宿直は、夜間に職場へ泊まり込み、定期的な巡視や緊急の電話の受付、非常時に備えた待機を担う勤務です。所轄の労働基準監督署長から宿日直許可を受ければ、その時間は労働時間・休憩・休日の規定から外れます。許可がなければ、待機時間も労働時間として数える必要があるのです。この記事では、宿直と夜勤・当直の違い、許可の4基準(勤務の態様・宿直手当・回数・睡眠設備)、様式第10号による申請の流れを、労働基準法と通達で確かめます。後半では、勤怠システムで宿直をどう区分し、何を記録すれば監督署の確認に耐えるかを整理します。
まとめ:宿直は許可の有無で労働時間の扱いが変わり勤怠の区分も分かれる
宿直を労働時間から外せるのは、宿日直許可を受けた場合だけです。許可の条件は、常態としてほとんど労働しないこと、1回の手当が同種の労働者の1日平均賃金の3分の1以上であること、宿直は週1回までであること、相当の睡眠設備があることの4つです。夜間に通常と同じ業務をする勤務は夜勤であり、許可の対象になりません。
実務で先に手を付けるのは、勤怠システムの区分です。宿直を労働時間と別の勤務区分にし、宿直中に通常業務をした時刻を記録して割増賃金へ回す。宿直が月数回で区分が1つなら勤怠パッケージの設定で足ります。許可範囲が部署や時間帯で分かれる職場は、判定を個別に作る方が確実です。
宿直・日直・当直・夜勤の違いと労働基準法41条3号が外す規定の範囲
宿直は日常語としても使われますが、労働基準法上の扱いを決めるのは呼び名ではありません。勤務の中身と許可の有無です。
宿直・日直・当直・夜勤の4語を勤務の中身と時間帯で分ける線引き
東京労働局の「医療機関における宿日直の許可基準について」は、当直のうち夜間に行うものを宿直、日中に行うものを日直とし、夜間に通常勤務と同様の業務を行う夜勤は宿直と異なると整理しています。
| 呼び名 | 時間帯 | 勤務の中身 | 労働時間の扱い |
|---|---|---|---|
| 当直 | 日中・夜間 | 宿直と日直の総称 | 中身で判断 |
| 宿直 | 夜間 | 巡視・電話の受付・待機 | 許可があれば規定の適用外 |
| 日直 | 休日の日中 | 巡視・電話の受付・待機 | 許可があれば規定の適用外 |
| 夜勤 | 夜間 | 通常と同じ業務 | 労働時間として数える |
求人票や就業規則で「当直」と書かれていても、中身が夜間の通常業務なら夜勤です。用語ではなく業務内容で区分を決めてください。
宿日直許可で適用除外になる労働時間・休憩・休日と残る規定の範囲
労働基準法第41条第3号は、監視または断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたものについて、労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないと定めています。宿直の手続はこれを受けた労働基準法施行規則第23条にあり、様式第10号で所轄労働基準監督署長の許可を受けます。
外れるのは労働時間・休憩・休日の規定に限られます。法定労働時間の週40時間に数えず、36協定の限度時間にも入りません。年次有給休暇の規定は外れないため、宿直だけに従事する嘱託者にも年休の付与と管理は必要です。
許可を得ていない宿直の待機時間が労働時間として扱われる制度上の理由
使用者の指示で職場に拘束され、呼ばれたら対応する待機時間は、労働時間に当たります。埼玉県の「宿日直勤務について」も、宿日直勤務を行うには所轄労働基準監督署長の許可が必要だとしています。
無許可のまま「宿直だから」と時間外に数えないと、待機の全時間が法定時間外労働になり、36協定の上限と割増賃金の未払いが同時に発生します。夜18時から翌9時まで休憩1時間で週1回の宿直なら、1回14時間が未集計となり、月4回で56時間です。これだけで月45時間の原則上限を超えます。
