10 人が閲覧(直近 30 日) 人事労務

パタハラ(パタニティハラスメント)とは?パタニティの意味・語源と具体例、マタハラとの違い

パタハラ(パタニティハラスメント)とは?パタニティの意味・語源と具体例、マタハラとの違い

パタハラ(パタニティハラスメント)とは、男性が育児休業や短時間勤務など育児のための制度を使おうとしたとき、または使ったことを理由に、上司や同僚から受ける嫌がらせのことです。「パタニティ(paternity)」は英語で「父親であること」を意味し、ラテン語の pater(父)に由来します。法律ではパタハラという言葉は使われず、育児・介護休業法第25条の「育児休業等に関するハラスメント」として、事業主に防止措置が義務づけられています。

この記事では、パタニティの意味と語源から、どの言動がパタハラに当たり、どこからが当たらないのか、マタハラとの違い、パタハラが起きる原因、厚生労働省の調査に表れた実態、企業の防止措置と相談先までを、条文と行政資料に沿って整理します。

まとめ

  • パタニティ(paternity)は「父親であること」。ラテン語の pater(父)から来た語で、パタハラは育児のための制度を使う男性への嫌がらせを指す通称です。
  • 法律上は育児・介護休業法第25条の「育児休業等に関するハラスメント」。対象の制度は育児休業(産後パパ育休を含む)、子の看護等休暇、残業免除、短時間勤務、柔軟な働き方を実現するための措置など、介護関係を含めて11種類あります。
  • 上司の言動は1回でも該当しうる一方、同僚の言動は繰り返し又は継続的なものが該当します。業務体制を見直すために休業期間を確認するなど、業務上の必要性に基づく言動は該当しません。
  • 通称では男性への育児関連の嫌がらせをパタハラ、女性への妊娠・出産・育児関連の嫌がらせをマタハラと呼びます。適用法は事由で分かれ、妊娠・出産等への嫌がらせは男女雇用機会均等法、育休や時短の利用への嫌がらせは男女を問わず育児・介護休業法の対象です。
  • 原因として多く挙がるのは、上司・同僚の理解不足と、休む人の仕事を誰が引き受けるのかという業務の問題です。「迷惑」の解消は会社の義務で、業務を代わる人への手当には国の助成金があります。
  • 厚生労働省の令和5年度調査では、育児の制度を使おうとした男性の24.1%が被害を経験。きっかけの最多は短時間勤務・始業時刻変更(28.3%)で、育児休業(25.8%)と並びます。

パタニティの意味・語源とパタハラの定義

パタニティ(paternity)の意味と語源

Cambridge Dictionaryは paternity を「the fact of being a father」(同じサイトの米国英語の辞書では「the fact or state of being a father」)と定義しています。父親である事実・状態のことで、対になる語が maternity(母親であること)です。日本語の「マタニティ」はこの maternity から来ています。

語源をたどると、ラテン語の pater(父)から形容詞 paternus(父の)が、そこから名詞 paternitās ができ、古フランス語・中期フランス語の paternité を経て英語に入りました(Wiktionary)。maternity も同じ形で、ラテン語の mater(母)に由来します。Cambridge Dictionary が paternity の関連語として並べているのは paternity leave(父親の休暇)、paternity pay(その間の給与)、paternity test(父子関係の鑑定)などで、英語の paternity は休暇だけでなく、法的・生物学的な父子関係そのものを指す語でもあります。

「パタハラ」という言葉の成り立ち

パタハラは paternity と harassment を組み合わせた日本語の略称です。Cambridge Dictionary が paternity の関連語に挙げる語の中に paternity harassment はありません。「マタハラ(マタニティハラスメント)」と対になる形の言葉で、日本では、連合(日本労働組合総連合会)が2014年1月23日に「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)に関する調査」を公表した時点で、調査名に使われていました。

