給与明細の作成は、勤怠を締めて支給額を出し、社会保険料・雇用保険料・所得税・住民税を順に引いて差引支給額を確定する作業です。書式は自由ですが、計算に使う料率表と税額表は毎年差し替えが必要です。この記事では、月給24万円・残業8時間の従業員1人を例に、令和8年度の協会けんぽ東京支部の保険料額表と国税庁の令和8年分の源泉徴収税額表を使って明細1枚を作るまでを7工程で追います。後半では、エクセルで自作する場合のシート構成と数式、無料テンプレートや給与計算ソフトに切り替える目安を解説します。
まとめ:給与明細の作成は7工程の計算と交付前の検算、表計算を続ける条件
給与明細は、勤怠の締め、時間外手当、総支給額、社会保険料、雇用保険料、源泉所得税、住民税と差引支給額の7工程で作ります。この記事の計算例では、総支給額265,000円から控除合計52,129円を引き、差引支給額は212,871円になりました。
手作業で誤りが出やすいのは計算式そのものより、毎年1月・3月・4月に替わる税額表と料率の差し替えです。表計算で作るなら、料率と税額表を明細と別のシートに分け、50銭基準の端数処理を数式で組みます。交付前には振込額や扶養人数など5項目を照合してください。
月給制だけで従業員が少なく、手当が定型の会社なら表計算でも回ります。時給制や独自の手当が増え、差し替えと検算に毎月半日以上かかるようになったら、給与計算ソフトへ移る時期です。
給与明細の作成前にそろえる7種類の資料と、料率表・税額表を差し替える時期
明細の数字は、どれも会社の外から届く資料か、社内の記録から来ています。先に資料をそろえておくと、計算の途中で手が止まりません。
勤怠記録から源泉徴収税額表まで、明細の各欄に対応する7種類の資料と入手先
給与明細の欄と、その数字の元になる資料の対応は次のとおりです。
| 資料 | 使う欄 | 入手先 |
|---|---|---|
| 出勤簿・タイムカード | 勤怠欄・時間外手当 | 社内の勤怠記録 |
| 賃金規程・雇用契約書 | 基本給・手当 | 社内 |
| 標準報酬月額の決定通知書 | 社会保険料 | 日本年金機構 |
| 保険料額表 | 健康保険料・厚生年金 | 協会けんぽ・健保組合 |
| 雇用保険料率表 | 雇用保険料 | 厚生労働省 |
| 扶養控除等申告書と税額表 | 源泉所得税 | 従業員・国税庁 |
| 特別徴収税額の決定通知書 | 住民税 | 市区町村 |
見落としやすいのは扶養控除等申告書です。提出のない従業員は税額表の乙欄で計算するため、甲欄より税額が大きく変わります。入社時に回収できているかを、最初の明細を作る前に確かめてください。
1月の税額表・3月の健康保険料率・4月の雇用保険料率と支援金の切替時期
資料のうち3つは、年に1回中身が替わります。切り替わる月がそろっていない点に注意が要ります。
- 源泉徴収税額表:国税庁が年分ごとに公表し、令和8年分の源泉徴収税額表は2026年1月以後に支払う給与から使います。基礎控除の見直しを反映した版で、月額表の甲欄(扶養0人)は社会保険料等控除後の金額が105,000円未満なら税額0円です。
- 健康保険料率と介護保険料率:協会けんぽ東京支部の保険料額表は令和8年3月分(4月納付分)からで、健康保険9.85%、介護保険込みで11.47%です。
- 子ども・子育て支援金:協会けんぽの支援金率は0.23%で、令和8年4月分(5月納付分)から加わりました。明細への載せ方と端数処理は子ども・子育て支援金の給与明細の記事で解説しています。
- 雇用保険料率:厚生労働省の令和8年度の料率は、一般の事業で労働者負担5/1,000、事業主負担8.5/1,000です。
表計算のテンプレートを前の年から引き継いでいる会社は、この4つの差し替えを済ませたかを毎年1月と4月に確認してください。料率の改定月と控除する月の関係は社会保険料の計算方法と令和8年度の料率で詳しく扱っています。
月給24万円・残業8時間の従業員で追う、給与明細の作成手順7工程と計算例
ここからは1人分の明細を実際に作ります。条件は次のとおりです。
- 協会けんぽ東京支部・一般の事業、2026年10月支給分、社会保険料は翌月徴収
- 基本給240,000円、通勤手当10,000円(全額非課税の範囲)、時間外労働8時間
- 35歳(介護保険料なし)、標準報酬月額260,000円、扶養控除等申告書の提出あり・扶養親族等の数0人
- 住民税の特別徴収税額(月額)9,000円
工程1〜3:勤怠の締めと月平均所定労働時間160時間で出す時間外手当