宿日直許可の一般的許可基準4項目と手当額・回数・睡眠設備の数え方
一般の宿直は、昭和22年9月13日付け発基第17号通達の一般的許可基準で判断されます。東京労働局の資料は、これを勤務の態様・宿日直手当・回数・睡眠設備の4項目に分けて示しています。
常態としてほとんど労働しない勤務と認められる業務と認められない業務
許可されるのは、定期的巡視、緊急の文書または電話の収受、非常事態に備えての待機などを目的とする勤務に限られます。原則として、通常の労働の継続は許可されません。
見落としやすいのは時間帯です。始業または終業の時刻に密着した時間帯に、顧客からの電話の受付や盗難・火災の防止を行う勤務は許可されないと明記されています。18時終業の事務職に18時から22時まで問い合わせ電話を受けさせる設計は、宿直ではなく残業です。
宿直手当の最低額を同種労働者の1日平均賃金の3分の1で計算する手順
1回の宿日直手当は、その事業場で宿直に就く予定の同種の労働者に支払われている賃金の1人1日平均額の3分の1以上である必要があります。東京労働局の資料は、申請時に割増賃金の計算基礎となる賃金の給与一覧表と、宿日直手当額の計算書を出すよう例示しています。
- 宿直に就く予定の同種の労働者を全員洗い出す
- 各人の割増賃金の計算基礎となる賃金を1日あたりに直す
- 全員の1日あたりの額を平均する
- 平均額の3分の1以上で宿直手当の額を決める
仮に対象者の1日平均額が15,000円なら、宿直手当は1回5,000円以上です。昇給で平均額が上がると手当額が基準を割り込むため、昇給の後に計算し直します。
宿直は週1回・日直は月1回の上限と回数超過が許可される2つの例外
回数の限度は、宿直が1人週1回、日直が1人月1回です。例外は2つあり、18歳以上で宿直を行える全員が当たっても人数が足りない場合と、勤務の労働密度が薄い場合に、実態に応じて回数を超える許可がありえます。
東京労働局の資料には、院長と勤務医2人の病院で、嘱託医の確保が難しく、日直がほぼ待機であることから、日直に限り月2回を許可した事例があります。人手不足だけを理由に回数を増やす運用は通りません。
宿直に求められる相当の睡眠設備と夜間の睡眠時間の実態による判定
宿直には相当の睡眠設備を置くことが条件です。監督署の実地調査では、宿直室の設備や衛生管理の確認に加え、対象者からの聴き取りで睡眠の確保状況を確かめる例が多いとされています。
医療機関の不許可例には、1か月の宿日直日ごとの最長連続睡眠時間の平均が3時間33分で、最も短い日が2時間21分だったものがあります。仮眠室を用意しただけでは足りず、実際に眠れているかが見られます。
医療・介護・ホテルの宿直で許可の扱いが分かれる業種別の判断基準
宿直の典型は病院、社会福祉施設、大規模な建設現場などです。業種によって、許可の取り方と夜勤との境目が変わります。
医師・看護師の宿日直許可基準と時間帯・業務を限った一部許可の範囲
医師・看護師等には、令和元年7月1日付け基発0701第8号「医師、看護師等の宿日直許可基準について」が細目を定めています。通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後であること、特殊の措置を必要としない軽度または短時間の業務に限ることが加わります。
同通達は、診療科・職種・時間帯・業務の種類を限った許可も認めています。医師について深夜の時間帯のみ、あるいは病棟の宿日直業務のみという許可が可能です。医師の時間外上限や特定宿日直による休息の扱いは、医師の働き方改革とA・B・C水準の判定要件で扱っています。
介護施設・ホテルの夜勤を宿直として扱えない勤務と分ける業務内容の基準
介護施設で夜間に排せつ介助や体位変換を行う職員は、通常と同じ業務をしているため夜勤です。宿直として許可を取れるのは、入所者の介護を夜勤者が担い、別の職員が巡視と緊急時の連絡だけを受け持つ形に限られます。夜勤の勤怠は介護施設の夜勤・常勤換算に強い勤怠管理システムで整理しています。
