粗利計算は、売上高から売上原価を引いて粗利額を出し、その粗利額を売上高で割って粗利率を出す、という2つの式で済みます。計算がずれるのは式そのものではなく、目標の粗利率から売価を逆算するとき、値入率と粗利率を取り違えたとき、返品・値引・消費税の扱いを揃えなかったときです。この記事では、粗利額と粗利率の計算式を数値例で確かめたうえで、売価の逆算式、原価率・値入率との違い、計算を狂わせる4つの落とし穴を整理します。後半ではExcelで粗利を出す表の式と、表計算で追い切れなくなったときに原価管理システムへ移る判断の目安を示します。
まとめ:粗利計算は引き算と割り算、ずれるのは売価の逆算と後から動く原価
粗利額は「売上高−売上原価」、粗利率は「粗利額÷売上高×100」で求めます。原価700円の商品を1,000円で売れば、粗利額は300円、粗利率は30%です。
実務で間違いが多いのは、目標の粗利率から売価を決める逆算です。粗利率30%を取りたいとき、原価に1.3を掛けた910円では率は23.1%にしかなりません。正しくは原価を「1−0.3」で割り、1,000円とします。値入率は値付けの時点の計画値、粗利率は売れた結果の実績値で、値下げや廃棄があれば粗利率は値入率より下がります。
集計の段階では、事後の値引は粗利を全額削る一方、返品は原価も戻るため率が保たれる、という違いを押さえてください。商品別の粗利率を単純平均すると全体の率を大きく見誤ります。Excelでは明細1行ごとに原価金額を値で持たせ、全体の率は「粗利額の合計÷売上高の合計」で出すのが基本です。原価の後確定や案件別の見込と実績の突き合わせが毎月の手作業になった段階で、原価管理システムでの自動算出が検討に入ります。
粗利額と粗利率の計算式、売上原価の中身と数値例で押さえる基本の出し方
最初に、粗利計算に使う2つの式と、差し引く売上原価の範囲を確認します。
粗利額は売上高から売上原価を引き、粗利率は売上高で割って百分率にする
粗利計算の式は次の2本です。
粗利額=売上高−売上原価
粗利率(%)=粗利額÷売上高×100
月の売上高が800万円、売上原価が560万円の店なら、粗利額は240万円、粗利率は30%になります。分母は売上高です。原価で割ると別の指標(後述の原価基準の値入率)になるので、分母を取り違えないでください。
売上原価は「その月に仕入れた金額」ではなく、売れた分の原価です。物販では期首の在庫に当期の仕入を足し、期末の在庫を差し引いて求めます。財務諸表等規則の第75条が損益計算書での記載方法として定めている形で、在庫を数えない月は売上原価が確定しません。粗利と売上総利益の関係や、月次の粗利が跳ねる仕組みは粗利の定義と売上総利益との関係、商品別の粗利が見えない原因を解説した記事で扱っています。本稿は計算の実務に絞ります。
売上原価に入る費用と入らない費用、物販と受託開発で変わる計算の範囲
何を売上原価に入れるかで、同じ会社でも粗利率は大きく変わります。
| 業態 | 売上原価に入れる費用 | 販管費に置く費用 |
|---|---|---|
| 小売・卸売 | 商品の仕入高、引取運賃 | 店舗スタッフの給与、家賃、販売時の配送料 |
| 製造業 | 材料費、製造現場の労務費、工場の経費 | 営業・管理部門の給与、広告費 |
| 受託開発・制作 | 案件に従事した人の労務費、外注費 | 営業担当の給与、オフィス家賃 |
| 飲食 | 食材費、飲料の仕入高 | 調理・接客スタッフの給与(多くの会社) |
受託開発では、エンジニアの人件費を原価に入れるか販管費に置くかで粗利率が大きく動きます。売上高1億円、エンジニアの人件費5,000万円、外注費1,000万円の会社なら、人件費を全額原価に入れると粗利率は40%、全額を販管費に置くと90%です。他社や過去の自社と比べる前に、原価の範囲を1枚の定義にまとめておくのが先です。工数に賃率を掛けて労務費を案件へ割り当てる手順はIT企業の売上原価の範囲と工数×賃率の手順を解説した記事にまとめています。
目標粗利率から売価を逆算する計算式と、原価に掛け算する誤りの差額
値付けの場面では、粗利率を「出す」のではなく、目標の粗利率から売価を「決める」計算が必要になります。ここで最も多い誤りが掛け算です。
売価は原価を1から目標粗利率を引いた値で割り、掛け算では率が届かない
目標の粗利率から売価を求める式は次のとおりです。
売価=原価÷(1−目標粗利率)
原価700円で粗利率30%を取りたいなら、700÷0.7で売価は1,000円です。確かめると、粗利額300円÷売価1,000円で30%になります。
