LLCはLimited Liability Companyの略で、日本では会社法上の合同会社を指します。一方、名前の似たLLP(Limited Liability Partnership)は有限責任事業組合です。LLPは2人以上で組む共同事業の契約で、法人格を持ちません。どちらも出資者全員が有限責任で、利益を出資比率と違う割合で分けられるため、よく並べて比較されます。ただし、税金のかかり方、何人から作れるか、将来株式会社になれるかは大きく違います。
この記事では、会社法(e-Gov法令検索)・有限責任事業組合契約に関する法律(e-Gov法令検索)(以下、LLP法)・登録免許税法などの条文をもとに、両者の違いを比較表と費用で整理します。あわせて、米国のLLCと日本の合同会社で課税の仕組みが違う点と、個人事業主が1人で法人化する場合の選択肢も解説します。
まとめ:LLCとLLPの違いと選び方の要点
- LLC(合同会社):2006年5月1日施行の会社法で生まれた法人で、社員1人から設立できます。会社として法人税を納め、あとから株式会社へ組織変更することもできます。
- LLP(有限責任事業組合):2005年8月1日に始まった、法人格のない組合です。2人以上で組み、組合員全員が業務執行に加わります。利益は組合員ごとに課税されます(構成員課税)。
- 費用:設立登記の登録免許税は、LLPが6万円、合同会社が資本金の0.7%(最低6万円)、株式会社が同じく0.7%(最低15万円)です。定款認証が要るのは株式会社だけです。
- 選び方:1人で始める事業や長く続ける事業なら合同会社です。期間を区切った共同研究や、専門家同士の協業で損益を各自の所得に直接反映したい場合はLLPが向いています。
- 米国LLCとの違い:米国のLLCはパススルー課税を選べますが、日本の合同会社は普通法人として法人税がかかります。「日本版LLC」という呼び名だけで、税制まで同じだと考えないでください。
LLC(合同会社)の仕組み:社員1人から作れる持分会社
合同会社は、合名会社・合資会社と並ぶ持分会社の一種で、2006年5月1日の会社法施行とともに導入されました。「社員」は従業員ではなく出資者を指し、全員が出資額までしか責任を負わない有限責任社員です。法務省の立案資料には「社員一人のみの合同会社の設立及び存続を認める」とあり、1人でも設立できます。
株式会社と違って、出資者と経営者が原則として一致します。会社法590条は「社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する」と定めています。一部の社員だけに経営を任せたい場合は、定款で業務執行社員を定めます。業務執行社員が2人以上いる場合、定款に別段の定めがなければ、業務はその過半数で決めます(591条)。
株式会社との実務上の違いは、次の3点です。
- 定款認証が不要:株式会社は公証人の認証が必要ですが、合同会社は要りません。
- 決算公告の義務がない:会社法440条の貸借対照表の公告義務は株式会社に課されたもので、持分会社には同じ規定がありません。
- 役員の任期がない:株式会社の取締役のような法定任期がないため、任期ごとの重任登記が要りません。任期を設けたい場合は定款で定めます。
法務省の登記統計によると、2025年の設立登記は株式会社が104,368件、合同会社が45,318件でした。合同会社は前年比8.0%増で、株式会社の1.6%増を上回っています。なお、この件数には組織変更などによる設立も含まれます。
米国のLLCと日本の合同会社の違い
合同会社は米国のLLCを手本にしたため「日本版LLC」と呼ばれますが、課税の仕組みは異なります。米国内国歳入庁(IRS)は、LLCを構成員の数と選択に応じて、法人(corporation)、パートナーシップ、所有者と一体の事業体(disregarded entity)のいずれかとして扱います。Form 8832で法人課税を選ぶこともでき、この仕組みは一般にcheck-the-box規則と呼ばれます。
一方、日本の合同会社は法人税法上の普通法人で、会社として法人税を納めます。構成員課税を選ぶことはできません。
