就業規則の作成は、モデル就業規則の下線部を埋めれば終わる作業ではありません。常時10人以上の事業場には作成と届出の義務があり、過半数代表者の選び方を誤れば意見聴取そのものが無効になります。この記事では、作成義務の範囲と人数の数え方、現状分析から周知までの作り方の手順を、厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)と東京都の就業規則作成の手引き(令和8年3月発行)で確認します。そのうえで、変形労働時間制やフレックスタイム制を勤怠システムに設定するとき、規則の段階で決め切っておかないと設定できない起算日や所定時間が、この記事で整理する対象です。
まとめ|就業規則を作成する順序と、勤怠システムで運用できる規則にする要点
作成義務は会社単位ではなく事業場単位で判断します。パートやアルバイトを含めて常時10人以上いる事業場が対象で、作成後は労働者代表の意見書を添えて労働基準監督署へ届け出て、周知した時点から効力が生じます。
作り方の順序は、現状の労働条件の洗い出し、方針の決定、モデル就業規則を土台にした草稿、条文形式の原案、過半数代表者の選出と意見聴取、届出、周知の7工程です。順序を飛ばして雛形を当てはめると、実態に合わない規則ができあがります。
見落とされやすいのは、労働時間制度の条文がそのまま勤怠システムの設定値になる点です。変形労働時間制の起算日、各日の所定時間、フレックスタイム制の清算期間は、規則で決まっていなければシステムに登録できません。モデル就業規則の割増率の例示を写すと、法定を上回る率を払う約束になる点にも注意が必要です。
就業規則の作成義務|常時10人以上の数え方と事業場ごとに作る範囲
「うちは作る必要があるのか」は、人数と事業場の切り方で決まります。ここを誤ると、義務のある事業場で規則が無い状態が続きます。
常時10人にパート・アルバイトを含める数え方と、数えない人の区別
労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に就業規則の作成と届出を義務づけています。東京都の手引きは、この10人に正社員だけでなくパートタイム労働者や契約社員も含まれると明記しています。週2日勤務のアルバイトも、日常的に雇っているなら1人として数える対象です。雇用契約のない業務委託先は労働者ではないため、数に入りません。
違反した場合は第120条により30万円以下の罰金の対象です。人数が9〜11人を行き来する会社は、10人に届いた月に慌てるより、9人の時点で作っておくほうが確実です。
本社と支店で人数が分かれる会社の作成単位と、本社一括届出の条件
厚生労働省のモデル就業規則の解説は、作成と届出を企業単位ではなく事業場単位で行うと整理しています。場所的・機能的に独立した営業所や店舗が、それぞれ1つの事業場です。本社25人・支店7人の会社なら、作成義務がかかるのは本社だけになります。
支店にも同じ規則を適用するのが通常の運用です。各事業場の規則が変更前・変更後とも本社と同一の内容である場合に限り、本社を管轄する監督署長を経由して一括で届け出られます。支店だけ休日や始業時刻が違うなら、一括届出の条件から外れる点に注意してください。
就業規則の作り方|現状分析から周知までの7工程と各工程で決めること
東京都の就業規則作成の手引きは、初めて作る使用者向けに作成工程を4段階に分けています。届出と周知までを含めると、全体は次の7工程です。
- 現状の分析:各人の労働条件と不文律の職場ルールを洗い出し、法令と照合する
- 大筋の方針決定:経営方針や人事制度のどこまでを規則に書くかを決める
- 草稿:モデル就業規則を土台に、自社の実態に合わせて条文を加除する
- 原案:章立てと条・項の形式を整え、表紙と目次を付ける
- 過半数代表者の選出と意見聴取:意見書を受け取る
- 届出:就業規則届・意見書・規則本体を所轄の監督署へ出す
- 周知:配付・掲示・電子媒体のいずれかで、全員が見られる状態にする
手間がかかるのは1と3です。現状分析を省いてモデルを当てはめると、手引きの表現どおり「実態にそぐわない使いにくい」規則になります。
現状分析で洗い出す労働条件と、法令違反を先に直すべき3つの典型
現状分析では、雇用区分ごとの始業・終業時刻、休憩、休日、賃金の締め日と支払日、手当の種類を一覧にします。口頭で運用している「遅刻3回で欠勤1日扱い」のような慣行も拾い出してください。条文にしてから違法と分かるより、この段階で直すほうが手戻りは小さく済みます。
先に直すべき典型は、次の3つです。1日8時間・週40時間を超える所定労働時間を変形労働時間制なしで組んでいる部署。6時間を超える勤務に45分の休憩が無いシフト。打刻を15分単位で切り捨てている運用です。いずれも規則に書いた瞬間に、違法な状態を自社の文書で認めることになります。