ホテルのフロントで深夜のチェックインや精算を受ける勤務も夜勤です。明け番を含む勤務表の組み方はホテルの夜勤・明け番に対応する勤怠管理システムを参照してください。
宿日直許可の申請手続:様式第10号と添付書類7点、監督官の実地調査
許可は事業場ごとに所轄の労働基準監督署長へ申請します。書類の審査だけで終わらず、労働基準監督官の実地調査を経て許可書が交付されます。
労働基準監督署へ出す様式第10号と添付書類7点の申請前の揃え方
東京労働局の資料では、様式第10号の申請書を原本2部提出し、次の添付書類を標準的な例として挙げています。
- 対象労働者の労働条件通知書または雇用契約書の写し
- 1か月など一定期間の宿直・日直の従事回数が分かる当番表やシフト表
- 宿直中の業務の頻度・内容・従事時間の実績または見込み(業務日報など)
- 対象者全員の給与一覧表と宿日直手当額の計算書
- 給与一覧表の金額を裏付ける賃金台帳の写し
- 巡回がある場合は巡回場所と順路を示す図面
- 宿直の場合は宿泊設備の概要
このうち業務日報と当番表は、勤怠システムから出せるかで準備の手間が大きく変わります。紙の日報を集め直す職場は、申請の前に記録の取り方から整えてください。
実地調査で確認される勤務記録・睡眠状況と許可後に取り消される場面
実地調査では、宿直に従事する労働者への聴き取り、仮眠スペースの確認、勤務実態を確かめるための期間の勤務記録の提出が行われます。
許可後に通常業務がまれに発生しても、直ちに取り消されるわけではありません。ただし宿直中に通常と同じ態様の業務に従事することが常態になった場合は、許可の前提が崩れます。人員の異動や業務の変更があったときは、宿直中の対応件数を見直し、必要なら許可の範囲を絞って申請し直します。
勤怠システムで宿直を設定する区分・手当・通常業務の発生時刻の記録
許可を取った後に監督署の確認や労使の争いで問われるのは、宿直中に何が起き、何時間働いたかの記録です。勤怠システムの設定に落とすと、次の3点に集約されます。
宿直を労働時間と分ける勤務区分と許可範囲を持たせるマスタ設計
宿直は「時間外」でも「夜勤」でもない独立した勤務区分にします。そのうえで、許可書の内容をマスタとして持たせます。
| マスタ項目 | 設定する内容 | 使いみち |
|---|---|---|
| 許可の有無と許可日 | 許可書の日付 | 許可前の宿直を労働時間として集計 |
| 許可の範囲 | 部署・職種・時間帯・業務 | 範囲外の宿直を夜勤として扱う |
| 回数の上限 | 週1回・月1回(例外許可は個別) | 超過の警告 |
| 手当額 | 1回あたりの金額 | 給与連携と基準額の照合 |
許可の範囲を持たないシステムでは、深夜帯のみ許可を得た部署で準夜帯の待機まで宿直として扱ってしまいます。部署と時間帯の両方で判定できるかを、導入前に確かめてください。
宿直中に通常業務が発生した時刻を残し割増賃金へ回す入力の流れ
許可のある宿直中でも、通常と同じ態様の業務に従事した時間は、36条による時間外労働の手続をとり、37条の割増賃金を払う必要があります。勤怠では、宿直の打刻とは別に、通常業務の開始・終了時刻を入力する欄を設けます。
入力された時間は時間外労働として36協定の上限チェックに加算し、22時から5時にかかる部分は深夜手当の区分設定で深夜割増を重ねます。日報の記載と勤怠の入力を一致させておくと、実地調査で業務の頻度をそのまま説明できます。
宿直回数の上限超過と手当額の下回りを月次で検出するチェック項目
月次の締めで確認する項目は2つに絞れます。1人あたりの宿直回数が週1回を超えた週がないか、手当額が対象者の1日平均賃金の3分の1を下回っていないかです。前者はシフト確定時に、後者は昇給や手当改定の反映時に警告を出すと、締めの後で気づく事態を防げます。