工程1は勤怠の締めです。出勤日数、欠勤・遅刻早退、法定時間外・深夜・休日の労働時間を、賃金計算期間ごとに集計します。欠勤や遅刻があれば、ここで控除額の元になる時間を確定させます。計算方法は勤怠控除の計算方法と端数処理を参照してください。
工程2が時間外手当です。月給の1時間あたりの単価は、労働基準法施行規則第19条第1項第4号により、月給を月の所定労働時間数で割って出します。月によって所定労働時間が違う会社は、1年間の1か月平均を使います。年間所定労働日数240日・1日8時間なら、240日×8時間÷12か月=160時間です。
単価は240,000円÷160時間=1,500円で、労働基準法第37条の割増率25%をかけると1,875円になります。8時間分で時間外手当は15,000円です。通勤手当は同施行規則第21条などで割増賃金の基礎から除かれるので、単価の計算に入れません。工程3で基本給・時間外手当・通勤手当を足し、総支給額は265,000円です。
工程4〜5:標準報酬月額26万円の社会保険料と雇用保険料の控除額
工程4の社会保険料は、その月の総支給額ではなく標準報酬月額で計算します。260,000円は東京支部の額表で健康保険20等級(報酬月額250,000円以上270,000円未満)にあたり、額表の折半額をそのまま使えます。
| 項目 | 計算 | 本人負担 |
|---|---|---|
| 健康保険料 | 260,000円×9.85%÷2 | 12,805円 |
| 子ども・子育て支援金 | 260,000円×0.23%÷2 | 299円 |
| 厚生年金保険料 | 260,000円×18.3%÷2 | 23,790円 |
| 雇用保険料 | 265,000円×5/1,000 | 1,325円 |
| 合計 | - | 38,219円 |
工程5の雇用保険料だけは、標準報酬月額ではなく実際に支払った賃金総額にかけます。通勤手当も賃金に含めるので、基礎は265,000円です。40歳以上の従業員なら、健康保険料の欄は介護保険料込みの14,911円に替わります。
工程6:社会保険料控除後216,781円を月額表の甲欄に当てて出す所得税
源泉所得税は、総支給額から非課税の通勤手当と社会保険料を引いた金額で税額表を引きます。265,000円-10,000円-38,219円=216,781円です。
令和8年分の月額表で216,781円が入るのは「215,000円以上217,000円未満」の行で、甲欄・扶養親族等の数0人の税額は4,910円です。同じ行で扶養1人なら3,300円、扶養控除等申告書を出していない乙欄なら24,700円になります。乙欄との差は約2万円で、申告書の回収漏れがいかに明細を狂わせるかがわかります。
工程7:住民税の特別徴収税額を引いた差引支給額と完成した明細1枚
住民税は計算しません。市区町村から届く特別徴収税額の決定通知書に書かれた月額を、6月分から翌年5月分まで毎月そのまま引きます。例では9,000円です。ここまでを1枚にまとめると、明細は次の形になります。
| 区分 | 項目 | 金額 |
|---|---|---|
| 勤怠 | 時間外労働時間 | 8時間 |
| 支給 | 基本給 | 240,000円 |
| 支給 | 時間外手当 | 15,000円 |
| 支給 | 通勤手当(非課税) | 10,000円 |
| 支給 | 総支給額 | 265,000円 |
| 控除 | 社会保険料・雇用保険料 | 38,219円 |
| 控除 | 所得税 | 4,910円 |
| 控除 | 住民税 | 9,000円 |
| 控除 | 控除合計 | 52,129円 |
| 差引 | 差引支給額 | 212,871円 |
実際の明細では、社会保険料は健康保険・支援金・厚生年金・雇用保険を別々の行に分けます。従業員が額表と照らし合わせられるからです。各欄が法令のどの規定に対応するかは給与明細とは:記載項目の見方と交付義務の根拠で整理しています。
表計算で給与明細を自作するときのシート構成と、税額表・端数処理を組む数式
エクセルの給与明細で誤りが出る場所は、たいてい明細の書式ではありません。料率や税額を明細のセルに直接書き込んでいる箇所です。値と計算と出力を分けるだけで、毎年の差し替えが1か所で済みます。
従業員・料率・税額表・勤怠・明細の5シートに分けて手入力の箇所を減らす構成
シートは役割で5つに分けます。
| シート | 持つ値 | 更新する時期 |
|---|---|---|
| 従業員 | 基本給・手当・標準報酬・扶養数・住民税・生年月日 | 入社・昇給・9月・6月 |
| 料率 | 健保・支援金・厚生年金・雇用保険の料率と開始月 | 3月・4月 |
| 税額表 | 国税庁の月額表を貼った表 | 1月 |