パタニティ休暇と日本の法定の休業制度

英語圏では父親が取る休暇を paternity leave と呼び、日本語では「パタニティ休暇」「男性版産休」と訳されることがあります。ただし、日本の法律に「パタニティ休暇」という制度名はありません。父親が使う法定の休業制度は、原則として子が1歳になるまでの育児休業(保育所に入れないなどの場合は最長2歳まで延長可)と、子の出生後8週間以内に最大4週間取れる出生時育児休業(産後パパ育休)です。会社が「パタニティ休暇」と呼んでいる場合は、法定の育児休業を指す社内呼称なのか、会社独自の特別休暇なのかを就業規則で確認してください。

育児休業等に関するハラスメントの法的定義と対象制度

パタハラは通称で、法令上の用語は「職場における育児休業等に関するハラスメント」です。育児・介護休業法第25条は、制度の利用に関する言動によって労働者の就業環境が害されないよう、相談体制の整備などの雇用管理上の措置を事業主に義務づけています(2017年1月1日施行)。

対象になる制度は、育児・介護休業法施行規則第76条と厚生労働省の指針(平成21年厚生労働省告示第509号)が定める11種類です。育児に関するものは、育児休業(産後パパ育休を含む)、子の看護等休暇、所定外労働の制限(残業免除)、時間外労働の制限、深夜業の制限、育児のための所定労働時間の短縮措置、在宅勤務等・始業時刻変更等の措置、3歳から小学校入学前の子を育てる人向けの柔軟な働き方を実現するための措置(2025年10月から)です。育児休業だけでなく、短時間勤務や残業免除を使う男性への言動も対象です。

行為者になるのは上司と同僚で、対象となる労働者は正社員に限らず、パートタイム労働者や契約社員、派遣労働者も含みます。制度全体の枠組みは育児介護休業法とは?事業主の義務と就業規則・人事システムの設定項目で整理しています。

パタハラとマタハラの違い

パタハラは「男性版マタハラ」と説明されることが多いものの、法律上の区別は性別ではなく、何を理由にした言動かで決まります。

項目 妊娠・出産等に関するハラスメント 育児休業等に関するハラスメント
通称 マタハラ パタハラ(男性の場合の通称。女性の育休・時短への言動も法律上は同じ区分)
根拠条文 男女雇用機会均等法 第15条(2026年9月までは第11条の3) 育児・介護休業法 第25条
対象となる人 妊娠・出産した女性 育児・介護の制度を使う男女
理由となる事由 妊娠、出産、つわり、産前産後休業、育児時間など 育児休業、短時間勤務、残業免除など
類型 制度等の利用への嫌がらせ型・状態への嫌がらせ型 制度等の利用への嫌がらせ型のみ

たとえば、育休から復帰した女性が短時間勤務を理由に「周りの迷惑」と言われ続けるケースは、世間ではマタハラと呼ばれても、条文上はパタハラと同じ育児・介護休業法第25条の問題です。反対に、「状態への嫌がらせ型」(つわりで休んだことへの嫌がらせなど)は、均等法の保護対象が妊娠・出産した女性労働者であるため、男性は法律上の対象になりません。厚生労働省の「事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット」(令和8年7月作成、No.22)も、育児・介護休業等に関するハラスメントの対象を「男女労働者」と明記しています。

両方に共通する土台は、育児は母親が担うものという固定的な役割意識です。この思い込みが無意識に言動へ出る仕組みはアンコンシャスバイアスとはで解説しています。

パタハラに当たる3つの類型と具体例

指針は、育児休業等に関するハラスメントの典型例を3つの類型に分けています。類型ごとに、誰の言動が、何回で該当するかが違います。

解雇・降格などの不利益を示唆する言動(上司・1回で該当)

制度の利用を相談した、申し出た、または利用したことを理由に、上司が解雇や降格、減給、不利益な配置転換などをほのめかす言動です。例としては「育休を取るなら、次の昇格はないと思ってくれ」「時短にするなら今の部署には置けない」などが当たります。上司の言動が対象で、1回の発言でも該当します。

