新リース会計基準(企業会計基準第34号)を強制的に適用するのは、金融商品取引法の監査を受ける上場会社等と、会社法の大会社をはじめ会計監査人を置く会社です。中小企業は中小会計指針や中小会計要領に沿った従来の処理を続けられます。ただし上場会社の子会社や上場準備中の会社は、単体で対象外でも新基準ベースの数値の提出が必要です。この記事では、資本金5億円・負債200億円の判定から、子会社・IPO準備・任意監査の扱い、中小企業が任意適用を選ぶ条件までを、条文と公表資料にもとづいて整理します。
まとめ:新リース会計基準の対象企業と中小企業が先に確かめる判定順
自社が対象かどうかは、次の順で確かめると迷いません。1つ目は上場会社か有価証券報告書の提出会社か、2つ目は会社法の大会社(資本金5億円以上または負債合計200億円以上)か、3つ目は任意で会計監査人を置いているかです。どれかに当たれば、2027年4月1日以後に開始する事業年度の期首から新基準で決算を組みます。
3つとも当たらない会社は、単体の決算は従来の処理で構いません。残る確認は2点で、親会社が上場会社などで連結財務諸表に取り込まれるか、数年以内に上場を予定しているかです。この2点に当たる会社は、単体の処理とは別に新基準ベースの数値を作る準備が要ります。どちらにも当たらない中小企業が、手間をかけて任意適用する理由はほぼありません。
新リース会計基準の対象企業を決める2本の法律:金融商品取引法と会社法
企業会計基準第34号そのものには「どの会社に適用するか」という会社の範囲の定めがありません。企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」の第3項が決めているのは対象となる取引の範囲で、会社の範囲は、公認会計士の監査を求める金融商品取引法と会社法の側で決まります。
金融商品取引法の監査証明を受ける上場会社と有価証券報告書の提出会社
1本目は金融商品取引法です。金融商品取引法第193条の2は、金融商品取引所に上場されている有価証券の発行会社その他政令で定める者が提出する財務書類に、公認会計士または監査法人の監査証明を受けるよう定めています。
監査を受ける財務諸表は、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準で作る必要があり、その基準の1つが企業会計基準第34号です。上場会社に加え、上場していなくても有価証券報告書を出している会社もここに入ります。連結財務諸表だけでなく個別財務諸表にも同じ基準が及ぶ点は、後の子会社の章で効いてきます。
会社法の大会社:資本金5億円以上か負債200億円以上の株式会社
2本目は会社法です。会社法第2条第6号は、最終事業年度の貸借対照表で資本金が5億円以上、または負債の部の合計額が200億円以上の株式会社を「大会社」と定義しています。条件はどちらか一方で足ります。
同法第328条は、大会社に会計監査人の設置を義務づけています。公開会社でない大会社も第2項で会計監査人が必要です。会計監査人の監査を受ける計算書類は企業会計の基準に従って作るため、非上場のオーナー企業でも大会社なら新基準の対象企業になります。
適用開始は2027年4月1日以後開始の事業年度期首・2025年4月から早期適用可
第34号の第58項は、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用し、2025年4月1日以後開始する年度の期首からの早期適用も認めると定めています。3月決算なら2027年4月開始の年度、12月決算なら2028年1月開始の年度が最初の適用年度です。
なお、ASBJは2026年10月16日に第34号を改正しました。改正の中身は、同月の金融商品会計基準の改正に合わせた貸倒引当金の取扱いで(結論の背景BC12-2)、適用時期は改正後の金融商品会計基準と同じとされています(第58-2項)。借手のオンバランス化の時期と対象企業の線引きは、この改正で動いていません。
単体は対象外でも新基準の数値が要る会社:子会社・IPO準備・任意監査
判定で漏れやすいのは、自社の単体決算は対象外なのに、外部から新基準の数値を求められる会社です。典型は次の4種類です。
上場会社の連結子会社は連結パッケージで新基準ベースの数値を報告
親会社が上場会社なら、子会社の数値は親の連結財務諸表に取り込まれます。連結では、同じ環境で行われた同じ性質の取引について、親会社と子会社の会計方針を原則として揃える決まりです。そのため子会社が単体を従来の賃貸借処理で締めていても、連結パッケージには使用権資産とリース負債の数値を載せる必要があります。