| 勤怠 | 月ごとの出勤日数・時間外時間 | 毎月の締め |
| 明細 | 上の4シートを参照する数式だけ | 原則触らない |
表の標準報酬と住民税は月額、扶養数は扶養人数を指し、健保は健康保険、開始月は各料率の適用開始月です。明細シートに手で数字を打つ欄を残さないのが要点です。国税庁は税額表のExcel版も公開しているので、毎年1月にそれを税額表シートへ貼り替えるだけで済みます。生年月日を持っておけば、40歳に達した月から介護保険料を自動で足す判定も組めます。
50銭基準の端数処理と月額表甲欄の参照を組む数式例と、表の範囲外の扱い
明細シートの主な数式は次のとおりです。名前の付いたセル(名前の定義)を使うと、式の意味が読み取りやすくなります。
時間外手当 =ROUND(基本給/月平均所定労働時間*1.25*時間外時間,0)
健康保険料 =ROUNDUP(ROUND(標準報酬月額*健康保険料率/2,2)-0.5,0)
所得税(甲)=IF(課税対象額<105000,0,VLOOKUP(課税対象額,税額表!$A$1:$K$300,3+扶養人数,TRUE))
健康保険料の式は、協会けんぽの額表の注記にある「給与から控除する場合は50銭以下を切り捨て、50銭を超えたら切り上げ」を表しています。ROUND関数だけで丸めると、ちょうど50銭のときに1円多く引いてしまいます。内側のROUNDで小数第2位にそろえているのは、浮動小数点の誤差で、2,856.5円が2,856.5000001円のように扱われて切り上がるのを防ぐためです。
所得税の式は、税額表シートのA列に「以上」、B列に「未満」、C〜J列に扶養0〜7人、K列に乙欄を置く前提です。VLOOKUPの近似一致で「以上」の列を引きます。この式で扱えるのは105,000円以上740,000円以下の範囲までです。月額表は740,000円を超えると表ではなく算式で税額を定めているので、該当者がいる会社は別の式を足してください。時間外手当の1円未満の扱いは、賃金規程で定めた方法と式を合わせます。
税額表の参照と電算機計算の特例で30円ずれる理由と、どちらかに統一する判断
税額表を引く代わりに、算式で所得税を出す方法もあります。国税庁の令和8年分税額表の18ページにある「電算機計算の特例」で、給与計算を事務機械で処理していれば、月額表の甲欄の代わりに使えます。
工程6の216,781円で比べます。特例では給与所得控除が216,781円×30%+6,667円=71,701.3円(1円未満切り上げで71,702円)、基礎控除が48,334円です。差し引いた96,745円に5.105%をかけた4,938.8円を10円未満で四捨五入すると、税額は4,940円になります。税額表の4,910円と30円の差です。
どちらも国税庁が認める計算方法で、差は年末調整で精算されます。ただし同じ会社のなかで混ぜるのは避けてください。担当者の手計算は税額表、給与ソフトは特例という組み合わせだと、検算のたびに数十円の差が出て、本当の誤りと見分けられなくなります。表計算で作るなら、税額表の参照に統一するのが無難です。式が短く、国税庁のExcel版を貼れば済むからです。
給与明細を交付する前の検算5項目と、紙・PDF・Web明細それぞれの交付手順
明細は、交付したあとに直すと説明と精算の手間が倍になります。交付の前に検算を1回はさむだけで、問い合わせの大半は防げます。
振込額・非課税額・等級の改定月・扶養人数・住民税の切替を照合する検算5項目
毎月の明細で照合するのは、次の5項目です。上から順に、外れたときの影響が大きいものを並べています。
- 差引支給額の合計が、銀行に渡す振込データの合計と一致するか
- 通勤手当などの非課税額が、課税対象額から正しく除かれているか
- 9月分の定時決定や随時改定で標準報酬月額が変わった人の保険料が、改定月どおりに替わっているか
- 扶養控除等申告書の異動届が出た人の扶養人数と、乙欄の対象者が正しいか
- 6月支給分で住民税の月額が新年度の通知額に切り替わっているか
1は全員の合計で照合し、2〜5は該当者だけを抜き出して確認します。毎月全員を見直す必要はありません。前月の明細と比べて、控除額が動いた人だけを理由と突き合わせるやり方が効率的です。
紙・PDFメール・Web給与明細の交付手順と、電子交付の前に取る従業員の承諾
所得税法第231条は、給与を支払う者に支払明細書の交付を義務づけています。紙で手渡しするなら、支給日に封をして本人に渡すだけです。
