賞与とは、毎月の給与とは別に、支給額をあらかじめ確定させずに払う賃金のことで、ボーナスと呼ぶ場合も同じものを指します。ただし労働基準法・社会保険・所得税では「賞与」の線引きがそれぞれ違い、同じ支給でも法律によって扱いが異なる点に注意が必要です。この記事では、3つの法律の定義と給与との違い、支給義務が生まれる就業規則の書き方、パートや有期雇用への支給基準、2025年夏季賞与の平均額を一次情報で確認し、給与システムで賞与を誤らないための支給区分の持ち方まで解説します。
まとめ:賞与は支給額が事前に確定しない臨時の賃金、法律ごとの区分を給与システムで持つ
労働基準法の通達は、賞与を「支給額が予め確定されていないもの」と定義しています。支給額が決まっている定期の支給は、名称が賞与でも賞与とはみなされません。社会保険では年3回以下の支給が賞与、年4回以上なら毎月の報酬です。
賞与を払う義務は法律にはありません。義務が生まれるのは、就業規則や労働契約に支給の定めを置いたときです。支給日に在籍する人だけに払う、業績が大きく下がったら払わない、といった条件も就業規則に書いておけば運用できます。
給与システムで誤りが出るのは計算式より区分です。社会保険・雇用保険・源泉所得税・平均賃金・割増賃金の基礎・最低賃金の6つの観点で、支給項目ごとに賞与か否かを持たせます。年俸制で額が確定した賞与と四半期ごとの賞与は、名称に引きずられて区分を誤りやすい典型です。
賞与の定義:労働基準法・社会保険・所得税で異なる線引きと月々の給与との違い
「賞与とは何か」に1つの答えはありません。どの法律の話をしているかで、賞与にあたる支給の範囲が変わります。
労働基準法の賞与は支給額が予め確定していないもの:発基17号の定義と24条
労働基準法の施行時に出された昭和22年9月13日発基第17号の通達は、賞与を「定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであつて、その支給額が予め確定されてゐないもの」と定めています。続けて、定期的に支給され支給額が確定しているものは、名称にかかわらず賞与とはみなさないとしています。
毎月の給与との違いは支払い方にも表れます。労働基準法第24条第2項は賃金を毎月1回以上、一定の期日を定めて払うよう求めていますが、ただし書で「臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもの」を除いています。夏と冬の年2回払いが許されるのはこの規定があるためです。
社会保険は年3回以下、所得税は算出率の表:法律ごとに違う賞与の判定基準
社会保険で賞与にあたるかを決める基準は、支給回数です。日本年金機構の「従業員に賞与を支給したときの手続き」は、名称を問わず労働の対償として受けるもののうち年3回以下の支給を賞与としています。源泉所得税では、賞与は毎月の給与と別の表で税額を出します。
| 法律 | 賞与にあたる基準 | 給与計算で変わること |
|---|---|---|
| 労働基準法 | 支給額が事前に確定していない | 毎月払いの原則の対象外 |
| 社会保険 | 年3回以下の支給 | 標準賞与額で保険料を計算 |
| 源泉所得税 | 賞与として支払う給与 | 算出率の表で税額を計算 |
3つの基準による判定は、必ずしも同じ結果になるわけではありません。年俸を16分割して夏と冬に2か月分ずつ払う例では、額が確定しているため労働基準法上は賞与にあたりませんが、社会保険では年2回の支給なので賞与として届け出ます。年4回以上払う手当が社会保険では報酬として定時決定に入る点は、社会保険料は4月から6月の給与で決まる:定時決定の計算と算定基礎届をシステムで判定する要件で扱っています。
賞与・ボーナス・寸志・決算賞与の違い:名称ではなく支給の条件で決まる区分
賞与とボーナスに法律上の違いはありません。ボーナスは英語の bonus を由来とする呼び方で、就業規則や法令では「賞与」と書くのが一般的です。期末手当、一時金、特別手当と呼ぶ会社もあります。
寸志や決算賞与も、社会保険では年3回以下なら賞与です。決算賞与は期末の業績を見て追加で払うもので、夏冬の賞与と合わせて年3回に収まるかを数えます。区分を決めるのは名称ではなく、支給額が事前に決まっているか、年に何回払うかという支給の条件です。決算賞与を損金に算入するための要件は、決算賞与とは:損金算入の3要件と支給日在籍要件、社会保険料・源泉所得税の扱いと通知の管理で詳しく解説しています。
