DEIは Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の頭文字で、読み方は「ディー・イー・アイ」です。DE&I と表記されることもありますが指すものは同じで、経済産業省をはじめ日本語の公的文書では略称のまま用いられます。この記事では、経済産業省が示している3語の定義を出発点に、混同されやすい公平(equity)と平等(equality)の違い、D&Iとの違い、そして米国が2025年から連邦の枠組みを撤回する一方で日本は逆に開示義務を広げている2026年の制度状況までを整理します。
まとめ:DEIの要点
先に結論を挙げます。DEIは「ディー・イー・アイ」と読み、Diversity(多様性)・Equity(公平性)・Inclusion(包括性)の3語からなります。中心にあるのはEquityで、全員に同じものを配る平等(equality)ではなく、一人ひとりが違うスタートラインに立っているという前提のもと、能力の発揮を阻む要因を是正して適切な機会を提供する考え方です。D&Iに後からEを加えたものがDEIであり、経済産業省はEquityとInclusionへの対応を行ってはじめてDiversityを活かせると、明確な順序を置いています。
制度面では、日米が逆方向に動いています。米国では大統領令14173により、1965年の大統領令11246に基づく連邦契約者の積極的差別是正義務が撤廃されました。ただし、障害者や保護対象退役軍人に関する別法上の義務は存続しており、条文が対処の対象としているのも違法な優遇であって、DEIそのものを禁じる条項はありません。対する日本は、2026年4月1日施行の改正女性活躍推進法で女性管理職比率と男女間賃金差異の公表義務が従業員101人以上まで拡大しています。以下、それぞれの根拠を順に見ていきます。
DEIの読み方と3つの構成要素
DEIは各文字をそのまま「ディー・イー・アイ」と読みます。文書によっては「ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン」と展開して表記され、アンパサンドを入れた DE&I も同義です。日本語訳は媒体によって揺れがあり、Inclusion には「包括性」「包摂性」「受容性」が併存しますが、経済産業省は「包括性」を当てています。
3語の定義は、経済産業省が2025年6月20日にMETI Journal ONLINEで公開した「DEIってなに?」に示されています。以下はいずれも同記事の記述に沿っています。
D:Diversity(多様性)が指す範囲
経済産業省はDiversityを、企業の競争力強化という視点から「性別、年齢、人種などの属性や価値観、キャリア、働き方の意向などを限定せず、経営戦略の実現に必要と考えられる多様な人材によって組織を構成すること」と説明しています。ここで見落とされやすいのが後半です。多様であればよいのではなく、経営戦略の実現に必要な多様性かどうかが基準に置かれています。属性の比率を増やすこと自体が目的ではない、という限定がこの定義には含まれています。
同省が別に定義している「ダイバーシティ経営」も同じ構えで、「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」とされています。ここでの多様な人材には、性別・年齢・人種や国籍・障がいの有無・性的指向・宗教や信条・価値観だけでなく、キャリアや経験、働き方の多様性も含まれます。
E:Equity(公平性)が是正するもの
Equityは「一人ひとりが違うスタートラインに立っているという前提のもと、多様な人材が能力を十分発揮できるよう、制度や業務プロセスなどで阻害される要因があればそれを是正し適切な機会を提供して、支援すること」と定義されています。抽象的になりがちな語ですが、経済産業省は2つの具体例を添えています。1つは、布の裁断業務において左利きの人には左利き用のはさみを用意すること。もう1つは、自社の人事評価軸を多軸化し、これまで前提としていた人材像以外であっても、経営戦略実現に必要な人材であれば属性を問わず適切に評価できるようにすることです。
前者は道具、後者は評価制度の話で、扱う対象がまるで違います。それでも共通しているのは、個人の努力ではどうにもならない「制度や業務プロセスの側の障害」を取り除いている点です。Equityの施策かどうかを判断するときは、その施策が誰かを優遇しているかではなく、何という障害を除いているかを問うと切り分けやすくなります。
I:Inclusion(包括性)が満たす状態
Inclusionは「一人ひとりが、組織に帰属感を持ち、本人ならではの強みを十分に発揮して組織に貢献できていると実感している状態をつくること」と定義されています。制度ではなく状態を指す語である点が、DとEとは性質が異なります。制度を整えても当人が実感していなければInclusionは達成されていない、という測り方になるため、従業員サーベイなど本人の認識を拾う手段とセットで扱われます。包摂という訳語の背景や、組織づくりの具体についてはインクルージョンとは何か?(包摂の意味)で詳しく扱っています。
