人件費は、給与と賞与に、会社が負担する社会保険料・労働保険料、退職金の積立、福利厚生や採用・教育の費用を足し上げて計算します。この記事では、令和8年度の保険料率を使って年収480万円の従業員1人の年間人件費を手順どおりに計算し、人件費が給料の何倍になるかを厚生労働省の統計で確認する内容です。ざっくり計算するときの倍率の使い分け、1時間当たりの人件費単価の出し方、給与・勤怠のデータから部門別の人件費を毎月自動で集計する仕組みまで扱います。
まとめ:人件費は給与と賞与に会社負担を積み上げる、年収の1.15倍から1.22倍
人件費の計算式は「給与+賞与+法定福利費+法定外福利費+退職給付等の費用+採用・教育費」です。このうち計算の手間がかかるのは法定福利費で、健康保険・厚生年金などは標準報酬月額と標準賞与額に、雇用保険と労災保険は賃金総額に、それぞれ事業主負担の料率を掛けて求めます。何が人件費に入るかの定義と勘定科目は人件費の範囲・内訳と勘定科目を解説した記事に譲り、ここでは計算の手順に絞ります。
令和8年度の料率で、東京の協会けんぽに加入する39歳以下・月給30万円・賞与年120万円の従業員を計算すると、会社負担の法定福利費は年75万3,600円で、年収480万円の15.7%です。退職金や福利厚生まで含めた総額は、厚生労働省の就労条件総合調査で現金給与の1.22倍が全国平均でした。ざっくり計算するなら、法定分だけを見るときは年収×1.15、採用計画や見積で総額を見るときは年収×1.22を置くのが実務の目安です。
月給が65万円を超える人は厚生年金の上限にかかり、倍率は下がります。見積や案件の原価に使う時間単価は、額面ではなく会社負担を含めた年間人件費を所定労働時間で割り、さらに稼働率で割り戻して出します。部門別・案件別の人件費を毎月出す段階では、表計算での手計算をやめ、給与と勤怠のデータをつなぐ仕組みを検討する時期です。
人件費の計算式と含める費用、給与・賞与・法定福利費・退職給付の積み上げ方
人件費の計算は、額面の給与から出発して、会社が上乗せで払う費用を順に足していく作業です。足す費用ごとに計算の基礎が違う点を先に押さえておくと、計算ミスが減ります。
人件費の総額は給与・賞与・法定福利費・法定外福利費・退職給付等の合計
1人当たりの年間人件費は、次の費用の合計で計算します。上から順に金額が大きく、実務でまず押さえるのは上の3つです。
| 費用 | 計算の基礎 | 年収に対する目安 |
|---|---|---|
| 給与(基本給・手当・残業代) | 支給額そのもの | 年収の本体 |
| 賞与 | 支給額そのもの | 年収の本体 |
| 法定福利費(会社負担) | 標準報酬月額・標準賞与額・賃金総額×料率 | 約15% |
| 退職給付等の費用 | 退職金規程・掛金 | 約5% |
| 法定外福利費・現物給与 | 社宅・健康診断などの実費 | 約1.6% |
| 採用費・教育訓練費など | 実費 | 約0.5% |
右の列の割合は、後の章で使う厚生労働省の就労条件総合調査の全国平均を、現金給与に対する比率に直したものです。退職金制度のない会社なら退職給付等はほぼゼロになり、中途採用を毎年続けている会社なら採用費が平均を大きく超えます。自社の数字で置き換えられる行は置き換えてください。
法定福利費は標準報酬月額と標準賞与額に料率を掛けて求める、令和8年度の料率表
法定福利費の計算では、保険ごとに異なる基礎額の確認が必要です。健康保険・介護保険・子ども・子育て支援金・厚生年金・子ども・子育て拠出金は、月給を等級に当てはめた標準報酬月額と、賞与の1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に料率を掛けます。雇用保険と労災保険は、実際に払った賃金総額に料率を掛けます。
| 保険 | 令和8年度の料率 | 事業主負担 | 計算の基礎 |
|---|---|---|---|
| 健康保険(東京) | 9.85% | 4.925% | 標準報酬月額・標準賞与額 |
| 介護保険(40〜64歳) | 1.62% | 0.81% | 同上 |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23% | 0.115% | 同上 |
| 厚生年金保険 | 18.3% | 9.15% | 同上(上限あり) |
| 子ども・子育て拠出金 | 0.36% | 0.36% | 厚生年金と同じ基礎 |
| 雇用保険(一般の事業) | 13.5/1,000 | 8.5/1,000 | 賃金総額 |
