コントロール・バンディングは、化学物質の空気中濃度を測らずに、有害性と取扱いの条件だけでリスクの高さを区分し、区分に応じた管理対策を引き出す簡易リスクアセスメント手法です。日本では厚生労働省が「厚生労働省版コントロール・バンディング」としてWebシステムを提供してきました。ところがこのシステムは現在【一時停止中】と表示され、2026年8月31日と10月15日に確認した時点でも止まったままで、停止の開始日や再開の時期は示されていません。この記事では、停止の現状と確認方法、手法の仕組み、停止中も使える対策シート、そして代わりに使う厚生労働省の支援ツールを、公式資料と条文にあたって整理します。
まとめ:2026年10月時点で押さえる5点
- 厚生労働省版コントロール・バンディングのWebシステムは、液体・粉体作業用と粉じん作業用の両方が【一時停止中】です。2026年8月31日と10月15日の2回確認し、どちらも同じ表示でした。停止の理由と再開予定は公表されていません。
- 止まっているのはWebシステムだけです。操作マニュアル、システムが出力していた対策シート49枚、結果を書き込む記録様式は、いまも厚生労働省のサイトから入手できます。
- 手法の中身は、有害性ランク(A〜E、皮膚・眼はS)、揮発性・飛散性ランク(3段階)、取扱量ランク(多量・中量・少量)の3つからリスクレベル1〜4を決め、対応する対策シートを出すというものです。濃度は推定しません。
- 代わりに使うなら、同じ支援ツール表で配布が続くCREATE-SIMPLE(ver3.2.1、2026年6月更新)が第一候補です。換気・作業時間・頻度を反映でき、経皮吸収と危険性も見積もれます。
- 労働安全衛生法57条の3が義務づけるのは調査そのもので、特定のツールの使用ではありません。厚生労働省も「ツールの利用は必須ではありません」と明記しています。
厚生労働省版コントロール・バンディングの停止状況(2026年10月15日確認)
職場のあんぜんサイトの化学物質のリスクアセスメント実施支援のページには、厚生労働省が作った支援ツールの一覧表があります。厚生労働省版コントロール・バンディングの行は、ツールへのリンク欄が液体・粉体作業、粉じん作業とも【一時停止中】という表記に置き換わっています。同じ表では「爆発・火災等のリスクアセスメントのためのスクリーニング支援ツール」も【一時停止中】です。
停止中のシステムURLの応答と停止表示の時期
システム本体のURL(anzeninfo.mhlw.go.jp の ras 配下にある液体・粉体作業用の Default.aspx と、粉じん作業用の dust_Default.aspx)にアクセスすると、どちらもHTTP 500(Internal server error)を返します。2026年8月31日と10月15日の2回確かめ、結果は同じでした。
停止の開始日は公表されていません。2026年8月31日に確認したInternet Archiveの保存版(2025年1月14日と2026年4月13日の版)では、同じページに【一時停止中】の表記はなく、2つのシステムへのリンクが掲載されていました。わかるのは、停止の表示が出たのがその保存日より後だということまでです。いずれにしても、厚生労働省のサイトでコントロール・バンディングが動かないのは、利用者側のブラウザや設定の問題ではなく、提供側が止めている状態です。
Webシステムの再開予定と稼働確認の手順
再開の時期はわかりません。支援ツールの一覧ページにも、コントロール・バンディングの個別解説ページにも、停止の理由や再開予定は書かれていません。停止の表示が続く一方で、後発のCREATE-SIMPLEは2026年6月にも更新されています。再開を待って評価を先送りするより、ほかのツールで進めるほうが現実的です。
再開したかどうかは2段階で確かめます。まず支援ツール一覧表の厚生労働省版コントロール・バンディングの行で、「ツールへのリンク」欄の【一時停止中】が「液体・粉体作業」「粉じん作業」のリンクに戻っているかを見ます。次にそのリンクを開き、HTTP 500ではなく入力画面が表示され、結果のレポートまで出力できるかを確かめます。