そして3語の関係について、経済産業省は順序を明示しています。多様な人材が組織に所属しているだけでは足りず、EquityとInclusionの対応を行ってはじめてDiversityを活かすことができる、という観点が重要だとしています。採用比率を変えるだけでは、能力発揮を阻む制度や、組織への帰属感の問題が残る場合があります。
公平(equity)と平等(equality)の違い
DEIで最もつまずきやすいのがequityとequalityの区別です。equalityは権利や機会などの平等を指し、equityは個々の状況や障壁に応じた公平な支援を重視します。両者の違いを説明する例として、一律の支援と、必要に応じて調整した支援が対比されます。左利き用のはさみの例がわかりやすく、全員に同じ右利き用はさみを配るのがequality、左利きの人には左利き用を渡すのがequityです。渡しているものは違いますが、それによって「布を裁断できる」という機会は等しくなります。
日本語では equity に「公平」、equality に「平等」を当てるのが一般的ですが、法律用語としての「衡平」や、憲法上の平等原則が語る「実質的平等」など隣接する概念が多く、訳語だけで理解しようとすると混乱します。押さえておきたいのは、Equityが整えようとしているのは能力を発揮する機会であって、全員の成果を同じにすることではない点です。また、equalityという語自体にも機会の平等という用法があるため、上の対比は概念の厳密な線引きではなく、DEIの文脈で施策を仕分けるための目安として扱ってください。
なお、equityという語そのものを国際機関がどう扱っているかは分野によって差があり、ジェンダー分野では国連が gender equity という言い方を推奨していません。この論点はジェンダーエクイティとは?平等との違いと国連が避ける理由で別途整理しています。また、equity は金融分野では株式や自己資本、マーケティング分野ではブランドエクイティを指すため、DEI文脈の公平性とは別物です。
DEIとD&Iの違い、DEIB・DEIAなどの派生表記
D&IはDiversity & Inclusionの略で、DEIより先に普及した呼び方です。両者の違いはEquityの有無だけで、対立する概念ではありません。D&Iの枠組みでは、多様な人材を集め(Diversity)、その人たちが活躍できる状態をつくる(Inclusion)という2段構えでしたが、集めた人材が活躍できない原因が本人ではなく制度側にあるという認識が広がり、その是正を担う要素としてEquityが挟み込まれてDEIになった、という経緯で理解すると位置関係が整理できます。
派生表記もいくつか流通しています。DEIBはBelonging(帰属感)を加えたもの、DEIAはAccessibility(アクセシビリティ)を加えたもので、米国連邦政府は2021年6月25日に署名された大統領令14035「Diversity, Equity, Inclusion, and Accessibility in the Federal Workforce」でこの呼称を使っていました。ただし日本の公的文書で定着しているのはDEIとD&Iで、経済産業省もこの2つを使い分けています。自社で用語を決める際は、社外の読み手にとって説明が要らないDEIかD&Iを選び、独自の増補形は避けたほうが伝わります。
米国のDEI政策で撤回されたもの、撤回されていないもの
2025年以降、米国のDEIをめぐる状況は大きく変わりました。ここは報道で「DEIが禁止された」と要約されがちですが、実際には連邦政府の内部と民間部門とで扱いが分かれています。連邦政府内部については、2025年1月20日に署名された大統領令14151「Ending Radical and Wasteful Government DEI Programs and Preferencing」がDEI関連の部署や施策の終了を命じています。大統領令14173は、連邦政府内部の施策や連邦契約の見直しに加え、民間部門の違法なDEI施策に対する法執行も扱っています。日本企業が自社方針を判断する材料にするなら、この2つを分けて押さえておく必要があります。
大統領令14173が撤回した範囲
大統領令14173「Ending Illegal Discrimination and Restoring Merit-Based Opportunity」は2025年1月21日に署名され、2025年1月31日にFederal Registerに掲載されました。第3条(b)(i)は、1965年9月24日の大統領令11246(Equal Employment Opportunity)を撤回すると定めています。同項は続けて、連邦契約者は本大統領令の日から90日間は2025年1月20日時点で有効だった規制枠組みに従い続けてよい、という経過措置を置きました。