賞与の支給義務と就業規則:払わなくてよい会社と払わなければならない会社
賞与は会社が任意で設ける制度です。ただし、就業規則や雇用契約書の書き方しだいで、払う義務が生まれます。
法律上の支給義務はなく、就業規則の定めで請求権が生まれる89条4号の仕組み
労働基準法には賞与の支給を義務づける規定がありません。一方で第89条第4号は、常時10人以上を使用する会社が「臨時の賃金等」の定めをする場合、その内容を就業規則に書いて届け出るよう求めています。賞与の制度を設けるなら、就業規則に載せることが前提です。
就業規則に「賞与は基本給の2か月分を6月と12月に支給する」と金額の算式まで書くと、業績にかかわらず払う義務を負います。反対に「会社の業績等を勘案して支給する」と書き、額の決め方に裁量を残しておけば、業績が悪い期の減額や不支給を就業規則の範囲で判断できます。雇用契約書や求人票に「賞与年2回」とだけ書いた場合も、就業規則の定めと食い違わないようにそろえてください。
モデル就業規則第50条に見る算定対象期間・支給日在籍要件・不支給条項の書き方
厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)第50条は、賞与を「算定対象期間に在籍した労働者に対し、会社の業績等を勘案して」支給日に払うとし、業績の著しい低下などのやむを得ない事由があれば支給時期の延期や不支給があると定めています。第2項では、額を会社の業績と労働者の勤務成績などから各人ごとに決めるとしています。
解説では、支給対象を6月1日や賞与支給日など一定の日に在籍した人とする規定を置けば、その日に在籍しない人に払わない扱いも可能としています。就業規則に書いておく項目は次の4つです。
- 算定対象期間(例:前年10月1日から3月31日まで)と支給日
- 支給対象者(支給日在籍要件、試用期間中の人の扱い)
- 額の決め方(業績と勤務成績を考慮する旨、評価との関係)
- 延期・不支給の条件(業績の著しい低下その他やむを得ない事由)
給与システムでは、算定対象期間と支給日を賞与の回ごとにマスタで持ち、支給日時点の在籍を判定して対象者を抽出します。算定対象期間の途中で入社した人を按分するかどうかも、就業規則に書いた規則とシステムの設定を一致させます。
パートや有期雇用の賞与:令和8年4月改正の同一労働同一賃金ガイドラインの基準
同一労働同一賃金ガイドラインは、令和8年4月28日厚生労働省告示第203号で改正された指針の第3の2で、会社の業績等への貢献に応じて払う賞与は、通常の労働者と同じ貢献のある短時間・有期雇用労働者にも同じ賞与を払うよう定めています。正社員には全員に何らかの賞与を払い、パートや有期雇用の人には払わない運用は「問題となる例」に挙がっています。
同じ指針は注記で、賞与には労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働意欲の向上といった複数の性質があるとしています。パートに賞与を払わない会社は、その違いを職務の内容や責任の差で説明できるかを確認してください。給与システムでは、雇用区分ごとに賞与の計算式を分けたうえで、差を設けた理由を就業規則や賃金規程に残しておくと、説明を求められたときに対応できます。
賞与の決め方と支給額の相場:基本給連動型・業績連動型と毎月勤労統計の平均額
賞与の額は、個人の基本給に掛ける月数で決める方式と、会社の業績で原資を決めてから配分する方式に大きく分かれます。
基本給×月数の基本給連動型と、原資を業績で決める業績連動型の配分の違い
基本給連動型は「基本給×支給月数×評価係数」で個人の額を出します。基本給30万円、支給月数2.0か月、評価係数1.1なら、30万円×2.0×1.1で66万円です。計算が単純で従業員にも説明しやすい反面、業績が悪い期でも基本給の総額に比例した原資が必要になります。
業績連動型は、営業利益の一定割合などで賞与の原資を先に決め、評価やポイントで個人に配分します。原資が業績に連動するので人件費の変動を抑えられますが、評価結果を配分計算に正確に渡すための仕組みが必要です。評価データの管理は人事評価システムとは?機能・評価手法・選び方と自社開発の判断軸を開発会社が解説で整理しています。原資の算定から個人配分までの業績連動の計算は、業績賞与を扱う別の記事で詳しく解説します。
2025年夏季賞与の平均は42万6,337円:支給割合1.02か月と支給事業所73.4%