あわせて、宿直中の通常業務の件数と時間を月ごとに集計しておくと、常態化の兆しを早く掴めます。1か月の大半の宿直で通常業務が発生しているなら、宿直として扱い続けるより夜勤へ切り替える方が安全です。
宿直の勤怠管理をパッケージ設定で済ませる職場と個別開発が要る職場
宿直の管理は、多くの職場で勤怠パッケージの設定で足ります。個別開発が要るのは、許可の範囲が複雑な職場に限られます。
宿直が月数回で勤務区分1つの職場が勤怠パッケージで足りる条件
次の3つが揃う職場は、個別開発を見送ってかまいません。宿直に就く職種が1つで許可の範囲を部署や時間帯で分けていない、宿直中の通常業務がまれで手入力で記録できる、宿直手当が定額で給与システムへ回数×単価で渡せる、の3つです。
この場合は、勤務区分の追加、回数のアラート、手当の連携をパッケージ側で設定すれば運用できます。施設管理会社の常駐警備や、小規模な社会福祉施設の夜間待機がこの型に当たります。
許可範囲が部署・時間帯で分かれる職場が個別開発を選ぶ判断基準
病棟は許可あり・救急外来は許可なし、深夜帯のみ許可といった部分許可が複数ある職場は、パッケージの勤務区分では判定しきれません。同じ人が同じ夜に宿直と夜勤を行き来するため、時刻ごとに区分を切り替える処理が必要になります。
この判定をパッケージの外でExcel集計に頼っている職場は、集計の誤りがそのまま割増賃金の未払いになります。許可範囲のマスタ、通常業務の時刻入力、回数と手当の照合を1つの仕組みにまとめたい場合は、勤怠管理システム開発として既存の勤怠との連携から設計できます。
よくある質問
宿直の扱いについて、検索でよく調べられている疑問に答えます。
宿直は労働時間に含まれますか?
宿日直許可を受けていれば、宿直の時間は労働時間・休憩・休日の規定から外れ、法定労働時間や36協定の限度時間に数えません。許可を受けていなければ、待機時間も使用者の指揮命令下にある労働時間です。許可があっても、宿直中に通常と同じ業務をした時間は労働時間として数え、時間外労働の手続と割増賃金の支払いが必要です。
宿直手当の相場はいくらですか?
法令で決まった相場はありませんが、許可の条件として1回の手当は、宿直に就く予定の同種の労働者の1人1日平均賃金額の3分の1以上が必要です。1日平均が15,000円なら、手当の下限は5,000円以上です。基準が対象者の賃金に連動するため、同じ宿直でも職種や賃金水準で下限が変わります。非常勤の医師だけで宿直を回す病院では、賃金構造基本統計調査の医師の賃金から出した日額の3分の1を参考にした事例もあります。
宿直は月に何回までできますか?
許可の基準では、宿直は1人週1回、日直は1人月1回が限度です。宿直できる人を全員充てても人数が足りない場合や、勤務の労働密度が薄い場合には、実態に応じて回数を超える許可がありえます。上限を超えて運用する前に、所轄の労働基準監督署で例外の許可を受けてください。
宿直明けはそのまま通常勤務してもよいですか?
許可を受けた宿直は労働時間に数えないため、宿直明けの通常勤務自体は禁じられていません。ただし宿直の条件は夜間に十分な睡眠がとれることで、睡眠が取れていない実態があれば許可の前提が崩れます。医師については医療法で休息の確保が別に定められており、一般の職場でも明けの勤務は短くする配慮が安全です。
宿日直許可はいつまでに申請すればよいですか?
申請の期限は決まっていませんが、許可を受けるまでの宿直は労働時間として扱う必要があります。申請後に労働基準監督官の実地調査があり、勤務記録や睡眠設備の確認を経て許可書が交付されるため、宿直を始める予定日から逆算して余裕をもって準備してください。
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