ハラハラ(ハラスメントハラスメント)とは、業務上必要な指導や注意に対して「それはパワハラだ」と過剰に主張し、指導する側を萎縮させる行為を指す俗語です。法令にこの言葉はありませんが、厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」では、回答者の自由記述に「ハラスメントハラスメント」が登場しています。
この記事では、ハラハラかどうかを感覚ではなく厚生労働省のパワハラ指針で判断する方法と、相談してきた社員を処分する前に確認すべき法律上の制約、企業と上司が取れる対策を整理します。
まとめ:指導の適正さと相談者の言動を分けた事実確認
- ハラハラは法令用語ではありません。判断の物差しは、労働施策総合推進法に基づくパワハラ指針(令和2年厚生労働省告示第5号)です。
- 指針は「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導」はパワハラに該当しないと明記しています。遅刻を再三注意しても改善しない社員に一定程度強く注意することも、該当しない例に挙がっています。
- 「就業環境が害される」かは「平均的な労働者の感じ方」を基準に判断します。パワハラの該当性は、優越的な関係や言動の必要性・相当性も含めて確認します。
- 一方で、相談したこと自体を理由とする解雇などの不利益な取扱いは法律で禁止されています。「ハラハラだから処分する」と決める前に、双方からの事実確認が必要です。
- 対策の中心は、指針の例を使った社内基準の明文化、管理職研修、指導記録、相談窓口での中立的な事実確認です。
ハラハラ(ハラスメントハラスメント)の意味と法令上の位置づけ
ハラハラは「ハラスメントハラスメント」を略した言葉で、心配で落ち着かない様子を表す「はらはら」とは別の、職場の俗語です。典型的には、提出期限を守るよう注意された部下が「パワハラを受けた」と主張し、上司が以後の注意をためらうようになる状況を指します。
労働施策総合推進法にも、パワハラ指針にも「ハラスメントハラスメント」「ハラハラ」という言葉はありません。ハラハラを直接禁止したり、定義したりする法律は存在しないということです。ただし、パワハラに該当しないという結論だけで、相談が嫌がらせだったとは判断できません。相談内容の事実確認と、相談者による虚偽申告や業務妨害の有無の確認は分けて行います。
ただし、言葉としては実態調査にも現れています。厚生労働省の令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書(労働者等調査・8,000人)では、ハラスメント行為をしたと感じた、または指摘された人(417人)の自由回答にも、パワハラ等以外のハラスメントを受けたと感じた人の自由回答にも、「ハラスメントハラスメント」が挙がっています。指摘する側・される側の双方から、この言葉が使われていることになります。
指導とパワハラの線引き:厚労省指針の3要素と「該当しない例」
ハラハラ問題の多くは、指導した側と受けた側で「パワハラかどうか」の認識が食い違うことから始まります。指針は、その食い違いを判断するための基準を具体的に示しています。
パワハラの3要素と「平均的な労働者の感じ方」
指針は職場のパワハラを、「①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるもの」とし、①から③までの要素を全て満たすものと定義しています。続けて「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」と明記しています。
③の「就業環境が害される」かどうかは、「平均的な労働者の感じ方」、すなわち同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるかどうかを基準とするのが適当とされています。受け手が不快に感じたという事実だけでは、③は満たされません。
②の「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」かどうかは、言動の目的、受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む経緯や状況、言動の態様・頻度・継続性などを総合的に考慮して判断します。指針は、労働者の行動が問題となる場合は「その内容・程度とそれに対する指導の態様等の相対的な関係性」が重要な要素になると述べています。問題行動の重大さだけで指導の相当性は決まりません。問題行動に対して指導の態様が釣り合っているかを、頻度・継続性や労働者の心身の状況などとともに判断します。