| 労災保険 | 業種ごと | 全額 | 賃金総額 |
健康保険と介護保険の料率は協会けんぽの令和8年度保険料率のとおり都道府県ごとに違い、3月分から改定されます。子ども・子育て支援金は4月分からの徴収です。雇用保険は厚生労働省の令和8年度雇用保険料率のご案内で一般の事業の事業主負担が8.5/1,000と示されています。標準報酬月額の等級の決まり方と端数処理は社会保険料の計算方法と令和8年度の料率を解説した記事で詳しく扱っています。
年収480万円の従業員1人の年間人件費を手順どおりに計算した実例と内訳
ここからは具体的な数字で計算します。前提は、東京の協会けんぽに加入する39歳以下の正社員、月給30万円(標準報酬月額30万円)、賞与は夏冬に60万円ずつの年収480万円、業種はソフトウェア業などの「その他の各種事業」です。料率は令和8年度のものが1年間続くとして計算します。
手順1から4で月給・賞与・労働保険を順に積み上げる、会社負担は年75万3,600円
計算は次の4つの手順で進めます。
- 月給分の社会保険料:30万円×(4.925%+0.115%+9.15%+0.36%)=4万3,650円。12か月で52万3,800円
- 賞与分の社会保険料:60万円×14.55%=8万7,300円。2回で17万4,600円
- 雇用保険:年間の賃金総額480万円×0.85%=4万800円
- 労災保険:480万円×3/1,000=1万4,400円
4つを合計した会社負担の法定福利費は年75万3,600円で、年収480万円の15.7%にあたります。給与と賞与を足すと、法定分までの人件費は年555万3,600円です。手順2の賞与分は見落とされやすく、ここを抜くと年17万円以上を少なく見積もることになります。
40歳以上の従業員なら、手順1と2に介護保険の0.81%が加わり、年3万8,880円が上乗せされます。労災保険率3/1,000は「その他の各種事業」の値で、建設業や製造業ではこれより高い率になります。業種ごとの料率は令和8年度の労災保険料率を業種別に一覧にした記事で確かめてください。
退職金・福利厚生・採用教育費を足すと年間約588万円、年収の1.23倍前後
法定福利費の次に大きいのが退職給付等の費用です。自社の退職金規程や企業型確定拠出年金の掛金があれば、その年間額をそのまま足します。データがない場合は、就労条件総合調査の全国平均の比率を借りて概算できます。
全国平均では、現金給与に対して退職給付等が4.8%、法定外福利費と現物給与が合わせて1.6%、教育訓練費・募集費・その他が0.5%で、合計6.9%です。年収480万円に当てはめると約33万円になり、法定分の555万3,600円と合わせた年間人件費は約588万円、年収の1.23倍前後です。月額に直すと1人約49万円で、賞与を月割りした額面の月40万円より約9万円多くなります。
採用計画の予算や、事業計画で「1人増やすといくら利益が減るか」を見るときは、この総額を使います。法定分の555万円で予算を組むと、退職金と福利厚生の約33万円が1人ごとに漏れていきます。
人件費は給料の何倍か、就労条件総合調査の1.22倍と企業規模・年収による差
「人件費は給料の何倍か」には、公的統計で答えが出ています。ただし平均値をそのまま使ってよい場面と、使うと外れる場面があります。
労働費用は現金給与の1.22倍が全国平均、30〜99人は1.20倍で規模が大きいほど上昇
厚生労働省の令和3年就労条件総合調査は、会社が常用労働者1人に1か月当たり払った費用を「労働費用」として集計しています。令和2年(令和元会計年度)分の労働費用総額は40万8,140円で、そのうち現金給与額が33万4,845円、現金給与以外の労働費用が7万3,296円でした。現金給与額には賞与や残業代も含まれるので、年収に対する倍率として読めます。
| 企業規模 | 労働費用総額(月) | 現金給与額(月) | 給料に対する倍率 |
|---|---|---|---|
| 全体 | 408,140円 | 334,845円 | 1.22倍 |
| 1,000人以上 | 450,720円 | 365,787円 | 1.23倍 |
| 300〜999人 | 415,532円 | 340,495円 | 1.22倍 |
| 100〜299人 | 391,151円 | 323,761円 | 1.21倍 |
| 30〜99人 | 352,005円 | 292,370円 | 1.20倍 |
