ジェンダーエクイティ(gender equity)は「性別による不利を埋め合わせ、結果として同じ機会に届く状態をつくる」という考え方です。全員に同じものを配る平等(equality)と対比され、企業のダイバーシティ研修でもよく使われます。
ところが国連は、この「equity」という語を女性の地位向上の文脈で使わないよう条約の締約国に求めています。日本政府の最新の基本計画にも「エクイティ」という語は一度も出てきません。この記事では、その食い違いがどこから来るのかを一次資料で確かめたうえで、2026年4月に始まる新しい公表義務まで、企業の担当者が判断に使える形で整理します。
まとめ:ジェンダーエクイティの要点
- エクイティ(公平)は「一人ひとりの出発点の差を埋める配分」、イコーリティ(平等)は「全員に同じ条件を与える配分」を指します。
- 国連の推奨用語は gender equality です。女性差別撤廃委員会の一般勧告第28号は、条約の履行にあたって gender equity の概念を用いないよう締約国に求めています。
- 第6次男女共同参画基本計画(令和8年3月13日閣議決定)に「エクイティ」は0件。日本の政策用語も equality 側です。
- それでも企業のDEI文脈では E=Equity が定着しており、語を使うこと自体は問題になりません。誤解が生じるのは、公的文書や条約の解釈に「公平」を持ち込んだときです。
- 実務の焦点は語の選択ではなく数字です。日本のジェンダー・ギャップ指数は148か国中118位、男女間賃金格差は男性を100として76.6。2026年4月からは常時雇用101人以上の企業に、男女間賃金差異と女性管理職比率の公表が義務づけられます。
ジェンダーエクイティの定義と、equality(平等)との分岐点
エクイティとイコーリティは、どちらも「不当な差をなくす」ことを目指しますが、配分の考え方が逆向きです。イコーリティが揃えるのは投入で、全員に同じ研修、同じ評価シート、同じ勤務時間を適用する運用がこれにあたります。対してエクイティが揃えるのは到達点です。そのために投入をあえて変え、不利な位置にいる人へ追加の支援を回します。
この違いが実務で問題になるのは、投入を揃えただけでは結果が揃わない場面です。厚生労働省の令和7年賃金構造基本統計調査によれば、一般労働者の賃金は男性373.4千円に対し女性285.9千円で、男女間賃金格差は男性を100として76.6でした。年齢別に見ると差はさらに明確になります。男性の賃金は55〜59歳の445.6千円でピークを迎え、20〜24歳を100とした水準は181.4に達します。同じ指標で女性は45〜49歳および55〜59歳の305.7千円が最高で、127.6にとどまる形です。つまり同じ賃金制度を同じように適用しても、キャリアの伸び方そのものが分かれています。
この「同じ扱いをしているのに結果が分かれる」状態を説明する語として、エクイティが要請されました。国内の議論では形式的平等と実質的平等という対で呼ばれることも多く、法学の文脈ではこちらのほうが通りのよい表現です。なお企業研修では、ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョンの3語をまとめた枠組みで扱われるのが一般的でしょう。3語それぞれの役割分担はDEIとは何か?多様性(ダイバーシティ)、公平性(エクイティ)、包括性(インクルージョン)の概念と重要性で整理しています。
国連が「gender equity」を推奨しない理由と、日本政府が使う語
ここが、日本語の解説記事でほとんど触れられていない論点です。国連の姿勢は「equity のほうが進んだ考え方」ではなく、むしろその逆に近いものだからです。
UN Women のジェンダー平等用語集は、gender equity の項目でこう述べています。「国連内での推奨用語は gender equity ではなく gender equality である」。理由として挙げられているのは、gender equity という語が「伝統・慣習・宗教・文化に基づく社会正義の解釈という要素を含んでおり、それは多くの場合、女性にとって不利に働く」という点です。同用語集は、女性の地位向上に関して equity をそのように用いることは「容認できないものと判断された」とし、1995年の北京会議で equality を用いることが合意されたと記しています。
