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新リース会計基準の影響:財務諸表と財務指標の変化、なぜ改正されたかを数値で解説

新リース会計基準の影響:財務諸表と財務指標の変化、なぜ改正されたかを数値で解説

新リース会計基準を適用すると、店舗や倉庫、社用車のリースが使用権資産とリース負債として貸借対照表に載り、総資産と負債が増えます。損益計算書では賃借料が減価償却費と支払利息に分かれるため、営業利益とEBITDAは増える一方、契約期間の前半に生じるのは税引前利益の減少です。この記事では、国税庁が公表した設例の数値を使って貸借対照表・損益計算書・キャッシュ・フローの変化を追い、自己資本比率・ROA・D/Eレシオ・コベナンツへの影響、企業会計基準委員会(ASBJ)がなぜ改正したのか、業務とシステムの対応範囲をどう決めるかを整理します。

まとめ:新リース会計基準の影響は負債と営業利益が増え純利益が前半に減る形

借手は原則すべてのリースを資産と負債に計上する扱いです。月額1,000千円・5年のリースなら、開始日に49,318千円の使用権資産とリース負債が同時に増えます。自己資本は変わらないため、自己資本比率とROAは下がり、D/Eレシオは上がります。

損益では、賃借料12,000千円が減価償却費9,864千円と支払利息に置き換わり、営業利益は毎年2,136千円増えます。ところが利息は初年度ほど大きく、初年度の費用合計は13,508千円です。税引前利益は前半の3年間で減り、後半で戻ります。5年通算の費用は変わりません。

変わらないものもはっきりしています。支払うリース料の総額、法人税の課税所得、手元の資金繰りは同じです。動くのは見え方なので、銀行との財務制限条項(コベナンツ)や社内KPIの定義を、適用前に確認しておくことが実務の中心になります。

新リース会計基準はなぜ導入されたか:IFRS第16号との比較可能性と負債の開示

「新リース会計基準 なぜ」に対する答えは、ASBJ自身が企業会計基準第34号の結論の背景(BC7項〜BC11項)に書いています。要約ではなく原文の筋に沿って確認します。

IFRS第16号とTopic 842の公表後に日本基準だけ残ったオフバランスの扱い

BC7項によると、国際会計基準審議会(IASB)は2016年1月にIFRS第16号を、米国財務会計基準審議会(FASB)は同年2月にTopic 842を公表しました。どちらもオペレーティング・リースを含むすべてのリースで資産と負債を計上する使用権モデルです。日本の企業会計基準第13号は、オペレーティング・リースを賃貸借処理のまま残していました。

この結果、国際基準と日本基準の間で「特に負債の認識において違いが生じる」状態になります。ASBJは2016年8月の中期運営方針でリース会計を検討課題に挙げ、2019年3月の第405回委員会で開発着手を決め、2023年5月の公開草案を経て2024年に基準を公表しました。

ASBJが重視した3つのニーズと民法第601条の賃貸借から出た反対意見

BC10項は、開発に踏み切った理由として次の3点を挙げています。

  • 国際的な会計基準との整合性を図ることが、財務諸表間の比較可能性を高める
  • すべてのリースについて資産と負債を計上することに、財務諸表利用者のニーズがある
  • 重要なオペレーティング・リースを賃貸借処理のままにすると、重要な負債が本表に載っていないと国際的に指摘され、日本の資本市場と企業の財務報告の信頼性を損なうリスクが大きい

反対意見も記録されています。BC8項は、民法第601条の賃貸借では貸手が引渡し後も修繕義務を負うため、借手が無条件の支払義務を負うわけではない、という法的な違和感を紹介しています。ASBJはこれを踏まえつつ、資産・負債の定義を満たすなら計上を検討するという立場を取りました(BC9項)。つまり改正の主目的は、利益を変えることではなく、隠れていた負債を本表に出すことです。

新リース会計基準が財務諸表に与える影響:貸借対照表・損益計算書・資金の流れ

ここからは国税庁の「オペレーティング・リース取引に係る借手の申告調整について」の設例で数値を追います。条件はリース期間5年、月額1,000千円(総額60,000千円・毎月末払い)、追加借入利子率年8%、使用権資産は定額法です。

貸借対照表の影響:使用権資産とリース負債49,318千円の両建てと期末の差

リース開始日に、60,000千円を年8%で割り引いた49,318千円が使用権資産とリース負債の両方に載ります。計上額の決め方は企業会計基準第34号の第33項・第34項です。使用権資産は原資産の科目に含めるか「使用権資産」として区分し(第49項)、リース負債は1年以内に支払期限が来る部分を流動負債、残りを固定負債に分けます(第50項)。

