アファーマティブ・アクション(affirmative action)は、過去の差別によって生じた不利を埋めるために、特定の集団へ意図的に機会を配分する措置です。日本語では「積極的差別是正措置(せっきょくてきさべつぜせいそち)」と訳され、日本では男女雇用機会均等法第8条の女性限定措置、障害者の法定雇用率、大学の理工系学部の女子枠などがその例にあたります。発祥の米国では、2023年の最高裁判決が大学入試での人種考慮を退け、2025年の大統領令が連邦契約業者に課していた人種・性別に関する義務を撤回しました。この記事では、意味と手法、日本の例、問題点、米国の歴史を順に整理します。
まとめ:アファーマティブ・アクションの要点
アファーマティブ・アクションは、機会を形式的に等しく開くだけでは残ってしまう格差に対し、配分そのものへ踏み込む措置です。内閣府男女共同参画局は実現方法をクオータ制・プラス・ファクター方式・ゴール・アンド・タイムテーブル方式・基盤整備の4つに整理し、国がこれらの取組を政党・企業・研究機関等に義務付ける場合には、憲法上の平等原則等との関係に留意する必要があると注記しています。
日本に包括的な根拠法はなく、雇用(男女雇用機会均等法第8条・女性活躍推進法・障害者の法定雇用率2.7%)、大学入試(理工系の女子枠)、政治(候補者男女均等法)の個別の制度で動いています。問題点として挙がる逆差別批判は、日本の制度では資格を問わず枠を確保する運用に最も強く当てはまります。米国では、1961年の大統領令10925で始まった連邦の措置のうち、大学入試の人種考慮は2023年の判決で枠を設けない総合評価型まで違憲とされ、雇用の側も2025年1月の大統領令14173で根拠を失いました。実施規則を廃止する最終規則の発効日は2026年10月26日です。
アファーマティブ・アクションの意味と日本語訳
形式的平等では残る格差に踏み込む措置
日本国憲法第14条第1項は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と定めます。最高裁は昭和39年5月27日の大法廷判決で、この条文は絶対的な平等を保障したものではなく、合理的な理由なく差別することを禁じる趣旨だと述べています。属性を理由とする不合理な区別を制度の側が置かない状態を、形式的平等と呼びます。
ところが、募集要項から性別欄を消しても、応募者の側に不利が蓄積していれば結果は動きません。アファーマティブ・アクションは、そこで採用や入学の配分そのものに手を入れます。「同じ扱い」をいったんやめて格差を縮める措置であり、形式的平等を外す点にこの制度の緊張があります。内閣府男女共同参画局はポジティブ・アクションを「実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置」と説明しており、終わりを予定した措置であることが定義に含まれています。形式的平等と実質的平等の区別はジェンダーエクイティとは?平等との違いと国連が避ける理由でも扱っています。
3つの訳語の使い分けと読み方
affirmative action の定訳は1つに固まっていません。日本語では主に3つが流通しており、どれを使うかで含意が変わります。
| 訳語 | 読み方 | 主な使われ方 |
|---|---|---|
| 積極的差別是正措置 | せっきょくてきさべつぜせいそち | 学術・報道・内閣府の意識調査 |
| 積極的格差是正措置 | せっきょくてきかくさぜせいそち | 民間の解説記事 |
| 積極的改善措置 | せっきょくてきかいぜんそち | 法令用語・男女共同参画白書 |
行政の中でも訳語は揃っておらず、内閣府男女共同参画局は男女共同参画白書で「積極的改善措置(ポジティブ・アクション)」、4か国の意識調査で「ポジティブ・アクション(積極的差別是正措置)」と書いています。法令用語として正式なのは「積極的改善措置」で、男女共同参画社会基本法第2条第2号がこれを「前号に規定する機会に係る男女間の格差を改善するため必要な範囲内において、男女のいずれか一方に対し、当該機会を積極的に提供すること」と定義しています。対象が「男女のいずれか一方」である点は、女性だけを対象にする男女雇用機会均等法第8条との違いとして後で効いてきます。
内閣府が示す4つの手法と、義務付けに付いた憲法上の注記
内閣府男女共同参画局は「ポジティブ・アクションの実現方法」として、次の4手法を示しています。定義の列は同資料の記述の要約で、「優遇の強さ」の列は本記事の整理です。
| 手法 | 内閣府による定義 | 優遇の強さ |
|---|---|---|
