新リース会計基準では、クラウドサービスの利用契約もリースを含むかの判定対象になります。ただし、共有型のSaaSやIaaSの大半はリースを含まず、論点になるのは専有ホストや顧客拠点に置く専用サーバーのように、特定の物理機器を自社が使い方まで決めて使う契約です。この記事では、ASBJの設例5を軸にSaaS・PaaS・IaaS・専有ホスト・ハウジングを形態別に判定し、リースを含む場合の従量課金や短期リースの扱い、情報システム部門と経理で進める契約の棚卸し手順までを解説します。
まとめ:新リース会計基準でクラウドがリースになるのは専有と指図がそろう契約
クラウドサービスがリースを含むのは、特定の物理サーバーが自社に割り当てられ、そのサーバーをどう使うかを自社が決められる契約です。SaaSやPaaS、共有テナンシーのIaaSは、事業者が基盤の入替えや構成を決めるため、使用を指図する権利が顧客に移らず、リースを含みません。
リースを含む可能性があるのは、専有ホスト、顧客拠点に設置する専用サーバー、ラックが固定されたハウジングなどです。該当しても、使用量に応じた料金は借手のリース料に入らず、12か月以内で終わる契約は短期リースとして費用処理を選べます。全契約を同じ深さで判定せず、請求データから専有・専用の品目を先に拾うのが効率的です。
クラウドサービスに新リース会計基準を当てはめる前提:判定基準と適用範囲
形態別の判定に入る前に、判定の拠り所になる条文と、ソフトウェアに関する範囲の例外を確認します。
判定の拠り所は第26項と適用指針第5項:特定された資産と支配の移転
企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」の第26項は、特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約を、リースを含む契約としています。2024年に公表された基準は2027年4月1日以後開始する事業年度の期首から適用され、2025年4月1日以後開始する事業年度からの早期適用も認められています(第58項)。
支配が移るかは、企業会計基準適用指針第33号の第5項にある2要件で判断します。使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを得る権利と、使用を指図する権利です。クラウドでは、後者の指図権でほぼ結論が決まります。判定フロー全体の分岐は新リース会計基準の判定フローで整理しているので、この記事ではクラウド契約に特有の当てはめに絞ります。
ソフトウェア部分は第4項で適用しない選択も可能:効く範囲と効かない範囲
会計基準第4項は、無形固定資産のリースについて新基準を適用しないことができると定めています。結論の背景BC18によれば、借手によるソフトウェアのリースを従来の企業会計基準第13号で処理している実務を変えずに済むようにし、IFRS第16号とも整合させるための選択肢です。
注意したいのは、この選択が及ぶのはソフトウェアなど無形の部分に限られる点です。サーバーやストレージ、ネットワーク機器といった有形の資産には効きません。IaaSの専有ホストやハウジングの判定は、第4項では外せないと考えてください。
IFRS解釈指針委員会の2019年決定:SaaSのアクセス権はサービス契約
国際基準の議論も判断材料になります。IFRS解釈指針委員会の2019年3月のアジェンダ決定は、事業者のクラウド基盤で動くアプリケーションに将来アクセスする権利だけを得るSaaS契約を、ソフトウェアのリースでも無形資産でもなく、サービス契約と結論づけました。
理由は、ソフトウェアをいつどう更新・再構成するか、どのハードウェアで動かすかを事業者が決めるため、顧客には使用方法を決める権利がないというものです。前払いした利用料は、将来のサービスを受ける権利として資産に計上します。日本基準の適用指針もIFRS第16号のリースの定義に沿っているため、SaaSの判定ではこの整理が参考になります。
SaaS・PaaS・IaaSの形態別リース判定:共有基盤がリースを含まない根拠
ここからは、契約の形態ごとに判定を当てはめます。いずれも設例からの類推なので、最終的な判断は個々の契約条項と監査人との協議で決めてください。
SaaSとPaaSは設例5-1の構造:サービス水準を決めるだけで指図権なし
