、非リース部分の区分をそのまま認める扱い、フリーレントの賃料を期間で均等に損金算入する扱いがその例です。ただしフリーレントには2つの除外条件があります。
実務の負担は、契約ごとに「税務上どちらの区分か」を持ち、会計の仕訳と税務の損金額を並べて管理する点に集中します。別表五(一)の留保残高は、リース負債から使用権資産の簿価を引いた額と一致するため、これを毎期の検算に使えます。
国税庁が公表した新リース会計基準関連の資料:通達・趣旨説明・申告調整例
「新リース会計基準 国税庁」で探される資料は、法人税関係では次の2系統です。どちらも国税庁サイトで公開されています。
令和7年6月30日の法人税基本通達改正と趣旨説明で扱われた通達の範囲
国税庁は令和7年6月30日付で法人税基本通達等を改正し、各通達の趣旨説明を公開しています。新リース会計基準に関係する通達は、収益の計上単位(2-1-1)、使用権資産の減価償却費(7-5-3)、会計リース期間(7-6の2-10の2)、資産の賃貸借の範囲(12の5-1-1・12の5-3-1)、リース取引の判定(12の5-1-3)、フリーレント(12の5-3-2)、非リース部分(12の5-3-3)など、借手と貸手の両方に及びます。
冒頭の「リース税制の改正に伴う見直し」は、改正を3点に絞って説明しています。オペレーティング・リースの損金算入(法53)、令和9年4月1日以後の契約に係るリース期間定額法で残価保証額を控除しないこと、リース譲渡の延払基準の特例の廃止です。2点目と3点目の内容と適用時期は新リース会計基準とは?2027年4月適用の変更点で表にまとめています。
借手の申告調整を示した「オペレーティング・リース取引に係る借手の申告調整について」
もう1つは、令和7年6月付の「オペレーティング・リース取引に係る借手の申告調整について」です。新基準を適用する法人について、会計の費用と法第53条の損金算入額に差が出たときの申告調整を、設例と別表の記載で示しています。
資料には「申告調整の一例であることから当該処理に限られるものではありません」と書かれています。様式の行の名前や調整の分け方は自社で決めてよい、という前提で読んでください。設例の中身は後の章で数値ごとに追います。
法人税法第53条の新設:会計でオンバランスしても税務は支払賃借料で損金算入
第53条は、新基準による会計処理の変化を税務に持ち込まないための別段の定めです。何が損金になり、いつから適用されるかを押さえます。
第53条第1項の「債務の確定した部分の金額」と適用開始の令和7年4月
第53条第1項は、オペレーティング・リース取引の契約をした事業年度以後、契約に基づき支払うこととされている金額のうち、その事業年度に債務が確定した部分の金額を損金に算入すると定めています。国税庁の説明では「すなわち、引き続き賃貸借取引として支払賃借料を損金の額に算入する」ことになります。
適用は令和7年4月1日以後に開始する事業年度です(12の5-3-2の趣旨説明)。新基準の強制適用は2027年4月1日以後開始する事業年度の期首から(企業会計基準第34号第58項)で、早期適用は2025年4月1日以後開始する事業年度から認められています。早期適用した会社でも、税務側の規定が先に整っている順序です。
法第64条の2のリース取引と第53条の賃貸借取引を分ける判定と12の5-1-1
第53条の対象は、資産の賃貸借のうち法第64条の2第3項のリース取引に当たらないものです。リース取引(中途解約不能かつフルペイアウト)は従来どおり売買として扱い、リース資産を取得したものとして減価償却します。つまり税務では、会計が廃止したファイナンス・リースとオペレーティング・リースの区分が引き続き残るのです。両者の線引きはリースと賃貸借の違いで条文から整理しています。
見落としやすいのが「資産の賃貸借」の範囲です。12の5-1-1の趣旨説明は、民法第601条の賃貸借だけでなく、新基準でリースと判定された契約に基づく行為も含むとし、例として電力供給契約を挙げています。会計でリースを識別した契約は、税務でもリース取引か賃貸借取引かの判定に回すことになります。識別の手順は新リース会計基準の判定フローを参照してください。
国税庁の設例で見る申告調整:月額1,000千円・5年のオペレーティング・リース
ここからは国税庁の設例の数値をそのまま追います。条件は、リース期間5年、月額リース料1,000千円(総額60,000千円・毎月末払い)、追加借入利子率年8%、定額法、決算日3月31日です。
会計処理の総額と法人税の訂正仕訳:X1期の使用権資産49,318千円
60,000千円を年8%で割り引いた49,318千円が、リース開始日の使用権資産とリース負債です。X1期の会計処理は、支払12,000千円のうちリース負債の返済8,356千円・支払利息3,644千円、減価償却費9,864千円になります。会計上の費用は合計13,508千円です。
