給与支払報告書は、会社が従業員に払った前年の給与額を、従業員が住む市区町村へ報告する書類です。市区町村はこの報告をもとに個人住民税の額を決め、5月ごろに会社へ特別徴収税額を通知します。この記事では、誰の分をどこへいつまでに出すのか、総括表と個人別明細書の書き方、普通徴収へ切り替えるときの符号を順に整理します。令和8年分(令和9年1月提出分)からは、給与支払報告書を市区町村に出せば税務署へ源泉徴収票を出したものとみなされる制度が始まりました。後半では、この改正で給与支払報告書の誤りが持つ重みがどう変わるか、給与システムでどこまで自動化できるかを判断します。
まとめ:令和8年分の給与支払報告書は令和9年2月1日までに市区町村へ提出
提出先は、受給者ごとに令和9年1月1日現在の住所地の市区町村です。期限は法定では1月31日ですが、令和9年は日曜日にあたるため2月1日(月)になります。
対象者の線引きは単純です。1月1日に在職している人は、パートや乙欄の人も含めて金額にかかわらず全員分を出します。年の途中で退職した人は、その年の支払額が30万円以下なら省略でき、30万円を超えれば退職時の住所地へ出します。
令和8年分から大きく変わるのは、給与支払報告書が税務署向けの源泉徴収票を兼ねるようになった点です。税務署への源泉徴収票の提出がなくなる代わりに、市区町村へ出したデータが税務署にも連携されます。誤りの訂正も、eLTAXなら給与支払報告書を「訂正」で出し直すだけで済みます。
システム面での結論も先に示します。給与計算システムが年末調整と給与支払報告書の出力に対応していれば、新たに作るものはほとんどありません。手を入れる価値があるのは、住所・退職日・普通徴収の区分が人事と給与で別々に管理され、提出前の突き合わせを毎年手作業でしている会社です。
給与支払報告書とは何か:地方税法317条の6が定める提出義務と住民税の決まり方
給与支払報告書は、源泉徴収票と記載項目がほぼ同じなので混同されやすい書類です。違いは提出先と目的にあります。
地方税法317条の6が定める提出者・提出先・期限と住民税額が決まるまで
提出義務の根拠は地方税法317条の6第1項です。1月1日現在で給与を支払っていて、所得税の源泉徴収義務がある者は、1月31日までに、受給者の1月1日現在の住所所在の市町村別に給与支払報告書を作り、その市町村長に出さなければなりません(e-Gov法令検索 地方税法)。法人だけでなく、従業員を雇う個人事業主も同じ義務を負います。
報告を受けた市区町村は、前年の給与所得をもとに個人住民税を計算し、会社に特別徴収税額を通知します。会社は6月から翌年5月までの12回に分けて給与から天引きし、納入する流れです。住民税の額がどう決まるかの具体例は住民税の年収別早見表と市町村民税所得割額の確認方法で確認できます。
総括表と個人別明細書の2種類で構成され、源泉徴収票と同じ給与データから作る
給与支払報告書は、事業所の情報と人数をまとめた「総括表」と、受給者1人ごとの「個人別明細書」の2種類で1組です。国税庁のQ&Aは、源泉徴収票に書くべき事項は給与支払報告書に書くべき事項の中にすべて含まれていると説明しています(国税庁 源泉徴収票のみなし提出の特例に関するQ&A(令和8年4月))。
つまり個人別明細書は、年末調整の結果を源泉徴収票と同じ形で書き出したものです。違いは、市区町村向けには16歳未満の扶養親族のマイナンバーも書く点と、受給者に渡す源泉徴収票にはマイナンバーを書かない点にあります。
提出対象者と提出先:1月1日在職者は全員、退職者は30万円超を退職時の住所地へ
「給与支払報告書 提出不要」と検索される場面の多くは、退職者の扱いです。在職者と退職者で、条文の項が分かれています。
1月1日に在職する受給者は金額や雇用形態にかかわらず全員が対象になる理由
317条の6第1項には金額の基準がありません。そのため1月1日に在職している人は、年収50万円のパートも、他社が主たる勤務先で乙欄を適用している人も、全員分を出します。役員報酬だけを受ける社長1人の会社でも、社長の分の提出が必要です。
源泉徴収票の税務署提出には、改正前まで「年末調整をした一般の社員は500万円超だけ」という基準がありました。給与支払報告書にはこの基準がもともと無く、令和8年分からは源泉徴収票の提出範囲のほうが給与支払報告書に揃えられています。
年の途中で退職した人は30万円以下なら省略でき、退職時の住所地へ出す
年の途中で退職した人については、317条の6第3項が別に定めています。退職した日の属する年の翌年1月31日までに、退職した日現在の住所地の市区町村へ出すのが原則で、その年の支払額の総額が30万円以下の人は提出を要しません。令和8年3月に退職して支払額が24万円だったアルバイトなら、出さなくてよいということです。
