就業規則は、従業員がいつでも閲覧できる状態に置くことが法律で決められています。根拠は労働基準法第106条の周知義務で、会社は掲示・備付け、書面の交付、パソコン等で常時確認できる状態のいずれかで規則を見せなければなりません。この記事では、従業員が就業規則を確認する場所と見せてもらえないときの相談先、退職者や応募者から閲覧を求められたときの扱いを整理します。後半では、社内ポータルや共有フォルダで閲覧させる場合の要件と、掲載範囲・権限・改定履歴・閲覧記録まで含めた閲覧環境の設計を、人事・総務の担当者向けに示します。
まとめ|就業規則の閲覧で会社が満たす条件と従業員が確認する方法
会社は、就業規則を従業員が自分で、いつでも見られる状態にしておく義務を負います。人事に申し出ないと見られない、管理職だけが持っている、という状態は周知になりません。違反は30万円以下の罰金の対象で、周知していない規則はトラブルの場面で会社の根拠として使えなくなるおそれがあります。
電子データで周知するなら、全員に閲覧の権限を与えることと、見方を知らせることの2点が要件です。パソコンを使わない現場職、パート、休職中の人まで含めて見られるかを確認してください。
従業員の側は、掲示場所、入社時の配付資料、社内ポータルの順に探し、見つからなければ人事に閲覧を依頼し、それでも見せてもらえなければ労働基準監督署に相談します。
就業規則の閲覧は周知義務の一部|労働基準法第106条と周知しない規則の効力
閲覧させる義務は、単独の規定ではなく周知義務から生じます。就業規則の記載事項や作成・届出の全体像は、就業規則とは何かと、絶対的・相対的記載事項の整理で扱っています。
第106条と施行規則第52条の2が定める3つの周知方法と30万円以下の罰金
労働基準法第106条第1項は、就業規則を労働者に周知させることを使用者に義務づけています。方法を定めているのは労働基準法施行規則第52条の2で、次の3つのいずれかです。
- 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること
- 書面を労働者に交付すること
- パソコン等のファイルに記録し、各作業場に労働者が内容を常時確認できる機器を設置すること
3つとも「労働者が自分で見られる」ことが共通の条件です。周知を怠れば第120条により30万円以下の罰金の対象になります。第106条が周知の対象にしているのは就業規則だけではありません。36協定などの労使協定と、法令の要旨も同じ方法で周知します。
周知していない規則は拘束力を持たないとした労働契約法第7条とフジ興産事件
周知は、罰則を避けるためだけの手続ではありません。労働契約法第7条は、合理的な労働条件を定めた就業規則を周知させていた場合に、その規則の労働条件が労働契約の内容になると定めています。裏返すと、周知していない規則は労働契約の内容として主張しにくくなります。
最高裁平成15年10月10日のフジ興産事件判決は、就業規則が拘束力を生ずるには、適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続が必要だと判断しました。労働基準監督署に届け出ていても、懲戒処分を受けた従業員の職場に規則が備え付けられていなかったことが問題になった事案です。厚生労働省のモデル就業規則の解説も、効力の発生時期を周知された時期以降としています。
就業規則はどこで見られるか|従業員が確認する方法と会社に閲覧を求める手順
ここからは、自分の会社の就業規則を確認したい従業員の方に向けた内容です。休暇の日数や退職の手続を調べたいとき、最初に確認する場所は決まっています。
掲示場所・配付された冊子・社内ポータルの3か所から探す確認方法
探す順番は、会社が採っている周知方法と同じです。事務所や休憩室の掲示板、総務の棚に備え付けられたファイル、入社時に渡された冊子や雇用契約書と一緒の資料、社内ポータルや共有フォルダの「規程集」「人事・総務」のページを確認します。労働条件通知書に「就業規則の閲覧方法」が書かれている会社もあります。
確認するときは、本体だけでなく別規程も探してください。賃金規程、退職金規程、育児・介護休業規程を別冊にしている会社は多く、給与や休業の細かいルールは本体に載っていません。手元の版の施行日も見ておくと、改定前の古い規則を読んでいないかを確かめられます。
見せてもらえないときに人事へ依頼し労働基準監督署へ相談する順序
どこにも見当たらない場合は、人事・総務の担当者に閲覧したいと伝えます。理由を説明する義務はありません。口頭で進まなければ、依頼した日付を残すためにメールで依頼します。
それでも閲覧できない場合は、事業場を管轄する労働基準監督署に相談できます。周知義務違反は第106条の違反であり、監督署による会社への指導の対象です。常時10人以上の事業場なら、そもそも作成・届出がされているかも確認してもらえます。
入社前の応募者・退職者・家族からの閲覧請求に会社が応じる義務の範囲
第106条が周知の相手として定めるのは、その事業場の労働者です。応募者や内定前の人、退職した人、従業員の家族は対象に含まれません。会社は閲覧請求に応じる義務を負わず、社外秘として断ることもできます。