誤りやすいのは「原価に3割乗せる」計算です。700×1.3=910円で売ると、粗利額210円÷売価910円で粗利率は23.1%にとどまります。差は1個あたり90円で、月1万個売る商品なら月90万円の粗利を取り損ねる計算です。
| 目標粗利率 | 原価に掛ける倍率(正) | 原価×(1+率)の場合の実際の粗利率 |
|---|---|---|
| 20% | 1.25倍 | 16.7% |
| 30% | 約1.43倍 | 23.1% |
| 40% | 約1.67倍 | 28.6% |
| 50% | 2.0倍 | 33.3% |
目標の率が高いほど差は開きます。見積書や価格表を作る担当者が複数いる会社では、社内の値付け表に「原価÷(1−率)」の倍率を載せておくと、担当者ごとの計算のばらつきを防げます。
原価率・値入率・粗利率の3指標の計算式と、どの時点の数字かの違い
粗利率と一緒に使われる指標に、原価率と値入率があります。式と、どの時点の数字かを並べます。
| 指標 | 計算式 | 時点 |
|---|---|---|
| 原価率 | 売上原価÷売上高×100 | 実績(粗利率と足して100%) |
| 値入率(売価基準) | (予定売価−仕入原価)÷予定売価×100 | 仕入・値付けの時点の計画 |
| 値入率(原価基準) | (予定売価−仕入原価)÷仕入原価×100 | 同上(一部の業界の慣行) |
| 粗利率 | 粗利額÷売上高×100 | 売れた後の実績 |
原価率30%なら粗利率は70%で、2つは表裏の関係です。値入率は小売・卸売の現場で使われる言葉で、商品を仕入れて売価を付けた時点で「売れたらいくら残るか」を示す計画値にあたります。
値入率には売価を分母にする方式と原価を分母にする方式があり、取引先や社内で基準が違うと話がかみ合いません。原価基準の値入率50%は、売価基準に直すと33.3%です。社内資料で値入率を使うときは、分母がどちらかを表の見出しに書いておいてください。
値入率40%で仕入れても粗利率が33%に落ちる値下げと廃棄の計算例
値入率どおりの粗利率が出ることは、まずありません。売れ残りの値下げ、廃棄、万引きなどの減耗が、値入率と粗利率の間に入るからです。
原価600円の商品を100個仕入れ、売価1,000円(売価基準の値入率40%)を付けたとします。80個が定価で売れ、残り20個を半額の500円で売り切った場合の計算は次のとおりです。
- 売上高:1,000円×80個+500円×20個=9万円
- 売上原価:600円×100個=6万円
- 粗利額:9万円−6万円=3万円
- 粗利率:3万円÷9万円=33.3%
値入率40%に対して、実績の粗利率は6.7ポイント下がりました。さらに5個を廃棄していれば、売上高は8万7,500円に減り、粗利率は31.4%まで落ちます。仕入の段階で「値下げと廃棄で何ポイント削られるか」を過去の実績から見込み、その分を上乗せした値入率を設定するのが、粗利率の目標を守る計算の順番です。
粗利計算を狂わせる返品・値引・消費税・率の平均、4つの落とし穴の数値例
式が正しくても、集計に入れる数字の扱いがずれると粗利は狂います。現場で差が出やすい順に4つを取り上げます。
事後値引は粗利を全額削り、返品は原価が戻るので粗利率が保たれる差
売上100万円、売上原価70万円、粗利30万円(粗利率30%)の取引で、後から減額が生じた場合を比べます。
| ケース | 売上高 | 売上原価 | 粗利額 | 粗利率 |
|---|---|---|---|---|
| 減額なし | 100万円 | 70万円 | 30万円 | 30.0% |
| 5%の事後値引 | 95万円 | 70万円 | 25万円 | 26.3% |
| 10%分の返品(再販可) | 90万円 | 63万円 | 27万円 | 30.0% |
事後値引の5万円は、そのまま粗利から消えます。原価は1円も減らないためです。返品は商品が在庫に戻り、原価7万円も売上原価から外れるので、粗利額は減っても粗利率は変わりません。ただし返品された商品が傷んで再販できなければ、評価損として粗利を削ります。
得意先に払うリベートの扱いにも注意が必要です。収益認識基準を適用する会社では、顧客に支払う対価は原則として売上高から減額するため、販管費に置いていた頃より粗利が小さく出ます。考え方は収益認識基準の5ステップと基幹システムの改修要件を整理した記事で解説しています。
税込経理と税抜経理で粗利率が変わる条件、不課税の労務費と軽減税率
消費税の経理方式には、税抜経理と税込経理の2つがあります。国税庁タックスアンサーNo.6375のとおり、課税事業者はどちらを選んでもよく、納める消費税の額は同じです。ただし粗利の計算結果は変わる場合があります。