PDFをメールで送る方法やWeb給与明細で見せる方法は、従業員の承諾を得てからでないと使えません。同意の取り方と書面で求められたときの対応は給与明細の電子化:所得税法の同意要件と移行手順、配信と本人認証の仕組みはWeb給与明細の配信・閲覧・本人認証の仕組みにまとめています。PDFをメールに添付する場合は、ファイルにパスワードをかけ、パスワードは別の経路で伝えてください。
無料テンプレート・給与計算ソフト・個別開発を、残る手作業の量で選び分ける基準
作り方の選択は、どれが便利かでなく、毎月と毎年に手作業がどれだけ残るかで決めます。
無料のExcelテンプレートや自動計算ツールで足りる会社と、毎年残る更新作業
給与計算ソフトの各社や会計ソフトの各社は、給与明細のExcelテンプレートを無料で配布しています。合計欄の足し算や差引支給額は自動で出ますが、料率と税額表を最新に保つのは使う側の仕事です。ダウンロードしたら、税額表が令和8年分か、支援金の行があるかを最初に確かめてください。
無料のテンプレートで足りるのは、月給制だけで従業員が10人前後、手当が通勤手当と固定の手当に限られる会社です。前の章の5シート構成にしておけば、毎年の差し替えは1月と3〜4月の2回、料率シートと税額表シートの貼り替えだけに集約できます。時給制のパートが加わると、勤怠シートの集計と雇用保険の対象判定が毎月の手作業として増えます。そうなったら表計算をやめる合図です。ほかの兆候は給与計算とは?業務の流れと年間スケジュールの表計算の章を参照してください。
給与計算ソフトへ移る条件と、勤怠・人事との連携を個別開発で組む会社の境界
市販の給与計算ソフトは、税額表と料率の差し替えをベンダー側で行います。就業形態が2〜3種類で手当が定型なら、ソフトの標準の明細で十分です。製品を比べる観点は給与計算システムとは?機能・種類・比較の観点で整理しています。
個別開発を検討するのは、ソフトの設定だけでは明細の数字が作れない会社です。歩合や独自の手当の計算規則が多い、勤怠システムや人事評価の結果を毎月CSVで手渡ししている、グループ会社ごとに給与規程が違う、という条件が2つ以上重なると、ソフトの周りに手作業が残ります。一創の人事・労務管理システム開発では、既存の給与計算ソフトを残したまま、勤怠や人事のデータを計算に渡す連携部分から設計します。逆に、従業員が数十人で手当が定型なら、個別開発の費用は回収できません。ソフトの標準機能で済ませてください。
よくある質問
給与明細の作成について、よく検索される質問に答えます。
給与明細は手書きで作成してもよいですか?
手書きでも問題ありません。給与明細の書式は法律で決まっておらず、所得税法施行規則第100条が記載を求める給与の金額や源泉徴収した所得税の額などが書かれていれば、手書きでも表計算でも有効です。ただし、手書きは計算の誤りを後から追いにくく、控えも残りにくいため、従業員が数人を超えたら表計算か給与計算ソフトに移るほうが確実です。
エクセルの無料テンプレートで給与明細を自動計算できますか?
合計や差引支給額の計算は自動化できます。一方、社会保険料の等級、源泉所得税の税額表、雇用保険料率は年ごとに替わるため、テンプレートの中の料率と税額表を自分で更新する必要があります。令和8年分の税額表と、2026年4月分から加わった子ども・子育て支援金の行が入っているかを、使い始める前に確認してください。
パート・アルバイトの給与明細の作り方は正社員と違いますか?
手順は同じで、違うのは単価と加入判定です。時給制なら時給そのものが割増賃金の単価になり、月平均所定労働時間で割る工程が要りません。社会保険と雇用保険は加入要件を満たす人だけが控除の対象です。扶養控除等申告書をほかの勤務先に出している人は乙欄で所得税を計算するため、同じ支給額でも税額が大きく変わります。
給与明細はいつまでに従業員へ渡す必要がありますか?
所得税法施行規則第100条は、給与を「その支払の際」に明細を交付するよう定めています。給与の支給日に渡すのが原則で、振込の場合も支給日までに手元に届くようにします。賞与も同じ扱いで、賞与を支払うときに賞与の明細を交付する決まりです。電子交付に切り替えている会社も、支給日までに従業員が明細を開ける状態にしておきます。
給与明細を作成するのは誰の担当ですか?
法律は「給与を支払う者」に交付を義務づけているので、会社の責任で作ります。実務では総務・経理・人事の担当者が作るか、社会保険労務士や給与計算の代行会社に委託します。委託しても交付義務は会社に残るため、委託先から届いた明細を交付前に検算する担当者は社内に置いてください。明細の控えと賃金台帳の保存期間は給与明細の保管期間と賃金台帳の5年で解説しています。
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