| クオータ制 | 一定の人数や割合を割り当てる方式 | 強い |
| プラス・ファクター方式 | 能力が同等なら一方を優先する方式 | 中 |
| ゴール・アンド・タイムテーブル方式 | 目標と達成期間の目安を示す方式 | 弱い |
| 基盤整備 | 参画拡大のための基盤を整える方式 | 優遇なし |
同資料の図では、4手法のどれもが国の推進方策の3段階(取組を「義務付ける」、インセンティブの付与で「誘導する」、自主的な取組を「要請する」)に線で結ばれています。「憲法上の平等原則、大学の自治の原則、私的自治の原則等との関係に留意する必要がある」という注記が付いているのは手法の側ではなく、国が政党・地方公共団体・企業・研究機関等に取組を義務付ける方策です。問われるのは手法の強さだけでなく、誰がそれを強制するかです。「アファーマティブ・アクション=クオータ制」という理解は、4分類のうち最も強い1つだけを見ていることになります。
ポジティブ・アクションとの違い:日本では女性施策を指す
この2語は同義に近い場面と、明確に食い違う場面があります。日本の行政用語としてのポジティブ・アクションは、男女雇用機会均等法を土台にした女性の登用促進策を指すのが通例で、人種や民族を対象にした措置は含みません。米国の affirmative action は、差別是正策としては連邦政府の契約管理という行政手続から広まった語で、対象も人種・肌の色・宗教・出身国・性別と広く取られてきました。
英国では条文が許容範囲を細かく切っています。2010年平等法第159条は採用・昇進における positive action を認めていますが、候補者が「as qualified as(同程度に適格)」であること、保護特性を持つ人を有利に扱う一律の方針を持たないこと、目的達成のための均衡のとれた手段であること、の3条件が付きます。そもそも、その属性の人が不利を被っているか参加が不均衡に少ないと事業主が合理的に考えることが、適用の前提です(同条第1項)。属性を理由に自動的に優先する運用はこの条文の外にあり、英国で positive discrimination と呼ばれるのはその外側のことです。
日本の男女共同参画・雇用行政で「ポジティブ・アクション」と書かれていれば、まず男女間格差の改善を指します。用語だけで対象を決めつけず、根拠条文とそこに書かれた対象属性を確認してください。女性登用の制度そのものは女性活躍推進法とは?2026年改正の義務と男女雇用機会均等法との違いで詳しく扱っています。
日本のアファーマティブ・アクションの例:場面別一覧
日本で実際に動いている例を場面ごとに並べると、次のとおりです。強制力のある割当は障害者雇用だけで、ほかは特例・目標・公表・努力義務で組み立てられています。
| 場面 | 例 | 根拠 | 手法 |
|---|---|---|---|
| 雇用(性別) | 女性限定の募集・研修 | 男女雇用機会均等法第8条 | 特例(任意) |
| 雇用(性別) | 女性管理職比率の目標・公表 | 女性活躍推進法 | ゴール・アンド・タイムテーブル |
| 雇用(障害) | 法定雇用率2.7% | 障害者雇用促進法 | クオータ制 |
| 大学入試 | 理工系学部の女子枠 | 各大学の選抜要項 | クオータ制 |
| 政治 | 候補者の男女均等の目標 | 候補者男女均等法 | ゴール・アンド・タイムテーブル(努力義務) |
| 地域 | 同和地区への特別対策 | 地対財特法(2002年失効) | 終了 |
雇用:男女雇用機会均等法第8条の女性限定措置
男女雇用機会均等法は第5条で募集・採用における性別を理由とする差別を、第6条で配置・昇進・教育訓練等における差別を禁じています。その例外を置くのが同法第8条で、見出しは「女性労働者に係る措置に関する特例」、条文は「前三条の規定は、事業主が、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善することを目的として女性労働者に関して行う措置を講ずることを妨げるものではない。」です。
実務で効く限定は2つあります。特例の対象は「女性労働者に関して行う措置」に限られ、男性が少ない職域で男性を優遇する措置は守られません。目的も「均等な機会及び待遇の確保の支障となつている事情を改善すること」に限られ、均等法の解釈通達では、募集・採用は雇用管理区分または役職ごと、昇進は役職ごとに、女性の割合が4割を下回ることが格差の目安とされています。この条件を満たさないまま女性限定の募集を行えば、第5条違反となる可能性があります。