売上も原価もすべて税率10%の課税取引なら、税込で計算しても粗利率は同じです。率が動くのは、原価の一部が消費税のかからない不課税の支出を含むときです。
税抜の売上高100万円、課税仕入60万円、不課税の労務費20万円の会社で比べます。税抜経理では粗利額20万円、粗利率20.0%です。税込経理では売上高110万円、売上原価86万円(66万円+20万円)で、粗利額24万円、粗利率21.8%になります。飲食店のように食材を軽減税率8%で仕入れて店内飲食を10%で売る業態でも、税込経理のほうが粗利率は高く出ます。
過去の月や他社と比べるときは、両方が同じ経理方式かを最初に確かめてください。社内の管理資料は、税抜の数字に揃えるのが比較しやすい方法です。
商品別の粗利率を単純平均すると全体の率を誤る理由と加重平均の式
商品別の粗利率を並べた表で、率の列を平均して「全体の粗利率」とするのは誤りです。
商品Aが売上100万円・粗利率50%、商品Bが売上900万円・粗利率10%の場合、率を単純平均すると30%になります。実際の全体の粗利額は50万円+90万円=140万円、売上高は1,000万円なので、粗利率は14%です。単純平均は、売上の小さい商品の率を実態以上に効かせてしまいます。
全体や部門の粗利率は、必ず粗利額の合計÷売上高の合計で出してください。これは売上高で重みを付けた加重平均と同じ結果になります。店舗別・担当者別の粗利率を合算するときも同じで、率どうしを足したり平均したりしないことが、集計表を作るときの第一のルールです。
Excelで粗利を計算する表の式と、SUMIFSで区分別に集計するときの設計
粗利を表計算で管理するなら、式よりも表の形が結果を左右します。明細を1行ずつ持つ形にしておけば、区分別の集計も落とし穴の回避も式で片づきます。
1行1明細の表に売上・原価・粗利・粗利率の4列を置く式の組み方
A列に商品区分、B列に数量、C列に売単価、D列に原単価を入力し、E列以降を式で埋める形を例にします。2行目の式は次のとおりです。
E2(売上金額) =B2*C2
F2(原価金額) =B2*D2
G2(粗利額) =E2-F2
H2(粗利率) =IF(E2=0,"",ROUND(G2/E2,3))
I2(逆算売価) =ROUNDUP(D2/(1-$K$1),-1) ※K1に目標粗利率(例 0.3)
全体の粗利率 =SUM(G2:G500)/SUM(E2:E500)
区分別の粗利率 =SUMIFS(G2:G500,A2:A500,"食品")/SUMIFS(E2:E500,A2:A500,"食品")
金額列なしの粗利額 =SUMPRODUCT(B2:B500,C2:C500)-SUMPRODUCT(B2:B500,D2:D500)
粗利率のH列は、売上0の行で「#DIV/0!」を出さないようIFで空欄にし、ROUND関数で小数第3位(0.1%単位)に丸めています。逆算売価のI列は、前章の「原価÷(1−率)」を10円単位で切り上げる式です。
区分別の集計は、SUMIFS関数で粗利額と売上高をそれぞれ合計してから割ります。H列の粗利率をAVERAGEIFSで平均しないのは、前章の単純平均の誤りを避けるためです。明細ごとの金額列を持たない表でも、SUMPRODUCT関数で数量と単価の積を合計すれば粗利額は出せます。原価率や売上原価の表の組み方はエクセルで原価率・売上原価を計算する式と崩れない表の設計を解説した記事でも扱っています。
商品マスタの原価をVLOOKUPで引くと過去月の粗利が書き換わる問題
明細のD列(原単価)を、商品マスタのシートからVLOOKUPやXLOOKUPで引いている表は多くあります。入力の手間は減りますが、この設計には落とし穴があります。
仕入先の値上げで商品マスタの原価を700円から760円に直した瞬間、参照している全行の原価が760円で計算し直されます。先月・先々月の明細まで新しい原価で再計算され、すでに報告した過去月の粗利が黙って変わるわけです。
防ぎ方は、月を締めた時点で原価の列を「値として貼り付け」で固定するか、明細に入力した時点の原価を値で書き込む運用にすることです。販売管理システムが売上明細に売上時点の原価単価を保存しているのは、まさにこの問題を避けるためです。システム側の明細の持ち方とExcel管理との違いは販売管理システムの機能とExcel管理との違いを解説した記事にまとめています。
Excel集計の限界と、販売管理・原価管理システムで粗利を自動算出する判断
ここまでの式と運用で、全社や商品区分別の粗利は表計算でも正しく出せます。問題になるのは、原価が後から動く取引が増えたときです。