停止中でも入手できる3つの資料
止まっているのはWebシステムだけで、次の資料は従来どおり公開されています。
- 操作マニュアル:液体・粉体作業用(平成31年3月版)と粉じん作業用(平成30年2月版)のPDF。ランクの決め方と入力の注意点がわかります。
- 対策シート:システムが出力していた全シートを、厚生労働省が対策シートの一覧として独立したページで公開しています。
- リスクアセスメント実施レポート(結果記入シート):支援ツールのページにあるExcelの記録様式です。厚生労働省は「コントロールバンディング等、実施したリスクアセスメントの結果とリスク低減対策等を記載できるシート」と説明しています。
コントロール・バンディングの仕組み:3つのランクとリスクレベル判定表
厚生労働省の解説では、コントロール・バンディングは国際労働機関(ILO)が「開発途上国の中小企業を対象に、有害性のある化学物質から労働者の健康を保護するために、簡単で実用的なリスクアセスメント手法を取り入れて開発した化学物質の管理手法」です。厚生労働省版は、これを日本で簡易に使えるようWebシステムにしたものです。
公式に挙がる特徴は3点です。ばく露濃度を測定しなくても使えること、許容濃度などのばく露限界値がなくても使えること(粉じん等が生ずる作業では値の設定が必要)、化学物質の有害性情報は必要なこと。SDSが手元にあれば、作業環境測定の前に一次判定ができます。
有害性・揮発性および飛散性・取扱量のランク区分
以下は液体・粉体作業用システムの説明です(粉じん作業用は別のマニュアルで、許容濃度などの値の設定が必要です)。操作マニュアルによると、システムは有害性ランク、揮発性・飛散性ランク、取扱量ランクの3つを出し、それらからリスクレベルを決めます。有害性ランクはA〜Eの5段階でEほど毒性が高く、これとは別に、皮膚に触れると障害を起こすおそれがある物質にはSが付きます。厚生労働省が2018年2月16日のリスクコミュニケーションで示した説明資料には、GHS分類の区分との対応が載っています。
| 有害性ランク | 主なGHS分類(健康有害性)と区分 |
|---|---|
| A | 皮膚刺激性2・眼刺激性2・吸引性呼吸器有害性1,2 |
| B | 急性毒性4・特定標的臓器毒性(単回)2 |
| C | 急性毒性3・皮膚腐食性1・眼損傷性1・皮膚感作性1ほか |
| D | 急性毒性1,2・発がん性2・反復ばく露1・生殖毒性1,2 |
| E | 生殖細胞変異原性1,2・発がん性1・呼吸器感作性1 |
| S | 経皮の急性毒性1〜4・皮膚腐食/刺激性1,2・皮膚感作性1ほか |
ばく露のしやすさは、液体と粉体で決め方が違います。液体は沸点と取扱温度の関係から揮発性を3段階に分けます(操作マニュアルの表記は大・中・小、説明資料の表は低・中・高)。資料のグラフでは、取扱温度20℃なら沸点150℃以上が低揮発性、50℃以下が高揮発性で、取扱温度が上がるほど境目の沸点も上がります。粉体は形状で決まり、微細な軽い粉体(セメント、カーボンブラックなど)が高飛散性、結晶状・顆粒状(洗濯用洗剤など)が中飛散性、壊れないペレット(錠剤など)が低飛散性です。
取扱量ランクは単位で決まります。多量がkL(液体)とton(固体)、中量がLとkg、少量がmLとgです。連続作業なら1日の使用量、バッチ作業なら1回の使用量を入れます。マニュアルは「選択を迷う場合は、より量の多い方を選ぶと、安全側にリスクアセスメントできる」とし、沸点も、常圧より低い気圧のデータしかない場合はリスクを過小評価しないようそのまま適用する仕様です。
3ランクとリスクレベル1〜4の判定表