見落としやすいのが同条第2項の届出です。1月に提出した給与支払報告書に載せた人のうち、4月1日現在で給与の支払を受けなくなった人がいれば、4月15日までにその旨を届け出ます。1月から3月に退職者が出た会社は、給与支払報告書を出した後にもう一度、市区町村への手続きが発生します。
令和8年分の提出期限と提出方法:令和9年2月1日とeLTAX・光ディスク・書面
期限と方法は、例年の感覚で進めると外れる箇所がいくつかあります。
令和9年2月1日(月)が期限になる理由と送信可能日がまだ決まっていない現状
国税庁の「令和8年分 給与所得の源泉徴収票等の法定調書の作成と提出の手引」は、給与支払報告書の提出期限を在職者・退職者のいずれも令和9年2月1日(月)と案内しています(国税庁 令和8年分 法定調書の作成と提出の手引)。1月31日が日曜日にあたるためです。
一方、eLTAXでの令和8年分の送信可能日は、地方税共同機構の特設ページで「現在未定」とされています(2026年11月5日時点)。同じページによると、令和8年分以後は「総務省通知形式CSV」を使い、令和7年分以前の「統一CSVレイアウト」は使えません。その仕様書は暫定版を11月中旬、確定版を12月上旬に公開する予定です(地方税共同機構 給与支払報告書等の提出に係る特設ページ)。給与システムのベンダーがこの形式に対応する時期も、それに連動します。
前々年の源泉徴収票30枚以上でeLTAX等が義務になる判定と改正前の範囲での数え方
提出方法はeLTAX、光ディスク等、書面の3つです。前々年に税務署へ出すべきだった給与所得の源泉徴収票が30枚以上なら、eLTAXか光ディスク等で出す義務があります(国税庁 タックスアンサーNo.7455)。令和9年1月提出分からは、基準が100枚以上から30枚以上に下がりました。
数え方には注意が要ります。Q&Aの問9によると、基準年の枚数は改正前の提出範囲で数えます。年収600万円で年末調整済みの社員20人と、年収40万円の乙欄の人15人の会社なら、改正前の範囲に入るのは20枚だけで、義務はありません。書面で出す場合は市区町村ごとに封筒を分けて送ることになり、従業員の住所が20の市区町村に散らばっていれば20通です。eLTAXなら提出先へ自動で振り分けられます。CSVの形式や給与システムからの送信方式はeLTAXとは(電子申告・共通納税の仕組みと給与システム連携)で整理しています。
総括表と個人別明細書の書き方:普通徴収の切替理由と摘要欄で差し戻しを防ぐ
書き方で差し戻しや誤った課税につながりやすいのは、金額欄よりも人数と区分の欄です。
総括表に書く受給者総人員・報告人員と特別徴収・普通徴収の人数の内訳
総括表は市区町村ごとに1枚作ります。主な記載事項は、給与支払者の名称と法人番号、提出先市区町村での指定番号、受給者総人員、その市区町村へ出す報告人員と、その内訳としての特別徴収対象者・普通徴収対象者(退職者とそれ以外)の人数です。年末調整の担当者と連絡先も書きます。
受給者総人員は会社全体の人数、報告人員はその市区町村の分だけ、という違いが混同されがちです。金沢市の総括表の記載例でも、受給者総人員と報告人員は別の欄で、報告人員の内訳として特別徴収と普通徴収の人数を書く形になっています。指定番号は市区町村ごとに異なるため、提出先ごとの番号を給与システム側のマスタに持たせておくと、書面でも電子でも記入漏れが防げます。
普A〜普Fの普通徴収切替理由と自治体ごとに異なる普Cの金額基準
所得税の源泉徴収義務がある会社は、原則として全員の住民税を特別徴収します。例外として普通徴収にできるのは、次の6つの理由に当たる人だけです。個人別明細書の摘要欄に符号を1つ書き、書面なら普通徴収切替理由書を添えます。
| 符号 | 普通徴収にできる理由 |
|---|---|
| 普A | 普B〜普Fを除いた総従業員数が2人以下 |
| 普B | 他の事業所で特別徴収(乙欄適用者など) |
| 普C | 給与が少なく税額を引けない |
| 普D | 給与の支払が毎月でない |
| 普E | 事業専従者(個人事業主のみ) |
| 普F | 退職者、5月末日までの退職予定者、休職者 |
金沢市の注意事項は、この6項目以外の理由、たとえば本人の希望や経理担当者がいないことでは切り替えられないと明記しています(金沢市 普通徴収切替理由書の記入における注意事項)。普Aの2人以下は、他の市区町村に住む従業員も含めて事業所全体で判定します。