ASBJの適用指針の設例のうち設例5-1は、ネットワーク・サービスの契約で、サプライヤーが顧客の敷地にサーバーを設置する例です。データの通信速度やサーバーの入替えはサプライヤーが決め、顧客が決められるのは契約時のサービス水準だけでした。ASBJは、顧客に指図権がないためリースを含まないと判断しています。
この設例では、資産が特定されているかの判断すら行っていません。指図権がなければ、その時点で結論が出るからです。Microsoft 365やSalesforceのようなSaaS、データベースやアプリケーション実行環境を提供するPaaSも、顧客が選ぶのはプランや容量で、基盤の構成は事業者が決めます。構造は設例5-1と同じで、リースを含まない側に入ります。
共有テナンシーのIaaSは稼働能力の一部分:第7項で特定されない資産
仮想サーバーを借りるIaaSでは、指図権の前に資産の特定で外れる場合が多くなります。適用指針第7項は、顧客が使える資産が物理的に別個でなく稼働能力の一部分であれば、原則として特定された資産に当たらないとしています。
共有テナンシーの仮想サーバーは、1台の物理ホストを複数の顧客で分け合い、停止と起動のたびに別のホストへ移ることもあります。顧客が使うのは物理ホストの稼働能力の一部分で、どのホストで動くかも事業者が決めるため、特定された資産とはいえません。OSやミドルウェアの設定を自社で決められても、その対象は仮想環境であり、物理サーバーの使用方法を指図しているわけではない点に注意してください。
クラウド契約の形態別リース判定早見表:SaaSからハウジングまで7類型
| 契約の形態 | 特定された資産 | 指図権 | 判定の傾向 |
|---|---|---|---|
| SaaS(業務アプリ・グループウェア) | 判断不要 | 事業者が更新と基盤を決める | 含まない |
| PaaS(DB・実行環境) | 判断不要 | 事業者が構成を決める | 含まない |
| IaaS(共有テナンシー) | 物理ホストの稼働能力の一部分 | 仮想環境の設定のみ | 含まない傾向 |
| IaaS(ハードウェア専有インスタンス) | 専用ハードウェアだが配置の制御なし | 個別に確認 | 判断が割れる |
| IaaS(専有ホスト) | 物理サーバーが割り当てられ配置を制御 | 自社が使い方を決める | 含む可能性が高い |
| 顧客拠点に設置する専用サーバー | 機器が契約で特定 | 保管データと用途を自社が決める | 含む可能性が高い |
| ハウジング(ラック固定) | ラック番号が固定され移設なし | 収容機器を自社が決める | 含む可能性が高い |
上の3行は、契約条項を1本ずつ読まなくても結論が同じになる類型です。判定の手間をかけるべきは下の4行で、そのうちハードウェア専有インスタンスは、専用ハードウェアでも配置を顧客が制御できないため、第7項と第6項の両方から検討することになります。
リースを含む可能性が高いクラウド契約:専有ホスト・専用サーバー・ハウジング
早見表の下側に入る契約は、どの条項が判定を左右するかを具体的に確認します。
専有ホストと専有インスタンスの差:物理サーバーの割当と配置制御
AWSを例に取ると、Amazon EC2 専有ホストは完全に顧客専用の物理サーバーで、ホスト単位で請求され、インスタンスをどの物理サーバーに置くかを可視化して制御できます。同じページの比較表では、ハードウェア専有インスタンスは単一アカウント専用のハードウェアで動くものの、配置の可視化や制御はなく、インスタンス単位の請求とされています。
会計の見方で整理すると、専有ホストは物理サーバーが識別でき、そこで何を動かすかを顧客が決めるため、設例5-2に近い構造です。ホスト障害時に事業者が別のホストへ移す仕組みがあっても、修理や保守のための入替えだけなら代替権には当たらない、というのが設例2-2の考え方です。専有インスタンスは、停止と起動で別のホストに移りうるので、事業者に実質的な入替えの能力があると判断できる余地があります。Azureの専用ホストやGoogle Cloudの単一テナントノードも、物理サーバーの割当と配置の制御権という同じ観点で条項を確かめます。
顧客拠点の専用サーバーとハウジング:設例5-2に近い契約の見分け方
設例5-2は、サプライヤーが顧客の指示で顧客の敷地にサーバーを設置し、3年間、顧客がそのサーバーをどう使い、どのデータを保管するかを決める例です。ASBJは、資産が特定され支配も移るためリースを含むと判断しました。機器保守付きのオンプレミス型マネージドサーバーや、閉域で提供される専用サーバーの多くは、この構造に当てはまります。