3つのランクをどう組み合わせるかは、厚生労働省が2017年2月8日のリスクコミュニケーションで配った説明資料に「厚労省方式」の判定表として載っています。システムが止まった今も、基本の判定はこの表で手元でたどれます。ただし表は2017年時点のもので、2019年3月からは液体・粉体作業でも許容濃度の範囲を選んで有害性ランクに加味できるようになりました。許容濃度を指定した場合の結果までは、この表だけでは再現できません。
| 有害性 | 取扱量 | 液体 低 | 液体 中 | 液体 高 | 粉体 低 | 粉体 中 | 粉体 高 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A | 少量 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
| A | 中量 | 1 | 1 | 2 | 1 | 1 | 2 |
| A | 多量 | 1 | 1 | 2 | 1 | 2 | 2 |
| B | 少量 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
| B | 中量 | 1 | 2 | 2 | 1 | 2 | 2 |
| B | 多量 | 1 | 2 | 3 | 1 | 3 | 3 |
| C | 少量 | 1 | 2 | 2 | 1 | 1 | 2 |
| C | 中量 | 2 | 3 | 3 | 2 | 3 | 3 |
| C | 多量 | 2 | 4 | 4 | 2 | 4 | 4 |
| D | 少量 | 2 | 3 | 3 | 2 | 2 | 3 |
| D | 中量 | 3 | 4 | 4 | 3 | 4 | 4 |
| D | 多量 | 3 | 4 | 4 | 3 | 4 | 4 |
有害性ランクEは、量や揮発性にかかわらず全てリスクレベル4です。ランクSの物質は、表とは別に個人保護具の使用を検討する扱い(リスクレベルS)になります。
表を読むと、量を減らす効果がランクによって違うことがわかります。たとえばランクCで、取扱温度20℃のときに沸点40℃の液体(高揮発性)をL単位で扱うとレベル3ですが、mL単位まで減らせばレベル2に下がります。一方ランクDの中量と多量はどの揮発性でも同じ値で、L単位からkL単位に増えてもレベルは変わりません。Dで量を中量から少量へ減らすと、高揮発性の液体は4から3に下がります。どの条件を変えればレベルが下がるかを、表で先に確かめられます。
厚生労働省版の出自とILO・HSEの関係
操作マニュアルは、対策シートについて「ILOの『The Chemical Control Toolkit』について、厚生労働省がILOより許諾を得て翻訳し、内容の改変を行ったもの」と明記しています。厚生労働省のコントロール・バンディング解説ページが挙げる出自もILOまでで、英国安全衛生庁(HSE)の名は出てきません。
そのILOのツールキットは、HSEのCOSHH essentialsを元にしています。ILOなどの国際技術グループが2004年5月28日に合意した実施戦略に「The Chemical Toolkit (adapted from the HSE’s COSHH Essentials)」とあります。系譜はHSE、ILO、厚生労働省の順です。後発のCREATE-SIMPLEも、「英国安全衛生庁(HSE)が作成した、HSE COSHH essentialsなどに基づく」考え方を踏まえたと厚生労働省が説明しており、2つのツールは同じ源流を持ちます。
リスクレベル別の対策シート:100番台から400番台までの中身
リスクレベルごとの対策の方針は、上の2017年の説明資料に次のように示されています。レベル1は全体換気、2は局所排気、3は封じ込め、4は「特殊」で専門家への相談(原料の代替、工程の密閉など)、Sは皮膚や眼に対する個人用保護具の使用です。対策シートの番号帯もこの並びで、元になったILOのツールキットの手引きは、管理区分2なら200番台のシートを見るよう案内しています。システムは、リスクレベルと作業内容の種類に応じてシートを自動で選んでいました。
対策シートの一覧を数えると、番号付きのシートが47枚、保護具のシートが2枚で計49枚です。