規模による差は、ほぼ退職給付等の費用で説明できます。1,000人以上の会社は1人月2万2,985円、30〜99人の会社は7,732円で、3倍近い開きがあります。法定福利費は規模を問わず現金給与の15%前後で、ここは会社の努力では動きません。中小企業が自社の人件費を見積もるなら、全国平均の1.22倍より、規模の近い1.20倍を出発点にしたほうが実態に近づきます。
月給65万円を超えると厚生年金の上限で倍率が下がる、月給79万円の会社負担は13.7%
倍率は年収によっても変わります。日本年金機構の保険料額表のとおり、厚生年金の標準報酬月額の上限は32等級の65万円です。月給がこれを超えても、厚生年金と子ども・子育て拠出金は65万円で頭打ちになります。
月給79万円(健康保険の標準報酬月額79万円)の人で計算すると、健康保険3万8,908円、子ども・子育て支援金909円、厚生年金は65万円×9.15%の5万9,475円、拠出金2,340円、雇用保険6,715円で、会社負担は月10万8,347円です。月給に対する比率は13.7%で、月給30万円の15.4%より1.7ポイント低くなります。賞与も同じで、日本年金機構の賞与の手続きの案内によれば標準賞与額の上限は厚生年金が1か月150万円、健康保険が年度累計573万円です。
役員や管理職の多い部門で、全員に一律15%を掛けて人件費を見積もると、実際より高く出ます。賞与の上限の数え方は賞与の社会保険料と573万円・150万円の上限を解説した記事にまとめています。
ざっくり計算は年収×1.15で法定分、×1.22で総額、使い分けを誤ると外れる場面
ざっくり計算の倍率は、何に使うかで決めます。月次の法定福利費の未払計上や、社会保険料の資金繰りを見るなら年収×1.15で十分です。採用1人分の予算、内製と外注の比較、事業計画の人員計画では、退職金や福利厚生まで入った年収×1.22を使います。
外れやすいのは2つの場面です。1つは、パート・アルバイト中心の店舗で、社会保険に加入していない人まで1.15倍にしてしまう場合で、実際の倍率は雇用保険と労災保険だけの1.01倍前後まで下がります。もう1つは、高年収の役員や専門職だけのチームに1.22倍を掛ける場合で、厚生年金の上限のぶん高く出ます。この2つに当たる会社は、雇用形態別・年収帯別に倍率を分けて持ってください。人件費を売上と比べる指標は人件費率の計算式と業種別の目安を解説した記事で扱っています。計算した人件費を賃下げや人員削減に頼らず減らす手順は人件費削減の方法と失敗例を解説した記事にまとめています。
1時間当たりの人件費単価の出し方、見積・案件原価で額面時給を使わない理由
受託開発や工事、コンサルティングの見積では、年間の人件費を1時間当たりの単価に直して使います。分子と分母の取り方で、単価は2割以上変わります。
人件費単価は年間人件費÷年間所定労働時間、年収480万円なら1時間2,833円
人件費単価は「(年間の給与+賞与+会社負担の法定福利費)÷年間所定労働時間」で計算します。先の例で、1日8時間・年245日勤務の年間所定労働時間1,960時間を使うと、555万3,600円÷1,960時間=2,833円です。
額面の年収480万円を1,960時間で割ると2,449円で、384円の差が出ます。額面で単価を作ると、法定福利費の15%前後が見積や案件原価から丸ごと抜け落ちるわけです。退職金や福利厚生まで含めた約588万円を分子にすれば、単価は3,002円になります。どこまでを分子に入れるかは、社内で1つに決めて全案件で揃えてください。製造原価や工事原価へ配賦するときの賃率の考え方は原価計算での人件費の範囲と賃率の出し方を解説した記事で扱っています。
見積単価は稼働率で割り戻す、稼働率80%なら3,541円になる受託開発の計算
所定労働時間のすべてを案件に充てられる人はいません。社内会議、教育、営業支援、案件の合間の待機を除いた稼働率が80%なら、案件に請求できる時間は年1,568時間です。この場合の原価ベースの単価は2,833円÷0.8=3,541円で、ここに販管費と利益を乗せて見積単価を決めます。
稼働率を100%のまま単価を作ると、全案件が見積どおりに進んでも年間で人件費の2割を回収できません。受託開発の会社は、まず過去3か月の勤怠と工数の記録から実際の稼働率を出し、その値で単価を作り直すのが先決です。IT企業で開発者の人件費を売上原価に振り替える手順はIT企業の原価計算と工数×賃率の手順を解説した記事にまとめています。
部門別・月次の人件費計算を給与と勤怠のデータから自動で集計する仕組み
1人分の計算は表計算で足ります。部門別・案件別の人件費を毎月出す段階になると、計算そのものより、元データを集めて揃える作業が重くなります。
Excelで人件費を計算するときの列設計と、料率改定月に起きる計算ずれ
