時間外労働の上限規制は、残業を原則として月45時間・年360時間までに抑え、特別条項を結んでも年720時間、月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内という線を越えさせない労働基準法上のルールです。この記事では、6つの数値と休日労働の含め方、建設・自動車運転・医師に2024年4月から適用された特例、研究開発業務と管理監督者の扱い、副業時の通算、違反時の罰則を厚生労働省の資料にもとづいて整理します。後半では、勤怠システムで従業員ごとに適用ルールを決めて警告を出す設計と、既製品で足りる会社・個別開発が要る会社の線引きまで扱います。
まとめ:時間外労働の上限規制で守る6つの数値と対象者別の適用ルール
守る数値は6つです。原則は月45時間・年360時間で、臨時的な特別の事情があって特別条項を結んだ場合でも、年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計で月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内、月45時間を超えられるのは年6か月まで、という上限があります。月100時間未満と平均80時間の2つは、特別条項の有無にかかわらず1年を通して常に守る必要があります。
適用の範囲は一律ではありません。建設事業は災害の復旧・復興を除いて全面適用、自動車運転の業務は年960時間、医師は水準により年960時間または1,860時間と、2024年4月から業種ごとの特例で動いています。新技術・新商品等の研究開発業務と管理監督者は上限規制の対象外ですが、労働時間の状況の把握は外れません。
実務で最初に整えるのは、従業員ごとにどの上限が適用されるかを勤怠システム上で決める区分の持たせ方です。一般則だけの会社なら既製品のアラートで足ります。業種特例の混在や副業の通算を扱う会社では、既製品の判定だけでは漏れが出ます。
時間外労働の上限規制とは何かを法定労働時間と36協定の関係から整理
1日8時間・週40時間を超える労働に36協定と上限規制がかかる仕組み
労働基準法は、労働時間を1日8時間・1週40時間、休日を毎週少なくとも1回と定めています。これを超えて働かせるには、労使で36協定を結んで労働基準監督署に届け出なければなりません。上限規制は、その36協定で延ばせる時間に法律で天井を付けたものです。
つまり二層構造です。会社ごとの36協定で決めた時間が内側の線、労働基準法第36条が定める上限が外側の線になります。協定の締結手順や届出様式は36協定の全体像と届出の手順で扱っており、この記事では外側の線に絞って説明します。
2019年4月施行で告示の目安から罰則付きの法律上限に変わった経緯
改正前の上限は大臣告示による基準で、罰則による強制力がありませんでした。特別条項を設ければ上限なく残業させることもできた点が問題とされていました。厚生労働省の働き方改革特設サイトは、改正前を「行政指導のみ」、改正後を「法律で上限を規定」と対比しています。
施行は大企業が2019年4月、中小企業が2020年4月です。経過措置として、2019年3月31日を含む期間を定めた36協定は、協定の初日から1年間は上限規制が適用されませんでした。2026年11月時点では経過措置の期間はすべて終わっており、全企業が上限規制の対象です。
中小企業は資本金か常時使用する労働者数のどちらかで該当を判定
中小企業の判定は事業場単位ではなく企業単位で、資本金の額または出資の総額と、常時使用する労働者の数のどちらか一方が基準以下なら該当します。厚生労働省の「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」が示す基準は次のとおりです。
| 業種 | 資本金・出資の総額 | 常時使用する労働者数 |
|---|---|---|
| 小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
| サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
| 卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
| その他(製造業・建設業・運輸業など) | 3億円以下 | 300人以下 |