ハウジングは、ラック番号が契約で固定され、事業者の都合で移設できず、ラックに何を収容するかを自社が決める場合に、ラックという区画の使用がリースを含む方向に傾きます。電力容量や床面積だけを約束し、ラックの位置を事業者が変えられる契約は、稼働能力の一部分として第7項で判断します。区画の判定の考え方は判定フローの記事と共通です。サーバー本体を自社で購入している場合、リースの判定対象はラック区画の使用だけになります。
リースを含むクラウド契約の計上額:従量課金・短期リース・保守部分の扱い
判定でリースを含むとなった契約でも、利用料の全額がリース負債になるわけではありません。クラウド契約で差が出やすい3つの論点を確認します。
リース料に入るのは固定料金だけ:従量課金は第19項の算定範囲外
会計基準第19項は、借手のリース料を、固定リース料、指数またはレートに応じて決まる変動リース料、残価保証の支払見込額などで構成するとしています。データ転送量やCPU時間のように使用量で増減する料金は、指数やレートに連動する変動リース料ではないため、リース負債の計算に入れません。発生した期の費用として処理します。
専有ホストの契約でも、ホスト単位の固定料金はリース料、転送量の課金は費用、という請求内訳に応じた区分です。月額の請求書をそのまま負債計算に使うと過大になるため、固定部分を抜き出す手順を決めておく必要があります。割引率の決め方は新リース会計基準の割引率で解説しています。
月単位で解約できる契約は短期リースの対象:12か月以内の簡便法
借手のリース期間は、解約不能期間に、行使が合理的に確実な延長オプションの期間などを加えて決めます(会計基準第15項)。いつでも解約できる月額契約で、継続の見込みも合理的に確実とまではいえないなら、リース期間は短くなります。
適用指針第4項(2)は、リース開始日にリース期間が12か月以内で購入オプションを含まないリースを短期リースとし、第20項で使用権資産とリース負債を計上せずに定額で費用処理する方法を認めています。一方、1年や3年の予約購入で割引を受ける専有ホストは、その期間が解約不能期間になりやすく、短期リースには入りません。300万円以下などの少額リースの閾値は新リース会計基準の300万円基準にまとめています。
運用保守やOSライセンス料の区分:第28項と第29項の処理の選択
専用サーバーの契約には、機器の使用料のほかに監視、障害対応、OSやミドルウェアのライセンス料が含まれることがよくあります。会計基準第28項は、リースを構成する部分と構成しない部分を原則として分けて処理するとしています。監視や運用代行は役務なので、リースを構成しない部分です。
借手は第29項により、性質と用途が似た原資産のグループごとに、分けずにまとめてリースとして処理することも選べます。ただし分けない場合は保守料もリース負債に入り、負債額が膨らみます。運用代行の比重が大きいマネージド契約は分ける、料金の大半が機器の使用料である専有ホストはまとめる、という使い分けが現実的です。
情報システム部門と経理で進めるクラウド契約の棚卸し:請求データから判定まで
クラウド契約の判定で時間がかかるのは、契約の洗い出しです。部門ごとにクレジットカードで契約したSaaSまで含めると、経理が把握していない契約が出てきます。
判定対象を絞る順番:請求書の品目から専有・専用・ラックを拾う
適用指針の結論の背景BC10は、リースが含まれていないことが明らかな場合にまで識別の判断を行う必要はないとしています。クラウドではこの考え方が強く効きます。
- 支払先の一覧と勘定科目の明細から、通信費・支払手数料・クラウド利用料・賃借料に計上している契約を抜き出す
- 品目名に「専有」「Dedicated」「専用サーバー」「ハウジング」「ラック」「オンプレミス設置」を含む契約を判定対象に残す
- 残りのSaaS・PaaS・共有テナンシーのIaaSは、早見表の類型と外した理由を1行ずつ記録して対象から外す
- 対象に残った契約だけ、契約書と利用規約を読んで判定し、結果を台帳に残す
共有テナンシーのクラウドを1契約ずつ判定シートにかけるのはやめるべきです。結論が変わらない作業に工数を使うより、専有の契約を漏らさないほうが監査での説明に効きます。
契約書と利用規約で確かめる条項:入替え権・配置制御・設置場所
判定対象に残った契約では、次の条項を探して判定の根拠として台帳に書き写します。