開始後は両者の減り方がずれます。X1期末はリース負債40,962千円に対し、使用権資産は償却後39,454千円です。負債が資産を1,508千円上回り、この差だけ利益剰余金が先に減った状態になります。流動・固定の区分や科目名はリース債務とは?リース負債との違いと流動/固定区分で扱っています。

損益計算書の影響:賃借料が償却費と利息に分かれ営業利益は毎年2,136千円増

従来の処理では、年12,000千円の賃借料が販売費及び一般管理費に入っていました。新基準では、営業費用に入るのは減価償却費9,864千円だけになり、営業利益は毎年2,136千円増えます。支払利息は営業外費用に移り、第51項により区分表示するか、含まれる科目と金額を注記します。

経常利益と税引前利益は逆に動きます。X1期は償却費9,864千円と利息3,644千円で費用が13,508千円となり、従来より1,508千円少なくなります。営業利益は増えたのに最終利益は減る、という組み合わせが初年度の典型です。

費用の前倒し:5年リースは前半3年の利益が減り後半2年で取り戻す推移

利息は利息法で配分するため、元本が多い初期ほど大きくなります。年ごとの費用は次のとおりです。X1・X2・X5期は国税庁の設例の数値、X3・X4期の利息は同じ条件で計算した値です。

期 支払利息 減価償却費 費用合計 従来の賃借料との差
X1期 3,644千円 9,864千円 13,508千円 1,508千円の利益減
X2期 2,950千円 9,864千円 12,814千円 814千円の利益減
X3期 2,199千円 9,864千円 12,063千円 63千円の利益減
X4期 1,385千円 9,864千円 11,249千円 751千円の利益増
X5期 504千円 9,864千円 10,368千円 1,632千円の利益増

5年分の利息は合計10,682千円で、設例の総額と一致します。1件だけなら影響は小さくても、毎年新しい店舗や車両の契約を足していく会社では、「前半の利益減」の契約が常に一定割合を占めます。拡大期の会社ほど、適用後しばらく税引前利益が押し下げられやすい構造です。

キャッシュ・フロー計算書の影響:支払額は同じでも営業CFが増え財務CFが減る

リース料の支払総額は変わりません。変わるのは区分です。元本の返済部分は財務活動によるキャッシュ・フローに移るため、X1期なら8,356千円が営業キャッシュ・フローから財務キャッシュ・フローへ移ります。

支払利息の3,644千円は、日本基準では営業活動と財務活動のどちらに記載するかを会社が選べます。財務活動を選んでいる会社では、支払額12,000千円がまるごと営業キャッシュ・フローから抜けます。同業他社と営業キャッシュ・フローを比べるときは、相手の利息の区分方法について、注記での確認が必要です。

新リース会計基準で変わる財務指標:自己資本比率・ROA・EBITDA・D/Eレシオ

指標への影響は「分母が増えて下がるもの」と「費用の移動で上がって見えるもの」に分かれます。数値の規模感は、あずさ監査法人(KPMG)の小売業モデルケースが参考になります。

悪化する指標:自己資本比率・D/Eレシオ・ROAが総資産の増加で動く仕組み

KPMGのモデルは、純資産600億円・有利子負債600億円の小売業者で、リース負債600億円が有利子負債に加わる想定です。

指標 適用前 適用後 動く理由
D/Eレシオ 1.00倍 2.00倍 リース負債が有利子負債に加わる
自己資本比率 33.3% 25.0% 総資産だけが増える
ROIC 5.0% 3.3% 投下資本が増える
EBITDA 300億円 350億円 賃借料が償却費と利息に分かれる
営業CF 250億円 280億円 元本返済が財務CFへ移る

ROAも同じ理由で下がります。利益がほぼ変わらないまま総資産が膨らむためです。指標の定義と業界平均はROA(総資産利益率)とはで確認できます。

改善して見える指標:EBITDAが増えても有利子負債/EBITDA倍率は悪化

EBITDAは賃借料が利息と償却費に置き換わるぶん増えます。ただし、借入の返済力を見る有利子負債/EBITDA倍率は改善しません。上のモデルで計算すると、適用前は600億円÷300億円で2.0倍、適用後は1,200億円÷350億円で約3.4倍です。分子の増え方が分母より大きいからです。

