人事労務

シリアルアントレプレナー(連続起業家)とは?成功率のデータと日本の実態

シリアルアントレプレナー(連続起業家)とは?成功率のデータと日本の実態

シリアルアントレプレナー(連続起業家)は、一つの事業を立ち上げて手放したあと、また次の事業を立ち上げる起業家を指します。解説記事の多くは「失敗を恐れない」「好奇心が強い」といった人物像で説明を終えますが、VC投資先9,790件を追跡した実証研究を読むと、次の事業の成否を分けていたのは起業経験の有無ではありませんでした。この記事では定義とポートフォリオ起業家との違いを整理したうえで、成功率の実数、日本の開業者に占める割合、経営者保証を外す制度までを一次情報で確認します。

まとめ:連続起業家をデータで読むための3つの要点

先に結論を示します。連続起業家とは、前の事業から退出したうえで次の事業を始める起業家のことで、複数の事業を同時に持つポートフォリオ起業家とは区別されます。

成功率については、米国VC投資先を分析したGompersらの研究が、過去に成功した起業家の次の事業の予測成功率を30.3%、過去に失敗した連続起業家を21.8%、初回起業家を20.9%と推計しています。つまり差を生んでいるのは「起業した回数」ではなく「前回成功したかどうか」です。失敗経験そのものの上乗せは1ポイント未満にとどまりました。

日本での実数もはっきりしています。日本政策金融公庫の調査では、開業者のうち連続起業家は8.4%、ポートフォリオ起業家は4.3%で、残る87.3%は経営経験のない開業者でした。以下、それぞれの根拠と、日本で2社目を始めるときの資金調達の選択肢を順に見ていきます。

シリアルアントレプレナーの定義とポートフォリオ起業家との線引き

前事業の退出有無による連続起業家とポートフォリオ起業家の区分

英語表記は serial entrepreneur です。serial は「連続的な」「次々と起こる」という意味で、朝食のシリアル(cereal)とは綴りが異なります。日本語では連続起業家と訳され、まれに連続企業家と表記されることもあります。

紛らわしいのがポートフォリオ起業家(portfolio entrepreneur)との違いです。WestheadとWrightが1998年の研究で示した区分では、前の事業を売却してから別の事業を始める人が serial、元の事業を保有したまま別の事業を加える人が portfolio とされます。両者をまとめて habitual entrepreneur(常習的起業家)と呼び、事業所有の経験がない novice entrepreneur と対比するのが研究上の整理です。

この区分は日本の公的調査にもそのまま採用されています。日本政策金融公庫総合研究所の調査は、連続起業家を「調査対象企業を開業する前に企業を経営していたことがあるが、すでにその企業を辞めた人」、ポートフォリオ起業家を「開業する前に企業を経営していたことがあり、現在もその企業を経営している人」と定義しています。

類型 前の事業 日本の開業者に占める割合 開業前の経営社数(平均) 開業前の経営年数(平均)
未経験起業家 なし 87.3% 該当なし 該当なし
連続起業家 退出済み 8.4% 1.3社 9.5年
ポートフォリオ起業家 保有継続 4.3% 1.6社 13.6年

数値は日本政策金融公庫総合研究所「2016年度新規開業実態調査(特別調査)」(2017年3月27日)によります。同庫国民生活事業が2015年3月から9月に融資した開業後4年以内の企業12,050社に調査票を送り、2,805社から回答を得たものです。融資先を母集団とする調査なので、日本の開業者全体の比率とは一致しない点に注意してください。

混同されやすい隣接概念

連続起業家と近い場所で使われる言葉に、起業家精神そのものを指すアントレプレナーシップと、社内で新規事業を立ち上げるイントラプレナーがあります。前者は資質や姿勢を表す概念、後者は会社に所属したまま事業を起こす立場を表すもので、いずれも「自分で会社を複数回つくる」という連続起業家の定義とは指す対象が違います。

VC支援ベンチャー9,790件に見る連続起業家の成功率

連続起業家の次回事業成功率と過去の成功実績

この問いに正面から答えたのが、GompersらがJournal of Financial Economics誌に発表した「Performance persistence in entrepreneurship」(2010年、96巻1号18-32ページ)です。1986年から2000年にかけてVenture Sourceデータベースに登録された起業家8,753人・9,790件のベンチャーを追跡し、2007年12月までに株式公開したか公開を申請したかを成功と定義しました。

単純な集計では、初回起業家の成功率は25.3%、連続起業家が2社目以降で記録した成功率は29.1%でした。ここまでは「経験を積むと成功しやすくなる」という通説どおりに見えます。