業種の分類は日本標準産業分類に従います。現在は中小企業も大企業も同じ上限が適用されるため、この判定が効いてくるのは施行時期の確認や、月60時間超の割増率のような別制度を調べるときです。
原則の月45時間・年360時間と特別条項でも超えられない4つの上限
限度時間は月45時間・年360時間、1年単位の変形労働時間制は42時間
36協定で延ばせる時間の原則を「限度時間」と呼び、月45時間・年360時間です。対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制では、月42時間・年320時間に下がります。どちらも時間外労働だけで数え、休日労働の時間は含めません。
月45時間は、1日あたりおよそ2時間の残業に相当します。月20日勤務の会社なら、毎日2時間15分の残業で到達する計算です。
特別条項でも年720時間・月100時間未満・平均80時間・年6か月まで
臨時的な特別の事情があって労使が合意し、特別条項付きの36協定を結んでいれば、限度時間を超えて働かせられます。ただし次の上限は越えられません。休日労働を含めるかどうかが上限ごとに違う点に注意してください。
| 上限 | 数える時間 | 特別条項がない場合 |
|---|---|---|
| 月45時間・年360時間 | 時間外労働のみ | この範囲で協定する |
| 年720時間 | 時間外労働のみ | 対象外(年360時間まで) |
| 月100時間未満 | 時間外+休日労働 | 常に守る |
| 2〜6か月平均80時間以内 | 時間外+休日労働 | 常に守る |
| 月45時間超は年6か月まで | 時間外労働のみ | 対象外(超えられない) |
特別条項の記載方法や、発動のたびに必要な手続きは特別条項付き36協定の4つの上限と様式第9号の2で条文に沿って解説しています。
休日労働を含める上限と含めない上限を取り違える典型的な失敗例
厚生労働省の解説資料は、時間外労働44時間・休日労働56時間の例を挙げています。時間外は45時間以内なので特別条項は要りませんが、合計が100時間に達するため法律違反です。
逆の取り違えも誤判定の原因です。休日労働を時間外に混ぜて年720時間を数えると、本来は余裕があるのに上限到達と誤判定し、必要以上に残業を止めてしまうケースです。ここでいう休日労働は法定休日の労働だけで、週休2日の会社の所定休日(多くは土曜)の労働は時間外労働として数えます。法定休日の特定方法は法定休日と所定休日の違いで整理しています。
業種・職種で異なる上限規制の適用範囲と2024年4月以降の特例
建設・自動車運転・医師・砂糖製造業の2024年4月以降の上限
4つの事業・業務は上限規制の適用が5年間猶予され、2024年4月から適用されました。適用されたのは一般則そのままではなく、業種ごとの特例です。内容は厚生労働省の業種別ページにまとまっています。
| 事業・業務 | 年の上限(特別条項) | 月100時間未満・平均80時間 | 年6か月の制限 |
|---|---|---|---|
| 建設事業 | 年720時間 | 適用(災害復旧・復興は除外) | 適用 |
| 自動車運転の業務 | 年960時間 | 適用されない | 適用されない |
| 医師(A・連携B水準) | 年960時間 | 適用されない | 適用されない |
| 医師(B・C水準) | 年1,860時間 | 適用されない | 適用されない |
| 鹿児島県・沖縄県の砂糖製造業 | 年720時間 | 適用 | 適用 |
医師の上限は休日労働を含む時間で、別途、月100時間未満を基本とする医療法上の枠と追加的健康確保措置も必要です。運転者は改善基準告示の拘束時間・休息期間も守る必要があります。業種ごとの詳細は物流の2024年問題と年960時間、医師のA・B・C水準と勤怠の判定要件、建設業の勤怠管理システムの選び方で扱っています。
研究開発業務と管理監督者は上限規制の適用除外でも労働時間の把握は義務
新技術・新商品等の研究開発業務は、上限規制の適用が除外されています。その代わり労働安全衛生法の改正で、週40時間を超えた時間が月100時間を超えた人には、医師の面接指導が罰則付きで義務になりました。