過半数代表者の選出要件:会社の指名や親睦会幹事の自動就任が無効になる理由
過半数労働組合が無い事業場では、労働者の過半数を代表する者から意見を聴きます。労働基準法施行規則第6条の2は、管理監督者でないこと、意見を聴かれる者を選ぶと明らかにした投票・挙手などで選ばれ、使用者の意向で選ばれていないこと、の両方を求めています。
東京都の手引きは、会社が指名した人や社員親睦会の幹事を自動的に充てた場合は無効になると明記しています。選出の手続にはパートやアルバイトも参加させます。求められるのは意見の聴取で、同意や協議までは必要ありません(昭和25年3月15日基収525号)。意見書には代表者の記名が必要です(労基則第49条第2項)。
届出と周知:書類の提出方法と、効力が生じる日を施行日で固定する方法
届出の書類は、就業規則届、意見書、規則本体の3点です。窓口・郵送のほか、厚生労働省の届出等の電子申請でも提出できます。部数や電子申請の画面の流れは、就業規則変更届の書き方と提出方法で手順ごとに整理しています。初回の作成届も書類の構成は同じです。
効力は届出ではなく周知で生じます。モデル就業規則の解説によれば、周知された時期以降で、施行期日が定められていればその日です。附則に「令和◯年◯月◯日から施行する」と書き、その日より前に周知を終えれば、効力の発生日と勤怠システムの切替日を同じ日にそろえられます。周知の方法は就業規則の閲覧と周知義務の要件で詳しく扱っています。
モデル就業規則の使い方|下線部の埋め方と、写すと危ない例示の見分け方
モデル就業規則は無料で使える出発点です。ただし、そのまま写してよい部分と、自社で決め直す部分が混在しています。
令和7年12月版の14章構成と、下線部に自社の数字を入れる作業の範囲
モデル就業規則(令和7年12月版)は、総則から副業・兼業までの14章で構成されています。令和7年12月の改訂では、第32条に議員立候補のための休暇の規程例が加わりました。下線部は「各事業場の実情に応じて具体的な名称や数字等を定める」箇所で、会社名や試用期間の長さなどが該当します。
注意したいのは、下線部の一部に解説用の数字があらかじめ入っている点です。1か月単位の変形労働時間制の規程例にある「7時間15分」は、説明のための例にすぎません。第4章の労働時間は、完全週休2日制・1か月単位の変形労働時間制・1年単位の変形労働時間制の3例から自社の制度に合う1つを選び、残りは削ります。各条文に何を書く義務があるかは、就業規則の絶対的・相対的記載事項で区分ごとに確認できます。
第40条の割増率35%・40%を写すと法定超の支払義務になる落とし穴
写すと危ないのが、第40条の割増賃金です。規程例は、1か月の時間外労働が45時間以下は25%、45時間超60時間以下は35%、60時間超は50%、1年360時間超は40%と定めています。法律が義務づける下限は時間外25%、月60時間超50%です。35%と40%は、特別条項付き36協定で限度時間を超える場合の率を例示したもので、規則に書けばその率で払う義務が生じます。
勤怠・給与システムの側では、月の起算日と年の起算日の2つを持ち、4段階の率を重ねて判定する設定が必要になります。月60時間の算定には法定休日の労働時間を含めず、法定外休日の時間外は含めます。払う意思のない率を写さず、自社で決めた率だけを書いてください。限度時間の考え方は36協定とはで扱っています。
本則と賃金規程・育児介護休業規程に分ける構成とパート用規則の要否
規則が長くなる会社は、本則とは別に賃金規程、退職金規程、育児・介護休業規程を設ける構成をとります。別規程も就業規則の一部なので、作成・変更のたびに意見聴取と届出が必要です。分ける利点は、法改正の多い育児・介護の規定だけを差し替えられることにあります。
モデル就業規則は主に通常の労働者を想定しています。解説は、パートタイム労働者や有期雇用労働者への各条項の適用可否を必ず検討し、必要なら別個の就業規則を作るよう求めています。パート用の規則を作るときは、パート・有期の過半数を代表する者の意見を聴く努力義務もかかります(パートタイム・有期雇用労働法第7条)。
労働時間制度の決め方|変形労働・フレックスを勤怠システムに設定する前提
作成段階で最も手戻りが大きいのは、労働時間制度の条文です。勤怠システムは、規則で決まっていない値を推測では補えません。
1か月単位の変形労働時間制:起算日と各日の所定時間、総枠177.1時間
1か月単位の変形労働時間制(第32条の2)は、労使協定または就業規則で、対象労働者の範囲、対象期間と起算日、各日・各週の労働時間、協定なら有効期間を定めて導入します。所定労働時間の合計は、40時間×暦日数÷7の総枠に収めます。31日の月は177.1時間、30日は171.4時間、28日は160.0時間です。