逆に、日本の投資家や企業が米国LLCに出資する場合は注意が必要です。国税庁の質疑応答事例「米国LLCに係る税務上の取扱い」は、米国LLCが米国で法人課税とパススルー課税のどちらを選んでいても、「原則的には我が国の税務上、『外国法人(内国法人以外の法人)』として取り扱うのが相当です」としています。米国で損益が構成員に帰属する形でも、日本ではその損失を個人の所得と通算できるとは限りません。州ごとに根拠法が違うため、国税庁も個別の判断が必要だと明記しています。
検索で一緒に調べられやすいLPS(リミテッド・パートナーシップ)については、最高裁が2015年7月17日に、米国デラウェア州のLPSを日本の租税法上の外国法人に当たると判断しました。ただし、この判決はLPSについてのもので、LLCの扱いを直接示したものではありません。
LLP(有限責任事業組合)の仕組み:法人格のない共同事業の器
LLPは、民法上の組合の特例として2005年8月1日に始まった制度です。LLP法15条は「組合員は、その出資の価額を限度として、組合の債務を弁済する責任を負う」と定めており、全員が有限責任である点は合同会社と同じです。ただし、法人格がないため、組合そのものは権利義務の主体にならず、法人税も課されません。経済産業省のパンフレットによると、2017年12月末までに設立されたLLPは累計7,593組合です。
LLP法には、合同会社にない制約がいくつかあります。
- 組合員は2人以上:組合契約なので、1人では成立しません。
- 全員が業務執行に加わる:13条は、組合員が業務を執行する「権利を有し、義務を負う」と定めています。業務執行の一部は委任できますが、全部を他人に任せることはできません。出資だけの参加はできないということです。
- 出資は金銭その他の財産のみ:11条により、労務出資(働くことを出資に充てること)は認められていません。
- 出資を全額払い込んでから効力が生じる:3条1項により、出資の全額を履行することが契約の効力発生の要件です。登記したあとに出資するという順序にはなりません。
- 国内要件がある:3条2項により、組合員の少なくとも1人は、国内に住所があるか現在まで引き続き1年以上国内に居所がある個人、または国内に本店もしくは主たる事務所がある法人でなければなりません。
- 存続期間を必ず定める:4条3項6号により、存続期間は組合契約書の必須記載事項です。期間が満了すると解散します(37条)。
- 営めない業務がある:施行令で、弁護士・公認会計士・税理士・司法書士・行政書士・社会保険労務士・弁理士などの独占業務は除外されています。無限責任が前提の士業を、有限責任の組合で営むことはできません。
もうひとつ重要なのが、組織変更ができない点です。経済産業省のFAQは「法人格を持たないため、法人格のある会社形態への組織変更はできません」と明記しています。事業が大きくなって株式会社や合同会社にしたい場合は、LLPを解散し、会社を新しく設立して事業を移すことになります。
なお、LLPと似た名前の投資事業有限責任組合(LPS)は別の法律に基づく制度で、無限責任組合員が必要な点でLLPとは異なります。
LLPとLLCの違いを比較表で確認
| 項目 | LLP(有限責任事業組合) | LLC(合同会社) | 株式会社(参考) |
|---|---|---|---|
| 根拠法 | LLP法(2005年施行) | 会社法(2006年施行) | 会社法 |
| 法人格 | なし | あり | あり |
| 最少人数 | 2人 | 1人 | 1人 |
| 出資者の責任 | 有限責任 | 有限責任 | 有限責任 |
| 業務執行 | 全組合員 | 原則全社員(定款で限定可) | 取締役 |
| 課税 | 組合員に課税 | 法人税 | 法人税 |
| 損益分配 | 総組合員の同意で出資比率と別に設定可 | 定款で設定可 | 原則株式数に比例(種類株式等の例外あり) |
| 登録免許税 | 6万円 | 資本金の0.7%(最低6万円) | 資本金の0.7%(最低15万円) |
| 定款認証 | なし(組合契約) | 不要 | 必要(1.5万〜5万円) |
| 決算公告 | なし | なし | あり |
| 存続期間 | 必ず定める | 定めなくてよい | 定めなくてよい |
| 株式会社への移行 | 不可(解散して新設) | 組織変更で可 | - |