| 番号帯 | リスクレベル | 方針 | 枚数 | 代表的なシート |
|---|---|---|---|---|
| 100番台 | 1 | 全体換気 | 4枚 | 100 一般原則:全体換気 |
| 200番台 | 2 | 局所排気 | 23枚 | 200 一般的注意事項:局所排気装置 |
| 300番台 | 3 | 封じ込め | 19枚 | 300 封じ込めの一般原則 |
| 400番台 | 4 | 特殊(専門家への相談) | 1枚 | 400 一般原則 |
| Sk | S | 皮膚・眼の保護具 | 1枚 | Sk100 皮膚や眼に有害な化学物質に対する労働衛生保護具 |
| R | 呼吸用保護具が必要な場合 | 呼吸用保護具 | 1枚 | R100 呼吸用保護具の選び方と使い方 |
枚数の偏りに、この手法の性格が出ています。200番台が23枚、300番台が19枚と厚いのに対し、最上位の400番台は「一般原則」1枚しかありません。リスクが最も高いと判定された作業には、作業別の具体策が用意されていないということです。説明資料も、レベル4では「物質の代替化をまず検討し、困難な場合は専門家に相談する」としています。レベル4が出たらシートを読んで終わりにはできません。
同じ作業名が複数の番号帯に登場する点も、読み違えの原因になります。「集じん機の粉じん処理」は103・203・302、「粉体の計量」は211と314、「粉体の混合」は213と316、「液体同士または液体と粉体の混合」は212と317、「蒸気脱脂槽」は218と318にあります。作業が同じでもリスクレベルが上がれば求められる封じ込めの水準が変わるため、番号帯を取り違えると必要より弱い対策を選ぶことになります。
操作マニュアルが保護具での代替を認める換気手段4種
操作マニュアルは、対策シートの換気設備を保護具で置き換えてよい範囲を表で示しています。対象はシート200の局所排気装置、201の換気装置付き作業台、202の層流ブース、202a(公開一覧では202-1)のプッシュプル型換気装置の4つで、事業所の状況に応じて保護具の使用で代替できるとされています。マニュアルのこの表に、300番台の封じ込めは挙がっていません。
停止中に使う代替ツール:厚生労働省の支援ツール表に載る手段
コントロール・バンディングの代わりを探すとき、最初に見るべきは同じ支援ツールのページです。厚生労働省は各ツールに【初級】【中級】【上級】の目安を付けており、専門知識と必要な情報の量で選べるようになっています。次の表は、2026年10月15日時点の一覧表をもとに整理したものです。
| ツール | 対象 | 方法 | 公式の目安 | 提供状況 |
|---|---|---|---|---|
| 厚生労働省版コントロール・バンディング | 有害性 | ランクの組み合わせ | 初級 | 一時停止中 |
| CREATE-SIMPLE | 有害性(吸入・経皮)・危険性 | 推定ばく露濃度と限界値の比較 | 初級 | ver3.2.1配布中 |
| 作業別モデル対策シート | 有害性 | チェックリスト | 初級 | 公開中 |
| EMKG-EXPO-TOOL(独BAuA) | 有害性(ばく露のみ) | 吸入ばく露の簡易評価 | 初級 | 外部サイトで配布 |
| 検知管ガイドブック | 有害性 | 検知管で測定 | 中級 | 公開中 |
| リアルタイムモニターガイドブック | 有害性 | リアルタイムモニターで測定 | 中級 | 改訂第2版 |
| 業種別リスクアセスメントシート | 有害性 | 工業塗装・印刷・めっき別 | 中級 | 公開中 |
| 安衛研 実施支援ツール | 危険性(プロセス) | 指針に沿った評価 | 中〜上級 | 公開中 |
| ECETOC TRA | 有害性 | 定量的なばく露推定 | 上級 | 外部サイトで配布 |
CREATE-SIMPLEとコントロール・バンディングの違い
