男女間賃金差異は、男性労働者の平均年間賃金を100としたときに、女性労働者の平均年間賃金がいくつになるかを示す数値です。女性活躍推進法にもとづく公表義務は、2022年7月8日から常時雇用する労働者301人以上の企業に課され、2026年4月1日からは101人以上300人以下の企業にも広がりました。この記事では、厚生労働省が2026年2月18日に改正した算出方法の通知とQ&Aをもとに、正規・非正規・全労働者の3区分での計算方法、人員数の数え方、賃金から除外できる手当、休業者や出向者の扱いを整理します。そのうえで、給与・人事データから毎年同じ方法で集計するためのデータ設計と、Excelの分析ツールで足りる企業とシステム化する企業の線引きまで解説します。
まとめ:男女間賃金差異の計算ルールと毎年の集計体制の結論
男女間賃金差異は「女性の平均年間賃金÷男性の平均年間賃金×100」で求め、小数点第2位を四捨五入します。公表は全労働者・正規雇用・非正規雇用の3区分が必須で、総合職だけ、事務系だけといった一部の区分だけを出しても法にもとづく公表にはなりません。賃金は賞与や扶養手当を含む総額で、除外してよいのは退職手当と通勤手当などの実費弁償的な手当に限られます。
実務でつまずくのは計算式ではなく、人員数の数え方と除外ルールを毎年そろえる点です。休業者を外すか、パートを所定労働時間で換算するかは企業が選べますが、男女で同じ扱いにし、初回以降は同じ方法を続ける必要があります。従業員300人規模までで給与データが1つのシステムにまとまっていれば、厚生労働省の分析ツールと年1回のCSV出力で十分です。複数の給与システムや拠点別の人事マスタを突き合わせている企業は、集計ロジックを人事・労務管理システム側に組み込むほうが、担当者が替わっても数値の再現性を保てます。
男女間賃金差異の定義と2026年4月に101人以上へ広がった公表義務
平均年間賃金の割合という法令上の定義と統計の賃金格差76.6の違い
法令上の男女間賃金差異は、事業主が雇用する男性労働者の賃金の平均に対する、女性労働者の賃金の平均を割合(パーセント)で示したものです。厚生労働省の「男女の賃金の額の差異の算出及び公表の方法について」(令和8年2月18日最終改正)が、この定義と計算方法を定めています。
ニュースで見る「男女間賃金格差」は別の統計です。令和7年賃金構造基本統計調査の結果の概要では、一般労働者の賃金は男性373.4千円、女性285.9千円で、男性を100とした格差は76.6でした。こちらは短時間労働者を除く一般労働者の月額賃金で比べた全国値です。企業が公表する差異は賞与を含む年間の賃金総額で、パート・有期社員も含めます。自社の数値を全国の76.6と並べて評価するのは、物差しが違うため避けてください。
101人以上300人以下は3項目以上、301人以上は4項目以上の公表が必須
2025年6月11日公布の改正法により、常時雇用する労働者が100人を超える企業すべてで、男女間賃金差異と女性管理職比率の2つが必須項目になりました。施行は2026年4月1日です。厚生労働省の男女間賃金差異の解消に向けたページに、通知とQ&Aの最新版がまとまっています。
| 常時雇用する労働者数 | 公表義務 | 必須項目と選択項目 |
|---|---|---|
| 301人以上 | 4項目以上(義務) | 必須2+2分類から各1以上 |
| 101人以上300人以下 | 3項目以上(義務) | 必須2+14項目から1以上 |
| 100人以下 | 1項目以上(努力義務) | 16項目から1以上 |
公表は会社単位です。持株会社でも単体で公表し、連結ベースの数値は認められません。本社だけでなく支社・支店の労働者も含めて計算します。
事業年度終了後おおむね3か月以内という初回公表の期限と公表先
公表時期は、事業年度が終わってからおおむね3か月以内です。101人以上300人以下の企業は、2026年4月1日以後に最初に終わる事業年度の実績が初回の対象になります。通知の例では、2026年12月末決算なら2027年3月末まで、2027年3月末決算なら2027年6月末までが目安です。
公表先は厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」が最も適切とされ、自社サイトへの掲載でも構いません。データベースには注釈・説明欄があり、全労働者・正規・非正規の3区分に加えて、雇用管理区分ごとの差異を最大5区分まで追加表示できます。公表しなかった場合の罰則は設けられていませんが、労働局が報告を求め、助言・指導・勧告を行い、勧告に従わないと企業名が公表されることがあります。報告をしない、または虚偽の報告をした場合は20万円以下の過料です。