申出や利用を妨げる言動(上司は1回、同僚は繰り返しで該当)

客観的にみて、制度の利用をあきらめざるを得なくなるような言動です。労働者への直接的な言動が対象で、一般的な労働者なら利用をあきらめざるを得ない程度かで判断します。上司が申出をしないよう言う、申出を取り下げるよう言う場合は1回で該当します。同僚の場合は、繰り返し又は継続的に言うことが要件です。ただし、本人が「それでも取りたい」と意に反することを伝えた後にさらに言えば、回数を重ねなくても該当します。

厚生労働省のパンフレットは、次のような例を挙げています。

  • 育児休業の取得を上司に相談したところ「男のくせに育児休業を取るなんてあり得ない」と言われ、取得をあきらめざるを得ない状況になっている。
  • 産後パパ育休の取得を周囲に伝えたところ、同僚から「迷惑だ。自分なら取得しない。あなたもそうすべき」と繰り返し言われ、苦痛に感じた。

利用後の嫌がらせ・仕事の取り上げ(繰り返しで該当)

制度を利用したことを理由に、上司や同僚が繰り返し又は継続的に嫌がらせをすることです。客観的にみて、能力の発揮や継続就業に重大な悪影響が出るなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じるものが該当します。指針は「嫌がらせ等」を、嫌がらせ的な言動、業務に従事させないこと、専ら雑務に従事させることと定めています。言葉だけでなく、必要な情報を渡さない、それまで出ていた会議から外すといった行為も含まれます。

パンフレットの例は「所定外労働の制限をしている人には大した仕事はさせられない」と繰り返し言われ、雑務ばかりさせられる状況です。残業免除を理由に、残業を伴わない業務まで含めて重要な仕事から外され続け、雑務ばかりになって就業に看過できない支障が出ていれば、この類型に当たります。育休から戻った後に責任の軽い仕事へ固定される問題は、女性の場合マミートラックと呼ばれ、判断の枠組みは共通です。

類型以外の問題:意向確認の面談で取得を控えさせる対応

2022年4月から、本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た労働者に対し、事業主は育児休業制度を個別に知らせ、取得の意向を確認することが義務になっています(育児・介護休業法第21条第1項)。指針は、取得を控えさせるような形での周知・意向確認は、この措置を実施したことにならないと明記しています。

面談で「うちの部署で男性が取った前例はない」「取るとしても1週間くらいだよね」と誘導すれば、第25条のハラスメントに当たるかを論じる前に、第21条の義務を果たしていないことになります。上司の個人的な発言にとどまらない、会社としての手続きの問題です。

パタハラに当たらない言動と会社の拒否の線引き

指針は、業務分担や安全配慮の観点から、客観的にみて業務上の必要性に基づく言動はハラスメントに該当しないとしています。パンフレットが挙げる非該当の例は次のとおりです。

  • 業務体制を見直すため、上司が育児休業をいつからいつまで取得するのか確認すること
  • 同僚が自分の休暇との調整をする目的で休業の期間を尋ね、変更を相談すること

2つ目のような変更の依頼や相談は、強要しない場合に限って非該当です。また、本人のキャリアを考えて早期の職場復帰を促すこと自体は阻害に当たりませんが、復帰の時期は本人が選ぶもので、強要すればハラスメントになります。

上司が個人的に「取り下げてくれ」と言うのではなく、会社として育児休業を認めない場合は、ハラスメント以前に法違反です。育児・介護休業法第6条により、事業主は育児休業の申出を拒めません。労使協定がある場合に拒めるのは、協定で対象外と定めた、雇用期間1年未満の人、申出から1年以内に雇用関係が終わることが明らかな人、週の所定労働日数が2日以下の人です。有期雇用の人は、子が1歳6か月に達する日までに労働契約が満了し、更新されないことが明らかな場合は対象外です。1歳6か月以降の延長では、子が2歳に達する日までの契約更新の見込みで判断します(第5条)。「繁忙期だから」「代わりがいないから」「うちの会社には育休の規定がないから」は拒否の理由になりません。育児休業は法律に基づく制度なので、就業規則に定めが無くても、要件を満たす労働者が申し出れば取得できます。