ただし、退職者が未払い残業代を請求する場面などでは、在職中に適用されていた規則が争点になります。旧版の規則を保存していないと、会社自身が当時のルールを説明できません。応じる義務の有無とは別に、版ごとの保存が必要な理由です。内定者には、入社日までに労働条件通知書と合わせて閲覧方法を案内しておくと、入社後の問い合わせが減ります。
電子周知の要件|社内ポータルや共有フォルダで閲覧させる場合の条件と落とし穴
紙の掲示をやめて、社内ポータルや共有フォルダに置く会社が増えています。電子で周知する場合の要件は、厚生労働省の通達で具体的に示されています。
平成9年基発第680号が示す操作権限と取り出し方法の周知という2要件
平成9年10月20日基発第680号は、電子機器による周知が第106条の要件を満たす条件として、次の2点を挙げています。
- 各労働者に、就業規則等を電子的データとして取り出せる電子機器の操作の権限が与えられていること
- 必要なときに容易に確認できるよう、電子機器からデータを取り出す方法が各労働者に周知されていること
労働基準法の一部改正の施行通達である平成11年1月29日基発第45号も、各作業場にパソコン等を設置し、操作の権限を与え、操作方法を周知することで、必要なときに容易に確認できる状態にするよう求めています。ファイルを置くだけでは足りず、「全員が開ける」「開き方を知っている」の2つがそろって周知になります。
現場職・パート・休職者がアクセスできない状態で周知不十分になる典型例
電子周知でつまずくのは、規則の置き場所ではなく、見られない人の存在です。次のような状態は、通達の2要件を満たさないおそれがあります。
- 工場や店舗の従業員に社内ポータルのアカウントを発行していない
- パートやアルバイトには共有フォルダの閲覧権限が付いていない
- 社内ネットワークからしか開けず、休職中や在宅の従業員が見られない
- フォルダの階層が深く、入社時に場所を知らされていない
- 人事部のフォルダに置き、閲覧に上長の承認が要る
現場職に1人1台の端末が無い場合は、休憩室などの作業場に閲覧用の端末を置けば第3号の方法を満たせます。端末を置けない職場は、紙の備付けと併用してください。
持ち出し禁止やコピー制限をかけるときに閲覧の容易さを損なわない線引き
第106条が求めているのは閲覧できる状態で、コピーや持ち帰りを認めることまでは求めていません。社外への流出を防ぐために、ダウンロードや印刷を制限する運用は可能です。
線を引くべきなのは、制限が閲覧の容易さを損なう場合です。閲覧のたびに申請が要る、閲覧できる時間帯が限られている、画面で拡大できず読めない、といった制限は周知の要件を欠くおそれがあります。書面交付の方法を採る会社は、そもそも規則を従業員の手元に渡しているので、持ち出し禁止の定めとは両立しません。
社内ポータルで作る閲覧環境の設計|掲載する文書・権限・改定履歴の管理
上位の解説記事は「イントラネットに掲載する」までで止まっています。実際の掲載にあたって決めるべきなのは、どの文書を、誰に、どの版で見せるかという具体的な運用方針です。社内ポータル全体の構成は、社内ポータルの事例を用途パターンで読み解いた記事が参考になります。
就業規則本体と賃金規程・労使協定など第106条の周知対象を一覧にする範囲
規程集のページには、第106条の周知対象をまとめて載せます。就業規則の本体と別規程、労使協定、法令の要旨です。載せ漏れが多いのは労使協定で、36協定、1年単位の変形労働時間制の協定、賃金の一部控除の協定などは、締結・届出したあと周知まで済ませていない会社が見られます。36協定の中身と届出は36協定の上限規制と届出の解説で確認できます。
| 区分 | 掲載する文書の例 | 閲覧できる人 |
|---|---|---|
| 就業規則本体 | 正社員用、パート用 | 適用される従業員全員 |
| 別規程 | 賃金規程、育児・介護休業規程 | 適用される従業員全員 |
| 労使協定 | 36協定、変形労働時間制の協定 | その事業場の従業員全員 |
| 法令の要旨 | 労働基準法の要旨 | 従業員全員 |
雇用区分ごとに規則が分かれている会社で、パート用の規則をパートにしか見せない権限設定は問題ありません。避けるべきは逆で、パートに適用される規則を正社員の権限でしか開けない状態です。
版番号と施行日で旧規則を残す改定履歴と、変更時に通知する仕組み
ポータルには最新版だけを表示し、旧版は「改定履歴」として施行日の範囲つきで残します。ファイルを上書きすると、前の段で触れた退職者との争いや監督署の調査で、ある時点に効力を持っていた規則を示せなくなるのが問題です。版番号は、変更届の控えや新旧対照表と同じ番号にそろえます。変更の届出手順と版の管理は就業規則変更届の書き方と提出方法で扱っています。
変更後の規則は、施行日までにポータルに載せ、全員に通知します。労働契約法第10条により、変更後の規則の効力にも周知が必要だからです。ファイルの差し替えだけでは、従業員は変更に気づきません。メールやチャットで新旧対照表へのリンクを送り、施行日と変わった条文を本文に書きます。規程類を文書として統制したい会社は、文書管理システムの機能とファイルサーバーとの違いで版管理の仕組みを比べてください。