管理監督者は労働基準法第41条により労働時間の規定が適用されないため、上限規制も及びません。ただし前述の解説資料のとおり、管理監督者やみなし労働時間制の人も「労働時間の状況」をタイムカードやPCの使用時間などの客観的な方法で把握する義務があります。肩書が課長でも、権限と待遇の実態がなければ管理監督者とは扱われず、上限規制の対象に戻ります。
副業・兼業では月100時間未満と平均80時間を他社と通算して判定
雇用契約で2社に勤める人の場合、月100時間未満と2〜6か月平均80時間以内は、自社と副業先の時間を通算して判定します。月45時間・年720時間などの協定上の時間は、各社がそれぞれ自社の36協定の範囲で管理します。
厚生労働省の副業・兼業の「管理モデル」リーフレットは、本業の法定外労働時間と副業先の労働時間の合計が単月100時間未満・複数月平均80時間以内に収まるよう、各社の上限を先に決めておく方法を示しています。例は本業45時間・副業先35時間の合計80時間です。割増賃金をどちらが払うかは副業の労働時間通算と割増賃金を参照してください。
上限規制に違反した場合の罰則と平均80時間超えが見落とされる原因
罰則は6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金で対象は使用者
上限を超えて働かせた場合、労働基準法第119条により、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象になります。2025年6月1日の刑法改正の施行で、それまでの「懲役」が「拘禁刑」に変わりました。厚生労働省の古い資料には懲役の表記が残っているため、読み替えが必要です。
罰則の対象は会社と、残業を命じた上司など違反した行為者です。働いた本人が罰せられるわけではありません。監督の現場では、協定の上限と実績の両方を勤怠記録で照合されます。記録が残っていないこと自体が是正の対象になる点も押さえておきましょう。
単月は守れても2〜6か月平均で超える残業の推移と見落としの原因
平均80時間は、直近の月を含む2か月・3か月・4か月・5か月・6か月の5通りの平均を毎月すべて確かめる上限です。1つでも80時間を超えれば違反になります。
例として、時間外と休日労働の合計が4月90時間、5月75時間、6月78時間だったとします。6月時点の2か月平均は76.5時間で収まっていますが、3か月平均は81時間で上限を超えます。どの月も100時間未満なので、単月の数字だけを見る運用では気づけません。給与の締め日と協定の起算日がずれているとさらに見落としやすくなります。ローリング計算と起算日の扱いは36協定の記事の判定ロジックの章で詳しく説明しています。
勤怠システムで上限規制を守るアラート設計と従業員区分の持たせ方
従業員ごとに適用ルールを決める区分マスタと業種特例の設定方法
アラートの前に決めるのは、誰にどの上限を当てるかです。上限の数値を事業場ごとの設定だけで持つと、同じ事業場に運転者と事務職がいる運送会社や、研究開発の担当者がいるメーカーで判定が崩れます。従業員ごとに次の区分を持たせ、区分から上限のセットを引く形にします。
- 一般則・自動車運転・医師(水準別)・建設(災害復旧に従事した期間を含む)
- 研究開発業務(面接指導の判定だけを行う)
- 管理監督者(上限判定はせず、労働時間の状況だけ集計する)
- 1年単位の変形労働時間制の対象者(限度時間42時間・320時間)
- 副業あり(他社の申告時間を通算に加える)
区分は異動や職種変更で切り替わるため、適用開始日を持たせて月の途中の変更に備えます。上限の数値をプログラムに直接書かず、区分マスタの値として持てば、将来の法改正でも設定の変更で対応できます。
警告の閾値は協定値と法定上限の2段で出し月の途中で予測する設計
警告の設計は2段構成です。1段目は自社の36協定の値で、たとえば協定が月45時間なら80%の36時間で本人と上長に通知します。2段目は法定上限で、月100時間未満なら手前の80時間、平均80時間なら残りの許容時間が10時間を切った時点で人事にも通知します。
月末の確定値だけで判定すると、気づいた時点で手遅れです。月の途中で「今日までの実績÷経過した営業日×月の営業日」で着地を予測し、予測値で警告を出します。予測は締め後の集計とは別の値として扱い、画面上で実績と区別して表示します。
副業先の労働時間を月次申告で取り込み通算判定に加える運用方法