原価の後確定と事後値引を表計算で追えなくなる月次の作業量の目安
表計算が破綻し始めるのは、次のような作業が毎月発生するようになった段階です。
- 外注費や仕入の請求書が翌月に届き、見込で入れた原価を確定額へ差し替える行が月に数十行ある
- 得意先別の事後値引やリベートを、どの商品・どの案件の売上から引くかを手作業で割り振っている
- 受注・在庫・工数のデータが別々のファイルにあり、案件別の粗利を出すために毎月突き合わせている
1つめは、見込の原価と確定の原価のどちらが入っているかを行ごとに区別しないと、粗利の数字が月をまたいで二重に動きます。表計算でも「見込/確定」の列を足せば管理はできますが、差し替えの漏れを見つける仕組みはありません。突き合わせと差し替えに毎月20時間以上かかっているなら、仕組みに載せる費用と比べる段階です。原価の集計と差異分析を担うシステムの全体像は原価管理システムの機能と原価計算との違いを解説した記事で解説しています。
原価管理システムで案件別の見込粗利と確定粗利を自動で出す場面と見送る場面
受託開発・工事・制作のように1件ごとに原価が積み上がる事業では、案件別に「受注時の見込粗利」と「完了後の確定粗利」を並べて出せるかどうかが、システム化の効果を分けます。見積の原価積算、工数の実績、外注費の請求を1つのデータにまとめておけば、進行中の案件も「実績原価+残りの見込原価」で着地の粗利を毎日確認でき、赤字案件に完了前に気づけます。
既存の販売管理や会計ソフトのデータを残したまま案件別の粗利を自動で出したい場合は、原価管理システム開発のように工数・外注・見積のデータ連携から設計できる相談先を選ぶと、表計算の突き合わせ作業そのものを無くせます。
見送るべき場面もはっきりしています。扱うのが在庫品の物販だけで、原価が仕入時に確定する会社なら、パッケージの販売管理システムの粗利帳票で足ります。原価の範囲や按分のルールが社内で決まっていない段階も同じで、先に表計算で3か月ほど計算の手順を回し、ルールを固めてから仕組みに載せるのが順番です。
よくある質問
粗利計算について、よく挙がる質問に答えます。
粗利率30%にするには売価をいくらにすればよいですか?
原価を0.7で割った金額が売価です。原価700円なら1,000円、原価1,400円なら2,000円になります。一般に「売価=原価÷(1−目標粗利率)」で求め、粗利率30%なら原価の約1.43倍です。原価に1.3を掛けると粗利率は23.1%にしかならないので注意してください。値下げや廃棄が見込まれる商品は、その分を上乗せした率で逆算すると、実績の粗利率が目標に近づきます。
粗利率と利益率は同じですか?
同じとは限りません。粗利率は売上総利益を売上高で割った率を指しますが、「利益率」は文脈によって営業利益率や経常利益率、当期純利益率を指すことがあります。粗利から販管費を引いた営業利益を売上高で割ったのが営業利益率で、粗利率より必ず低くなります。社内資料で「利益率」と書くときは、どの段階の利益かを明記してください。営業利益率の計算は営業利益率の計算式と部門別に出す配賦設計を解説した記事で扱っています。
粗利計算に人件費は含めますか?
製造や案件に直接従事した人の人件費は売上原価に含め、粗利を計算する前に差し引きます。工場の作業者や、受託開発で案件に就いたエンジニアの労務費がこれにあたります。営業担当や経理・総務など管理部門の人件費は販管費に置き、粗利の計算には含めません。小売や飲食では店舗スタッフの給与を販管費に置く会社が多く、そのぶん粗利率は高く出ます。
粗利率と原価率はどういう関係ですか?
足すと100%になる関係です。原価率は売上原価を売上高で割った率で、粗利率は粗利額を売上高で割った率なので、原価率70%なら粗利率は30%です。どちらも分母は売上高で、原価を分母にする値入率(原価基準)とは別物になります。飲食業では原価率、小売業では粗利率や値入率を使う慣行がありますが、指している中身は同じ売上と原価の比です。
粗利率を計算するときの端数処理はどうしますか?
管理資料では小数第1位までの百分率(例:23.1%)に四捨五入するのが一般的です。ExcelならROUND(粗利額/売上高,3)で小数第3位に丸め、表示形式をパーセントにします。気をつけたいのは、明細ごとに丸めた粗利率を集計に使わないことです。丸めた率から粗利額を逆算すると合計が合わなくなるため、集計は丸める前の金額で行い、最後に率を出してから丸めてください。
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