EBITDAの増加を「稼ぐ力が上がった」と読むのは誤りです。社内の評価指標にEBITDAを使っている会社は、適用前後で数値をつなげるための調整を決めておく必要があります。EBITDAの計算式の違いはEBITDAとは?純利益・営業利益との違い、融資審査で使われる債務償還年数との関係は償却前経常利益とはで扱っています。

財務制限条項(コベナンツ)と社内KPI:定義の固定か読み替えかを先に決める

借入契約の財務制限条項は、純資産維持、経常利益の黒字維持、レバレッジ比率の上限といった形で書かれていることが多くあります。新基準では、契約前半の経常利益は減少し、レバレッジ比率は上昇する方向です。純資産も、適用初年度に累積的影響額を期首利益剰余金で調整する方法を選べば、その分だけ減ります。

対応は2通りです。契約書に「締結時点の会計基準で計算する」という固定条項を入れてもらうか、新基準の数値で閾値を引き直すかです。どちらの対応を選ぶ場合でも、適用初年度の試算額を持って、先に金融機関と話してください。賞与や役員報酬を営業利益やROICで決めている会社は、同じ判断を社内規程でも行います。

影響の大きさを分ける条件:業種・契約の中身・新基準の適用対象かどうか

同じ新基準でも、会社によって影響額は桁が変わります。自社がどちら側かを先に見極めます。

影響が大きい業種:店舗・倉庫・航空機など長期の賃借が事業の中心にある会社

KPMGは影響の大きい業種として、小売・外食、物流・運輸、航空、不動産を挙げています。共通点は、長期の不動産賃借や大型設備のリースが事業に直結していることです。店舗の定期借家契約や倉庫の賃貸借は、リース期間が長く割引前の支払総額も大きいため、リース負債が膨らみます。

リース期間には延長オプションの行使が合理的に確実な期間も含めるため、契約書の期間より長くなる場合があります。家賃をどこまでオンバランスするかの判断は新リース会計基準と賃貸借契約:家賃をオンバランスする範囲で、棚卸しの手順と合わせて整理しています。

影響がほぼ出ない会社:中小企業会計指針を継続できる会社と短期・少額中心の会社

監査対象法人以外の中小企業は、中小企業の会計に関する指針などに沿った従来の処理を続けられます。この場合、ここまで書いた財務諸表の変化は単体決算には出ません。ただし親会社が新基準を適用する連結子会社は、連結用の数値作りで影響を受けます。判定の手順は新リース会計基準の対象企業:上場・大会社・子会社と中小企業の判定手順にまとめています。

対象会社でも、契約の大半が12か月以内の短期リースや少額リースなら、オンバランスする件数は限られます。複合機やパソコンのリースが中心の会社は、まず新リース会計基準の300万円基準で除外できる範囲を確かめると、影響額の見積もりが大きく縮みます。

法人税の課税所得には影響しない:法人税法第53条で賃貸借のまま損金算入

会計でオンバランスしても、法人税ではオペレーティング・リースを賃貸借として扱い、債務が確定した支払額を損金に算入します(法人税法第53条)。設例のX1期なら、会計上の費用13,508千円に対して損金は12,000千円で、差額は別表で調整します。納める税額が増えるわけではありません。

その代わり、会計と税務の数字を契約ごとに二重に持つ手間が生じます。別表四・別表五(一)の書き方は新リース会計基準と国税庁の対応:申告調整の設例で追っています。

業務とシステムへの影響:契約件数と変更頻度で対応の深さを決める判断

財務指標の影響は説明で乗り切れますが、経理の作業量は確実に増えます。どこまで仕組みにするかは、契約の数と動き方で決まります。

経理業務に増える作業:契約の識別・割引率・リース期間の見積りと再計算

増える作業は大きく4つあります。重い順に並べると次のとおりです。

  1. 契約の棚卸とリースの識別(業務委託契約や倉庫の一区画も含めて判定する)
  2. リース期間の見積り(延長・解約オプションの行使可能性を契約ごとに判断する)
  3. 割引率の決定(多くの契約で貸手の計算利子率が分からず、追加借入利子率を見積もる)
  4. 契約変更時の再計算と、期末の注記用の集計

1番目が最も時間を食います。契約書の題名ではなく「特定された資産の使用を支配しているか」で判定するため、総務や店舗開発の部門が持つ契約まで集める必要があるからです。2番目の割引率の決め方と根拠の残し方は新リース会計基準の割引率:追加借入利子率の決め方で設例の数値に沿って解説しています。手順と台帳に残す項目は新リース会計基準の判定フローで解説しています。