パタハラが起きる原因

男性が挙げた原因:理解不足・制度の運用・性別役割分担意識

パタハラの原因を正面から聞いた調査として、連合の「パタニティ・ハラスメント(パタハラ)に関する調査」があります。2013年12月に20〜59歳の男性有職者1,000人へ「職場でパタハラが起こる原因は何だと思うか」を複数回答で聞いたもので、上位5つは次のとおりです。

職場でパタハラが起こる原因(n=1,000) 割合
上司や同僚の理解不足・協力不足 57.3%
会社の支援制度の設計や運用の徹底不足 45.4%
性別役割分担意識(男は仕事、子育ては女の役割など) 44.1%
職場の恒常的な業務過多 41.3%
フォローする周囲の社員への会社からのケア不足 35.8%

上位5つのうち、個人の意識の問題は1位と3位で、2位・4位・5位は制度の運用、業務量、周囲へのケアという会社の仕組みの問題です。同じ調査で、子どもがいる男性525人のうちパタハラを受けたことがある人は11.6%、受けた61人の65.6%が「だれにも相談せず、子育てのための制度の利用をあきらめた」と答えていました。10年以上前の調査で、後述する令和5年度の厚生労働省調査(24.1%)とは対象と設問が違うため、割合の増減は比べられません。なお複数回答なので、項目の数から原因全体に占める割合までは言えません。

「男性の育休は迷惑」と言われる背景:代わりの人がいない職場

同じ連合調査で、育休を取りたかったのに取れなかった・取れないと思う男性487人が挙げた理由の1位は「仕事の代替要員がいない」57.9%で、「(育休中は無給のため)経済的に負担となる」32.6%、「上司に理解がない」30.2%を大きく上回りました。周囲が口にする「迷惑」の中身は、多くの場合、抜けた人の仕事を誰がどう引き受けるのかという業務量の問題です。

厚生労働省の委託による「令和7年度 仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」(2026年3月)でも、育児休業を取らなかった男性正社員(833人)の理由は、「会社で育児休業制度が導入されていなかったから」29.1%、「収入を減らしたくなかったから」26.4%、「職場が取得しづらい雰囲気だった、または会社や上司、職場の理解がなかったから」18.2%、「他の両立支援制度を利用したから」15.7%の順でした。「自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから」は11.5%でした。最も多い「制度が導入されていなかった」は、前の章で見たとおり法律上は取得を妨げる理由になりません。規定が無いことを「取れない」と受け止めている人が多く、会社が規定を整えて周知するだけでも、取得をあきらめる理由を一つ減らせます。

指針も、育児休業等に関するハラスメントの原因や背景の一つに、制度を使う人の周囲の業務負担が増えることを挙げ、業務分担の見直しを事業主の措置として求めています。負担の解消は会社の仕事であり、取得する本人や、穴を埋める同僚が個人で背負うものではありません。

業務を代わる人への手当を支える両立支援等助成金

代わりの人への手当や代替要員の採用には、厚生労働省の両立支援等助成金「育休中等業務代替支援コース」が使えます。2026(令和8)年度版の支給申請の手引きによると、支給額(対象者1人あたり)は次のとおりです。

区分 対象の事業主 支給額(整備経費=業務体制整備経費)
手当支給等(育児休業) 規模を問わない 整備経費6万円+手当総額の3/4(月10万円・24か月が上限)
手当支給等(短時間勤務) 規模を問わない 整備経費3万円+手当総額の3/4(月3万円が上限)
新規雇用(育児休業) 特定事業主(300人以下など) 代替期間7日以上9万円〜1年以上81万円