雇用:女性活躍推進法の行動計画と公表義務
女性活躍推進法は、2025年6月11日公布の改正法により2026年4月1日から新しい内容で施行されています。義務の重さは企業規模で3段階に分かれます。
| 常時雇用する労働者数 | 行動計画 | 情報公表 |
|---|---|---|
| 301人以上 | 策定・届出の義務 | 必須2項目+区分ごとに1以上(計4以上) |
| 101人以上300人以下 | 策定・届出の義務 | 必須2項目+区分全体から1以上(計3以上) |
| 100人以下 | 努力義務 | 努力義務 |
必須の公表項目は、男女の賃金の差異と女性管理職比率の2つです。これに①女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供、②職業生活と家庭生活の両立に資する雇用環境の整備、の2区分から選択項目を足します。賃金差異の計算方法は男女間賃金差異とは?計算方法と101人以上の公表義務、給与データの集計設計で扱っています。
公表が何を可視化するかは、令和7年度雇用均等基本調査(2026年7月31日公表、2025年10月1日現在)が示しています。課長相当職以上(役員を含む)の管理職に占める女性の割合は13.8%で、役職別では部長相当職9.2%、課長相当職13.2%、係長相当職20.9%と、役職が上がるほど低くなります。一方、女性の正社員に占める総合職の割合は41.0%となり、一般職の40.1%を、2016年度にこの項目が調査に加えられて以降はじめて上回りました。入口の職種構成は動いても、登用の段差は残っているということです。この壁はガラスの天井とは?意味と語源、日本の女性管理職13.8%が示す現在地で扱っています。
雇用:障害者の法定雇用率2.7%
日本の雇用分野で唯一の法定割当が、障害者雇用率制度です。厚生労働省の資料によれば、民間企業の法定雇用率は段階的に引き上げられました。
| 時期 | 民間企業の法定雇用率 | 対象事業主の範囲 |
|---|---|---|
| 令和5年度 | 2.3% | 43.5人以上 |
| 令和6年4月 | 2.5% | 40.0人以上 |
| 令和8年7月 | 2.7% | 37.5人以上 |
2026年7月からは常用労働者37.5人以上の事業主が対象です。常用労働者数が37.5人以上40.0人未満の事業主は、今回の引き上げで新たに対象になりました。あわせて、特定の業種に認められてきた除外率が2025年4月1日から各業種一律で10ポイント引き下げられました。企業に課される義務の全体は障害者雇用とは:企業に課される7つの義務と根拠条文、人事データで備える管理項目にまとめています。
大学入試:理工系学部の女子枠
大学入試の例が、理工系学部で女性だけが出願できる「女子枠」です。東京工業大学(2024年10月に東京医科歯科大学と統合し、現在は東京科学大学)は2022年11月10日の発表で、2024年4月入学者の総合型選抜・学校推薦型選抜から4学院で58人、2025年4月入学者から残る2学院で85人の女子枠を導入し、計143人とすると公表しました。これは学士課程1学年の募集人員1,028人の約14%にあたり、当時の学士課程の女子学生比率は約13%(2022年5月1日時点)でした。
見ておきたいのは翌年の修正です。2023年4月14日の発表で、2025年度入試から理学院と工学院の総合型選抜に性別を問わず出願できる一般枠(理学院8人・工学院17人)を設けました。理学院は学校推薦型選抜(募集人員8人)を、工学院は従来の総合型選抜をそれぞれ廃止して置き換えたもので、女子枠の数は変えていません。大学はこの一般枠の目的を「より多様な入学者を受け入れること」と説明しています。非対象者の機会への影響を数字で見るなら、2022年の発表にある一般選抜(前期日程)の募集人員が確かで、切り替えが完了する2025年度には930人から801人に減ると示されていました。
政治:候補者男女均等法は努力義務にとどまる
政治分野では、政治分野における男女共同参画の推進に関する法律(平成30年法律第28号、2018年5月23日公布・施行。通称は候補者男女均等法)が、選挙において「男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指して」行うことを基本原則に置いています(第2条第1項)。ただし同じ条文は「政党その他の政治団体の候補者の選定の自由、候補者の立候補の自由その他の政治活動の自由を確保しつつ」と前置きしており、政党に求めるのは候補者数の目標設定や選定方法の改善に「自主的に取り組むよう努める」こと(第4条)です。候補者名簿の男女比を義務づける割当ではなく、内閣府の4分類でいえばゴール・アンド・タイムテーブル方式の努力義務にとどまります。