実務では、子会社が単体の決算とは別に新基準の計算表を作るか、親会社の連結担当が契約データを集めて連結修正で計算するかのどちらかになります。どちらを採るかは親会社の連結方針で決まるため、子会社の経理は自社だけで判断せず、親会社に方針を早めに確かめてください。連結システムで修正を吸収する設計は連結会計システム比較:ERPの連結機能と主要5製品の選び方で整理しています。
上場準備会社は監査を受ける事業年度から逆算して新基準に切り替える
上場申請の書類には、過去の事業年度の財務諸表を載せ、監査法人の監査を受けます。この監査は金融商品取引法の監査に準じて行われるため、上場予定の会社は、監査対象になる最初の事業年度から新基準で決算を組む必要があります。
必要な期数は市場区分と申請時期で変わるので、主幹事証券と監査法人に確認したうえで、切り替える事業年度を決めます。期首時点でリース契約の一覧と割引率の根拠が揃っていないと、監査法人のレビューで差し戻されます。上場の2〜3年前には契約の棚卸しに着手する計画が現実的です。
会計監査人を定款で任意に置く会社は中小会計要領の想定から外れる
大会社でなくても、定款で会計監査人を置いている会社があります。金融機関や取引先の要請で任意監査を受けている会社が、ここでいう該当例です。中小企業庁の中小会計要領は、利用を想定する会社から「会社法上の会計監査人設置会社」を除いています。
会計監査人を置いた時点で、監査は企業会計基準に照らして行われます。任意設置でも新基準の対象企業と同じ扱いになると考えて準備してください。監査契約だけ結んでいて会社法上の会計監査人を置いていない場合は事情が異なるので、監査契約の形を確かめます。
IFRS任意適用企業の個別財務諸表とIFRS第16号の計算結果の関係
連結財務諸表にIFRSを使う上場会社は、連結ではすでにIFRS第16号でリースをオンバランスしています。一方、個別財務諸表は日本基準で作るため、2027年4月以後は第34号が適用されます。
ASBJは結論の背景BC13で、IFRS任意適用企業がIFRS第16号の定めを個別財務諸表に用いても、基本的に修正が不要となる基準を目指したと説明しています。IFRS任意適用企業は、連結用の計算結果を個別に流用できるかを、短期リースや少額リースの扱いなど相違点に絞って点検するのが効率的です。2つの基準の違いは新リース会計基準とは?2027年4月適用の変更点とIFRS第16号との違いで詳しく比べています。
中小企業がリース会計で選べる会計処理:中小会計指針と中小会計要領
中小企業は新リース会計基準の対象外とよく説明されますが、根拠は「中小企業向けの会計ルールが別にあり、そちらは改正されていない」という点にあります。どの資料にどう書かれているかを押さえておくと、税理士や金融機関との話が早く進みます。
国税庁の改正概要が明記する監査対象法人以外の中小企業の会計処理の扱い
国税庁「令和7年度 法人税関係法令の改正の概要」は、会計基準の見直しの概要に注記を付け、監査対象法人以外の法人(中小企業など)は、引き続き中小企業の会計に関する指針または中小企業の会計に関する基本要領に則った会計処理も可能と明記しています。
ここでの線引きは「監査対象法人かどうか」です。売上高や従業員数では決まりません。売上が大きくても監査を受けていない会社は従来の処理を続けられますし、売上が小さくても任意監査を受けていれば新基準の側に入ります。
中小会計要領10項:賃貸借処理と売買処理の選択と未経過リース料の注記
中小会計要領の本文は、各論の「10.リース取引」で、借手は賃貸借取引または売買取引に係る方法に準じて会計処理を行うと定めています。支払リース料を費用にする処理と、リース資産・リース債務を計上する処理のどちらも選べる書き方です。
賃貸借処理を選んだ場合、将来支払う金額が貸借対照表に載らないため、金額的に重要なものは期末の未経過リース料を注記することが望ましいとしています。新基準に移らない中小企業でも、この注記を整えておくと、融資審査で負債の実態を問われたときの説明がしやすい状態です。区分ごとの仕訳の違いはファイナンスリースとオペレーティングリースの違いで確認できます。
2025年9月の中小会計指針修正はリース会計の中身を変えていない
中小会計指針は2025年9月29日に見直し版が公表されました。日本商工会議所など関係4団体の公表文によると、この見直しは項番号の修正や関係法令の更新等に伴う所要の変更のみで、改正ではなく修正として公表されています。追加された主な項目は、グローバル・ミニマム課税に関する注記です。