指針は受け手の側にも触れています。適正な業務指示や指導はパワハラに該当せず、「労働者が、こうした適正な業務指示や指導を踏まえて真摯に業務を遂行する意識を持つことも重要である」という一文です。ハラハラ対策の研修で引用できる公的な根拠は、この一文です。
6類型ごとの「該当しないと考えられる例」
指針は、パワハラの代表的な6類型それぞれに、該当する例と該当しない例を並べています。ハラハラかどうかを判断するときは、該当しない例の側を読むのが近道です。
| 類型 | 指針が挙げる「該当しないと考えられる例」(要旨) |
|---|---|
| 身体的な攻撃 | 誤ってぶつかる |
| 精神的な攻撃 | 遅刻などを再三注意しても改善しない社員に一定程度強く注意する |
| 精神的な攻撃 | 重大な問題行動をした社員に一定程度強く注意する |
| 人間関係からの切り離し | 新規採用者を育成のため短期間集中的に別室で研修する |
| 人間関係からの切り離し | 懲戒処分を受けた社員を復帰前に一時的に別室で研修させる |
| 過大な要求 | 育成のため現状より少し高いレベルの業務を任せる |
| 過大な要求 | 繁忙期に担当者へ通常より一定程度多い業務を任せる |
| 過小な要求 | 能力に応じて一定程度業務内容や業務量を軽減する |
| 個の侵害 | 配慮を目的に家族の状況等をヒアリングする |
| 個の侵害 | 本人の了解を得て、機微な個人情報を必要な範囲で人事担当者に伝える |
指針は、これらの例は限定列挙ではなく、個別の事案によって判断が異なる場合もあると断っています。表の例に似ているというだけで「ハラハラだ」と結論づけるのは早計です。同じ注意でも、他の社員の面前で大声の威圧的な叱責を繰り返せば、指針上は「該当すると考えられる例」に入ります。
労災認定基準での「強い指導・叱責」の扱い
精神障害の労災認定基準(令和5年9月1日 基発0901第2号)の別表1も、指導とパワハラを別の出来事として扱っています。「上司とのトラブルがあった」という項目の中で、「上司から、業務指導の範囲内である指導・叱責を受けた」は心理的負荷「弱」の例、「上司から、業務指導の範囲内である強い指導・叱責を受けた」は「中」の例です。
つまり、公的な基準では、指導が強いことだけではパワハラになりません。業務指導の範囲内かどうかを判断する際には、指導の必要性に加え、口調の強さや叱責の長さ・頻度なども考慮します。部下から「パワハラだ」と指摘された上司は、注意した業務上の理由や対象行動とともに、実際の発言、口調、時間、頻度も説明する必要があります。
ハラハラになりやすい職場の具体例
ここでは、指導や業務上の配慮がパワハラだと指摘される場面を想定し、指針の6類型に沿って判断材料を整理します。次の表は、よく挙がる場面と、指針上の判断材料を並べたものです。
| 場面 | 主張されやすい類型 | 指針上の判断材料 |
|---|---|---|
| 提出期限を守るよう注意した | 精神的な攻撃 | 再三の注意か・人格否定の有無 |
| 成果物の修正を指示した | 精神的な攻撃 | 業務上の必要性・叱責の長さ |
| 少し難しい業務を任せた | 過大な要求 | 育成目的か・到底対応できない水準か |
| 体調を理由に業務量を減らした | 過小な要求 | 能力や状況に応じた軽減か |
| 育休予定や家族の状況を尋ねた | 個の侵害 | 配慮目的か・他者への暴露の有無 |
表の右列は、適否を確認するための判断材料です。人格否定がある、到底対応できない水準の業務を課すといった事情は、パワハラに該当する方向の判断材料になります。逆に、指示の内容自体は正当でも、他の社員の前で長時間責め続けたり、人格を否定する言葉を添えたりすれば、指導の範囲を超えます。「ハラハラだ」と反論する前に、上司側が自分の言動の態様を点検する必要があるのはこのためです。
「仕事を与えない」も誤解されやすい場面です。指針は「気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと」を該当例、「能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること」を該当しない例としています。仕事を減らした目的だけでなく、本人の能力や心身の状況に照らして、軽減の程度や期間が合理的かどうかも確認します。
部下から上司へのパワハラ(逆パワハラ)が成立する条件
ハラハラが度を越すと、主張する側の言動そのものがパワハラになることがあります。指針は「優越的な関係を背景とした」言動の例として、職務上の地位が上位の者による言動に加え、次の2つを挙げています。
- 同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