影響試算の手順:支払総額の大きい契約から負債額と指標の変化幅を出す

全件を集める前に、影響の規模をつかむ試算を先に行います。

  1. 賃借料の勘定から、年間支払額の大きい契約を上位20件ほど抜き出す
  2. 残りの支払予定額と期間を契約書で確認し、仮の割引率で現在価値を計算する
  3. 現在価値の合計を総資産と有利子負債に足し、自己資本比率・D/Eレシオ・有利子負債/EBITDA倍率を引き直す
  4. 財務制限条項の閾値と比べ、余裕が小さい指標を金融機関との協議事項にする

店舗や拠点の賃貸借が上位を占める会社なら、上位20件で負債額の大半がつかめます。ここで影響が小さいと分かれば、全件の精緻な計算は適用初年度の準備に回しても間に合います。

システム対応を作り込む場面と作り込まない場面:契約数十件なら表計算で足りる

オンバランスする契約が数十件で、期中の条件変更もほとんど無い会社は、表計算で契約ごとの償却表と利息計算を持てば十分です。この規模で専用の仕組みを作るのは過剰です。リースか購入かを検討し直す場合も、会計上の見え方の差は縮むので、判断材料は法人向けリースのメリット・デメリットで整理した資金繰りと手間の比較が中心になります。

反対に、契約が数百件ある、店舗の出退店で毎月契約が増減する、連結子会社ごとに契約台帳がばらばらである、のいずれかに当たる会社は、表計算では再計算と注記の集計が決算に間に合わなくなります。台帳に持たせる項目は、契約管理台帳のシステム化で整理した一覧が出発点です。一創の会計・経理システム開発では、既存の契約管理や会計システムに合わせて、使用権資産とリース負債の計算から仕訳・注記の集計までをつなぐ開発の相談を受けています。

新リース会計基準の影響についてよくある質問と決算実務での答え方

新リース会計基準の影響を調べている方から出やすい質問に答えます。

新リース会計基準の影響はいつの決算から数字に出ますか?

強制適用は2027年4月1日以後開始する事業年度の期首からです(企業会計基準第34号第58項)。3月決算の会社なら2028年3月期、12月決算なら2028年12月期の決算が最初になります。早期適用は2025年4月1日以後開始する事業年度から認められているため、同業他社が先に適用して指標が変わっている場合があります。他社と比べるときは、適用時期を有価証券報告書の会計方針で確認してください。

適用初年度に過去の利益や純資産は修正されますか?

原則は過去のすべての期間への遡及適用ですが、適用初年度の期首までの累積的影響額を期首の利益剰余金で調整し、その時点から新基準を適用する方法も選べます。後者を選ぶと過去の損益計算書は作り直さず、期首の純資産だけが動きます。契約前半の利益減が積み上がった分、利益剰余金は通常マイナス方向です。選び方と注記は新リース会計基準とは?2027年4月適用の変更点と経過措置で条文に沿って説明しています。

銀行の融資審査で不利になりますか?

見かけの有利子負債が増えるため、審査の指標をそのまま当てはめると数値は悪化します。一方で、金融機関はもともと賃借料の支払いを返済負担として見ていることが多く、実質の評価が急に変わるとは限りません。不利な読み方を避けるには、決算書を出す前に、新基準による増加分とその内訳を説明できる資料を用意しておくことです。既存借入の財務制限条項がある場合は、その条項の計算方法を先に確認してください。

IFRSを任意適用している会社も影響を受けますか?

連結財務諸表でIFRS第16号をすでに適用している会社は、連結の数値への新たな影響はほとんどありません。ASBJは開発の基本方針(BC13項)で、IFRS任意適用企業がIFRS第16号の定めを個別財務諸表に使っても基本的に修正が不要な基準にするとしています。影響が出るのは主に個別財務諸表で、これまで日本基準の賃貸借処理をしていた部分です。

新リース会計基準でリースをやめて購入に切り替えるべきですか?

会計上の理由だけで切り替える必要はありません。新基準ではリースも購入も資産と負債が貸借対照表に載るため、「リースならオフバランスにできる」という利点がなくなり、見え方の差は小さくなります。判断は、購入資金の調達コスト、保守やメンテナンスの手間、契約期間の柔軟さといった本来の比較で行ってください。短期・少額の例外に当たる契約は従来どおり費用処理できるので、その範囲だけはリースの方が事務負担は軽いままです。

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