同和対策:2002年3月に特別対策が終了
同和地区を対象とする施策は1969年以降の3本の特別措置法で進められ、最後の地対財特法が2002年(平成14年)3月末で失効して特別対策は終了し、一般対策へ移行しました。現在の部落差別解消推進法(2016年12月16日施行)は相談体制や教育・啓発を定める理念法で、資源を優先配分する特別対策ではありません。
アメリカのアファーマティブ・アクションの歴史:1961年から撤回まで
米国のアファーマティブ・アクションは、連邦契約の条件として始まり、大学入試の判例で範囲が削られ、2025年に連邦契約の側でも根拠を失いました。主な節目は次のとおりです。
| 年月日 | 出来事 | 内容 |
|---|---|---|
| 1961年3月6日 | 大統領令10925 | 連邦契約業者に積極的措置を義務づけ |
| 1965年 | 大統領令11246 | 10925を引き継ぎ、契約業者の義務を継続 |
| 1967年10月13日 | 大統領令11375 | 対象に性別を追加 |
| 1978年6月28日 | Bakke判決 | 固定の人種枠は無効、考慮要素としては容認 |
| 2003年6月23日 | Grutter判決・Gratz判決 | 総合評価は合憲、自動加点は違憲 |
| 2023年6月29日 | SFFA判決 | ハーバード大学等の人種考慮型入試を違憲 |
| 2025年1月21日 | 大統領令14173 | 大統領令11246を撤回 |
| 2026年9月21日 | 503条の規則改正が発効 | 障害者の7%の雇用目標を廃止 |
| 2026年10月26日 | 労働省の最終規則が発効 | 11246の実施規則を廃止 |
1961〜1965年:大統領令で連邦契約業者の義務になる
差別是正の措置として affirmative action という語が大統領令に入ったのは、ケネディ大統領の大統領令10925(1961年3月6日)です。連邦政府と契約する事業者に、契約条項として「応募者の採用と従業員の処遇が、人種・信条・肌の色・出身国に関係なく行われるよう積極的な措置をとる(take affirmative action)」ことを約束させました。差別をしないという義務に、差別のない状態を作りにいく義務を足した点が、差別是正策としてのこの語の出発点です。語そのものは、1935年の全国労働関係法第10条(c)が、不当労働行為に対する救済命令(復職やバックペイを含む)の文言としてすでに使っていました。
1965年にはジョンソン大統領の大統領令11246がこの枠組みを引き継ぎ、1967年10月13日の大統領令11375が対象に性別を加えました。実施規則(41 CFR part 60-2)は1970年2月に定められ、1971年の改訂命令第4号(Revised Order No. 4)で、連邦契約業者が人種・性別ごとの是正計画(AAP)を文書で作る要件が整いました。
1978〜2023年:大学入試の判例はBakkeからSFFAへ
大学入試の判例は、「固定の枠は認めない、考慮要素の一つなら認める」という線を引き、2023年にその後半も外しました。1978年6月28日のRegents of the University of California v. Bakkeでは、カリフォルニア大学デービス校医学部が定員100人のうち16人を少数派向けの特別選抜に充てていた制度が争われました。最高裁はこの特別選抜を無効としてBakke氏の入学を認める一方、将来の入試で人種を考慮要素の一つとすることまで禁じた州最高裁の判断は破棄しています。
2003年6月23日には、ミシガン大学をめぐる2つの判決が同じ日に出ました。ロースクールの総合評価型の入試を扱ったGrutter v. Bollingerは、多様な学生集団から得られる教育上の利益のために人種を限定的に用いることを合憲とし、25年後には人種による優遇が必要なくなることを期待すると述べました。一方、学部入試で少数派の出願者に合格保証ラインの100点のうち20点を自動的に与えていた制度は、Gratz v. Bollingerで平等保護条項違反とされています。