手当支給等(育児休業)の業務体制整備経費は、育児休業が1か月未満なら2万円、労務コンサルティングを外部の専門事業者に委託した場合は20万円です。プラチナくるみん認定事業主は、手当支給等(育児休業)の助成率が4/5となり、新規雇用の基本支給額は最大99万円です。手当支給等(短時間勤務)の助成率は3/4です。原則として3区分合計で1年度10人まで、初回の対象者から5年間が対象です。くるみん認定事業主には令和12年度まで延べ50人を限度とする特例があります。手当制度の規定整備は手当支給等の要件で、新規雇用では代替要員の確保や原職等復帰など別の要件を確認します。2026年4月の改正で、手当支給等の労働者数要件の撤廃と、新規雇用の対象を業種にかかわらず常時雇用300人以下の事業主へ広げる見直しが行われました(愛媛労働局「令和8年度 両立支援等助成金改正内容について」)。

業務負担への不満が出ている職場では、研修だけで対応を終えず、代わりに働く人の手当と仕事の割り振りも決めておきます。

違法になる不利益取扱いと企業への行政措置

育児・介護休業法第10条が禁じる不利益取扱い

ハラスメント(上司・同僚の言動)とは別に、事業主自身が育児休業の申出や取得を理由に不利益な扱いをすることは、第10条で禁止されています。指針が挙げる例は、解雇、有期契約の雇止め、降格、減給や賞与での不利益な算定、昇進・昇格の人事考課での不利益な評価、不利益な配置の変更、業務に従事させない・専ら雑務に従事させることなどです。

人事制度の設計も対象になります。指針は、育児休業をした人を休業期間を超える一定期間、昇進・昇格の選考対象にしない人事評価制度を不利益な評価に当たるとしています。休業した期間の分だけ働かなかったと扱うのは許されますが、それを超えて差をつけることはできません。取得から一定期間内の不利益取扱いは原則として「育休を契機とした」ものと判断されるという厚生労働省の解釈通達(2015年1月)の考え方は、マミートラックの記事で詳しく扱っています。

男性看護師の育休をめぐる判決(医療法人稲門会事件)

男性の育休をめぐる代表的な裁判例が、医療法人稲門会(いわくら病院)事件の大阪高裁2014年(平成26年)7月18日判決です。男性看護師が2010年9月4日から12月3日まで育休を取ったところ、病院は「前年度に3か月以上育休をした人は翌年度の職能給を昇給させない」という規定に基づき昇給を見送り、昇格試験も受けさせませんでした。

一審の京都地裁は昇給の見送りについて違法性を否定しましたが、大阪高裁は、年休や労災による休業が3か月に及んでも昇給の対象から外れないのに育休だけを不利に扱う合理的な理由はないとして、規定を無効と判断しました(労働新聞社の判例解説)。病院には昇給していた場合との賃金差額の支払いが命じられました。昇格試験を受けさせなかったことも違法とされ、慰謝料15万円が認められています。

判決に至らなかった訴訟:アシックスの育休明け配置転換

判決が出ずに終わった例としてよく引かれるのが、アシックスの男性社員の訴訟です。東京都内のオフィスでプロモーション業務を担当していた男性が、約1年の育児休業から復帰した後、茨城県つくばみらい市の物流センターへの出向を命じられ、経験のない倉庫業務に就かされたなどとして、2019年6月に慰謝料440万円などを求めて東京地裁に提訴したと報じられています(Business Insider Japan)。その後、2021年4月14日付の労働新聞が、労働組合の声明として会社と和解したと報じています。

裁判所が配置転換の違法性を判断したわけではないため、この事案は「どこからが違法か」の基準にはなりません。報道で「パタハラ訴訟」と呼ばれる事案でも、和解や係争中のものは事実関係が確定していない点に注意が必要です。違法の線引きを確かめるときは、稲門会事件のような判決と、指針・パンフレットの例を基準にします。