システム設定で詰まるのは時間外の判定です。昭和63年1月1日基発1号は、日ごと・週ごと・変形期間全体の3段階で判定するとしています。1日10時間と定めた日は10時間を超えた分から時間外になるため、各日の所定時間が登録されていなければ判定できません。起算日を給与の締め日の翌日と合わせると、月次集計をそのまま使えます。シフト制で各日の時間が月ごとに変わる業種の設定例は、交代勤務・変形労働時間制に強い勤怠管理システムの選び方が参考になります。
規則に「具体的には労使協定で定める」とだけ書く方法もあります。東京都の手引きによれば、この場合は協定が就業規則の一部となり、協定を結び直すたびに就業規則変更の手続が要ります。
1年単位の変形労働時間制とフレックスタイム制で規則に書く起算日と期間
1年単位の変形労働時間制は、就業規則への規定に加えて労使協定の締結と届出が必要です。1日10時間・1週52時間、連続労働は原則6日、対象期間が3か月を超えるなら労働日数は年280日が上限です。期間を区切って定める場合は、各期間の初日の30日前までに労働日と労働時間を特定します。途中で入社・退職した人は、実労働期間を平均して週40時間を超えた分を清算するため、システムに在籍期間ごとの再計算の機能が要ります。
フレックスタイム制は、清算期間の上限が3か月で、1か月を超える場合は協定の届出が必要です。規則と協定で決めるのは、清算期間と起算日、総労働時間、標準となる1日の労働時間、コアタイムを置くならその時刻です。標準となる1日の労働時間は、年次有給休暇を取った日の賃金の基準になります。コアタイムを置かない運用はスーパーフレックスタイム制の要件と残業代の計算で扱っています。
法内残業・有給の基準日・勤務間インターバルなど規則で決め切る項目
制度を選んだあとも、規則に書いておかないとシステムの設定値が決まらない項目が残ります。代表的なものは次のとおりです。
| 規則で決める項目 | 決めないと起きること | 勤怠システムの設定値 |
|---|---|---|
| 法内残業の扱い | 所定7.5時間超8時間以下の賃金率が不定 | 法内残業の割増の有無 |
| 法定休日の曜日 | 休日出勤に35%と25%のどちらを掛けるか不定 | 休日カレンダーの区分 |
| 年次有給休暇の基準日 | 入社日ごとに付与日がばらつく | 一斉付与日と前倒し日数 |
| 勤務間インターバル | 翌日の始業を繰り下げるか不定 | 重複時間の扱い |
所定労働時間が7時間30分の会社では、8時間までの30分を割増なしで払うか、割増するかを決めます。モデル就業規則の解説は、上回る約束をしていなければ通常の賃金でよいとする立場です。年次有給休暇の基準日は全員で統一することもでき、統一する場合の前倒し付与の設計は有給休暇の基準日と勤怠システムの付与設計で整理しています。勤務間インターバルは、モデル就業規則第22条に「重複部分を働いたものとみなす」「始業時刻を繰り下げる」の2例があり、どちらを選ぶかで設定が変わります。
自作・社労士依頼・システム設計の分担|作成段階で勤怠システムを見据える判断
誰が作るかと、システムをいつ合わせるかは、規則の複雑さで決まります。
モデルを土台に自作できる会社と、社労士に依頼すべき会社の分かれ目
自作で足りるのは、事業場が1つ、雇用区分が正社員とパートの2つ程度、労働時間が固定時間制で、手当が数種類という会社です。モデル就業規則の第4章の例1をほぼそのまま使え、変える箇所は下線部と賃金の条文に限られます。
社会保険労務士に依頼すべきなのは、変形労働時間制やフレックスタイム制を導入する会社、固定残業代を払っている会社、懲戒や休職の規定で過去に揉めた会社です。労使協定と規則の書き分け、不利益にならない経過措置の設計は、雛形からは作れません。規則が無いまま10人を超えてしまった会社も、現状の慣行と法令のずれが大きいことが多く、専門家の点検を先に入れるほうが安全です。
規則と勤怠システムを同時に設計すべき条件と、個別開発へ進む分岐点
規則とシステムを同時に設計すべきなのは、勤怠システムの導入や入替えを1年以内に予定している会社です。規則を先に固めてからシステムの制約に気づくと、変更届をもう一度出すことになります。パッケージの勤務パターンの登録数、変形期間の単位、割増率の段階数を確認してから条文を確定させると、手戻りは1回で済みます。
複数の事業場で別々の規則を持ち、1年単位の変形労働時間制と独自の割増率が重なる会社では、パッケージの標準機能で規則どおりに計算できないことがあります。その場合は、手作業の補正を続けるより、就業規則の条文どおりに計算する勤怠管理システムの個別開発を、規則の作成と並行して検討する価値がある場面です。逆に常時10人未満で勤務形態が1種類なら、システム化は急がず、表計算の出勤簿で規則どおりに計算できます。
よくある質問
就業規則の作成について検索されることの多い質問に、労働基準法と厚生労働省・東京都の資料の範囲で答えます。
就業規則は社労士に頼まず自分で作成してもよいですか?