ところが投資段階や業界などの条件をそろえて推計すると、様相が変わります。過去に成功した起業家の予測成功率は30.3%だったのに対し、過去に失敗した連続起業家は21.8%、初回起業家は20.9%でした。失敗経験のある連続起業家と、一度も起業したことがない人との差は1ポイント未満です。論文はこの結果を「連続起業家の成功確率を高めるのは経験それ自体ではない」と述べています。

ここは立場をはっきりさせておきます。「何度も挑戦すること自体に価値がある」という説明は、少なくともこのデータでは支持されません。次の事業の成功率と強く関連していたのは、起業回数ではなく過去の事業がIPO等に至った実績です。裏を返せば、過去の事業がIPOまたは上場申請に至らなかった起業家には、初回起業家を明確に上回る成功率は確認されませんでした。

連続起業家の成功持続性を左右する市場選択と参入時期

では前回の成功は何を証明しているのでしょうか。論文は成功を「市場を選ぶ力」と「選んだ市場のなかで他社を上回る力」に分解し、次の事業の成否をよく説明したのは前者だったと報告しています。

その落差を示す例が論文に出てきます。1983年に設立されたコンピュータ関連スタートアップは52%が最終的に株式公開に至った一方、1985年設立では18%にとどまりました。同じ業界でも、参入した年が2年ずれるだけで結果が3倍近く変わっています。連続起業家に固有の能力があるとすれば、それは事業運営の巧拙よりも、どの市場にいつ入るかの判断だったということです。

失敗経験が報われる条件

失敗した連続起業家に見込みがない、という話ではありません。同じ論文は投資家の経験値で結果を分けています。経験豊富なVCから出資を受けた場合、失敗経験のある起業家の成功率は25.9%まで上がり、経験の浅いVCの場合は17.7%にとどまりました。初回起業家でも20.9%と14.3%という開きがあります。

興味深いのは、前回成功した起業家では投資家の経験による差がほぼ消える点です(32.2%と31.6%)。実績のない起業家ほど、誰から調達するかが結果を左右すると読めます。過去の事業がIPO等に至らなかった起業家では、経験豊富なVCから出資を受けた場合に高い予測成功率が示されましたが、投資条件との優先順位や因果関係までは検証されていません。

なお、この研究の対象は米国のVC投資先に限られ、成功も株式公開で測っています。自己資金や融資で立ち上げる事業、売却によるイグジットを狙う事業にそのまま当てはまる数字ではありません。

「起業して10年後の生存率は6.3%」という数字の出どころ

連続起業家を語る記事では、「起業した会社の10年後の生存率は6.3%」「5年後は15.0%」という数字がしばしば引かれ、再挑戦の必要性を裏づける根拠として使われます。この数字の出所を確認しておきます。

国立国会図書館が運営するレファレンス協同データベースには、まさにこの裏付けを求めた質問が登録されています(事例作成日2024年3月5日、さいたま市立中央図書館)。質問は「企業生存率が10年後6.3%の裏付けが欲しい。2017年頃、経済産業省等が出している統計の一部に記載があったと思われる」というものです。調査にあたった図書館は日経ビジネス電子版に同じ記載を見つけたものの、その根拠となるデータは確認できないとしています。

公的統計が示す数字はまったく違います。2023年版中小企業白書のコラム2-2-3は「創業後5年を経過した日本における起業後の企業生存率は、80.7%である」と記しています。ただし白書自身が同じ文のなかで、データベースに収録される企業の性質や収録までの時間差から「実際の生存率よりも高めに算出されている可能性がある」と注記している点も落とせません。この注記から80.7%を実際の生存率とみなすことはできず、6.3%との間に実態があるとも判断できません。

白書は各国比較についても「欧米諸国の生存率は創業後5年を経過すると50%を下回っており」と述べています。白書は国ごとに統計やデータの性質が異なるため単純比較できないと明記しており、この数値だけで日本の廃業が海外より少ないとは断定できません。連続起業家の少なさを国民性で説明する前に、この数字を確認しておく価値があります。

ここでの主張は「6.3%が誤りだ」というところまでは踏み込みません。確認できたのは、2023年版中小企業白書に該当する値が示されておらず(同白書が示すのは創業後5年の80.7%です)、レファレンス協同データベースに登録された図書館の調査でも根拠にたどり着けなかった、という範囲の事実です。出典が示されない生存率の数字を引いて再挑戦を勧める記事に出会ったら、まず出所を確かめてください。