コントロール・バンディングと同じ【初級】で、いま配布されているのがCREATE-SIMPLEです。正式名称はChemical Risk Easy Assessment Tool, Edited for Service Industry and MultiPLE workplacesで、サービス業や試験・研究機関を含むあらゆる業種を対象にしたExcelのツールです。
| 比較軸 | コントロール・バンディング | CREATE-SIMPLE |
|---|---|---|
| 提供状況 | Webシステムは一時停止中 | ver3.2.1を配布中 |
| 形態 | Webシステム | Excelファイル(xlsm) |
| 対象リスク | 有害性(吸入) | 有害性(吸入・経皮)と危険性 |
| 判定方法 | 3ランクの組み合わせ | 推定ばく露濃度と限界値の比較 |
| 換気・作業時間・頻度 | 考慮しない | 反映する |
| 入力の保存 | 保存されない | ファイルに残る |
| 出力 | リスクレベルと対策シート | リスクレベルと低減措置の検討支援 |
差が最も大きいのは作業条件の扱いです。厚生労働省はCREATE-SIMPLEの特徴として「厚生労働省版コントロール・バンディングでは考慮していない作業条件(換気や作業時間、作業頻度など)の効果も反映」と書いています。同じ物質を同じ量・同じ温度で扱う作業なら、1日15分でも8時間でも、コントロール・バンディングの結果は同じになります。局所排気装置を入れた効果が結果に返ってくるかどうかも、ここで分かれます。
判定の土台も違います。CREATE-SIMPLEは、取扱い条件から推定したばく露濃度を、ばく露限界値(またはGHS区分情報に基づく管理目標濃度)と比べます。濃度基準値を使った管理につなげやすいのはこちらです。ただし公式の注意点に「何らかの理由によりばく露が大きくなるような作業については、リスクを過小に見積る可能性がある」とあり、危険性の評価もプロセスは対象外です。プロセスの危険性には「安衛研 リスクアセスメント等実施支援ツール」を使うよう、CREATE-SIMPLEの解説ページ自身が案内しています。
ツールを選ぶ判断基準
新しく評価を始めるなら、CREATE-SIMPLEを軸にするのが妥当です。コントロール・バンディングと同じSDSの情報で始められ、作業条件と経皮吸収まで見積もれるうえ、停止のリスクを抱えたWebシステムではなく手元のExcelで完結します。
ほかの手段は目的で選びます。リスクの数値より対策の抜け漏れを確かめたい小規模な現場には、作業別モデル対策シートが向きます。印刷、塗装、めっき、溶接、ネイル、ビルメンテナンスなど25種類の作業別シートと4種類の共通シートがあり、リスクレベルを考慮せずに作業ごとの代表的な対策を並べたものです。推定の結果が濃度基準値に近く、実際の濃度で確かめたい場合は、検知管やリアルタイムモニターのガイドブックへ進みます。EMKG-EXPO-TOOLはばく露評価だけのツールで、有害性は別に考える必要があり、発がん性・変異原性・生殖毒性のあるCMR物質には適さないと厚生労働省が注記しています。
厚生労働省はリスクアセスメント選択の手順として、有害性と危険性それぞれの選択フローも公開しています。ただし「このフローに従うことは必須ではない」とも書いており、どの手法を使うかは事業者に任されています。ツールの使い方に迷う場合は、厚生労働省が案内する化学物質管理の相談窓口で、ラベル・SDS・リスクアセスメントの質問への回答と訪問支援を受けられます。
コントロール・バンディングの過去記録を引き継ぐときの読み方
停止の影響が最も大きいのは、これまでコントロール・バンディングで評価してきた事業場です。厚生労働省のリスクアセスメント実施レポート(Excel)を開くと、結果欄の記入例は手法が「厚生労働省コントロール・バンディング」、リスクの程度が「リスクレベル3」、リスク低減措置が「局所排気装置を導入」となっています。まず手元の記録に、手法・リスクレベル・作業内容・対策シート番号が残っているかを確かめます。