システム化で問題になるのは普Cの基準です。金沢市の資料は普Cの例を「年間の給与支給額が106.5万円以下」としていますが、世田谷区の普通徴収切替理由書は「100万円以下」です。神戸市は普通徴収の略号を普A〜普Fではなく「a〜d」の4区分で案内しています(神戸市 2026(令和8)年度の給与支払報告書の提出)。金額基準や略号を給与システムに固定値で埋め込むと、提出先や年度が変わったときに誤判定します。eLTAXで出す場合、金沢市・世田谷区の案内では普通徴収欄に「1」を入れたうえで摘要欄に符号を入力し、切替理由書の添付は不要です。
個人別明細書で源泉徴収票と記載が分かれるマイナンバー欄と摘要欄の書き方
個人別明細書の金額欄は、年末調整後の源泉徴収票と同じ値を書きます。違いが出るのは次の欄です。
- 16歳未満の扶養親族のマイナンバー(給与支払報告書には記載し、受給者交付用の源泉徴収票には書かない)
- 摘要欄の普通徴収の符号(普Fの退職予定者は退職予定日も書く)
- 中途入社した人の前職分の支払額と社会保険料(年末調整で合算した場合)
国税庁の手引は、退職手当等の支払を受ける一定の配偶者・扶養親族・特定親族のマイナンバーも給与支払報告書に記載するよう案内しています。扶養控除等申告書で集めた家族のマイナンバーが給与システムに入っていないと、この欄が空欄のまま出ることになります。
令和8年分からの変更点:給与支払報告書が源泉徴収票の提出を兼ねる仕組み
令和5年度税制改正で決まった「源泉徴収票のみなし提出の特例」が、令和8年分で初めて実務に入ります。
みなし提出の条件と受給者交付用の源泉徴収票が引き続き必要になる範囲
令和9年1月1日以後に提出すべき令和8年分以後の給与支払報告書を市区町村に出すと、税務署に給与所得の源泉徴収票を出したものとみなされます(国税庁 源泉徴収票のみなし提出の特例 特設ページ)。eLTAX、光ディスク等、書面のどの方法で出しても対象で、記載事項を追加する必要もありません。市区町村に出された内容は、入力された後に税務署へデータ連携されます。
逆方向は成り立ちません。源泉徴収票を税務署に出しても、給与支払報告書を出したことにはならない仕組みです。受給者本人に渡す源泉徴収票は、これまでどおり全員分を作って交付します。源泉徴収票と給与支払報告書を同時に作れた「eLTAXでの電子的提出の一元化機能」は令和8年9月で終了しました。税務署側の法定調書全体への影響は法定調書とは(種類と提出範囲、令和8年分の変更点)で扱っています。
誤りに気づいたときの訂正:令和8年分はeLTAXの「訂正」一本、令和7年分以前は別々
Q&Aの問12によると、eLTAXで出した令和8年分の給与支払報告書に誤りがあれば、提出区分を「訂正」にして出し直します。訂正した給与支払報告書を出せば、税務署にも訂正後の源泉徴収票を出したものとみなされ、無効分と訂正分を税務署に出す必要はありません。光ディスク等や書面で出した分の訂正方法は市区町村ごとに異なります。
令和7年分以前の誤りは特例の対象外です。源泉徴収票の無効分と訂正分を税務署へ、訂正した給与支払報告書を市区町村へ、それぞれ出します。年をまたいで過去分を直すときに、この2つの経路が混在する点に注意してください。
提出しない場合や虚偽記載の罰則と、税務署から内容の確認が来る経路
給与支払報告書を出さなかったとき、または虚偽の記載をしたものを出したときは、地方税法317条の7により「一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金」の対象になります。法人の従業者が業務として違反したときは、行為者のほか法人にも罰金刑が科される両罰規定です。
みなし提出が始まっても、税務署への源泉徴収票の提出義務そのものは残っています。Q&Aの問15によると、市区町村に出した給与支払報告書の内容について税務署から確認の連絡が来る場合があるとの説明です。これまで給与支払報告書の誤りは住民税の再計算で済んでいましたが、令和8年分からは所得税の資料としても読まれます。
給与システムで給与支払報告書を出すときの判断:パッケージで足りる範囲と連携開発
給与支払報告書の作成で詰まるのは、計算よりも「誰を、どの市区町村に、どの区分で出すか」の判定です。ここでは仕組みにする範囲を言い切ります。
提出前に給与データで照合したい1月1日の住所・退職日・普通徴収区分
市販の給与計算システムの多くは、年末調整の結果から給与支払報告書を作り、eLTAX向けのファイルを出力できます。それでも提出前に人の目での照合が残るのは、元データが給与システムの外にある次の項目です。
| 項目 | ずれる原因 | 起きること |
|---|---|---|