厚生労働省の毎月勤労統計調査の2025年9月分結果速報等に載っている特別集計によると、事業所規模5人以上の2025年夏季賞与は、支給した事業所の労働者1人平均で426,337円、前年比2.9%増でした。毎月決まって払う給与に対する支給割合は1.02か月分です。
この平均は賞与を払った事業所だけの数字です。賞与を払った事業所は全体の73.4%で、払わない事業所も含めた全労働者の平均は360,681円まで下がります。自社の支給水準を比べるときは、どちらの平均と比べるのかと、パートタイム労働者を含む統計である点に注意してください。
賞与から引かれるもの:社会保険料・雇用保険料・源泉所得税の順番と計算基礎
賞与から天引きするのは社会保険料・雇用保険料・源泉所得税の3つで、住民税は引きません。3つとも賞与額に料率を掛ける点は同じですが、掛ける元の金額が違います。
標準賞与額・支給総額・社保控除後の額:3つの控除で計算の基礎が違う理由
社会保険料は、税引き前の賞与から1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に料率を掛けます。健康保険の年度累計573万円や厚生年金の1か月150万円の上限、令和8年度の料率での計算例は賞与の社会保険料:標準賞与額の計算と573万円・150万円の上限、令和8年度の料率と給与システムでの管理にまとめています。
雇用保険料は切り捨てをせず、支給した賞与の総額に料率を掛けます。端数の処理は雇用保険料の計算方法:賃金総額×料率と50銭の端数処理、令和8年度の料率と給与システムでの自動化で扱っています。源泉所得税は、賞与から社会保険料と雇用保険料を引いた後の額に算出率を掛けるため、社会保険料が先に決まっていないと計算できません。支給額の決定から明細の作成までの計算フロー全体は、賞与計算の方法|支給額の決定から社会保険料・源泉所得税・賞与支払届までの手順と計算例で令和8年の計算例とあわせて解説しています。
前月給与の10倍を超える賞与と前月に給与がない場合の源泉所得税の計算
国税庁のタックスアンサーNo.2523によれば、源泉所得税の算出率は、前月の給与から社会保険料等を引いた額と扶養親族等の数で「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」から決めます。算出率の表の読み方は給与・賞与・報酬ごとに異なる源泉所得税の計算体系と実務上の使い分けで解説しています。
算出率の表を使わない場合が2つあります。前月に給与を払っていない場合と、社会保険料等を引いた賞与の額が前月の給与の10倍を超える場合です。前月に給与がないときは、賞与を6で割った額を月額表に当てはめた税額に6を掛けます。10倍を超えるときは、賞与を6で割った額に前月の給与を足して月額表に当てはめ、その税額から前月の給与の税額を引いた残りに6を掛けます。賞与の計算対象期間が6か月を超える場合に使う数は、6ではなく12です。入社直後の人や役員の高額賞与で起きるので、給与システムがこの分岐を自動で判定できるかを確認してください。
給与システムで賞与を正しく扱う支給区分マスタ:法律ごとのフラグと判定順序
賞与の誤りの多くは、支給項目に「賞与」という1つの区分しか持たないことから起きます。法律ごとに賞与の線引きが違う以上、区分も法律ごとに持つのが筋です。
支給項目ごとに持つ6つの区分:社保・雇保・源泉・平均賃金・割増・最低賃金
年2回払う通常の賞与を例に、支給項目マスタに持たせる区分と根拠をまとめます。
| 区分 | 年2回の賞与の扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 社会保険 | 賞与(標準賞与額) | 年3回以下の支給 |
| 雇用保険 | 賃金総額に含める | 支給総額に料率 |
| 源泉所得税 | 賞与(算出率の表) | 国税庁No.2523 |
| 平均賃金 | 算入しない | 労働基準法第12条第4項 |
| 割増賃金の基礎 | 算入しない | 労働基準法施行規則第21条 |
| 最低賃金の比較 | 算入しない | 最低賃金法施行規則第1条 |
労働基準法第12条第4項は、平均賃金の計算から「三箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」を除きます。労働基準法施行規則第21条は割増賃金の基礎から「一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」を、最低賃金法施行規則第1条は最低賃金との比較から「一月をこえる期間ごとに支払われる賃金」を外しています。除外の基準が「3か月超」と「1か月超」で違うのが要点です。最低賃金との比較で外す手当の判定は最低賃金の計算方法|月給・日給・歩合の時間額換算と除外手当の判定【令和8年度】で扱っています。