副業先の勤怠データは自社のシステムに自動では入ってきません。現実的な方法は2つです。管理モデルを使い、副業先の上限時間を区分マスタに登録して、その値を通算に足す方法。もう1つは、本人に月次で副業先の実績を申告してもらい、申告欄の値を通算に加える方法です。
管理モデルなら毎月の申告が要らず、上限を超えない限り他社の実績を把握しなくてよいので、運用の負担は軽くなります。申告方式は実績で判定できる半面、提出が遅れると通算の判定が月末に間に合いません。申告がない月を未提出として一覧に出す仕組みまで作っておくと、確認漏れを防げます。
既製の勤怠システムで足りる会社と上限判定の個別開発が要る会社
一般則だけの会社は勤怠システム標準のアラート機能で足り個別開発は過剰
従業員が一般則だけで、副業を認めていないか人数が少ない会社なら、主要な勤怠システムの標準機能で足ります。月45時間・年360時間、月100時間未満、2〜6か月平均80時間の警告は多くの製品が持っており、閾値を設定すれば動きます。この場合に上限判定のためだけに個別開発するのは過剰です。製品の比較は勤怠管理システムの機能と選び方を見てください。
導入時に確かめるのは3点です。法定休日と所定休日を分けて集計できるか、協定の起算日を給与の締め日と別に設定できるか、予測値で警告を出せるか。いずれかができない製品は、平均80時間の見落としにつながります。
業種特例の混在や副業通算で既製の勤怠システムの判定が足りない場面
既製品で詰まりやすいのは、1つの会社に複数の上限セットが混在する場合です。運転者と倉庫作業員を抱える運送会社、医師と看護師・事務職がいる病院、災害復旧工事が入った月だけ判定を外す建設会社がこれにあたります。区分ごとの判定を持たない製品では、全員に同じ閾値を当てるか、Excelで別集計するしかありません。
副業の通算や、面接指導が必要な研究開発業務の抽出も、標準機能に入っていないことが多い領域です。こうした判定を既存の勤怠データに追加したい場合は、勤怠管理システムの個別開発で、区分マスタと警告ロジックだけを既存製品の外側に作る方法も選べます。製品を入れ替えるより改修の範囲が小さく済みます。
よくある質問
時間外労働の上限規制について、検索の多い質問に答えます。
時間外労働の上限規制に休日労働は含まれますか?
上限によって違います。月100時間未満と2〜6か月平均80時間以内は、時間外労働と休日労働の合計で数えます。月45時間・年360時間、年720時間、月45時間超は年6か月まで、の3つは時間外労働だけで数え、休日労働は含めません。ここでいう休日労働は法定休日の労働のことで、所定休日の労働は時間外労働として扱います。
管理職にも時間外労働の上限規制は適用されますか?
労働基準法第41条の管理監督者には適用されません。ただし管理監督者かどうかは肩書ではなく、経営に近い権限、出退勤の裁量、地位にふさわしい待遇の実態で判断されます。名ばかりの管理職は一般の労働者として上限規制の対象です。管理監督者でも、労働時間の状況を客観的な方法で把握する義務は残ります。
パートやアルバイトも上限規制の対象になりますか?
対象です。上限規制は雇用形態を問わず、労働基準法上の労働者すべてに適用されます。パートやアルバイトでも、1日8時間・週40時間を超えて働けば時間外労働です。掛け持ちで2社に雇われている場合は、月100時間未満と平均80時間の判定で両社の時間を通算します。
月45時間を超えられるのは年に何回までですか?
年6か月までです。回数ではなく月数で数え、36協定の対象期間である1年の中で、時間外労働が45時間を超える月は6か月以内に収める必要があります。特別条項がない協定では、月45時間を超えること自体ができません。自動車運転の業務と医師にはこの年6か月の制限が適用されません。
時間外労働の上限規制の数値は2026年に変わりましたか?
2026年11月1日時点で、この記事で扱った上限の数値は施行当初と同じです。2026年9月には、月45時間以内への削減を一律に求める監督指導が見直され、健康確保措置の実施状況を確認する方向に重点が移りました。労働基準法の見直しの議論は続いているため、施行時期を含む最新の状況は労働基準法改正の現況で確認してください。
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