3区分の平均年間賃金を出す計算方法と人員数の数え方・換算の実務
正規・非正規・全労働者の3区分で計算する手順と小数点以下の扱い
計算は次の順に進めます。男女で計算方法を変えてはいけません。
- 賃金台帳や源泉徴収簿から、直近の事業年度の賃金総額を正規・非正規・全労働者の3区分×男女別に集計する
- 各区分の賃金総額を、その区分の人員数で割って平均年間賃金を出す
- 女性の平均年間賃金を男性の平均年間賃金で割り、100を掛ける
- 小数点第2位を四捨五入し、小数点第1位まで表示する
架空の数値で試算すると、全労働者の差異が区分ごとの差異と大きく食い違う理由が分かります。
| 区分 | 男性の平均年間賃金 | 女性の平均年間賃金 | 差異 |
|---|---|---|---|
| 正規(男50人・女30人) | 600万円 | 480万円 | 80.0% |
| 非正規(男10人・女40人) | 150万円 | 120万円 | 80.0% |
| 全労働者(男60人・女70人) | 525万円 | 約274.3万円 | 52.2% |
正規も非正規も80.0%なのに、全労働者では52.2%まで下がります。女性の57%が非正規に属するという構成比の差が、全体の数値を押し下げているためです。通知が3区分での公表を義務にしているのは、この構成比の影響を読み手が切り分けられるようにするためです。
人員数を12か月の特定日の平均で数える方法と途中入退社の換算
分母の人員数の数え方は企業が選べます。通知が例示するのは、事業年度の期首から期末まで連続する12か月の特定日(給与支払日や月末)の人数を平均する方法です。季節による人数や男女比の変動がほとんどない企業に限り、事業年度末日など特定の1日の人数で代えることもできます。
途中入社・退社や正規から非正規への転換があった人は、厚生労働省の解釈事項Q&Aの問15〜17が扱いを示しています。賃金が支払われた月だけ該当区分の人数に入れる方法のほか、30日の月に15日だけ在籍した人を0.5人・月(24分の1人・年)と数える方法も例示されています。どれを選んでも、男女で異なる数え方をしないこと、初回以降は同じ方法を続けることが条件です。数え方を変えたときは、変更の事実と理由を明記します。
パートと育児短時間勤務者を所定労働時間で換算するときの必須注記
パート労働者は、正規雇用労働者の所定労働時間を基準に人員数を換算できます。1日4時間勤務のパート2人を、1日8時間の正規1人分として数えるやり方です。換算すると、非正規の平均年間賃金が時間あたりの水準に近づき、頭数で割るより差異の実態を読みやすくなります。
Q&Aの問30により、正規雇用のうち短時間正社員や育児短時間勤務者も同じ換算が認められています。ただし、換算した場合は「労働時間を基に人員数を換算している」旨を重要事項として必ず注記しなければなりません。対象期間の注記も必須です。注記を忘れると、換算前の数値と比べられて説明がつかなくなります。
賃金に含める手当と除外できる手当の線引き、休業者と出向者の扱い
通勤手当と退職手当は除外でき、扶養手当や住宅手当は除外できない理由
賃金は労働基準法第11条の賃金で、基本給、時間外手当、賞与を含む、労働の対償として支払うすべてのものです。除外が認められるのは、年度を超える労務の対価である退職手当と、経費の実費弁償にあたる通勤手当などに限られます。
| 手当・支給 | 扱い | 根拠(Q&A) |
|---|---|---|
| 時間外手当・賞与 | 含める | 問19・問20 |
| 退職手当 | 除外できる | 問18 |
| 通勤手当・旅費・宿日直料 | 除外できる | 問21 |
| 転居費用・ガソリン手当 | 除外できる | 問22・問23 |
| 扶養手当・住宅手当 | 含める | 問24・問25 |
| 単身赴任手当 | 含める | 問26 |
扶養手当や住宅手当の受給者が男性に偏っていても、計算から外すことはできません。外したくなる事情は、説明欄に「差異の要因の一つ」として書くのが正しい扱いです。所得税法の給与所得は通勤手当などの非課税分を除いた額なので、源泉徴収簿の給与所得をそのまま賃金総額に使えます。除外した手当があれば、その名称を注記に書いておきます。