これは勧告文の形でも残っています。女性差別撤廃委員会(CEDAW委員会)の一般勧告第28号(2010年)は、締約国に対し「条約上の義務を履行するにあたり、女性と男性の平等ないしジェンダー平等の概念のみを用い、ジェンダー・エクイティの概念は用いないよう求める」と述べ、続けて「後者の概念は一部の法域において、女性と男性それぞれのニーズに応じた公正な取扱いを指して用いられている」と説明しました。「それぞれのニーズに応じた扱い」という定義自体が、慣習や文化を根拠にした別扱いを正当化する余地を残す。だから条約の履行基準としては採らない、という判断です。日本はこの条約の締約国にあたります。
日本政府の用語もこの流れに沿っています。第6次男女共同参画基本計画(令和8年3月13日閣議決定、136ページ)の全文を検索すると、「エクイティ」は0件、「公平」も地域活動に関する記述の1件のみでした。一方で「男女共同参画」は300件超、「ジェンダー平等」も20件以上が使われています。同計画は基本的な視点として「男女間の実質的な機会の平等を担保する観点から極めて重要である意思決定過程への女性の参画を一層加速する」と書いており、公平ではなく実質的な機会の平等という言い方を選んでいます。
したがって実務上の使い分けはこうなります。社内のDEI施策やダイバーシティ研修で「エクイティ」を使うことは、国際的にも国内的にも問題ありません。避けるべきなのは、条約や法令上の義務、あるいは行政への提出文書で「平等ではなく公平を目指す」といった言い換えをすることです。そこでは equality が唯一の基準語だからです。
数字で見る日本の現在地:ジェンダー・ギャップ指数118位・賃金格差76.6
語の議論から離れて、日本がどこに立っているかを確認します。内閣府男女共同参画局の資料「女性活躍・男女共同参画の現状と課題」(令和8年8月)は、世界経済フォーラムのグローバル・ジェンダー・ギャップ報告書2025をもとに、日本を148か国中118位、指数0.666と整理しています。1位はアイスランド(0.926)、148か国平均は0.688です。
注目すべきは総合順位ではなく、分野別の落差でしょう。
| 分野 | 日本の順位 | 日本のスコア |
|---|---|---|
| 教育 | 66位 | 0.994 |
| 健康 | 50位 | 0.973 |
| 経済参画 | 112位 | 0.613 |
| 政治参画 | 125位 | 0.085 |
教育と健康はほぼ完全平等に近い水準です。つまり日本では、女性が教育を受け健康に生きるという入口の条件はすでにほぼ揃っています。差が残るのは、その先の経済参画と政治参画でした。エクイティという概念が日本で必要とされる理由は、まさにこの落差にあります。入口の条件が同じなのに出口が分かれるとき、投入を揃えるだけの平等では説明も是正もできません。
賃金の側でも同じ構図が見えます。男女間賃金格差(男=100)は2001年の65.3から令和7年の76.6まで改善しました。ただし2019年以前と2020年以降では推計方法が異なるため、この間の差分は目安として読むべき数字です。前年からは0.8ポイントの改善でした。管理職への到達が遅れることで賃金カーブが伸びない構造については、ガラスの天井とは何か?その意味と歴史的背景から現代社会への影響の記事でも扱っています。
2026年4月施行の改正女性活躍推進法で新たに生じる公表義務
企業にとって直近で最も具体的な変化がこれです。女性活躍推進法等を改正する法律が令和7年6月11日に公布され、関連する省令・指針も同年12月23日に公布・告示されました。施行は2026年(令和8年)4月1日で、10年の期限延長も併せて行われています。
変更点は情報公表の必須項目の拡大です。従来は常時雇用301人以上の企業にのみ男女間賃金差異の公表義務がありましたが、これが101人以上に広がり、あわせて女性管理職比率が新たな必須項目に加わりました。
| 企業規模 | 改正前 | 改正後(2026年4月1日〜) |
|---|---|---|
| 301人以上 | 男女間賃金差異+2項目以上 | 男女間賃金差異・女性管理職比率+機会提供1項目+両立支援1項目 |
| 101〜300人 | 1項目以上 | 男女間賃金差異・女性管理職比率+14項目から1項目以上 |
| 100人以下 | 努力義務 | 努力義務 |