法人税では、この会計処理を賃貸借の処理に戻す訂正仕訳を考えます。使用権資産とリース負債の計上を取り消し、支払利息3,644千円と減価償却費9,864千円を否認し、賃借料12,000千円を計上する形です。損金になるのは賃借料の12,000千円だけです。
別表四の加算減算と別表五(一)の留保:X1期は差引1,508千円の加算
設例の別表四は、当期欠損の額△13,508千円から始まり、加算に「支払利息否認」3,644千円と「減価償却費否認」9,864千円、減算に「賃貸借取引に係る費用の損金算入額」12,000千円を置きます。仮計は△12,000千円で、損金算入額と一致します。いずれも留保です。
別表五(一)には、リース負債・使用権資産・減価償却累計額の3行を立てます。X1期末は、リース負債40,962千円、使用権資産△49,318千円、減価償却累計額9,864千円で、差引合計額は1,508千円です。資料は、別表五(一)の「④」欄で期末の貸借対照表に計上された科目が調整される、と注記しています。リース負債の返済と利息の分け方はリース債務とは?リース負債との違いと仕訳で確認できます。
X2期からX5期の推移:一時的な差は最終期に解消し5年通算で一致
設例が示すのはX1期・X2期・X5期の3期です。
| 期 | 支払利息否認 | 減価償却費否認 | 損金算入額 | 期末の留保残高 |
|---|---|---|---|---|
| X1期 | 3,644千円 | 9,864千円 | 12,000千円 | 1,508千円 |
| X2期 | 2,950千円 | 9,864千円 | 12,000千円 | 2,322千円 |
| X5期 | 504千円 | 9,864千円 | 12,000千円 | 0千円 |
利息は利息法で毎期減るため、加算額は年々小さくなります。X1期とX2期は加算が減算を上回るため、留保残高が積み上がる形です。X3期・X4期は資料で省略されていますが、X5期の期首残高が1,632千円なので、2期で690千円取り崩されたと読み取れます。X5期は加算10,368千円に対し減算12,000千円で、残高1,632千円を取り崩した結果が0です。5年間の会計上の費用は利息10,682千円と償却49,318千円の計60,000千円で、損金算入額の合計と一致します。
通達が会計処理を受け入れた論点:フリーレント・非リース部分・リース期間
趣旨説明を読むと、国税庁は会計の判断を税務でも使える場面を広く用意しています。差が残る場面と合わせて確認します。
フリーレントとステップレントの均等計上を認める12の5-3-2と2つの除外条件
従来、賃料の支払がない期間は債務が成立しないため損金に算入されませんでした。新基準が無償期間も含めて費用を計上すると明確にしたことを受け、12の5-3-2は、損金経理を条件に、契約期間の支払総額を期間で均等に割った額を各事業年度の損金にできるとしました。
次のいずれかに当たる契約は、この扱いを使えません。
- 無償等の定めがない場合の支払額と契約上の支払額の差が、契約上の支払額のおおむね2割を超える
- 無償等賃借期間が4月を超え、いずれかの事業年度で賃借期間のおおむね5割超が無償等になると見込まれる
判定は契約時点の見込みで行い、後の中途解約で結果的に5割を超えても遡って否定されない、と趣旨説明は述べています。条件に当たる契約は、支払がない期間の損金算入額が0になり、会計の均等計上との差を別表で調整します。
リースを構成しない部分の区分を税務も受け入れる12の5-3-3の2つの方法
社用車のリースにメンテナンス・サービスが含まれるような契約では、会計上、リース部分と非リース部分を分けるのが原則で、科目ごと等に分けない方法も選べます。12の5-3-3の趣旨説明は、どちらの方法でも会計の区分を税務で受け入れるとしました。
理由は、サービス部分も法第22条第3項により債務の確定で損金になり、損金算入の結論が変わらないためと説明されています。台帳に非リース部分を別の列で持っている会社は、その区分を税務用に作り直す必要はありません。
ファイナンス・リース側の扱い:会計リース期間と使用権資産の償却費の流用
税務上のリース取引に当たる契約は、会計の数値をそのまま使える範囲が広くなっています。7-6の2-10の2は、延長・解約オプションを織り込んだ会計上のリース期間を、税務上のリース期間とすることを認めました。7-5-3は、使用権資産の減価償却費として経理した金額を、リース資産の「償却費として損金経理をした金額」に含めるとしています。
7-6の2-9は、リース資産の取得価額を原則リース料の合計額としつつ、利息相当額を合理的に区分できれば控除した額にできるとしました。この場合、利息相当額は利息法または定額法で損金に算入します。会計と同じ取得価額・期間・償却方法をそろえれば、こちらの区分では大きな申告調整は生じにくい構造です。
会計と税務の二重管理を契約台帳で持つ設計:税務区分・列・検算式
申告調整の計算は単純でも、契約が多いと「どの契約がどちらの区分か」の管理で崩れます。台帳で持つ項目と検算の方法を決めます。