Students for Fair Admissions v. Harvard(2023年6月29日判決)で、最高裁はハーバード大学とノースカロライナ大学の人種考慮型入試を平等保護条項と両立しないと判断しました。理由は、人種を用いることを正当化するだけの測定可能な目的を欠くこと、人種が不利な方向にも働くこと、人種的ステレオタイプを伴うこと、意味のある終期を欠くことの4点です。ただし判決は、出願者が人種が自分の人生にどう影響したかを語り、それを大学が人格や能力に結びつけて考慮することまでは禁じていません。脚注4では、軍の士官学校の入試は判断しないと明示しています。射程は大学入試であり、雇用には直接及びません。
2025〜2026年:大統領令11246の撤回と実施規則の廃止
雇用の側で土台が外れたのは2025年です。大統領令14173(2025年1月21日)は大統領令11246を撤回し、労働省の連邦契約遵守プログラム局(OFCCP)に人種・性別等に基づくアファーマティブ・アクション責任の追及を停止するよう命じました。続いてOFCCPは実施規則を廃止する最終規則を出し、41 CFR の 60-1、60-2、60-3、60-4、60-20、60-40、60-50、60-999 を廃止、60-30 からは大統領令11246に基づく部分を取り除きます。最終規則は2026年8月21日に連邦官報へ掲載され、発効日は2026年10月26日です。
ただし、障害者を対象とするリハビリテーション法第503条と、退役軍人を対象とするVEVRAAに基づく義務は別の法律が根拠のため残ります。もっとも503条の実施規則も同じ2026年8月21日に改正され(9月21日発効)、障害者の7%の雇用目標と、応募者・従業員に障害の自己申告を求める手続は廃止されました。積極的措置の計画(AAP)を作る義務自体は残っています。米国で消えるのは人種・性別に関する連邦契約業者向けの措置であって、積極的措置という枠組み全体ではありません。
海外の制度:留保枠・公共調達・ブミプトラ政策
米国以外では、独立や体制転換の直後に大規模な割当を導入した国が目立ちます。
| 国 | 制度 | 主な内容 |
|---|---|---|
| インド | 留保制度 | 中央政府の採用でSC15%・ST7.5%・OBC27%・EWS10% |
| 南アフリカ | B-BBEE法(2003年) | 企業の達成度を採点し公共調達で評価 |
| マレーシア | ブミプトラ政策 | 憲法第153条に基づく公務員採用・奨学金等の枠 |
インドは規模でも歴史でも突出しています。インド政府人事訓練省の通達によれば、全国規模の公開競争による直接採用では指定カースト15%、指定部族7.5%、その他後進階級27%の枠が置かれ、2019年の憲法第103次改正で経済的弱者層(EWS)に10%の枠が加わりました。インドは政府の採用枠そのものを割合で定めており、目標と情報公表を中心にする日本の女性施策とは強制力の水準が異なります。
アファーマティブ・アクションの問題点:逆差別とスティグマ
逆差別批判が成り立つ条件
逆差別という批判はしばしば漠然と使われますが、日本の制度で法的に問題になる条件は限定されます。決め手は、措置が「割当」なのか「同等条件下の優先」なのかです。内閣府の資料も、こうした手法を国が政党・企業等に義務付ける場合に、憲法上の平等原則等との関係への留意を求めています。プラス・ファクター方式は「同程度に適格」な候補者の間での優先にとどまり、ゴール・アンド・タイムテーブル方式は個々の選考結果を左右しません。
したがって「アファーマティブ・アクションは逆差別だ」という一般命題は、日本の制度にそのままは当てはまりません。批判が最も強く当たるのは「対象者の資格を問わず枠を確保する運用は、非対象者の機会を直接に奪う」という場面です。米国の判例は固定の割当(Bakke)と自動加点(Gratz)を退け、2023年のSFFA判決では枠を設けない総合評価型の人種考慮も平等保護条項と両立しないとしました。米国の線は、割当かどうかを問わず人種を選考に使うこと自体に引かれています。逆差別をめぐる議論の広がりはポリコレとは?意味と具体例、「行き過ぎ」「逆差別」と言われる理由を法律と調査で整理で扱っています。
スティグマ批判:2023年判決の法廷意見と個別意見
優遇を受けた側が「実力ではない」と見られる、という批判があります。2023年判決の法廷意見が挙げた4つの理由に、この心理的負担は入っていません。スティグマを正面から論じたのはトーマス判事の補足意見で、人種による優遇は対象者に「劣等の烙印(badge of inferiority)」を押すと述べました。これに対しソトマイヨール判事の反対意見は、研究がこの見方を否定していると反論しています。判決の結論を支えたのは心理的負担ではなく、人種の使い方そのものでした。