産休・育休中の休業者や出向者を対象から外す判断と男女共通の原則
産休・育休や病気休職で休業している人は、企業の判断で計算対象から外せます(Q&A問12)。出向者は、賃金を主に負担している側で数えるか、実際に働いている場所で数えるかを企業の実情に合わせて決めてよく、海外赴任者も同じ考え方です(問10・問11)。
反対に、育児・介護のための短時間勤務者や時間外労働の制限を受けている人は、集計から外せません(問13)。賃金が少ないのは働き方の結果であり、それ自体が差異の要因として表に出るべきだからです。週休3日制などの変則勤務者も対象に含めます(問14)。休業者を外す、出向者を出向元で数えるといったどの選択でも、総賃金と人員数の考え方を男女で共通にすることが前提です。
給与・人事データから男女間賃金差異を毎年集計するためのデータ設計
賃金台帳と人事マスタを突き合わせる月次スナップショットの項目
毎年の集計を安定させる設計の要は、月ごとに「誰が、どの区分で、いくら支給されたか」を1行で残すことです。給与計算の結果だけでは雇用区分の変更や休業の期間が追えず、人事マスタだけでは支給額が分かりません。両者を月単位で突き合わせた次の項目を持てば、通知の計算方法はすべて再現できます。
| 項目 | 用途 |
|---|---|
| 対象年月・社員番号・性別 | 男女別・月別の集計キー |
| 雇用区分(正規/非正規) | 3区分の振り分け |
| 在籍日数・所定労働時間 | 0.5人・月や時間換算 |
| 休業区分・出向区分 | 除外判定のフラグ |
| 支給項目別の支給額 | 除外手当を引いた総額 |
賃金総額の取り出し元になる給与データの持ち方は、給与計算システムの機能と個別開発の判断で整理しています。性別は人事マスタの現在値を使うと過去月に遡って変わる場合があるため、対象年月時点の値を保持しておくと集計がぶれません。
除外ルールを設定マスタに切り出して毎年同じ方法で再計算できる構成
Q&Aが繰り返し求めているのは「初回以降は一貫した方法で」という点です。担当者のExcelに除外条件が埋もれていると、翌年の担当者は同じ数値を再現できません。通勤手当を除外する、休業者を外す、パートを8時間で換算するといった判断は、支給項目コードと除外フラグの対応表として設定マスタに切り出します。集計処理はそのマスタを読むだけにしておくと、方法を変えた年も差分が明確になります。
公表した数値ごとに、使った設定マスタの版と集計日時を記録しておく方法も有効です。年度途中の賃金改定で数値を更新した場合(Q&A問32)や、労働局から算出根拠を問われた場合に、どの条件で出した数値かを即答できます。役職別・勤続年数別に分けた追加公表もこの月次データから同じ処理で出せるため、要因分析の手戻りが減ります。
Excelの分析ツールで足りる企業とシステム化すべき企業の判断条件
厚生労働省の男女間賃金差異分析ツールで足りる規模と年1回集計の条件
厚生労働省は2025年3月3日に男女間賃金差異分析ツールを公開しました。Excel形式で配布され、自社の労務管理データを同業種・同規模の企業平均と比べて、差異が生じる要因と雇用管理の見直しのアドバイスを得られます。
次の条件をすべて満たす企業は、このツールと給与システムからのCSV出力で十分です。新たな集計システムへの投資は過剰です。
- 給与計算が1つのシステムまたは1つの委託先にまとまっている
- 事業年度中の雇用区分の転換や出向が年に数件程度にとどまる
- 人員数を期末日など特定の1日で数える方法を選べる(季節変動が小さい)
- 公表は法定の3区分のみで、役職別などの追加公表を予定していない
このケースでの作業は年1回、半日から数日の手作業です。仕組み化の費用を回収できるほどの工数は発生しません。
給与計算システムや人事システムに集計機能を足す条件と見送る場面
システム化が見合うのは、M&Aや拠点ごとの事情で給与システムが複数に分かれ、社員番号の体系も揃っていない企業です。ここでは名寄せと区分の判定だけで毎年数週間かかり、担当者の交代で計算方法が変わる危険も高くなります。パート比率が高く月単位の時間換算が必要な小売・飲食・介護の企業、追加公表で役職別・勤続年数別の差異を毎年出したい企業も、集計機能を持つ価値があります。