この記録を読むときの要点は3つです。第一に、リスクレベルの数字から対策シートの番号帯はわかります。「レベル3」なら300番台の封じ込めです。ただし番号帯の中のどのシートだったかはStep1で選んだ作業内容で決まるので、個別のシートを引き直すには作業内容の記録か、ダウンロードしたシートそのものが要ります。第二に、コントロール・バンディングの結果には換気や作業時間が入っていません。局所排気装置を入れたあとに同じ物質を評価し直しても、コントロール・バンディングでは結果が変わらない仕組みでした。対策の効果を記録に残したいなら、作業条件を反映できるCREATE-SIMPLEで評価し直す意味があります。第三に、手法を変えたら記録の手法欄も変えます。CREATE-SIMPLEとコントロール・バンディングでは判定の尺度が違うため、レベルの数字が下がっても、それが対策の効果なのか手法の違いなのかは区別できません。旧記録と新記録には、手法名、入力した条件(取扱量・換気・作業時間など)、判定結果を並べて残し、比べるのは同じ手法どうしにします。
評価を見直す時期は、ツールの停止とは関係なく来ます。取り扱う物質や工程が変われば前提が変わりますし、対象物質は政省令の改正で追加されます。評価と対策を回し続ける枠組みはPDCAサイクルとは?意味・4つのステップと具体例、回し方のコツまで解説、記録の保存年限や台帳の設計は化学物質管理とは?SDSとリスクアセスメントの記録義務と管理システムの要件で扱っています。
法令上の位置づけ:調査は義務、ばく露の低減も義務
労働安全衛生法57条の3第1項は「事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物による危険性又は有害性等を調査しなければならない」と定めています。リスクアセスメントそのものは義務です。
同条第2項は「調査の結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない」という努力義務の書きぶりです。ここだけ読んで「対策は努力義務」と受け取ると誤ります。実際の縛りは労働安全衛生規則577条の2にあり、第1項はリスクアセスメント対象物を扱う事業場で、代替物の使用、発散源の密閉、局所排気装置などの設置、作業方法の改善、呼吸用保護具の使用などにより、ばく露の程度を「最小限度にしなければならない」としています。第2項は、厚生労働大臣が定める物質を扱う屋内作業場で、ばく露の程度を「厚生労働大臣が定める濃度の基準以下としなければならない」としています。
濃度基準値以下であることを示す必要がある物質では、濃度を推定しないコントロール・バンディングの出力だけでは足りません。厚生労働省は「ツールでリスクを見積もった後は見積もった結果に基づいてリスク低減措置の内容の検討が必要となります」と書き、コントロール・バンディングの解説ページでも「労働安全衛生法令によりばく露防止対策が規定されている場合は、それに基づいた対策を実施することが必要です」としています。特定化学物質障害予防規則や有機溶剤中毒予防規則に個別の規定がある物質では、対策シートより規則の要求が優先します。
2026年度は、ツール選びに関わる改正の施行が続いています。2026年4月1日には、令和3年3月31日までにGHS分類で危険性・有害性ありと区分された物質のうち、有害性の区分が1以外のもの(労働政策審議会の説明では配布資料の別表4に当たる779物質)について適用の猶予が終わり、ラベル表示・SDS交付とリスクアセスメントの対象に加わりました。大阪労働局の化学物質管理アンケートの注記では、令和8年4月1日現在のラベル表示・SDS交付義務対象は2,316物質で、これらがリスクアセスメント対象物です。さらに2026年10月1日からは、法令で義務づけられた個人ばく露測定を、講習を修了して登録証を書き換えた作業環境測定士などが行う必要があります。濃度基準値を測定で確かめる場面が増えるほど、濃度を出さないコントロール・バンディングの出番は一次判定に限られていきます。改正の全体と記録の保存年限は、上で挙げた化学物質管理の記事で扱っています。