年俸制の確定賞与と四半期の賞与で誤る2つの典型:割増単価と平均賃金の算入
1つ目は年俸制です。沖縄労働局の労働相談事例は、毎月払い部分と賞与部分を合わせて年俸額が確定している場合、賞与部分も割増賃金の計算の基礎に含める必要があるとしています。年俸720万円を16分割して夏冬に90万円ずつ払う人の割増単価を月給45万円だけで計算すると、年俸の12分の1の60万円で計算した場合より単価が25%低くなり、残業代が不足します。支給項目名が「賞与」であっても、割増の区分には「算入する」の設定が必要です。
2つ目は四半期ごとの賞与です。3か月ごとの支給は平均賃金の除外基準「3か月を超える期間ごと」にあたらないため、平均賃金の計算に入れる扱いになります。一方で割増賃金の基礎と最低賃金の比較では「1か月を超える期間ごと」なので外します。社会保険では年4回の支給なので賞与ではなく報酬です。1つの支給項目でも、6つの区分の答えがばらばらになる例です。
表計算や製品の設定で足りる会社と、個別開発で支給区分を組むべき会社の境界
賞与が夏冬の年2回だけで、全員に同じ就業規則を当てはめ、年俸制も四半期賞与もない会社なら、給与計算システムの標準設定で足ります。確認するのは、支給日在籍の判定と前月給与の10倍を超える場合の源泉の分岐だけです。製品の選び方は給与計算システムとは?機能・種類・比較の観点から個別開発の判断まで解説で整理しています。
支給区分の設計から見直す必要があるのは、年俸制と月給制が混在する、四半期賞与や決算賞与を年によって払う、雇用区分ごとに賞与の計算式が違う、評価システムの結果を配分計算に自動で渡したい、のうち2つ以上に当てはまる会社です。製品の支給項目に法律ごとの区分を持たせられないと、割増単価や平均賃金を毎回手で直すことになります。一創の人事・労務管理システム開発では、支給項目ごとの6区分の区分マスタと賞与の対象者抽出、評価データとの連携を、既存の給与計算の周辺に組み込むところから設計します。全員が年2回の賞与だけなら個別開発は過剰です。賞与を月給へ組み替える場合の影響範囲は、賞与の給与化を扱う別の記事で詳しく解説します。
よくある質問
賞与の定義と扱いでよく出る質問です。
賞与とボーナスは何が違いますか?
法律上の違いはなく、同じものを指します。就業規則や法令では「賞与」と書き、日常の会話や求人広告では「ボーナス」と呼ぶことが多いという呼び方の違いです。社会保険では名称を問わず年3回以下の支給を賞与として扱うため、期末手当や一時金という名前でも手続きは同じです。
会社は賞与を必ず払わなければなりませんか?
法律上の義務はありません。ただし、就業規則や雇用契約で支給額の算式まで決めている場合は、その定めどおりに払う義務があります。「会社の業績等を勘案して支給する」と裁量を残し、業績の著しい低下などで不支給がありうると書いていれば、その範囲で支給しない判断ができます。
賞与の支給日前に退職した人にも払う必要がありますか?
就業規則に支給日在籍要件があれば、支給日に在籍していない人には払わない扱いにできます。厚生労働省のモデル就業規則の解説も、支給対象を一定の日に在籍した人とする規定を置けば可能としています。要件を書いていない場合は、算定対象期間に在籍した実績をもとに請求される余地が残るため、規定の有無を先に確認してください。
賞与は年に何回まで払えますか?
回数に法律上の上限はありません。ただし社会保険では、年4回以上払うものは賞与ではなく報酬として扱い、標準報酬月額の計算に含めます。年3回以下なら標準賞与額で保険料を計算し、支給のたびに賞与支払届の提出が必要です。提出期限と不支給報告書の要否は、賞与支払届を扱う別の記事で詳しく解説します。
役員に払う賞与は従業員の賞与と同じ扱いですか?
社会保険では役員の賞与も標準賞与額の対象で、従業員と同じく保険料がかかります。違うのは法人税です。役員の賞与は、事前確定届出給与として税務署に届け出た額どおりに払うなどの条件を満たさないと損金に算入できません。届出の期限と給与システムでの管理は、役員賞与を扱う別の記事で詳しく解説します。
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