Excelで人件費を計算するなら、1行を「従業員×月」にし、列を次のように分けます。
社員番号 | 部門 | 対象月 | 年齢区分 | 支給総額 | 標準報酬月額 | 賞与額 | 健保率 | 支援金率 | 厚年率 | 拠出金率 | 雇用率 | 労災率 | 法定福利費
法定福利費 = 標準報酬月額 × (健保率 + 支援金率 + 厚年率 + 拠出金率) + 支給総額 × (雇用率 + 労災率)
料率をセルに直接書かず、対象月ごとの料率表を別シートに置いて参照させるのが要点です。令和8年度は健康保険が3月分、子ども・子育て支援金と雇用保険が4月分から変わったように、料率の切り替え月は保険ごとにずれます。料率を1か所に直書きしていると、改定のたびに過去月の計算まで書き換わります。標準報酬月額の列を支給総額で代用するのも誤差の原因で、9月の定時決定までは前年の等級が使われる点に注意してください。
給与・勤怠システムの連携で部門別人件費を出す設計と個別開発を検討する条件
部門別の人件費は、給与システムが持つ支給額・法定福利費と、勤怠システムが持つ部門ごとの労働時間を、社員番号と対象月で結合して計算します。兼務者は部門別の労働時間の比率で人件費を按分し、案件別の按分に用いるのは、各案件の工数の比率です。勤怠側で部門や案件の記録をどう取るかは勤怠管理システムの機能と選び方を解説した記事が参考になります。
個別開発を検討するのは、給与と勤怠が別々の製品で、毎月のCSV突き合わせに担当者が10時間以上かけている場合や、兼務按分・賞与の月割り・法定福利費の未払計上に自社固有のルールがあり、パッケージの連携では全社合計と部門別の合計が一致しない場合です。こうした条件がそろう会社では、人事・労務管理システム開発のように給与・勤怠データの連携と按分ルールを含めて設計できる相談先を選ぶと、部門別の人件費を月初の数日で確定できます。
反対に、全社の人件費を年に数回確かめるだけの会社や、従業員30人未満で部門が1つか2つの会社は、表計算の列設計を整えるだけで足ります。按分のルールが社内で決まっていない段階でシステム化を急ぐのも見送ってください。
よくある質問
人件費の計算について、よく挙がる質問に答えます。
人件費の計算方法は?
人件費は「給与+賞与+法定福利費(会社負担の社会保険料・労働保険料)+法定外福利費+退職給付等の費用+採用・教育費」で計算します。法定福利費は、健康保険・厚生年金などは標準報酬月額と標準賞与額に事業主負担の料率を、雇用保険と労災保険は賃金総額に料率を掛けて求めます。令和8年度の料率で東京・39歳以下・年収480万円の場合、法定福利費は年75万3,600円です。
人件費は給料の何倍ですか?
厚生労働省の令和3年就労条件総合調査では、労働費用総額は現金給与額の1.22倍でした。内訳は法定福利費が約15%、退職給付等が約5%、福利厚生や採用・教育費が約2%です。30〜99人の会社では1.20倍、1,000人以上では1.23倍と、退職金制度の差で規模が大きいほど高くなります。法定福利費だけなら1.15倍前後が目安です。
1人当たりの人件費の出し方は?
会社全体の人件費を従業員数で割るのが最も簡単な出し方です。人件費には給与・賞与だけでなく法定福利費と福利厚生費も含め、従業員数は期首と期末の平均を使います。パートが多い会社は、労働時間を正社員に換算した人数で割らないと、1人当たりの人件費が実態より低く出ます。採用計画に使うなら、本記事の手順で職種ごとの年収から積み上げたほうが正確です。
パート・アルバイトの人件費はどう計算しますか?
時給×労働時間で出した賃金に、加入している保険の会社負担を足した金額が人件費です。社会保険の適用条件を満たして加入している人は正社員と同じ料率で計算し、加入していない人は雇用保険(週20時間以上の場合)と労災保険の会社負担だけを足します。社会保険に加入していないパートの人件費は、賃金の1.01倍前後に収まります。
人件費の計算に通勤手当は含めますか?
含めます。通勤手当は会計上は旅費交通費に置く会社もありますが、社会保険の標準報酬月額と雇用保険の賃金総額には含まれるため、法定福利費の計算の基礎になります。所得税が非課税になる範囲の通勤手当でも、社会保険料の計算からは外れません。通勤手当を除いて法定福利費を計算すると、遠方から通う従業員ほど人件費を少なく見積もります。なお通勤手当は給与と違って消費税の課税仕入れになる点は人件費と消費税の区分を解説した記事で扱っています。
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