日本の開業者に占める連続起業家の割合

日本政策金融公庫の調査によれば、開業者のうち連続起業家は8.4%、ポートフォリオ起業家は4.3%で、合わせて12.7%が経営経験者でした。同庫が2012年度以降に継続して尋ねている経営経験者の割合も11.6%から15.8%の範囲で推移しており、10人に1人強という水準は安定しています。

この数字は「日本には連続起業家がいない」という言い方が正確でないことを示します。むしろ注目したいのは経験の中身です。連続起業家が開業前に経営した会社の数は1社が80.8%を占め、2社が14.9%、3社以上は4.3%でした(n=208)。経営年数は通算平均9.5年ですが、内訳は1〜4年が30.1%、5〜9年が27.2%、10〜19年が29.6%、20年以上が13.1%と分散しています(n=206)。

つまり日本の連続起業家の典型は、会社を次々に立ち上げる人ではなく、1社を経営したのちに次へ移る人です。ただし在籍年数の分布は平坦で、数年で次に移る層と20年近く続けてから移る層が同程度に存在します。平均値だけを取り出して「10年かけてから次に進むもの」と一般化はできません。連続起業をキャリアの選択肢として検討するなら、この幅を前提に置くほうが現実的です。

連続起業家に向いている人と、指摘される弱み

向いている人の条件

ここまでのデータから、向き不向きを人柄ではなく条件で整理できます。第一に、参入する市場と時期を自分で判断したい人です。Gompersらの分析で持続していた能力は市場選択でした。技術や組織づくりが好きでも、市場を選ぶ判断を他人任せにするなら、その強みは2社目に持ち越せません。

第二に、イグジットを設計に織り込める人です。連続起業家の定義そのものが前の事業からの退出を含みます。売却や上場を視野に入れた資本政策を1社目から組めるかどうかが分かれ目になります。事業の立ち上げ方についてはリーンスタートアップの考え方が、資金繰りの見通しについてはスタートアップとJカーブの関係が判断材料になります。

第三に、手元にある資源から始める発想を持てる人です。目標から逆算する計画法だけでなく、エフェクチュエーションのように既存の手段から着手する意思決定は、実績のない2社目の立ち上げ期と相性がよい考え方です。

向いていない人と、連続起業家に向けられる批判

逆に、一つの事業を長期で育てることに手応えを感じる人には向きません。前述のとおり、日本の連続起業家でも平均9.5年は一つの事業に関わっています。飽きたら次に移るという意味での「連続」ではないためです。また、複数事業の同時運営を望むならポートフォリオ起業家であり、連続起業家の型を無理に当てはめる必要はありません。

連続起業家に向けられる弱みの指摘にも、根拠のあるものとないものがあります。根拠があるのは「前回失敗した経験は次に効きにくい」という点で、これはGompersらの21.8%対20.9%という推計が示すとおりです。一方、公庫調査は「一つのことを続けられない」「事業を売り抜けるだけ」といった人物像への批判を検証したものではありません。経営年数の平均が9.5年である以上、短期売買のイメージは実態と合いません。

日本で2社目を始めるときの資金調達と経営者保証

連続起業を妨げ得る具体的な要因の一つが、経営者保証です。中小企業庁は「起業関心層の方のうち、およそ8割が「借金や個人保証を抱えること」を懸念されています」と説明しています。1社目が立ち行かなくなったとき個人保証が残れば、2社目に進む前に個人の再建が必要になります。

この状態を変えるために2023年3月15日に始まったのが、スタートアップ創出促進保証制度です。経営者保証を不要とする創業時の信用保証制度で、条件は次のとおりです。

項目 内容
保証限度額 3,500万円
保証期間 10年以内
据置期間 1年以内(条件を満たす場合は3年以内)
担保・保証人 不要
保証料率 創業関連保証の保証料率に0.2%上乗せ
対象 創業予定者、創業後5年未満の法人ほか

金利は金融機関所定です。保証料率の上乗せは、経営者保証を外す代わりのコストと理解してください。加えて、税務申告を1期も終えていない段階で申し込む場合は創業資金総額の10分の1以上の自己資金が必要で、融資後は会社設立の3年目と5年目に中小企業活性化協議会のガバナンスチェックを受けることが求められます。無条件で保証が外れる制度ではありません。

この制度は、経営者保証なしで創業資金を調達する選択肢になります。制度上「創業後5年未満の法人」も対象に含まれるため、前の事業を畳んだあとに設立した新会社でも要件を満たし得ます。金融機関や信用保証協会への確認が前提ですが、個人保証を抱えたまま次に進むしかなかった構図は変わりつつあります。