誰がいつ閲覧したかを記録するアクセスログを周知の証拠として残す方法
閲覧記録の保存は法律上の要件ではありません。それでも残す価値はあります。懲戒や残業代で争いになったとき、会社が示す必要があるのは「その従業員が見られる状態だったか」で、権限の設定記録と閲覧のログがあれば説明が具体的になります。
残す項目は、閲覧者のID、日時、閲覧した文書と版番号の3つで足ります。改定時に「確認しました」のボタンを押してもらう運用は、同意を取る手続と誤解されないよう、あくまで確認の記録として扱います。変更に対する意見聴取は、過半数代表者の手続で行うものです。
閲覧環境を既製品で済ませる会社とポータルを個別開発する会社の分かれ目
閲覧環境をどこまで作り込むかは、従業員の端末環境と規則の数で決まります。
全員が社用の端末かアカウントを持ち規則が1種類なら既存ツールで足りる理由
全従業員が社用のパソコンかスマートフォンを持ち、就業規則が1種類で、改定が年1〜2回の会社では、新しい仕組みは要りません。Microsoft 365やGoogle Workspaceの共有ドライブに規程集フォルダを作り、全員に閲覧権限を与え、場所を入社時の案内に書けば周知の要件は満たせます。労務管理のクラウドサービスに規程の掲載機能があれば、それを使えば十分です。労務系サービスの機能の範囲は労務管理システムの機能と比較の観点で整理しています。
この規模で開発に費用をかけるのは過剰です。先に確認すべきは、権限の付いていない従業員がいないか、労使協定の載せ漏れがないかの2点です。
多拠点・複数規則・端末を持たない現場職を抱える会社で開発対象になる機能
事業場が多く、雇用区分や拠点ごとに規則が分かれ、店舗や工場に社用アカウントを持たない従業員が多い会社では、既製品の共有フォルダでは管理が破綻します。誰にどの規則が適用されるかを権限に写す作業と、施行日に合わせて表示を切り替える作業が、改定のたびに手作業になるからです。
この場合に作る価値があるのは、従業員の雇用区分と事業場から閲覧できる規則を自動で決める権限設定、施行日で表示を切り替える版管理、閲覧ログの3つです。個人アカウントを持たない従業員には、社員番号で入れるスマートフォン向け画面を用意する選択肢もあります。社内ポータルとして要件を固めたい場合は、ポータルサイトシステムの個別開発で、人事システムの従業員情報と連動した規程集の権限設計から相談できます。
よくある質問
就業規則の閲覧について、検索されることの多い質問に法令と厚生労働省の資料の範囲で答えます。
従業員から就業規則のコピーや写真撮影を求められたら応じる必要がありますか?
第106条が求めるのは閲覧できる状態であり、コピーや撮影を認める義務までは定めていません。社外への流出を防ぐ目的で、コピーや撮影を制限することは可能です。ただし、閲覧のために申請や許可が必要になる運用は、周知の要件を欠くおそれがあります。自分の労働条件を確認したいという申し出であれば、該当する条文の写しを渡すほうが、後の行き違いを防ぎやすくなります。
就業規則を印刷して全員に配らないといけませんか?
その必要はありません。施行規則第52条の2の3つの方法のうち、書面の交付は1つにすぎず、掲示・備付けや、パソコン等で常時確認できる状態にする方法でも周知になります。電子で周知する場合は、全員に閲覧の権限があることと、見方を知らせていることが条件です。端末を持たない従業員がいる事業場では、閲覧用の端末を置くか、紙の備付けを併用してください。
従業員が10人未満の会社でも就業規則を見せる義務はありますか?
常時10人未満の事業場には、就業規則の作成・届出の義務がありません。ただし、第106条の周知義務は人数で区別していないため、就業規則を作っているなら10人未満でも周知が必要です。労働契約法第7条により、周知していない規則は労働契約の内容として主張しにくくなる点も人数と関係ありません。作った規則は、10人以上の会社と同じ方法で見られる状態にしてください。
就業規則を変更したときは、いつまでに閲覧できるようにすればよいですか?
施行日までに、変更後の規則を閲覧できる状態にします。労働契約法第10条は、変更後の規則の周知を変更の効力の条件にしているため、施行日を過ぎて周知した場合、その間は変更後の規則を主張しにくくなります。労働基準監督署への届出とは別の手続なので、届出を済ませても周知が漏れていないかを確認してください。旧版は削除せず、改定履歴として残します。
36協定などの労使協定も従業員に閲覧させる必要がありますか?
必要です。第106条第1項は、就業規則と並んで、36協定、変形労働時間制の協定、賃金の一部控除の協定などの労使協定を周知の対象に挙げています。方法は就業規則と同じで、掲示・備付け、書面の交付、電子機器で常時確認できる状態のいずれかです。締結と労働基準監督署への届出だけで終わらせず、規程集のページに協定書を載せて、就業規則と同じ権限で閲覧できるようにしてください。
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