作成できます。法律は作成者の資格を定めておらず、作成義務を負うのは使用者です。モデル就業規則の様式は厚生労働省のページでWord形式でも配布されています。ただし、雛形の例示をそのまま残すと、法定を上回る割増率や運用していない休暇制度まで約束することになります。自作する場合は、条文ごとに「この内容で実際に運用しているか」を確認し、労働時間制度が固定時間制以外なら、専門家の点検を受けてから届け出てください。
モデル就業規則をそのまま使ってもよいですか?
そのままでは使えません。モデル就業規則自身が「事業場の実態に合ったものとしなければならない」と述べ、下線部を各事業場の実情に応じて定めるよう求めています。第4章の労働時間は3つの例から1つを選ぶ形で、全部を残すと制度どうしが矛盾する構成です。第40条の割増率のように、法定を上回る率が例示されている条文もあります。社名と数字を埋めるだけでなく、自社で運用しない条文は削ってください。
パートやアルバイト用の就業規則は別に作る必要がありますか?
別の規則にする義務はありません。東京都の手引きによれば、就業規則は事業場のすべての労働者に適用されるため、一部の従業員だけの労働条件は、本則に特別な規定を盛り込むか、その従業員用の規則を作るかのどちらかで定めます。正社員用の規則の適用範囲を正社員に限定するなら、パート用の規則が無いとパートに適用される規則が無い状態になるため、注意が必要です。パート用の規則を作るときは、パート・有期の過半数を代表する者の意見を聴く努力義務もあります。
従業員が10人未満の会社でも就業規則を作成して届け出られますか?
作成も届出も任意でできます。義務がかからないだけで、作った規則は周知すれば効力を持つという扱いです。10人未満の段階で作っておくと、懲戒や休職の根拠を示せるほか、人数が10人を超えたときに意見聴取と届出だけで済みます。労働時間制度を変形労働時間制にする予定があるなら、勤怠システムの設定と合わせて最初から規定しておくと、後から規則とシステムの両方を直す手間を避けられます。
就業規則を作成したのに届け出ないと、どうなりますか?
常時10人以上の事業場なら、第89条違反として第120条により30万円以下の罰金の対象です。意見聴取(第90条)と周知(第106条)を怠った場合も同じ罰則がかかります。モデル就業規則の解説は効力の発生を周知の時期と結びつけており、届出の有無を条件にしていません。ただ、効力があることと法違反でないことは別の問題です。作成したら意見書を添えて速やかに届け出てください。
関連記事
- 勤怠管理システムとは?機能・種類・費用と失敗しない選び方を解説【2026年】:規則で決めた勤務パターンを登録する側の製品の選び方
- 給与計算システムとは?機能・種類・比較の観点から個別開発の判断まで解説:割増率と手当を計算式に落とす給与側の機能比較
- 勤怠管理とは?法律上の義務と管理項目・勤怠管理システム比較の観点を解説:規則とは別に会社が負う労働時間の把握義務
- 社労士が顧問先の勤怠システムを選ぶ判断:就業規則との整合と変形労働の設定・横断管理:社労士と一緒に規則とシステムを詰めるときの確認順序