- 同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
たとえば、複数の部下が結託して「指導すればパワハラで訴える」と上司に繰り返し迫り、業務指示を事実上できなくさせる場合は、2つ目に当たる可能性があります。業務に不可欠な知識を独占するベテラン社員が、指導のたびに協力を拒む場合は1つ目の検討対象です。上下関係の向きだけで、パワハラの成否は決まりません。
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ハラハラが増えたと言われる背景と職場への影響
パワハラ防止の措置義務は、大企業では2020年6月1日、中小企業では2022年4月1日から適用されています。相談窓口では、寄せられた相談について事実関係を確認し、ハラスメントに該当するかどうかを判断する必要があります。都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が受けたパワハラ関係の相談は、令和4年度46,149件、令和5年度60,053件、令和6年度70,429件と増えています(厚生労働省の令和6年度法施行状況の資料)。令和6年度の内訳は、法令・制度の内容等に係る問い合わせが35,622件、法違反の疑いがある相談が34,807件でした。
その判断に企業は苦労しています。令和5年度実態調査の企業調査(回答7,780社)では、ハラスメント対策に取り組む企業が挙げた課題の最多が「ハラスメントかどうかの判断が難しい」(59.6%)でした。パワハラの相談があった企業のうち、該当事例がなかった企業では、この回答が67.2%に上がります。ただし、「該当すると判断した事例がない」には非該当と判断した場合も含まれるため、この結果だけで判断を保留した企業が多いとはいえません。
判断基準が曖昧なまま相談件数だけが増えると、管理職は「注意すれば訴えられるかもしれない」と考え、指導を控えるようになります。「ハラスメントで何も言えなくなる」という声は、この状態を指しています。指導が止まれば、部下は改善点を知らされないまま評価だけが下がり、周囲の社員には指導されない同僚の分の負担が回ります。
ただし、ハラハラが実際に増えていることを示す公的統計はありません。労働局への相談件数は増えていますが、その中身はパワハラの相談であり、ハラハラの件数ではありません。実態調査の企業調査でも、過去3年間の社内のパワハラ相談件数の推移は、「件数の増減は分からない」を除くと「件数は変わらない」が最も多い回答でした。「ハラハラが急増している」と断定する記事は多いものの、数字の裏付けがあるのは「判断に迷う企業が多い」ところまでです。
ハラハラを理由に処分する前に確認すべき法律上の制約
ハラハラ対策として「ハラスメントを乱用した社員に罰則を設ける」と勧める解説は少なくありません。しかし、この対策をそのまま運用すると、法律違反になるおそれがあります。
労働施策総合推進法第30条の2第2項(2026年10月1日の改正法施行後は第31条第2項)は、「事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と定めています。相談の結果パワハラに当たらなかったとしても、相談したこと自体を理由に処分することはできません。
指針は、相談窓口に対し、パワハラが現実に生じている場合だけでなく「該当するか否か微妙な場合であっても、広く相談に対応」するよう求めています。事実確認では、相談者と行為者の双方から話を聞き、主張が食い違って事実の確認が十分にできないときは第三者からも聴取するとしています。相談者の「心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識」にも配慮することが求められます。
懲戒を検討できるのは、事実確認の結果、相談とは別の非違行為が明らかになった場合です。虚偽と知りながら同僚を陥れる申告を繰り返した、集団で上司の業務指示を妨げたといった行為がそれに当たります。この場合も、就業規則上の懲戒事由への該当性に加え、処分の合理性・相当性を確認します。労働契約法第15条は、これらを欠く懲戒を権利濫用として無効としています。判断を誤れば、会社が不利益取扱いの禁止に違反した側になります。
措置義務の全体像と2026年10月の改正への対応は、パワハラ防止法とは?措置義務10項目と2026年10月改正への対応をシステム目線で解説で詳しく解説しています。
企業が取るべきハラハラ対策:基準の明文化から相談対応まで
ハラハラを減らす近道は、ハラハラを取り締まることではなく、指導とパワハラの境目を社内で共有することです。
- 指針の例を使って社内基準を明文化する:6類型ごとの「該当する例」「該当しない例」を就業規則やハラスメント防止規程に取り込み、自社の業務に即した例を加えます。