第3条(b)(ii)は労働省のOFCCP(連邦契約遵守プログラム局)に対し、diversityを推進すること、連邦契約者および下請契約者にaffirmative actionを取る責任を負わせること、人種・肌の色・性別・性的指向・宗教・出身国に基づく人員構成の調整を許容ないし奨励することを直ちに停止するよう命じています。つまり失われたのは、大統領令11246に基づいて連邦契約者に課されていた積極的差別是正措置の義務です。障害者や保護対象退役軍人に関する義務は別の法律を根拠としているため、この撤回では失われません。実際、リハビリテーション法第503条の実施規則は廃止ではなく改正の対象として扱われています。この制度の日本での対応物や条文上の位置づけはアファーマティブ・アクションとは?日本の例と条文、米国での撤回までで扱っています。
撤回と入れ替わりに新設された義務もあります。第3条(b)(iv)は各省庁に対し、すべての契約および補助金の交付にあたって2つの条項を入れるよう求めています。1つは、連邦の差別禁止法を全面的に遵守していることが政府の支払い判断にとって重要事項であると相手方に同意させる条項。もう1つは、相手方に「連邦の差別禁止法に違反するDEI推進プログラムを一切運営していない」ことを証明させる条項です。ここでも条件は違反しているかどうかであり、DEIプログラムを持つこと自体は証明の対象になっていません。
一方で、撤回されていないものを確認しておきます。第2条が各省庁に命じているのは、違法な優遇や差別を終わらせること、そして民間部門の「illegal」なDEIの優遇・義務づけ・方針・プログラム・活動に対処することです。修飾語のillegalが一貫して置かれており、DEIという取り組み自体を禁止する条項は置かれていません。公民権法第7編をはじめとする差別禁止法制も撤回の対象外です。企業のDEI施策が問題になるかどうかは、それが法の禁じる差別に当たるかどうかで判断される構図は変わっていません。
米国の積極的差別是正関連規則の廃止日程
大統領令の撤回に続いて、実施規則の廃止も進んでいます。Federal Registerには、公民権法第7編に基づくaffirmative actionのガイドラインを廃止する最終規則(Rescission of Guidelines on Affirmative Action Appropriate Under Title VII)と、大統領令11246の実施規則を廃止する最終規則(Rescission of Executive Order 11246 Implementing Regulations)が掲載されており、日付は次のとおりです。
| 廃止対象 | 掲載日 | 発効日 |
|---|---|---|
| 公民権法第7編のAAガイドライン | 2026年7月6日 | 2026年7月6日 |
| 大統領令11246の実施規則 | 2026年8月21日 | 2026年10月26日 |
大統領令11246の実施規則の廃止(91 FR 54444)は2026年10月26日発効で、この記事の執筆時点ではまだ発効前の段階にあります。米国子会社や連邦契約を持つ取引先を抱える企業は、自社の契約条項に旧規則を前提とした記載が残っていないかを確認しておく必要があります。大統領令11246の実施規則の廃止は連邦契約に関するものです。一方、表に挙げた第7編のAAガイドライン廃止は連邦契約者に限らず同編の対象となる雇用主等に関係しますが、第7編自体の廃止ではありません。米国全体でDEIが一律に禁じられたと読むのは正確ではありません。
日本で拡大するDEI関連の情報公表義務
米国の動きから「日本でもDEIは縮小に向かう」と読む向きがありますが、制度の方向は逆です。日本では企業に求められる開示の範囲がこの数年で継続的に広がっており、2026年4月にもう一段拡大しました。
改正女性活躍推進法による公表義務の拡大
女性活躍推進法等を改正する法律は令和7年6月11日に公布され、これに基づく省令・指針の改正が同年12月23日に公布・告示されました。施行日は2026年4月1日です。厚生労働省の周知資料「女性活躍推進法が改正されました!」によれば、情報公表の必須項目は常時雇用する労働者数に応じて次のように変わりました。この人数には正社員に加え、無期雇用の労働者や、過去1年以上継続雇用されている、または雇入れ時から1年以上の継続雇用が見込まれる有期雇用の労働者も含みます。
| 企業規模 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 301人以上 | 男女間賃金差異+2項目以上 | 男女間賃金差異・女性管理職比率+2項目以上 |
| 101〜300人 | 1項目以上 | 男女間賃金差異・女性管理職比率+1項目以上 |
| 100人以下 | 努力義務 | 努力義務 |
301人以上の企業では女性管理職比率が新たに必須項目に加わり、合計4項目以上の公表が必要になります。101〜300人の企業は、男女間賃金差異と女性管理職比率の両方が新規の義務づけとなり、合計3項目以上です。追加で選ぶ項目は「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」と「職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備」の2区分に各7項目、計14項目が用意されています。301人以上は各区分から1項目以上ずつ、101〜300人は14項目のうち1項目以上を選びます。