操作マニュアルが明記する制約
液体・粉体を同時に扱う作業の個別評価
マニュアルは「液体と粉体を同時にリスクアセスメントすることはできない。混練などの場合は、液体・粉体それぞれ別個にリスクアセスメントをすること」と書いています。粉体を溶剤に練り込む工程は1回の評価に収まりません。液体は揮発性、粉体は飛散性で、空気中への発散しやすさの判定方法が違うためです。液体と粉体を別々に評価し、それぞれの評価結果に応じた対策を検討します。
入力データの非保存仕様と評価結果の保管
「本システムでは、ユーザーが入力した情報の収集や蓄積、自動保存はされない」とマニュアルにあります。結果はレポートと対策シートのPDFとして表示され、利用者が必要に応じてダウンロードする方式でした。過去の評価を再現したくても、システム側には何も残っていません。ダウンロードしたPDFと記録様式が残っていなければ、評価の根拠を追えないということです。
爆発・火災のリスクは評価対象外
マニュアルは「出力される対策シートは爆発性などのリスクまでは対応していない」と明記し、危険性はSDSのGHS分類の「物理化学的危険性」の項で別に確認するよう求めています。労働安全衛生法に基づくリスクアセスメントは危険性と有害性の両方が対象で、コントロール・バンディングが答えるのは有害性だけです。危険性を受け持っていた厚生労働省のスクリーニング支援ツールも停止中なので、危険性まで扱うならCREATE-SIMPLEか安衛研のツールを使います。
よくある質問
コントロール・バンディングとは何ですか?
化学物質の有害性と取扱いの条件から、リスクの高さを段階(バンド)に区分し、区分に応じた管理対策を導く簡易リスクアセスメント手法です。空気中濃度の測定を必要とせず、SDSのGHS分類区分、沸点、取扱温度、取扱量で判定できます。ILOが開発途上国の中小企業向けに開発した手法がもとで、厚生労働省はILOの許諾を得て対策シートを翻訳・改変し、Webシステムにしました。
厚生労働省版コントロール・バンディングが使えないのはなぜですか?いつ復旧しますか?
提供側がWebシステムを止めているためです。職場のあんぜんサイトの支援ツール一覧では、液体・粉体作業用と粉じん作業用がともに【一時停止中】と表示され、システムのURLはHTTP 500を返します(2026年10月15日確認)。停止の理由と再開時期は公表されていません。再開は、一覧表のリンク欄から【一時停止中】の表記が消え、リンク先で入力画面と結果のレポートが表示されるかで確かめられます。
コントロール・バンディングとCREATE-SIMPLEの違いは何ですか?
コントロール・バンディングは3つのランクの組み合わせでリスクレベルを決め、換気や作業時間は考慮しません。CREATE-SIMPLEは取扱い条件から推定したばく露濃度をばく露限界値と比べる方法で、換気・作業時間・作業頻度の効果を反映し、経皮吸収と危険性も見積もれます。CREATE-SIMPLEはExcelファイルとして配布が続いており、ver3.2.1が2026年6月に公開されました。
リスクレベル1〜4はそれぞれ何を意味しますか?
数字が大きいほどリスクが高く、厚生労働省の説明資料では、1が全体換気、2が局所排気、3が封じ込め、4が「特殊」(専門家への相談、原料の代替、工程の密閉など)を対策の方針としています。対策シートの番号帯も100番台から400番台まで同じ並びです。有害性ランクEの物質は条件にかかわらずレベル4、眼や皮膚へのリスクがある物質にはSが付き、個人用保護具の使用を検討します。
リスクアセスメントの記録様式やひな形はどこにありますか?
職場のあんぜんサイトの支援ツールのページに「リスクアセスメント実施レポート(結果記入シート)」がExcelで置かれています。物質ごとに低減措置を書くシート、作業全体の低減措置を書くシート、複数の結果を一覧にするシートの3種類があります。厚生労働省は、まとめ方に規定はなく一例として使ってほしいとしています。