労働局の助言・指導・勧告と企業名公表

厚生労働大臣(実務は都道府県労働局)は、事業主に報告を求め、助言・指導・勧告ができます(第56条)。第10条の不利益取扱いや第25条の防止措置義務に違反し、勧告にも従わない事業主は、企業名を公表されることがあります(第56条の2)。報告をしない、または虚偽の報告をした場合は20万円以下の過料です(第66条)。

令和7年度に労働局が育児関係で行った是正指導のうち、第25条のハラスメント防止措置に関するものは1,144件でした(厚生労働省「令和7年度 都道府県労働局雇用環境・均等部(室)における雇用均等関係法令の施行状況」)。

調査データで見るパタハラの実態

育児の制度を使おうとした男性の24.1%が被害、きっかけの最多は短時間勤務

厚生労働省の委託による「令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査」は、過去5年間に勤務先で育児の制度を使おうとした男性労働者500人を対象に、2024年1月にインターネット調査を行いました。育児休業等ハラスメントを受けたと答えたのは24.1%(120人)です。

設問(被害を受けた男性が対象) 最も多い回答 割合
きっかけとなった制度 短時間勤務・始業時刻変更等 28.3%
同上(2番目) 育児休業の申出・取得 25.8%
行為者 上司(役員以外) 57.5%
同上(2番目) 会社の幹部(役員) 23.3%
あきらめた制度 残業免除・時間外労働の制限等 31.7%
受けた後の行動 社外の弁護士・社労士に相談 20.8%

パタハラというと育休の取得場面が想像されますが、データ上は、育休の申出・取得(25.8%)よりも短時間勤務・始業時刻変更(28.3%)がきっかけとして多く、あきらめられた制度は残業免除等(31.7%)が最多でした。育休を取らない男性でも、日々の働き方を変える制度を使えば被害に遭いうるということです。ただし被害者120人の複数回答なので、両者の差は数人分にとどまります。

勤務先が認識した後の対応:被害男性66人の47.0%が相談を理由とする不利益取扱いを回答

同じ調査で、勤務先がハラスメントを「認識していた」と答えた男性は55.0%でした。認識した後の勤務先の対応は「相談したことを理由として不利益な取扱いをした」が47.0%で最も多く(複数回答、勤務先が認識していた66人が対象の小さなサンプル)、受けた行為をハラスメントまたは不利益取扱いと認めなかったのが50.0%です。第25条第2項は、相談したことを理由とする不利益取扱いを禁止していますが、回答からは、会社が知っても解決に向かわない状況がうかがえます。

労働局への相談件数と男性育休の取得状況

令和7年度に都道府県労働局へ寄せられた育児・介護休業法の相談は116,650件(前年度比12.4%増)で、うち育児休業に係る不利益取扱いは5,620件、育児休業等に関するハラスメントの防止措置は1,540件でした。労働局長による紛争解決援助の申立ては201件で、育児関係では第10条(不利益取扱い)が81件と最も多くなっています。

男性の育児休業の取得も増えています。「令和7年度雇用均等基本調査」で男性の取得率は50.9%(前年度40.5%)と初めて5割を超えました。ただし令和6年度に復職した男性の取得期間は「1か月〜3か月未満」30.3%、「2週間〜1か月未満」28.0%、「5日〜2週間未満」14.1%と短期が中心です。取得する男性が増え、期間が延びるほど、上司の対応が問われる場面も増えていきます。2025年以降の改正内容は育児介護休業法の改正内容【2026年最新】にまとめています。