実務への含意は、措置の対象・目的・終期を文書で明示することです。目標値だけが独り歩きして根拠が共有されていない状態が、スティグマ批判の最も刺さる形です。
企業がポジティブ・アクションを導入する手順
女性活躍推進法の行動計画に沿った5ステップ
常時雇用する労働者101人以上の企業が女性活躍推進法に基づいて行動計画を作る手順は、新潟労働局の案内で5つのステップに整理されています。
| ステップ | やること | 要点 |
|---|---|---|
| 1 状況把握・課題分析 | 基礎項目5つを把握 | 女性採用割合・勤続年数差・労働時間・女性管理職比率・賃金差異 |
| 2 行動計画の策定 | 計画を文書にする | 期間・数値目標・取組内容・実施時期 |
| 3 社内周知・外部公表 | 全労働者へ周知し外部へ公表 | 女性活躍推進企業データベース等 |
| 4 届出 | 策定・変更届を提出 | 本社を管轄する労働局へ |
| 5 実施・効果測定 | 取組を実施し点検 | 数値目標の達成状況を定期的に評価 |
アファーマティブ・アクションとしての中身が決まるのはステップ1と2です。女性限定の募集や研修のように第8条の特例に頼る措置は、ステップ1で雇用管理区分ごとの女性割合が4割を下回ると確認できた区分に絞って入れるべきで、全社一律にかけると第8条の目的要件から外れます。基礎項目のうち男女間賃金差異は、2026年4月1日以降に始まる行動計画から101人以上300人以下の企業にも把握が義務づけられました。性別・雇用管理区分・役職・賃金を同じ基準日で突き合わせる必要があり、手作業の集計が追いつかない企業では人事・労務管理システム開発で基準日をそろえた集計を組む方法もあります。
男女雇用機会均等法第8条で守られない措置
第8条の特例が守る範囲には限界が3つあります。対象が女性労働者に限られること、目的が均等な機会・待遇の支障の改善に限られること、特例は第5条から第7条の適用を外すだけで他の法令上の義務を免除しないことです。事故になりやすいのは1つ目で、男性が極端に少ない職種で「男性歓迎」と明示する募集は第8条の特例に乗りません。女性が少ない職種での女性限定募集が適法になり得るのとは非対称であり、左右対称の制度を作ると第5条違反を招きます。多様性施策の全体像はDEIとは?読み方と意味、D&Iとの違いを2026年の制度動向まで整理もあわせて確認してください。
よくある質問
アファーマティブ・アクションの読み方と英語表記は?
英語表記は affirmative action です。affirmative は「肯定的な、積極的な」を意味する形容詞で、動詞 affirm(断言する、支持する)から派生しています。日本語訳の「積極的差別是正措置」は「せっきょくてきさべつぜせいそち」と読みます。中黒を入れる表記(アファーマティブ・アクション)と入れない表記が併存していますが、同じ概念です。
アファーマティブ・アクションは女性に対してどのような意味で使われますか?
日本では、女性の採用・登用を増やすための措置を指すのが一般的で、行政は「ポジティブ・アクション」と呼びます。根拠は男女雇用機会均等法第8条(女性限定措置の特例)と女性活躍推進法(行動計画と情報公表)です。米国では大統領令11246が1967年改正で性別を対象に加えたことで、女性も連邦契約業者の措置の対象になりました。
アファーマティブ・アクションのメリットは何ですか?
意思決定層の構成が変わることです。令和7年度雇用均等基本調査で「その層に占める女性の割合」をそろえて見ると、正社員の総合職では23.8%、課長相当職では13.2%、部長相当職では9.2%で、役職が上がるほど女性が少なくなります。目標が達成されるまでの過程で登用基準や評価の運用が見直される点に、実務上の意味があります。
中小企業にもアファーマティブ・アクションの義務はありますか?
法律ごとに人数の基準が違います。女性活躍推進法の行動計画と情報公表は常時雇用する労働者101人以上で義務、100人以下は努力義務です。拡大された公表項目は、2026年4月1日以降に最初に終了する事業年度の実績から公表が必要です。障害者の法定雇用率2.7%は、2026年7月以降、常用労働者37.5人以上の事業主に課されます。
アファーマティブ・アクションは廃止されるのですか?
米国では、大学入試の人種考慮が2023年の最高裁判決で否定され、連邦契約業者への義務も、実施規則を廃止する最終規則の発効日が2026年10月26日です。日本は逆で、女性活躍推進法が2026年4月に公表義務を広げ、障害者の法定雇用率も2026年7月に2.7%へ上がりました。米国の動きを日本の制度動向として読み替えることはできません。