選択項目の数え方が規模で非対称になっている点に注意してください。301人以上は「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」の7項目から1項目、「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」の7項目から1項目を、それぞれの区分ごとに選びます。101〜300人は、この2つの表の合計14項目のうちどれか1項目を選べば足ります。
公表が必要な2つの数値の定義
実務で取り違えやすいのが、公表する数値の定義です。「男女間賃金差異」は、男性労働者の賃金の平均に対する女性労働者の賃金の平均を割合(パーセント)で示すもので、全労働者・正規雇用労働者・非正規雇用労働者の3区分での公表が必要です。小数点第2位を四捨五入し、小数点第1位まで表示します。
「女性管理職比率」でいう管理職は、「課長級」と「課長級より上位の役職(役員を除く)」の合計です。課長級の判定は、①通常「課長」と呼ばれている者であって二係以上または構成員10人以上の組織の長であるか、②同一事業所において呼称や構成員に関係なく職務内容と責任の程度が課長級に相当するか(ただし一番下の職階でないこと)で行います。厚生労働省の案内は「一般的に『課長代理』や『課長補佐』については、『課長級』に該当しません」と明記しており、ここを含めて集計すると数字が実態より高く出ます。
初回公表の時期と公表先
公表の時期は、改正法の施行後に最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後おおむね3か月以内です。12月末決算の企業であれば、令和8年12月期の実績をおおむね令和9年3月末までに公表することになります。公表先は厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」が最も適切とされ、自社ホームページへの掲載でも差し支えありません。なお同じ改正で、女性の健康支援に関する基準を加えた「えるぼしプラス」認定が新設され、えるぼし認定1段階目の基準にも改善傾向を評価する選択肢が追加されました。法制度そのものの経緯は女性活躍推進法とは?2016年施行の女性の社会進出促進法の目的・概要にまとめています。
第6次男女共同参画基本計画が示す2030年の目盛り
公表義務が「現状を出す」ルールだとすれば、政府が置いた到達点が第6次男女共同参画基本計画の成果目標です。企業が自社の数字を評価する際の目盛りとして使えます。
| 項目 | 現状 | 成果目標(2030年) |
|---|---|---|
| 民間企業の係長相当職 | 24.4%(2024年) | 33% |
| 民間企業の課長相当職 | 15.9%(2024年) | 24% |
| 民間企業の部長相当職 | 9.8%(2024年) | 15% |
| 東証プライム市場上場企業の役員 | 17.7%(2025年) | 30% |
| 上場企業の役員 | 14.0%(2025年) | 20% |
| 女性役員登用目標+行動計画あり | 5.9%(2025年) | 30% |
最下段の正式名は「女性役員登用目標を設定し、その目標達成に向けた行動計画を策定している上場企業の割合」です。この表で最も差が大きいのはここで、役員比率そのものより、目標と行動計画を持っている企業が5.9%しかないという事実のほうが施策の空白を示しています。なお上場企業の役員2行でいう「役員」には、取締役・監査役・執行役に加えて、各企業が女性役員登用目標の前提とした執行役員またはそれに準じる役職者も含まれます(同計画 注2)。自社の取締役だけを分子にすると数字がずれる点に注意してください。
あわせて押さえておきたいのが「指導的地位に占める女性の割合30%」という有名な目標の中身です。この30%という水準は、国連のナイロビ将来戦略勧告(平成2年)で示された国際的な目標に由来し、日本では平成15年6月20日の男女共同参画推進本部決定で「2020年30%」として掲げられました。そして「指導的地位」の定義は平成19年2月14日の男女共同参画会議決定で、①議会議員、②法人・団体等における課長相当職以上の者、③専門的・技術的な職業のうち特に専門性が高い職業に従事する者、と定められています。役員だけを指す語ではない点に注意が必要です。なお30%という数字が閾値として語られる背景については、クリティカルマスとは?普及率16%の出典と10〜20%説・ジェンダー30%・臨界質量の違いで出典を検証しています。
就業率そのものはすでに国際的にも遜色ない水準に達しました。第6次計画によれば令和7年の就業率は15〜64歳の女性が75.3%、男性が84.6%、25〜44歳の女性は83.6%で、この層は平成24年からの13年間で15.9ポイント上昇しています。入口は開き、その先が詰まっているという構図がここでも繰り返されます。