企業が講じるべきパタハラ防止措置

指針が定める4つの措置と併せて講じる措置

第25条に基づき、事業主は次の措置を講じなければなりません。規模による免除はなく、中小企業も対象です。

  • 方針の明確化と周知:育児休業等に関するハラスメントをしてはならない旨と、制度を利用できることを就業規則や社内報で示し、行為者への懲戒規定を定める
  • 相談体制の整備:相談窓口をあらかじめ定め、担当者が内容や状況に応じて適切に対応できるようにする
  • 事後の迅速で適切な対応:事実関係を確認し、被害者への配慮と行為者への措置を行い、再発防止策を講じる
  • 原因・背景の解消:制度を使う人の周囲に業務が偏らないよう、業務分担の見直しや業務の効率化を行う
  • 併せて講じる措置:相談者・行為者のプライバシー保護と、相談したことを理由に不利益に扱わない旨の周知

4つ目の原因解消は、パワハラやセクハラの防止措置には無く、妊娠・出産等に関するハラスメント(マタハラ)と共通する義務です。「休むのはずるい」という声を研修で抑えるだけでは、原因の解消には届きません。前の章の業務代替の手当や助成金は、この措置を具体化する手段の一つです。パワハラ防止措置との比較はパワハラ防止法とは?措置義務10項目と2026年10月改正への対応を参照してください。

上司の意識改革:研修で伝えるべき判断基準

調査で行為者の6割近くが上司だった以上、管理職研修が中心になります。一般論として「ハラスメントはいけない」と伝えるのではなく、次の具体的な線を共有します。

  • 上司の「取らないでほしい」「取り下げてくれ」は1回で該当する
  • 休業期間の確認は業務体制の見直しのためなら問題ないが、期間の短縮を求めるのは強要になりうる
  • 育休の申出は繁忙を理由に拒めない
  • 意向確認の面談で「前例がない」「取っても1週間」と取得を控えさせる方向に誘導すると、第21条の措置を実施したことにならない
  • 育休を理由とする不利益な配置変更は禁止され、昇進・昇格の選考対象から休業期間を超えて除外する評価制度も認められない

調査では行為者の23.3%が役員だったため、管理職研修と並行して、経営層自身が男性の育休取得を支持する方針を社内に示します。常時雇用する労働者が300人を超える企業は、2025年4月から男性の育児休業等の取得状況を毎年公表する義務があり(第22条の2)、数字が外部から見える状態になっています。公表する取得率や、休業・時短の利用状況と業務の割り振りを正しく集計するには、制度の利用履歴を人事データとして残しておく必要があります。勤怠や人事の仕組みから見直す場合は、issohの人事・労務管理システム開発で相談を受けています。

相談を受けたときの対応手順

厚生労働省の指針に沿って、まず相談者から日時・場所・発言内容・同席者を聞き取り、相談者の意向やプライバシーに配慮して行為者にも確認します。双方の説明が食い違い、確認が不十分な場合は第三者からも聴取します。事実が確認できれば、行為者への指導や懲戒、被害者の配置や業務の調整を行い、確認できなかった場合も含めて再発防止の周知を行います。調査で「相談を理由とした不利益取扱い」が最多だったことを踏まえると、相談者の評価や配置を動かす際に、相談との関係を説明できるよう記録を残しておきます。

パタハラを受けたときの対処法と相談先

パタハラの証拠:日時・発言・人事通知の記録

発言があった日時、場所、発言者、言われた内容をできるだけそのまま、同席者の名前とあわせてメモしておきます。メールやチャットは送信者・日時・前後のやり取りが分かる形で保存し、可能なら元データも残します。スクリーンショットも補助的に保存し、人事評価の通知や配置転換の辞令も保管します。自分が相談した日時と相手、会社の回答も記録の対象です。後で「育休の申出と不利益取扱いの時期が近い」ことを示すうえで、日付の記録が最も役立ちます。社内窓口や労働局への相談を理由とする不利益取扱いも、第25条第2項と第52条の4第2項で禁止されているため、相談後の扱いの変化も同じように記録します。