実務で誤りやすいのが管理職の数え方です。ここでいう管理職は「課長級」と「課長級より上位の役職(役員を除く)」の合計と定義され、役員は含みません。課長級とは、その組織が二係以上からなるか構成員が10人以上(課長を含む)である課の長、または同一事業所において課長のほかに職務の内容と責任の程度が課長級に相当する者(ただし、一番下の職階ではない者)を指し、一般に「課長代理」「課長補佐」と呼ばれる役職は課長級に該当しません。統計によっては役員を含む区分で女性管理職比率が集計されている場合があり、公表値と他統計を並べる際は集計範囲を確認する必要があります。日本の女性管理職比率の水準そのものについてはガラスの天井とは?意味と語源、日本の女性管理職13.8%が示す現在地で詳述しています。
男女間賃金差異は、男性労働者の賃金の平均に対する女性労働者の賃金の平均を割合で示し、「全労働者」「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」の3区分での公表が必要です。今回新たに公表義務が生じる項目は、施行後に最初に終了する事業年度の実績を、その次の事業年度の開始後おおむね3か月以内に公表します。301人以上の事業主に既に課されている男女間賃金差異の公表義務は継続します。3月末決算の企業であれば、令和9年3月末に終了する事業年度の実績をおおむね令和9年6月末までに公表する形になります。法全体の目的や行動計画の位置づけは女性活躍推進法とは?2016年施行の女性の社会進出促進法の目的・概要で解説しています。
あわせて、女性の健康上の特性への配慮を要件に加えた「えるぼしプラス」認定が創設され、2026年4月1日から申請できます。
有価証券報告書の多様性3指標
上場企業にはもう一段の開示があります。金融庁は令和5年1月31日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の一部改正を公布・施行し、令和5年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書等から適用しました。これにより有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が新設され、「従業員の状況」の欄では女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金格差の記載が求められます。
ここには読み落とされやすい条件が付いています。この3指標は、企業が女性活躍推進法等に基づいて公表する場合に有価証券報告書等でも記載を求める、という立て付けです。したがって女性活躍推進法側の公表義務が101人以上へ広がったことは、有価証券報告書側の記載範囲にも連動します。2つの制度は別々に動いているのではなく、女性活躍推進法での公表が入口になっている点を押さえておくと、社内で担当部署を分けたときの取りこぼしを防げます。
企業がDEIに取り組む理由
DEIを推進する動機は、大きく人材の確保と経営リスクの2つに集約されます。日本の生産年齢人口が減り続けるなかで、これまで前提としてきた人材像に合う候補者だけを採用対象にしていると、そもそも母集団が足りません。働き方の制約がある人材、キャリアの経路が異なる人材、国籍の異なる人材を戦力にできるかどうかが採用力の差になります。経済産業省も、多様な人材の活躍を、人材確保に加えて多様化する市場ニーズやリスクへの対応、競争力強化につなげる取組として位置づけています。
もう一方は開示です。女性管理職比率と男女間賃金差異は、常時雇用する労働者が101人以上の事業主に公表が義務づけられています。有価証券報告書でも、女性活躍推進法等に基づく公表状況に応じて記載が求められます。数値が投資家と求職者の目に触れる以上、備えとして扱わざるを得ません。厚生労働省も、指標の大小それ自体のみに着目するのではなく要因および課題の分析を行うことが重要であるとし、数値に加えて分析結果を説明欄で公表することが望ましいとしています。公表値だけでは背景が伝わらないため、要因分析や改善方針も説明すると、読み手が数値を解釈しやすくなります。
イノベーションへの寄与もよく挙げられますが、これは前の2つほど直接的ではありません。経済産業省の定義でも「自由な発想が生まれ、生産性を向上し、自社の競争力強化につながる」という流れは、環境を整えることを条件に置いて書かれています。多様な人材がいれば自動的に生じるものとしては書かれていません。
DEI施策の具体例
実際の施策は、DEIの3語のどれに対応するかで整理すると重複や抜けを見つけやすくなります。以下は代表的な打ち手を要素別に並べたものです。
- Diversity:採用要件の見直し(勤務地や就業時間の固定要件を職務要件から切り離す)、中途採用・再雇用の経路整備、障害者雇用の職務設計
- Equity:人事評価軸の多軸化、昇進要件から実質的に不利に働く条件(転勤経験の必須化など)の除去、業務に必要な道具・環境の個別調整、男女間賃金差異の要因分析
- Inclusion:従業員サーベイによる帰属感の測定、管理職向けのインクルーシブ・リーダーシップ研修、社内ネットワーク(従業員リソースグループ)の運営
- 共通基盤:一般事業主行動計画の策定と公表、女性の活躍推進企業データベースへの掲載、有価証券報告書での開示