| 1月1日の住所 | 12月の転居届が人事にだけ届く | 旧住所の市区町村に提出される |
| 退職日と支払総額 | 退職処理と最終給与の締めの時期が違う | 30万円以下の判定や普Fを誤る |
| 普通徴収の符号 | 前年の区分が引き継がれたまま | 特別徴収すべき人が普通徴収になる |
| 扶養親族のマイナンバー | 扶養控除等申告書の回収漏れ | 個人別明細書の番号欄が空欄 |
中でも住所は、令和9年1月1日時点の値が要るのに、年末調整の申告書を回収するのは11月から12月です。年末の転居を拾えるのは、人事システムの住所変更履歴と突き合わせたときだけです。給与計算システムの機能と種類の比較は給与計算システムとは(機能・種類・比較の観点)で整理しています。
パッケージで足りる会社と人事・給与データの連携開発を検討すべき会社の条件
従業員が数十人で、入退社が年に数件、住所変更も給与システムに直接入力している会社なら、給与計算システムの標準出力とPCdeskで足ります。総務省通知形式CSVへの対応もベンダーの更新を待てばよく、自社で作るものはありません。
仕組みを作る価値があるのは、人事システムと給与システムが別製品で、住所・退職日・休職の情報を毎年CSVの手作業で突き合わせている会社です。拠点ごとに給与支払者が分かれていて、普Aの「事業所全体で2人以下」の判定や提出先市区町村の数が数百に及ぶ会社も該当します。この段階では、人事側の異動履歴から1月1日時点の住所と在籍状態を確定し、普通徴収の区分を提出先ごとの基準で判定して給与システムへ渡す連携が必要です。既存の人事・給与の仕組みにこの照合を組み込めるかを検討したい場合は、人事・労務管理システム開発の相談窓口で、現在のデータの置き場所から確認できます。
逆に、給与支払報告書のためだけに給与システムを入れ替えるのは見送るべきです。帳票の出力はどの製品でもできており、ずれの原因は製品ではなく住所と退職日の入力経路にあります。
よくある質問
給与支払報告書について、人事・給与の担当者からよく寄せられる質問に答えます。
給与支払報告書と源泉徴収票の違いは何ですか?
給与支払報告書は住民税を計算するために市区町村へ出す書類で、源泉徴収票は所得税の資料として税務署へ出し、受給者本人にも交付する書類です。記載項目はほぼ共通で、同じ年末調整の結果から作ります。令和8年分からは、給与支払報告書を市区町村に出せば税務署への源泉徴収票の提出は不要になりました。ただし本人への源泉徴収票の交付は引き続き全員分が必要で、市区町村向けには16歳未満の扶養親族のマイナンバーも書くという違いがあります。
パートやアルバイトで年収が少ない人も給与支払報告書は必要ですか?
1月1日に在職している人なら、年収の多少にかかわらず必要です。地方税法317条の6第1項に金額の基準がないためです。給与が少なく住民税を天引きできない人は、摘要欄に普Cなどの符号を書いて普通徴収に切り替えます。年の途中で退職した人だけは、その年の支払額が30万円以下であれば提出を省略できます。
役員だけの会社や社長1人の会社でも提出が必要ですか?
必要です。役員報酬も給与等に含まれ、所得税の源泉徴収義務がある会社は役員分の給与支払報告書を出します。摘要欄に役職名を書くよう求める市区町村もあるため、様式の記入例に従ってください。総従業員数が2人以下なら、普Aの理由で住民税を普通徴収にすることもできます。役員報酬が0円の年は給与の支払がないため、源泉徴収義務の有無を含めて提出先の市区町村に確認してください。
給与支払報告書の提出が期限に遅れたらどうなりますか?
市区町村は届いた給与支払報告書から住民税を計算するため、遅れると特別徴収税額の通知が遅れ、6月からの天引きに間に合わないことがあります。従業員本人に普通徴収の納税通知書が届いてしまう場合もあります。期限を過ぎても提出自体は受け付けられるので、気づいた時点で速やかに出してください。提出しないままにすると、地方税法317条の7の罰則の対象になりえます。
給与支払報告書の用紙はどこで入手できますか?
前年に提出実績のある事業所には、市区町村から総括表が送られてくるのが一般的です。届かない場合は、各市区町村のホームページから様式をダウンロードすることが可能です。江東区のように令和8年度から個人別明細書の様式を変えた自治体もあり、古い様式では正しく課税できないと案内されています。eLTAXで提出する場合は用紙が不要で、給与システムが出力したファイルかPCdeskの入力画面から作成します。
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