社内窓口から労働局・弁護士までの相談先

  • 社内の相談窓口・人事部:第25条で設置が義務づけられた窓口。相談を理由にした不利益取扱いは禁止されている
  • 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):無料。会社への助言・指導のほか、労働局長による紛争解決の援助(第52条の4)や、調停会議による調停(第52条の5)を利用できる
  • 総合労働相談コーナー:労働局・労働基準監督署内にあり、どこに相談すべきか分からない段階でも受け付ける
  • 弁護士:損害賠償請求や労働審判を検討する場合。調査では被害を受けた男性の20.8%が社外の弁護士や社会保険労務士に相談していた

労働局の援助や調停を求めたことを理由とする不利益取扱いも、法律で禁止されています。社内で解決しないときは、記録を持って労働局に相談するのが最も費用のかからない手段です。

よくある質問

パタハラは違法ですか?罰則はありますか?

上司や同僚の言動そのものに直接の刑事罰はありませんが、事業主には育児・介護休業法第25条で防止措置が義務づけられ、違反すれば労働局の指導や勧告、勧告に従わない場合の企業名公表の対象になります。育休を理由とした降格や減給などは第10条違反で無効とされ、損害賠償が認められた裁判例もあります。

男性の育休はいつから義務化されたのですか?

男性本人に育休の取得を義務づける法律はありません。義務になったのは会社側の対応で、2022年4月から、本人または配偶者の妊娠・出産を申し出た労働者への育児休業制度の個別周知と取得意向の確認が、企業規模を問わず事業主の義務になりました。男性の育児休業等の取得状況の公表は、2023年4月から常時雇用1,000人超の企業、2025年4月から300人超の企業の義務です。

同僚から一度だけ「迷惑だ」と言われたらパタハラですか?

同僚の言動は、繰り返し又は継続的なものが該当するため、1回だけでは原則として該当しません。ただし「それでも取りたい」と伝えた後にさらに言われた場合は、回数を重ねなくても該当します。上司の言動であれば1回でも該当しえます。

上司に育休の期間を聞かれるのはパタハラですか?

業務体制を見直すために、いつからいつまで取得するかを確認するのはハラスメントに該当しません。期間の短縮を強要したり、取得をあきらめざるを得ない言動で制度の利用を妨げたりすれば該当します。本人の事情やキャリアを考慮した早期復帰の提案は、復帰時期の選択を本人に委ねる限り、直ちにハラスメントとはなりません。

育休の申し出を会社は拒否できますか?

原則として拒否できません(育児・介護休業法第6条)。労使協定がある場合の例外は、協定で対象外と定めた、雇用期間が1年未満の人、申出から1年以内に雇用関係が終わることが明らかな人、週の所定労働日数が2日以下の人です。繁忙や人手不足、就業規則に育休の規定が無いことは拒否の理由になりません。

関連記事

お気に入りに入れた記事の一覧

この記事は以下の記事からリンクされています

資料請求

今日のトレンド記事 直近 24 時間で、いつもより多く読まれている記事

  1. 2026.10.23 テックブログ Renta!はいつ再開?不正アクセスでメールアドレス等が流出したおそれ・再開時のパスワード再設定と運営側の対応
  2. 2026.07.09 テックブログ Muse Imageとは?Metaの画像生成AIの使い方・API料金(1枚0.01ドル)と日本での提供状況【2026年10月】
  3. 2026.10.23 テックブログ Splunk 脆弱性CVE-2026-76299:影響版の確認と10.2.8などへの更新手順
  4. 2026.10.22 テックブログ Tomcatのバージョン一覧とサポート期限【2026年10月】最新版11.0.27、9.0系は2027年3月末終了・9.1系は2030年末まで
  5. 2026.10.21 テックブログ ユミルリンク不正アクセス第二報で延べ5,162万件:Cuenote FC利用企業と受信者の確認点

RELATED POSTS 関連記事

目次