リース会計の扱いを第34号に合わせる見直しは、2026年10月時点で中小会計指針・中小会計要領のどちらにも入っていません。今後見直される可能性はあるため、決算前に両団体と中小企業庁の公表を確認する運用にしておくと安全です。
自社が新リース会計基準の対象企業か順番に判定する5つの質問と結論
ここまでの条件を、経理担当者が1回で判定できる形にまとめます。上から順に答え、最初に「はい」になった行の結論を採ります。
判定表:上場・大会社・任意監査・親会社の連結・上場予定の5問
| 質問 | 「はい」の場合の結論 | 根拠 |
|---|---|---|
| 上場会社、または有価証券報告書の提出会社か | 対象企業(連結・個別とも) | 金融商品取引法第193条の2 |
| 資本金5億円以上、または負債合計200億円以上か | 対象企業(大会社) | 会社法第2条第6号・第328条 |
| 定款で会計監査人を置いているか | 対象企業と同じ扱い | 中小会計要領 総論2 |
| 親会社の連結財務諸表に取り込まれるか | 単体は従来処理可・連結用に新基準の数値が要る | 親会社の連結方針 |
| 数年以内に上場を予定しているか | 監査対象期から新基準に切替 | 上場申請時の監査 |
5問すべて「いいえ」なら、単体は中小会計指針または中小会計要領に沿って従来どおり処理できます。4問目と5問目は、単体の処理を変えるかどうかではなく、新基準の数値を別に作るかどうかの判定です。
判定で迷いやすい例:資本金1億円で負債が200億円を超える会社
減資で資本金を1億円にしている会社でも、負債の部の合計額が200億円以上なら大会社です。不動産賃貸業や商社のように借入金や預り金が膨らむ業種では、資本金だけ見て対象外と判断する誤りが起きます。
判定に使うのは「最終事業年度に係る貸借対照表」の数値です。期中に負債が200億円を超えても、その期の決算が確定するまでは大会社になりません。逆に、ある期の決算で200億円を超えると、次の事業年度から会計監査人の設置と新基準の適用が同時に問題になります。負債が200億円に近い会社は、予算の段階で翌期の見込みを確かめておきます。
中小企業が新リース会計基準を任意で適用すべき条件と見送る場面
中小企業も、望めば第34号に沿って処理できます。ただし任意適用には相応の手間がかかるため、選ぶ条件ははっきりしています。
中小企業が任意適用を選ぶ条件:3年以内の上場予定か親会社の連結方針
任意適用を選ぶべきなのは2つの場合だけです。1つは3年以内の上場を予定していて、監査対象期の前から新基準で数字を積み上げたいと考えている場合が該当します。もう1つは親会社から連結パッケージを新基準で出すよう求められ、単体と連結用で2通りの計算を持つより単体ごと切り替えたほうが楽な場合です。
この2つは、いずれ新基準の数値を作ることが決まっている会社です。先に単体を揃えれば、2つの計算体系を並行して保守する期間を短くできます。
任意適用を見送る場面:銀行融資と税務申告だけが財務諸表の使い道の会社
財務諸表の読み手が取引銀行と税務署だけなら、任意適用は見送るべきです。リースをオンバランスすると総資産と負債が増え、自己資本比率は下がります。融資審査で使う財務指標が見かけ上悪くなるだけで、資金繰りの実態は何も変わりません。
税務の面でも利点は乏しいです。令和7年度税制改正後も、法人税の所得計算は会計の新基準に合わせて全面的に変わったわけではなく、会計と税務の差を申告調整で管理する手間が増えます。リース取引の税務上の区分はリース債務とは?リース負債との違い・仕訳・流動/固定区分の税務の章で整理しています。
任意適用した場合の経理負荷:契約の棚卸しと割引率・リース期間の見積り
任意適用で最も時間を取られるのは、リースを含む契約の洗い出しです。新基準は契約の名称ではなく、特定された資産の使用を支配する権利があるかで判定します。判定の3ステップと契約類型ごとの当てはめは、新リース会計基準の判定フローで解説しています。リース会社との契約だけでなく、事務所や倉庫の賃貸借契約、データセンターや車両の利用契約まで、リースを含むかどうかを1件ずつ確かめます。
そのうえで契約ごとに、延長・解約オプションを踏まえたリース期間と、現在価値の計算に使う割引率を見積ります。オフィスの賃貸借契約だけでも、更新の見込みをどう置くかで負債額が数年分変わります。こうした見積りを毎期見直す体制を作れないなら、任意適用は見送ってください。