- 事業者が機器を入れ替えられる条件(保守・障害時だけか、事業者の都合でいつでもか)
- 物理サーバーやラックの識別子が契約や管理画面で示されるか、配置を顧客が制御できるか
- 機器の設置場所が顧客の拠点か、事業者のデータセンターか
- 最低利用期間、中途解約の違約金、自動更新と予約購入の期間
- 料金の内訳(機器の固定料金・従量課金・運用代行・ライセンス料)
利用規約は事業者側の改定で変わるため、判定に使った版の日付も残しておきます。契約変更がない限り判定は見直しませんが、プランを専有型に切り替えたときは契約条件の変更にあたるので、その時点で判定し直します。
表計算で足りるかシステム化するか:専有契約の件数と増え方で判断
棚卸しの結果、リースを含む可能性があるクラウド契約が数件で、増減も年に数回なら、表計算の台帳に判定根拠と固定料金を記録すれば十分です。この規模でクラウド契約の管理専用の仕組みを入れるのは過剰です。
一方、拠点やグループ会社ごとにクラウドを契約していて請求データの形式がばらばら、専有ホストを部門ごとに追加している、といった会社は、請求データの取り込み、固定料金と従量課金の切り分け、使用権資産とリース負債の計算までを人手で回すと漏れが出ます。部門ごとに契約が散らばりやすいSaaSの種類と国内ベンダーは、バックオフィスSaaSとはの一覧を洗い出しの手がかりにしてください。一創の会計・経理システム開発では、既存の契約管理や会計システムに合わせて、請求データから判定記録、仕訳までをつなぐ開発の相談を受けています。そもそも自社が新基準の対象かは新リース会計基準の対象企業の判定手順で先に確認してください。
新リース会計基準とクラウドサービスのリース判定についてよくある質問
クラウドサービスの利用契約とリース会計について、検索で多い質問に答えます。
Microsoft 365やGoogle Workspaceの利用料はリースになりますか?
リースを含まない側に入ると考えられます。どちらも事業者がソフトウェアの更新や基盤の構成を決め、顧客が選べるのはプランとユーザー数です。ASBJの設例5-1と同じく、顧客に使用を指図する権利がありません。IFRS解釈指針委員会も2019年に、こうしたSaaSのアクセス権をサービス契約と整理しています。利用料は従来どおり期間に応じて費用処理し、年額を前払いした場合は前払費用として扱います。
AWSのリザーブドインスタンスやSavings Plansはリースに該当しますか?
共有テナンシーの仮想サーバーに対する予約購入や利用額のコミットメントは、料金の割引条件であり、特定の物理サーバーを使う権利ではありません。対象のインスタンスが共有テナンシーなら、リースを含まない側の判断になります。一方、専有ホストの予約購入は、割り当てられた物理サーバーの使用に対する1年または3年の約束なので、ホスト自体がリースを含むと判定した場合、予約期間がリース期間の判断材料になります。
SaaSの初期設定費用やカスタマイズ費用はリースの対象ですか?
リースの対象ではありません。SaaS自体がリースを含まない以上、その初期設定費用も新リース会計基準では扱いません。資産に計上するか費用にするかは、ソフトウェアや前払費用の会計処理の考え方で判断します。IFRSでは2021年に設定・カスタマイズ費用についてのアジェンダ決定が出ていますが、日本基準での扱いは会社の会計方針と監査人との協議で決めてください。
クラウド上で動かす自社開発システムの開発費はリース会計の対象ですか?
対象ではありません。開発費は、自社利用のソフトウェアとして資産計上するか費用処理するかを、ソフトウェアの会計処理のルールで判断します。リース会計の判定対象になるのは、そのシステムを動かす基盤の利用契約のほうです。共有テナンシーのIaaSで動かしているならリースを含まず、専有ホストや専用サーバーで動かしているなら、基盤の契約を個別に判定します。
中小企業もクラウド契約のリース判定が必要ですか?
新リース会計基準の強制適用の対象は、主に上場企業とその子会社、会社法上の大会社などです。それ以外の中小企業は「中小企業の会計に関する指針」などに従う選択ができ、クラウド契約を新基準で判定し直す必要は生じません。ただし上場を目指す会社や、親会社が新基準を適用する子会社は、連結の都合で判定を求められることがあります。対象の範囲は対象企業の記事で確認してください。
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