実務でエクイティを設計するときの判断基準
概念を制度に落とすとき、「配慮」と「別扱い」の線引きで迷う場面が必ず来ます。判断の拠りどころになるのは次の4点です。
第一に、埋めるのは出発点の差であって、評価基準ではないこと。研修機会や情報アクセス、育児期の勤務制度といった投入側を調整するのがエクイティです。到達水準の判定そのものを性別で変えると、条約が警戒した「文化に基づく別扱い」に接近します。
第二に、対象は性別ではなく状況で定義すること。「女性向け」ではなく「育児・介護と両立している従業員向け」と設計すれば、男性の育児参加も同じ制度で拾えます。厚生労働省も一般事業主行動計画の策定にあたり、「性別を問わず使いやすい特別休暇制度の整備及び職場全体の働き方改革等、女性だけでなく労働者全体を対象として取り組むことも有効です」としています。
第三に、要因分析まで踏み込むこと。厚生労働省は公表にあたり、指標の大小それ自体だけに着目するのではなく、要因および課題の分析を行って改善に取り組むことが重要だとしており、データベースの説明欄を使って分析結果を併せて公表することが望ましいとしています。格差指標が76.6であることより、その差が採用段階・昇格段階・職種構成のどこで生まれているかのほうが、打ち手に直結するはずです。
第四に、評価者側の判断のゆがみを制度で吸収すること。制度を整えても運用する側の判断が偏っていれば結果は変わりません。評価基準を具体的な行動と成果に紐づけて主観の余地を狭める設計についてはアンコンシャスバイアスとは|思い込み・バイアス・先入観・偏見の違いと種類・具体例・対策を、機会そのものを積極的に割り当てる手法の是非についてはアファーマティブ・アクションとは何か?定義や目的・背景を参照してください。
よくある質問
ジェンダーエクイティとジェンダーイクオリティの違いは何ですか?
イクオリティ(equality/平等)は全員に同じ権利・責任・機会を保障する考え方で、国連の定義では「女性と男性、女児と男児の平等な権利・責任・機会」を指し、「平等とは女性と男性が同一になることではなく、権利・責任・機会が男性として生まれたか女性として生まれたかに左右されないこと」だと説明されています。エクイティ(equity/公平)は、その平等な到達点に届かせるために、不利な位置にある人へ投入を厚く配分する考え方です。目的が同じで手段の設計思想が異なると理解すると整理しやすくなります。
「男女平等」と「男女公平」はどちらが正しい表現ですか?
公的な文書では「男女平等」または「男女共同参画」を使うのが適切です。女性差別撤廃委員会の一般勧告第28号は、条約上の義務の履行にあたって「ジェンダー・エクイティ」の概念を用いないよう締約国に求めており、日本の第6次男女共同参画基本計画にも「エクイティ」という語は使われていません。一方、社内のDEI施策の説明として「公平性」を使うことは一般的な用法として問題ありません。
形式的平等と実質的平等の違いを身近な例で教えてください。
全社員に同じ時間帯の研修を一律で案内するのが形式的平等です。この場合、保育園の送迎がある社員は実際には参加できません。録画配信や時間帯の複数設定を用意して、誰もが同じ内容に到達できるようにするのが実質的平等の発想で、エクイティの考え方にあたります。投入を揃えたか、到達を揃えたかが分かれ目です。
ジェンダーパリティはジェンダーエクイティと同じ意味ですか?
異なります。パリティ(parity)は男女の人数比が同等であるという状態、つまり数値上の均衡を指す語です。エクイティは、その均衡に至るための配分の考え方を指します。ジェンダー・ギャップ指数が男性に対する女性の割合として算出されるのも、パリティの尺度だからです。
従業員が101人以上の企業は2026年に何を公表すればよいですか?
2026年4月1日以降、常時雇用する労働者が101〜300人の企業は、男女間賃金差異・女性管理職比率に加えて、女性への機会提供と両立支援の2つの表の合計14項目から1項目以上、計3項目以上の公表が必要です。301人以上の企業は同じ2項目に加えて、機会提供の7項目から1項目、両立支援の7項目から1項目を区分ごとに選び、計4項目以上となります。初回は施行後に最初に終了する事業年度の実績を、次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表します。