契約ごとに持つ税務区分:法第64条の2のリース取引か第53条の賃貸借取引か
会計上はすべて使用権資産になるため、会計の台帳だけでは税務の扱いが決まりません。契約ごとに次の列を足します。
- 税務区分(法第64条の2のリース取引/法第53条の賃貸借取引/短期・少額で会計も費用処理)
- 契約上の支払予定額と支払日(第53条の損金算入額の元データ)
- フリーレント等の有無と、12の5-3-2の除外条件の判定結果
- 会計の支払利息・減価償却費と、別表四の加算額・減算額
税務区分は契約開始時に決め、条件変更があった契約だけを見直します。第53条の契約は支払予定額が損金算入額になるので、支払スケジュールを台帳に持てば減算額は自動で決まります。
別表五(一)の留保残高はリース負債から使用権資産の簿価を引いた額と一致する
第53条の契約では、税務上の資産・負債はゼロです。したがって別表五(一)の留保残高は「リース負債-(使用権資産-減価償却累計額)」と一致します。設例のX1期末なら、40,962千円-(49,318千円-9,864千円)=1,508千円で、資料の差引合計額と同じです。
この式を契約ごと・期末ごとに計算し、別表五(一)の残高と突き合わせれば、加算減算の漏れを決算時に検出できます。利息の再計算や償却期間の変更があった契約で、別表四の金額だけ直して残高を直し忘れる事故を防ぐための検算です。累計額の表示と台帳の突合は減価償却累計額とはでも扱っています。
台帳の二重管理を作り込まない場面:オペレーティング・リースが数件の会社
税務区分と検算を仕組みに組み込む必要がある会社は限られます。第53条の対象が本社の賃貸借など数件で、フリーレントも無いなら、表計算で契約ごとに加算・減算を並べれば十分です。この規模で専用の仕組みを作るのは過剰です。
反対に、拠点の賃貸借や社用車が数百件ある、フリーレント付きの契約が多い、契約変更が毎月発生する、のいずれかに当たる会社は、手作業では別表の金額と残高がずれやすくなります。契約管理で会計の仕訳と税務の損金額を同時に計算し、別表四・別表五(一)の集計まで出す構成が適した形です。一創の会計・経理システム開発では、既存の契約管理や会計システムに合わせて、使用権資産の計算から申告調整の集計までをつなぐ開発の相談を受けています。
新リース会計基準と国税庁の税務上の取扱い・申告調整についてよくある質問
新リース会計基準の税務について、国税庁の資料を探す方から出やすい質問に答えます。
国税庁は新リース会計基準のQ&Aを公表していますか?
2026年10月24日時点で国税庁サイトから確認できた法人税関係の資料は、令和7年6月30日付の法人税基本通達等の改正と各通達の趣旨説明、そして令和7年6月の「オペレーティング・リース取引に係る借手の申告調整について」です。趣旨説明は通達ごとに「なぜその扱いにしたか」を解説しており、実務上はQ&Aに近い使い方ができます。申告調整の具体的な書き方は後者の設例を見るのが早道です。
新リース会計基準を適用しない中小企業も申告調整が必要ですか?
新基準を適用せず、従来どおり賃貸借処理や売買処理を続ける会社では、会計と第53条の損金算入額に差が出ないため、この記事で扱った申告調整は原則として生じません。ただし、令和9年4月1日以後に締結する所有権移転外リース取引の残価保証額の扱いは、会計基準の適用と関係なく変わります。自社が新基準の対象かどうかは新リース会計基準の対象企業の判定手順で確認してください。
新リース会計基準で消費税の仕入税額控除のタイミングは変わりますか?
会計でオペレーティング・リースを資産計上しても、消費税の課税時期の判定は会計ではなく法人税・所得税の取扱いを起点にします。そのため、オペレーティング・リースの控除時期は、会計で資産計上したかどうかでは変わりません。一括控除と分割控除の判定や、令和7年度改正で廃止された特例はリースの消費税はいつ課税されるかで国税庁の通達に沿って整理しています。
短期リースや少額リースとして費用処理した契約も申告調整が必要ですか?
短期・少額の例外で使用権資産を計上していない契約は、会計でもリース料を費用にしているため、第53条の損金算入額との差は通常小さくなります。差が出るのは、会計で定額法により配分した費用と、契約上の支払額が期ごとに一致しない契約です。フリーレントやステップレントがある場合は、12の5-3-2の除外条件に当たるかを確認してください。例外の判定条件は新リース会計基準の300万円基準で整理しています。
新リース会計基準を早期適用した場合、申告調整はいつから必要ですか?
早期適用は2025年4月1日以後開始する事業年度の期首から認められ、第53条は令和7年4月1日以後開始する事業年度から適用されます。両者の起点は同じ日なので、早期適用した初年度から第53条に基づく申告調整が必要です。3月決算の会社なら、2026年3月期から別表四・別表五(一)にリース関係の行が立つことになります。
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