- 管理職研修で「指導の範囲内」を具体化する:人格ではなく行動を指摘する、叱責を長時間繰り返さない、他の社員の面前で威圧しない、の3点を実例で確認します。
- 一般社員向け研修で受け手の責務も伝える:法第30条の3第4項(改正後は第32条第4項)は、労働者にも他の労働者に対する言動に必要な注意を払い、事業主の措置に協力するよう努めることを求めています。指針の「真摯に業務を遂行する意識」の一文とあわせて伝えます。
- 相談窓口は結論を急がない:「ハラハラらしい」相談も受け付け、双方と必要に応じて第三者から事実を確認します。窓口担当者が上司側・部下側のどちらかに寄らない体制が前提です。
- 指導の記録を残す運用にする:日時、指摘した行動、業務上の理由、改善の期限に加え、実際の発言、指導時間、同席者、相手の説明も記録します。記録は、指導が適正だったかを双方の立場から確認する材料になります。
形だけの相談窓口は逆効果になります。実態調査の労働者等調査では、ハラスメント行為をしたと感じた・指摘された人のうち42.0%が「勤務先は、あなたがそのような行為をしたことを認識していなかった」と答えました。この42.0%は行為者側の回答による勤務先の認識状況であり、窓口の機能不全を直接測った数値ではありません。相談経路の周知や、相談しづらい事情の有無は別途確認する必要があります。
「パワハラだ」と指摘された上司の対応
部下から「パワハラだ」と言われたら、その場で反論して言い合いにしないことが第一です。感情的なやり取り自体が、後の事実確認で不利な材料になります。
- 相手が何をパワハラと受け止めたのか、具体的な言動と場面を聞き取る
- 自分の指導の日時・内容・業務上の理由を、記憶が新しいうちに記録する
- 一人で抱えず、人事部門や相談窓口に経緯を報告し、中立的な事実確認を依頼する
- 確認が終わるまで、報復と受け取られる配置や評価の変更をしない
事実確認で指導が適正と認められた後も、指導そのものは止めないことが大切です。伝え方を見直す余地があれば見直し、業務上必要な注意は続けます。必要な指導まで止めると、改善すべき行動や業務上の期待が本人に伝わらないおそれがあります。確認結果を説明したうえで、適正な指導を続けます。業務量の放置がパワハラや労災に当たるかどうかの判断は、ジタハラ(時短ハラスメント)とは?業務過多の放置はパワハラ・労災になるのか|判定基準と相談先が参考になります。
よくある質問
ハラハラは法律で禁止されていますか?
ハラハラという言葉は法令に無く、ハラハラそのものを禁止する法律もありません。ただし、同僚や部下が集団で抵抗困難な圧力をかけるなど、主張する側の言動がパワハラ指針の要件を満たせば、パワハラとして事業主の措置の対象になります。
厳しい口調で注意したらパワハラになりますか?
口調の強さだけでは決まりません。パワハラ指針は、遅刻などを再三注意しても改善しない社員に一定程度強く注意することを「該当しない例」に挙げています。一方、必要以上に長時間の厳しい叱責を繰り返すことや、他の社員の面前での大声での威圧的な叱責を繰り返すことは「該当する例」です。
ハラスメントの種類はいくつありますか?
法律で事業主に防止措置が義務づけられているのは、パワハラ、セクハラ、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントで、2026年10月1日からは顧客等の言動によるハラスメント(カスハラ)と、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止措置も義務化されます。「〇〇ハラ」と名の付く言葉は多数ありますが、それ以外は法令用語ではない俗称です。年齢に関するエイハラ(エイジハラスメント)の意味・具体例と職場での対策や、男性の育児参加に関するパタハラ(パタニティハラスメント)とは?意味・具体例とマタハラとの違い・企業の防止策のように、既存の法律の枠組みに当てはめて判断します。
「ハラハラかもしれない」相談も受け付けるべきですか?
受け付けるべきです。パワハラ指針は、相談窓口に対し、パワハラに該当するか否か微妙な場合であっても広く相談に対応するよう求めています。相談を門前払いすると、後に本物のパワハラだったと分かったときに措置義務を果たしていなかったことになります。
仕事を与えないのはパワハラですか?
理由によります。パワハラ指針は、嫌がらせのために仕事を与えないことを「過小な要求」の該当例とし、能力に応じて一定程度業務内容や業務量を軽減することを該当しない例としています。配慮で業務を減らした場合は、その理由を本人に伝えておくと、誤解によるハラハラを防げます。