日本と海外の連続起業家の実例

山田進太郎氏:ウノウからメルカリへ

山田進太郎氏は2001年にウノウを立ち上げ、写真共有サービスやソーシャルゲームを手がけました。2010年8月、米Zyngaがウノウを買収します。Zyngaの発表は「Unoh is one of Japan's pioneering social game companies, founded in 2001」と記し、山田氏がZynga Japanのモバイル事業を率いると説明しました。その後同社を離れ、2013年にメルカリの前身となる会社を設立します。メルカリは公式に「2013年、創業者の山田進太郎が世界一周の旅で抱いた課題意識から、フリマアプリ「メルカリ」は生まれました」と説明しています。1社目の売却から2社目の設立まで、およそ3年が空いています。

家入一真氏:ロリポップからCAMPFIREへ

家入一真氏の経歴は、GMOペパボの公式沿革でたどれます。2001年10月に前身の合資会社マダメ企画を設立し、翌11月にレンタルサーバー「ロリポップ!」の提供を開始。2003年1月に有限会社paperboy&co.を設立し、2008年12月にジャスダック証券取引所へ上場しました。その後同社を離れ、2011年にクラウドファンディングのCAMPFIREを創業しています。上場までに約7年を費やしており、ここでも1社目には長い時間がかかっています。

米国に連続起業家が多く見える理由

米国の代表例として挙げられるのがイーロン・マスク氏です。Zip2、X.com(のちのPayPal)、テスラ、スペースXと事業を重ねてきました。ただ、米国に連続起業家が多く見える理由を国民性に求めるのは早計です。Gompersらの研究が米国のVC支援企業について示したのは、成功を左右していたのが市場と時期の選択だったこと、そして過去の事業がIPOに至らなかった起業家でも経験豊富なVCから調達できた場合には成功率が上がったことでした。同研究は日米を比較したものではないため、両国の連続起業家の多寡を説明するデータではありません。それでも、再挑戦を後押しする論点として精神論より先に検討すべきなのは、失敗のあとに再び調達できる経路が用意されているかどうかだと考えられます。

よくある質問

連続起業家は英語で何といいますか?

serial entrepreneur です。WestheadとWright(1998年)の区分では、serial と portfolio を合わせて habitual entrepreneur と呼び、事業所有の経験がない novice entrepreneur と区別します。

連続起業家とポートフォリオ起業家の違いは何ですか?

前の事業を手放しているかどうかです。退出したうえで次を始めるのが連続起業家、元の事業を経営しながら新しい事業を加えるのがポートフォリオ起業家です。日本の開業者では前者が8.4%、後者が4.3%を占めます。

起業して10年後の生存率はどのくらいですか?

広く引用される「10年後6.3%」は、レファレンス協同データベースに登録された調査事例でも根拠となるデータが確認できていません。公的統計では、2023年版中小企業白書が創業後5年の生存率を80.7%としています。ただし白書自身が実際より高めに出ている可能性を注記しています。

連続起業家の弱みは何ですか?

データで確認できる弱みは、前回の失敗経験が次の成功率をほとんど押し上げない点です。過去に失敗した連続起業家の予測成功率は21.8%で、初回起業家の20.9%とほぼ変わりませんでした。一方「飽きっぽい」といった人物像への批判に、統計上の裏づけは見当たりません。

2社目の起業でも経営者保証を外せますか?

スタートアップ創出促進保証制度は創業後5年未満の法人も対象に含むため、要件を満たせば担保・保証人なしで最大3,500万円の保証を受けられます。保証料率が0.2%上乗せされ、設立3年目と5年目にガバナンスチェックを受ける必要があります。適用可否は金融機関または信用保証協会に確認してください。

関連記事

お気に入りに入れた記事の一覧

この記事は以下の記事からリンクされています

資料請求

今日のトレンド記事 直近 24 時間で、いつもより多く読まれている記事

  1. 2026.10.23 テックブログ Renta!はいつ再開?不正アクセスでメールアドレス等が流出したおそれ・再開時のパスワード再設定と運営側の対応
  2. 2026.07.09 テックブログ Muse Imageとは?Metaの画像生成AIの使い方・API料金(1枚0.01ドル)と日本での提供状況【2026年10月】
  3. 2026.10.23 テックブログ Splunk 脆弱性CVE-2026-76299:影響版の確認と10.2.8などへの更新手順
  4. 2026.10.22 テックブログ Tomcatのバージョン一覧とサポート期限【2026年10月】最新版11.0.27、9.0系は2027年3月末終了・9.1系は2030年末まで
  5. 2026.10.21 テックブログ ユミルリンク不正アクセス第二報で延べ5,162万件:Cuenote FC利用企業と受信者の確認点

RELATED POSTS 関連記事

目次