採用と研修を進める際は、昇進要件や評価軸の見直しが抜けていないかも点検します。しかし経済産業省が示した順序では、Equityへの対応がDiversityを活かすための条件に置かれています。採用や研修を実施しても昇進者の構成が変わらない場合は、評価軸や昇進要件に阻害要因が残っていないかを確認してください。
DEIが形骸化する原因と、避けるべき進め方
施策を増やしても成果が出ない場合は、評価・昇進要件の阻害要因や、効果の測定方法を点検します。ここでは避けたほうがよい進め方を、条件を明示して挙げます。
第一に、数値目標を先に置いて研修で埋める進め方です。女性管理職比率の目標値を掲げ、達成手段として管理職候補向けの研修を並べるという構成は広く見られますが、昇進要件そのものに不利な条件が残っていれば、研修を受けた人材が要件で止まります。経済産業省の定義に沿えば、先に着手すべきは制度や業務プロセスの側にある阻害要因の是正です。目標値は是正の進捗を測る指標であって、目標値の設定自体が施策ではありません。
第二に、Inclusionを制度の整備で代替する進め方です。Inclusionは「実感している状態」として定義されているため、制度を導入した事実は達成の証拠になりません。サーベイなどで本人の認識を測る手段を持たないままInclusion施策を実施している場合、効果があったかどうかを判断する材料が存在しないことになります。導入数を成果として報告している状態であれば、測定の設計から見直す必要があります。
第三に、米国の政策転換を理由に日本国内の方針を縮小する進め方です。大統領令14173は、大統領令11246に基づく連邦契約者の積極的差別是正義務を撤廃しました。日本法上の義務を変更するものではありませんが、日本企業でも米国の連邦契約等との関係は別途確認が必要です。むしろ日本では2026年4月に公表義務が101人以上へ拡大しています。連邦契約を持つ米国子会社の契約条項を見直すことと、日本国内の人事制度を縮小することは、まったく別の判断です。後者を前者の理由で行えば、開示義務への備えを根拠なく遅らせることになります。
最後に、DEIを主義主張の問題として扱う進め方も実務からは離れます。表現や配慮の是非をめぐる議論との混同はよく起きます。その論点の整理はポリコレの意味・由来と具体例に譲りますが、企業実務では、人事制度と情報開示を具体的な検討対象に据え、法令、自社のデータ、従業員の声をもとに施策を判断します。
よくある質問
DEIは何と読みますか?
各文字をそのまま「ディー・イー・アイ」と読みます。文書中では「ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン」と展開して書かれることもあり、DE&I という表記も同じものを指します。略称の読み方を伝える際は、初出で「DEI(ディー・イー・アイ)」と併記すると明確です。
DEIとD&Iの違いは何ですか?
Equity(公平性)が入っているかどうかの違いです。D&IはDiversity(多様性)とInclusion(包括性)の2要素で、多様な人材が活躍できない原因が制度や業務プロセスの側にあるという認識から、その是正を担うEquityを加えたものがDEIです。対立する概念ではなく、D&Iを拡張したものと理解すれば足ります。
DEIとポリコレの違いは何ですか?
扱う領域が異なります。DEIは、企業に限らず行政や教育機関などでも、多様性・公平性・包括性を重視する考え方です。この記事では企業の人事制度と関連する情報開示を中心に扱い、経済産業省の説明や日本の関連法令を参照しています。ポリティカル・コレクトネスは差別的とされる表現を避ける言語上・社会上の規範を指す言葉で、法令上の定義を持ちません。企業のDEI施策を評価するときは、表現の是非ではなく制度上の阻害要因が除かれたかどうかを基準にします。
アメリカではDEIが禁止されたのですか?
民間企業の合法的なDEI施策が一律に禁止されたわけではありません。ただし、連邦政府内部では大統領令14151がDEI部門・施策等の終了を命じています。また、大統領令14173は1965年の大統領令11246を撤回しました。同令に基づく義務については、これによって連邦政府と取引する事業者に課されていたaffirmative actionの義務づけがなくなり、実施規則も2026年10月26日に廃止されます。ただし同大統領令が対処の対象としているのは「illegal」な、つまり違法な優遇であり、DEIという取り組み自体を禁じる条項は置かれていません。公民権法第7編などの差別禁止法制も撤回の対象外です。
DEIの問題点や欠点として何が挙げられますか?
実務上よく指摘されるのは、特定の属性への配慮が別の属性の従業員に逆差別と受け止められて組織内に摩擦が生じること、制度の追加によって人事運用が複雑化しコストが増えること、そして施策が研修や標語の実施にとどまり成果指標と結びつかないことの3点です。逆差別との指摘には、まず施策の対象基準が適用法令に反していないかを確認し、そのうえで支援の目的と基準を説明します。運用コストは費用と担当業務、形骸化は成果指標によって点検します。阻害要因を除く設計に加え、問題ごとの対策を組み合わせます。