表の中で選択を大きく左右するのは、「法人格」「最少人数」「課税」の3項目です。法人格がないLLPは、組合そのものが権利義務の主体になれません。契約や財産の名義は組合員に帰属する形になるため、取引先や金融機関に組合の仕組みを説明する場面が出てきます。
課税の違い:LLPの構成員課税と合同会社の法人税
経済産業省のパンフレットは、LLPについて「LLPで生じた損益は、LLP自体には課税されず、利益の分配を受けた組合員においてのみ課税されます」と説明しています。組合員が個人なら所得税、法人なら法人税の対象になります。実際に現金の分配を受けていなくても、各組合員に帰属する利益は所得計算に反映されます。合同会社のように、会社の段階で法人税を納め、配当を受けた社員が再び課税されるという二段階の課税は生じません。
損失を他の所得と通算できる範囲
LLPの個人組合員が他の所得と損益通算できるかは、組合事業から生じる所得の種類によります。雑所得の損失は他の所得と通算できず、事業所得などでも法令上の制限を確認する必要があります。そのうえで、通算できる損失の額にも上限があります。個人の組合員については、租税特別措置法27条の2により、LLP事業の損失のうち「出資の価額を基礎として政令で定めるところにより計算した金額」を超える部分は必要経費に算入できません。出資額を大きく超える赤字を他の所得と相殺して節税することはできない仕組みです。この上限は、出資した金額そのものではなく、政令による調整計算を経た額です。
出資比率と違う割合で分配する条件
LLPの損益分配は、原則として各組合員が払い込んだ出資の額に比例します。別の割合にするには、総組合員の同意が必要です(LLP法33条)。さらに施行規則36条により、全組合員が署名または記名押印した書面に、割合と理由、そしてその割合が合理的だといえる事由を記載しなければなりません。「技術を提供した組合員に多めに配る」ことはできますが、理由を示さずに自由な比率を決めることはできません。
合同会社も、定款で出資比率と違う利益配当の割合を定められます。ただし、税金は会社段階でかかります。役員報酬や配当の設計で手取りを調整する点は、株式会社と同じです。
設立の手続きと費用:登録免許税と定款の扱い
LLPは組合契約書を作成し、出資を全額払い込んでから、組合契約の効力発生の登記をします。登録免許税は登録免許税法別表第一により、1件6万円の定額です。
合同会社は、定款を作成し、出資を払い込んでから設立登記を申請します。公証人の認証は要りません。登録免許税は資本金の0.7%で、最低額は6万円です。資本金が約857万円以下なら6万円になります。
見落としやすいのが印紙税です。国税庁のタックスアンサー(No.7141)によると、株式会社・合同会社などの設立時に作る定款の原本は4万円の印紙税がかかる課税文書です。合同会社でも、紙で作れば4万円が必要です。PDFなどの電子定款には印紙税がかからないため、専門家や会計ソフトの電子定款サービスを使うと、この4万円を省けます。
株式会社の場合は、ここに定款認証手数料が加わります。公証人手数料令35条による判定額は、定款に記載・記録した資本金額です。資本金額の記載・記録がなく、設立時に出資される財産の価額が記載・記録されている場合は、その価額で判定します。手数料は、この額が100万円未満なら原則3万円、100万円以上300万円未満なら4万円、それ以外は5万円です。100万円未満で、発起人が3人以下の個人だけ、発起人が全株式を引き受ける、取締役会を置かない、という3つの条件をすべて満たせば1万5,000円になります。
| 法定費用(資本金50万円・電子定款の例) | LLP | 合同会社 | 株式会社 |
|---|---|---|---|
| 登録免許税 | 6万円 | 6万円 | 15万円 |
| 定款認証手数料 | - | - | 1.5万円または3万円 |
| 定款の印紙税 | - | 0円 | 0円 |
| 合計 | 6万円 | 6万円 | 16.5万〜18万円 |
上の表には、定款の謄本手数料や専門家への報酬は含めていません。
個人事業主の1人法人化:合同会社の選択理由とLLPの人数制限
「個人事業主 llc」で調べる人の多くは、1人で営む事業を法人にする「法人成り」を考えているはずです。この場合、LLPは選択肢になりません。LLPは2人以上の組合契約で、1人では成立しないためです。