実装は、既存の給与システムから月次で支給データを取り出し、人事マスタと突き合わせる集計層を作る形が現実的です。給与計算そのものを入れ替える必要はありません。データ連携と集計ロジックの設計は、人事・労務管理システム開発の範囲で対応できます。逆に、公表対象が101人を超えたばかりで翌年以降も人員構成がほぼ変わらない企業は、まず手作業で1回集計し、手順書と除外ルールを残すところから始めてください。手順書が書けない状態でシステムを作っても、ルールの曖昧さがそのままコードに入るだけです。
差異が大きく出た数値を説明欄で補う要因分析と追加公表の書き方
勤続年数・役職別に属性をそろえた追加公表と女性管理職比率との関連付け
通知は、数値の大小だけで評価するのではなく、説明欄で要因と課題を示すよう勧めています。例示されている追加公表は、5年刻みの勤続年数別、役職無し・係長級・課長級・部長級といった役職別の差異、総合職・職務限定正社員などの詳細区分別の差異、パート・有期社員の基本給を時給換算した比較の4つです。女性の新卒採用を増やした年に平均賃金が一時的に下がった、といった背景事情もそのまま書けます。
2026年4月からは女性管理職比率も必須項目になったため、2つの数値を関連付けて説明すると読み手に伝わります。管理職の男女比が全体の差異を何ポイント押し下げているかは、人事データ分析の手法をまとめたピープルアナリティクスの解説で扱う要因分解で示すことが可能です。女性管理職が少ない構造についてはガラスの天井と女性管理職13.8%の現在地も参考になります。有価証券報告書での人的資本開示と合わせて考えるなら、人的資本経営の開示義務と実践ステップが全体像の整理に使えます。
男女間賃金差異の計算と公表で人事・労務担当者からよくある質問
男女間賃金差異の計算方法と公表義務について、人事・労務担当者から寄せられやすい質問に答えます。
男女間賃金差異と男女間賃金格差は何が違うのですか?
男女間賃金差異は、女性活躍推進法にもとづいて各企業が公表する指標で、事業年度の賞与を含む年間賃金総額から男女の平均を出し、その割合を示します。男女間賃金格差は一般に、賃金構造基本統計調査など国の統計で使われる呼び方で、令和7年調査では一般労働者の月額賃金で76.6でした。対象者も賃金の範囲も違うため、自社の差異と統計の格差は直接比べられません。
従業員100人以下の企業も男女間賃金差異を計算する必要がありますか?
常時雇用する労働者が100人以下の企業は、情報公表そのものが努力義務です。男女間賃金差異、女性管理職比率を含む16項目から1項目以上を選んで公表するよう努めることとされ、男女間賃金差異を選ぶかどうかは任意です。ただし、採用を控えて101人を超える見込みがある企業は、超えた後に最初に終わる事業年度から義務になるため、給与データの区分や性別の持ち方を先に整えておくと初回の集計が楽になります。
有価証券報告書の男女間賃金差異と同じ数値を使ってよいですか?
使えます。Q&Aの問27は、有価証券報告書で使う従業員の範囲と平均年間給与の給与の範囲が、女性活躍推進法の労働者と賃金の定義に合っていれば、同じ算出方法で男女別の平均年間賃金を出してよいとしています。臨時従業員をフルタイム換算している場合も、非正規雇用労働者の定義に合えば同じ扱いができます(問28)。換算した場合は、その旨の注記が必要です。
年度の途中で賃金を改定したら数値を公表し直してもよいですか?
初回の公表後であれば、事業主の判断で最新の数値に更新して構いません(Q&A問32)。更新する場合も3区分すべてを男女の平均年間賃金から算出し直し、対象期間などの注記を改め、更新日を明示する必要があります。良い数値の区分だけを差し替える更新は認められません。原則は終了した直近事業年度の実績なので、翌年度の通常の公表とどちらが説明しやすいかで判断してください。
男女のどちらかがいない区分はどう公表すればよいですか?
非正規雇用の男性がいないなど、一方の性別の該当者がいない区分は割り算ができないため、該当欄に「-」を記載します(Q&A問9)。あわせて「非正規雇用には男性の労働者がいないため」といった理由を注記すると、読み手が数値の欠落を誤解しません。女性の活躍推進企業データベースで公表する場合は、注釈・説明欄にその旨を書きます。男女とも非正規雇用労働者がいない企業も同じく「-」です。
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