対象企業になった会社の経理とシステムの準備:契約台帳から計算まで
対象企業と判定された会社、または新基準の数値を求められる子会社・上場準備会社は、契約データの持ち方から準備を始めます。
新基準で増える契約管理の項目:リース期間・延長オプション・割引率
従来のリース台帳は、リース料の支払予定と所有権移転の有無が分かれば足りました。新基準では、契約ごとに少なくとも次の項目を持つ必要があります。
- リース開始日と解約不能期間
- 延長オプション・解約オプションの有無と、行使が合理的に確実かの判断
- 割引率と、その根拠(借手の追加借入利子率など)
- リースを構成する部分と構成しない部分(保守料など)の区分
- 短期リース・少額リースの免除を使うかどうか
免除の閾値と適用範囲の解説は新リース会計基準とはの短期・少額リースの章に譲ります。台帳の項目は、契約更新や条件変更のたびに再測定が起きる前提で、履歴を残せる形にしておきます。
会計ソフトの外で計算するか会計・経理システムに組み込むかの分岐
契約が数十件までなら、表計算で使用権資産の償却とリース負債の利息を計算し、仕訳だけ会計ソフトに入れる運用で回ります。契約が数百件を超える、子会社ごとに台帳が分かれている、条件変更が月に何件も起きる、のいずれかに当たると、手作業の計算は決算のたびに検証の負担が増えます。
その場合は、リース管理のパッケージを入れるか、既存の会計システムに契約台帳と計算処理を組み込むかを選びます。既存の固定資産台帳や連結パッケージとの連携が要件の中心なら、個別開発で既存システムに寄せるほうが二重入力を避けやすい設計です。一創の会計・経理システム開発では、会計ソフトの外に残った契約管理や計算の手作業を、既存の仕組みに合わせて開発する相談を受けています。
新リース会計基準の対象企業と中小企業の適用判断についてよくある質問
対象企業と中小企業の扱いについて、検索で多い質問に答えます。
中小企業は新リース会計基準に対応しなくてよいのですか?
金融商品取引法や会社法の監査を受けない中小企業は、単体の決算で新基準に切り替える義務はありません。国税庁の令和7年度改正の概要も、監査対象法人以外の法人は中小会計指針または中小会計要領に則った処理を続けられると明記しています。ただし、上場会社の連結子会社や上場準備中の会社は、親会社や監査法人から新基準ベースの数値を求められます。自社が「監査を受けるか」「連結に入るか」「上場予定があるか」の3点で確かめてください。
新リース会計基準はいつから適用されますか?
企業会計基準第34号の第58項により、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。3月決算の会社は2027年4月開始の年度、12月決算の会社は2028年1月開始の年度が最初です。2025年4月1日以後開始する年度の期首からの早期適用も認められています。2026年10月16日の改正は貸倒引当金の取扱いに関するもので、借手の適用開始時期は変わっていません。
非上場の会社でも新リース会計基準の対象企業になりますか?
なります。会社法の大会社、つまり資本金5億円以上または負債合計200億円以上の株式会社は、会社法第328条で会計監査人を置く義務があり、上場していなくても対象企業です。定款で任意に会計監査人を置いている会社も同じ扱いになります。非上場でも有価証券報告書を提出している会社は、金融商品取引法の監査証明を受けるため対象に入ります。
上場会社の子会社は単体決算も新基準に変える必要がありますか?
子会社自身が大会社でも監査対象でもなければ、単体の計算書類は従来の処理で作れます。一方、親会社の連結財務諸表では会計方針を原則として揃えるため、連結パッケージには新基準ベースの数値が必要です。単体と連結用の2通りを子会社で作るか、親会社が連結修正で計算するかは親会社の方針で決まります。親会社の連結担当に、データの提出形式と締切を早めに確かめてください。
中小企業が新リース会計基準を任意適用するメリットはありますか?
上場を数年以内に予定している会社と、親会社から新基準での報告を求められている会社には利点があります。監査対象期の前から数字を揃えられ、単体と連結用の2つの計算を並行して持つ期間を短くできるためです。それ以外の会社では、総資産と負債が増えて自己資本比率が下がり、契約の棚卸しと割引率・リース期間の見積りを毎期続ける負担だけが残ります。融資と税務申告が主な用途なら見送るのが妥当です。
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