出資者1人で有限責任の会社を設立するなら、合同会社か株式会社が選択肢です。合同会社を選ぶ理由は、設立費用の安さ(電子定款なら法定費用6万円)と、決算公告や役員任期の手間がない点にあります。反対に、次の条件に当てはまる場合は、最初から株式会社にした方がよいでしょう。
- ベンチャーキャピタルからの出資や、将来の上場を視野に入れている(株式を発行できるのは株式会社だけです)
- 取引先や採用の場面で「株式会社」の表記を求められることが多い業界である
- 出資者ではない人に取締役として経営を任せたい(合同会社でも一部の出資者を業務執行から外すことはできます)
合同会社で始めても、会社法746条の組織変更計画を作り、総社員の同意と債権者保護手続を経れば株式会社に移れます。ただし、その時点で登記費用などが別にかかります。
法人化すると、社会保険の加入や消費税の扱いも変わります。判断材料として、個人事業主が売上1000万円を超えたら消費税はいくら?納税開始は2年後・2割特例は令和8年分までや個人事業主の国民健康保険はいくら?令和8年度の早見表と安くする方法で現状の負担を確認しておくと比較しやすくなります。
LLPとLLCを選ぶ判断基準と向かないケース
まず、参加人数と法人格の必要性で候補を絞ります。共同事業では、全員が業務を担えるか、損益を各組合員に帰属させたいか、存続期間をどう定めるかを順に判断します。
LLPが力を発揮するのは、期間とメンバーが決まった共同事業です。たとえば、複数の企業による共同研究開発、デザイナーとエンジニアが組む製品開発、大学と企業の産学連携などです。組合員が自分の取り分の損益をそれぞれの決算や申告に直接取り込めるため、赤字の初期段階でも出資者側で損失を計上できます。
一方、LLPを選ぶべきでないケースもはっきりしています。
- 出資だけして経営に関わらない人がいる:全組合員に業務執行の義務があるため、LLPの形になじみません。
- いずれ株式会社にして外部資金を入れたい:組織変更ができないため、解散と新設の手間がかかります。
- 士業の独占業務そのものを行う:施行令で除外されています。
- メンバーが1人になる可能性がある:LLP法37条は「組合員が一人になったこと」を解散事由にしています。原則として1人になった時点で解散事由が生じます。ただし、その日から2週間以内で、かつ解散登記をする日までに新しい組合員を加入させた場合は例外です。
合同会社は、1人で長く続ける事業や、家族経営、BtoCの店舗・EC事業など、社名の「株式会社」表記が取引に影響しにくい事業に向いています。外資系企業の日本法人にも、合同会社の形態が多く使われています。
出資者が組合員として働く形態には、LLPのほかに労働者協同組合もあります。こちらは法人格を持ち、出資者が働くことを前提にした制度です。違いはワーカーズコープ(労働者協同組合)とは?出資金の決まり方とデメリット・評判の実態を制度から解説で整理しています。
よくある質問
LLCとは日本では何のことですか?
日本では、会社法上の合同会社を指します。会社名の英語表記に「LLC」を使う企業も多く、「〇〇合同会社(〇〇 LLC)」のように併記されます。ただし、米国のLLCとは課税の仕組みが異なり、日本の合同会社は法人税の対象です。
合同会社は法人ですか?
はい、合同会社は法人格を持つ会社です。会社名義で契約を結び、不動産を所有し、銀行口座を開設できます。法人格がないのはLLP(有限責任事業組合)の方です。
LLPとLLCの一番の違いは何ですか?
法人格の有無と、それに伴う課税方法です。LLPは法人格がないため、組合としては課税されず、利益や損失は組合員ごとに課税されます。合同会社は法人なので、会社として法人税を納めます。
LLPは1人でも設立できますか?
できません。LLPは2人以上で結ぶ組合契約なので、最低2人の組合員が必要です。1人で法人化したい場合は、合同会社か株式会社を選びます。
LLPとLPSの違いは何ですか?
LLPは組合員全員が有限責任で、全員が業務を執行します。一方、日本の投資事業有限責任組合(LPS)は、業務を執行する無限責任組合員と、出資だけをする有限責任組合員で構成されます。LPSは主にベンチャー投資ファンドの器として使われています。